【コンクリート_09】 鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応による劣化症状を3つ挙げ、新設および既 設構造物それぞれにおけるアルカリ骨材反応対策の現状と課題を記すとともに、今後の展 望についてあなたの意見を述べよ。 【劣化症状】これらの中より、3症状を抽出して概説する。 ¾ コンクリート表面でのひび割れ発生 無筋コンクリートでは互いに 120°の角度で交差する網目状のひび割れが発生す る。同様なひび割れは凍害でも生じることがある。一方、鉄筋量の多い RC や PC の梁や柱では、拘束によって生じる主応力の方向を反映した方向性の強いひび割れ が生じる。 ¾ ゲルの滲出 アルカリシリカ反応によって劣化したコンクリートのひび割れには白色のゲルが滲 出していることがある。 ¾ 変色 アルカリシリカ反応が進行するとコンクリートの表面が茶褐色に変色することがあ る。 ¾ 膨張による鉄筋の降伏と破断 アルカリシリカ反応によってコンクリートが膨張すると、コンクリートには圧縮応 力、鉄筋には引張応力が発生する。アルカリシリカ反応によって過大な膨張が生じ たとき、低鉄筋比の構造物では鉄筋の降伏や破断を生じることがある。 ¾ ひび割れ進行に伴う鉄筋の腐食発生 ひび割れ部分より空気、水が浸入し、鉄筋の腐食を進行させる。結果として、ひび 割れ部分より錆汁の発生し、構造的欠陥だけでなく、美観上の問題も発生る。ただ し、アルカリシリカゲルによるひび割れの充填効果および不動態被膜の保護効果に より、鉄筋腐食が抑制されるという報告もある。 ¾ 弾性係数の低下 コンクリートの強度および弾性係数が低下する。強度より弾性係数の低下が著しい。 ¾ プレテンション橋のたわみの増加 プレテンション橋の場合は、アルカリ骨材反応による被りコンクリート部分のひび 割れが、PC 鋼材とコンクリートの付着性能の低下に影響し、プレストレスの減少 につながる。アルカリ骨材反応の進展に伴い、プレテンション橋のたわみ量が年々 増加した事例がある。 【新設構造物での現状と課題】 ¾ 現状:材料の規制が主体となる(JIS A5308 による反応対策) 低アルカリ形ポルトランドセメントの使用 高炉セメント・フライアッシュセメントなど混合セメントの使用 コンクリートアルカリ総量の規制(Na2O 換算 3.0kg/m3 以下) 骨材の反応性を試験する方法として、化学法・モルタルバー法が規定されている。 ¾ 課題:竣工検査の段階で、兆候を把握することができない。 【既設構造物での現状と課題】 ¾ 現状:アルカリ骨材反応を抑制するために、水の浸入を防止する対策(表面被覆処 理、ひび割れ注入、断面修復)が基本となる。 ¾ 課題:骨材反応によるひび割れは、膨張が終了しているもの、最終膨張量が小さい ものであれば補修も可能であるが、進行中のものに対する補修は極めて難しい。 【今後の展望】 アルカリ骨材反応に対する調査・研究は 1980 年代に活発に行われたが、予防対策が 明文化されるとともに関心は薄れ、以後は主として劣化対策の研究のみが進んでいた。 しかし近年になり、異常膨張を起こした構造物の鉄筋破断事例が続々と発見され、新た な注目を浴びている。鉄筋破断に至った ASR 構造物の特性については未解明な部分も多 く、その実態調査とともに、メカニズムの解明や対策手法の確立が急がれている。以下 に示すような工法の開発や、整備が必要と思われる。 ¾ ひび割れ幅進行のモニタリング技術の開発 アルカリ骨材反応の進行速度は比較的緩やかな場合が多いため、変状が発見された 時点ですぐに補修などを行わず、目視による経過観察や、ひび割れ幅のモニタリン グ等を行って、対策の要否を判定したほうがよいという考え方もある。 ¾ ひび割れ追随型の効果的な補修方法の開発 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント等を利用した表面被覆工法の採用 ¾ ASR 抑制剤の注入工法の開発研究 最近では、リチウムイオンを主成分とする ASR 抑制剤を注入する工法が適用され ている。この工法は、リチウムイオンにより骨材周囲のアルカリシリカゲルと吸水 膨張制を消失させ、以後の劣化を抑制するものである。 ¾ 膨張に対する拘束対策 異常膨張を起こす ASR 反応に対し、外部を鋼板や FRP、プレストレスト・コンク リートなどにより拘束し、膨張を止め、圧縮応力として内部に閉じこめる対策であ る。コンクリートは引張りに対しては弱いが、圧縮には強いため、膨張量によって は効果が発揮される。
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