分科会番号 16-3 企業の利益獲得への企業経営の考え方 ~携帯キャリア各社のスマートフォン販売に関する経営戦略について~ 大分大学 石井 克哉 末延 児玉 沙紀 仲本ゼミA 実穂 高山 進 唯 いづみ 1.はじめに スマートフォンユーザーが急増する中、携帯キャリア間のユーザー獲得合戦がますます ヒートアップしている。特に今後は、スマートフォンユーザーに向けたクラウドコンテン ツサービスをめぐる主導権争いが激しくなりそうだ。 5 通信会社の勢いを測る指標として、純増数と MNP(番号継続制、ナンバーポータビ リティ)がある。TCA(社団法人電気通信事業者協会)の発表によると、 2012 年 4 月末 時点で、新規契約数から解約数を差し引いた携帯電話純増数は、ソフトバンクが 27 万 2700 件でトップである。KDDI の 24 万 400 件が続き、NTT ドコモは 12 万 8300 件にとどまっ た。 10 一方、MNP では、KDDI が 6 万 4900 件の転入超過で、7 か月連続して首位をキープ。 ソフトバンクも 3 万 9900 件の転入超過だが、NTT ドコモは 10 万 3700 件の転出超過とな っている。携帯電話が一般ユーザーに普及して約 10 年経った今、携帯電話市場はどのよ うな変化を遂げ、各通信キャリアはどのようなサービスを提供し、契約者数増加に取り組 んでいるのか、日本国内携帯販売市場において大手である、ドコモ、au、ソフトバンクの 15 3社に焦点を当て、論じることにする。 2. スマートフォン販売以前までの日本国内の携帯市場概要 ガラパゴスケータイ、フィーチャーフォンと呼ばれる携帯電話端末の販売が主流であっ た時代の 3 キャリアの特徴について述べる。 20 2-1. 携帯電話(ガラパゴスケータイ、フィーチャーフォンと呼ばれるもの )と、スマート フォンの定義 weblio 辞書によると、ガラパゴスケータイ(ガラケー)とは、携帯電話の端末のうち、通 話機能を主体とし、その他にカメラやワンセグをはじめとする特徴的な機能を搭載してい 25 る高機能な端末の通称である。ガラケーの多くは国内メーカーによって製造され、国内の 携帯電話市場で販売される。総じて傑出した機能や性能を持っているが、あまりに独特で 世界標準からはずれており、却って海外市場に進出できず、 「ガラパゴス化」したことに由 来している名称である。ガラケーを特徴づける機能としては、ワンセグ、FeliCa(おサイ フケータイ)、メガピクセルカメラ、赤外線通信、といった機能が挙げられることが多い。 30 ガラケーの語は、急速に普及しつつあるスマートフォンとの対比において「旧来の携帯電 1 話の端末」の意味で用いられることも多い。この意味で のガラケーは「フィーチャーフォ ン」の概念とほぼ一致すると言える。フィーチャーフォンは、通話機能の他に何らかの高 度な付加機能を搭載している携帯電話端末の一般的な呼び名である。 スマートフォンとは通話機能の他に、ウェブサイトの閲覧や電子メールの送受信といっ 5 たインターネット利用、スケジュール管理、パソコンで作成された各種書類ファイルの閲 覧といった機能を備え、パソコンと類似の使い方が可能なものを指す。 また、携帯電話で はキャリアやメーカー固有のOS 1 がほとんどであるが、スマートフォンでは、 Windows Mobile や Android のように、共通のOS、オープンソースのOSがある。そのため、ユ ーザーが自由にアプリケーションをインストールすることで、各自の利便性に合わせたカ 10 スタマイズが可能である。 2-2.携帯電話の世代区分 携帯電話(ガラパゴスケータイ、フィーチャーフォン と呼ばれるもの)の大まかな変遷に ついて説明する。 15 木暮 2 によると、携帯電話は主に通信方式の発展により、4 つの世代に区分される。第 1 世代の携帯電話はアナログ電話であり、新規加入料8万円、月額基本料3万円、通話料6. 5秒で10円という高額料金だった。1987 年に NTT が携帯電話サービスを開始し、片手 で持てるサイズのものが登場した。第 2 世代では PDC (Personal Digital Cellular)と呼ば れる、日本国内において電波効率のよい暫定的な通信方式が開発された。PDC により、デ 20 ジタル化とインターネット結合が可能となった。第 3 世代では携帯電話の多機能化、高い 通話品質と高速データ通信が実現された。なお、第 3 世代から第 4 世代に移行する間に連 続的な発展があり、3.5 世代(2004 年頃)、3.9 世代(2008 年頃)などとされた時期もあ る。2010 年代は携帯電話の第 4 世代とされているが、2007 年には Apple が iPhone を発 表した。また、2008 年には Google がスマートフォン OS の Android を発表して 2010 年 25 には国産各社がスマートフォンを生産するようになった。これらの変化により、第 4 世代 携帯電話とスマートフォンの境界があいまいになるといわれている。 Operating System:キーボード入力や画面出力といった入出力機能やディスクやメモリ の管理など、多くのアプリケーションソフトから共通して利用される基本的な機能を提供 し、コンピュータシステム全体を管理するソフトウェア 2 「携帯電話の歴史」 http://www.kogures.com/hitoshi/index.html;2012 年 8 月 30 日 閲覧 2 1 図表1 携帯電話の世代区分 時期 主な用途 主なデータ 回線 交換方式 第1世代(1G) 第2世代(2G) 1980年代 1990年代 通話のみ +インターネット 音声 +基本データ アナログ デジタル 回線交換 回線交換 第3世代(3G) 2000年代 +マルチメディア +マルチメディア デジタル パケット交換 第4世代(4G) 2010年代 +ユビキタス +高品質マルチメディア デジタル パケット交換 出典:「携帯電話の歴史 」 (http://www.kogures.com/hitoshi/history/keitai-denwa/index.html;2012 年 8 月 30 日 5 閲覧) 2-3.携帯電話の販売方法の変革 1994 年には、従来はレンタルのみだった携帯電話の利用方法に、現在のようにユーザー が端末を購入して利用できる「買上げ制度」が導入された。レンタル料が不要になったこ 10 とや新規通信事業者との競争などにより、携帯電話の利用料は大きく引き下げられ、また 携帯電話を気軽に量販店などでも購入できるようになったことにより、携帯電話が急速に 庶民の手に普及した。携帯電話関連市場の中心となるのが、1 億を越える加入者からの通 信料収入が基盤となっている、通信事業者の売り上げである。情報通信白書によれば、通 信事業者のうち携帯電話などが分類されている移動電気通信において、2007 年の生産額は 15 実に 9 兆 2490 億円となっている。主要な通信事業者の 2008 年度通期決算報告を見ると、 NTT ドコモは売上高 4 兆 4480 億円、営業利益 3810 億円、KDDI は売上高 3 兆 4975 億 円、営業利益 4432 億円、ソフトバンクモバイルは営業利益 1864 億円で、いずれの事業者 も巨額の利益を計上している。 20 2-4.各キャリアの主な取り組み ①ドコモ ドコモの親元である NTT は、1985 年に日本電信電話公社(電電公社)が民営化され、 1992 年に NTT の移動通信部門が分離して NTT ドコモとなった。1993 年に NTT ドコモ は PDC 方式で他社よりもはやくデジタル化を開始し、1999 年にはインターネット接続サ 25 ービスである、i モードサービスを開始した。当初は第2世代環境での提供であったが 3 FOMA 3 の開始とともに、第3世代携帯電話の代表的な仕様となるなど、国内の携帯電話市 場においてリーダー企業の地位を確立した。 ドコモは 1994 年に起きた携帯電話のビジネ スモデルの変革後、リーダー企業として他の 2 社を大きく切り離す 6 割近いシェアを維持 していた。この高いシェアは NTT 社のブランド力からうまれる通話・通信サービスにお 5 ける信頼性の高さによるものであり、携帯電話が普及して約 10 年間はドコモの一人勝ち 状態であったと言っても過言ではない。 ②au 第 2 世代において、DDI は 1998 年にドコモとは異なる通信方式でデジタル化を開始し た。2001 年に KDD と DDI が合併、au 10 by KDDI となる。au が提供する、携帯電話に よるインターネット接続サービスの名称は EZweb であり、1999 年 4 月に DDI セルラー グループが開始したインターネット接続サービスがルーツである。2003 年に au がパケッ ト料金定額制を初めて導入し、その他にも着うたフルや EZ ナビウォークなど他社にない 新サービスを精力的に投入し顧客を増加させた。市場におけるシェアは 3 割ほどであり、 ドコモについで 2 位とされている。 15 ③ソフトバンク ソフトバンクは J-フォンとボーダフォンを前身にもつ。1996 年から 2008 年までのシ ェアは平均して 2 割程度であり、携帯電話市場においての位置づけはチャレンジ企業であ るといえる。2007 年 1 月には月額 980 円で、1 時から 21 時までのソフトバンク同士の音 声通話が無料になる「ホワイトプラン」が導入され、他社とは比べ物にならない破格の定 20 額プランを打ち出した。通話の低価格サービスを売りにした戦略で顧客獲得を狙う姿勢が 見えた。2008 年には apple 社の iPhone3G を販売し、その後も iPhone4、iPhone4S を販 売している。2012 年 8 月 11 日に契約者数が 3000 万人を突破し、孫社長はボーダフォン JAPAN の買収時点から約 2 倍の契約者数であることを発表した。 25 2-5.携帯電話市場の飽和化 日本の携帯電話特有の機能として代表的なのが、赤外線通信、おサイフケータイ、キャ リアアドレスによるメール、防水機能である。高機能な端末、高速データ通信速度や豊富 なコンテンツサービスの提供など、独自のサービスを提供することで発展を遂げ「ガラパ 3 ドコモの第 3 世代(3G)携帯電話の名称。 4 ゴス化」してきた日本の携帯電話であるが、携帯電話・PHS の契約件数は 2009 年 3 月末 で1億 1205 万件となり国内の普及率は約 88%に達しており、近年では国内の携帯電話市 場は飽和状態である 4 。そのため各企業は海外に活路を見出し始めているが、日本と海外で はサービスの提供方法や端末の販売方法など大きく異なっている 。そのため、日本の優れ 5 た技術をそのまま海外に輸出することが難しく、日本の製品を海外に輸出するためには、 コストをかけて海外の仕様に設計しなおす必要がある。 2-6.モバイルコンテンツ市場 モバイルコマース市場は、モバイルサイトを利用した通信販売市場(モバイルサイト上 10 での取引のみを対象)と定義する。サービス系市場及び物販系市場については、取引総額 を対象としている一方で、トランザクション系市場については、手数料売上のみを対象と している。ただし、広告・プロモーション部門における制作費も媒体費との切り分けが困 難なため便宜上、市場規模に含まれる。また、携帯電話を用いた取引であっても、音声通 話を通じて予約または購入したものは対象外としている。一部スマートフォン経由の取引 15 も含まれる。 モバイルコンテンツ(スマートフォン)市場の内訳は以下のとおりである。コンテンツ別 に見てみると、ソーシャルゲームなどの市場が約 6 割を占めている。 図表 2-1 課金別の内訳 (単位:億円) 月額課金市場 追加課金市場 ダウンロード課金市場 合計 206 470 130 806 20 図表 2-2 コンテンツ別の内訳 (単位:億円) ソーシャルゲーム等市場 その他 合計 481 325 806 出典:総務省「モバイルコンテンツの産業実態に関する調査結果」 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000168895.pdf 4 2012 年 9 月 7 日閲覧) 朝日新聞(http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY200908280444.html; 2012 年 9 月 10 日閲覧) 5 月額課金市場は、月単位の定額課金によって、契約範囲内のアプリ・サービスが利用で きる課金手法で行われる市場である。追加課金市場は、アプリ等のダウンロードは無料で、 アイテム等を追加で課金する手法で行われる市場である。ダウンロード課金市場は、アプ リ等のコンテンツをダウンロードする際に料金を徴収する課金手法で行われる市場である。 5 2011 年のモバイルコンテンツ(フィーチャーフォン)市場は 6539 億円となり、前年比で 1.1%の増加であった。内訳をみると、ソーシャルゲームなどの市場の拡大が大きく寄与し たものの、ほぼ全ての分野で市場が縮小した。モバイルコンテンツ (スマートフォン)市場 は 806 億円であった。モバイルコマース市場は、1 兆 1716 億円となり、前年比で 16.2% 10 の増加となった。内訳をみると、物販系市場の拡大が大きく寄与した。 図表 3 モバイルコンテンツ及びモバイルコマース市場規模の推移 コンテンツ(フューチャ (単位:億円) 平成 19 年 平成 20 年 平成 21 年 平成 22 年 平成 23 年 平成 22 年比 4,272 4,835 5,525 6,465 6,539 1.1% - - - - 806 - ーフォン) コンテンツ(スマートフ ォン) 6 コマース 7,329 8,689 9,681 10,085 11,716 出典:総務省「モバイルコンテンツの産業実態に関する調査結果」 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000168895.pdf:2012 年 9 月 7 日閲覧) 5 3.現在のスマートフォン市場の内訳(仮) ユーザー数の急増に伴い、モバイル市場におけるスマートフォンの重要度は日に日に増 している。この章では、スマートフォン市場の現状と可能性について述べていく。 3-1.世界のスマートフォン市場 10 米 IDC が現地時間 2012 年 8 月 8 日に公表した世界のスマートフォン市場調査によると、 同年第 2 四半期(4~6 月)における Android 端末の出荷台数は前年同期比 106.5%増の 1 億 480 万台となり、市場シェアは前年の 46.9%から 68.1%に拡大した。また米 Apple の 「iOS」の出荷台数は 2600 万台となり、前年同期から 27.5%増えたが、シェアは 18.8% から 16.9%に低下した。 15 第 2 四半期における OS 別の出荷台数順位は、上位から Android、iOS、BlackBerry OS、 Symbian、Windows Phone 7/Windows Mobile、Linux となった。IDC 主席アナリスト の Kevin Restivo 氏は、「世界のスマートフォン市場は Android と iOS が支配している状 態。今後スマートフォンの普及が進むにつれ競争はさらに激化していく」とコメントして いる。 20 Android 端末の出荷増に大きく貢献したのは韓国 Samsung Electronics。四半期中の全 Android スマートフォン出荷台数に占める Samsung 端末の割合は 44%に達し、これは Samsung 以外の Android 端末メーカー7 社の合計よりも多い。Android 4.0(コードネー ム:Ice Cream Sandwich)が順調に伸びていることも注目に値すると IDC は指摘してい る。 25 iOS の出荷台数は前年同期比で 2 桁成長となったが、伸び率はスマートフォン市場全体 の 42.2%を下回った。iPhone の現行モデル「4S」が市場投入されたのが昨年の 10 月であ ること、新モデル登場のうわさが流れたことで、iPhone は減速期に入った。ただし、iOS は 3 位以降のすべて OS の合計出荷台数を上回っており、地位は盤石という。 7 16.2% 一方、かつて 1、2 位を争っていた BlackBerry OS と Symbian は、前年同期からそれ ぞれ 40.9%、62.9%減少した。BlackBerry OS のシェアは 4.8%まで低下し、2009 年第 1 四半期以降の最低水準。Symbian の減少幅はこれまでで最も大きい。 これに対し Windows Phone 7/Windows Mobile の出荷台数は 540 万台とまだ少ないも 5 のの、前年同期から 115.3%増えている。これはフィンランド Nokia が Lumia シリーズ の出荷台数を伸ばしていることが主な要因 である。今後 Microsoft がシェアを伸ばすため には、今秋リリースする Windows Phone 8 でさらに弾みをつける必要があると IDC は指 摘している。 10 図表 4 Top Smartphone Operating Systems, Shipments, and Market Share, Q2 2012 (Units in Millions) Operating System Android Q2 2012 Q2 2012 Q2 2011 Q2 2011 Year-over-year Shipments Market Share Shipments Market Share Change 104.8 68.1% 50.8 46.9% 106.5% 26.0 16.9% 20.4 18.8% 27.5% BlackBerry OS 7.4 4.8% 12.5 11.5% -40.9% Symbian 6.8 4.4% 18.3 16.9% -62.9% Windows Mobile 5.4 3.5% 2.5 2.3% 115.3% Linux 3.5 2.3% 3.3 3.0% 6.3% Others 0.1 0.1% 0.6 0.5% -80.0% 154.0 100.0% 108.3 100.0% 42.2% iOS Windows Phone 7 / Grand Total 出典: IDC Worldwide Mobile Phone Tracker, August 8, 2012 ( http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS23638712 15 2012 年 9 月 10 日閲覧 ) 3-2.国内のスマートフォン市場 2012 年 8 月 21 日、コムスコア・ジャパンは、携帯電話の包括調査データベースの「モ ビレンズ(comScore MobiLens)」を通じて、日本における携帯電話利用者の最新状況に 8 関する 2012 年 6 月までの 3 か月平均のレポートを発表した。これは携帯電話契約者 5,000 人以上を対象とした毎月頻度の調査である。 日本では全携帯電話利用者の 23.5%にあたる 2,400 万人以上がスマートフォンを利用し ており、2011 年の年末に比べて 43%増加した。スマホ市場におけるアンドロイドのシェ 5 アは 64.1%(同年 3 月比+1.9%)で首位。2 位にアップル(32.3%)、3 位にマイクロソ フト(3.2%)と続いた。 10 図表 5-1 スマートフォン、非スマートフォンの割合 図表 5-2 スマートフォンプラットフォームの割合 出典:コムスコア「モビレンズ」 (http://www.comscore.com/jpn/Press_Events/Press_Releases/2012/8/Japan_Smartphon e_Surge 2012 年 9 月 10 日閲覧) 15 9 2012 年度以降のスマートフォン市場は、LTE(次世代高速通信規格)対応、クアッドコ アプロセッサ(CPU)搭載、ディスプレイの進化(大型化・高精細化・形状進化)や 2012 年 4 月に開始されたマルチメディア放送サービス「NOTTV(ノッティーヴィー)」対応端 末が注目される。 5 LTE とは、新しい携帯電話の通信規格のことである。現在、日本では主に第 3 世代(3G) の通信システムが使われているが、LTE はその次の世代の新しい通信方式である。世界的 には第 4 世代(4G)通信として扱われることが多い。厳密には、LTE は 3G と 4G の中間 技術であり、3.9G とも呼ばれている。しかし、国際電気通信連合(ITU)が LTE と WiMAX について「4G」という名称を使うことを認めており、米国の大手キャリアや端末メーカー 10 は LTE を「4G」としている。日本のキャリアでは、ソフトバンクが実質 LTE と同じサー ビスを「4G」と呼んでいる。LTE のメリットとして、通信速度が速くなることである。 速度はキャリアや場所などによって多少異なるが、概ね、2007 年以降主流となっている端 末の 3 倍近い速さで通信ができるようだ。これにより、アプリや音楽、動画などをスムー ズにダウンロードしたり、画像の多いサイトを素早く閲覧することができるようになる。 15 なお、現時点では LTE に対応しているエリアは非常に狭い(大規模都市などに限られて いる)が、エリア外では自動的に 3G 通信に切り替わるので、3G 移行当初の頃のように、 「圏外になって使えなくなる」といったことはなく、追加料金なんかも発生しない 。デメ リットとしては、バッテリー消費がかなり早く、端末の選択肢が少ないことである。 現在 発売中の端末におけるバッテリー消費量はかなりのもので、 「ARROWS X LTE F-05D」な 20 どは夕方まで持たないようである。 CPU とは「セントラル・プロセッシング・ユニット」の略で「中央処理装置」という意 味である。つまり、パソコンの中心となり、パソコン全体の処理・計算を行う、まさに 頭 脳と言える部分である。そのため、このパーツの良し悪しが、パソコンの性能に直結する ほど重要なパーツである。CPU が良いものであるほど、そのコンピュータは複雑で多く 25 の処理を、速く安定して行うことができる。 コアとは、CPU の中心部分であり、実際に 処理を行うところである。つまりこのコアが、コンピュータの頭脳である。クアッドコア とは、CPU の中にコアが 4 つあるものである。また、CPU の中にコアが 2 つあるデュア ルコアと呼ばれるものもある。コンピュータが多くのソフトを同時に動かさなければなら ない時でも、複数のコアでその作業を分担することが出来る。これによって作業の効率化 30 が進み、処理が速くなる。 10 使用するソフトがこれらのコアに最適化されていれば、 1 つのソフトを複数のコアで効 率的に動かす事も可能である。ただ、中心部となるコアが多くあれば、フルパワーで動い たときの電力の消費量は通常と比べて多くなり、発熱も高くなってしまう。これを抑える ため、コアが多い CPU はコア 1 つあたりの能力が抑えられていた。そのため、以前 はソ 5 フトウェアを1つしか動かさない時は、コアが少ない方が早いという場合もあった。 しか し、最近は、消費電力や発熱を抑える技術が進歩したため、コアごとの性能が高 い CPU が登場している。また、よく使っているコアの性能を一時的に高める技術(ターボブース トテクノロジー)なども登場しており、徐々にコアがたくさんある事のデメリットは解消 されつつある。 10 快適なユーザーエクスペリエンスの提供に繋がるネットワークの高速化とハードの進 化に加えて、スマートフォンを利用した新たな技術の登場も見込まれる。例えば 、Google や Apple も注力していくと表明している NFC である。これは「Near Field Communication (近距離無線通信)」の略称で、日本では“おサイフケータイ”や“モバイル Suica”など でお馴染みの通信技術である。世界的に見てもこれらは日本で先行して使われ始めたもの 15 で、海外で先に広がったスマートフォンには搭載されていないケースが多く、日本ならで はの差別化要因になる可能性がある。NFC はそもそも決済に使われている技術なので、セ キュリティーが強固だという点がアピールでき、普及が進めば個人情報を扱うことへの安 心感が高まる。このため、マーケティングやプロモーション利用を勢いづかせるきっかけ になる技術といえるだろう。 20 「NOTTV」(ノッティービー)とは、2012 年 4 月 1 日に開局する放送局である。NTT ドコモの子会社に当たる mmbi が運営している。これは、家庭で観るテレビではなく、ス マートフォンなど移動する機器向けの放送サービス「モバキャス」の電波で提供される放 送局となっている。 まず「モバキャス」とは、“V-High マルチメディア放送”“携帯端末向けマルチメディア 25 放送”として検討、導入されたサービスのことである。地上の鉄塔(首都圏なら東京タワー) を用いるテレビ放送がアナログからデジタルに変わり、あわせて用いる電波( VHF 帯)が 変更されたことを受け、アナログテレビで使ってきた周波数帯を新たな用途で使おう と考 えられ、その結果、携帯端末向けマルチメディア放送が検討され て「モバキャス」という 名称でサービスが提供されることになった。 30 これまで携帯電話・スマートフォンでは、地上テレビ放送と同じ内容の「ワンセグ」が 11 提供されているが、モバキャスは主にスマートフォンを対象にした、これまでなかった形 態のデジタル放送である。場所や時間を選ばず、スマートフォンの特性を生かした新しい TV の楽しみ方を提供する予定である。ちなみにワンセグという言葉は、サービスや仕組 みを表わし、その上で NHK など各放送局が番組を提供しているが、そのサービスや仕組 5 みを示す言葉が“モバキャス”で、「NOTTV」は放送局の名称、ということになる。 3-3.スマートフォン契約数の推移 2011 年 3 月末のスマートフォン契約数は 955 万件となり、端末総契約数 1 億 912 万件 に対するスマートフォン契約比率は 8.8%となった。2012 年 3 月のスマートフォン契約数 10 は、2,522 万件となり、スマートフォンとフィーチャーフォンを合わせた端末総契約数 1 億 1,232 万件に占めるスマートフォン契約比率は 22.5%になる。 出典:(株)MM 総研[東京・港] 15 (http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120120313500:2012 年 9 月 7 日 閲覧) この章では、スマートフォン市場の現状と今後のスマートフォン市場で提供されうるサ ービスについて述べた。この現状をふまえて、各キャリアのスマートフォン販売の取り組 みやサービスについてについて次章で述べていく。 20 4.国内 3 社のスマートフォン販売への取り組み(仮) 日本国内のスマートフォン市場が激化していく中で、国内 3 社はそれぞれどのような独 自性を出し、どのような戦略や取り組みで、フィーチャーフォンからスマートフォンへの 12 シフトを行っているのかについて論じることにする。 4-1.ドコモ ①経営理念 ドコモは「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向けて、個人の能力を最大 5 限に生かし、ユーザーが満足する、よりパーソナルなコミュニケーションの確立を目指し ている。 まず、新しいコミュニケーション文化の世界について、個人どうし確実にアクセスでき ること、リアルタイムにアクセスできること、個人単位でのコミュニケーションができる ことなど、よりパーソナルなコミュニケーションスタイルを目標とする。そこから創造さ 10 れるコミュニケーション文化の世界は、いつでもどこでも誰とでも、自由にコミュニケー ションが楽しむことができ、パーソナルアク セスのためのマナーが生まれる。 新しいコミュニケーション文化の世界の実現に向けて、 より新しい、より豊かなコミュ ニケーション文化の世界を実現させるため、サービス品質の改善をはかり、人にやさしい 高度なヒューマンインターフェースをめざした技術開発や、より多彩なサービスの企画開 15 発を積極的に進めるとともに、より広いエリアでサービスを提供している。 ②料金プラン ドコモのスマートフォンの料金プランは、Xi(クロッシィ)(以下、Xi)と FOMA(※みほ 参照)で料金形態が変わってくる。Xi とは、ドコモが提供する次世代通信 LTE サービスで ある。第 3 世代(3G)通信の次の世代の通信方式であり、今までに比べると約3倍の速さで 20 通信できるのが特徴だ。ドコモの月々の支払いのイメージは、次の通りだ。 まず Xi の料金プランについて、Xi の基本料金は 2 種類ある。2 年間同一回線の継続利 用をする人向けの、基本使用料が月々780 円、通話料が 21 円/30 秒のタイプと、契約期間 (ご利用お約束期間)がない人向けの、基本料金が月々 1560 円、通話料が 21 円/30 秒の タイプがある。この基本料金は、必ずどちらか選ばなければならない。基本料金を選び、 25 それに加えて様々なオプションのプランを選ぶ。一定額で使い放題にする場合を例に挙げ ると、それぞれどちらかの基本料金にプラスして、 Xi かけ放題定額 700 円/月と、パケッ ト定額 5985 円(キャンペーン中は 4935 円)を加える。Xi かけ放題とは、ドコモ同士の通話 が、国内であれば 24 時間無料になるプランである。このプランの組み合わせの場合、月々 の支払は 7780 円から(キャンペーン中は 6730 円から)となる。 30 次に FOMA の料金プランは基本料金がタイプ SS から LL まで、全部で 5 種類だ。基 13 本料金の額によって、無料通話分が変わる。SS は基本料金 980 円、無料通話が 1050 円分 (最大 25 分相当)、S は基本料金 1575 円、無料通話 2100 円分(最大 55 分相当)、M は基本 料金 2625 円、無料通話 4200 円分(最大 142 分相当)、L は基本料金 4200 円、無料通話 6300 円分(最大 300 分相当)、LL は基本料金 6825 円、無料通話 11550 円分(最大 733 分相当)と 5 なっている。待ち受けが多いがゲームや音楽を楽しみたい場合を例に挙げると、それぞれ の基本料金に対して、FOMA 回線だけに使えるファミ割を利用することで基本料金を半額 にし、それに加えてパケット定額 5460 円/月を利用する。一番安いタイプ SS の基本料金 を選ぶと、このプランの組み合わせの場合、月々の支払は 6755 円からとなる。 ③電波状況 10 ドコモでは LTE という回線が、浸透してきている。LTE とは、新しい携帯電話の通信 規格のことである。現在、日本では主に第 3 世代(3G)の通信システムが使われているが、 LTE はその次の世代の新しい通信方式だ。 LTE になると何が変わるのかというと、通信速度が速くなるというのが一番変わるとこ ろだ。速度はキャリアや場所などによって多少異なるが、2007 年以降主流となっている端 15 末の 3 倍近い速さで通信ができる。アプリや音楽、動画などをスムーズにダウンロードし たり、画像の多いサイトを素早く閲覧したりすることができるようになる。ドコモでは「 Xi」 という名称で利用されている。ドコモ以外のキャリアがどのようなサービスを展開するか は現時点では推測できないが、スマートフォンを使うならば、LTE にすると「速くて安く なる」ということである。なお、現時点では LTE に対応しているエリアは非常に狭いが、 20 エリア外では 3G に切り替わるので、3G 移行当初の頃のように、「圏外になって使えなく なる」といったことはなく、追加料金なども発生しないので安心だ。ソフトバンクと au へ顧客が流出することを懸念しているドコモでは、通信料を値引きすることで巻き返しを 狙っており、次世代高速通信 Xi のデータ通信料について、現行定額プランの正規料金よ り月額 1050 円安い新定額プランを 2012 年 10 月 1 日に導入する予定だ。 25 ④独自サービス また、ドコモが提供するスマートフォンには SP モードという、スマートフォン向けプ ロバイダがある。i モードのメールアドレス(@docomo.ne.jp)が使えるうえ、電話帳バッ クアップサービスなどの機能がある。しかし SP モードでは、サーバーにおいてソフトウ ェア更改に伴うデータ設定を誤ったことによるトラブルが発生しており、メールの誤配信 30 や設定画面で他人のメールアドレスなどを閲覧、変更できる状態が発生した。 14 ドコモ特有のサービスとして、スマートフォンに話しかけるだけで情報を調べて教えて くれたり、携帯電話の操作をしてくれたりする音声エージェント機能である「しゃ べって コンシェル」を、ドコモの Android スマートフォン向けのアプリとして無料で提供してい る。 「調べたいこと」や「やりたいこと」などをスマートフォンに話しかけると、その言葉 5 の意図を読み取り、サービスや端末機能の中から最適な回答を画面に表示できるようにな っている。 4-2.au ①経営理念 10 情報通信分野における市場環境は、技術革新やグローバル規模での競争の激化、多様な プレイヤーの参入などを受け、急速な勢いで変化している。そこで au は、これらの変化 をチャンスととらえ、事業ビジョン「もっと身近に !」、「もっといろんな価値を!」、「もっ とグローバルへ!」、という 3 つのコミットメントと、「3M(マルチデバイス、マルチネッ トワーク、マルチユース)戦略」 「グローバル戦略」の成長戦略を基軸に、新たな成長に向 15 けた変革を進めている。 2011 年度決算発表によると au は、増収増益を果たし業績は好調だ。背景には、スマー トフォンの販売台数増と合わせ、データ通信費の収益増がある。 au は、営業収益が 3 兆 5721 億円(前年比 4%増)と四期ぶりに黒字へと転換し、営業利益も 4776 億円(前年比 1.2%増)へ増大。スマートフォンの販売台数は、563 万台へと増加している。 20 増収増益のもう一つの要因には iPhone4S の取扱いを開始したことがあげられ、2011 年 下期を通じて首位を堅守している。MNP 契約数にも大きく貢献。販売当初は使えなかっ た機能のバージョンアップも進め、さらに販売台数を伸ばしている。この MNP 獲得に加 え、解約率の減少、純増シェア拡大、データ ARPU(加入者一人あたりの月間電気通信事 業収入)増大と、同社が期初に設定した 4 つの KPI は劇的に改善しており、 「au モメンタ 25 ムは完全回復した」(田中孝司社長)としている。 ②料金プラン また、3M 戦略も順調な立ち上がりを見せ、スマートフォンと固定のセット割「 au スマ ートバリュー」の契約が au 側 66 万件、固定通信側 44 万件と好調だ。au スマートバリュ ーとは、au スマートフォンと指定の固定電話サービスを一緒に契約することで、スマート 30 フォンの利用料金が最大 2 年間、月々1480 円割引になるというものである。2 年経過後も 15 月 980 円の割引が継続される。また、割引対象として固定電話契約者だけでなく、その家 族も含まれるため、たとえば 4 人家族が対象の固定電話に契約すれば、1480 円×4 人分(あ るいは 980 円 x4 人ぶん)の割引となる。 ③クラウドコンテンツサービス 5 今後も間違いなく事業の大きな柱になるスマートフォンだけに、ユーザーの激しい取り込 み合戦はこれからさらに加速する。スマートフォンが登場した初期の端末による第一次キ ャリア戦争、料金による第二次キャリア戦争を終え、市場は新たな局面を迎えようとして いるのである。 それが、 「クラウドコンテンツサービス」による第三次キャリア戦争と呼べるものだ。決 10 算発表においても、各社とも今後の事業展開の柱に、クラウドコンテンツサービスの充実 を掲げている auは、 「auスマートパス」のサービス拡充に注力する。 「auスマートパス」とは、500 本以上の人気アプリ使い放題、クーポン・ポイントサービス、10GB 分の写真・動画スト レージ「au Cloud」、セキュリティサービスなどが月額 390 円で使い放題になるサービス 15 で、サービス開始直後から順調に会員数を獲得。サービス開始からわずか 169 日でのスピ ード達成となった。「au スマートパス」が順調に会員数を集めている要因は、性別・年代 を問わず幅広い層のユーザーに支持されている点にある。 発表されたユーザー属性によると、「au スマートパス」のユーザーは、男性が 53%、 女性は 47%とほぼ半々。デジタル領域の新規サービスはまず男性ユーザーから増加してい 20 く傾向にあるが、 「au スマートパス」はサービス開始直後から女性からも多くの支持を得 ている点が好調要因のひとつだと言えよう。また、年代別ユーザー分布についても、スマ ートフォンユーザーの中心である 10 代後半から 30 代だけでなく、40 代のユーザーが男 女ともに 24%、50 歳以上のユーザーも男性 15%、女性 12%と低くなく、全年代にまんべ んなく支持されている点が注目だ。 25 また、同社がユーザーに行なったアンケー トによると、 「au スマートパス」を評価するポ イントで最も高かったのは「月額 390 円でコミコミ」という点。また、「アプリが取り放 題」「セキュリティ対策アプリ」「入っているアプリの安全性が高い」などのポイントにも 評価が高く、スマートフォン初心者でも安心して使うことができるサービスの信頼性の高 さが、この好調を支えていると言える。 30 なお、同社が「au スマートパス」をはじめとする“スマートパスポート構想”の第 2 弾と 16 して 6 月に開始した、人気楽曲が月額 315 円で聴き放題となる「うたパス」と、月額 590 円で人気映画やアニメが見放題となる「ビデオパス」のユーザー数も好調に推移している という。両者を合わせたユーザー数は現在約 40 万人で、「au スマートパス」ユーザーの 約 20%がサービスを利用している計算になる。 「 うたパス」の平均利用時間は約 70 分/日、 5 「ビデオパス」の平均利用時間は約 60 分/日とサービス利用も順調に進んでいるようだ。 ④通信 au は、2011 年 WiMAX およびテザリング対応スマートフォンの市場投入に加え、オー ルオンワン端末によるケータイからの乗り換え促進を展開した。通信環境では 2011 年後 半で WiMAX をバックボーンにした au Wi-Fi を全国で拡充している。さらに 2011 冬と 10 2012 年春には、WiMAX 端末の本格的な拡充に加えて、これまでの電話番号顧 客管理から au ID による管理と au スマートパスに移行する大きな改革を展開してサービス面を大幅 に強化・改善する施策を展開してきた。WiMAX(ワイマックス)とは、LTE と同じよう に高速通信が可能になる通信規格のことで、主にモバイルノート PC などに先行して採用 されており「いつでもどこでも無線で高速通信」が可能というのが売りとなっている。LTE 15 とは技術的に異なる通信規格ではあるのだが、実際の速度ではほぼ遜色なく、 3G 通信の 数倍の速度で通信が可能だ。 LTE との違いだが、現時点でユーザーにとって違いを感じるのは 以下の 4 点だろう。 第一に、料金プラン。 LTE はそれがメインの通信方式であるため、基本契約として 3G 通信契約の替わりに LTE 20 用のプランを契約することが必須となっているが、 WiMAX は基本的に 3G 通信の契約が あり、その上で WiMAX をオプションで使える、という形になる。このため、基本料金に プラスして WiMAX の利用料を支払う必要がある。現時点では、月額 525 円となっている。 第二に、通信量制限の有無。 ドコモは LTE の利用について、2012 年 10 月以降は月間のデータ通信量が 7GB を超えた 25 場合、通信速度を大幅に制限(128kbps)するとしている。制限を解除するには追加料金 が必要となる。しかし、現時点において WiMAX についてはそのような制限はなく、使い 放題となっている。 第三に、対応エリア。 2009 年 2 月からサービスが開始されており、ドコモの Xi と比較しても 2 年弱先行してい 30 るだけに、対応エリアがかなり広い。UQ コミュニケーションズの発表では、2012 年 1 月 17 24 日に全国実人口カバー1 億人を達成したとのことだ。 最後に、屋内での通信環境。 これは、UQ コミュニケーションズの WiMAX が利用している周波数の関係で、屋内での 電波受信に難があるという点。ドコモや KDDI が提供する LTE と比較すると、屋内での 5 通信が弱点となっている。3G 回線があるので、まったく通信ができなくなるということ はほぼないだろうが、どんなときでも WiMAX の高速通信を使えるわけではないという点 は考慮するべきだろう。 これまで WiMAX を展開してきた au だが、2012 年 12 月から高速通信「4G LTE」を 提供開始することを発表している。800MHz と 1.5GHz に加え、現状、EV-DO で利用して 10 いる 2GHz も利用するとも言及されている。また、都市部などトラフィック過多となる地 域対策には、EDVO Advanced を全国に導入することで体感速度の向上も目指すとしてい る。また家庭での通信環境改善には、HOME SPOT CUBE の無料貸し出しにより、2.4Ghz に加え 5Gz も対応した au Wi-Fi により改善を図られています。 15 今後も間違いなく事業の大きな柱になるスマートフォンだけに、ユーザーの激しい取り 込み合戦はこれからさらに加速する。スマートフォンが登場した初期の端末による第一次 キャリア戦争、料金による第二次キャリア戦争を終え、市場は新たな局面を迎えようとし ているのである。 20 4-3.ソフトバンク ①ソフトバンクの現在 ソフトバンクグループのあらゆる企業活動の土台には、「情報革命で人々を幸せに」と いう経営理念がおかれている。情報革命を進めることによって、一人でも多くの人に喜び 18 や感動を伝えていきたい、そんな思いがこめられた理念である。 この理念のもとソフトバンクはスマートフォン普及の“加速”に貢献してきた。今や多く の人々がスマートフォンを活用している。ソフトバンクが国内で販売している「 iPhone」 は、国内の新規スマートフォンランキングで 3 年連続 No.1。さらに「iPad」が多くの企 5 業に導入されるなど、ビジネスの世界でもモバイルインターネット化が急速に進んでいる。 (日本経済新聞より)この、iPhone や iPad の人気を追い風に、ソフトバンクはシェアを 伸ばし、新規契約数から解約数を除いた純増数は 21 万 7,200 件で、現在 8 カ月連続で首 位に立っている。ソフトバンクの月間純増数が 20 万件を超えるのはこれで 14 ヶ月連続で ある。また、累計契約数は 3,014 万 1,100 契約となっており、シェアを伸ばしているのだ。 10 さらに、実質 0 円のスマートフォンや iPhone が依然好調のほか、家族も対象にした学割 が寄与して、5 万 7000 件増加している。 また、ソフトバンクグループでは、今後の成長軸として「モバイルインターネット」、 「ア ジア展開」を最重要視し、それぞれの分野で No.1 になることを目指している。中国のイ ンターネットユーザ数はすでにアメリカを抜き、人口や、世界の主要市場における地域別 15 時価総額の伸びからも、世界のインターネット市場の主軸は、欧米からアジアにシフトし ているといえるだろう。 ②プラン戦略 ソフトバンクの料金プランで一番に思い浮かぶのはやはり「ホワイトプラン」であろう。 ホワイトプランとは、1 時~21 時はホワイトプラン同士なら通話無料といったプランであ 20 る。しかし、 「サブケータイとしてのソフトバンク携帯」というポジションを実現したこの プランが、ソフトバンクの新規契約をここまで伸ばしてきたといっても過言ではないだろ う。このポジション獲得が経営戦略上の転換点であり、その先を見据え、マーケティング を実施していったことが、ソフトバンクの成長につながってきたのだ。 ホワイトプランの加入件数が増えてきたところで「タダとも」というキャッチコピーや 25 印象的でユニークな CM で知名度を高めていった。この流れで、他社携帯との通話が半額 になる「W ホワイトプラン」や、ホワイトプランに加入している家族との通話が 24 時間 無料になる「ホワイト家族 24」などの割引サービスを展開していった。 また、「乗りかえ割り」といって、新規契約や他社からソフトバンクに乗り換えると、 グッズをもらうか、1 年間基本料無料かを選ぶことができるといったサービスを展開し、 30 CM でも大きく取り上げているのもソフトバンクならではといえるのではないだろうか。 19 メールやウェブをどれだけ使っても定額であるパケットし放題のプランもスマートフ ォン向けに展開されている。よく使用する人向けには、月々4410 円のパケットし放題フラ ットを、あまり使用しない人向けには月々1049~4410 円のパケットし放題 for スマートフ ォンに展開されている。こんなにも iPhone が売れている理由として、端末が魅力という 5 理由もあるが、それに合わせてソフトバンクが格安のプランを取り入れたためでもあると いえる。スマートフォンの普及は、ソフトバンクが大いに貢献しているといっても過言で はないのではないだろうか。 ③ソフトバンクがもつ課題とそれに対する対策 ソフトバンクはドコモや au と比べると電波が悪いという印象が強い。電波品質の悪さ 10 がサービスを解約する理由の 1 位としてあげられているほどだ。しかし、近年、サービス エリアの拡大と、さらなる通信品質の向上を目指して、基地局の設置や伝送路の敷設など、 通信インフラの設備増強に取り組んでいる。 ソフトバンクは Wi-Fi スポット数が国内 No.1 である。Wi-Fi とは、公共施設やカフェ などで手軽に高速インターネットを利用できる公衆無線 LAN サービスのひとつである。 15 携帯電話の回線(3G 回線)は使わないため、パケット通信料は無料である。現在、デー タオフロードといって、スマートフォンを導入したことによる膨大な通信量を、無線 LAN やブロードバンドインターネットに迂回させてしまおうとい うものがある。ソフトバンク は、ショッピングモールやカフェなど、人が滞留し、3G 回線が混みあうポイントを中心 に Wi-Fi スポットを設置し、3G 回線から Wi-Fi に迂回させてデータ通信をスムーズにし 20 ようという対策を行っている。しかし、一部では接続できないなどの不安定な状況がある。 これらの問題を解決できないことには、完全なオフロードとは言えず、改善が迫られてい るのが実状だ。 また、屋内だとつながりにくいなどと感じている利用者のために、屋内に小型の基地局 を設置することで電波状況を改善するフェトセルムを活用したホーム アンテナ FT を無料 25 で提供するサービスも行っている。 さらに、2012 年 7 月から広いエリアをカバーできるプラチナバンドが加わったことに より、さらなる基地局配置の最適化に取り組んでいる。プラチナバンドとは、政府がソフ トバンクに割り当てることを決定した 900MHz の周波数の帯域で、ソフトバンクにとって は強い追い風となっている。プラチナバンドは、電波が遠くまで届きやすく、屋内にも入 30 りやすい。また、障害物を回り込みやすいため、ビルの陰などでも電波が届きやすいので 20 ある。これまでカバーしきれなかったエリアもカバーすることができるようになるため、 ソフトバンクは、つながりやすく、快適な通信サービスの提供ができるようになった。こ の電波の改善により、さらに契約数を伸ばしていくのではないだろうか。 ④iPhone 頼みからの脱却 5 やはり、ソフトバンクの売れ筋としては、依然として iPhone 人気が高い。しかし、 Android スマートフォンに力を入れていないわけではない。ソフトバンクのスマートフォ ンの主力機種は、どれもが「ケータイらしさ」を企図しつつ、スマートフォンとの融合を 狙ったものとなっている。スマートフォンの主力は引き続き iPhone に任せつつ、本格化 してきた「一般携帯ユーザーのスマートフォン移行」を積極的に取りに行こうとういうラ 10 インナップになっているのだ。 15 5.スマートフォン普及による影響 スマートフォンの世界的な普及は、日本の携帯電話会社にとっては必ずしも良い面ばか りではない。これまで日本の携帯電話ビジネスは、メーカーではなく、ドコモなどの携帯 電話会社を中心に進められてきた。端末の開発についても携帯電話会社が主導しており、 「iモード」や「おサイフケータイ」のように携帯電話会社が開発したサービスもある。 20 このように携帯電話各社は、独自仕様の端末・サービスを提供することで利用者を囲い込 んできた。しかしスマートフォンの場合、端末の魅力を大きく左右するアプリは、アップ ルやグーグルが運営するネットショップを通じて提供されており、その開発者は世界中に いる。携帯電話会社の主導での利用者の囲い込みが難しくなるため、携帯電話各社はこれ まで以上の価格競争を強いられる可能性もある。 25 こうした状況は端末メーカーでも同様である。日本の携帯電話機は、携帯電話会社の主 導による独自開発のものだったため、海外メーカーが日本に参入するのは容易ではなかっ た。しかし、いわゆるアンドロイド携帯の場合、 OS の規格・仕様が世界的に公開されて いるため、海外メーカーでも日本市場に参入しやすくなる。すでに製造コストの安さで優 位に立つ韓国や中国などのメーカーが続々と日本市場に スマートフォンを投入しており、 30 国内メーカーとしてはコストを度外視してでも対抗せざるを得ない状況である。 21 6.まとめ 私たちは、キャリア 3 社の今後のサービスのポイントに「つながりやすさ」があると主 張したい。ソフトバンクは、iPhone を販売することで人気を得ているが、やはり電波がつ 5 ながりにくく、その点で au とドコモを追い上げることができていない。そのつながりに くさを改善すれば、au とドコモを抜くことが可能であろう。ドコモは、ガラパゴス携帯か らの人気を維持し、現在は約6割のシェアがあるが、このようにソフトバンクが追い上げ てくれば、シェア1位を維持するのも困難になる。au も同様に、iPhone4S を導入してか ら、急激な成長を見せていて、電波もソフトバンクよりもつながりやすいため、今のとこ 10 ろはソフトバンクよりも上位をキープできているが、ソフトバンクの電波状況が改善され れば、現状維持も難しくなるため、ますますこの3社の競争が激しくなる。 携帯電話が普及し、市場はほぼ飽和状態となった。ガラパゴス携帯の多機能による差別 化も停滞している状況において、スマートフォン市場はキャリアにとってもメーカーにと っても新たな収益源である。そのため各キャリアはスマートフォンのラインナップの充実 15 化や、端末の高機能化、通信料の低価格プランを打ち出している。 しかしその結果として データ通信量の多いスマートフォンが急速に普及することで、回線を行きかう通信量が膨 大となり、通信インフラの整備が追い付いていないために、 通信障害が多発している。こ の現状をふまえてキャリア各社は通信サービスを改善する様々な取り組みに力を入れてい る。 20 2012 年 3 月にプラチナバンド割り当てに認定されたソフトバンクは、7 月から通信サー ビスを開始したが、すでに 800MHz 帯での通信サービスを運用する NTT ドコモと KDDI は、次世代高速通信サービス用にさらに 700MHz の周波通帯域を確保しており、通信サー ビスの向上や次世代高速通信サービスへの取り組みを加速させる見込みだ。また、NTT ド コモは高速通信規格「LTE」対応サービスの基地局を今年度内に当初計画比で約4割増や 25 すと発表しており、ソフトバンクもプラチナバンドの普及のために基地局の増加を急いで いる。 スマートフォンが普及していく中で、データ通信料収入の増加は各通信会社にとって新 たな収入源となる。通信料による収益を上げるためには、通信障害問題を解決する必要が ある。情報通信機能を持つスマートフォンがつながらない状況は、ユーザーに対して不便 30 でしかなく、より通信環境のよい他社への乗り換えも考えるだろう。 料金プランや新しい 22 機種目的で他社から乗り換えた新規顧客を得ることができても、十分な満足度を提供でき なければ、その顧客がまた他社へ戻ってしまう 可能性がある。ようやく獲得できた顧客を、 収益源として維持できなければ、企業は長期的に利益にすることはできないのだ。ドコモ、 au、ソフトバンクの 3 社には、通信会社として、広く死角の少ないエリアと、より安定し 5 た通信サービスが求められている。インフラ整備を普及させ、これらのサービスを実現す ることで、ユーザーの満足度が高まり、契約者増加や利益獲得につながるのである。(文字 数:18,581) 10 参考文献 au スマートパス DoPlaza http://pass.auone.jp/non-member/ http://www.doplaza.jp/products/docomo/index.html IT MEDIA http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1110/11/news034.html 15 KDDI 企業情報 Weblio 辞書 http://www.kddi.com/corporate/kddi/business_vision/3m.html http://www.weblio.jp/ ケータイ WATCH http://k-tai.impress.co.jp/docs/ranking/gfk/20120831_556405.html 社団法人電気通信事業者協会 http://www.tca.or.jp/ ソフトバンク http://mb.softbank.jp/mb/ 20 ドコモ http://www.nttdocomo.co.jp/ ビデオニュースドットコム http://www.videonews.com/on-demand/371380/001329.php 23
© Copyright 2024 Paperzz