10.費用便益分析 1

2007 年 6 月 21 日(木曜 3 限)1/5
10.費用便益分析 1
前章では、
(集計的)消費者余剰を用いて政策評価をする理論的な基礎づけが補償原理を前提に
すると可能であることが示された。本章では、余剰概念を用いて公共プロジェクト(公共政策)
の評価をする方法について検討する。
10.1 費用便益分析の目的と適用対象
<基本的な目的>
社会的意思決定(効率的な資源配分達成)の支援
<適用対象>
(1) 事業(project)
(2) プログラム(programs)=事業の集まり
(3) 政策(policy)=プログラムの集まり
(4) 規制(regulations)
<公共プロジェクトの例>
ダム建設、空港整備、道路整備、下水道整備、公園整備、都市開発、予防接種事業など
10.2 費用便益分析の種類と有用性
<種類と目的>
事前(ex ante)評価=事業実施前の評価
中間(in medias res、再)評価=事業継続中の評価
事後(ex post)評価=事業終了後の評価
(問題 10-1)以下の表にある 3 種類の評価について、有用性の大きい場合は○、ある程度期待
できる場合は△、ほとんど期待できない場合は×を記入しなさい。また、その理由
を説明しなさい。
有効性
種類
事業の採否
事前評価
中間評価
事後評価
1
事業の見直し
類似事業の採否
2007 年 6 月 21 日(木曜 3 限)2/5
10.3 社会的便益と社会的費用
<消費者余剰と生産者余剰>
N =個人数(人口)
ΔCS i =個人 i の消費者余剰(consumer’s surplus)の増分
ΔCS =(集計的)消費者余剰の増分
ΔCS = ΔCS1 + L + ΔCS N ⇒ 8 章と 9 章を参照
(10-1)
R j =企業 j の収入(revenue)
VC j =企業 j の可変費用(variable cost)
π j =企業 j の利潤(profit)
FC j =企業 j の固定費用(fixed cost)
PS j =企業 j の生産者余剰(producer’s surplus)
PS j = R j - VC j
= π j + FC j [← π j ≡ R j − (VC j + FC j ) ]
(10-2)
ΔPS j =企業 j の生産者余剰の増分
M =企業数
ΔPS =(集計的)生産者余剰の増分
ΔPS = ΔPS1 + L + ΔPS M
(10-3)
<社会的便益と社会的費用>
(政府の)純歳出(net expenditure)
=「(その政策のための)歳出(expenditure)」-「(その政策から得られる)歳入(revenue)」
(政府の)純歳出の機会費用(opportunity cost)
=「(その政策のための)歳出の機会費用」-「(その政策から得られる)歳入の機会費用」
(社会的)便益 B (social benefit)= ΔCS + ΔPS
(社会的)費用 C (social cost)=(政府の)純歳出(の機会費用)
(社会的)純便益 NB (net social benefit)=便益 B -費用 C
あるプロジェクトが「効率性」の観点から採択されるためには、
(10-4)
NB >0
すなわち、(社会的)純便益が正という条件が成立しなければならない。
なお、予算の制約が存在するときはこの条件は修正されることになるが、その点についてはこ
こでは取り扱わないことにする。
2
2007 年 6 月 21 日(木曜 3 限)3/5
<便益と費用の例>
ダム事業の便益
=① 発電(発電用水の供給)→ 発電された電力の価値
② 利水(水道用水、農業用水、工業用水)→ 増大した農産物の価値
③ 治水(洪水調節)→ 低下した洪水被害額
ダム事業の費用
=① ダムの建設費、② 維持管理費(堆砂対策費)
(問題 10-2)道路整備に関してそのプロジェクトがもたらす便益の項目は?
(問題 10-3)ダム湖の湖畔に作られたレストランの収益は便益として考慮すべきか。
(問題 10-4)整備新幹線の建設によって並行在来線の収益が低下した場合、その収益の減少分
はどのように考慮すべきであろうか。
(問題 10-5)港を掘り下げるという公共事業の便益を評価する方法を検討しよう。港を掘り下
げることにより、港に大きな船が接岸できるようになるので、リンゴの輸送にかか
る費用が軽減できるとする。なお、リンゴの量を x 、リンゴの価格を p 、港を掘り
下げる前と後のリンゴの供給曲線をそれぞれ S1 、 S 2 、リンゴの需要曲線を D とす
る。そのとき、公共事業前の均衡取引量 x1 と価格 p1 、公共事業後の均衡取引量 x 2 と
価格 p 2 を図示しなさい。そして、この公共事業から生じる ΔCS 、 ΔPS 、そして便
益 B を、次の図を用いて説明しなさい。
p
S1
S2
Ⅰ
Ⅳ
Ⅱ
Ⅴ
Ⅲ
Ⅵ
D
x
3
2007 年 6 月 21 日(木曜 3 限)4/5
10.4 将来の便益と費用の割引
<名目利子率と実質利子率の関係>
t 期=t-1 年後から t 年後までの 1 年間
it =t期の名目利子率
Pt =t 期の期末の(=t 年後の)物価水準
mt =t 期のインフレ率
P − Pt −1
mt ≡ t
Pt −1
(10-5)
このとき、t 期の実質利子率(real interest rate) rt は次のように定義できる。
rt ≡
1 + it
−1
1 + mt
(10-6)
また、 it と mt が小さいときは次の近似式が成立する。
rt ≒ it − mt
(10-7)
以下では、名目利子率とインフレ率が一定であることを仮定してそれぞれを i 、 m と表すこと
にする。したがって、実質利子率も一定になるので、それを r とおく。
<割引現在価値(名目)>
i =(名目)利子率(interest rate)
n =プロジェクトの事業期間
Bt =t 年後に発生する(名目)便益
( B0 , B1 , L , Bn ) =便益の流列
B =便益((の流列)の割引現在価値))
Bn
B
B2
+L+
B = B0 + 1 +
2
1 + i (1 + i )
(1 + i ) n
(10-8)
C t =t 年後に発生する(名目)費用
(C 0 , C1 ,L , C n ) =費用の流列
C =費用((の流列)の割引現在価値)
Cn
C
C2
+L+
C = C0 + 1 +
2
1 + i (1 + i )
(1 + i) n
(10-9)
NBt =t 年後に発生する(名目)純便益
( NB0 , NB1 ,L , NBn ) =純便益の流列
NB =(名目)純便益((の流列)の割引現在価値)
NBn
NB1
NB2
+
+L+
NB = NB0 +
2
1 + i (1 + i )
(1 + i) n
4
(10-10)
2007 年 6 月 21 日(木曜 3 限)5/5
このとき、次の関係が成立する。
NB = NB0 +
NBn
NB1
NB2
+
+L+
2
1 + i (1 + i )
(1 + i) n
= ( B0 − C 0 ) +
(B − Cn )
( B1 − C1 ) ( B2 − C 2 )
+L+ n
+
2
1+ i
(1 + i )
(1 + i ) n
= B − C :(名目)純便益(の割引現在価値)
(10-11)
(問題 10-6)あるプロジェクトの費用と便益(の流列)が次の表で与えられているとする。この
とき、t 年後の純便益の値を記入しなさい。また、利子率 i =0 のケースと、 i =0.1
のケースについて、便益の割引現在価値 B と費用の割引現在価値 C をそれぞれ求め
なさい。そして、それぞれのケースでこのプロジェクトを実施すべきかどうか検討
しなさい。
t
Bt
Ct
0
1
2
0
220
121
210
110
0
NBt
<名目純便益と実質純便益の同等性>
bt =
Bt
=t 年後に発生する実質便益
(1 + m) t
(10-12)
(b0 , b1 ,L, bn ) =実質便益の流列
b =実質便益((の流列)の割引現在価値)
bn
b
b2
+L+
b = b0 + 1 +
2
1 + r (1 + r )
(1 + r ) n
ct =
(10-13)
Ct
=t 年後に発生する実質費用
(1 + m) t
(10-14)
(c0 , c1 ,L, c n ) =実質費用の流列
c =実質費用((の流列)の割引現在価値)
cn
c
c2
+L+
c = c0 + 1 +
2
1 + r (1 + r )
(1 + r ) n
B − C = ( B0 − C 0 ) +
(10-15)
(B − Cn )
( B1 − C1 ) ( B2 − C 2 )
+L+ n
+
2
1+ i
(1 + i )
(1 + i) n
(bn − c n )(1 + m) n
(b1 − c1 )(1 + m) (b2 − c 2 )(1 + m) 2
+
+
L
+
1+ i
(1 + i ) 2
(1 + i ) n
(b − c n )
(b − c ) (b − c 2 )
+L+ n
= (b0 − c0 ) + 1 1 + 2
2
1+ r
(1 + r )
(1 + r ) n
= (b0 − c 0 ) +
= b − c :実質純便益(の-割引現在価値)
5
(10-16)