はやぶさアブレータ TPS の飛行後解析 JAXA(ARD) JAXA(ARD) JAXA(ISAS) JAXA(ISAS) JAXA(ISAS) 1.はじめに 2010 年 6 月に小惑星探査機はやぶさが地球に帰 還し,豪州ウーメラにてカプセルの回収に成功した. はやぶさカプセルは約 12km/s の速度で地球大気圏 に突入するため,約 14MW/m2 もの過酷な空力加熱 にさらされる.そのため熱防御システムとして比重 約 1.4 の CFRP アブレータが採用された.アブレー タは高温で溶融し,熱分解ガスを生成し,更に炭化・ 損耗する.そのため予め空力加熱環境を正確に予測 するとともに,アブレータ熱防御システムを適切に 設計する必要がある.将来の惑星探査ミッションに おけるアブレータ熱防御システム設計に向けて,最 新のアブレータ評価解析手法を用いて飛行データが 説明できるか確認することは非常に重要である. 本研究では現在開発が進んでいる最新のアブレー ション評価解析手法を用いて最尤飛行軌道に沿った はやぶさアブレータの熱応答を解析する.光学観測 により得られているアブレータ温度履歴や X 線 CT によって得られているアブレータ内部密度分布との 比較を行うことにより,本評価解析手法に導入され ているアブレータ表面反応モデル(酸化,窒化,昇 華反応,触媒性再結合反応)やアブレータ物性値モ デルの妥当性を評価することを目的とする. 2.アブレーション評価解析手法 本研究では 2 次元アブレーション評価コード (SCMA2)を用いてはやぶさアブレータの軌道に沿 った熱応答を求める.熱流束等の境界条件は極超音 速非平衡流れ場解析コードとの連成により求める. 本評価解析手法の詳細は文献[1][2]に掲載されてい るため,本報では省略する.図 1 に本研究で使用し 鈴木俊之 藤田和央 山田哲哉 稲谷芳文 石井信明 たはやぶさ地球大気圏再突入軌道を示す.本軌道は 最後の軌道補正マヌーバの後に推定された最尤軌道 である.表 1 に流れ場解析と連成を実施した軌道点 とその一様流条件を示す. 3.結果と考察 アブレータ評価解析手法を用いてはやぶさ地球再 突入軌道に沿ったアブレータ解析を行った.解析に よって得られたカプセル表面温度の時間変化を図 2 に示す.本解析では様々な物理モデルを導入し,結 果の比較を行った.Case 1 では従来の表面反応モデ ル(酸化反応,昇華反応)を考慮している.Case 2 では Case 1 に加えて著者等が従来開発してきた窒 化反応モデルを導入している.Case 3 では表面荒さ を考慮している.Case 4 では Case 1 に加えて熱分 解ガスの噴出により境界層が早期に乱流遷移すると 仮定している.図 2 より,再突入開始からカプセル 表面温度は温度が上昇し始め,70 秒後過ぎには最大 温度となり,その後ゆっくりと温度が下がることが わかる.Case 3 の場合他と比べて温度が低いが,こ れは表面荒さを仮定することにより表面損耗を伴う 化学反応が促進され,境界層中に多くのアブレーシ ョン生成ガスが漂うことにより対流遮蔽効果が上が ったためである. 図 2 には地上における光学観測及び航空機による 光学観測によって得られたカプセル表面温度も示し ている.表面温度が最大となる 70 秒後過ぎまでは 評価解析で得られた表面温度は航空機観測によって 得られた表面温度と良く一致していることがわかる. その後評価解析結果は航空機観測結果を若干下回る が,地上光学観測によって得られた表面温度と非常 図 1 解析に用いたはやぶさ地球大気圏再突入軌道 表 1 CFD 解析を行った軌道点と一様流条件 UTC hh:mm:ss 13:52:06 13:52:11 13:52:16 13:52:21 13:52:26 13:52:31 Flight time s 55 60 65 70 75 80 Altitude km 77.75 68.59 59.94 52.16 45.74 40.99 Velocity km/s 11.695 11.546 11.061 9.868 7.807 5.422 Density kg/m3 2.408×10-5 9.065×10-5 2.897×10-4 7.785×10-4 1.785×10-3 3.516×10-3 Kn 6.71×10-2 1.80×10-3 5.71×10-4 2.15×10-4 9.37×10-5 4.72×10-5 Temperature K 213.7 226.8 242.3 256.4 258.1 247.7 によく一致する. 加熱から十分時間が経過した後について,評価解 析によって得られたアブレータ密度分布を図 3 に示 す.よどみ点近傍では約 5mm 炭化し,約 16mm の 母材が残っている.いずれの計算結果でも違いは見 られなかった.一方カプセル後流における肩部では Case 1 と Case 2 は大きな違いが見られないものの, Case 3 は炭化層が薄く,母材層が厚くなった.また Case 4 では炭化層が厚く,母材層が薄くなった. Case 3 は表面荒さを仮定しているため,対流遮蔽効 果が上がり表面温度が低くなったため炭化層が薄く なったと考えられる.一方 Case 4 については早期 乱流遷移を考慮することによりカプセル後流におけ る加熱率が高くなり,結果として温度が高くなった ため,炭化層が厚くなったと考えられる. (a)よどみ点 図 2 よどみ点における温度履歴 (b)肩部近傍 図 4 アブレータ内部密度分布の比較 カプセル回収後は X 線 CT 撮影を行い,アブレー タ内部の密度分布を色の濃淡の違いによって得た. 得られた結果を図 3 に合わせて示す.よどみ点につ いては評価解析結果は X 線 CT によって得られた結 果とよく一致していることがわかる.またカプセル 後流肩部については Case 1 と Case 2 が X 線 CT 撮 影結果によく一致すると思われる.この結果に基づ き,従来の表面反応モデルや窒化反応モデルは表面 温度や密度分布をよく再現することがわかった.一 方で表面荒さを仮定した場合は表面温度や炭化層厚 さを過小評価し,早期乱流遷移を仮定した場合は炭 化層厚さを過大評価することがわかった. 参考文献 [1]Suzuki, T., Sakai, T., and Yamada, T., “Calculation of Thermal Response of Ablator Under Arcjet Flow Condition,” Journal of Thermophysics and Heat Transfer, Vol. 21, No. 2, 2007, pp. 257-266. [2]Suzuki, T., Fujita, K., Yamada, T., Inatani, Y., and Ishii, N., “Post-Flight TPS Analysis of Hayabusa Reentry Capsule,” AIAA 2011-3759, 42nd AIAA Thermophysics Conference, Honolulu, Hawaii, June 27-30, 2011.
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