JBIC _8月

O
東京都
東工コーセン株式会社
産業資材の供給と、日中貿易の草分け
―専門商社60年の実績を生かし、中国などで生産事業―
U
本
社
代 表 者
設 立
資 本 金
売 上 高
事 業 内 容
工
場
海外進出先
T
L
I
N
E
東京都千代田区四番町4-2 電話(03)3512-3921
川野 良三 代表取締役社長 新井 祐興 代表取締役専務取締役
(2007年6月末現在)
1947年5月
2億円(2007年3月末現在)
591億円(2006年度連結)
中国貿易事業、産業資材事業、衣料品事業、不動産賃貸事業
三重、稲沢
(生産拠点)中国、タイ、ベトナム
エアバッグ製造風景
2007年に設立60周年を迎えた東工コーセン株式会社、ゴム工業用繊維資材の供給を通じて戦後日本の復興に
貢献する一方、日中友好商社の草分けとして大型プラントの輸出から原料資源の輸入まで幅広く手がけてきました。
近年は、中国、タイ、ベトナムなどで衣料品や自動車関連部材などの生産を行っています。中国・無錫では衣料品生
産の新工場を建設し、天津では新事業の自動車販売会社が営業しています。
むしゃく
戦後復興と日中友好に貢献
東工コーセン株式会社には、2つの大きな事業の流れが
あります。1947年に、ゴム工業界と繊維業界の有力企業
の出資により、工業繊維株式会社
(後に、コーセン・ユニバー
サル)が設立されました。川瀬一貫初代社長はゴム工業界の
重鎮で、戦後の物不足の時代にあって、タイヤやコンベアベ
ルトなどのゴム製品に使われる繊維資材の確保・供給に尽力
しました。
そして、1953年には、経
団連の常任理事をしてい
た川瀬社長に日中貿易再
開への協力が求められ、新
たに設立した東工物産株
式会社のもとで戦後初の
日中 間 貿 易を 開 始しまし
た。その後、化学原料、エ
チレンなどのプラント、機 周恩来首相と川瀬社長の会見
械、鉄鋼、自動車の輸出、石油、軽工業品の輸入などを通じ
て、日中貿易正常化に道を開いてきました。
1972年の日中国交回復に先立つこと約20年にわたる同社
の先駆的な事業活動は、周恩来首相と川瀬社長がにこやかに
握手を交わす一枚の写真がすべてを物語っています。
製販一体を経営方針として海外展開
そして、1993年に両社は合併し、東工コーセン株式会
社として新発足しました。
「工業・産業用繊維資材は、経済が安定するとともにメー
カー各社が自分で調達するようになって競争も激化してきた
ので、1985年頃から自家工場での加工事業を始めました。
現在では、ゴム製品用繊維資材やオフセット印刷用基布など
産業用資材の一貫生産を行う三重工場、自動車関連部材を
生産する稲沢工場(愛知)を設置するなど、
『生産背景をもつ
特色ある商社』を目指して、製販一体を経営方針として積極
的に事業を推進しています」
と、川野社長は語ります。
「もうひとつの経営
方針が、
『日中貿易専業
からの脱皮』です。その
一例が、衣料品事業で
す。当社では中国から
衣料品の輸入を行って
きましたが、品質や納
期などの問題が少なか
らずありました。衣料
無錫の縫製工場内部
品には流行があり、大
量生産・輸入だけでは消費者に応えることができません。そ
こで、日本人の嗜好に合わせて多品種生産をフレキシブル
に行うために、1991年に合弁で中国の無錫に縫製工場を
設立し、パジャマの生産を開始しました。その後、日本のア
パレルメーカーのニーズに応えて、カジュアルシャツやドレ
スシャツなどに生産品目を広げています。
自動車関連でも、部品メーカーの海外進出に応えて、
2002年にタイ、2005年にベトナムに生産現地法人を設立
し、エアバッグや各種ホース・ベルト用基布などの部材を幅
広く供給しています」
むしゃく
川野 良三 社長
中国国内市場で事業に取り組むには
『信義、実績、調整』が重
要です。土地の手当て、人材確保、お客様との関係づくり、
行政との調整などのために、信頼のおける地元パートナーを
選ぶことが大切だと思います。
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特に、同社が注力しているのは中国国内市場への取組み
です。2001年12月に中国がWTOに加盟し、外国資本の
経済活動に対する規制が順次緩和されてきたことを受けて、
対外貿易業務・中国国内卸売業務・国内外物流業務などを
行う専門商社として、2005年に全額出資で上海に東工物
産貿易有限公司を設立しました。同社は、専門商社の経験
と実績、ノウハウを生かして、日系メーカーや地元企業の製
品の国内流通に貢献するため、北京と広州にも分公司を設
置し、中国全域にわたって事業を広げています。
「当社は、モンゴルやベトナムにも駐在員事務所を設け
ています。自由貿易の広がりに沿って、今後は中国にとど
まらず周辺国との取引にも力を入れていきたいと考えてい
ます」(川野社長)
衣料品事業の強化と自動車販売事業へ
中国での衣料品縫製事業も、すでに2カ所の合弁工場が
稼動しています。素材の企画提案から素材生産、縫製、輸
入販売までを一貫して行うことで品質管理・納期管理に万
全を期し、CAD(コンピュータによる自動設計)など最新設
備の導入で市場変化に的確に対応することで、日本の大手
ユーザーから高く評価され、現在では年産100万着規模に
達しています。
東工コーセンでは、さらに拡大する需要に対応するため、
2007年秋の完成を目標として新工場を建設しています。
この建設資金の一部について、国際協力銀行
(JBIC)
が日本
の民間金融機関と協調して融資を行っています。
「中国でも賃金が上昇しており、これまでのように安い
人件費で単純作業を行うのではなく、いかに効率よく付加
価値の高い製品をつくるかということがテーマとなります。
新工場では1人1工程から1人多工程を進めることで生産性
と品質を高め、高度な人材の育成・定着、技術的優位性の
確保を通じて競争力の強化を進めることにしています」と、
川野社長は方針を説明します。
また、中国国内
市場をターゲット
とする新規事業が、
2006年に中国企
業との合弁で設立
した自動車販売会
社の天津広裕達汽
車銷售有限公司で
す。JBICは、本事
業 に 対 し て も 融 資 天津の自動車販売店 を行っています。
「東工コーセングループ初のカーディーラーへの出資とな
りますが、当社は30数年来日産自動車の対中輸出代理商の
経験があり、これまで日産車の販売を行ってきた中国企業と
の合弁により、中国最優秀のディーラーを目指して天津市の
発展に寄与していきたいと考えています」
と川野社長。
最後に、中国での豊富な事業経験をもつ川野社長に、独
資と合弁の使い分けについてお聞きしました。
「自社用途や対外輸出を基本とするモノづくりなら、独
資のほうが決断も早いし面倒なことも少ないでしょうが、
中国国内市場を考えるなら地元の有力企業と連携すること
が欠かせません。中国のビジネスでは『信義、実績、調整』
が最も重要です。
例えば、販売店を設置するのにも、土地の手当て、人材
確保、お客様との関係づくり、地元自治体など行政との調
整などが必要になるので、地元企業の協力を得ないとうま
くいかないと思います。いまのところ中国の日系企業はモ
ノづくりが中心ですが、中国国内市場に展開していくには、
協力を得られる信頼のおけるパートナーを選ぶことが大切
だと思います」
日系企業の中国国内市場への取り組みが本格化するこれ
から、半世紀以上にわたって日中交流を進めてきた東工コーセ
ンの役割は、ますます大きくなっていくことでしょう。
事業の拡大・再編に継続的な支援を
むしゃく
JBICの融資支援は、無錫の新工場建設と、天津の自
動車販売会社設立が初めてとなります。
「たまたまJBICの方と中国に向かう飛行機で乗り合わ
せたのがきっかけでした。申請書類も簡素で審査も迅
速でしたし、もう少し早くから活用させていただけれ
ばと思いました。中国ビジネスでは、過去に日中関係
の冷え込みや、円高、天安門事件、アジア通貨危機な
ど厳しい局面が数多くありました。邦銀ではリスク面
から創業資金の融資が難しいケースもありますが、政
府系金融機関として長期かつ低利で融資や保証を行っ
ていただけるのは心強いし、情報などの側面支援にも
期待しています。最近、メコン地域開発のセミナーに
参加させていただきましたが、非常にタイムリーで有
意義でした。今後の海外展開でも継続的な支援を期待
しています」と、川野社長は語っています。
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