保健科学部新入生が選ぶ読みやすいフォント 特命学長補佐(学生支援 SD 担当) 石田久之 【角ゴシックと丸ゴシック】 先の SD ノート「保健科学部新入生の使用文字」で、文字の大きさ(ポイント)に関わる 話題を出しましたが、その文末に書いた、「私は、丸ゴシックを用いています。」に、質問 をいただきました。「何か根拠があるのですか」と。そう言われて、答えに窮しました。 欧米の字体については、Times New Roman のような“ひげ飾り(上下端の細い飾り)” のある文字(セリフ文字)よりも、Arial(アリアル/エアリアル), Verdana(ベルダナ) などのひげ飾りのない文字(サンセリフ文字)が、視覚障害者には読みやすいと報告され ています(*)。 これを日本語に置き換えると、字体から判断し、明朝系よりゴシック系が読みやすいよ うだ、となります。ここまでは良いと思うのですが、では、同じゴシック系でも、角ゴシ ックと丸ゴシックとを比較した場合、どちらが視覚障害者に読みやすいのか。そのような 研究は、見たことがありません。私が丸ゴシックを使っているのは、私の目で見た場合、 何となく優しい感じがする、というような理由からです。 そこで、これを調べることにしました。 【六つの字体】 「視覚障害論 A」の授業で受講生に、(1)HGS 創英角ゴシック、(2)MG ゴシック、(3)MS ゴシック、(4)HG 丸ゴシック、(5)MS 明朝、(6)HG 教科書体、の 6 種類の字体それぞ れについて、読みやすい字体か否かを調査しました。受講生が既に申告している文字の大 きさ(14p,18p,24p)で、74 文字からなる一文を読んでもらい、読みやすい・読める字 体には“○”を、読みにくい・読めない字体には“×”を記入してもらいました。 ちなみに、MS はマイクロソフト、HG はリコーが出している字体です。MG ゴシックは、 どこで作っているのかわからないのですが、システムのフォントフォルダーに入っており、 私が時々使うので入れました。 【調査結果】 回答者総数は、34 名です。14 ポイント使用者が 14 名、18 ポイント使用者が 11 名、24 ポイント使用者が 9 名です。 下に示した図は、6 種の字体それぞれについて、読みやすい・読めると回答した受講生の 割合です(縦軸の単位は%)。3 種の文字の大きさ毎に集計してあります。14 ポイント使用 者については水色で、18 ポイントは茶色、24 ポイントは緑色で示しています。 14 ポイント使用者(水色:14 名)では、MS ゴシック、及び HG 丸ゴシックが多くの学 生(共に 11 名:78.6%)から好まれています。明朝系の MS 明朝、HG 教科書体を好む学 生は半数、或いはそれ以下です。 -1- 18 ポイント使用者(茶色:11 名)では、上述の MS ゴシック、HG 丸ゴシックに加え、 MG ゴシック(9 名:81.8%)も好まれています。他方、明朝系は、14 ポイントに比べ、更に 低くなります。 24 ポイント使用者(緑色:9 名)では、MS ゴシック、MG ゴシックに加え、HGS 角ゴ シックを好む学生(7 名:78%)が増えます。他方、HG 丸ゴシックを好む割合は 18 ポイ ントより低下します。明朝系も同様です。 100.00 90.00 80.00 70.00 60.00 50.00 40.00 30.00 20.00 10.00 0.00 14p 18p 24p 使用する文字の大きさ別にみた視覚障害学生の好みの字体 【大きな文字では太さも重要】 さて、上の結果をどう読み解くかです。全体では 34 名とちょっとした数ですが、使用ポ イント毎に集計すると、各ポイント 10 名前後なので、あくまでも、考えられる、或いは推 測できる、という範囲内での話です。 第 1 に、使用する文字の大きさに関係なく、明朝系の文字を好む学生は多くはないよう です。一応、ホッとする結果です。ただし、皆無ということでもありません。 第 2 に、14 ポイントのような比較的小さな文字を使う学生は、MS ゴシックや HG 丸ゴ シックなど、あまり太くないゴシック系の文字を好みます。しかし、使用する文字が大き くなるにつれ、ゴシック系でも太い字体、MG ゴシックや HGS 創英角ゴシックへと好みの 字体が移っていきます。 これを視力との関係で言い換えると、比較的小さな文字を読める視力を有する視覚障害 学生は、文字の太さと無関係に読むことができます(或いは、晴眼者と同様に、太くない 字を読むことに慣れていると言うこともできるかと思います)。 しかし、大きな文字でないと読めない視力の(=低視力)視覚障害学生では、文字を明 確に把握するために、文字の大きさだけではなく、その太さも重要な要素だと考えられま す。つまり、細い線ではいくら文字が大きくても、認識することが難しいのです。これが、 -2- このような視力を有する視覚障害学生の文字認識の特徴のようです(現段階では、推測で きる、ということです) 。 【本学の教育理念との関係で】 この調査は、個人の状況を一人ずつ考えずに、数と割合だけで論じています。このこと によって、個別性を無視している、と考えられると困ります。本学の原則は、“学生毎に、 それぞれ最も適切な教育方法で”だと思います。“みんなと同じに”ではありません。 しかし、そうとばかり言っていられない状況もあります。授業の受講生が多い、学生の 状況がわからない、等々、個別に対応できない場合もあるのです。そんな時に必要な一つ の知識です。 :Russell-Minda, E., Jutai, J. W., Strong, J. G., Campbell, K. A., Gold, D., Pretty, L., & * Wilmot, L. (2007). The Legibility of Typefaces for Readers with Low Vision: A Research Review. Journal of Visual Impairment & Blindness, 101(7), 402-415. (2009/04/28) -3-
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