薬事申請における動物実験の改善に関する要望書 (1)医薬品について

2015年6月8日
厚生労働大臣 塩崎恭久 殿
厚生労働省医薬食品局長 神田裕二 殿
厚生労働省医薬食品局審査管理課長 森和彦 殿
特定非営利活動法人 地球生物会議( ALIVE )
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担当:藤沢 顕卯
薬事申請における動物実験の改善に関する要望書
(1)医薬品について
当会は、地球上に生息するすべての生物が尊重される社会を構築することを理念として、動
物、生命、環境に関する問題の実態調査および改善提言等を行っている非営利団体です。
このたび、医薬品の承認申請における動物実験の実態について調査したところ、動物福祉上
の問題点が多く見られました。医薬品開発においては多くの動物が犠牲になっており(新有効成
分含有医薬品の場合、一品目あたり平均数千匹)、特に致死がエンドポイントになる場合が多い
毒性試験においては、動物の苦痛が著しく大きく、この分野における動物福祉は現実的かつ重
要な問題です。
つきましては、薬事承認審査にあたり以下の事項に配慮していただくとともに、日頃から関連
業界や企業へ同様の指導を行っていただき、また、必要に応じて関連ガイドラインや通知を整備
していただきますようお願い申し上げます。
【要望事項】
単回投与毒性試験
① 単回投与毒性試験においては、構造関連物質を含む既存の情報の調査、in silico や in
vitro によるスクリーニングを含めた段階的試験戦略を使用した上で用量漸増試験もしくは
短期間反復投与の用量設定試験を活用することとし、できる限り独立した試験を避けるよう
指導を行うこと。試験が実施されている場合には、試験を必要と判断した理由を申請者へ
照会すること。(明確な理由が認められない場合は動物福祉の重要性について指導と注意
を行うこと。)
② 単回投与毒性試験を実施する際は、まず構造関連物質を含む既存の情報の調査、in
silico や in vitro によるスクリーニングを含めた段階的試験戦略を使用し、やむを得ず動物
を使用する場合は、動物福祉の観点から、開始投与用量の設定や段階的な投与に配慮す
るよう指導を行うこと。また、致死性を評価指標とせず、瀕死の動物は安楽死させるよう指
導を行うこと。
③ LD50による試験成績は受け入れないことを周知すること。
局所刺激性試験
④ 注射剤や経皮適用剤、点眼剤等(臨床経路が経皮や点眼の医薬品)における局所刺
激性試験については、構造関連物質を含む既存の情報の調査、in silico や in vitro による
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スクリーニングを含めた段階的試験戦略を使用した上で一般毒性試験の一部として評価す
ることとし、独立した試験を避けるよう指導を行うこと。試験が実施されている場合には、試
験を必要と判断した理由を申請者へ照会すること。(明確な理由が認められない場合は動
物福祉の重要性について指導と注意を行うこと。)
⑤ 皮膚刺激性試験/眼刺激性試験を実施する際は、まず構造関連物質を含む既存の情
報の調査、in silico や in vitro によるスクリーニングを含めた段階的試験戦略を使用し、や
むを得ず動物を使用する場合は、まず動物1例を用いて試験するよう指導を行うこと。
⑥ 眼刺激性試験において動物を用いた試験を実施する際は、局所麻酔剤と全身性鎮痛
剤を使用するよう指導を行うこと。
最高用量/全体の試験設計
⑦ 単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験、がん原性試験において
は、特別な理由がない限り1000mg/kg/日(がん原性試験においては1500mg/kg/日)超
の投与を行わないよう指導を行うこと。当該用量を超えた投与が行われている場合は、その
用量を必要と判断した理由を申請者へ照会すること。(明確な理由が認められない場合は
動物福祉の重要性について指導と注意を行うこと。)
⑧ 反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験、がん原性試験等においては、最高用量は死
亡や重度の苦痛を引き起こさない用量とするよう指導を行うこと。
⑨ 全体の試験設計において、単回投与毒性試験や反復投与毒性試験、薬理試験等で得
られた結果を他の試験の用量設定等に十分活用するとともに、試験の順番を適切に組み
立てる等により、死亡や瀕死状態となる動物が最小となるように工夫・配慮するよう指導を
行うこと。
代替法使用の優先
⑩ ICH や OECD で認められた代替法がある場合、特に光毒性試験、皮膚感作性試験にお
いては代替法(3T3 NRU 法、ROS アッセイ法、LLNA 法等)を最優先で使用するよう指導を
行うこと。代替法が使用されていない場合は、代替法を使用しなかった判断理由を申請者
へ照会すること。(明確な理由が認められない場合は動物福祉の重要性について指導と注
意を行うこと。)
Reduction/Refinement に資する試験法の促進
⑪ 3Rsの Reduction/Refinement に資する試験法、特に使用動物数の多いTK(トキシコキ
ネティクス)試験におけるマイクロサンプリング法、投与期間の長いがん原性試験における
短・中期がん原性試験等の利用を促すこと。
【背景説明(現状の問題点)】
平成25年度に承認された新有効成分含有医薬品39件の承認申請資料を分析した結果より。
(うち1件は非臨床試験を実施せず。1件は他の1件と非臨床試験の結果を共有。)
(試験時期は明らかにされていなため、古いものが多数含まれている可能性がある。)
(「件」は承認毎の単位を指す。)
●単回投与毒性試験が独立して行われている。 ・・・ 関連要望事項①
2010年のICH M3(R2)ガイダンスでは、「用量漸増試験もしくは短期間反復投与の用量設定
試験から急性毒性に関する情報が得られる場合には、別途に単回投与試験を実施することは
推奨されない」とされていますが、30件で単回投与毒性試験が独立して行われていました。
●単回投与毒性試験で段階的試験戦略が使われていない。 ・・・ 関連要望事項②
OECDガイドライン(TG420/423/425)では、「試験の実施前に被験物質に関する入手可能な
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すべての情報を検討する。その中には物質の特定と化学構造、物理化学的性質、その物質に
関する他のすべてのin vitroおよびin vivo毒性試験結果、構造関連物質の毒性データ、および
予想される物質の使用法が含まれる。」とされていますが、in vitro試験が行われたのは単回投
与毒性試験が独立して行われた30件中0件で、in silicoでの試験が行われたとの記載はありま
せんでした。
※単回投与毒性試験の初回投与量設定のためのin vitro細胞毒性試験としてOECDガイダンス
文書No.129が採択されている。
●単回投与毒性試験で段階的な投与が行われていない(?) ・・・ 関連要望事項②
OECDガイドライン(TG420/423/425)では、試験する物質についての情報がない場合には、
動物福祉の観点から、開始投与用量を最高用量とすることは避け、試験結果によって用量を上
げ下げしながら段階的に試験を行うことになっています。しかし、申請資料の中では、これらに対
する配慮が記載されたものはありませんでした。
●単回投与毒性試験で瀕死動物を安楽死させずに致死させている。 ・・・ 関連要望事項②
OECDガイドライン(TG420/423/425)では、「瀕死動物や、明らかに痛がったり、強い持続的
な苦痛の徴候を示したりしている動物は安楽死させ、試験結果の解釈ではこれらを死亡動物と
同じものとして扱う。」とされていますが、瀕死状態がみられた15件中、少なくとも5件では瀕死状
態を経て安楽死させずに致死させていました。
※瀕死の定義はOECDガイドラインの定義(「この状態を示す徴候としては、痙攣、側臥位、横臥、
振戦などが挙げられる」)によった。
●単回投与毒性試験でLD50を求めている。 ・・・ 関連要望事項③
「医薬品毒性試験法ガイドライン」では、単回投与毒性試験は概略の致死量を求めれば足り
ることになっていますが、LD50値を求めているものが1件ありました。(高用量で死亡が多数発生
し、安楽死の記載はみられなかった。)
●注射剤や貼付剤において、独立した局所刺激性試験が行われている。
・・・ 関連要望事項④
ICH M3(R2)ガイダンスでは、「局所刺激性は、一般毒性試験の一部として、予定臨床適用経
路により評価することが望ましく、独立した試験での評価は推奨されない」とされていますが、注
射剤の17件中8件、貼付剤の1件中1件で独立した局所刺激性試験が行われていました。
●皮膚刺激性試験、眼刺激性試験で段階的試験戦略が使われていない。 ・・・ 関連要望事
項⑤
OECDの皮膚刺激性試験及び眼刺激性試験のガイドラインでは、「すべての利用可能なデー
タが評価されるまで、in vivo 試験は実施されるべきでない。そのようなデータは・・・構造的に関
連する一つ以上の物質またはそのような物質の混合物の腐食性/刺激性の証拠、・・・in vitro
またはex vivo 試験からの結果を含む。」(TG404/405)とされていますが、in vitro試験が行わ
れたのは皮膚刺激性試験が行われた8件中2件、眼刺激性試験が行われた7件中4件(うちそ
れぞれ1件、2件は動物実験と併用)で、in silicoでの試験が行われたとの記載はありませんでし
た。
また、OECDガイドライン(TG404/405)では、「in vivo 試験は、まず動物1 例を用いて実施する
ことが強く推奨される。」とされていますが、最初に1匹のウサギを使って毒性を評価したとの記
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載は、皮膚刺激性試験で動物実験が行われた7件、眼刺激性試験で動物実験が行われた5件
のうち、それぞれ1件だけでした。
※皮膚刺激性/腐食性試験のin vitro代替法としてTG430/431/435/439、眼刺激性/腐食
性試験のin vitro代替法としてTG437/438/460が採択されている。
●眼刺激性試験で麻酔剤や鎮痛剤が使われていない。 ・・・ 関連要望事項⑥
OECDガイドライン(TG405)では、麻酔剤の使用について以前から言及され、最新のガイドライ
ン(2012)では、「局所麻酔剤や全身性鎮痛剤は常に使われるべきである」とされていますが、眼
刺激性試験で動物実験が行われた5件のうち、麻酔剤や鎮痛剤の使用に言及したものは1件も
ありませんでした。(なお、5件のうち2件は眼に対する重度もしくは著しい刺激性がみられた。)
●単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験で1000mg/kg超、がん原性
試験で1500mg/kg超が投与されている。 ・・・ 関連要望事項⑦
ICH M3(R2)ガイダンス、ICH S5ガイドライン、ICH S1C(R2)ガイドラインでは、それぞれ「急性、
亜急性及び慢性毒性試験での投与量の限界量は、・・・げっ歯類及び非げっ歯類ともに1000
mg/kg/ 日 が 適 切 で あ る と 考 え ら れ る 。 」 「 1 g/kg/day が 限 界 量 と し て 十 分 で あ る 。 」
「1500mg/kg/day が限界量として適切である。」とされていますが、30件中16件の単回投与
毒 性 試 験 、 36 件 中 5 件 の 反 復 投 与 毒 性 試 験 、 31 件 中 3 件 の 生 殖 発 生 毒 性 試 験 で
1000mg/kg、18件中2件のがん原性試験で1500mg/kgを超える投与が行われていました。
●単回投与毒性試験以外(反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験、がん原性試験等)で死
亡や重度の苦痛を引き起こしている。 ・・・ 関連要望事項⑧
OECDの反復投与毒性試験のガイドライン(TG407/408/409等)、ICH S5ガイドライン、ICH
S1C(R2)ガイドラインではそれぞれ、「最高用量は毒性を生じさせるが死亡や重度の苦痛を引き
起こさない用量とする。」「高用量群では母動物に何らかのごく軽度の毒性が発現することが望
ましい。」「高用量すなわちMTDとは,がん原性試験において軽度な毒性作用が現れることの予
想される用量である。」とされていますが、死亡や重度の苦痛が多くみられ、少なくとも36件中27
件(75%)の反復投与毒性試験、31件中17件(55%)の生殖発生毒性試験で投与に起因すると
思われる死亡(瀕死による殺処分含む)がみられました。
●全体の試験設計が適切でない(?) ・・・ 関連要望事項⑨
ICH S5ガイドラインで「高用量は,入手可能なあらゆる試験のデータ(薬理,急性及び慢性毒
性,及びキネティクス試験)を参考にして設定しなければならない。」とされているように、単回投
与毒性試験や反復投与毒性試験、薬理試験等で得られた結果を他の試験の用量設定等に活
用すべきと思われますが、単回投与毒性試験や反復投与毒性試験で致死量と判明している投
与量を生殖発生毒性試験やがん原性試験で投与している例がみられました。
●光毒性試験、皮膚感作性試験で代替法が使われていない。 ・・・ 関連要望事項⑩
光毒性試験、皮膚感作性試験ではそれぞれin vitro、in vivoの代替法がOECDのガイドライン
として採択(TG432:in vitro 3T3 NRU法、TG429/442:LLNA法=マウス使用)され、またICH
S10ガイドラインではROSアッセイ法の利用可能性についても示されていますが、光毒性試験が
行われた12件、皮膚感作性試験が行われた7件のうち、代替法が使われたのはそれぞれ7件
(3T3 NRU法)、3件(LLNA法)でした。
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●TK試験でマイクロサンプリング法が使われていない(?) ・・・ 関連要望事項⑪
毒性試験の中に組み込まれて薬物動態パラメータを測定するTK(トキシコキネティクス)試験
においては、採血可能量が少ない小動物(マウスやラット)から何度も採血するため、主試験群と
は別にサテライト群(予備群)が設置されることがあり、試験によっては、主試験と同等もしくはそ
れ以上の数の動物が使用されています。欧米では採血量が少なくて済み、サテライト群が省略
もしくは使用数を削減できるマイクロサンプリング法が使われていますが、日本では普及していな
いようです。申請資料中には特別の記載はみられませんでした。
●がん原性試験で短期がん原性試験が使われていない。 ・・・ 関連要望事項⑪
がん原性試験は他の試験に比べて投与期間が著しく長く、通常、2 種のげっ歯類で 2 年間
試験が行われています。ICH S1B ガイドラインでは 2 種のうち 1 種は、短・中期の試験(遺伝子
組換えマウス等を使用)で評価可能であるとされており、米国では「2013 年には FDA へのマウ
ス発がん性試験申請数の 50%が長期試験法から短期試験法に置き換わった。」(日本動物実
験代替法学会第 27 回大会プログラム/講演要旨集より)とのことですが、日本での使用は限定
的であるようです。短・中期がん原性試験が行われたのは、がん原性試験が行われた 18 件中
1 件(Tg.rasH2 マウス使用短期がん原性試験)だけでした。
以上
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