- 1 - 東京、平4不40、平7.2.21 命 令 書 申立人 X1 同 X2 同 X3 同 X4

東 京 、 平 4 不 40、 平 7.2.21
命
申立人
X1
同
X2
同
X3
同
X4
同
X5
同
X6
同
X7
同
X8
同
X9
被申立人
令
書
大日本印刷株式会社
主
文
理
由
本件申立てを棄却する。
第1
1
認定した事実
当事者等
(1) 被 申 立 人
被 申 立 人 大 日 本 印 刷 株 式 会 社 ( 以 下 「 会 社 」 と い う 。) は 、 肩 書 地 に
本 社 を 、北 海 道 、仙 台 、名 古 屋 、大 阪 等 に 事 業 部 ・営 業 所・ 工 場 等 を 置
き 、出 版 印 刷 、商 業 印 刷 、ミ ク ロ 製 品・建 材 製 造 等 を 業 と す る 資 本 金 1,046
億 6,405万 円 の 株 式 会 社 で 、 従 業 員 は 約 13,000名 で あ る 。
(2) 申 立 人
①
申 立 人 X 1 ( 以 下 「 X 1 」 と い う 。) は 、 昭 和 49年 大 学 卒 定 期 採 用
者 と し て 会 社 に 入 社 し 、55年 12月 市 谷 事 業 部 第 四 工 場 製 本 第 二 課( そ
の 後 組 織 改 正 に よ り 製 本 第 一 課 と な っ た 。) の ス タ ッ フ の 仕 事 か ら 同
課 の 機 付 の 仕 事( 生 産 技 術 職 )へ 異 動 を 命 じ ら れ た 。同 人 は 、そ の 後
平 成 4 年 7 月 9 日 、後 記 理 由 で 解 雇( 普 通 解 雇 )さ れ た が 、解 雇 当 時 、
会 社 の市 谷 事 業 部 市 谷 製 造 本 部 市 谷 第 四 工 場 製 本 第 一 課 に所 属 して い
た。
②
同 X 2 は 、昭 和 39年 中 途 採 用 者 と し て 会 社 に 入 社 し 、そ の 後 平 成 4
年 7 月 9 日 、後 記 理 由 で 解 雇( 普 通 解 雇 )さ れ た が 、解 雇 当 時 、会 社
の市谷事業部市谷製造本部市谷第二工場製版第四課に所属していた。
な お 、同 人 は 、42年 当 時 、後 記 大 日 本 印 刷 労 働 組 合 の 職 場 委 員 に 、43
年当時、同組合の中央委員にそれぞれ選出されたことがある。
- 1 -
③
同 X 3 は 、昭 和 41年 高 卒 採 用 者 と し て 会 社 に 入 社 し 、そ の 後 平 成 4
年 7 月 9 日 、後 記 理 由 で 解 雇( 普 通 解 雇 )さ れ た が 、解 雇 当 時 、会 社
の市谷事業部市谷製造本部第五工場印刷第一課に所属していた。
④
同 X 4 は 、昭 和 26年 会 社 に 入 社 し 、現 在 、会 社 の 市 谷 事 業 部 市 谷 製
造 本 部 市 谷 第 四 工 場 製 本 第 二 課 に 所 属 し て い る 。な お 、同 人 は 、34年
当 時 、後 記 大 日 本 印 刷 労 働 組 合 の 職 場 委 員 に 、35年 当 時 、同 組 合 の 中
央委員にそれぞれ選出されたことがある。
⑤
同 X 5 は 、昭 和 24年 申 立 外 二 葉 株 式 会 社 に 入 社 し た 。そ し て 、同 社
が 二 葉 印 刷 株 式 会 社 と な っ た の ち 、本 件 会 社 に 吸 収 合 併 さ れ た こ と か
ら 、同 人 は 、47年 会 社 の 従 業 員 と な り 、現 在 、会 社 の 市 谷 事 業 部 市 谷
製造本部第五工場印刷第二課に所属している。
⑥
同 X 6 は 、昭 和 26年 申 立 外 二 葉 株 式 会 社 に 入 社 し た 。そ し て 、同 社
が 二 葉 印 刷 株 式 会 社 と な っ た の ち 、本 件 会 社 に 吸 収 合 併 さ れ た こ と か
ら 、同 人 は 、47年 会 社 の 従 業 員 と な り 、現 在 、会 社 の 商 印 事 業 部 商 印
製造本部赤羽工場平版印刷第一課に所属している。
⑦
同 X 7 は 、昭 和 41年 高 卒 採 用 者 と し て 会 社 に 入 社 し 、現 在 、会 社 の
市谷事業部市谷製造本部市谷第一工場活版印刷課に所属している。
⑧
同 X 8 は 、昭 和 44年 中 途 採 用 者 と し て 会 社 に 入 社 し 、現 在 、会 社 の
商印事業部商印製造本部榎町工場製品加工第二課に所属している。
⑨
同 X 9 は 、 昭 和 39年 申 立 外 二 葉 印 刷 株 式 会 社 に 入 社 し た 。 そ し て 、
同 社 が 本 件 会 社 に 吸 収 合 併 さ れ た こ と か ら 、同 人 は 、47年 会 社 の 従 業
員 と な り 、現 在 、会 社 の 商 印 事 業 部 商 印 製 造 本 部 赤 羽 工 場 平 版 印 刷 第
一課に所属している。
(3) な お 、 会 社 に は 、 従 業 員 約 11,000名 で 組 織 す る 申 立 外 大 日 本 印 刷 労 働
組 合 ( 以 下 「 大 日 本 印 刷 労 組 」 ま た は 単 に 「 組 合 」 と い う 。 昭 和 20年 結
成 、旧 名 称「 大 日 本 印 刷 従 業 員 組 合 」。な お 、組 合 は 28年 に 全 国 印 刷 出 版
産 業 労 働 組 合 総 連 合 会 に 加 盟 し た が 、 そ の 後 脱 退 し た 。) が あ る 。
そして、前記申立人らのうちX1、X3、X2の3名は、本件解雇に
よ り 会 社 の 従 業 員 で な く な っ た た め 、大 日 本 印 刷 労 組 の 組 合 員 資 格 を 失
ったが、その余の申立人らは現在も同組合の組合員である。
2
組合における「少数派グループ」の存在
(1) 昭 和 28年 、申 立 外 X 10( 以 下「 X 10」と い う 。)が 組 合 の 副 執 行 委 員 長
に 就 任 し 、 同 人 は 44年 の 組 合 執 行 委 員 選 挙 で 落 選 す る ま で の 間 こ の 職 に
在 っ た 。 こ の 間 、 組 合 内 に X 10を 中 心 と す る 少 数 派 グ ル ー プ が 形 成 さ れ
た。
そ し て 41年 に は 少 数 派 グ ル ー プ の メ ン バー で あ る F ら 3名 の 懲 戒 解 雇
事件が発生し、Fの労働契約上の権利存在確認等請求訴訟が提起された
際 、原 告 F の 証 人 と し て 、後 記 X 1 ら 11名 に か か る 賃 金・昇 格 差 別 事 件
( 都 労 委 平 成 2 年( 不 )第 47号 事 件 。以 下「 X 1 ら 11名 賃 金・ 昇 格 差 別
事 件 」 と い う 。) の 申 立 人 の ひ と り で あ り 、 ま た 、 本 件 ビ ラ 配 布 行 為 に
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も 参 加 し た X 11( 但 し 、同 人 は 後 記 理 由 に よ り 本 件 ビ ラ 配 布 行 為 を 理 由
と す る 処 分 は さ れ な か っ た の で 、 本 件 の 申 立 人 と は な っ て い な い 。) が
出 廷 し た 。 ま た 、 X 10が 副 委 員 長 で あ っ た 当 時 の 43年 、 X 1 ら 11名 に か
か る 賃 金・昇 格 差 別 事 件 及 び 本 件 の 申 立 人 で あ る X 2 が 組 合 の 中 央 委 員
に 当 選 し た が 、本 件 審 問 の 全 趣 旨 に 照 ら し て 、同 人 は X 10を 支 持 す る 立
場 に あ っ た こ と が 窺 え る 。さ ら に 、46年 に は 、X 1 ら 11名 賃 金・ 昇 格 差
別事件及び本件の申立人であるX4が、組合役員への返り咲きを期する
X 10と と も に 組 合 の 執 行 委 員 選 挙 に 立 候 補 し た 。
そ の 後 、 後 記 の と お り X 10が 会 社 の C D C 事 業 部 ( C D C と は 、 ク リ
エ イ テ ィ ヴ デ ザ イ ン セ ン タ ー の 略 。) 中 部 支 局 に 配 転 を 命 ぜ ら れ た こ と
も あ っ て か 、昭 和 50年 代 に 入 っ て 以 降 、X 1 ら 11名 賃 金・昇 格 差 別 事 件
の救済申立てがなされるまでの時期においては、組合内少数派グループ
は 、 申 立 外 亡 X 12( 以 下 「 X 12」 と い う 。) な い し は X 4 を リ ー ダ ー と
して活動するようになったことが窺える。
(2) こ の 少 数 派 グ ル ー プ は 、一 貫 し た 特 定 の 名 称 を 名 乗 っ て い た わ け で は
なく、そのときどきに発生した問題や状況に応じて、あるいは「アピー
ル の 会 」と 称 し た 時 期 や 、
「職場のなかから大日本印刷争議団を支援する
会 」と 称 し た 時 期 が あ り 、最 近 で は 、
「人間らしく働ける大日本印刷グル
ープをつくる会」と称して活動している。
そして、少数派グループは、組合運営上の問題に関する同グループの
主 張 、あ る い は 同 グ ル ー プ と し て 掲 げ る 会 社 に 対 す る 要 求 や 会 社 の 労 務
管 理 の あ り 方 を 批 判 す る 記 事 等 を 掲 載 し た ビ ラ の 配 布 活 動 や 、本 件 会 社
も し く は 系 列 会 社 を 相 手 と し て 権 利 主 張 を 行 う 者 を 支 援 す る た め に「 ○
○さんを支援する会」と称する支援組織を結成したりして活動していた
ほか、その構成員は、組合各級機関役員の選挙にも積極的に立候補して
い た 。ち な み に 、本 件 審 査 手 続 き に お い て 、申 立 人 ら が 当 委 員 会 に 提 出
し た 60年 以 降 の 組 合 執 行 委 員 選 挙 ( 2 年 ご と に 実 施 。) 関 係 の 資 料 に よ
れ ば、本 件 申 立 人 ら を 含 む 少 数 派 グ ルー プ か ら、少 な く と も下 記 の 者 が 、
下記の年度にそれぞれ立候補したことが明らかである。なお、括弧内は
立候補した役職である。
60年
X 4( 執 行 委 員 長 )、X 7( 市 谷 常 任 執 行 委 員 )。他 に 、申 立 外
M ・ S ( 副 執 行 委 員 長 )、 同 X 11( 書 記 長 お よ び 横 浜 常 任 執 行 委
員 )。
62年
X 4( 執 行 委 員 長 )、X 7( 市 谷 常 任 執 行 委 員 )、X 5( 市 谷 第
五・久 喜 常 任 執 行 委 員 )、X 8( 榎 町・赤 羽 常 任 執 行 委 員 )。他 に 、
申 立 外 M ・ S ( 副 執 行 委 員 長 お よ び 王 子 執 行 委 員 )、 同 X 11( 書
記 長 )、 同 S ・ O ( 書 記 次 長 )。
元年
X 4( 執 行 委 員 長 )、X 1( 書 記 次 長 )、X 7( 市 谷 常 任 執 行 委
員 )。 他 に 、 申 立 外 M ・ S ( 副 執 行 委 員 長 )、 同 X 11( 書 記 長 )、
同 A ・ M ( 財 務 部 長 )。
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3年
X 7 ( 執 行 委 員 長 )、 X 1 ( 書 記 長 )、 X 9 ( 財 務 部 長 )、 X 2
( 市 谷 常 任 執 行 委 員 )。他 に 、申 立 外 M・S( 副 執 行 委 員 長 )。同
A ・ M ( 書 記 次 長 )。
ま た 、4 年 に は 、副 執 行 委 員 長 と 市 谷 常 任 執 行 委 員 の 各 補 欠 選 挙 が 行
われた。その際の少数派グループからの立候補者は以下のとおりであっ
た。
X 1 ( 副 執 行 委 員 長 )、 X 2 ( 市 谷 常 任 執 行 委 員 )。
なお、上記の場合、立候補者はいずれも当選しなかった。
3
少数派グループの構成員らと会社との間の過去における対立関係
(1) X 10異 動 問 題
会 社 は 、49年 6 月 、前 段 認 定 の よ う な 組 合 活 動 歴 を も ち 、会 社 の 職 制
上 、 当 時 係 長 職 で あ っ た X 10に 対 し 、 会 社 の C D C 事 業 部 か ら 、 同 部 の
中 部 支 局 に 配 転 を 命 じ た 。同 人 は 、不 本 意 な が ら こ の 配 転 に 応 じ て 単 身
赴任したが、会社に対し、上司から配転が内示された際、ローテーショ
ン人事であるから、赴任期間は一応3年と考えているので、3年をメド
に 行 っ て ほ し い と い わ れ た と 一 貫 し て 主 張 し て お り 、赴 任 し て 3 年 経 過
したころから、メーデー会場でその旨を記した同人名義のビラを配布し
て 支 援 を 求 め た こ と が あ る 一 方 、折 り に ふ れ て 会 社 に 東 京 へ の 復 帰 を 求
め 続 け 、 59年 3 月 に は 、 Y 1 社 長 に 直 訴 の 親 書 を 送 っ た こ と も あ っ た 。
しかし、会社は、上記のような約束は一切した覚えはないと否定してお
り 、結 局 、X 10は 、定 年 ま で C D C 事 業 部 中 部 支 局 で 勤 務 し た( こ の 間
52年 に 、 課 長 職 相 当 の 業 務 を 担 当 し 、 社 内 的 に は 管 理 職 と 位 置 づ け ら れ
て い る が 、他 方 、組 合 員 資 格 は 有 す る「 グ ル ー プ 長 」に 昇 進 し て い る 。)。
なお、この問題は争訟案件とはなっていない。
(2) N ・ K 遺 族 に 対 す る カ ン パ 活 動 事 件
①
52年 8 月 8 日 、会 社 の ビ ジ ネ ス フ ォ ー ラ ム 営 業 部 主 任 N・K が 、社
外で勤務中急死した。
会 社 は 、同 人 の 遺 族 に 対 し て 、規 定 の 金 員 を 支 払 っ た が 、一 方 、少
数 派 グ ル ー プ の 構 成 員 で あ る X 12は 、「 大 日 本 印 刷 ・ 急 性 死 さ れ た K
主任の遺族を励ます有志」代表の肩書きで、従業員にビラを配布し、
N ・ K 遺 族 へ の カ ン パ を 呼 び か け た 。 そ し て 、X 12の ほ か 、 少 な く と
も 同 じ 少 数 派 グ ル ー プ の X 2 、X 13ほ か 1 名 が 、会 社 構 内 で 募 金 活 動
を行った。
②
こ れ に 対 し 、会 社 は 、X 12と X 2 に つ い て は 、会 社 の 許 可 な く 会 社
構 内 で 募 金 活 動 を 行 っ た こ と を 理 由 に 譴 責 処 分 に 付 し 、X 13ほ か 1 名
に つ い て は 、上 記 理 由 に 加 え て 、就 業 時 間 中 に 募 金 活 動 を 行 っ た と し
て減給処分に付した。
なお、この問題は争訟案件とはなっていない。
(3) 「 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 ニ ュ ー ス 」 誤 報 事 件
①
少 数 派 グ ル ー プ の 構 成 員 の う ち 、X 12ら 一 部 の 者 は 、48年 か ら 、会
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社 の 門 前 に お い て 、「 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 ニ ュ ー ス 」 の 配 布 を
始 め た( こ の ビ ラ 配 布 は 、日 本 共 産 党 の 党 員 で あ る 者 の ほ か 、同 党 の
協 力 者 も 携 わ っ て い た 。)。
な お 、そ れ ま で も 、会 社 の 門 前 で 、日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 名 義
のビラが撒かれていたが、それは外部の者の手による配布であった。
②
53年 6 月 15日 、会 社 は 組 合 に 対 し 、同 年 の 夏 季 一 時 金 に つ い て 、第
一 次 回 答 に 6,000円 を 上 乗 せ し た 340,007円 の 最 終 回 答 を 行 っ た 。組 合
は 、 こ の 回 答 を 受 け て 、 翌 16日 昼 休 み に 職 場 討 議 を 行 う こ と と し た 。
③
そ の こ ろ 、日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 は 、本 件 会 社 と 競 業 関 係 に あ
るT社 の夏 季 一 時 金 妥 結 額 について誤 った情 報 を得 て、これを前 提 に、
本 件 会 社 の 夏 季 一 時 金 提 示 額 を 非 難 し た記 事 を掲 載 し た 同 支 部 名 義 の
「 支 部 ニ ュ ー ス 149号 」 を 作 成 し た 。
④
翌 16日 午 前 8 時 15分 ご ろ 、 上 記 「 支 部 ニ ュ ー ス 149号 」 を 出 勤 途 上
の 従 業 員 に 配 布 し て い た X 13、X 12、X 2 、M・M ら は 、組 合 の T 執
行 委 員 か ら 、T 社 の 妥 結 額 に 関 す る ビ ラ の 内 容 に 誤 り が あ る と 指 摘 さ
れたため、このビラの配布を中止した。
⑤
一 方 、会 社 に お い て は 、上 記 ビ ラ の 配 布 に よ り 、市 谷 事 業 部 の Y 2
総 務 課 長 ( の ち 本 社 の 労 務 部 長 に 就 任 。) の も と に 、 管 理 職 か ら 、 真
偽 の 問 い 合 わ せ や 、ま た 、従 業 員 の 間 に は 会 社 に お い て も 再 回 答 が 出
る の で は な い か と の 風 評 が 流 れ て い る と い う 電 話 が 殺 到 し た 。こ の た
め 、会 社 は 急 遽 、各 工 場 長 を 招 集 し て 、会 社 に お け る 一 時 金 交 渉 の 状
況を説明して、職場における混乱の解消を図った。
⑥
翌 17日 朝 、日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 は 、
「 支 部 ニ ュ ー ス 150号 」に 、
上 記 記 事 の 訂 正 と お 詫 び を 掲 載 し 、こ れ を 出 勤 途 上 の 従 業 員 に 配 布 し
た。
⑦
会 社 は 、 前 記 「 支 部 ニ ュ ー ス 149号 」 の 配 布 に 携 わ っ た X 13ら 4 名
に 対 し 、事 情 聴 取 を 行 っ た の ち 、同 年 7 月 31日 、X 12に 対 し 出 勤 停 止
10日 、X 2 に 対 し 出 勤 停 止 5 日 、M・M に 対 し 出 勤 停 止 3 日 の 処 分 を
発 令 し 、 次 い で 同 年 8 月 1 日 、 X 13に 対 し 解 雇( 普 通 解 雇 )を 発 令 し
た 。こ れ に 対 し X 13ら 4 名 は 同 年 11月 、東 京 地 方 裁 判 所( 以 下「 東 京
地 裁 」 と い う 。) に 、 雇 用 関 係 存 続 確 認 、 各 懲 戒 処 分 無 効 確 認 等 の 訴
えを提起した。
⑧
59年 12月 21日 、東 京 地 裁 は 、X 13に 対 す る 解 雇 を 無 効 と し 、そ の 余
の 3 名 に 対 す る 各 出 勤 停 止 処 分 は 、懲 戒 権 の 濫 用 に は 当 た ら ず 有 効 で
ある旨の判決言い渡しを行った。
⑨
上 記 判 決 言 い 渡 し 後 、訴 訟 の 舞 台 は 東 京 高 等 裁 判 所( 以 下「 東 京 高
裁 」 と い う 。) に 移 っ た 。
し か し 、そ の 後 和 解 の 気 運 が 醸 成 さ れ 、後 記「 向 上 意 欲 の な い 者 昇
給 カ ッ ト 」事 件 と の 一 括 解 決 が 試 み ら れ る こ と と な り 、63年 4 月 、会
社 はX13に対 する解 雇 を撤 回 し、同 人 は1年 後 に退 職 する旨 の条 項 や、
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解 決 金 の 支 払 い 条 項 を 含 む 和 解 が 成 立 し た 。な お 、こ の 和 解 に 際 し て
は 、当 時 の 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 会 議 」が 会 社 と の 折 衝 に あ た
った。
(4) X 11配 転 事 件
①
53年 8 月 、会 社 は 、品 川 倉 庫 を 売 却 し た 。そ し て 同 倉 庫 に 勤 務 し て
いたX11( 包 装 第 一 事 業 部 横 浜 工 場 製 品 発 送 課 発 送 係 所 属 。以 下「 X11」
と い う 。) を 新 し い 職 場 が 決 ま る ま で の 間 休 職 と し た 。
②
同 年 10月 27日 、会 社 、X 11に 対 し 、中 国 事 業 部 業 務 課 東 雲 倉 庫 へ の
配 転 を 内 示 し た 。こ れ に 対 し X 11は 、共 働 き を し て い る こ と か ら こ の
配転には応じられないとの態度を示した。
③
同 年 11月 2 日 、 会 社 は 、X 11に 対 し 、 上 記 配 転 の 発 令 を 行 っ た 。こ
れ に 対 し X 11は 、 組 合 に 苦 情 処 理 の 申 立 て を 行 っ た 。 こ れ を 受 け て 、
労働協約に基づき労使代表で構成する苦情処理委員会が開催された。
同 委 員 会 は 、X 11の 苦 情 申 立 て は 理 由 が な い と の 結 論 を 下 し た が 、そ
の 際 、会 社 に 対 す る 要 望 事 項 と し て 、配 転 先 で の 社 宅 家 賃 の 本 人 負 担
額 を 5,000円 に 軽 減 す る こ と 等 3 項 目 に ま と め 、 こ れ を 会 社 に 通 知 し
た。
会 社 は 、苦 情 処 理 委 員 会 の 上 記 要 望 事 項 を 受 け 入 れ る 旨 X 11に 告 知
する と とも に、早 急 に 配 転 先 に 赴 任 す るよ う 説 得 した 。しか し なが ら、
X 11は 、上 記 要 望 事 項 に 基 づ く 会 社 の 具 体 的 考 え に 不 満 を 示 し て 納 得
するまでにはいたらなかった。
④
そ の 後 同 年 12月 6 日 、会 社 は 、X 11に 対 し 、業 務 命 令 を 拒 否 し た こ
と を 理 由 に 懲 戒 解 雇 を 発 令 し た 。X 11は こ れ を 不 服 と し て 、再 度 、組
合 に 苦 情 処 理 の 申 立 て を 行 っ た 。こ れ を 受 け て 開 か れ た 苦 情 処 理 委 員
会 で は 、X 11は 必 ず し も 配 転 に 応 じ な い と い う こ と で は な い と 判 断 さ
れ る の で 、会 社 は 、懲 戒 解 雇 を 撤 回 し 、改 め て 同 人 と 話 し 合 い を も つ
よう求めるとの結論に達した。
そ こ で 、会 社 は 、苦 情 処 理 委 員 会 の 結 論 を 受 け 入 れ て 、X 11に 対 し 、
54年 1 月 8 日 ま で 赴 任 を 猶 予 す る こ と と し 、こ の 間 説 得 を 重 ね る こ と
とした。
⑤
53年 12月 18日 、会 社 の Y 3 横 浜 工 場 長 は 、X 11に 対 し 、同 人 の 赴 任
に 伴 う 会 社 と し て の 措 置 内 容 を 説 明 の う え 、口 頭 で 54年 1 月 8 日 ま で
に 配 転 先 に 赴 任 す る よ う 通 告 し 、さ ら に 同 日 、同 人 に 対 し 内 容 証 明 郵
便で、この口頭通告と同一内容の通告を行った。
⑥
X 11は 、54年 1 月 初 旬 、東 京 地 裁 に 、上 記 53年 12月 18日 付 配 転 命 令
の無効確認を求める仮処分を申請した。
⑦
上 記 仮 処 分 申 請 事 件 第 1 回 審 尋 に お い て 、東 京 地 裁 は 、和 解 を 勧 告
した。
そ の 後 同 年 3 月 22日 、同 地 裁 に お い て 、ア
X 11の 配 転 期 間 は 2 年
間 とし、53年 11月 2日 から起 算 す る( 赴 任 日 は54年 4 月 3日 とする 。)、
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イ
会 社 は 、上 記 期 間 終 了 後 は 、X 11の 事 情・意 向 を 聴 取 の う え 、東
京 お よ び そ の 周 辺 の 事 業 所 に 配 置 す る 、ウ
会 社 は X 11に 解 決 金 を 支
払うとの内容の和解が成立した。
⑧
上 記 和 解 の 成 立 に よ り 、 X 11は 広 島 に 赴 任 し た 。
そ し て 、 X 11は 、 配 転 期 間 終 了 後 、 新 た な 職 場 で 就 労 し て い る が 、
こ の 新 た な 職 場 配 置 に つ い て 、同 人 は そ の 後 も 、会 社 の 一 方 的 措 置 で
あるとして異論を唱えている。
(5) 「 向 上 意 欲 の な い 者 昇 給 カ ッ ト 」 事 件
①
会 社 は 、60年 の 賃 金 改 定 の 際 、組 合 に 対 し 、低 成 長 経 済 政 策 と 総 需
要 の 停 滞 の も と で 、会 社 の 業 績 も 低 下 し て い る と こ ろ か ら 、全 社 一 丸
と な っ て 業 績 の 向 上 を 目 指 し て 、改 め て 意 欲 的 に 業 務 に 取 り 組 む 必 要
が あ る と の 考 え 方 を 示 し た 。そ し て 、向 上 意 欲 を も っ て い る 従 業 員 と
そうでない従 業 員 との間 で、昇 給 条 件 にあまり差 がないというのでは、
職場の活性化にマイナスになるとして、現行本給昇給制度を変更し、
「 本 給 」 と 「 職 能 給 」 か ら な る 「 基 本 給 」 の う ち 、「 職 能 給 」 の 昇 給
に つ き 、「 同 一 加 給 ラ ン ク 」 な い し 「 同 一 等 級 」 に 、 一 定 年 数 以 上 滞
留 し 、「 向 上 意 欲 が な い と 判 断 さ れ る 者 」 に つ い て は 、「 昇 給 表 」 に よ
る 昇 給 額 の 40パ ー セ ン ト を カ ッ ト し 、60パ ー セ ン ト 相 当 額 の み 昇 給 さ
せることとしたい旨提案した。
こ の 提 案 に 対 し 、組 合 は 、当 初 、反 対 し て い た が 、最 終 的 に は 、60
年 については、昇 給 額 のカット率 を20パー セントに縮 減 することとし、
61年 か ら は 会 社 提 案 ど お り の カ ッ ト 率 と す る こ と で 妥 結 す る に い た っ
た。
②
こ の 制 度 の 導 入 に よ り 、60年 に 、会 社 か ら「 向 上 意 欲 が な い と 判 断
さ れ る 者 」に 該 当 す る と さ れ た 従 業 員 は 合 計 491名 で あ っ た 。そ し て 、
こ の な か に は 、本 件 申 立 人 の う ち X 1 、X 2 、X 9 、X 7 、X 4 、X 5
の6名が含まれていた。
③
同 年 11月 14日 、 X 1 ら 上 記 6 名 の ほ か 3 名 の 計 9 名 が 原 告 と な り 、
東 京 地 裁 に 、労 働 契 約 上 の 賃 金 請 求 権 を 根 拠 と し て 、昇 給 カ ッ ト 分 の
賃金支払い等を求める訴えを提起した。
④
そ の 後 61年 11月 、会 社 は 、職 能 等 級 制 度 の 全 面 的 改 訂 を 行 い 、 こ れ
に よ っ て 、前 記 の よ う な「 向 上 意 欲 」の な い 者 に 対 す る 昇 給 カ ッ ト と
いう措 置 は 必 要 で なく なった とし て、62年 に は、こ の制 度 を廃 止 し た 。
そ し て 、こ れ を 契 機 と し て 和 解 の 気 運 が 醸 成 さ れ 、前 段 認 定 の と お
り「 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 ニ ュ ー ス 」誤 報 事 件 と の 一 括 解 決 が 試
み ら れ 、 63年 4 月 、 和 解 が 成 立 し た 。
(6) X 12に か か る 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件
①
少 数 派 グ ル ー プ の 一 員 で あ る X 12は 、 63年 11月 、 当 委 員 会 に 対 し 、
会 社 は長 年 月 にわたり同 人 に対 し賃 金・昇 格 差 別 を行 っているとして、
単 独 で そ の 救 済 を 申 立 て た( 都 労 委 63不 79号 事 件 。以 下 、便 宜「 X 12
- 7 -
事 件 」 と い う 。)。
②
し か し 、そ の 後 、 X 12は 、 審 査 途 中 の 4 年 1 月 25日 死 亡 し た 。 こ の
た め 、X 12事 件 に つ い て 、同 人 の 遺 族 ら 関 係 者 か ら「 申 立 て の 承 継 の
申し出」がなされた。当委員会はこの調査手続きをすすめていたが、
一 方 、こ れ と 並 行 し て 、会 社 の 代 理 人 と 申 立 て の 承 継 申 し 出 を 行 っ た
X 12の 関 係 者 ら の 代 理 人 と の 間 で 、上 記 事 件 の 処 理 方 に つ い て 話 し 合
い が 重 ね ら れ 、そ の 結 果 、約 定 書 が 締 結 さ れ る に い た っ た 。そ こ で 当
委 員 会 は 、こ の 事 実 を 確 認 の う え 、4 年 7 月 17日 、X 12事 件 を 終 結 さ
せた。
(7) 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」 誤 報 事 件
①
2 年 11月 1 日 、 同 月 2 日 、 同 月 5 日 の 3 日 に わ た っ て 、X 7 、 X 1
ら 少 数 派 グ ル ー プ の 10余 名 は 、 会 社 門 前 に お い て 、「 大 日 本 印 刷 争 議
団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」 を 従 業 員 に 配 布 し た 。 こ の ビ ラ に は 、「 学 歴 格
差は、このままでいいのでしょうか?基準内賃金(残業なしの賃金)
を 比 較 し て み て く だ さ い 。 大 卒 の 場 合 ( 22才 ); 新 入 社 員 に フ レ ッ ク
ス 手 当 が つ く と 226,400円
高 卒 の 場 合;勤 続 12年( 配 偶 者・子 1 人 )
で 220,400円 」 と の 見 出 し の も と に 、 会 社 の 賃 金 政 策 を 批 判 す る 記 事
が掲載されていた。
②
こ れ に 対 し て 会 社 は 、煽 動 的 な 見 出 し で 、条 件 の 異 な る 労 働 者 の 賃
金 を 機 械 的 に 比 較 し 、会 社 を 批 判 す る こ と が 不 適 切 で あ る う え 、大 卒
初 任 給 の基 準 内 賃 金 は174,000円 であるにもかかわらず、これを226,400
円 と 事 実 に 相 違 す る 記 載 を 行 っ た こ と は 、結 果 的 に 従 業 員 に 動 揺 を 来
たす も ので あり 、看 過 する わ けに はい か ない とし て、翌 3年 2月 6 日 、
上 記 ビ ラの 配 布 に 携 わ ったと 目 さ れる少 数 派 グルー プの 12名 か ら事 情
聴取を行った。
③
同 月 20日 、 会 社 は 、 事 情 聴 取 を 行 っ た 者 12名 の う ち 、 X 7 、 X 1 、
X 4 、X 3 の 4 名 に 対 し て は 、ビ ラ の 作 成 と 配 布 に 関 与 し 、さ ら に 事
情 聴 取 にあたって反 省 の色 を示 さなかったとの理 由 で譴 責 処 分 に付 し、
ま た 、X 2 に 対 し て は 、ビ ラ の 配 布 に 関 与 し 、事 情 聴 取 に あ た っ て 反
省の色を示さなかったとの理由で「厳重注意」を行った(ちなみに、
「 厳 重 注 意 」は 、就 業 規 則 上 の 懲 戒 処 分 で は な い 。)。な お 、上 記 5 名
以 外 の 者 は 、い ず れ も ビ ラ の 配 布 に 関 与 し た が 、事 情 聴 取 に あ た っ て
反省の色を示したとして不問に付された。
なお、この問題は、争訟案件とはなっていない。
4
本 件 ビ ラ 配 布 に 先 立 つ X 1 ら 11名 の 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 の 申 立 て 等
(1) 平 成 2 年 8 月 1 日 、本 件 申 立 人 X 1 ら 9 名 と 申 立 外 X 14( 以 下「 X 14」
と い う 。)お よ び X 11の 計 11名 は 、本 件 申 立 て に 先 立 っ て 、本 件 会 社 を 相
手方として、当委員会に対し不当労働行為救済申立てを行った(前記の
と お り 、 こ の 事 件 を 「 X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 」 と い う 。)。
な お 、X 1 ら 11名 は 、本 件 申 立 て に 先 立 ち 、組 合 執 行 部 に 対 し 、会 社
- 8 -
は同人らに賃金・昇格差別を行っているとして、その是正方に取り組む
よう求めたが、意見の一致をみることができなかった。
X 1 ら 11名 の 救 済 申 立 て の 要 旨 は 以 下 の と お り で あ る 。
すなわち、①
X 1 ら 申 立 人 11名 は 、 か ね て か ら 組 合 を 労 使 協 調 的 で
あるとして批判し、労働者の権利を守り、組合の民主化を実現すること
を 標 榜 し て 少 数 派 グ ル ー プ を 形 成 し て お り 、組 合 が 採 り 上 げ な か っ た 問
題 の解 決 に自 発 的 に取 組 み、また積 極 的 に組 合 役 員 選 挙 に立 候 補 したり、
あるいは組合の執行部に対する申し入れ活動等を行い、さらに申立人ら
11名 ら と 人 的 に か な り の 部 分 で 重 複 す る 「 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 」
の名義で、労働者の要求や権利の擁護、組合の民主化を求める記事等を
掲載した「日本共産党大日本印刷支部ニュース」を会社の門前で配布す
る 活 動 等 を 行 っ て き た が 、こ れ を 嫌 悪 す る 会 社 は 、上 記 申 立 人 ら を 、会
社 の 職 能 等 級 格 付 上 、長 期 間 下 位 の 等 級 に 据 え 置 き 続 け 、あ る い は 上 位
の等級への昇級を引き延ばし続けてきた。このため、申立人らとこれら
各 申 立 人 ら の 同 期 入 社 者 と を 比 較 す る と 、職 能 等 級 格 付 に お い て も 、基
本 給 に お い て も 著 し い 格 差 を 生 じ て い る 。②
ま た X 1 は 、昭 和 55年 12
月、特段の理由もなく、会社の市谷事業部第四工場製本第二課(現在の
製本第一課)の「課付き」の業務から「機付き」の業務に配転された。
上 記 ①・② の 会 社 の 行 為 は 、い ず れ も 申 立 人 ら の 正 当 な 組 合 活 動 を 理 由
とする不当労働行為に該当するものであるというにある。
そ し て 、X 1 ら は 、①
昭 和 50年 以 降( 但 し 、X 1 に つ い て は 58年 以
降 。) 平 成 2 年 に い た る ま で の 各 年 度 の 基 本 給 を 申 立 人 の 求 め る 基 本 給
に 是 正 し 、既 に 支 払 わ れ た 基 本 給 と の 差 額 に 年 6 パ ー セ ン ト の 利 息 を 付
し て 支 払 う こ と 、②
平 成 2 年 3 月 21日 に お け る 各 申 立 人 の 職 能 等 級 格
付 を 、申 立 人 の 求 め る 職 能 等 級 格 付 に 是 正 す る こ と 、③
昭 和 50年 以 降
( 但 し 、 X 1 に つ い て は 58年 以 降 。) 平 成 2 年 に い た る ま で の 夏 期 お よ
び 冬 期 一 時 金 な ら び に 時 間 外 手 当 を 、申 立 人 の 求 め る 基 本 給 に 基 づ き 算
出 し 、既 に 支 払 わ れ た 金 額 と の 差 額 を 支 払 う こ と 、④
X1を会社の市
谷 事 業 部 第 四 工 場 の 管 理 部 門( 技 術 研 究 職 )に 配 転 す る こ と 、⑤
陳謝
文の掲示および交付を求めた。
(2) こ れ に 対 し て 、 会 社 は 、 X 1 ら 11名 の 申 立 て の う ち 、 行 為 の と き か ら
1 年 を 経 過 し た 事 項 に つ い て は 、 労 働 組 合 法 第 27条 第 2 項 、 労 働 委 員 会
規 則 第 34条 第 1 項 第 3 号 に よ り 、 却 下 さ れ る べ き で あ り 、 そ の 余 は す べ
て棄却を求めると答弁した。
(3) 当 委 員 会 は 、 上 記 X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 に つ い て 、 調 査 手 続
き を 経 て 、 平 成 3 年 10月 17日 審 問 手 続 き を 開 始 し 、 4 年 6 月 15日 ま で の
間6回証人調べを実施した。
そ し て 、 同 年 7 月 16日 が 同 事 件 の 第 7 回 審 問 の 指 定 期 日 で あ っ た が 、
その直前の同月9日、後記のとおり、本件解雇・懲戒処分が発令され、
こ れ を 不 服 と す る 本 件 申 立 人 ら が 、上 記 第 7 回 審 問 期 日 の 前 日 に 、当 委
- 9 -
員会に救済申立てを行い、申立人側は、第7回審問当日、当委員会に、
本 件 解 雇・懲 戒 処 分 事 件 の 審 査 の 優 先 方 を 要 望 し た 。そ こ で 、当 委 員 会
は 、 こ の 要 望 を 容 れ て 、 X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 の 審 査 手 続 き の
進行を一時保留し、本件解雇・懲戒処分事件の審査手続きを先行するこ
ととした。
(4) と こ ろ で 、 上 記 X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 の 申 立 て に 先 立 つ 2 年
7 月 13日 こ ろ か ら 、 こ の 事 件 の 申 立 人 と な る X 1 ら 11名 と 、 す で に 単 独
で 賃 金 ・ 昇 格 差 別 か ら の 救 済 を 申 立 て て い た X 12の 計 12名 は 、 そ の 人 的
集合体としての名称を「大日本印刷争議団」と呼ぶようになった。
この「大日本印刷争議団」には、規約は存在しないが、X4が団長、
X 12が 副 団 長 、 X 3 が 事 務 局 長 、 X 7 が 事 務 局 次 長 と な り ( な お 、 そ の
後 、X 12の 死 亡 等 に よ り 、X 2 が 団 長 、X 7 と X 6 が 副 団 長 、X 1 が 事
務 局 次 長 と な っ た 。)、必 要 の 都 度 、全 員 が 参 加 す る 争 議 団 会 議 と か 、上
記の「役員」による会議などが開かれていた。
そして、
「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」は 、会 社 の 従 業 員 や 一 般 市 民 に 向 け て 、
主としてビラによる宣伝活動を開始した。
「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」が 配 布 し た ビ ラ の 内 容 は 、会 社 の 労 働 条 件 の 実
態 や そ の 改 善 に 関 す る 主 張 、前 記 二 つ の 賃 金・昇 格 差 別 事 件 の 審 査 の 模
様 や こ の 事 件 に 対 す る 支 援 の 要 請 、後 記「 亡 Z 1 労 働 災 害 認 定 問 題 」
(以
下 「 Z 1 労 災 認 定 問 題 」 と い う 。) の 経 過 や こ の 問 題 に 関 す る 主 張 が 主
たるものであった。
ま た 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 作 成 の ビ ラ に は 、 会 社 の 従 業 員 向 け の も
の と 、一 般 市 民 向 け の も の と の 2 種 類 が あ り 、従 業 員 向 け の ビ ラ は「 大
日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」と 銘 打 ち 、毎 月 2 な い し 3 回 会 社 の 門 前 で 配
布し、一般市民向けのものは「大日本印刷争議団ニュース」のタイトル
は 冠 せ ず 、随 時 、市 ケ 谷 駅( 本 社 の 最 寄 り 駅 )や 赤 羽 駅( 赤 羽 工 場 の 最
寄り駅)付近で、それぞれ始業時刻前に配布した。
(5) Z 1 労 災 認 定 問 題 と は 、 概 略 、 以 下 の よ う な 出 来 事 で あ る 。
①
会 社 の 嘱 託 従 業 員 Z 1( 以 下 「 Z 1 」ま た は「 亡 Z 1 」と い う 。 な
お 、 同 人 は 会 社 を 定 年 後 嘱 託 と し て 再 雇 用 さ れ た も の で あ る 。) は 、
会 社 の 市 谷 事 業 部 第 一 ロ ッ カ ー 室 の 管 理 人 と し て 勤 務 し て い た が 、52
年 2 月 14日 、同 事 業 部 仮 眠 室 入 口 付 近 で 倒 れ 、同 日 午 前 6 時 過 ぎ 、橋
脳出血で死亡した。
亡 Z 1 の 妻 は 、 翌 53年 4 月 14日 、 飯 田 橋 労 働 基 準 監 督 署 長 に 対 し 、
労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 に 基 づ く 遺 族 補 償 給 付 の 支 給 を 申 請 し た が 、同
署 長 は 、Z 1 の 死 亡 は 業 務 に 起 因 す る も の で は な い と の 理 由 で 、不 支
給決定処分を行った。
そ の 後 、こ の 処 分 を 不 服 と す る 亡 Z 1 の 妻 の 上 級 庁 に 対 す る 審 査 請
求 も 再 審 査 請 求 も 棄 却 さ れ た た め 、亡 Z 1 の 妻 は 、該 労 働 基 準 監 督 署
長 を 被 告 と し て 東 京 地 裁 に 行 政 処 分 取 消 訴 訟 を 提 起 し た 。そ し て 、62
- 10 -
年 12月 22日 、東 京 地 裁 は 、亡 Z 1 の 妻 の 請 求 を 棄 却 し た 。亡 Z 1 の 妻
は こ の 判 決 を 不 服 と し て 東 京 高 裁 に 控 訴 し た 。 そ の 後 3 年 5 月 27日 、
東 京 高 裁 は 、① 原 判 決 を 取 消 し 、② 被 控 訴 人 が し た 遺 族 補 償 給 付 の 不
支 給 決 定 処 分 を 取 り 消 す と の 判 決 を 言 渡 し た 。そ の 後 、被 控 訴 人 は 上
告しなかったので、控訴審判決は確定した。
②
こ の 間 、組 合 の 少 数 派 グ ル ー プ は 、Z 1 の 死 亡 に 関 心 を 寄 せ 、同 人
の 妻 が 遺 族 補 償 給 付 支 給 申 請 を 行 う に 際 し て は 、X 11と X 13が 代 理 申
請 を 行 い 、再 審 査 請 求 手 続 に お い て は 、X 12が 陳 述 を 行 う な ど し た ほ
か 、Z 1 労 災 認 定 問 題 を 掲 載 し た 当 時 の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」
( 発 行 名 義 は 大 日 本 印 刷 争 議 団 を 支 援 す る 事 務 局 。) の 配 布 等 を 行 っ
た。
そ し て 、上 記 控 訴 審 判 決 後 、組 合 の 少 数 派 グ ル ー プ は 、労 働 災 害 補
償 行 政 の所 管 官 庁 である労 働 省 等 に控 訴 審 判 決 に服 するよう要 請 行 動
等 を 行 い 、他 方 、亡 Z 1 の 妻 に 対 し て 会 社 が 後 記「 特 別 遺 族 補 償 」等
を支 払 うよ う求 める こ とを目 的 と した「 大 日 本 印 刷 Z1 労 災 対 策 会 議 」
の 結 成 に 関 与 し た 。そ し て 、こ の「 大 日 本 印 刷 Z 1 労 災 対 策 会 議 」は 、
控 訴 審 判 決 後 3 年 8 月 こ ろ ま で の 間 に 少 な く と も 2 回 、亡 Z 1 の 妻 に
対 す る「 特 別 遺 族 補 償 」等 の 支 払 い を 求 め て 会 社 と「 交 渉 」を 行 っ た 。
③
一方、組合の3年8月6日付「第2回中央委員会資料」によれば、
会 社 は 、上 記 控 訴 審 判 決 後 の 3 年 7 月 26日 、Y 1 社 長 も 出 席 し た 組 合
と の 定 例 経 営 協 議 会 の 席 上 、Z 1 労 災 認 定 問 題 に 触 れ 、要 旨 を 以 下 の
ように述べた。
ア
上記遺族補償給付の不支給決定処分をめぐる取消訴訟自体は、
「Z1氏の遺族と国との争いであったため、会社は第三者であり、
訴訟の進行過程で何ら関与することができなかったので、会社とし
て は コ メ ン ト を し て い な い 」。 こ の 判 決 は マ ス コ ミ で 大 き く 採 り 上
げ ら れ 、「 各 所 で 話 題 と な っ た が 、 そ の 内 容 を 見 る と 、 問 題 の 本 質
が必ずしも正確に伝えられているとは思えないので、この場を借り
て 、 こ の 問 題 に 対 す る 会 社 の 考 え 方 を 説 明 し て お き た い 」。
イ
マ ス コ ミ の 報 道 は 、「( 中 略 ) 会 社 に 全 面 的 な 責 任 が あ っ た か の よ
う に 採 り 上 げ て い る が 」、 会 社 は 、 Z 1 を 極 め て 軽 労 働 で あ る ロ ッ
カー棟の管理業務につける等健康管理上の配慮をしてきたわけで、
「このように会社が一方的に非難されていることは、甚だ不本意で
あ り 、 会 社 に と っ て 納 得 が い か な い と こ ろ で あ る 」。
ウ
控 訴 審 判 決 を 、「 専 門 家 に も 詳 細 に 分 析 し て も ら っ た と こ ろ 」、明
ら か に 一 方 に 偏 っ て い る と「 思 わ れ る よ う な 内 容 が あ る ほ か 、事 実
誤 認 の 点 も い く つ か 見 受 け ら れ る 」。
エ
控 訴 審 判 決 後 、「 大 日 本 印 刷 Z 1 労 災 対 策 会 議 」 な る 団 体 か ら 、
会 社 に 対 し 、特 別 遺 族 補 償 、弔 慰 金 、損 害 賠 償 支 払 い に つ い て の 交
渉 申 し 入 れ が あ っ た が 、「 会 社 と し て は 、 Z 1 氏 に 対 し て 、 健 康 管
- 11 -
理上の配慮を怠ったことは考えていないので、筋を通した対処をし
て い き た い 」。
④
本 件 ビ ラ配 布 後 の 4年 7月 1 日 、亡 Z1 の妻 は、会 社 を被 告 と して、
東 京 地 裁 に 特 別 遺 族 補 償 一 時 金 支 払 い 請 求 訴 訟 を 提 起 し た 。そ の 請 求
原因は、以下のとおりである。
ア
会 社 と 組 合 と の 間 に は 、 Z 1 が 死 亡 し た 当 時 か ら 、「 従 業 員 が 業
務 上 の 理 由 に よ り 死 亡 し た と き は 」、「 特 別 遺 族 補 償 」と 呼 ぶ 、一 時
金を遺族に支給する旨の労働協約が存在していた。
イ
一方、Z1は死亡当時、嘱託雇用の身分にあり、組合員ではなか
った。
ウ
上記労働協約の一方の当事者である組合は、Z1が勤務していた
会 社 の 市 谷 事 業 部 に お い て 、同 人 の 死 亡 時 か ら 現 在 に い た る ま で 常
用 労 働 者 の 四 分 の 三 以 上 を 組 織 し て い る 。故 に 、労 働 組 合 法 第 17条
所定の一般的拘束力により、上記協約の効力は非組合員たるZ1の
死 亡 に つ い て も 及 び 、会 社 は Z 1 の 遺 族 に 対 し 特 別 遺 族 補 償 一 時 金
を支給すべき義務がある。
こ れ に 対 し 、会 社 は 、Z 1 は 、会 社 の 就 業 規 則 に い う「 従 業 員 」
(本採
用従業員)ではなく、会社と「嘱託雇用契約」を締結した「嘱託」であ
ったことを前提に、会社と本採用従業員を組合員とする組合との間で締
結 さ れ た 上 記 労 働 協 約 は 、 Z 1 に 関 し て 、 労 働 組 合 法 第 17条 に よ る 拡 張
適用はされないこと、また、Z1の死亡は、上記労働協約にいう「業務
上の理由により死亡したとき」に該当しないと反論して全面的に応訴の
構えを示している。
5
本件ビラ配布にいたる経緯
(1) 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 前 段 認 定 の と お り Z 1 労 災 認 定 問 題 の 控 訴
審 判 決 が 出 さ れ 、 同 判 決 が 世 間 か ら 注 目 さ れ た こ と 、 ま た 、 X 1 ら 11名
賃金・昇格差別事件の審問手続きの開始を間近に控えていたことなどか
ら、3年夏ころから、対外的宣伝活動をいままでよりもなお一層活発に
行うことが必要であるとの認識をもつようになっていた。
そ し て 、同 争 議 団 の 場 合 と 同 様 に 、組 合 か ら の 支 援 が 得 ら れ な い 状 況
下 で 争 訟 活 動 を 行 っ て い る 他 の「 争 議 団 」な い し そ の 支 援 団 体 の 宣 伝 活
動について情報を集めたところ、一般市民向けのビラ配布とは別に、と
く に 大 学 生 を 対 象 と し た ビ ラ 配 布 も 行 っ て い る「 争 議 団 」な い し そ の 支
援 団 体 が あ る こ と を 知 り 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 と し て も 、 大 学 生 を 対
象としたビラ配布も実施しようと考えるにいたった。
し か し な が ら 、 そ の 当 時 は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 大 学 生 を 対 象
としたビラ配布の具体的実施計画をたてるまでにはいたらなかった。
(2)①
「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」は 、4 年 5 月 2 日 、年 間 の 活 動 計 画 を 討 議 す
るため、11名 全 員 による会 議 を開 き、次 のような基 本 計 画 を決 定 した。
ア
駅 頭 で の ビ ラ 配 布 は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 だ け で な く 、 巾 広 く
- 12 -
同 争 議 団 の 主 張 に 共 鳴 す る 団 体 等 の 支 援 を 受 け 、市 ケ 谷 駅 や 赤 羽 駅
だ け で な く 、 数 か 所 で 実 施 す る 。 ま た 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 構
成 員 は 、年 次 有 給 休 暇 を 利 用 し て こ の 一 斉 宣 伝 活 動 に 従 事 す る 関 係
上 、当 委 員 会 に お け る「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」に か か る 審 問 期 日 を 一
斉宣伝活動の日とする。
イ
出版社への要請活動を行う。
ウ
4 年 秋 に 予 定 さ れ て い る 国 際 印 刷 機 材 展 の 際 に 、イ ヴ ェ ン ト 会 場
で宣伝活動を行う。
エ
大学門前でのビラ配布活動を行う。
オ
会社の社長宅周辺でビラ配布活動を行う。
②
そ し て 、 同 争 議 団 は 、 さ ら に 当 面 の 行 動 と し て 、 X 1 ら 11名 賃 金 ・
昇 格 差 別 事 件 の 第 6 回 審 問 期 日 で あ る 4 年 6 月 15日 に 、次 の よ う な 宣
伝活動を行うことを決定した。
ア
午 前 中 、市 ケ 谷 、赤 羽 、四 谷 、飯 田 橋 各 駅 頭 で の ビ ラ 配 布 を 行 い 、
その後出版社への要請活動を行う(但し、後日、都合で、出版社へ
の 要 請 活 動 は 取 り 止 め る こ と と な り 、こ れ に 代 え て 会 社 の Y 1 社 長
宅 付 近 で ビ ラ 配 布 を 実 施 す る こ と と し た 。)。
イ
正午から午後1時まで早稲田大学付近でのビラ配布を行い、その
後当委員会の審問に出頭する。
ち な み に 、上 記 4 年 6 月 15日 の X 1 ら 11名 賃 金・昇 格 差 別 事 件 の 第
6 回 審 問 期 間 は 、同 年 4 月 10日 の 同 事 件 第 4 回 審 問 期 日 の 際 に 指 定 さ
れ て い た 。 ま た 、 第 7 回 審 問 期 日 は 、上 記 第 4 回 審 問 期 日 直 後 で あ る
同 月 4 月 14日 の 同 事 件 第 5 回 審 問 期 日 の 際 に 同 年 7 月 16日 と 指 定 さ れ
ていた。
③
早 稲 田 大 学 門 前 で の ビ ラ 配 布 を 行 う こ と を 決 定 す る 過 程 で は 、同 大
学 の ほ か 、な お 会 社 と 至 近 距 離 に あ る 法 政 大 学 と 上 智 大 学 も 対 象 と し
て は ど う か と い う 提 案 も あ っ た が 、動 員 力 の 関 係 で そ こ ま で の 取 組 み
は 困 難 で は な い か と の 意 見 が 出 さ れ 、結 局 、上 記 3 大 学 の う ち で も っ
と も 規 模 が 大 き く 、ま た 全 国 各 大 学 中 、大 日 本 印 刷 へ の 定 期 入 社 者 が
極めて多い早稲田大学の門前で、ビラ配布を行うことを決定した。
他 方 、同 大 学 門 前 で の ビ ラ 配 布 を 行 う 4 年 6 月 15日 当 日 は 、後 記 5
年 4 月 大 卒 採 用 予 定 者 を 対 象 と し た 会 社 と し て の 行 事 で あ る「 会 社 説
明 会 」が 実 施 さ れ る 約 2 週 間 前 に あ た っ て い た が 、そ の よ う な 会 社 行
事 が 控 え て い る と い う 事 実 の 指 摘 や 、こ の「 会 社 説 明 会 」開 始 直 前 の
時 期 に学 生 を対 象 としたビラ配 布 を行 うことの是 非 についての意 見 は、
とくには出席者の誰からもだされなかった。
④
ま た 、同 日 の 会 議 で は 、6 月 15日 に 配 布 す る ビ ラ に は 、Z 1 労 災 認
定 問 題 、賃 金・昇 格 差 別 問 題 、少 数 派 グ ル ー プ が 取 り 組 ん で き た 給 料
明 細 表 に 労 働 実 績 を 記 載 さ せ る 問 題 な ど の ほ か 、労 働 条 件 の う ち で も
と く に 大 学 生 に 関 心 が あ り そ う な 問 題 を 採 り 上 げ る こ と を 決 め 、こ の
- 13 -
方 向 に 沿 っ て 、X 7 、 X 3 、X 1 、X 11の 4 名 が 従 前 配 布 し た ビ ラ の
掲載記事をもとに、学生向きのビラを作成することとなった。
そ し て 、出 席 者 た ち は 、会 社 の 労 働 条 件 の 実 態 を 記 載 し た ビ ラ が 大
学 の 門 前 で 配 布 さ れ れ ば 、会 社 に 入 社 し よ う と 考 え て い た 学 生 は 動 揺
す る か も し れ な い こ と 、ま た 会 社 も 痛 手 を 被 る こ と に な る で あ ろ う こ
と を 認 識 し て い た が 、同 時 に 、ビ ラ の 内 容 が 事 実 に 即 し た も の で あ る
か ぎ り 、学 生 ら が 会 社 の 労 働 条 件 の 実 態 を 知 る こ と は 有 益 な こ と で あ
るとも考えていた。
⑤
そ の 後 、従 来 か ら 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 の 編 集 ・作 成 に あ
た っ て い た X 1 が 中 心 と な っ て 、本 件 ビ ラ の 作 成 作 業 が 行 わ れ 、改 め
て全員の意見を聴いたうえでビラの内容を確定した。
⑥
こ の 間 、申 立 人 ら が 会 社 の 門 前 で 配 布 し た 4 年 2 月 14日 付「 大 日 本
印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」裏 面 に は「 採 用 予 定 と 内 容 の 落 差 」と 題 す る 見
出しで、
「 昨 年 発 表 さ れ た 大 日 本 印 刷 の 今 春 採 用 予 定 者 数( 大 卒 )は 、
新 聞 発 表 (「 日 経 産 業 」) に よ り ま す と 6 月 の 時 点 で 750人 で し た 。 し
か し そ の 後 の 10月 に 発 表 さ れ た 内 定 者 ラ ン キ ン グ (「 日 経 」) で は 550
人 で し た 。職 場 で は「 こ れ は Z 1 過 労 死 事 件 で の 高 裁 判 決 が 影 響 し た
も の だ 」 と の 声 も あ り ま す 。」 と の 記 事 が 掲 載 さ れ た 。
ま た 、上 記 5 月 2 日 の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」の 全 員 に よ る 会 議 後 に
申 立 人 ら が 会 社 の 門 前 で 配 布 し た 4 年 5 月 18日 付「 大 日 本 印 刷 争 議 団
ニ ュ ー ス 」裏 面 に は「 大 量 採 用 で も 人 手 不 足 」と 題 す る 見 出 し で 、
「今
年 大 日 本 印 刷 に 入 社 数 は 、マ ス コ ミ 等 が 発 表 し て い る 数 値 に よ れ ば 全
体 で 1900人 。 内 大 卒 は 550人 。・ ・ ・ ・ ・ 毎 年 の よ う に 1.5割 近 い 採 用
を く り 返 す 。 そ れ で も 職 場 で は 定 員 に 達 し て お り ま せ ん 。「 異 常 以 外
の な に も の で も な い 」 と の 声 も 聞 か れ ま す 。 ま た 、 職 場 で は 、「 い つ
ま で も つ か 」 と 心 配 す る 声 も 。「 絶 対 に 辞 め な い で ほ し い 」 と 挨 拶 し
た 工 場 長 が い た と か 。・・・・・ 」と の 記 事 と 、「 週 間 読 売 」4 年 4 月
19日 号 が 特 集 し た 全 国 28私 立 大 学 の 就 職 ラ ン キ ン グ か ら 抜 粋 編 集 し た
本件会社及び競業T社の出身大学別採用者数が掲載された。
(3) 同 年 5 月 30日 、 X 1 は 、 早 稲 田 大 学 教 員 組 合 、 同 職 員 組 合 、 同 法 学 部
自治会等を訪ねて、
「 大 日 本 印 刷 の 横 暴 の 告 発 、争 議 の 早 期 解 決 を め ざ す
6・15大 学 門 前 宣 伝 行 動 へ の ご 協 力 の お 願 い 」と 題 す る 、大 日 本 印 刷 争 議
団と人間らしく働ける大日本印刷グループをつくる会(現在の「大日本
印 刷 争 議 団 」 の 構 成 員 を 含 む 少 数 派 グ ル ー プ が 63年 当 時 結 成 し た 団 体 。
「日本共産党大日本印刷ニュース誤報事件」裁判闘争の原告や「向上意
欲のない者昇給カット事件」裁判闘争の原告など当時会社と紛争状態を
生じていた者らを構成員としたそのころの「大日本印刷争議団」とその
支援組織である「職場の中から大日本印刷争議団を支援する会」とが、
それら紛 争 の解 決 を契 機 に合 同 したものである。)名 義 の文 書 を差 し出 し、
こ の 行 動 へ の 協 力 を 求 め た ( も っ と も 、 6 月 15日 当 日 、 上 記 各 学 内 団 体
- 14 -
の 関 係 者 は ビ ラ 配 布 活 動 に は 関 与 し て い な い 。)。 こ の 文 書 に は 、 大 企 業
では過労死が問題になっていることおよびZ1労災認定問題の経過やこ
うした問題に取り組む者に解雇、賃金・昇格差別、配転などの不当労働
行為が行われているといったことが記され、さらに「マスコミ、就職案
内雑誌等でも知らされないその他数々の問題を、広く大学の関係者の皆
様に知っていただくことは、大企業の今日の実態を改善、民主的に規制
していく上で、更にはこうした問題を職場で様々な攻撃を受けながら闘
っている私たちのような争議団の要求を実現・争議を解決する上でも大
き な 力 に な る と 確 信 し て い ま す 。」 と 記 述 さ れ て い た 。
次 い で 、X 1 は 、6 月 10日 に 、前 記 法 学 部 自 治 会 の 役 員 の ひ と り が 所
属 す る 学 術 研 究 サ ー ク ル の 例 会 に 出 向 い て 、同 人 ら 組 合 内 少 数 派 の 活 動
経過や賃金・昇格差別問題等を話した。その際、X1は、多くの学生か
ら、そんなに差別を受けているというのに、なぜ会社を辞めないでがん
ばるんですか、という質問を受け、これを意外なことと受け止めた。
(4) 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 が 、 上 記 の よ う に 早 稲 田 大 学 で の ビ ラ 配 布 の 準
備活動をしていたころ、会社においては、主要企業間の「就職協定」に
基づき4年7月1日に解禁される「会社説明会」の準備を進めていた。
こ の 準 備 活 動 に お い て は 、以 下 の よ う に 、
「 会 社 説 明 会 」に よ り 多 く の 学
生 の 参 加 を 得 る こ と に 最 重 点 が お か れ て い た 。 す な わ ち 、 前 年 の 12月 こ
ろから翌年の5月ころにかけて、各就職案内雑誌に広告を掲載するとと
もに、求職する学生の「ニーズ」を把握するためおよび会社に関心を寄
せる学生が会社に問い合わせ等を行えるよう、この広告に連絡用葉書を
添え、また、全国各大学の学生にも、上記のような連絡用葉書を添えた
会社概要を発送していた。そして、連絡用葉書を会社に寄せた学生の氏
名・大学名・学部名をコンピューターに登録し、改めて詳細な会社案内
を送付したり(但し、労働条件については、初任給及びフレックスタイ
ム手当の額、昇給・賞与の年間回数、休日等きわめて概括的な紹介に止
ま る 。)、 会 社 の 印 象 を 鮮 明 な も の と す る た め に 、 印 刷 技 術 を 駆 使 し た カ
レンダーや葉書を送付したりして「会社説明会」への参加を呼びかけ、
これに応 答 のあった学 生 には、
「 会 社 説 明 会 」への参 加 日 時 を特 定 のうえ、
これを連絡していた。また、会社は、印刷産業分野の最大手とはいえ、
求職する学生の間での「人気企業ランク」が他の産業分野の大手企業に
比 べ て 甚 だ 低 か っ た こ と か ら 、近 時 に お い て は 、
「 会 社 概 要 」等 を 通 じ て 、
単なる印刷産業ではなく、創造的な情報コミュニケーション産業である
旨企業イメージの向上に力を注いでいた。
6
早稲田大学門前における本件ビラ配布行為
(1) 同 年 6 月 15日 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 構 成 員 の う ち 、 当 日 午 後 の 当
委員会での審問に備えて、同事件の代理人との打合せに臨んでいたX4
と X 11を 除 く 9 名 と 支 援 団 体 の 関 係 者 ら 数 名 は 、早 稲 田 大 学 の 正 門 と 南
門 付 近 で 、正 午 か ら 午 後 1 時 頃 ま で の 間 、別 掲 の よ う な B 4 判 両 面 印 刷
- 15 -
の 体 裁 の ビ ラ 800枚 を 二 つ 折 り に し て B 5 サ イ ズ に し た う え で 、 同 大 学
の学生らに配布した。
(別掲
記 事 1 ~ 10
略)
(2) ビ ラ に 掲 載 し た 各 記 事 の 作 成 経 緯 等
特 就 職 ガ イ ダ ン ス 」の 見 出 し は X 1
「大日本印刷 そこが知りたい○
が案出し、その余の者の賛成を得た。
② 「 74年 大 卒 定 期 採 用・ 勤 続 18年 40歳 の A さ ん の 賃 金 明 細 」と 題 す る
①
記 事 ( 以 下 「 記 事 1 」 と い う 。)
ア
「Aさん」とは、X1を指す。
イ
退 職 金 に か か る 記 事 中 、「 退 職 金 算 定 基 礎 給 」 は 入 社 時 の 「 本 給
に・・・・・」とあるが、正しくは「基本給」とすべきものであっ
た。
ウ
同 じ く 退 職 金 に か か る 記 事 中 の「 中 労 委 調 査 」と は 、中 央 労 働 委
員 会 事 務 局 ( 以 下 「 中 労 委 事 務 局 」 と い う 。) が 、 資 本 金 5 億 円 以
上 、従 業 員 1,000名 以 上 で 、「 中 労 委 に お け る 労 働 争 議 の 調 整 の 対 象
と な る 可 能 性 を も っ て い る 」企 業 を 対 象 と し て 、隔 年 ご と に 行 う「 退
職 金 、年 金 お よ び 定 年 制 事 情 調 査 」の こ と で あ る 。勤 続 10年 で「 230
万 円 」、 勤 続 30年 で 「 2160万 円 」 と の 引 用 は 、 3 年 の 調 査 に 基 づ く
「モデル退職金(大学卒・事務・技術労働者・男子・会社都合」の
「 調 査 産 業 計 」( 中 労 委 事 務 局 が 、 労 働 争 議 の 調 整 の 必 要 か ら 独 自
に 分 類 し た 産 業 ご と の 集 計 の 合 計 。) の 金 額 を 端 数 切 上 げ の う え 引
用 し た も の で あ る 。な お 、同 年 度 に お け る 調 査 対 象 企 業 数 は 562社 、
回 答 の あ っ た 企 業 は 399社 で あ っ た ( 但 し 、 上 記 調 査 の 調 査 項 目 は
多岐にわたり、複雑なこともあって調査票全般の記入が得られなか
っ た 企 業 も あ る 。)。
エ
「 中 労 委 調 査 の 昨 年 度 の A さ ん に 相 当 す る モ デ ル 所 定 内 賃 金( 世
間 水 準 )は 約 46万 円 」と あ る 部 分 の「 中 労 委 調 査 」と は 、中 労 委 事
務 局 が 、上 記「 退 職 金 、年 金 お よ び 定 年 制 事 情 調 査 」の 場 合 と 同 様
の規模の企業を対象として、毎年行う「賃金事情調査」のことであ
る 。 こ の 調 査 は 、 中 労 委 事 務 局 に よ れ ば 、 本 来 、「 個 々 の 調 査 原 票
を 利 用 す る こ と を 目 的 と し て い る 」 も の で あ る が 、「 参 考 ま で に 産
業 別 に 集 計 を 行 い 」 公 表 し て い る も の で あ る 。 そ し て 、「 モ デ ル 所
定 内 賃 金 」 と は 、 同 調 査 の 一 環 で あ り 、「 性 、 学 歴 、 年 齢 、 勤 続 年
数 、扶 養 家 族 数 等 に つ い て 設 定 さ れ た 条 件 に 該 当 す る 実 在 者 で 、入
社 後 標 準 的 に昇 進 し た 者 の所 定 内 賃 金 を い う 。」と定 義 さ れて いる 。
な お 、調 査 対 象 企 業 に 送 付 さ れ る 調 査 票 に 添 付 さ れ る「 調 査 票 記 入
説 明 」 に お い て は 、「 モ デ ル 所 定 内 賃 金 お よ び 一 時 金 」 の 記 入 説 明
欄 に 、「 正 常 に 進 学 卒 業 後 た だ ち に 入 社 し 、 そ の 後 、 標 準 的 に ご く
普 通 の 昇 進 を し た も の に つ い て の 金 額 を 記 入 し て 下 さ い 。」 と の 記
載 が な さ れ て い る 。 上 記 「 約 46万 円 」 の 金 額 は 、 3 年 の 調 査 に 基 づ
- 16 -
くものであり、
「 大 学 卒 事 務・技 術 労 働 者 、男 子 、40才 、勤 続 18年 、
扶 養 家 族 3 人 」 と い う モ デ ル に つ い て の 「 調 査 産 業 計 」(「 退 職 金 、
年 金 お よ び 定 年 制 事 情 調 査 」の 場 合 と 同 じ く 、中 労 委 事 務 局 が 、労
働 争 議 の 調 整 の 必 要 か ら 独 自 に 分 類 し た 産 業 ご と の 集 計 の 合 計 。)
の金額を端数切り捨てのうえ引用したものである。同年度における
調 査 対 象 企 業 数 は 562社 、回 答 の あ っ た 企 業 は 415社 で 、上 記「 大 学
卒 事 務・技 術 労 働 者 、男 子 」の モ デ ル 所 定 内 賃 金 に 関 し て は 集 計 社
数 は 354社 で あ っ た 。
そ し て 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 中 労 委 調 査 に お け る モ デ ル 所
定 内 賃 金 と は 、「 世 間 の 大 企 業 の 平 均 的 賃 金 で あ る 」 と の 理 解 の も
と に 、「 A さ ん 」 と の 比 較 を 試 み た 。
オ
な お 、本 件 審 査 手 続 き に お い て 、会 社 側 申 請 証 人 で あ る Y 2 労 務
部 長 は 、会 社 は 、上 記「 賃 金 事 情 調 査 」に は 回 答 し て い な い 旨 証 言
している。
カ
「気がつきましたでしょうか。大日本印刷には、住宅手当があり
ま せ ん 。」 と の 記 載 が あ る が 、 本 件 ビ ラ 配 布 当 時 は 、 事 実 、 住 宅 手
当は支給されていなかった。
③ 「 こ ん な こ と も あ り ま す 。賃 金 明 細 に 労 働 実 績 の 印 字 が あ り ま せ ん 」
と 題 す る 記 事 ( 以 下 「 記 事 2 」 と い う 。)
ア
ビ ラ に 出 典 が 記 さ れ て い る よ う に 、こ れ は 、日 本 共 産 党 の 機 関 紙
「赤旗」に掲載された記事の転載である。
イ
少数派グループは、かねてから、会社の「給料明細表」に当月の
残 業 時 間 数 を 表 示 す べ き で あ る と い う 主 張 を 掲 げ て お り 、同 グ ル ー
プのX1は、以前、組合の定期大会に代議員として出席した際、こ
の問題を提起したことがあったが、執行部の受入れるところとはな
ら な か っ た 経 緯 が あ り 、少 数 派 グ ル ー プ か ら の 組 合 役 員 選 挙 立 候 補
者 は 、こ の 問 題 を 統 一 ス ロ ー ガ ン の ひ と つ と し て い た 。ま た 、元 年
5 月 25日 付 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」 に 、 上 記 主 張 に
沿う記事が掲載されたことがある。
④
「過労死しても遺族補償もしない」と題する記事(以下「記事3」
と い う 。)
ア
Z 1 労 災 認 定 問 題 は 、少 数 派 グ ル ー プ が と く に 力 を 入 れ て 取 り 組
ん で い た 問 題 で あ り 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 や 「 大 日 本 印
刷争議団支援共闘ニュース」で、しばしばとりあげていた。
イ
Z 1 の 年 間 総 労 働 時 間 が 「 4,320時 間 」 で あ っ た と の 記 載 は 、 同
人 の 勤 務 形 態 が 、隔 日 24時 間 拘 束 勤 務( 午 前 8 時 か ら 翌 朝 8 時 ま で )
で あ っ た こ と に 基 づ き 、 こ の 24時 間 に 年 末 年 始 休 暇 を 除 く 1 年 の 2
分 の 1 の 日 数 で あ る 180日 を 乗 じ て 算 出 し た も の で あ る 。 な お 、 前
記 東 京 高 裁 の 控 訴 審 判 決 に お い て 、 Z 1 は 、「 51年 12月 に は 、 一 度
2 日 連 続 し て 勤 務 を 休 ん だ 後 、 2 日 連 続 し て 48時 間 勤 務 し た こ と が
- 17 -
あ る ほ か は 、同 月 28日 ま で 一 度 も 休 日 を と る こ と な く 、24時 間 隔 日
勤 務 を 続 け 、 同 月 29日 か ら 昭 和 52年 1 月 3 日 ま で 年 末 年 始 の 休 み を
と っ た 後 ( も っ と も 、 こ の う ち の 12月 29日 の 休 み は 休 日 で は な く 、
勤 務 明 け 日 と み る べ き で あ ろ う 。)、同 月 4 日 か ら 通 常 ど お り の 勤 務
を 開 始 し 、 そ の 後 同 年 2 月 14日 に 死 亡 す る ま で の 間 、 一 度 も 休 日 を
と る こ と な く 、24時 間 隔 日 勤 務 を 続 け た 。」事 実 が 認 定 さ れ て い る 。
こ れ に 先 立 つ 取 消 訴 訟 第 一 審 に お い て 、被 告 行 政 庁 は 、Z 1 の 実 働
時 間 は 6.5時 間 程 度 に 過 ぎ ず 、 そ の 他 は 休 憩 及 び 手 持 ち 時 間 で あ る
と主張し、被告行政庁側申請証人である会社のY2労務部長は、こ
の趣旨に沿う証言を行った。この点に関して、第一審判決は、Z1
の 上 記 24時 間 拘 束 勤 務 中 の 具 体 的 業 務 内 容 等 を 認 定 し た う え で( 休
憩 時 間 に つ い て は 、 午 前 11時 30分 か ら 12時 ま で 、 仮 眠 時 間 に つ い て
は 午 前 1 時 こ ろ か ら 冷 暖 房 設 備 の 完 備 し た 仮 眠 室 で 午 前 5 時 45分 こ
ろ ま で と 認 定 し て い る 。)、「 被 告 の 、 実 働 6 時 間 30分 で そ の 余 は 休
憩又は手持ち時間であるとの主張は、そのすべてをにわかに採用す
る こ と は で き な い が 」、
「 少 な く と も 午 前 9 時 30分 こ ろ か ら 午 後 5 時
こ ろ ま で 、午 後 10時 こ ろ か ら 翌 日 午 前 1 時 こ ろ ま で 、仮 眠 後 の 午 前
6 時 こ ろ か ら 7 時 こ ろ ま で の う ち 、清 掃 時 間 と 休 憩 時 間 を 除 く 部 分
は、比較的自由に待機していることのできるいわゆる手持ち時間と
評 価 し 得 る も の で あ る と 認 め ら れ る 。」 と し た が 、 控 訴 審 判 決 は 、
こ の 点 を 是 認 し た う え で 、「 し か し 、 右 業 務 の 勤 務 時 間 中 に 右 の よ
う な 手 待 ち 時 間 が あ る と は い っ て も 、管 理 人 は 、勤 務 時 間 中 は 、仮
眠 時 間 を 除 き 、自 由 に 管 理 人 室 又 は ロ ッ カ ー 室 な い し そ の 周 辺 を 離
れ て外 出 す る と い うこ と は で きな い」と の事 実 認 定 を 付 加 し 、ま た 、
他 の 箇 所 で 、 仮 眠 時 間 に つ い て 言 及 し 、「 実 質 的 に 仮 眠 す る こ と の
で き る 時 間 は 、 約 4 時 間 な い し 4 時 間 30分 程 度 で あ っ た 。」 と し て
いる。
ウ
「 労 働 基 準 法 に 違 反 し ・・・・・一 層 の 影 響 を 及 ぼ し た 」と の 部
分 及 び「 健 康 保 持 義 務 に 違 反 し・・・・・ と 評 価 さ れ て も や む を 得
ない」との部分は、いずれも控訴審判決の当該箇所を要約する形で
記載したものである。このうち、労働基準法違反の問題とは、Z1
の 休 日 な し 24時 間 勤 務 に つ い て 、「 こ の よ う な 業 務 は 労 基 法 41条 3
号 所 定 の「 断 続 的 労 働 」に 該 当 す る と 解 さ れ る か ら 、同 法 32条 の 労
働 時 間 の制 限 に関 する 規 定 及 び同 法 35条 の休 日 の付 与 に 関 する 規 定
の 各 適 用 除 外 が 認 め ら れ る た め に は 、 同 法 41条 に よ り 、 訴 外 会 社 は
労 働 基 準 監 督 署 長 の 許 可 を 受 け な け れ ば な ら な か っ た と こ ろ 、訴 外
会 社 が亡 Z1の死 亡 前 にそのような許 可 を受 けていなかったことは、
当事者間に争いがない。そうすると、亡Z1がその生前に従事して
い た 右 勤 務 体 制 は 、 同 法 32条 及 び 35条 に そ れ ぞ れ 違 反 す る も の で あ
っ た と い わ な け れ ば な ら な い 。」 と 指 摘 し て い る 点 で あ る 。
- 18 -
⑤
「 死 活 問 題 の 賃 金 ・ 昇 格 差 別 」と 題 す る 記 事( 以 下 「 記 事 4 」 と い
う 。)
ア
大 日 本 印 刷 争 議 団 は 、こ の 記 事 の 内 容 と ほ と ん ど 同 一 の 内 容 の 記
事 を 掲 載 し た ビ ラ を 、4 年 4 月 10日 に 市 ケ 谷 駅 前 で 、同 月 14日 に 赤
羽駅前で配布した。
イ
「 A さ ん 」す な わ ち X 1 は 、会 社 に お け る 等 級・考 課 区 分 上 、
「2
級・d」とされており、これは、大学卒研修員(新入社員のこと)
の等級・考課区分と同一である。
ウ
「 B さ ん 」 と は 、 X 14を 、「 C さ ん 」 と は 、 X 4 を 指 す 。 な お 、
ビラに記載された両名の「残業なし賃金」の額については争いはな
い。
⑥
「 賃 金 は ? 」 と 題 す る 記 事 ( 以 下 「 記 事 5 」 と い う 。)
ア
大 日 本 印 刷 争 議 団 は 、こ の 記 事 の 内 容 と ほ と ん ど 同 一 の 内 容 の 記
事 を 掲 載 し た ビ ラ を 、 4 年 2 月 14日 に 会 社 門 前 で 、 ま た 4 月 10日 に
市 ケ 谷 駅 前 で 、 同 月 14日 に 赤 羽 駅 前 で 配 布 し た 。
イ
こ の 記 事 は 、X 12事 件 の 第 14回 審 問 に お け る 申 立 人 代 理 人 X 15弁
護士と会社の労務部のY4副部長との、会社の賃金水準をめぐるや
りとりを記載した「審問速記録」をもとに作成されたものである。
記 事 に み ら れ る や り と り は 全 体 の ご く 一 部 で あ り 、し か も ビ ラ の 表
現はきわめて凝縮されたものである。
⑦
「 気 に な る 労 働 時 間 は ? 」と 題 す る 記 事( 以 下「 記 事 6 」と い う 。)
ア
本 文 中 、「 営 業 部 門 の 50% 以 上 は 21時 過 ぎ に 終 業 で す 。」と の 部 分
は 、4 年 3 月 に 発 行 さ れ た 組 合 の 機 関 誌「 ウ エ ー ブ 」賃 上 げ 要 求 資
料 特 集 号 に 掲 載 さ れ た「 平 均 的 終 業 時 刻 」の 図 表( こ の 図 表 は 、本
文 欄 外 に 転 載 し て い る 。) の 「 営 業 職 」 の 部 分 の 比 率 に 基 づ き 記 載
されたものである。
イ
「 こ う し た 部 門 の 残 業 手 当 分 は ・ ・ ・ ・ ・ ・ 月 40時 間 前 後 分 し か
支 払 わ れ て お り ま せ ん 。」 と の 部 分 お よ び 「 今 年 は 、 更 に そ の 目 標
時 間 が 短 縮 し 、 30時 間 前 後 分 に 。」 と の 部 分 の 各 時 間 数 は 、 4 年 2
月 6 日 付 組 合 機 関 紙「 く さ び 」に 掲 載 さ れ た「 総 労 働 時 間 短 縮 に 関
す る 会 社 提 案 事 項 」( 4 年 5 月 14日 改 正 予 定 ) を 資 料 と し て 、 以 下
のように算出されたものである。
a
この会社提案事項には、
「 年 間 所 定 内 労 働 時 間 」は 、現 行 が 2,010
時 間 で あ り 、 改 定 後 は 1,986時 間 と な る こ と 、 フ レ ッ ク ス タ イ ム
部門の従業員に支給されるフレックス手当・営業手当の支給率は
「 営 業 ・ 企 画 部 門 」 に お い て は 、 現 行 が 各 人 基 礎 賃 金 の 32% ( 営
業 手 当 5 % を 含 む )、 改 定 後 は 各 人 基 礎 賃 金 の 24.6% ( 営 業 手 当
5 % を 含 む ) と な る こ と 、「 そ の 他 の 部 門 」 に つ い て は 現 行 が 各
人 基 礎 賃 金 の 27% 、 改 定 後 は 各 人 基 礎 賃 金 の 19.6% と な る こ と 、
会 社 の 設 定 す る 「 月 間 目 標 総 労 働 時 間 」 は 、「 営 業 ・ 企 画 部 門 」
- 19 -
に お い て は 現 行 が 210時 間 、 改 定 後 は 198時 間 と さ れ る こ と 、「 そ
の 他 の 部 門 」 に お い て は 現 行 が 195時 間 、 改 定 後 は 183時 間 と さ れ
ること等が記載されている。
b
そこで、X1らは、フレックスタイム手当・営業手当でカヴァ
ーされる所定外労働時間の上限を以下のように算出した。すなわ
ち 、「 営 業 ・ 企 画 部 門 」 に お い て は 、 先 ず 、 月 間 所 定 内 労 働 時 間
は 、 年 間 所 定 内 労 働 時 間 の 12分 の 1 で あ る か ら 、 現 行 の 月 間 所 定
内 労 働 時 間 は 167.5時 間 と な り 、 改 定 後 の 月 間 所 定 内 労 働 時 間 は
166.5時 間 と な る 。 そ し て フ レ ッ ク ス タ イ ム 手 当 ・ 営 業 手 当 で カ
ヴァーされる所定外労働組合時間の上限は、現行の場合、月間所
定 内 労 働 時 間 167.5時 間 に 同 手 当 の 支 給 率 0.320を 乗 じ 、 こ れ を 時
間 外 労 働 割 増 率 1.25で 除 し て 得 ら れ た 数 値 、 す な わ ち 42.88時 間
で あ り 、改 定 後 に お い て は 、166.5時 間 に 0.246を 乗 じ 、こ れ を 1.25
で 除 し て 得 ら れ た 数 値 、 す な わ ち 32.57時 間 で あ る 。 な お 、 フ レ
ックスタイム手当・営業手当でカヴァーされる所定外労働時間の
上限に関するこのような計算方法については、会社は異論を唱え
ていない。
c
次 に 、 上 記 認 定 の と お り 、「 営 業 ・ 企 画 部 門 」 の 現 行 の 月 間 目
標 総 労 働 時 間 は 210時 間 、 現 行 の 月 間 所 定 内 労 働 時 間 は 167.5時 間
で あ る か ら 、 そ の 差 の 42.5時 間 が 現 行 の 月 間 目 標 総 労 働 時 間 中 に
含まれる所定外労働時間ということになる。また、改定後は、月
間 目 標 総 労 働 時 間 は 198時 間 、 月 間 所 定 内 労 働 時 間 は 165.5時 間 と
な る か ら 、 そ の 差 の 32.5時 間 が 、 月 間 目 標 総 労 働 時 間 の 中 に 含 ま
れ る 所 定 外 労 働 時 間 と な る 。そ う す る と 、フ レ ッ ク ス タ イ ム 手 当・
営業手当でカヴァーされる所定外労働時間の上限は、前段認定の
と お り 、 現 行 42.88時 間 、 改 定 後 は 、 32.57時 間 で あ る か ら 、 こ の
時間数と目標労働時間の中に入る所定外労働時間数との差は、現
行、改定後ともほとんど無いこととなる。
d
そ こ で 、 上 記 数 値 に 基 づ き 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 営 業 部
門の労働者が、会社が設定した月間目標労働時間を超えて労働し
た場合、その労働時間分は、フレックスタイム手当・営業手当で
カヴァーできない労働時間、つまり、サーヴィス残業をさせられ
る労働時間にあたると認識のうえ、フレックスタイム手当・営業
手 当 で カ ヴ ァ ー さ れ る 所 定 外 労 働 時 間 を ビ ラ に お い て 「 約 40時 間
前 後 分 」、「 30時 間 前 後 分 」 と 表 現 し た も の と 認 め ら れ る 。
e
ち な み に 、「 そ の 他 の 部 門 」 に お い て は 、 フ レ ッ ク ス タ イ ム 手
当でカヴァーされる所定外労働時間の上限は、上記同様の計算方
法 に よ り 、 現 行 の 場 合 36.18時 間 、 改 定 後 は 26.11時 間 と な る 。 そ
し て 、同 部 門 に お い て は 、現 行 の 月 間 目 標 総 労 働 時 間 は 195時 間 、
現 行 の 月 間 所 定 内 労 働 時 間 は 「 営 業 ・ 企 画 部 門 」 と 同 様 167.5時
- 20 -
間 で あ る か ら 、 そ の 差 の 27.5時 間 が 現 行 の 月 間 目 標 総 労 働 時 間 中
に含まれる所定外労働時間ということになり、改定後は、月間目
標 総 労 働 時 間 は 183時 間 、 月 間 所 定 内 労 働 時 間 は 「 営 業 ・ 企 画 部
門 」 と 同 様 、 165.5時 間 と な る か ら 、 そ の 差 の 17.5時 間 が 月 間 目
標総労働時間中に含まれる所定外労働時間となる。そうすると、
同部門の場合には、フレックスタイム手当・営業手当でカヴァー
さ れ る 所 定 外 労 働 時 間 の 上 限 は 、 前 段 認 定 の と お り 、 現 行 36.18
時 間 、 改 定 後 26.11時 間 で あ る か ら 、 こ の 時 間 数 と 目 標 労 働 時 間
の 中 に 入 る 所 定 外 労 働 時 間 数 と の 差 は 、 現 行 で 8.68時 間 、 改 定 後
で 8.61時 間 で あ る 。 こ の 計 算 結 果 か ら す れ ば 、「 そ の 他 の 部 門 」
においては、設定された目標労働時間を超えて労働しても、その
ことから直ちにフレックスタイム手当・営業手当でカヴァーされ
る所定外労働時間を超えてしまうことにはならないことが認めら
れる。
ウ
なお、会社においては、フレックスタイム制をとっている部門の
うち、日常的に事業場外で業務に従事するような営業外勤者等につ
い て は 、 労 働 時 間 の み な し 制 ( 週 40時 間 ) が 採 用 さ れ て い る が 、 こ
れらの者と会社との間で、フレックスタイム手当・営業手当でカヴ
ァーされる所定外労働時間数を超えてしまったことの処理をめぐる
問題が生じたことはなかった。
し か し な が ら 、一 方 、組 合 内 少 数 派 グ ル ー プ の X 7 、X 1 ら 6 名
が 3 年 7 月 の 組 合 役 員 選 挙 に 立 候 補 し た 際 、統 一 ス ロ ー ガ ン の ひ と
つ と し て 、「 フ レ ッ ク ス 勤 務 者 の 超 過 残 業 分 の 支 払 い を 要 求 、 時 短
に よ る フ レ ッ ク ス 手 当 率 の 削 減 を さ せ ず 安 定 化 を 図 り ま す 」と の 事
項 を 掲 げ て お り 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 構 成 員 を 含 む 組 合 内 少 数
派 グ ル ー プ は 、実 態 と し て は 、い わ ゆ る サ ー ヴ ィ ス 残 業 が 存 在 し て
いるとの認識を有していることが窺える。
エ
「 し か も こ の 残 業 時 間 分 に ・ ・ ・ ・ と 会 社 は 発 表 し ま し た 。」 と
の 部 分 は 、組 合 の 3 年 10月 4 日 付「 第 6 回 中 央 委 員 会 資 料 」に 掲 載
された、総労働時間短縮問題についての会社の説明に基づくもので
あるとして掲載した。
しかし、同資料においては、上記ビラの記述に相当する部分は、
「 本 年 5 月 21日 よ り 、 営 業 ・ 企 画 部 門 は 、 月 間 210時 間 、 そ の 他 の
部 門 は 195時 間 を 月 平 均 目 標 労 働 時 間 と し て 短 縮 に 取 り 組 ん で い る
が 、本 年 6 な い し 8 月 の 3 カ 月 平 均 で は 、営 業・企 画 部 門 が 約 75% 、
そ の 他 の 部 門 に つ い て は 約 70 % が 目 標 時 間 内 に 収 ま っ て い
る ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。」 と 記 載 さ れ て お り 、 文 中 の 「 目 標 時 間 」 が 、 ビ
ラでは「残業時間」と改変されていることが認められる。
⑧
「 休 暇 を 取 る と 賃 金 を マ イ ナ ス に 査 定 ? 」と 題 す る 記 事( 以 下「 記
事 7 」 と い う 。)
- 21 -
こ の 記 事 は 、X 12事 件 の 第 12回 審 問 速 記 録 を も と に 作 成 し た も の で
ある。前 段 は、被 申 立 人 代 理 人 Y5弁 護 士 と会 社 側 申 請 証 人 であるX12
の元 上 司 Y 6課 長 との 、後 段 は 、申 立 人 代 理 人 X16弁 護 士 とY6との 、
い ず れ も X 12に 対 す る 人 事 考 課 を め ぐ る や り と り で あ る 。記 事 に み ら
れ る や り と り は 、全 体 の ご く 一 部 分 で あ り 、し か も ビ ラ の 表 現 は き わ
めて凝縮されたものである。
⑨
「 定 年 退 職 ま で 単 身 赴 任 16年 」と 題 す る 記 事( 以 下 「 記 事 8 」 と い
う 。)
こ の 記 事 は 、 第 1 の 3 (1)で 認 定 し た X 10の 配 転 に 関 す る も の で あ
る。
⑩
「 労 働 組 合 は ? 」 と 題 す る 記 事 ( 以 下 「 記 事 9 」 と い う 。)
ア
文 中 の 「 今 年 の 賃 上 げ は 9,250円 4.7% 」 と の 部 分 及 び こ の 回 答 に
ついての労組執行部の見解を記した部分は、いずれも、4年4月1
日付組合の機関紙「くさび」を出典とする。
イ
また、
「 都 内 平 均( 東 京 都 調 べ )は 14,372円( 5.2% )と の 部 分 は 、
東 京 都 労 働 経 済 局 発 行 の 、 4 年 4 月 25日 付 「 と う き ょ う の 労 働 」 を
出 典 と す る 。同 紙 は 、同 局 労 働 組 合 課 が 同 月 24日 に ま と め た「 春 季
賃 上 げ 要 求・回 答・妥 結 状 況 」
( 調 査 時 点 同 月 22日 )を 報 じ て お り 、
調 査 対 象 1,000労 組 の う ち 5 割 が 交 渉 を 終 え 、その妥 結 平 均 は14,372
円 、 賃 上 げ 率 は 5.17% で あ る 旨 紹 介 し て い る 。
ウ
な お 、こ の 部 分 の 記 事 と 類 似 す る 記 事 は 4 年 5 月 18日 付「 大 日 本
印刷争議団ニュース」に掲載され、このビラは会社門前で配布され
た。
⑪
「 世 間 水 準 と 比 較 し て く だ さ い 。」 と 題 す る 記 事 ( 以 下 「 記 事 10」
と い う 。)
ア
「中労委昨年度大卒モデル賃金」として掲載されている数値は、
中労委事務局発行「平成3年賃金事情調査および退職金、年金およ
び定年制事情調査速報」が出典である。
イ
こ れ ら の 数 値 は 、記 事 5 と 関 連 す る も の で 、残 業 な し 賃 金 の「 世
間水準」を示すものとして掲載されたものである。
(3) 上 記 ビ ラ 配 布 に あ た っ て 早 稲 田 大 学 の 正 門 付 近 で は 、 東 京 地 方 労 働 組
合 総 連 合( 東 京 労 連 )の 役 員 X 13( 第 1 の 3 (3)で 認 定 し た と お り「 日 本
共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 ニ ュ ー ス 」 誤 報 事 件 の 当 事 者 で あ っ た 。)、 本 件 申
立 人 X 2 、同 X 3 が 、
「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」を 支 援 す る 団 体 の 宣 伝 カ ー 備
付 け の ス ピ ー カ ー を 利 用 し て 、順 次 演 説 を 行 っ た 。他 方 、南 門 付 近 で は 、
本件申立人X1と同X5が、ハンドスピーカーを利用してそれぞれ演説
を行った。
7
本件ビラ配布後の会社の対応等
(1) 上 記 の よ う に 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 構 成 員 ら が ビ ラ 配 布 を 行 っ て い
た 早 稲 田 大 学 の 正 門 か ら 、 約 80メ ー ト ル ほ ど 離 れ た 場 所 ( 同 大 学 第 二 学
- 22 -
生会館と道路を隔てて、ほぼ筋向かいの場所)に、会社の「製版研修セ
ン タ ー 」( 3 階 建 て ) が 所 在 し て い た 。
同センターのY7所長は、上記ビラ配布当日の午前中、同センター2
階奥の部屋で、コンピューター教育の資料を作成していた。同所長が、
正午をいくぶん過ぎてから、同じ2階の事務室に移って弁当を食べ始め
た と こ ろ 、窓 越 し に 、早 稲 田 大 学 の 方 か ら 、ス ピ ー カ ー を と お し た 演 説
が聞こえてきた。同人は、初めはこの演説を気にしていなかったが、や
が て 「 私 は 、大 日 本 印 刷 の ○ ○ ・ ・ ・ ・ ・ 」 と 名 乗 っ た う え で ま た 演 説
が始まったので、食事を中断して、早稲田大学の正門が見渡せる同セン
タ ー 2 階 の 実 習 室 に 入 り 、窓 を 開 け て 、同 大 学 正 門 付 近 で 演 説 と ビ ラ 配
布をしている様子を確かめた。しかし、会社の誰が演説をしているのか
ま で は わ か ら な か っ た の で 、Y 7 所 長 は 再 び 事 務 室 に 戻 り 、ス ピ ー カ ー
の音声を聞き取りやすくするために部屋の窓を開け(但し、この窓から
は 同 大 学 正 門 付 近 は 見 渡 せ な い 。)、会 社 の 悪 口 を い っ て い る 演 説 だ と 感
じ な が ら 、食 事 を 続 け 、食 べ 終 わ る と 午 前 中 に 作 成 し た コ ン ピ ュ ー タ ー
教育資料の整理を始めた。
その後、Y7所長は、午後1時から始まるセミナーの講師を務めるた
め、事務室から、同じ建物の中の別の部屋に立ち去った。
(2) 同 日 午 後 5 時 頃 、 製 版 研 修 セ ン タ ー を 訪 れ た 会 社 の 研 修 部 の Y 8 副 部
長( 同 副 部 長 は 、労 務 部 の 業 務 に 従 事 し た 経 歴 を も つ 。)は 、Y 7 所 長 か
ら、上記演説とビラ配布のあった事実を聴かされた。
そ こ で 、Y 8 副 部 長 は 、こ れ は 本 社 に 連 絡 し な け れ ば な ら な い と 思 い 、
Y 7 所 長 に 「 そ の ビ ラ は あ り ま す か 。」 と 聞 い た と こ ろ 、 同 所 長 は 、 入
手 は し て い な い 旨 答 え た 。こ の た め 、ふ た り は 連 れ だ っ て 、早 稲 田 大 学
まで行き、構内の屑籠から本件ビラを拾い上げて、製版研修センターに
戻った。
そして、Y8副部長は、Y7所長から、演説の内容を聞き取り、その
要 旨 を 、拾 っ て き た ビ ラ に メ モ し た 。こ の メ モ に よ れ ば 、Y 7 所 長 が 聞
いたという演説の内容は大略以下のとおりであった。
ア
大 日 本 印 刷 は 、世 界 一 の 印 刷 会 社 だ と い わ れ 、91年 に は 売 上 げ が 1
兆 円 を 突 破 し た と い う が 、実 態 は 非 常 に 厳 し い 。学 生 の 皆 さ ん に 実 態
を知ってもらい、就職の参考にしてほしい。
イ
就職情報誌だけでは知ることのできないナマ情報を満載したものを
配っている。
ウ
勤 続 18年 ・ 大 卒 ・ 40才 の A さ ん の 賃 金 は 、「 い く ら い く ら で 」 世 間
より非常に低い。
エ
会社の賃金は、世間水準より非常に低い。賃上げも低い。
オ
大日本印刷には、住宅手当がない。
カ ( 賃 金 水 準 は )残 業 を 入 れ て も 、世 間 の 残 業 な し 賃 金 並 み で あ る と 、
会社の(労務部長か副部長)がいった。
- 23 -
キ
長時間残業はなくならない。会社は時短を計画しているが無理だ。
ク
大 卒 で 入 社 す る と 、ほ と ん ど の 人 が フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 だ が 、営 業
( 部 門 )で は 、21時 過 ぎ に 終 業 に な る こ と が 多 い 。こ う し た 部 門 で は 、
何時間残業しようが、残業手当は、決まった額しか払われていない。
ケ
こんなに遅く帰っては、結婚してからの家庭生活に支障がある。
コ
休 暇 は ほ と ん ど 取 れ な い 。と っ た ら 査 定 に ひ び く 。休 暇 は 半 数 く ら
いがゼロである。
サ
過 労 死 し て も 遺 族 補 償 も し な い 。労 災 認 定 の 判 決 が あ っ て も 遺 族 補
償をしない。
シ
大 日 本 印 刷 の 給 与 明 細 は 、ど れ だ け 働 い た 分 の 給 与 な の か わ か ら な
い。
ス
交 替 制 勤 務 は 12時 間 。
セ
会 社 の低 賃 金 、長 時 間 労 働 の実 態 を知 らないで入 社 すると後 悔 する。
大日本印刷に入社するのはよく考えた方がよい。
(3) 上 記 の よ う に Y 7 所 長 の 話 を 聞 き 取 っ た Y 8 副 部 長 は 、 本 社 の Y 2 労
務部長に電話連絡をし、詳しい話を聞きたいという同部長の求めに応じ
て 同 日 午 後 6 時 30分 頃 本 社 に 行 き 、 ビ ラ を 示 し な が ら Y 7 所 長 か ら 聞 き
取った点を報告した(Y7所長は、同日夜、他に所用があるためこの日
は 本 社 に 行 か な か っ た 。)。
(4) 翌 16日 、 Y 2 労 務 部 長 は 、 研 修 セ ン タ ー の Y 7 所 長 と Y 9 課 長 を 本 社
に 呼 び 、前 日 の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」の 宣 伝 活 動 に つ い て 説 明 を 受 け た 。
(5) そ の 後 、 同 部 長 は 、 同 争 議 団 の ビ ラ 配 布 活 動 に よ り 、 2 週 間 後 の 「 会
社説明会」に悪影響が出ることを懸念して、大卒者の採用業務を担当す
る 人 材 開 発 部 の Y 10部 長 と 善 後 策 を 協 議 し た 。
そ の 結 果 、会 社 は 、早 稲 田 大 学 出 身 の 従 業 員 を 集 め て 、前 記 ビ ラ 配 布
の事実を説明のうえ、会社への入社を望んでいる後輩からビラ配布にか
かわる問い合わせがあった場合には、事情を説明して志望を断念しない
よ う 説 得 方 を 求 め る こ と 、 ま た 、「 会 社 説 明 会 」 へ の 参 加 を 申 し 込 ん で
いた学生に対し、その確認を求めることとし、参加を辞退する旨応答し
た 学 生 に は 、改 め て 説 得 す る こ と 、さ ら に「 会 社 説 明 会 」当 日 、ビ ラ 配
布にかかわる質問が出た場合は、事情を説明して納得を得るよう務める
こと等を決めた。
(6)①
同 月 23日 、 会 社 は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 構 成 員 が 所 属 す る 各 事
業 部 の 総 務 部 長 ま た は 総 務 課 長 に 命 じ て 、同 争 議 団 の 構 成 員 か ら の 事
情 聴 取 を行 った( 但 し、すでに会 社 を定 年 退 職 していたX14を除 く。)。
な お 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 以 前 、 そ の 構 成 員 の 氏 名 を 同 争 議
団 名 義 のビラで紹 介 したことがあり、会 社 はこのビラを所 持 していた。
②
この事情聴取のために労務部では、予め、共通の質問事項として、
被 調 査 者 が ビ ラ の 編 集・作 成 、配 布 に ど の 程 度 関 与 し た か 、誰 を 対 象
と し て ビ ラ を 配 布 し た の か 、配 布 枚 数 は ど の 位 か 、本 件 ビ ラ 配 布 が 会
- 24 -
社 の採 用 活 動 に与 える影 響 についてどう考 えるかの諸 点 を設 定 したが、
演説の内容に関する質問事項はなかった。
③
そ し て 、当 日 の 事 情 聴 取 の 席 に は 、質 問 を 行 う 者 の ほ か 、記 録 担 当
者が置かれた。
他 方 、X 14を 除 く「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」の 構 成 員 10名 は 、こ の 事 情
聴 取 に 応 じ たが、X11は、ビラ 配 布 問 題 に関 する一 切 の 関 与 を 否 定 し、
また、X6は、会社側の質問に対しては応答を一切拒んだ。そして、
その余の8名も、会社側の質問に部分的に応答した事項はあったが、
概 ね 、ビ ラ 配 布 行 為 は 正 当 で あ り 、こ れ に 対 す る 事 情 聴 取 は 不 当 で あ
る と し て 抗 議 す る 態 度 を 示 し た 。こ れ に 対 し て 、質 問 す る 管 理 職 の な
か に は 、業 を 煮 や し て 、も う よ い か ら 職 場 に 戻 る よ う に と 述 べ た 者 も
いた。
④
上 記 事 情 聴 取 後 、各 事 業 部 の 総 務 部 長 ら か ら 口 頭 報 告 を 受 け た 会 社
は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 構 成 員 各 自 の 本 件 ビ ラ 配 布 問 題 へ の 関 与 に
ついて、以下のように判断した。
ア
X 1 、X 2 、X 3 は 、本 件 ビ ラ の 編 集・ 作 成 、配 布 の 全 て に 関 与
し た こ と を 自 認 し た 。と く に 、X 2 は 、自 分 は「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」
の団長として、全ての責任は自分に帰属する旨自認した。
イ
X 4 、X 5 は 、本 件 ビ ラ の 編 集・作 成 に 関 与 し た こ と を 自 認 し た 。
ウ
X 7 、X 8 、X 9 は 、本 件 ビ ラ の 配 布 に 関 与 し た こ と を 自 認 し た 。
エ
X 11は 、 本 件 ビ ラ の 編 集 ・ 作 成 ・ 配 布 へ の 関 与 を 全 て 否 定 し た 。
オ
X6は、質問に対し、全て応答を拒んだ。
カ
こ れ ら 10名 は 、 全 員 開 き 直 っ た 態 度 で 、 ま っ た く 反 省 が 見 ら れ な
かった。
(7) 4 年 7 月 1 日 、 会 社 に お い て 第 1 日 目 の 「 会 社 説 明 会 」 が 開 か れ た 。
当日、予約しながら「会社説明会」に参加しなかった早稲田大学の学生
は 50名 で あ っ た 。 ま た 、 第 2 日 目 以 降 「 会 社 説 明 会 」 に 参 加 す る こ と を
予 約 し な が ら 参 加 し な か っ た 早 稲 田 大 学 の 学 生 は 合 計 36名 で あ っ た(「 会
社 説 明 会 」 は 、 8 月 20日 ま で 行 わ れ た 。)。
な お 、企 業 の 従 業 員 採 用 事 務 の 担 当 者 や 求 職 す る 学 生 の 間 で は 、一 般
に、何日かにわたって行われる「会社説明会」の初日に参加する者は、
そ の 会 社 を 第 一 志 望 と し て お り 、逆 に 初 日 に 参 加 を 予 定 し て い な が ら 実
際 に は 参 加 し な か っ た 者 は 、そ の 会 社 へ の 応 募 意 思 を 失 っ た も の と 理 解
されている。
「会社説明会」開催期間中の参加状況を、各大学別に、前年と対比す
ると以下の表のとおりである。
早稲田
平3説明会
平4説明会
(平4入社)
(平5入社)
290
236
- 25 -
増減
- 54
慶応
127
157
+ 30
明治
186
217
+ 31
中央
164
203
+ 39
日本
187
207
+ 20
その他
1,492
1,733
+ 241
合計
2,446
2,753
+ 307
なお、本件審査手続において、会社のY2労務部長は、早稲田大学の
学生で「会社説明会」への出席予約を取消した者のなかには、友達から
前 記 ビ ラ を 見 せ ら れ て 、内 容 が 本 当 か ど う か わ か ら な い が 、会 社 に 就 職
する気持ちが冷めたとか、母親にビラを見せたら会社に入社することを
強 く 反 対 さ れ た と か 、当 日 の 宣 伝 放 送 を 聴 い て 、印 刷 業 界 ト ッ プ の 会 社
はそれなりに厳しいものだと感じて動揺したと述べた者がいた旨を、ま
た 、「 会 社 説 明 会 」 当 日 、 ビ ラ に 、 勤 続 18年 40才 で 250,000円 と 書 か れ て
いるが本当かとか、休暇を取るとマイナス査定されるのかなどの質問を
した者があった旨をそれぞれ証言した。
(8) 他 方 、 会 社 は 、 大 日 本 印 刷 争 議 団 の 構 成 員 に 対 す る 事 情 聴 取 後 、 こ れ
ら構成員に対する処分の検討に入り、その結果、同年7月9日付で、先
に 事 情 聴 取 を 行 っ た 者 の う ち 、 X 11を 除 く 9 名 に 対 し ( 但 し 、 同 日 、 休
暇 を と っ て い た X 9 に つ い て は 同 月 11日 付 )、そ れ ぞ れ 文 書 に よ り 、以 下
のように処分を発令した(ちなみに、会社においては、処分の発令文書
に は 、 当 該 処 分 の 基 礎 と な る 事 実 等 の 記 載 は な さ れ な い 。)。
ア
X 1 、 X 2 、X 3
い ず れ も 「 就 業 規 則 第 57条 第 1 号 お よ び 第 5
号により解雇する」との発令。
イ
X 4 、X 5
い ず れ も「 就 業 規 則 第 95条 第 18号 、第 19号 お よ び 第
25号 に よ り 10日 間 の 出 勤 停 止 に 処 す る 」 と の 発 令 。
ウ
X7、X8、X9
い ず れ も 「 就 業 規 則 第 95条 第 18号 、 第 19号 お
よ び 第 25号 に よ り 平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 に 処 す る 」 と の 発 令 。
エ
X6
「 就 業 規 則 第 95条 第 3 号 お よ び 第 25号 に よ り 平 均 賃 金 半 日
分の減給に処する」との発令。
(9) 上 記 X 1 ら に 対 す る 解 雇 も し く は 懲 戒 処 分 に か か る 会 社 の 就 業 規 則 の
関係条文は次のとおりである。
(解雇の基準)
第 57条
1
従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
懲戒規定に該当したとき
(2ないし4略)
5
業務に支障のあるとき
(6ないし7略)
(懲戒の種類)
第 94条
懲戒処分は、次に掲げる譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、
- 26 -
懲 戒 解 雇 の5種 類 とし、その一 または二 を併 加 することがある。
1
譴責
始末書をとり、将来を戒める
2
減給
1 回 の 額 が 平 均 賃 金 の 1 日 分 の 半 額 を 超 え ず 、 総 額 の 10
分の1を超えない範囲の金額を徴収する
3
出勤停止
10日 以 内 就 業 を 禁 止 し 、 そ の 期 間 の 賃 金 は 支 払 わ な
い
4
諭旨解雇
説諭の上自発的に退職させる
5
懲戒解雇
予告期間を設けず、即時解雇する
(懲戒の基準)
第 95条
従 業 員 が 次 の 各 号 の 一 に 該 当 す る と き は 、前 条 に よ る 懲 戒 処
分を行う。
この場合、適用する懲戒の種類は、事案の内容、情状により
決定する。
(1ないし2略)
3
業務に関する会社の指示、命令に従わないとき
( 4 な い し 17略 )
18
会社の信用を失墜し、名誉を毀損する行為のあったとき
19
会 社 の経 営 に関 する事 項 を故 意 に歪 曲 して流 布 宣 伝 したとき( 20
な い し 24略 )
25
その他前各号に準ずる程度の行為があったとき
(10) 一 方 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 会 社 が 行 っ た 前 記 事 情 聴 取 の 直 後 か
ら解雇・懲戒処分の直後にかけて、会社の門前等で、会社が行った事情
聴 取 な い し そ の 後 の 解 雇・懲 戒 処 分 に 抗 議 す る 趣 旨 の 記 事 を 掲 載 し た「 大
日本印刷争議団ニュース」を少なくとも4回配布した。そこには以下の
ような文言が記されていた。
ア
4 年 6 月 23日 付「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」表 面 に は 、
「・・・・・
宣 伝 行 動 で は 、生 活 も で き な い 低 賃 金 を お し つ け る 人 権 侵 害・死 活
問 題 の 賃 金・昇 格 差 別 が 行 わ れ て い る 世 界 一 の 印 刷 会 社 の 実 態 と 東
京 高 等 裁 判 所 で過 労 死 と認 定 されても未 だに謝 罪 の言 葉 もなく遺 族
補 償 も し な い 実 態 を 告 発 し ま し た 。大 学 門 前 で は そ う し た 問 題 と 共
に 、賃 金 、労 働 時 間 、休 暇 、単 身 赴 任 、労 働 実 績 の 印 字 も な い 給 与
明細、労働組合の実態等就職の際に参考になる情報も宣伝しまし
た 。」 と の 記 述 が な さ れ て い た 。
イ
4 年 7 月 1 日 付 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 裏 面 に は 、「 会 社
の 不 当 労 働 行 為 に 断 固 抗 議 し ま す 」、
「大学門前でのビラ配布に会社
が と ん で も な い 一 方 的 言 い が か り 」と の 大 見 出 し の 記 事 中 に「 大 日
本 印 刷 争 議 団 は 、学 生 が 就 職 先 を 選 択 す る に あ た り 、ま た 勉 学 の 上
で も 、国 民 生 活 に 深 く か か わ り の あ る 印 刷・情 報 産 業 の ト ッ プ 企 業
の大 日 本 印 刷 を労 働 条 件 等 のありのままを知 ってもらうことは有 益
な こ と と 考 え て い ま す 。・ ・ ・ ・ ・ ・ 」 と の 記 述 が な さ れ て い た 。
- 27 -
ウ
同 月 15日 付 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 表 面 に は 、「 3 名 の 解
雇・6 名 の 処 分 の 撤 回 を 」、
「 東 京 都 地 方 労 働 委 員 会 へ 申 し 立 て 」と
の大見出しの記事中に、
「( 労 働 条 件 の )実 態 を ま っ た く 知 ら さ れ な
い ま ま に 入 社 し た ら 、後 に な っ て 失 望 し て や る 気 を な く す こ と に も
な り か ね ま せ ん 。 そ こ で 私 た ち は 、 早 稲 田 大 学 の 門 前 で 、 6 月 15
日 に 配 布 等 の 宣 伝 活 動 を し ま し た 。こ れ で 、解 雇・処 分 さ れ ま し た 。」
との記述がなされていた。
エ
同 月 17日 付 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 表 面 に は 、「 解 雇 ・ 処
分 を 撤 回 し 、 世 間 に 知 ら れ て は 困 る 実 態 の 改 善 を 急 げ 」、「 7 月 15
日
解 雇・処 分 の 撤 回 と 謝 罪 を 求 め
東京都地方労働委員会へ申し
立 て 」 と の 大 見 出 し の 記 事 中 に 、「 確 か に 、 大 日 本 印 刷 の 労 働 実 態
を記 載 したビラが大 学 の門 前 で配 布 されたら会 社 は痛 手 を負 うでし
ょ う 。し か し 、批 判 の 自 由 を 含 む 言 論 の 自 由 が 憲 法 で 保 障 さ れ て い
ま す 。会 社 と し て は 知 ら れ て は 困 る よ う な 労 働 条 件 の 実 態 の 改 善 に
こ そ 努 力 す る と い う の が 、 経 営 者 の 責 務 で は な い で し ょ う か 。」 と
の記述がなされていた。
(11) 会 社 は 、4 年 10月 1 日 、5 年 度 採 用 内 定 者 を 決 定 し た 。そ れ に よ れ ば 、
早 稲 田 大 学 の 学 生 の 場 合 、 前 年 度 に お い て は 採 用 内 定 者 は 47名 ( そ の 後
4 年 4 月 に 実 際 に 入 社 し た 者 は 34名 。)で あ っ た が 、5 年 度 採 用 内 定 者 は
36名 で ( そ の 後 5 年 4 月 に 実 際 に 入 社 し た 者 は 33名 。)、 前 年 度 よ り 11名
減であった。一方、早稲田大学と対比されることが多い慶応義塾大学の
場合、前年度においては採用内定者は7名(その後4年4月に実際に入
社 し た 者 は 6 名 。)で あ っ た が 、5 年 度 採 用 内 定 者 は 34名( そ の 後 5 年 4
月 に 実 際 に 入 社 し た 者 は 25名 。)、 前 年 度 よ り 27名 増 で あ っ た 。
な お 、早 稲 田 大 学 に お い て 学 生 の 就 職 指 導 等 を 所 管 す る 就 職 部 の 学 生
生活センターの把握したところによれば、同大学の学生で、本件会社へ
の就職が内定し、その旨を同センターに報告した者の数は次のとおりで
ある。
63年 度 採 用 内 定 者
31名
元年度採用内定者
35名
2年度採用内定者
14名
3年度採用内定者
40名
4年度採用内定者
31名
5年度採用内定者
29名
(12) こ の 間 4 年 4 月 21日 、 本 件 会 社 ほ か い わ ゆ る 印 刷 大 手 5 社 と 中 堅 10
社 の 計 15社 は 、 公 正 取 引 委 員 会 か ら 、 日 本 道 路 公 団 と 首 都 高 速 道 路 公 団
が発注する磁気カード通行券や回数券の納入をめぐり、談合して落札業
者を決めていたことは、独占禁止法に違反する行為であるとして、同法
3条に基づく「排除勧告」を受けた。
そ の 後 同 年 10月 13日 、社 会 保 険 庁 の 年 金 支 払 い 通 知 書 の シ ー ル 印 刷 納
- 28 -
入をめぐる談合があったとして、本件会社の課長職の従業員1名を含む
印刷会社5社の従業員6名が刑法の談合罪容疑で逮捕された。その後、
上 記 6 名 の な か に は 、釈 放 さ れ た 者 も い た が 、捜 査 の 進 展 に よ り 、結 局 、
本 件 会 社 の 幹 部 社 員 ( 課 長 職 以 上 の 者 ) 4 名 を 含 む 10名 が 談 合 罪 容 疑 で
起訴された。
(13) 翌 5 年 6 月 15日 ( 本 件 ビ ラ 配 布 か ら 丁 度 1 年 経 過 し た 日 )、 大 日 本 印
刷争議団支援共闘会議は、早稲田大学、慶応義塾大学、立教大学の各門
前で。B3判大二つ折り、第1面と第4面に本件処分問題の経緯ないし
会社に対する抗議と市民に対する支援の呼びかけを記載し、内側の2・
3面に本件ビラを全面的に転載した同団体名義のビラを配布した。
会 社 は 、こ の ビ ラ 配 布 の 事 実 を 、早 稲 田 大 学 分 に つ い て は 、会 社 の 前
記研修センターからの連絡により、また慶応義塾大学と立教大学分につ
い て は 、両 大 学 出 身 者 で あ る 従 業 員 ら が 、会 社 に 入 社 を 希 望 し て い る 学
生から、ビラを見て不安を感じたといって問い合わせてきたと報告した
ことから、それぞれ知るにいたった。
そ こ で、会 社 は、す で に解 雇 し た X 1 ら3 名 を 除 く本 件 各 申 立 人 と X11
につき事情聴取を行った。その結果、これらの者は直接配布には携わっ
ていなかったようであるが、少なくとも、事前にビラ配布がなされるこ
とは知っていたと判断した。しかし、これらの者が具体的にどの程度こ
のビラ配布活動に関与したか、それ以上には明らかにはならなかったと
して、処分は行わなかった。
8
本件審査手続きにおいて会社が示した処分理由
会 社 は 、当 委 員 会 の 審 査 手 続 き に お い て 、本 件 ビ ラ の 内 容 は 、随 所 に 事
実を歪曲した部分があり、会社の名誉・信用・企業イメージを毀損させる
だ け で な く 、会 社 が 現 に 行 っ て い る 新 規 従 業 員 の 採 用 活 動 に 重 大 な 支 障 を
生 じ さ せ 得 る も の で あ っ た 旨 主 張 し 、X 1 ら 9 名 に 対 す る 処 分 の 理 由 を 以
下のとおり明らかにした。
①
X2、X1、X3について
X2は、本件行為を行った「大日本印刷争議団」において、団長たる
地 位 に あ り 、X 1 と X 3 は 、本 件 ビ ラ に 自 ら の 給 料 明 細 表 を 提 供 し て 掲
載させ、あるいは連絡先として自らの住所、氏名を掲載させる等、それ
ぞれ本件ビラの編集、さらには本件行為において重要な役割を担ったこ
と が 明 ら か で あ っ た 。こ れ ら 3 名 の 本 件 行 為 に お け る 主 導 性 、重 要 性 等
を 勘 案 す る と 、今 後 も 雇 用 を 継 続 す る こ と は 困 難 と 判 断 し 、就 業 規 則 第
57条 第 1 号 お よ び 同 条 第 5 号 を 適 用 し 、 そ れ ぞ れ 解 雇 す る こ と を 相 当 と
すると判断した。
な お 、X 2 ら 3 名 を 解 雇 す る に 際 し て は 、も と よ り 情 状 の 有 無 を 勘 案
し た が 、こ れ ら 3 名 は 、い ず れ も 日 頃 か ら 勤 務 態 度 も 芳 し く な く 、事 後
における反省も全くみられなかった。のみならず、X2ら3名は、いず
れ も 、過 去 に お い て 重 大 な 職 場 秩 序 違 反 行 為 を 行 い 、会 社 か ら 懲 戒 処 分
- 29 -
等を受け、会社が職場秩序違反行為について厳しく対処するものである
こ と 、言 論 行 為 に あ っ て も 職 場 秩 序 に 関 係 す る も の に つ い て は そ の 例 外
で は な い こ と を 十 分 知 悉 し て い た 筈 で あ る 。 す な わ ち 、 X 2 は 、 53年 6
月 に発 生 し た「 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 ニ ュー ス」誤 報 事 件 に関 与 し、
出 勤 停 止 5 日 間 の 処 分 を 受 け( 同 人 に 対 す る こ の 処 分 は 、東 京 地 裁 判 決
に お い て も 有 効 と さ れ た 。)、そ の 後 も 、2 年 11月 に 発 生 し た「 大 日 本 印
刷 争 議 団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」誤 報 事 件 に 関 与 し 、
「 厳 重 注 意 」を 受 け た 。
同 人 は 、 こ れ 以 外 に も 53年 1 月 に 発 生 し た 「 N ・ K 遺 族 に 対 す る カ ン パ
活 動 」事 件 に 関 与 し 、減 給 処 分 を 受 け て い た 。ま た 、X 1 と X 3 は 、上
記「 大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」誤 報 事 件 に 関 与 し 、譴 責 処 分
を 受 け て い た 。そ れ に も か か わ ら ず 、今 般 、ま た よ り 積 極 的 に 会 社 に 損
害を与えたものである。そうだとすれば、情状において、何ら酌むべき
点はなく、上記3名については、その主導的立場から解雇せざるを得な
いと判断したものであり、会社の措置はまったく正当なものである。
②
X4、X5について
X4とX5は、本件行為のうち、ビラの編集に関与したことが明らか
で あ っ た の で 、就 業 規 則 第 95条 第 18号 、同 条 第 19号 、同 条 第 25号 を 適 用
し て 出 勤 停 止 10日 間 と し た 。ま た 、上 記 両 名 の う ち 、X 4 は 、前 記 2 年
11月 に 発 生 し た「 大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 ニ ュ ー ス 」誤 報 事 件 に 関 与
し 、譴 責 処 分 に 付 さ れ た 経 歴 を 有 す る 等 、両 名 に も 情 状 に お い て 、格 別
酌むべき点はなかった。
③
X7、X8、X9について
X7、X8およびX9は、本件行為のうち、ビラの配布に関与したこ
とが認められたが、ビラの編集に関与したことまでは認めることはでき
な か っ た の で 、就 業 規 則 第 95条 第 18号 、同 条 第 19号 、同 条 第 25号 を 適 用
のうえ、処分の程度については、平均賃金半日分の減給とした。
④
X6について
X 6 は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 一 員 で あ り 、 本 件 行 為 に 加 担 し た も
の と 考 え ら れ る が 、 同 人 は 、 会 社 が 行 っ た 4 年 6 月 23日 の 調 査 に 際 し 、
ひとり、頑なに協力を拒んだ。そこで、X6については、前記調査にお
い て 会 社 の 指 示 、命 令 に 従 わ な か っ た 行 為 に つ い て 、就 業 規 則 第 95条 第
3 号 、 同 条 第 25号 を 適 用 し 、 平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 と す る に 止 め た 。
以上の事実が認められる。
第2
1
判断
「少数派グループ」の存在についての会社の認識
(1) 当 事 者 の 主 張
①
申立人らの主張
申 立 人 ら は 、長 年 に わ た り 、組 合 内 少 数 派 グ ル ー プ と し て 、労 使 協
調 的 な組 合 にあって職 場 に生 ずるさまざまな問 題 を積 極 的 に採 り上 げ、
労 働 者 の 権 利 を 守 り 、そ の 要 求 を 実 現 す る た め の 活 動 や 組 合 の 民 主 化
- 30 -
の た め の 活 動 を 行 っ て き た 。そ し て 、申 立 人 ら は 、こ れ ら 正 当 な 組 合
活動を理由に会社から賃金・昇格等において差別を受けてきたため、
別件不当労働行為救済申立てを行った。
②
被申立人の主張
ア
申 立 人 ら が 、あ る 意 味 で グ ル ー プ 的 行 動 を と っ た 最 初 は 、60年 11
月 の「 向 上 意 欲 事 件 」で あ り 、そ れ 以 前 に 申 立 人 ら が 格 別 の グ ル ー
プ を 構 成 し て い る こ と な ど 知 り よ う も な か っ た し 、申 立 人 ら が 本 件
審査手続きにおいて提出した資料によっても、向上意欲事件以前に
は目に見える形で活動していなかったことが明らかである。
イ
申立人らの主たる活動は、会社門前等でのビラ配布であるという
が 、会 社 が こ れ を 格 別 調 査 し な い か ぎ り 、ビ ラ 配 布 の 事 実 か ら 申 立
人らのグループの存在を知り得る筈もない。
(2) 当 委 員 会 の 判 断
被 申 立 人 は 、60年 11月 に 起 き た「 向 上 意 欲 事 件 」以 前 に お い て 、申 立
人らが格別のグループを構成していたことは知らなかったと主張する。
し か し な が ら 、 X 10が 組 合 の 副 委 員 長 を つ と め て い た 当 時 、 F ら 3 名 の
懲 戒 解 雇 事 件 が 生 じ 、 そ の 際 、 X 11が F の 証 人 と し て 裁 判 所 に 出 廷 し て
い る こ と ( 第 1 の 2 (1))、 ま た X 4 は 46年 に 、 組 合 役 員 へ の 返 り 咲 き を
期 す る X 10と と も に 組 合 の 執 行 委 員 選 挙 に 立 候 補 し 、そ の 後 も 同 人 は 元
年 の 組 合 執 行 委 員 選 挙 ま で 、毎 回 立 候 補 し て い る 事 実 が 窺 え る こ と( 第
1 の 2 (1)、 (2))、 さ ら に 48年 に 入 っ て か ら は 、 従 業 員 と し て 組 合 に 加
入 す る 一 方 、日 本 共 産 党 の 党 員 な い し 同 党 の 協 力 者 で あ る 亡 X 12ら の 手
によって会社の門前で公然かつ継続的に「日本共産党大日本印刷支部ニ
ュ ー ス 」 が 配 布 さ れ る よ う に な っ て お り ( 第 1 の 3 (3)① )、 労 使 関 係 の
経験則からすれば、会社がこの点に何ら関心を示すことなく等閑視して
い た と は 考 え ら れ な い こ と 、加 え て 52年 に は 、亡 X 12や X 2 ら が 会 社 構
内でN・K遺族へのカンパ活動を行い、会社から懲戒処分に付されてい
る こ と ( 第 1 の 3 (2)) 等 の 諸 事 情 を 総 合 す れ ば 、 会 社 は 60年 以 前 に 、
そ の 構 成 員 の 詳 細 な 把 握 ま で は と も か く 、 亡 X 12や X 4 、 X 2 、 X 11な
どが少数派グループを構成していることを明らかに認識していたという
べきである。また、会社は、本件ビラ配布がなされたのち、本件申立て
人 ら か ら 事 情 聴 取 を 行 う に あ た っ て 、す で に 配 布 さ れ て い た 大 日 本 印 刷
争 議 団 名 義 の ビ ラ に基 づ き、そ の 構 成 員 を 特 定 し て い る の で あ る か ら( 第
1 の 7 (6)① )、 少 な く と も 会 社 の 門 前 で 撒 か れ る 少 数 派 グ ル ー プ の ビ ラ
は 、つ ね づ ね 収 集 し て い た も の と 推 認 さ れ る 。そ う だ と す れ ば 、上 記 会
社の主張はいずれも採用することができない。
2
本件ビラ配布行為の組合活動該当性
(1) 当 事 者 の 主 張
①
申立人らの主張
ア
不 当 労 働 行 為 制 度 は 、 憲 法 28条 に 直 接 由 来 す る も の で あ る か ら 、
- 31 -
労 働 組 合 法 第 7 条 第 1 号 に い う「 労 働 組 合 」と は 、憲 法 28条 の 団 結
権を保障され、これを享有する労働者の団結体を広く包含するもの
と解すべきであり、労働者の一時的団結体である争議団もここにい
う 「 労 働 組 合 」 に 含 ま れ る 。 そ し て 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 は 、 会
社 に 対 し て 、自 ら の 賃 金・昇 格 差 別 を 不 当 労 働 行 為 で あ る と し て 争
い 、そ の 迅 速・適 生 な 解 決 を 主 た る 目 的 と す る も の で あ る か ら 、上
記「労働組合」に含まれる。また、本件ビラの作成・配布及びそれ
に伴う宣伝行為は、同争議団の総会において決定されたものである
か ら 、 機 関 決 定 に 基 づ く 行 為 で あ り 、「 労 働 組 合 の ・ ・ ・ 行 為 」 に
あたることにも疑問の余地はない。
イ
仮 に 、大 日 本 印 刷 労 組 を 基 準 と し て 考 察 し て も 、不 当 労 働 行 為 制
度 の 趣 旨 か ら す れ ば 、個 々 の 組 合 員 の 自 発 的 活 動 も ま た 、労 働 条 件
の 維 持 改 善 そ の 他 労 働 者 の 経 済 的 地 位 の 向 上 と い う 団 結 の目 的 を 達
成 す る の に 必 要 な 範 囲 の 行 為 で あ れ ば 、「 労 働 組 合 の ・ ・ ・ 行 為 」
と 評 価 さ れ る べ き も の で あ る か ら 、申 立 人 ら の 本 件 行 為 は 、大 日 本
印 刷 労 組 の 一 般 組 合 員 と し て 、申 立 人 ら に 対 す る 不 当 労 働 行 為 の 排
除を求め、併せて大日本印刷労働者の労働条件の向上を目指すもの
で あ り 、「 労 働 組 合 の ・ ・ ・ 行 為 」 に 包 含 さ れ る 。
②
被申立人の主張
不 当 労 働 行 為 制 度 の 保 護 を 受 け る た め に は 、個 々 の 組 合 員 の 行 為 で
あ れ 、グ ル ー プ の 行 為 で あ れ 、 何 ら か の 意 味 に お い て 「 労 働 組 合 」 の
行 為 に 該 当 し な け れ ば な ら な い が 、申 立 人 ら で 構 成 す る と い う グ ル ー
プ な る も の は 、会 社 の 枠 を 超 え た 存 在 で あ り 、ま た 申 立 人 ら が 行 っ た
と い う 行 為 も 、い か な る 意 味 で も 、会 社 に 唯 一 存 在 す る 大 日 本 印 刷 労
組 の 活 動 と は み な せ な い 。す な わ ち 、申 立 人 ら は 、日 本 共 産 党 大 日 本
印 刷 支 部 と か な り の 部 分 で 重 複 す る と い う 。そ の 意 味 す る と こ ろ は 必
ず し も 明 ら か で は な い が 、同 党 が 政 治 権 力 を 獲 得 す る こ と を 目 的 と す
る 政 党 で あ る 以 上 、申 立 人 ら の グ ル ー プ の 目 的 も 最 終 的 に は 、政 権 獲
得 、そ の た め の 支 持 者 の 獲 得 、末 端 組 織 の 確 立 が 主 要 な 目 的 で あ っ た
といわざるを得ない。
ま た 、申 立 人 ら の グ ル ー プ の ビ ラ 配 布 に は 組 合 と は 関 係 の な い 外 部
の 者 が 常 に 参 加 し て い た が 、申 立 人 ら の グ ル ー プ が 組 合 の 活 動 を 行 っ
て い た と い う の で あ れ ば 、こ の 事 実 は き わ め て 奇 異 で あ る 。そ し て 本
件 ビ ラ 配 布 に も 東 京 労 連 ほ か 外 部 の 団 体 が 参 加 し た と い う が 、そ れ ら
は 組 合 と は 何 の 関 係 も 存 在 し な い 。さ ら に 争 議 団 名 義 の ビ ラ に は 、組
合 と は 本 来 無 関 係 な 政 治 的 記 事 が 多 数 含 ま れ 、申 立 人 ら の グ ル ー プ な
るも のの 政 治 的 側 面 を 如 実 に示 し てい る。い ずれ にせ よ 、申 立 人 ら が、
組 合 の 組 織 強 化 に 向 け て 活 動 を 行 っ た 事 実 は な い か ら 、申 立 人 ら の 行
為は組合活動にはあたらない。
(2) 当 委 員 会 の 判 断
- 32 -
①
申 立 人 ら は 、申 立 人 ら の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」は 、 労 働 組 合 法 第 7
条 第 1 号 に い う「 労 働 組 合 」に 含 ま れ る「 争 議 団 」に 当 た る と 解 す べ
き も の で あ る と い う け れ ど も 、い わ ゆ る 争 議 団 は 、一 般 に 未 組 織 労 働
者 の 一 時 的 団 結 体 を い う も の で あ る と こ ろ 、申 立 人 ら の「 大 日 本 印 刷
争議団」は、すでに大日本印刷労組に加入している組合員の一部が、
共同の行動をするために集まった任意のグループであるというに過ぎ
な い か ら 、申 立 人 ら の 主 張 の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」は 、労 働 組 合 法 第
7条 第 1号 にい う「 労 働 組 合 」に 該 当 す る も のと いう こ とは でき な い。
当委員会は、申立人らの見解を採用することはできない。
②
と こ ろ で 、会 社 は 、本 件 ビ ラ 配 布 等 の 行 為 は 、申 立 人 ら が 所 属 す る
組 合 の 意 思 決 定 と は 無 関 係 の こ と で あ り 、ま た 格 別 組 合 の 組 織 強 化 に
資 す る も の で も な か っ た か ら 、労 働 組 合 法 第 7 条 第 1 号 の「 労 働 組 合
の・・・行為」にはあたらないと主張する。
た し か に 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 が 、組 合 の 機 関 決 定 に 基 づ く も の で な
い こ と は 明 ら か で あ る 。し か し な が ら 、本 件 ビ ラ 配 布 を 含 む「 大 日 本
印 刷 争 議 団 」 名 義 の 一 連 の ビ ラ 配 布 活 動 は 、 そ も そ も X 1 ら 11名 が 、
他 の 組 合 員 と 異 な り 、と く に 会 社 か ら 賃 金 ・ 昇 格 差 別 を 受 け て い る と
の 認 識 の も と 、組 合 に そ の 善 処 方 を 求 め た が 、採 り 上 げ て も ら え な か
っ た た め に 、労 働 組 合 法 第 5 条 の 規 定 に 基 づ き 、い わ ゆ る 個 人 申 立 て
の形 式 で、当 委 員 会 に救 済 を申 し立 てたことを契 機 とするものである。
こ の よ う な 場 合 、申 立 人 ら が 、相 互 に 士 気 を 鼓 舞 し 、ま た 、世 論 の 支
持 を 得 る た め に 、自 己 の 主 張 の 正 当 な ゆ え ん や 、会 社 の い わ ゆ る 労 務
政策あるいは現行の労働条件を批判する宣伝活動が必要であるとし、
企 業 の 内 外 に わ た っ て そ の 実 行 に 及 ぶ こ と は 、組 合 が 救 済 を 申 し 立 て
た 場 合 に 少 な か ら ず 行 わ れ る 宣 伝 活 動 の 場 合 と 同 じ く 、格 別 奇 異 な こ
とではない。
そ し て 、会 社 が 問 題 と す る 本 件 ビ ラ 配 布 を 含 む 申 立 人 ら の 宣 伝 活 動
は 、組 合 運 動 を 離 れ て の 単 な る 個 人 的 意 見 の 表 明 で は な く 、組 合 活 動
本来の関心事である従業員に対する会社の処遇や労働条件に関する事
項 を 、組 合 内 少 数 派 と し て の 立 場 か ら 批 判 的 に 採 り 上 げ 、こ れ を 第 三
者 に 知 ら し め る こ と に よ っ て 、世 論 を 喚 起 し 、終 局 的 に 賃 金・昇 格 差
別 問 題 に関 して 自 己 に 有 利 な 解 決 を導 こう と 企 図 し た も ので ある と 解
さ れ 、 ま た 、か か る 宣 伝 活 動 が 、 申 立 人 ら の 所 属 す る 組 合 の 意 思 と は
無 関 係 で あ る と し て も 、そ の 一 事 を も っ て 直 ち に 労 働 者 の 団 結 目 的 を
逸 脱 す る も の で あ る と 評 価 す る こ と は 出 来 な い 。も っ と も 、賃 金・昇
格 差 別 問 題 の 解 決 を 目 指 し て「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」を 構 成 す る 申 立 人
ら は 、一 方 に お い て 大 日 本 印 刷 労 組 の 組 合 員 で も あ る か ら 、同 組 合 と
の 関 係 に お い て 、同 組 合 の 統 制 か ら ま っ た く 自 由 な 立 場 に あ る も の で
な い こ と は 当 然 で あ る か ら 、す で に 正 当 な 手 続 き を 経 て な さ れ た 組 合
の 機 関 決 定 を 無 視 し て 独 自 の 行 動 を 起 こ し た り 、組 合 に よ る 団 体 交 渉
- 33 -
や 、争 議 行 為 の 遂 行 を 阻 害 す る よ う な 行 為 ま で が 許 さ れ る も の で は な
い し 、申 立 人 ら の 採 り 上 げ た 事 項 が 、そ れ 自 体 組 合 の 運 営 に 不 都 合 を
招 来 す る 場 合 に は 、組 合 の 内 部 に お い て 、適 切 な 解 決 が は か ら れ る べ
き で あ る が 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 を 構 成 す る 申 立 人 ら と 大 日 本 印 刷
労 組 と の 間 に 、現 実 に 上 記 の よ う な 問 題 が 生 じ て い る 事 実 ま で は と く
に は 認 め ら れ な い 。そ う だ と す れ ば 、組 合 が 関 与 し な い い わ ゆ る 個 人
申 立 て の 形 式 で 、不 当 労 働 行 為 か ら の 救 済 を 申 し 立 て た こ と を 契 機 と
し て 行 わ れ る 宣 伝 活 動 は 、使 用 者 と の 関 係 に お い て は 、組 合 の 支 援 が
期 待 で き な い 状 況 の も と に お い て 、組 合 員 で あ る 申 立 人 ら が 自 ら 、労
働 者 の 生 活 利 益 の 維 持・向 上 を 図 る 目 的 に 出 た 行 為 で あ り 、団 結 目 的
の 範 囲 内 に あ る も の と 解 す る の が 妥 当 で あ る 。 し た が っ て 、「 大 日 本
印 刷 争 議 団 」名 義 に よ る 申 立 人 ら の 宣 伝 活 動 は 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 を
含 め て 、 労 働 組 合 法 第 7 条 第 1 号 に い う 「 労 働 組 合 ・ ・ ・ 行 為 」に あ
た る と 解 す る こ と が 相 当 で あ り 、こ れ に 反 す る 会 社 の 主 張 は 採 用 す る
ことができない。
な お 、会 社 は 、申 立 人 ら で 構 成 す る グ ル ー プ な る も の は 、会 社 の 枠
を超えた存在であるというが、本件申立人らのうち、相当数の者が、
事 実 日 本 共 産 党 大 日 本 印 刷 支 部 の 構 成 員 で あ っ た と し て も 、そ の 一 事
をもって同人らの活動のすべてが不当労働行為制度の対象外となるも
の で は な く 、ま た 、ビ ラ に 政 治 的 主 張 が 掲 げ ら れ て い た と し て も そ れ
が常 にビラの内 容 のすべてを占 めていたものとも認 められず、さらに、
申 立 人 ら の 宣 伝 活 動 等 に 、常 に 組 合 と は 関 係 の な い 者 が 加 わ っ て い た
と し て も 、そ の よ う な 現 象 は 、い わ ゆ る 組 合 内 少 数 派 と 会 社 と の 紛 争
に あ っ て は 格 別 奇 異 な こ と で は な い か ら 、上 記 判 断 を 左 右 す る も の で
はない。
3
本件ビラ配布行為の正当性
(1) 当 事 者 の 主 張
①
申立人らの主張
ア
本 件 ビ ラ は 、会 社 の 労 働 条 件 に 関 す る 記 事( 記 事 2・3・5・6 ・
7・8・ 9 ・10)と 争 議 団 の 活 動 に 対 す る 支 援 を 求 め る 記 事( 記 事
1・4 )と か ら な っ て お り 、学 生 等 大 学 関 係 者 に 対 し て 、職 場 実 態
の 改 善 に 取 り 組 む 争 議 団 の 姿 を 示 す こ と に よ り 、世 論 を 喚 起 し 、争
議団に対する理解と支援を得ることを目的としたものであることは
明 ら か で あ る 。し か も 、そ の 内 容 は い ず れ も 、正 確 性 の あ る 資 料 等
を 出 典 と す る も の で あ り 、真 実 で あ る か 、真 実 で あ る と 信 じ る に 足
る正当な理由があるものであるから、労働組合の「正当な」行為の
範囲内のものであり、会社から何ら問責されるべき筋合いはない。
内 容 が 真 実 で あ る 言 論 活 動 は 、そ れ が 組 合 活 動 と し て 行 わ れ た か 否
か を 問 わ ず 、正 当 な 言 論 活 動 と し て 保 護 さ れ る べ き も の で あ り( 真
実 性 の ル ー ル )、 こ の 理 は 最 高 裁 判 所 も 認 め る と こ ろ で あ る ( 最 一
- 34 -
小 判 昭 41・ 6 ・ 13、 最 大 判 昭 44・ 6 ・ 25)。 本 件 ビ ラ に 対 す る 会 社
の批判は、ビラの真実性そのものではなく、その記載内容の評価に
すぎず、しかも、ビラの記載内容もしくはビラ作成のために用いた
資 料 の 意 味 を 歪 曲 し て 解 釈 し て い る 。本 件 ビ ラ の 真 実 性 お よ び 各 記
事から客観的に読み取れる意味内容は以下のとおりである。
a
記事1について
i
ビ ラ を 素 直 に 読 め ば 、X 1 の 賃 金 が 世 間 水 準 と 比 べ て 著 し く
低 いと いう こと及 び同 人 の賃 金 が 低 いの は差 別 を受 けた 結 果 で
あ る こ と を 訴 え た も の で あ る こ と は 容 易 に 理 解 で き る 。そ う だ
と す れ ば 、X 1 の 賃 金 が「 会 社 の モ デ ル 賃 金 額 」で あ る な ど と
い う 印 象 は 抱 き よ う も な い 。 ち な み に 、「 中 労 委 の モ デ ル 賃 金
額 」は 、X 1 が 差 別 さ れ た 結 果 、世 間 水 準 と 比 較 し て い か に 低
水 準 であ る かを ア ピー ルす る た め に記 載 し た にす ぎ な い もの で
あ る 。ま た 、「 中 労 委 の モ デ ル 賃 金 額 」が 、「 優 秀 層 」を 示 す も
の か 、「 平 均 値 」 を 示 す も の で あ る か に か か わ ら ず 、 そ れ が 一
定 の 世 間 水 準 を 示 す 指 標 と な り 得 る こ と は 争 い よ う が な い 。の
み な ら ず 、中 労 委 の 設 定 し た「 モ デ ル 賃 金 」の 定 義 を「 優 秀 層 」
の そ れ で あ る と 解 す る の は 、通 常 の 用 語 例 か ら き わ め て 奇 異 で
あ り 、か り に 中 労 委 が そ の よ う に 解 し て い る な ら ば 、各 企 業 に
対 す る「 調 査 票 記 入 例 」に そ の 旨 明 記 し て あ る 筈 で あ る が 、そ
のような記載は一切存在しない。
ⅱ
本 件 ビ ラ 配 布 当 時 、会 社 に「 住 宅 手 当 」が な か っ た こ と は 争
いのない事実であり、法的責任を問われる理由はない
ⅲ
会 社 は 、退 職 金 算 定 の 基 礎 給 を「 基 本 給 」と せ ず「 本 給 」と
記 し て い る こ と を 捉 え て 非 難 す る が 、ビ ラ に は「 本 給 」が い か
な る も の で あ る か に つ い て の 説 明 は な い の だ か ら 、会 社 の 従 業
員 でない読 者 が、ビラの記 載 により誤 解 することはありえない。
一 般 的 に も「 本 給 」と「 基 本 給 」と は 同 意 義 に 解 さ れ て い る 場
合 が 多 い か ら 、「 基 本 給 」 と 書 く べ き と こ ろ を 「 本 給 」 と 書 い
たとしても、会社にとって何らの不利益も生じない。
b
記事2について
記事2の趣旨は、給料明細表に残業時間を記載せよということ
にある。そして「その差は確かめようがない」というのは、給料
明細表の記載からは確かめようがないということである。記事2
の記載は真実と呼ぶにふさわしい。
c
記事3について
会 社 は 、 亡 Z 1 の 年 間 労 働 時 間 が 「 4,320時 間 」 で あ っ た と す
る記載は事実に反するというが、亡Z1の年間労働時間が「1日
6.5時 間 、 年 間 1,170時 間 」 で あ っ た と い う 会 社 の 認 識 が 、 東 京 高
裁において採用されなかったことは会社側のY2証人自身認めざ
- 35 -
るを得ないのである。そして、東京高裁の判決も、同判決後の会
社 の態 度 もそれぞれ出 典 及 び事 実 に照 らして正 確 に要 約 している。
d
記事4について
X 1 ら が 救 済 申 立 て を 行 っ て い る 事 実 に 争 い は な く 、そ れ が「 係
属中」であることも明記している。記事4の記載はいずれも真実
である。また、支援を訴えるビラに、争議団の主張だけが記載さ
れることは至極当然である。
e
記 事 5 お よ び 10に つ い て
ⅰ
記 事 5 は 、客 観 的 に 読 む か ぎ り 、会 社 の 賃 金 水 準 が 高 水 準 に
な い( 残 業 代 を 含 め な け れ ば 高 水 準 に な ら な い )と 読 み 取 れ る
が 、低 水 準 に あ る と は 読 み 取 り よ う が な い 。ビ ラ に 記 載 さ れ た
部 分 し か 読 め な い 読 者 に と っ て は 、「 残 業 を 含 め た 賃 金 水 準 の
問 題 」 と は 、「 む し ろ 高 水 準 に あ る 」 賃 金 の 議 論 と し か 読 め な
い か ら で あ る 。ま た 、ビ ラ の 記 載 は 、審 問 速 記 録 に 基 づ き 、証
言 内 容 に 沿 う 形 で 正 確 に 要 約 し て あ る 。さ ら に 、組 合 に お い て
も 、「 第 10回 中 央 委 員 会 資 料 」 に み る と お り 、 会 社 の 賃 金 水 準
が 、残 業 を 含 め る こ と で 漸 く 他 産 業 の 残 業 を 含 め な い 賃 金 レ ヴ
ェルに達する程度のものだと認識しているのである。
ⅱ
記 事 10は 、記 事 5 と の 関 連 で 掲 載 し た も の で 、ど の 程 度 の 賃
金 が 世 間 水 準 な の か を 、記 事 5 の 理 解 を 容 易 な ら し め る 一 助 と
し た の で あ る 。会 社 は 、会 社 の モ デ ル 賃 金 が X 1 の 賃 金 で あ る
か の よ う な 誤 解 を 生 じ さ せ る と 非 難 す る が 、本 件 ビ ラ は 、X 1
が 賃 金 差 別 を 受 け て い る 事 実 を 掲 載 し た の で あ っ て 、X 1 の 賃
金 が会 社 のモデル賃 金 であるなどという誤 解 は生 じ得 ないから、
会社の非難は的外れである。
f
記事6について
i
会 社 は 、「 会 社 が 残 業 手 当 を 払 っ て い な い よ う に 見 え る 」 と
い う が 、こ の 点 に つ い て は 、当 初 、会 社 の 準 備 書 面 で も 触 れ ら
れ て い な か っ た の で あ り 、か か る 批 判 は そ の 信 憑 性 が 強 く 疑 わ
れる。
ⅱ
会 社 は 、 記 事 6 及 び そ の 下 の 図 表 に つ い て 、「 会 社 で は 長 時
間 労 働 を 強 い ら れ る 」と の 趣 旨 で あ る と 決 め つ け 、著 し く 誤 解
を 与 え る と 非 難 し て い る 。し か し 、か か る 非 難 は 極 め て 恣 意 的
なものであり、記 事 6のような疑 問・批 判 は当 然 のことである。
ⅲ
ま た 、会 社 は 、記 事 6 は フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 に つ い て 何 ら の
説 明 も し て い な い た め 、あ た か も 長 時 間 労 働 の 実 態 が あ る か の
よ う な 誤 解 を 与 え て い る と 非 難 す る が 、こ の 制 度 に 対 す る 理 解
が 一 般 に 広 ま っ て い る こ と か ら す れ ば 、会 社 の い う よ う な 誤 解
を生じさせるおそれはまったくない。
g
記事7について
- 36 -
記 事 7 は 、 X 12賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 に お け る Y 6 証 言 に よ る 限
り、休暇を取るとマイナス査定を受け、会社ではほとんど休暇は
取 れ な い 、 10日 続 け て 休 暇 を 取 る こ と は で き な い と い う こ と を 訴
えたものである。会社は、審問速記録から見て、記事7が甚だし
く不的確で恣意的であると非難するが、その記述は正鵠を得たも
のである。
h
記事8について
X 10が 事 実 無 根 の こ と を 述 べ た り 、 そ れ を 世 間 に 流 布 し な け れ
ば な ら な い 理 由 は ま っ た く な い 。「 虚 偽 事 実 の 流 布 」 は 懲 戒 処 分
につながりかねないのであるから、本件審査手続きにおいて提出
し た X 10に か か る 各 証 拠 は 、 3 年 の 赴 任 期 間 の 約 束 を 裏 付 け る 有
力 な 証 拠 と い う べ き で あ る 。 そ し て 、 X 10が 社 長 に 送 っ た 親 書 に
対しても、会社は何らの反論もしていないのである。
i
記事9について
記事9は、会社の賃上げ額が世間水準から見て低額であること
を述べ、これを受け入れた組合の執行部を批判したものである。
その内容は、いずれも真実であると信じるに足る客観的資料に基
づき作成したものである。
イ
本件ビラ配布行為は、大日本印刷争議団が組合内少数派なるがゆ
え に 、一 般 市 民 の 支 援 を 得 る べ く 従 来 か ら 取 り 組 ん で き た 対 外 的 宣
伝 活 動 の 延 長 線 上 の 活 動 で あ り 、 そ の 期 日 を 4 年 6 月 15日 と し た の
は、これを決定した同年5月2日の時点ですでに決定していたX1
ら 11名 賃 金・昇 格 差 別 事 件 の 審 問 期 日 に 合 わ せ た に す ぎ な い 。会 社
特 就職ガイダンス」
は、本件ビラに「大日本印刷 そこが知りたい○
との見出しおよびその下に「就職情報誌だけでは知ることのできな
い ・ ・ ・ ・ ・ 生 情 報 を 満 載 し て い ま す 。」 と の リ ー ド が あ る こ と を
もって、本件ビラの配布目的が、会社の採用活動を妨害することに
あったと主張するが、以下の点からかかる主張は失当である。
a ビラの目的・性格は、本文中の記事と見出しとを総合して初め
て客観的に評価できるものであり、本文と切離して見出しだけを
採 り上 げて本 件 ビラの目 的・性 格 を決 めつけることは当 を得 ない。
上記見出しは「アイキャッチャー効果」を期して考案したもので
あり、これは広告・宣伝の常識的手段であり、本文の記事は、学
生にとって就職が最大の関心事であると考えられることから、こ
れをキーワードとして構成したものである。
b
争議団への支援を得るための表現方法は多様である。昨今の学
生の意識状況からすれば、直截的に争議への支援を求めるアジテ
ーション的ビラは受入れられにくいため、事実を正確に語る方法
によってビラを作成したのである。
c
もともと会 社 にとって不 利 益 な事 実 を知 らせれば、それにより、
- 37 -
会社にとって何らかの不都合が生じることは当然である。だから
といって、これを禁じようというところに、言論の自由に対する
会社の無理解と、組合活動に対する敵意が示されており、会社の
採用活動に支障を生ずべきことについての認識の有無を問題にす
ること自体も論外である。
d
組合活動は、使用者との対抗関係において行われ、使用者の活
動を阻害すべき場面を生じる性格をもつものであるから、これを
権利として承認する以上、使用者がその活動を阻害されるべきこ
とを甘受しなければならない。この理は宣伝による組合活動にお
いても異なるところはない。
e
会社と対抗関係にある申立人らが、組合活動としての争議団活
動 の 一 環 と し て 行 う 宣 伝 行 動 に お い て 、「 会 社 の 主 張 に 配 慮 」 し
たり、会社に有利な事実を公平に採り上げなければならない義務
は存在しない。
f
当日の拡声器による宣伝活動は、ビラの内容を口頭で訴えたも
のであり、採用妨害を意図したものとは到底いえない。会社側証
人の証言は、再伝聞であって、具体性に乏しく、肝心のことはな
にひとつ特定するところがない。
g
会社が、採用活動への現実の影響を問題としつつ、会社説明会
への出席者の減少のみを問題とし、その後の実際の入社試験応募
者、内定者、内定辞退者、採用者の人数を不問に付する態度はは
なはだ不自然である。会社がもっぱら説明会への出席者数のみを
問題としているのは、その後の内定者数や採用者数を問題とした
場合には、本件処分が、これらの数が判明する遙か以前に行われ
たことの説明がつかなくなるからである。また、会社は採用内定
者数や実際の入社者数を、前年との対比でしか示しておらず、事
態の客観的推移を論ずるに足りない。しかも、採用内定の時期も
内定者の辞退が生じた時期も、本件ビラ配布からすでに一定の期
間を経ており、この間、本件処分と関係者の逮捕に始まる談合事
件の発覚があった。早稲田大学学生の内定者や入社者の減少が本
件ビラの配布にあるとする会社の主張は、これら客観的事実経過
をまったく無視するものである。
②
被申立人の主張
ア
申 立 人 ら の ビ ラ は 、そ の 大 見 出 し に 明 ら か な と お り 、近 い 将 来 企
業に就職を予定している学生を対象とするものであったが、記事の
内容は、会社に対する批判と敵意に満ちたものであり、また以下に
みるように事 実 に反 する記 載 、事 実 を歪 曲 した記 載 が随 所 にみられ、
到底「正当な」組合活動とはいえない。
a
記事lについて
i
申 立 人 ら は 、 X 1 の 賃 金 を 掲 げ る と と も に 、「 中 労 委 調 査 の
- 38 -
昨 年 度 の A さ ん に 相 当 す る モ デ ル 所 定 内 賃 金( 世 間 水 準 )は 約
46万 円 」で あ る と 記 載 し 、会 社 の 賃 金 水 準 が 、あ た か も 平 均 的
世 間 水 準 と 比 較 し て 著 し く 低 位 に あ る 旨 強 調 し た 。し か し な が
ら 、こ の 調 査 は 、モ デ ル 条 件 を 満 た す 者 の う ち 、標 準 的 に ご く
普 通 の 昇 進 を し た 者( 実 際 に は 、同 期 入 社 者 の う ち 、優 秀 層 に
属 す る 者 を と る 。) の 賃 金 を 集 計 し た も の で あ る と こ ろ 、 X 1
は 、同 期 入 社 者 の う ち 優 秀 層 に 属 し て い な い か ら 、中 労 委 調 査
の 上 記 数 値 と 単 純 に 比 較 で き な い 。申 立 人 ら は 、こ の 事 実 を 知
悉 し な が ら 、両 者 を 単 純 比 較 し 、会 社 の 賃 金 水 準 が 世 間 水 準 に
比 べ て低 水 準 に ある か のよ う な誤 った 印 象 を こと さ らに 与 え る
ことを意図したものである。
ⅱ
「 ・ ・ ・ ・ ・ 住 宅 手 当 が あ り ま せ ん 。」 と の 記 載 は 、 会 社 の
ト ー タ ル と し て の 賃 金 水 準 が 、世 間 水 準 と 比 較 し て 遜 色 が な い
こ と を 知 悉 し な が ら 、会 社 に は ど こ の 企 業 に も 存 す る 住 宅 手 当
す ら な い 劣 悪 な 労 働 条 件 で あ る と い う 印 象 、あ る い は 住 宅 手 当
が な い た め に 、ト ー タ ル と し て 従 業 員 の 賃 金 水 準 が 他 社 に 比 較
して恵まれないとの印象を与えることを意図したものである。
ⅲ
会 社 の 「 退 職 金 算 定 基 礎 給 」 は 、「 本 給 」 で は な く ( 本 給 は
基 本 給 の 一 部 に す ぎ な い 。)、入 社 時 の 基 本 給 に 毎 年 の 昇 給 額 の
一 部 を 加 算 し て 算 出 す る の で あ る か ら 、こ れ も 明 白 な 虚 偽 の 事
実である。
b
記事2について
「賃金明細に労働実績の印字がありません」とか、労働日数、
残業時間の記載がなく、その差は確かめようがない」などと記載
し、あたかも正しい給与計算が行われず、また正確に計算した手
当 よ り も 少 な い 額 し か 支 払 わ れ な か っ た と し て も 、「 確 か め よ う
がない」から、泣き寝入りせざるを得ないかのように読ませてい
る 。会 社 の 給 料 明 細 表 に 労 働 日 数 、残 業 時 間 等 の 記 載 が な く と も 、
タイムカードやシフト勤務表を集計すれば、それらは容易にわか
り、手当の計算方法は賃金規定等に定められ、自由に閲覧できる
よ う に な っ て い る 。 そ し て 、 給 料 明 細 表 に は 、「 疑 問 が あ れ ば 、
会社に問い合わせてほしい」旨も記載されている。
c
記事3について
この記事には、随所に虚偽がある。第1に、亡Z1の年間労働
時 間 を 4,320時 間 で あ っ た と す る が 、 何 ら 根 拠 が な く 、 事 実 は 、
1 日 僅 か 6.5時 間 、年 間 1,170時 間 で あ っ た の で あ り 、会 社 が 亡 Z 1
に過酷な扱いをした事実はまったくない。第2に、会社が法定外
遺族補償をしていない旨の記事も、事実を歪曲している。会社に
おける法定外遺族補償は、労働協約上、組合員である本採用従業
員に限定されるものであり、嘱託である亡Z1は、もともと受給
- 39 -
資 格 を 欠 く 。 第 3 に 、「 裁 判 で 会 社 の 言 い 分 を 聞 い て も ら え な か
った」との会社発言があったかのように記載しているが、当該訴
訟 に は 会 社 は ま っ た く 関 与 し て い な い か ら 、「 言 う べ き 立 場 に も
なかった」のであり、上記のような発言をする筈もない。
d
記事4について
一方当事者の主張だけを引用して会社が不当な人事管理をして
いると決めつけ、学生にそのような印象を与えている。また、こ
こで紹介されている者の賃金が「差別のせいである」というのも
事実に反する。会社の賃金制度は業績に応じた能力主義をとって
いるから、従業員の勤続年数と賃金との間には何らの相関関係も
ない。
e
記 事 5 お よ び 10に つ い て
i
記 事 5 は 、審 問 速 記 録 の 甚 だ 恣 意 的 な 抜 粋 、引 用 を 行 い 、読
者 を し て 重 大 な 誤 解 を 抱 か し め る も の と な っ て い る 。証 言 の ひ
と つ ひ と つ に つ い て 見 れ ば 、確 か に 引 用 さ れ た と お り の も の で
あ っ た か も し れ な い が 、申 立 人 ら は 、都 合 の よ い 部 分 の み を 合
成 し、都 合 の悪 い部 分 は取 り除 くという悪 質 な操 作 をしている。
例 え ば 、「 会 社 の 賃 金 水 準 が 残 業 を 含 め た 月 収 で 他 産 業 の 残 業
を含めない賃金程度である」と読ませている。
ⅱ
記 事 10で 中 労 委 調 査 に お け る 大 卒 30才 、同 35才 、同 40才 の 各
モ デ ル 賃 金 額 を 掲 げ て い る こ と は は な は だ 恣 意 的 で あ る 。既 述
の よ う に 、中 労 委 調 査 に お け る モ デ ル 賃 金 は 、優 秀 層 に 属 す る
者 の そ れ を 意 味 し て い る の に も か か わ ら ず 、会 社 従 業 員 の モ デ
ル 賃 金 を 恣 意 的 に 省 略 し て い る た め 、読 者 を し て 、あ た か も 会
社 の モ デ ル 賃 金 が X 1 の そ れ で あ る か の よ う に 誤 解 さ せ 、会 社
の 賃 金 水 準 が世 間 水 準 に 比 べ て 低 水 準 に あ る か の よ う な 誤 っ た
印象を意図的に抱かせる。
f
記事6について
i
申 立 人 らは、フレックスタイム制 をとる部 門 の残 業 手 当 分 は、
「 月 40時 間 前 後 分 し か 支 払 わ れ て お り ま せ ん 」と 記 載 し 、あ た
か も 会 社 で は 不 払 い 残 業 が あ る か の よ う に 説 明 し て い る が 、か
か る 事 実 は 存 在 し な い か ら 、か よ う な 説 明 は 、明 白 な 虚 偽 の 事
実である。
ⅱ
「 し か も そ の 残 業 時 間 に 収 ま っ て い る 人 は 、70~ 75% と 会 社
は 発 表 し ま し た 」と の 記 載 も 事 実 に 反 す る 。上 記 割 合 は 、残 業
時 間 分 より も短 く設 定 された目 標 労 働 時 間 に 収 まってい る人 を
指したものである。
ⅲ
さ ら に 、「 今 年 は 、 更 に そ の 目 標 時 間 が 短 縮 し 、 30時 間 前 後
分 に 」と 記 載 し て 、残 業 手 当 が 出 な い 残 業 が さ ら に ふ え る か の
よ う に 主 張 し て い る が 、こ れ も 事 実 に 反 す る 。会 社 は 種 々 の 対
- 40 -
策 を 講 じ た う え で 次 年 度 の 目 標 労 働 時 間 を 設 定 し て お り 、申 立
人 ら は 、こ の こ と を 組 合 の 機 関 紙 に よ っ て 当 然 知 っ て い た に も
かかわらず、読者に誤った印象を与えることを意図している。
ⅳ
申立人らは、こうした記事の下に、終業時刻の表を示して、
「 こ ん な に 遅 く 帰 っ て 結 婚 し て か ら の 家 庭 生 活 は 大 丈 夫 ? 」と
の 疑 問 を 呈 し 、会 社 が 従 業 員 に 対 し て 長 時 間 労 働 を 強 い て い る
か の よ う に 読 ま せ る が 、こ れ も 事 実 に 反 す る 。会 社 の 労 働 時 間
短 縮 の 取 り 組 み は 概 ね 順 調 に 推 移 し て お り 、申 立 人 ら は 、こ の
ことを組合の機関紙によって当然知っていたにもかかわらず、
読 者 に 誤 っ た 印 象 を こ と さ ら 与 え る こ と を 意 図 し て い る 。労 働
時 間 の 問 題 は 本 件 会 社 だ け に 特 有 の 問 題 で は な く 、お よ そ 受 注
産業全体に共通する問題であることは企業人にとって常識とな
っているのであり、意図的に誤った印象を与える記事である。
ⅴ 「 大 卒 入 社 す れ ば ほ と ん ど フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 で 」あ る と か 、
「 営 業 部 門 の50% 以 上 は21時 過 ぎに終 業 で」あるとかの記 載 も、
フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 の 説 明 を 意 図 的 に 行 わ な い こ と に よ り 、あ
たか も会 社 の指 示 で 遅 くな っ てい るか の よう な印 象 を 与 える こ
とを意図している。
g
記事7について
会社の管理職が、休暇を取ると考課項目上の責任感・信頼度に
影 響 して考 課 が低 くなると述 べたかのような説 明 は事 実 に反 する。
労働委員会における別件の会社側証人の証言の一部だけを甚だし
く不正確かつ恣意的に引用することにより、あたかも会社におい
ては年次有給休暇の取得が困難であり、仮にこれを取得してもそ
の者は直ちに低位の人事考課を受け、処遇上の不利益を受けるか
のような誤った印象を与えることを意図している。
h
記事8について
そもそも会社が従業員の異動の際、異動年限を区切るなどとい
う こ と は な い 。 ま た 、 X 10か ら の 問 い 合 わ せ に 対 し て は 、 会 社 は
これまで再三、赴任期間は3年などという約束は存在しない旨説
明してきた。
i
記事9について
記 事 9は、従 業 員 構 成 や平 均 年 齢 の相 違 などの条 件 を無 視 して、
表面的な数字だけを単純に比較している。会社は、従来から昇給
の回答にあたっては、電機大手並みを目標としており、4年度も
同様で、それは世間水準以上のものであった。申立人らも、組合
機関紙を通じてこのことを十分知悉していたにもかかわらず、表
面の数字だけを単純比較させて、会社の昇給水準が世間水準に比
べて低水準にあるかのような印象を殊更に与えることを意図した
ものである。
- 41 -
本件ビラの記載内容は、上記のように到底許容できないものであ
る 。 し か る に 申 立 人 ら は 、 本 件 行 為 は 、組 合 活 動 と し て 行 っ た 言 論
活動であるとして「真実性のルール」を主張する。しかしながら、
申 立 人 ら が 引 用 す る 二 つ の 最 高 裁 判 例 は 、 い ず れ も 行 為 が 、「 公 共
の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合」の
事案であるところ、申立人らの本件行為は、これに該当せず、もっ
ぱら会社の採用活動を妨害する目的に出たものでしかない。そうだ
とすれば、真実の証明があったとしても名誉信用毀損行為の責任を
免れない。申立人らの掲げる表現の自由の主張に対して、会社は、
既 に 判 例 と し て 定 着 し て い る 最 高 裁 第 一 小 法 廷 昭 49・2・28判 決( 国
鉄中国支社事件)を引用する。
イ
申 立 人 ら の 本 件 行 為 が 、「 正 当 な 」 組 合 活 動 と は い え な い 会 社 の
採用活動に対する妨害行為であることは以下の諸点からも明らかで
ある。
a
早稲田大学だけを本件ビラ配布の対象としたのは、会社への応
募者中、同校の学生が最も多く、したがって本件行為を行った場
合、会社の採用活動に対する実際の影響が最も大きいという点に
ある。
b
ビラ配布の期日は「会社説明会」直前の時期であるところ、そ
の解禁については当時、マスコミで頻繁に報道されていたから、
申立人らも当然知っていたものである。
c
申立人らが、真実、学生が求職活動の最中であることを知らな
特就
け れ ば 、ビ ラ の 内 容 に お い て「 大 日 本 印 刷 そ こ が 知 り た い ○
職ガイダンス」と特大の見出しを付したうえで、会社の労働条件
等就職を前にした学生にとりわけ関心が強い記事に限定したり、
6 月 15日 と い う 時 期 を 選 ぶ 筈 が な い 。
d X1の証言及び本件行為後に配布された申立人ら作成のビラの
説明によっても、本件ビラを配布すれば、学生が、会社に対し良
い 印 象 を 持 た ず 、「 就 職 し た く な い 会 社 」 と い う 印 象 を 与 え る に
十分なものであり、したがって、会社の採用活動に重大な影響を
及ぼすであろうことも予想していたことが明らかである。
e
申立人らから提出された他の争議団のビラには、抗議先を記載
す る な ど 、読 者 に 対 す る 配 布 目 的 が 明 ら か で あ る が 、本 件 ビ ラ は 、
大 日 本 印 刷 争 議 団 がいかなる支 援 を求 めるのか何 らの記 載 もなく、
また、同争議団が会社といかなる係争を行っているかは秘され、
むしろその形式、主張において客観的であるかのように装ってい
る。のみならず、早稲田大学関係者に対する協力要請文書には、
「大日本印刷の横暴の告発、争議の早期解決をめざす」との文言
があったが、それとはまったく体裁の異なる本件ビラの作成・配
布に及んでいる。
- 42 -
ウ
宣伝行為における「会社に入社すると後悔する」等の発言は、い
かなる意味でも組合あるいは大日本印刷争議団の目的とは無関係の
純然たる違法行為である。
エ
会社は、学生の間の「企業人気度」を高める努力を傾注し、とく
に「 会 社 説 明 会 」に い か に多 く の 参 加 を確 保 す るか に 努 め てき た が 、
当年の「会社説明会」には、早稲田大学の学生のみ、異例のキャン
セルが続出し、会社の努力は無に帰した。当時の労働市場はいわゆ
る買い手市場であったから、その原因は、申立人らの行為の外には
考えられず、実際にも会社の採用活動に重大な影響を与えた。
(2) 当 委 員 会 の 判 断
①
判断の基礎となる事実とその評価
ア
本件ビラの配布は、外形的にはたしかに従前の企業の内外にわた
る 宣 伝 活 動 の 延 長 線 上 で な さ れ た も の と 認 め ら れ 、ま た 、そ の 時 期
を 4 年 6 月 15日 と し た こ と 自 体 は 、 有 給 休 暇 を 利 用 し て こ の 行 動 を
行わなければならないことから、申立人らの主張するとおり、すで
に 決 定 し て い た 当 委 員 会 に お け る X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 の
審問期日に合わせたものであると解される。
し か し な が ら 他 方 、 a 本 件 ビ ラ は 、従 前 の よ う に 会 社 の 門 前
で 従 業 員 を 対 象 と し て 配 布 さ れ た も の で 、駅 頭 で 通 り す が り の 一 般
市 民 を 対 象 と し て 配 布 さ れ た も の で も な く 、も っ ぱ ら 早 稲 田 大 学 の
門 前 で 同 校 の 学 生 を 対 象 と し て 配 布 さ れ た こ と 、し か も 、同 大 学 の
学 生 は 、全 国 の 大 学 の な か で も 抜 き ん で て 会 社 に 就 職 す る 者 が 多 数
に の ぼ っ て い る 事 実 が 存 在 す る こ と 、 b ま た 、本 件 ビ ラ 配 布 の
時 期 は 、主 要 企 業 間 の 就 職 協 定 に 基 づ く 、5 年 4 月 採 用 の た め の 大
卒 予 定 者 を 対 象 と し た「 会 社 説 明 会 」解 禁 直 前 の 時 期 に あ た っ て い
た こ と 、 c さ ら に 本 件 ビ ラ の 体 裁 は 、「 大 日 本 印 刷 そ こ が 知
特 就 職 ガ イ ダ ン ス 」 と の 大 見 出 し を 建 て 、「 就 職 情 報 誌 だ け
りたい○
で は 知 る こ と の で き な い 生 情 報 を 、実 際 に 働 い て い る 私 た ち が 集 め
た も の を 満 載 し て い ま す 。」 と の リ ー ド を 記 載 の う え 、 従 業 員 に 対
す る 会 社 の 処 遇 や 労 働 条 件 に 関 す る 事 項 を 多 岐 に わ た り 、い ず れ も
批 判 的 に 掲 載 し た こ と 等 か ら す れ ば 、会 社 が 、か か る ビ ラ 配 布 行 為
は 、X 1 ら 11名 賃 金・昇 格 差 別 事 件 の 申 立 人 ら に 対 す る 一 般 的 な 支
援 を 要 請 す る た め の 宣 伝 活 動 の 域 を 超 え て 、会 社 の 行 う 採 用 活 動 に
対する妨害行為にあたるのではないかとの疑念を抱いたことも無理
からぬことであったといわざるを得ない。
一 方 、申 立 人 らは、 a 本 件 ビラ配 布 行 動 を決 定 するにあたり 、
早 稲 田 大 学 の 学 生 が 、全 国 の 大 学 の な か で も 会 社 に 就 職 す る 者 が 多
数 に の ぼ る こ と を 知 悉 し た う え で 、同 大 学 の 門 前 を「 場 所 」と し て
特 定 し た 。 b そ し て 、申 立 人 ら は 、ビ ラ に「 大 日 本 印 刷 そ こ
特 就 職 ガ イ ダ ン ス 」と の 大 見 出 し を 建 て た と し て も 、本
が知りたい○
文 と 切 離 し て 見 出 し だ け を 採 り 上 げ て 本 件 ビ ラ の 目 的・性 格 を 決 め
- 43 -
つけることは当を得ない旨および争議団への支援を得るための表現
方 法 は 多 様 で あ り 、昨 今 の 学 生 の 意 識 状 況 か ら 、直 截 的 に 争 議 へ の
支 援 を 求 め る ア ジ テ ー シ ョ ン 的 ビ ラ は 受 入 れ ら れ に く い た め 、事 実
を 正 確 に 語 る 方 法 に よ っ て ビ ラ を 作 成 し た 旨 反 論 し て い る 。c さ
ら に 、申 立 人 X 1 は 、本 件 審 問 に お い て 、申 立 人 ら は 、本 件 ビ ラ 配
布 の 時 期 が 就 職 協 定 に 基 づ く「 会 社 説 明 会 」解 禁 直 前 の 時 期 に あ た
っ て い た こ と ま で は 何 ら 知 る と こ ろ で は な か っ た と 供 述 し た 。そ う
だ と す れ ば 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 の 正 当 性 を 判 断 す る う え で 、本 件 ビ
ラ 配 布 の 真 意 の 考 究 が 不 可 欠 で あ る と 解 さ れ る か ら 、以 下 、こ の 点
を検討する。
イ 第 1 の 5 (2)⑥ で 認 定 し た と お り 、 申 立 人 ら が 会 社 の 門 前 で 配 布
し た 4 年 2 月 14日 付「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」で は 、同 年 4 月
の 大 卒 採 用 者 に 関 し て 、 い わ ゆ る 商 業 新 聞 の 記 事 を 引 用 し て 、「 採
用 予 定 と 内 定 の 落 差 」と 題 す る 記 事 を 掲 載 し 、ま た 、本 件 ビ ラ 配 布
行 動 の 期 日 を 決 定 し た 直 後 の 同 年 5 月 18日 付 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 ニ
ュ ー ス 」で は「 週 間 読 売 」同 年 4 月 19日 号 掲 載 の 資 料 を も と に し て 、
「大量採用でも人手不足」と題する記事を掲載している。これらの
事実に徴すれば、申立人らのうち、少なくともこれらのビラ作成の
中心であったX1は、当時、会社の採用問題に相当な関心をよせて
関係資料を所持していたというべきであるから、就職協定に基づく
5 年 4 月 採 用 の た め の 大 卒 予 定 者 を 対 象 と し た「 会 社 説 明 会 」解 禁
の時期を事前に知っていたものと推認せざるを得ない。また、その
余の者にしても、就職協定に基づく「会社説明会」解禁の時期は、
マスコミにおいても広く報道され、社会的に公知の事実であったと
いうべきであるから、本件ビラ配布の日まで「会社説明会」解禁の
時期をまったく知らなかったとは到底考え難い。
ウ
そして、会社の採用する学生のうち、早稲田大学の学生が多数に
のぼることから、同校の門前でビラ配布を行うこととなったのであ
る が 、 そ の 際 、 申 立 人 ら は 、 第 1 の 5 (2)④ で 認 定 し た と お り 、 会
社の労働条件の実態を記載したビラが大学の門前で配布されれば、
会社に入社しようと考えていた学生は動揺するかもしれないとか、
会社も痛手を被ることになるであろうことを認識し、同時に、ビラ
の 内 容 が 事 実 に 即 し た も の で あ る か ぎ り 、学 生 ら が 会 社 の 労 働 条 件
の実態を知ることは有益であるとも考えていた。そうだとすれば、
申 立 人 ら は 畢 竟 する に 本 件 ビラ を 配 布 する こ と によ っ て 大 卒 者 の 採
用について会社が打撃を被る事態を招来することを期待していたも
のと推認されても止むを得ないというべきである。
エ
本 件 ビ ラ は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 発 行 名 義 こ そ み ら れ る が 、
申立人らが本件審査手続において提出した、一見して会社を相手と
して争っている者らが、自己の主張の正当性を掲げ、これに対する
- 44 -
支 援 を 求 め る趣 旨 が明 瞭 であ ると ころの a 「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」
作 成 の 従 前 の ビ ラ と も 、 b 申 立 人 ら と 友 誼 関 係 に あ る 他 の「 争
議団」のもっぱら学生に向けて配布されたビラとも、その体裁はま
っ た く 異 な っ て い る 。こ の 点 に つ い て 、申 立 人 ら は 、本 件 ビ ラ の 見
出 し は 、「 ア イ キ ャ ッ チ ャ ー 効 果 」 を 期 し て 考 案 し た も の で あ り 、
その本文は、学生は就職に関心が高いからこれをキーワードとして
構成したものであると主張する。たしかに、昨今の経済状況からす
れば、学生にとって就職はひときわ関心の高い事項であり、また、
特 就 職 ガ イ ダ ン ス 」と の
そ れ ゆ え に「 大 日 本 印 刷 そ こ が 知 り た い ○
見 出 し を 建 て た 本 件 ビ ラ が 、「 ア イ キ ャ ッ チ ャ ー 効 果 」 を 発 揮 し て
学生の注目を集めたであろうことは推測するに難くない。しかしな
が ら 、a 上 記 見 出 し お よ び リ ー ド の も と に 、従 業 員 に 対 す る 会 社
の 処 遇 や 労 働 条 件 を 、記 事 1 な い し 10と し て 総 合 的 か つ 並 列 的 に 満
載した本件ビラの体裁からすれば、一読して、この記事によるかぎ
り 、「 就 職 先 と し て 好 ま し く な い 会 社 で あ る 」 と の 印 象 を 抱 く こ と
は 疑 い も な く 明 ら か で あ る 。そ の 反 面 、仮 に 申 立 人 の 主 張 ど お り 正
確 性 のある資 料 を出 典 とした生 の真 実 を伝 えるものであるとしても、
そ の 記 述 の 形 式 は 、記 事 4(「 死 活 問 題 の 賃 金・昇 格 差 別 」と 題 し 、
当委員会において申立人らが会社と係争中の問題に触れた記事)を
除 け ば 、同 一 の 事 項 を 採 り 上 げ た 従 前 の「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」作 成
のいずれのビラとも異なり、当該事項に関して申立人らがどのよう
に取 り 組 ん で き た の か 必 ず し も 判 然 と し な い 傾 き が 強 い こ と は否 定
で き な い か ら 、 こ れ ら 本 件 ビ ラ の 本 文 自 体 か ら 直 ち に 、「 会 社 の 劣
悪 な 労 働 条 件 」の 実 態 の み な ら ず 、そ の 改 善 に 取 り 組 む 労 働 者 の 存
在をも示すものであることが客観的にも明らかであるとまで認める
ことは困難である。そうだとすれば、ビラを受け取った学生らが、
一読してこれを「大日本印刷争議団」への支援を求める趣旨のビラ
であると理解し得たかは疑問の存するところであるといわなければ
な ら な い 。少 な く と も い わ ゆ る 就 職 戦 線 の 本 番 を 控 え て 現 実 に 本 件
会 社 を 就 職 先 と し て 選 択 し よ う と し て い る 学 生 に 対 し て は 、労 使 関
係 に お け る「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」の 取 組 み の 紹 介 な い し は 同 争 議 団
の活動に対する支援を求めているビラであるとの理解を生じさせる
よりも、本件会社の従業員に対する処遇や労働条件の実態は劣悪で
あ る と の 事 実 の 記 載 を と お し て 、会 社 に 対 す る 応 募 の 気 持 ち を 動 揺
さ せ る 余 地 を も つ ビ ラ で あ っ た と 判 断 せ ざ る を 得 な い 。仮 に 申 立 人
ら の 主 張 す る と お り 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 活 動 に 対 す る 支 援 を
求めるうえで、もっぱら「アイキャッチャー効果」を期して本件ビ
ラ の 見 出 し を 考 案 し た も の で あ る と す れ ば 、申 立 人 ら が 会 社 と 係 争
中 で あ る 事 情 を 考 慮 し た と し て も 、労 使 関 係 の 局 外 に 在 り か つ 就 職
戦 線 の 本 番 を 目 前 に し て 、会 社 へ の 入 社 を 希 望 し て い る 学 生 の 心 理
に対し配慮を欠いたものであるといわざるを得ない。 b また、
- 45 -
申 立 人 ら は 、 記 事 1 と 4 と は 、「 争 議 団 の 活 動 に 対 す る 支 援 を 求 め
る 記 事 で あ る 」と い う け れ ど も 、そ の 記 載 内 容 に 徴 す れ ば 、学 生 が 、
「会社には不当な処遇を受けている者がいる」と解するであろうこ
とは容易に推測されるものの、さらにすすんで申立人主張のように
こ れ が「 争 議 団 の 活 動 に 対 す る 支 援 を 求 め る 記 事 で あ る 」こ と が 明
らかであるとまでいえるか疑問を禁じ得ず、上記主張は当委員会を
納得させるには足りないものといわざるを得ない。
オ 本 件 ビ ラ の 第 4 面 に は 、「 辞 め ず に 、 ど う し て が ん ば る の ? 皆
さ ん も 入 社 し て 一 緒 に が ん ば っ て み ま せ ん か 。」 と の 見 出 し で 囲 ま
れた 文 言 が ある 。こ れ は、X1 が 早 稲 田 大 学 の学 術 研 究 サー ク ルで 、
組 合 内 少 数 派 の活 動 に つい て話 を した 際 、学 生 か ら出 さ れた 疑 問( 第
1 の 5 (3)後 段 ) に 答 え る 意 味 を も つ と と も に 、 従 業 員 に 対 す る 会
社 の 処 遇 や 労 働 条 件 を 問 題 視 し 、 X 1 ら 11名 賃 金 ・ 昇 格 差 別 事 件 で
会 社 と 係 争 し て い る「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」か ら 学 生 へ の い わ ば 連 帯
の呼びかけと解されるが、この欄のあることをもって、本件ビラの
性格に関する疑問が払拭されるとまではいい難い。
カ
ま た 、 第 1 の 7 (10)ア な い し ウ で 認 定 し た と お り 、「 大 日 本 印 刷
争 議 団 」が 、本 件 ビ ラ 配 布 後 に 会 社 の 従 業 員 を 対 象 に 配 布 し た「 大
日 本 印 刷 争 議 団 ニ ュ ー ス 」 に は 「( 賃 金 ・ 昇 格 差 別 や 亡 Z 1 に か か
る 遺 族 補 償 を 行 わ な い 会 社 の 実 態 の 告 発 と と も に )、 賃 金 、 労 働 時
間、休暇、単身赴任、労働実績の印字もない給与明細、労働組合の
実 態 等 就 職 の 際 に 参 考 に な る 情 報 も 宣 伝 し ま し た 。」
( 4 年 6 月 23日
付 ) と か 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 は 、 学 生 が 就 職 先 を 選 択 す る に あ た
り 、ま た 勉 学 の 上 で も 、国 民 生 活 に 深 く か か わ り の あ る 印 刷・ 情 報
産業のトップ企業の大日本印刷を労働条件等のありのままを知って
も ら う こ と は 有 益 な こ と と 考 え て い ま す 。」
( 4 年 7 月 1 日 付 )と か 、
「( 労 働 条 件 の ) 実 態 を 知 ら な い ま ま に 入 社 し た ら 、 後 に な っ て 失
望してやる気をなくすことにもなりかねません。そこで私たちは、
早 稲 田 大 学 の 門 前 で 、6 月 15日 に 配 布 等 の 宣 伝 活 動 を し ま し た 。」
(4
年 7月 15日 付 )などとビラの配 布 目 的 にかかる記 述 がなされている。
こ れ ら の 記 述 か ら す れ ば 、明 ら か に 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 に は 、卒 業
を控えて求職活動中の学生が存在することを意識して、本件会社の
固 有 名 詞 を 挙 げ 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 と し て は 、 従 業 員 に 対 す る
会 社 の 処 遇 、労 働 条 件 は 劣 悪 で あ る と 認 識 す る と の 立 場 か ら 、学 生
ら が就 職 先 を決 め る に あ たっ て 外 部 か ら組 織 的 働 きか け を行 う側 面
があったことは否定できないといわざるを得ない。
キ
のみならず、会 社 への入 社 者 が多 数 にのぼる早 稲 田 大 学 の門 前 で、
本 件 ビ ラ を 800枚 配 布 し 、 併 せ て 宣 伝 カ ー の ス ピ ー カ ー を 使 用 し て
約 1 時 間 に わ た り 演 説 を 行 っ た も の で あ っ て み れ ば 、会 社 が Y 2 労
務 部 長 を し て 立 証 を 試 み た 、 同 大 学 の 学 生 で 、「 会 社 説 明 会 」 へ の
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出席を取り消した者の中には本件ビラ配布行為に影響を受けた者が
い た と か 、「 会 社 説 明 会 」 当 日 、 本 件 ビ ラ の 記 載 内 容 の 真 偽 に 関 し
て質問をした者もいたという点に関しても、事実無根のことである
と は 考 え 難 く 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 に 対 す る 支 援 の い か ん と い う
面よりも、学生の求職活動に対する影響を及ぼす面が強かったこと
の一証左と解さざるを得ない。
ク
ま た 、 第 1 の 7 (13)で 認 定 し た と お り 、 本 件 ビ ラ 配 布 か ら 丁 度 1
年 後 に は 、大 日 本 印 刷 争 議 団 支 援 共 闘 会 議 名 義 で 、本 件 ビ ラ を 複 製
掲 載 し た ビ ラ が 、早 稲 田 大 学 の ほ か 、慶 応 義 塾 大 学 、立 教 大 学 の 各
門 前 に お い て 、配 布 さ れ た が 、こ の 事 実 を 会 社 の 研 修 セ ン タ ー が 知
った早稲田大学分はともかくとして、慶応義塾・立教両大学分につ
いては、会社への入社志望を有する両校の学生がそれぞれ、このビ
ラ を 見 て 不 安 を 感 じ た と し て 、会 社 に 在 職 す る 先 輩 に 相 談 を 持 ち 掛
け て い る の で あ っ て 、こ の 事 実 か ら し て も 、本 件 ビ ラ が 学 生 の 求 職
活動に少なからず影響をもたらすものであったことを物語っている
といわざるを得ない。
ケ
以 上 の 諸 事 情 を 総 合 す れ ば 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 が 本 件 ビ ラ を
作 成・配 布 し た 真 意 は 、早 稲 田 大 学 の 学 生 ら に 対 し 、同 争 議 団 の 活
動 に 対 す る 一 般 的 な 理 解 と 支 援 を 求 め る と い う 点 に 止 ま ら ず 、同 大
学 に は 、会 社 を 就 職 先 と し て 選 定 し よ う と し て い る 学 生 ら が 多 数 存
在することを念頭におき、これら学生の間に会社に対する批判的な
い し 否 定 的 評 価 が 醸 成 さ れ る こ と を 期 待 し て 、従 業 員 に 対 す る 会 社
の処遇や労働条件は劣悪であるとの事実を公にした組織的働きかけ
を 行 う こ と に よ り 、会 社 に 対 し「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」の 結 束 と 勢 威
を 示 し て 打 撃 を 与 え 、も っ て X 1 ら 11名 賃 金・昇 格 差 別 事 件 の 解 決
に有利な状況をつくり出そうとすることにあったものと推認せざる
を得ない。
②
結論
思 う に 、宣 伝 活 動 は 、そ れ が 組 合 活 動 と し て 行 わ れ る 場 合 で あ っ て
も 、争 議 行 為 の 場 合 と 異 な り 、業 務 阻 害 の 結 果 が 一 定 限 度 で 法 的 に 許
容 さ れ る と い う も の で は な く 、ま た 、労 働 者 が 雇 用 さ れ る 企 業 の 社 会
的 体 面 や信 用 を不 当 に毀 損 することまで許 されるものでもない。他 方 、
企 業 に お け る 従 業 員 の 採 用 活 動 は 、企 業 経 営 の 根 幹 に も か か わ る 重 要
な 業 務 で あ り 、外 部 か ら の 不 当 な 影 響 力 に 左 右 さ れ る こ と が あ っ て は
な ら な い か ら 、採 用 活 動 そ れ 自 体 に お い て 明 ら か に 社 会 的 に 許 容 さ れ
る範 囲 を 逸 脱 し て いる と解 さ ざる を得 な い事 実 が 認 め ら れる と い う 場
合 は 格 別 、そ の よ う な 事 実 が 見 出 せ な い 状 況 の も と に お い て は 、不 当
労 働 行 為 の 存 在 を 主 張 し て 会 社 と 争 っ て い る 者 と い え ど も 、直 接 、会
社 に 向 け て 採 用 活 動 を 阻 害 す る よ う な 行 為 を 行 う こ と は も と よ り 、会
社 に 入 社 し よ う と 考 え て い る 学 生 ら に 対 し て も 、心 理 的 な 影 響 を 招 来
- 47 -
す る よ う な 組 織 的 働 き か け を 行 い 、も っ て 入 社 志 望 を 動 揺 さ せ る よ う
な 行 為 は 厳 に 自 戒 す べ き こ と で あ る 。こ れ を 本 件 に つ い て み る と 、会
社が採用活動それ自体において社会的に許容される範囲を逸脱してい
ると 解 さざ るを 得 ない 行 為 を行 っ てい る と認 めら れ る よ うな 事 実 は 何
ら 存 在 し な い に も か か わ ら ず 、就 職 先 を 選 択 し よ う と す る 学 生 ら を 対
象 と し て 、本 件 会 社 の 名 を 挙 げ て 、会 社 へ の 入 社 志 望 に つ い て 動 揺 を
招 来 せ し め る 組 織 的 働 き か け を 行 う こ と は 、そ れ が 組 合 活 動 と し て な
さ れ た も の で も 、会 社 の 社 会 体 面 や 信 用 を 傷 つ け 、ひ い て 会 社 の 採 用
活 動 に重 大 な支 障 を 生 じさ せる お それ のあ る 社 会 的 に許 容 さ れな い 行
為 で あ る と い わ ざ る を 得 な い 。そ う だ と す れ ば 、採 用 活 動 に お い て 具
体 的 な 支 障 が ど の 程 度 生 じ た か と か 、ビ ラ の 記 載 が 申 立 人 ら の 主 張 す
る 真 実 性 の ル ー ル に 支 え ら れ て い た か 等 の 点 を 論 ず る ま で も な く 、す
で に そ の 目 的 、態 様 に お い て 正 当 な 組 合 活 動 の 範 囲 を 逸 脱 し た も の で
あ る と の 評 価 を 免 れ る こ と は で き な い か ら 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 は 正 当
な組合活動であるという申立人らの主張は採用できないことに帰着す
る。
4
本件解雇・懲戒処分と不当労働行為の成否
(1) 当 事 者 の 主 張
①
申立人らの主張
ア
会 社 は 、本 件 ビ ラ の 内 容 が 真 実 で あ る か 、確 実 な 資 料 、根 拠 に 基
づき作成されたものであるかにつき、十分な検討を行わないまま、
ビラ配布から僅か3週間余りで大量かつ重大な処分を強行した。し
か も 解 雇 さ れ た 3 名 は 大 日 本 印 刷 争 議 団 の 三 役 で あ る 。そ し て 本 件
処分の軽重は、争議団における役割いかんを基準としている。加え
て、本件処分は、争議団の一員であれば、ビラ配布やマイク宣伝を
していようがいまいが、責 任 を負 わせるという発 想 でなされている。
イ
本件ビラ配布行為が「会社の名誉等を毀損し、採用活動を妨害し
た 」と い う の で あ れ ば 、東 京 地 検 に よ っ て 摘 発 さ れ た シ ー ル 談 合 事
件に関与した者は、より重大な責任がある。しかるに会社はシール
談合事件について何ら社会的な責任をとらず、また被疑者に対する
処分も行っていないことが窺われる。ここにも、本件処分に対する
会社の異常な姿勢が現れている。
ウ
X 6 に 対 す る 処 分 理 由 は 、他 の 8 名 と 異 な り 、会 社 が 行 っ た 事 情
聴 取 へ の 協 力 を 拒 ん だ と い う も の で あ る と さ れ る が 、そ も そ も 本 件
ビ ラ 配 布 行 為 は 正 当 な 組 合 活 動 で あ る 。そ れ 故 、支 配 介 入 た る 会 社
の事情聴取に対して、争議団の一員として組織防衛義務を負うX6
が協力を拒んだ対応は、正当と評価されるべきであり、同人に対す
る処分もまた、不当労働行為にあたる。
エ
結局、本件処分は、労働組合法第7条第1号および同条第3号に
該当する不当労働行為である。
- 48 -
②
被申立人の主張
ア
前 述 の よ う に 、申 立 人 ら の 本 件 行 為 は 、「 労 働 組 合 の・・・行 為 」
でないばかりか、採用活動の天王山ともいうべき時期における極め
て 悪 質 な 採 用 活 動 妨 害 行 為 で あ っ た う え 、申 立 人 ら は 過 去 に も 職 場
秩序違反行為を行い、その都度制裁等を受け、態度を改める機会を
与えられていた。にもかかわらず、採用活動妨害行為を行い、しか
も何ら反省の態度を示さなかったものであり、このため、止むなく
処 分 を行 ったに過 ぎない。かかる会 社 の措 置 はきわめて正 当 である。
イ
本件ビラの各記事が、いずれも既に他のビラに掲載されていたも
のであり、その際は、会社が何ら問題にしなかったとしても、それ
らのビラは、会社の実情を熟知する従業員に配布され、そのビラに
よる影響が重大であるとは考えられなかったから格別の処分を行わ
なかったのであり、会社に対する知識の乏しい求職中の学生に対す
る本件ビラの場合とは性格が異なっていたからに他ならない。この
事 実 は 、会 社 が従 業 員 の制 裁 を行 うにあ たっ ては、当 該 行 為 の 性 質 、
秩序紊乱の程度等を個々に判断している証左である。
ウ
申 立 人 ら は 、い わ ゆ る 談 合 事 件 と 本 件 を 比 較 し 、本 件 処 分 を 非 難
するが、同 事 件 はいまだにその全 容 が解 明 されていないだけでなく、
新聞報道にも見られるように、その複雑な性格を考えれば、本件の
比較対象とはなりえないものである。
エ
申立人らは、X6に対する懲戒処分も、当然に不当労働行為であ
ると主張するが、本件ビラの配布が「労働組合・・・行為」である
と い う 前 提 に お い て 既 に 誤 っ て い る 。そ も そ も 本 件 の 如 き 職 場 秩 序
紊 乱 行 為 が 存 在 す る と き に 、行 為 者 に 制 裁 を 加 え る こ と は 、使 用 者
に 懲 戒 権 が 認 め ら れ て い る 以 上 当 然 で あ り 、そ の た め に 必 要 な 事 情
聴取を行うことも当然の会社業務(いわば秩序維持業務)である。
し か も 、本 件 事 情 聴 取 は 、採 用 活 動 に 対 す る 被 害 を 最 小 限 に 食 い 止
めるために必要不可欠かつ緊急性を有するいわば「損害避止業務」
で あ る 。そ し て 、X 6 は 、大 日 本 印 刷 争 議 団 の 一 員 で あ り 、本 件 行
為に加担し、事実関係を知悉していた蓋然性が極めて高かったので
あるから、会社がこれを調査・確認することは、通常の業務指示と
何 ら 変 わ り な く 、こ れ を 拒 否 し た X 6 の 態 度 は 、業 務 命 令 違 反 に 該
当する。
オ
以 上 の と お り 、本 件 行 為 は 、
「 労 働 組 合・・・行 為 」で も 、ま た 、
そ の「 正 当 な 」行 為 で も な い の で あ る か ら 、会 社 の 行 っ た 本 件 解 雇・
懲戒処分は何ら非難されるいわれはなく、本件申立ては棄却される
べきである。
(2) 当 委 員 会 の 判 断
①
本件解雇、懲戒処分の対象となった申立人らの行為が、その目的、
態 様 に おい て到 底 正 当 な組 合 活 動 と認 め るこ とがで きな いこと は 前 記
- 49 -
判 断 の と お り で あ る 。そ し て 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 は 、会 社 に 就 職 し よ
う と の 志 望 を 有 し て い る 学 生 ら に 、会 社 の 処 遇 や 労 働 条 件 に つ い て の
不 安 な い し 疑 念 を 抱 か せ 、会 社 に 対 す る 不 信 感 を 醸 成 し 、会 社 の 採 用
活 動 を 不 当 に 妨 げ る も の で あ り 、こ れ を 放 置 す る こ と が 相 当 で あ る と
い え る 程 度 の 軽 微 な 非 違 行 為 で あ る と は 解 さ れ な い か ら 、た と い 事 業
場 外 で行 われた申 立 人 ら自 身 の職 務 遂 行 に関 係 のない行 為 であっても、
会 社 が 企 業 の 社 会 的 体 面 や 信 用 維 持 の 面 か ら 、就 業 規 則 に 定 め る 懲 戒
事 由 に 該 当 す る と し て 、申 立 人 ら に そ の 責 任 を 問 う た こ と は 止 む を 得
ないことであるといわざるを得ない。
②
そ し て 、会 社 は 、申 立 人 ら 9 名 の う ち X 1 、X 2 、X 3 に つ い て は 、
普通解雇としたのであるが、前段認定の諸事実からすれば、X1は、
本 件 ビ ラ 配 布 行 為 を 行 う に あ た り 、と く に ビ ラ の 作 成・編 集 を は じ め
諸準備を積極的に推進する役割を果たしているといわざるを得ないこ
と 、 ま た 、 X 2 は 、「 大 日 本 印 刷 争 議 団 」 の 「 団 長 」 と し て 日 頃 か ら
申 立 人 らを統 括 する立 場 にあり、本 件 行 為 を決 定 する会 議 にも参 画 し、
その後におけるX1らの本件ビラの作成作業やビラの内容等も知悉の
う え こ れ を 容 認 し て い た と 解 さ れ る こ と 、さ ら に 、X 3 は「 大 日 本 印
刷 争 議 団 」の「 事 務 局 長 」と し て 、X 2 と と も に 申 立 人 ら の リ ー ダ ー
と し て の 立 場 に あ り 、本 件 行 為 を 決 定 す る 会 議 に も 参 画 し 、そ の 後 X 1
と と も に 当 該 ビ ラ の 作 成 作 業 に 関 与 し て い た こ と 、加 え て 、い わ ば ビ
ラの配布責任者として外部的にもその氏名を表示していること等から
す れ ば 、X 1 ら 3 名 は 、い ず れ も 本 件 ビ ラ 配 布 行 為 に お け る 主 導 的 役
割 を 担 っ た も の と 認 定 せ ざ る を 得 な い 。そ う だ と す れ ば 、本 件 行 為 の
不 当 性 に 鑑 み 、そ の 責 任 の 重 大 さ は 否 定 し が た く 、会 社 が 、後 記 X 4
以下の者らとは処分の程度を格段異にする普通解雇の発令を行ったの
で は あ る が 、こ れ を 決 定 す る に あ た っ て 、と く に 不 当 労 働 行 為 意 思 を
もって労働契約を解消する挙に出たとみるべき事情は見出しがたいこ
と か ら す れ ば 、当 委 員 会 と し て は 、こ れ を 救 済 す る に 由 な い も の と 判
断せざるを得ない。
③
次 に 、X 4 、X 5 に 対 す る 10日 間 の 出 勤 停 止 処 分 、X 7 、X 8 、X 9
に 対 す る 平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 処 分 に つ い て 検 討 す る 。按 ず る に 、会
社 は 、本 件 処 分 に あ た り 、申 立 人 ら か ら 事 情 聴 取 を 行 い 、申 立 人 ら 各
人 の 関 与 の 内 容 、程 度 を 認 定 の う え 、主 導 的 役 割 を 担 っ た と 認 め ら れ
る 者 を 普 通 解 雇 に 、ビ ラ の 作 成・編 集 に 関 与 し た と 認 め ら れ る 者 は 10
日 間 の 出 勤 停 止 処 分 に 、ビ ラ の 配 布 に の み 関 与 し た と 認 め ら れ る 者 は
平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 処 分 に 付 し た も の で あ る が 、こ の よ う な 関 与 の
程度に基づき懲戒等処分の程度を区別することは格別奇異なことでは
な い 。 そ し て 、 10日 間 の 出 勤 停 止 処 分 を 受 け た X 4 と X 5 は 、 事 実 、
本 件 行 為 を 決 定 し た り 、ビ ラ の 内 容 等 を 論 議 し た 会 議 に は 参 画 し て い
る の で あ る か ら 、会 社 が 両 名 を ビ ラ の 作 成・編 集 に 関 与 し た も の と 判
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断 し た と し て も 失 当 で あ る と は い え ず 、平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 処 分 を
受 け た X 7 、X 8 、X 9 の 3 名 に つ い て は 、会 社 と し て は 、事 情 聴 取
にお い て少 なく と も ビ ラの 配 布 に あた っ た こ とは 明 らか であ る と判 断
し た も の で あ る が 、こ れ ら 3 名 が ビ ラ の 配 布 に あ た っ た こ と は 事 実 で
あ る か ら 、上 記 の よ う な 会 社 の 判 断 は こ れ ま た 失 当 で あ る と は い え な
い 。と こ ろ で 、X 4 と X 5 両 名 に 対 す る 10日 間 の 出 勤 停 止 処 分 に つ い
て も 、X 7 、X 8 、X 9 3 名 に 対 す る 平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 処 分 に つ
い て も 、本 件 行 為 の 不 当 性 に 鑑 み れ ば 、社 会 通 念 上 過 酷 に 過 ぎ て と く
に 不 合 理 で あ る と か 、懲 戒 権 行 使 に あ た っ て 使 用 者 の 有 す る 裁 量 の 範
囲 を 明 ら か に 逸 脱 し て い る と 認 め る に 足 る 事 情 も 見 出 し 難 い か ら 、そ
こに不当労働行為意思の存在を認定することは困難であるといわざる
を得ない。
④
申 立 人 ら の う ち 、X 6 に 対 す る 処 分 理 由 は 、そ の 余 の 者 ら に 対 す る
処 分 理 由 と は 異 な り 、会 社 が 行 っ た 事 情 聴 取 へ の 協 力 を 拒 ん だ と い う
も の で あ る 。そ こ で こ の 点 を 按 ず る に 、申 立 人 ら の 行 為 が 、そ の 目 的 、
態 様 に おい て到 底 正 当 な組 合 活 動 と認 め るこ とがで きな いこと は 前 記
判 断 の と お り で あ る 。加 え て 、X 6 が 本 件 ビ ラ 配 布 行 為 に 何 ら 関 与 し
て い な か っ た と か 、あ る い は 会 社 が X 6 を し て 、同 人 が 本 件 ビ ラ 配 布
行 為 に 何 ら 関 与 し て い な か っ た に も か か わ ら ず 、も っ ぱ ら 他 の 申 立 人
ら の 関 与 の 有 無 を 調 査 確 認 す る と い う も の で あ っ た の な ら ば 格 別 、同
人は現実に本件ビラ配布を決定した会議にもビラの配布にも参加して
い る の で あ り 、か つ 会 社 は X 6 自 身 の 関 与 の 内 容 、程 度 に つ い て 事 情
聴 取 を 行 お う と し た の で あ っ て み れ ば 、会 社 の 問 い 掛 け に 対 し 、何 ら
か の 応 答 を す る こ と を 要 す る 立 場 に あ っ た も の と い う べ く 、こ れ に 対
し 一 切 応 答 を 拒 否 す る 態 度 に 出 た こ と は 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 の 不 当 性
に 鑑 み 、就 業 規 則 の 懲 戒 条 項 を 適 用 さ れ 、平 均 賃 金 半 日 分 の 減 給 処 分
に 付 さ れ た こ と も 止 む を 得 な い も の と 判 断 せ ざ る を 得 ず 、他 に 本 件 処
分がとくに不当労働行為意思をもってなされたものであると認めるに
足る事情は見出し難い。
⑤
な お 、申 立 人 ら は 、会 社 が 、シ ー ル 談 合 事 件 に つ い て 何 ら 社 会 的 責
任 をとらず、また被 疑 者 に対 する処 分 も行 っていないにもかかわらず、
本件についてのみ異常な早さで不当な処分を行った旨論難するけれど
も 、シ ー ル 談 合 事 件 は 、司 直 の 手 に よ っ て 立 件 さ れ た い わ ゆ る 刑 事 事
件 で あ り 、本 件 と は 別 個 の 問 題 で あ り 、本 件 と シ ー ル 談 合 事 件 と を 同
日 に 論 ず る こ と は 出 来 な い 。申 立 人 ら の 主 張 す る と お り 会 社 が 該 事 件
に つ い て 未 だ 関 係 者 の 処 分 等 を 行 っ て い な い と し て も 、こ の 事 実 の 存
在 す る こ と を も っ て 、本 件 ビ ラ 配 布 行 為 に 対 す る 処 分 が 当 然 に 許 さ れ
な い と す る こ と に は な ら な い か ら 、申 立 人 ら の 上 記 主 張 は 当 委 員 会 が
先に示した判断を左右するものではない。
第3
法律上の根拠
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以 上 の 次 第 で あ る か ら 、会 社 が 、X 1 、X 2 、X 3 を そ れ ぞ れ 解 雇 し 、X 4 、
X 5 を そ れ ぞ れ 10日 間 の 出 勤 停 止 処 分 に 、 ま た X 7 、 X 8 、 X 9 、 X 6 を 平
均賃金半日分の減給処分に対したことは、いずれも労働組合法第7条第1号
および同条第3号には該当しない。
よ っ て 、 労 働 組 合 法 第 27条 お よ び 労 働 委 員 会 規 則 第 43条 を 適 用 し て 主 文 の
とおり命令する。
平 成 7 年 2 月 21日
東京都地方労働委員会
会長
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沖野威