原価企画

原価企画
2004.7.1
トヨタの強みは何か?
『トヨタはなぜ強いのか:自然生命システム経営の真髄』日本経済新聞社,2002 年
⇒トヨタの生産システムに焦点
それだけ?
1980 年代までのトヨタ
乗用車組立工場(元町工場,高岡工場,堤工場,田原工場)
エンジン工場(上郷工場,下山工場)
部品工場(三好工場,明智工場,衣浦工場)
トラック・バス組立工場(本社工場)
原価企画とは,製品の量産体制以前の源流管理,(
(
)
)
における
をいう.
事業活動の分類
製品企画 製品設計 生産準備 製造活動 販売活動
フル・モデルチェンジ
製品企画はチーフ・エンジニアを中心に作成され,チーフ・エンジニアの上司である製
品企画統括部長(役員)から製品企画機能会議に提案され,承認される.
製品企画の内容
① 車両の中身
② 開発費予算
③ 開発日程
④ 販売価格,販売台数
なぜ原価企画が注目されるようになったのか?
原価企画の本質
① 顧客重視の市場主導型原価計算
標準原価計算の背景にある理論との違い
② 源流管理
③ 量産体制以前における目標原価の作り込み
④ 原価削減の方法としての価値工学
1
⑤ 職能横断的チーム編成
⑥ 価値連鎖とライフサイクル・コスティング
アメーバ経営との共通点
原価企画の計算例
岡本清『原価計算(六訂版)』国元書房,2000 年より
原価計算の観点からすれば,原価企画の核心は、量産体制以前における目標原価の作り
込み活動にある。次に CAM-I の S.L.Ansari らの計算例を参考にして目標原価計算の内
容を,計算例によって説明しよう(注 10)。なおこの計算例は,計算方法を説明するため
の例であって,構成部品の原価や機能の相互の関係などは,筆者が勝手に設定したもので
ある。
(1)クロス・ファンクショナル・チームによる新商品構想の樹立
当祉は,トースタ、コーヒーメーカー,ジューサーなど台所用品を製造・販売している。
市場調査と競争分析により,若い世代の消費者が,家庭でグルメタイプの食事に関心をも
っていることを発見し,当社は「家庭グルメ」市場ニッチに,新しいコーヒーメーカーを
売り込むことにした。そこで新商品構想とその実現可能性を検討するため,原価企画担当
責任者を指名し,関係各部門から代表者を集め,クロス・ファンクショナルなチームを編
成した。このチームで検討した結果,新商品としてのコーヒーメーカーは,豆を挽くコー
ヒーミルとドリップ方式を 1 つに組み込んだもので,市販されているエスプレッソ/カプ
チーノ・メーカーほど操作が複雑でなく,通常のノーマル・モード(ドリップ→保温)に
加えてファジー・モード(予熱→蒸らし→ドリップ→保温)により,エスプレッソ的高品
質のコーヒーをドリップして作る性能をもつものである。
(2)顧客の求める製品特性とその相対的重要性.
市場調査の結果,顧客の求める製品特性とそれぞれの重要度が判明した〔表 18-1〕。重要
度は,顧客に面接して非常に重要と思う製品特性は 5,重要でないと思う製品特性は 1 と
し、5 段階評価で答えてもらった。
2
(注 11)25%=エスプレッソのような味と香りのポイント5÷合計ポイント20
(3)目標原価の決定
新製品の特性,競争企業の製品価格,当社の目標市場占有率,顧客の支払能力などを勘案
し,当社の新製品の価格は 15,000 円と定めた。また業界の平均売上高経常利益率は 6%
∼10%であることから、目標価格の 10%を所要利益とし,許容原価を下記のように
(
)円と計算した。またこの許容原価は実現可能と判断し,これを目標原
価として採用した。
(4)目標原価と成功原価との差額の計算
ここで注意を要することは,目標原価(
)円は,製造原価だけの目標ではな
く,新製品のライフサイクル・コスト(試験研究・開発費,製造原価、販売費,一般管理費,
リサイクル・コスト)の合計ということである。そこで説明を簡潔にするため,以下では
ライフサイクル・コストのなかの製造原価に限定して説明する。仮に,製造原価の占める
許容構成率がライフサイクル・コストの 40%であるとする(表18−2)。そしてこの
新製品を現在の技術水準で製造すればかかる原価,すなわち成行製造原価が 7,000 円で
あるとしよう(表 18-3)。
3
(5)品質機能展開マトリックスの作成
それでは、顧客の望む製品特性を維持しながら,どこをどうやって(
)円
の製造原価を削減したらよいであろうか。そのためには,まず,品質機能展開マトリック
ス(Quality Function Deployment Mtrix;QFD Mtrix)を作成する(表 18-4)
4
表 18-4 は,顧客の望む製品の特性と,新製品の構成部品または機能との関係を明らか
にした表である。たとえば,顧客はエスプレッソ並みの味と香りのするコーヒーを淹れる
製品を望むが,製造企業としては味と香りをよくするためには,コーヒーメーカーのどの
構成部品または機能と密接な関係をもつか、いい換えれば,どの構成部品または機能に資
金を投下し,それを改善すれば,味と香りがよくなるかを知らなければならない。仮に味
と香りは電子制御パネルと強い関係をもち,ミルと中程度の関係,フィルターと弱い関係
をもつと、技術者たちが分析し判断したとしよう。というのは,たとえば電子制御パネル
の場合,これにファジィ・テースト・モード機能を付加すると、たんにコーヒーの豆を挽
き,ドリップするだけではなく,ガラス容器を温め,豆を蒸らし,間歇ドリップ方式でおい
しさを引き出し,保温するといった工程を制御するので,競争企業のコーヒーメーカーよ
りも,いっそう味と香りのよいコーヒーを淹れることができるからである。したがって,
電子制御パネルは味と香りに貢献する程度が大であると判断された。同様にミルとフィ
ルターも味と香りに関係するが,その貢献の程度は電子制御パネルほどではない。このよ
うにして,味と香りのほか,操作性などその他の製品特性と構成部品または機能との関係
も、表 18-4 に示したとおりであったとする。
(6)機能原価分析(Functionsl Cost Analisis)
次のステップは,顧客の重視する製品特性とそれらの重要性にもとづき構成部品または
機能が製品特性にどの程度貢献するかを,分析しなければならない。そのためには表
18-5 を作成する。
5
たとえば製品特性においてエスプレッソ並みの味と香りは,表 18-1 からその重要性は,
製品特性全体の 25%を占めると.した。そこで味と香りは,表 18-4 から電子制御パネルと
強い関係,ミルと中程度の関係,フィルターと弱い関係をもつことが知られているので,
技術者たちの協議により,それぞれの構成部品または機能が味と香 5〕のよさにたいする
貢献度は,電子制御パネルが 60%,ミルが 30%、フィルターが 10%と判定されたとしよう。
このウエイトの付け方がまさに企業の技術力に依存し、顧客の要求する製品特性の重要
性とともに、この目標原価計算の核心部分を形成する。
さて、上記ウエイトが定まると、製品特性の 1 つである「味と香り」にたいするミル,
フィルターおよび電子制御パネルの貢献度は,それぞれ次のように計算される。
ミルの貢献度=25%×0.3=7.5%
フィコレターの貢献度
=25%×0.1=2.5%
電子制御パネルの貢献度=25%×0.6=15.0%
これらの計算は,表 18-5 における「味と香り」の行で行なわれているのを認してほしい。
同様にして操作性などの他の製品特性についても計算し,これらを縦に合計すれば,構成
部品別または機能別の製品特性にたいする頁献度が判明する。たとえば電子制御パネル
は味と香りに 15%,ブザーに 10%,保温に 4,5%、形と色に 4%貢献するので,製品特性全
体にたいし 33.5%貢献することが明らかとなる。表 18-5 の最右端の列である「相対的
重要性」は,顧客がそれぞれの製品特性をどの程度重要視するかを示し,この列を縦に合
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計すれば 100%になる。他方,この表の最下行である製品特性への貢献度を横に合計すれ
ば,これも 100%となる。かくしてこの表は,製品特性にたいする顧客の要求を構成部品
または機能へ転換する表にほかならない。
(7)目標原価と成功原価との構成部品別または機能別比較
表 18−6 における「目標原価」の金額欄は,表 18-5 の最下行にある目標原価を転記した
金額である。同様に表 18-6 における「成行原価」の金額欄は,表 18-3 のデータを転記し
たものである。「差異」の金額欄は、目標原価から成行原価を差し引いた金額である。
この表から,次のことが明らかとなる。
①
新製品の目標製造原価は 5,400 円であるのにたいし,その成行製造原価は 7,000 円
であるから,総額で 1,600 円の原価削減が必要である。
②
金額的に大きく削減すべきは電子制御パネルであり(
(
③
)円,さらにタンク(
)円,次いでミル
)円の順序で検討しなければならない。
本体は現状でまずまずである。ガラス容器はいっそう良質の割れにくいガラスに変
えるなどして,むしろ原価を 133 円程度増加させてよい。
④
差異率=差異÷成行原価で計算されている。たとえば合計欄でみると,
一 1,600 円÷7,000 円≒一 0.23
である。このことは、成行原価の約 23%相当の金額だけ,原価が高すぎること,換言すれ
ば約 23%だけこの製品の価値が低いことを意味する。VEでは,製品の価値=機能÷原価
で求められる。本例の合計欄でいえば,新製品の価値=目標原価÷成行原価=5,400÷
7,000 円≒0.77 である。この値が表 18-6 における価値指数(value
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index)欄に示さ
れている。製品の機能評価額とその機能を人手するために支払う原価とが等しければ,
製品の価値指数は 1 となる。価値指数と差異率との関係は,価値指数−1=差異率の関係
にある。合計欄でいえば,0.77−1=−0.23 である。つまりこのコーヒーメーカーの価値
は、成行原価の 77%しかなく、成行原価の 23%を削減しなければならないことを意味
する。他方ガラス容器を例にとれば,その価値指数は 1.35 であって,差異率は 0.35 であ
る。
このことは,ガラス容器の成行原価はその 35%相当額 133 円だけ目標原価を下回ること,
したがってここには約 133 円原価をさらにかけて機能を改善し,他杜の製品と差別化で
きる余地があることを意味している。
(8)ブレーン・ストーミングによる原価削減方法の探求
目標原価と成行原価との構成部品別または機能別の比較により,どこをいくら製造原
価を削減すべきかが判明したので,次は原価企画チームの総合力を発揮して,削減方法を
探求しなければならない。製品の機能レベルを維持しながら製造原価を削減するための
一般的な方法としては,部品数を削減すること,組立を簡素化すること、共通部品ないし
標準部品を使用すること,デザインを単純にすること,すぐ陳腐化する部品を使用しない
こと,顧客が望む以上の過度の高品質の物作りをしないこと,などがあげられる。これら
の独創的アイディアは、原価企画チーム全員が参加するブレーン・ストーミングによる
のが有効である。ある人がアイディアを出しているときは,他の人は批判するな。また発
想は自由奔放に,そしてできるだけ多く出せ。出されたアイディアに,別の人が改善を加
えてさらによいアイディアにせよ。こうした議論の進め方により,玉石混交のアイディア
が出され,その中から大きな成果を実現する効果的な方法に到達するのが,ブレーン・ス
トーミングの技法である。
なおここで,「構成部品または機能」という言葉をしばしば使用してきた点について説
明しておきたい。たとえば表 18-6 では、第 1 列は構成部品(機能)になっている。これは
計算例わかりやすくするためであり,本来は機能を見出しにするほうがよい。なぜなら
VE で独創的な原価削減方法を模索するさいに,「電子制御パネル」で 961 円の原価を削
減せよといわれると,どうしてもいままでの電子制御パネルの形,材質,性能などに制約
されて,自由奔放な発想が妨げられるからである。それよりもコーヒーメーカーの「動作
を制御する機能」を 1,809 円以内で作れといわれたほうが,大胆な発想が可能となるであ
ろう。また一つの構成部品が単一の機能を果たすとは限らず,2 つ以上の機能を果たす場
合もありうる点に注意すべきである。
(9)目標原価の達成と未達成
原価削減方法などが確定し,目標原価の達成に成功すれば,新製品最終設計,生産準備
へと移行する.もし達成できなければ,製品の売価を引き上げるか,製品機能の一部を省
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くといった方策も考えられるが,多くの企業では未達成のまま,見切り発車して量産体制
へ移り,未達成額の実現は,継続的原価改善活
動に委ねている。
(10)目標原価計算の計算プロセス要約
以上述べた目標原価計算の主要な計算プロセスを図示してみよう。
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