北海道立食品加工研究セ ンター報告 No.82009[ノ ー ト] 51 浸漬処理 に よるソバ 粉細 菌数 の低減効果 山本 一 史,佐 藤理奈,中 野敦博,大 田智樹 Decreasein bacterial load in buckwheat flour through soaking Kazufumi Yamaki, Rina Sato,Atsuhiro Nakano and Tomoki Ohta Buckwheat seedswere subjected to the soaking process,in which they were immersed in water and allowed to absorb sufficient water, to decreasethe number of bacteria in buckwheat flour. Aerobic plate count, the number of coliform bacteria, and the number of thermoduric bacteria in buckwheat flour decreasedconsiderablyfollowing this process.Buckwheat flour was prepared from buckwheat seed after soaking process and a noodle-making test was performed. Little change was observed in the protein content, which is the main ingredient of buckwheat flour. Moreover, physical properties of the noodles prepared from the flour from buckwheat seed after processingand of those prepared from the flour from buckwheat seed without processing,did not show significant difference.Therefore,soakingprocess decreasesthe number of bacteria in buckwheat flour effectivelv. ソバ は種 子 の 形状 の 影響 もあ り,他 の穀類 と比 較 して 細 菌数 が非常 に多 く, ソバ 粉 に製粉 され てか らも多 数 の 菌 が存 在 してお り,そ の まま生麺 を製造 した場合 ,製 麺 浸漬 処理 を行 う こ とで 穀類 や豆類 の種 子 の細 菌数 を低 減 lD.従 化 す る方 法 が 開発 され て い る 来, 浸 漬 処 理 の よ うな湿式方式 を種子類 に適用 す ることは, 種 子類が乾物 であるとい う観点か らほとん ど検討 されて い ない。 この 後 の 日持 ちが非 常 に悪 い な どの品 質劣化 の 要 因 とな って い る。 そ の ため ,現 在 ス ー パ ー等 に流 通 して い る生麺 を 方法 を導入す る場合には, 浸 漬 と乾燥 の 2 工 程が追加 さ 製造す る場合 には, 日持 ち向上効 果 を持 つ 添加 物 を利用 れるが, 高 額 な装置 を必要 とはせず, 低 コス トで導入が して い るか ,あ らか じめ菌数 を減少 させ た ソバ 粉 を使用 1)4).日 して い る 持 ち 向 上 剤 と して は,一 般 的 に酒 精 が用 い られ るが ,主 成分 で あ るアル コー ル に よ り, ソバ 可能であ り, 道 内 のソバ粉製粉会社の よ うに規模 の小 さ の持 つ 風 味が損 なわれ て い る こ とが 多 い.一 方, ソバ 粉 数低減効果 の検討 を行 ったので報告す る. の 菌 数低 減 方法 と して ,加 熱蒸気 を用 い た気 流 方式 や 2 軸 の ス ク リュ ー に よる混捏 方式 , さ らには放 射 線等 の電 5)■ 0.中 磁 波 に よ る方 式 が あ る で も加 熱 蒸 気 に よ る気 流方式 は もっ とも効 果 が あ り、市場 にお い て も主流 で あ な企業 には有効 と思われる. こ れ らの ことか ら, 本 研究 では, 細 菌数 の多 いソバ粉 について, 浸 漬処理 による菌 実験方法 1.試 料 るが ,細 菌数 の低 下 には限 度が あ る こ とに加 えて、 熱 に 供試試料 として,道 内産 の玄 ソバ を用 い た。 また,湿 式処理 の製剤 として日香化成的 の 「アラコール I」 を,中 よる タ ンパ ク質 の 変性 や香気 成 分 の損 失 とい った マ イナ 和剤 として同 じく日香化成蜘 の 「アラコール Ⅱ」を用 いた。 ス 面 も抱 えて い る。 また、 い ず れ の処理 を行 う装 置 も高 額 であ り,簡 単 に導 入 で きる もので はな い 。 最近 ,道 内企業 に よ り,前 述 の 殺 菌方法 とは異 な り, 事 業 名 :一 般 試験研 究 課題 名 :道 産 ソバ 粉 を用 い た機械 製麺 に 関す る研 究 2.浸 漬処理の方法 まず,玄 ソバ と同量 の水 に12時間以上 浸漬 させた後, 山木 。他 :ソ バ 粉 の 除菌処理 52 表 1 処 理時間が及ぼす影響 一般 生 画 数 (cfu/g) 水戻し品 3 . 0x 1 0 7 製剤処理( 6 0 分) l o × ) ND 製剤処理( 1 2 0 分 l o2 大 腸菌群 (cfu/g) 陽性 陰性 陰性 耐 熱性菌数 (cfu/g) lo× ND ND l o6 *ND :Not Detected 表 2 製 剤 の濃度 が及ぼす影響 一般 生 菌 数 (cfu/g) 水戻し品 図 1 処 理 フロ ー チ ャー ト 26X107 製剤処理(12倍) ND 製剤処理(15倍) ND 大 腸 菌群 (cfu/g) 性 陽 耐 熱性 菌 数 (cfu/g) 16X106 陰性 ND 性 ND 陰 *ND : Not Detected 十分 に吸 水 した玄 ソバ を 1 . 2 ∼1 . 5 倍量 の 「ア ラ コー ル I 」 効 果 はほ とん どあ らわれ なか った。 そ こで ,玄 ソバ を十 に浸 漬 させ た。 1 ∼ 2 時 間後 に水 洗 い を行 った後 , 玄 ソ 分 に吸 水 した状 態 に してか ら製剤 に よる浸 漬 処理 を行 っ バ と同量 の 「アラ コー ル Ⅱ」 に浸 漬 させて, 中 和処理 を た ところ,水 戻 し品 と比 較 して,一 般 生菌 数,大 腸 菌群 , 一 耐熱性 菌 数 の い ず れ も低 減 す るが ,60分 処 理 で は 般 生 行 った. 7 時 間後 に水洗 い を行 い, さ らに 1 2 時間水晒 しを行 った後 に, 通 風乾燥機 を用 いて 2 0 ℃で 4 時 F H 5 乾 菌 数 が 10 2cfu/g確認 され た そ こで ,処 理 時 間 を 120 燥 した。 分 に した ところ,一 般 生 菌 数 は検 出 され な くな り,非 常 に高 い 効 果 が確 認 され た (表 1)。 一 方 で ,製 剤 の 浸 漬 3.微 生物試験 処理 時 間 を長 くした こ とか ら,中 和 に要す る時 間 と最終 浸漬処理 を行 った玄 ソバ について,一 般生菌数 と大腸 菌群 を検査 した.ま た,耐 熱性菌 として,食 中毒 菌 であ るセ レウス菌 をNGKG寒 天培地によ り検査 した へ の さ らに,耐 熱性 菌 効果 を確 認す るため,80℃ で 的 な水 晒 しの 時 間 は,必 然 的 に長 め に設 定す る必 要が 生 じ, こ れ らの こ とをふ まえて,浸 漬処 理 にお け る フ ロー チ ャー トを設 定 した (図 1). 製 剤 の 使 用 濃 度 は原料 に対 して 1.5倍量 を標 準 と して 20分間の熱処理 を行った玄 ソバ について も,耐 熱性菌 を い るが ,将 来 的 な コス トを考慮す る と,製 剤 の使 用量 は 検査 した。 少 な い 方 が 良 い こ とか ら,1.2倍 量 に減 じた場 合 に つ い て も検 討 を行 った。結 果 は,い ず れ の濃 度 も大幅 に減 少 4.ソ バ粉 の調製 し,大 腸 菌群 は陰性 へ ,一 般生 菌数 と耐熱性 菌 は検 出 さ 乾燥後 の浸漬処理済 み玄 ソバ を脱皮機 にて丸抜 きに し ス クリー ン使用)に て粉 た後 ,超 遠心粉砕機 (0.25mlnの れ な くな っ た こ とか ら,使 用 濃 度 は 1.2倍量 に減 じて も 砕 した.粉 砕 したソバ粉 について,水 分,タ ンパ ク質含 いず れの場 合 も菌数 が激減 して い る こ とか ら,本 製剤 有量,灰 分 を分析 した。 ほぼ同等 の 効 果 が確 認 され た (表 2) を用 い た浸 漬 処理 は,細 菌 数低 減化 には十分 な効 果 が あ る こ とが 判 明 した。 また,製 剤 の効 果 を十分 に出す ため 5.製 麺試験 には,玄 ソバ が十分 吸水 して い る こ とが必要 であ る こ と 調製 した ソバ 粉 を用 いて加水量 35%に て,押 し出 し 式製麺機 によ り100%ソ バ粉 の麺 を調製 した こ の麺 に か ら,本 製剤 は芽胞状 態 で はな く生 菌 の状 態 で作 用 す る もの と推 察 され た。 つい て,ゆ で試験 を行 い,物 性 を評価す るためにゆで麺 の切断強度 と水分 を測定 した。 実験結果および考察 2.耐 熱 性 菌 へ の影響 一 般 に, ソバ 切 りと して麺 に加 工 され る もの は,生 麺 の'大態 で細 菌 数が多 くて も,調 理 時 に加 熱処 理 を行 うた 1,浸 漬処理方法 の検討 と微生物 へ の影響 製剤である 「アラ コー ル I」 の浸漬時間を設定するた め 大文 夫 で あ る と認識 されて い るが ,現 実 に は耐 熱性 菌 2).そ で あ るセ レウス 菌 に よ る食 中毒 が 発 生 して い る めに,玄 ソバ をい きな り製剤 に浸漬 させた ところ,そ の こで ,本 製剤 の効 果 を さ らに確 認す るため,耐 熱性 菌 を 北海道立食品加工研究セ ンター報告 No.82009 熱性 菌 へ の効 果 表3 耐 53 漬処 理 した ソバ 粉 にほ とん ど差 はな く,い ず れ も問題 な く製麺 で きた。 また,生 麺 の状 態 で麺 線 が バ ラバ ラにな 耐熱性菌数 る こ と もなか った。 これ らの こ とか ら,製 剤 に よる タ ン 水 戻 し品 熱処 理 のみ 熱処 理 + 製 剤 処 理 パ ク質 の 変性 もほ とん どな い もの と考 え られ た。 この 製 1 . 0x 1 0 3 N.D. 麺後 の麺 を同時 間ゆでた後 に切 断強度 を測 定 した ところ, ゆで麺 の水 分 にはほ とん ど差 が な い ものの ,無 処 理 の麺 *ND:Not Detected が浸 漬処理 の麺 よ り切 断強度 が大 き く,両 者 には有 意差 表 4 ソ バ粉 の成分分析結果 タンパ ク質 含 有 量 * (%) ソバ 粉( 無処 理) 1 1 7 3 208 ソバ 粉(湿式処理) 1313 灰 分* (%) 117 (1%)が 水 分 (%) 241 105 認 め られ た (表 5). しか しなが ら,官 能 的 には十 分 な食感 を備 えてお り, 製麺 後 に も若 干残 ってい た酸 臭 は,ゆ で麺 にお い て は消 失 してお り,ほ ぼ 問題 な く食す る こ とが 出来 た。 * 乾 物量あたりの値 要 表 5 ソ バ 粉 100%麺 の分 析 結 果 約 玄 ツバ につ い て,浸 漬処理 に よる ソバ 粉 の細 菌 数 へ の 切 断強度 水分 影響 を明 らか にす るため に,玄 ソバ に十分 な吸 水 を行 っ (gL/mm2) (%) た 後 に,液 体 製剤 に よる浸 漬処 理 を行 った こ の処 理 に 57.3 57.0 よ り,一 般 生 菌数 と大 腸 菌群 , さ らには耐熱 性 菌 も激 減 ソバ 粉( 無処 理) ソバ 粉( 湿式処 理) 17.89 15.63 した。 また,浸 漬 処理 後 の 玄 ソバ か らソバ 粉 を調 製 し, 製麺 試験 を行 った ところ, ソバ 粉 の主 成 分 で あ る タ ンパ ク質含 有量 にはほ とん ど変 化 が な く,ゆ で麺 の物性 も無 強制 的 に増 菌 させ た玄 ソバ に対 し同様 の 試験 を行 った. 処 理 の ソバ 粉 を使 用 した もの と大 きな差 は 認 め られ な そ の 結 果, 加 熱 処理 の み で は完全 に殺 菌す る こ とはで き か った。 これ らの こ とか ら,浸 漬処理 に よる ソバ 粉 の細 な い が, 本 製剤 を用 い た湿式処 理 を併せ て 行 う こ とに よ 菌 数低 減化 は有効 で あ る と判 断 され た. り耐熱性 菌 が検 出 され な くなった ( 表3 ) . こ の こ とか ら, 本処理 方法 は耐 熱性 菌 に対 して も効 果 を持 つ こ とが 確 認 され た 本研 究 の 実施 にあた り,日 香 化 成株 式会社 の 荒 関孝 氏 と藤 原製麺株 式 会社 の谷 口博 志 氏 には,原 材 料 の提 供 や 試験 方法等 につ い ての ご助 言 , ご指 導 な ど多大 な る ご協 3 . ソ バ 粉 の 物性値 へ の 影響 力 を い ただ きま した こ とを深 く感謝 い た します 製剤 処理 や製剤処 理 前 にか な りの 長 時 間, 水 あ る い は 文 水 溶液 に浸 漬 され てい る こ とか ら, ソ バ 粉 に含 まれ る有 用 成分 の 溶 出や, 化 学変化 が生 じて い る可 能性 は否定 で きな い 特 に ソバ 粉 の場 合 には, タ ンパ ク質 の 溶 出や変 1)三 谷 泰 雄 ,北 川 敦 士 ,め ん類 の 副 資材 日 本 そ ば 用 品 質 改 良 剤 ,食 品 と科 学 ,1985増刊 号 2,97-102 性 は物性 値 に大 き く影響 す る . 浸漬 処理後 の 玄 ソバ を丸抜 き後 に製粉 し, 浸 漬 処理 ソ バ 粉 を調 製 した。 この ソバ 粉 には, ご くわず か に製剤 が 持 つ 酸 臭 が確 認 され た。 この ソバ 粉 につ い て主 要成分 で あ る, タ ンパ ク質含 有量 , 灰 分 , 水 分 を分析 した ところ, 献 (1985) 2)白 石俊 訓, pH調 整剤 に よるゆでめ んの 品質保持 効 果,ジ ャパ ンフー ドサ イエ ンス ,30,39-43(1991). 3)有 田俊 幸 ,生 めんの新 製 品開発 と品 質保 持技 術 ,ジ ャ パ ンフー ドサ イエ ンス,38,29_34(1999). 乾燥 処 理 時 間 の 関係 もあ り, 水 分 が少 な い ものの , タ ン パ ク質 の 溶 出 はほ とん どな く, タ ンパ ク質以外 の微量 成 4)谷 日正 明,有 機酸 の 利用 に よるめ ん類 の 日持 ち向上 分 で あ る灰 分 も残 存 す る こ とが わか った ( 表 4 ) . 逆 に い ず れ も数値 が微 増 して い る こ とか ら, そ れ以 外 の水 溶 5)塚 田直 ,粉 粒 体 原料 の殺 菌 と気 流式殺 菌法, フ ァル マ シア,19,559-564(1983). 性 成分 が若 干 溶 出 して い る こ とが 推 察 され た。 6)有 次 に, 物 性 へ の 影響 を確 認す るため, 実 際 に麺 の加 工 試験 を行 った ところ, 製 麺作 業 は, 無 処理 の ソバ 粉 と浸 技 術 ,食 品 と科 学 ,43,87-90(2001). 田俊 幸 ,宮 尾 茂 雄 ,マ イ ク ロ波 を利 用 した無 菌 ・ そ ば粉 の 製 造 ,ニ ュ ー フ ー ドイ ン ダス トリ ー ,34, 21-24(1992). 山木 。他 :ソ バ 粉 の 除菌処理 54 7) 8) 9) 沢清 彦, 二 軸押 出機 に よる滅 菌 シス テ ム, 神 鋼 テ ク 部 誠 一 郎 ,常 圧 過 熱 水 蒸 気 処 理 が 生 そ ば の 保 存 性 ノ技 法, 8 , 1 6 - 1 9 ( 1 9 9 6 ) . と食 味 に及 ぼす影響 , 日本 食 品科 学 工 学 会誌 ,54, 大 日方洋 , 金 子 昌 二 , 村 松信 之, 黒 河 内邦 夫 , 平 沢 320-325(2007). 文喜 , 流 動性 高圧 蒸気 殺 菌装 置 に よるそ ばの殺 菌, 11)荒 関静子 ,特 開 2004-147572,公開特 許公報,(2004) 長野県食 品 工 業 試験場研 究報告 , 2 6 , 3 6 - 4 1 ( 1 9 9 8 ) 12)松 家修 ,大 西勉 ,鎌 田裕子,太 田徹 ,め ん類 に対 す 等 々力節子 , ソ フ トエ レク トロ ンに よる殺 菌技 術 , る細 菌 (セ レウス 菌)汚 染 対 策 につ いて,食 品衛 生 食糧 その科学 と技 術 , 4 2 , 8 5 - 9 5 ( 2 0 0 4 ) . 10) 小 野 和 広 , 遠 藤 浩 志 , 山 田純 市, 庄 司 一 郎 , 五 十 喬Tグ:, 35, 337-343 (1985).
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