201211153 TORYUDANI- 1 LROC 画像を用いた月面クレーター形状パラメーターの検討 ANALYSIS OF SHAPE PARAMETERS OF LUNAR CRATER USING LROC IMAGES 当流谷 啓一 Keiichi TORYUDANI (指導教員 松島 亘志) Abstract – Recently space development has become active in Japan. JAXA is working to construct lunar base. However, until now, the number of studies on ground properties on the moon is not so many because it is difficult to precisely obtain the insitu lunar data. These data are essential to examine the feasibility of space development. Therefore this study surveyed such ground properties on the moon by using Lunar Reconnaissance Orbiter Camera (LROC), which succeeds in obtaining lunar data at a high resolution. Firstly the author confirmed the accuracy of the elevation data obtained from LROC images by comparing to the prior research. Secondly the author discovered that the maximum angle of crater slopes on the moon is about 21 degree to 30 degree by measuring shape parameter of lunar craters. Moreover, surface temperatures derived from thermal infrared measurements of LRO indicates that large craters are mainly composed of regolith and small craters are composed of rock. The reason is probably because large meteorites fling up the around regolith and these sand deposit on the crater slops. 1 はじめに 日本では、近年宇宙開発事業が活発化してきてい る。JAXA は月面ピンポイント着陸計画(SLIM)[1] や月面基地の建設に現在取り組んでおり、それらを より確実に遂行するためにも月面のより詳細な地盤 情報の獲得が求められる。 しかしながら、実際に月面に行き地盤情報を獲得 本研究では、月面の特にクレーター形状のパラメ ーター解析を行うことで物性値のピンポイント把握 の検討を行う。そして今後の月面開発における地盤 解析等に寄与することを本研究の目的とする。 2 既往の知見 2-1 月面地形の成り立ち することは多大なコストと労力を必要とする。従っ 月面の環境は地球上とは非常に異なる。月には大 て地盤解析を進めるには低解像度の衛星データに頼 気がないため宇宙塵や微小隕石が絶えず衝突する。 るしかなく、近年は月周回衛星「かぐや」が打ち上 大きさが小さいとはいえ秒速 10km で月面に衝突す げられたが、月面地形と地盤物性に関する研究は多 るため、表層の岩を削っていく。その削られたもの くはなされていない。2013 年に月面クレーターの地 が堆積したものをレゴリス(regolith)と呼ぶ。(図 1) 形パラメーター解析を行った L. D. Kalynn ら[2] そのレゴリス上に大小さまざまな隕石が衝突し も高解像度の月面地形データを使用した研究がいま た。(図 2)隕石が衝突した跡をクレーター(crater)とい までほとんどなされていないことを指摘している。 い、表層のレゴリスを破壊する。大きな隕石になる そこで、本研究では NASA が 2014 年より公開を と月面地下の溶岩流が湧き出てくる。(図 3)この溶岩 した月周回無人衛星ルナー・リコネサンス・オービ 流が固まると地球上からは黒く見える。月に明るい ター(Lunar Reconnaissance Orbiter, LRO)[3]に 場所とくらい場所があるのは溶岩流が流れていたか 搭載されたカメラ(LROC)の高解像度衛星データを使 どうかを示す。隕石の衝突が止まって以降も宇宙塵 い、より正確な月面地形と地盤物性の関係を分析す は降り注ぐのでクレーター上にもレゴリスが生成さ る。LRCO は 0.5 m/pixel の解像度を持ち、月面地表 れるが、クレーターがないとことに比べて生成期間 の砂であるレゴリスやさまざまな大きさで点在する が短いため厚さは薄い。 クレーターを詳細に解析することを可能にする。 201211153 TORYUDANI - 2 トにはなく、それが比較的小さな拘束圧で破砕して いると考えられている。 これらのアグルーチネイトに代表されるレゴリス の特徴的な物性値が月面表層の地盤形状にどう影響 を与えうるかを後に検討する。 図 1 レゴリスの生成 図 2 隕石の衝突 図 4 アグルーチネイトの粒子形状 またこのアグルーチネイト含有率は地盤の成熟度 を示す優れた指標でもある。前述したとおりアグル ーチネイトは微小隕石の衝突で生成されるので、地 盤が古ければ古いほど、つまり新たな大きな隕石が 地盤に衝突しない期間が長くなればなるほど含有率 図 3 クレーターの生成 も増加する。図 5 によると、アポロ 17 号で収集した 岩石の分析により、成熟した地盤ほどアグルーチネ 2-2 月面表層の地盤物性 月面の表層は地球とは異なり厚さのさまざまなレ イト含有率が高く、細かく破砕されているため平均 粒子径は小さくなることがわかる。 ゴリス層に覆われているため地盤物性も異なると考 えられる。溶岩流が固まったくらい地域を月の海と いい、それ以外の明るいところを月の陸地という。 海は高地に比べて歴史が浅いため、レゴリスの厚さ も薄く、数 m 程度であり、高地が数 10m であると 考えられている。 [4] また Lunar Source book[5]によると、レゴリス の中には、微小隕石の衝突による土壌の融解や混合 でガラス、鉱物の結晶、小さな岩石片が混ざり合っ て一つの塊のガラス状の物体になったアグルーチネ イト(agglutinate)が含まれることがすでにわかって いる。アグルーチネイトの粒子は図 4 のように非常 にいびつな形をしている。この粒子形状は物性値に も影響を与え、Carrier et al. (1972b)および Mitchell et al.(1974)が月土壌の圧縮性を、玄武岩質のシミュ ラントのそれと比較した際、月土壌の方がやや圧縮 性が高いという結果が出た[5] 。これは、アグルー チネイトのようないびつで脆弱な粒子はシミュラン 図 5 アグルーチネイトの粒度、標準偏差、含有率の 相関関係[5] 201211153 TORYUDANI- 3 また、高地の場合,レゴリス層の下にミクロンか らセンチ メートルスケールの岩石片と表土が混合し た物質(メガレゴリスと呼ばれる)が 2~3 km の厚 さで存在し,さらにその下に地殻岩盤が存在すると 考えられている。 [4]これらの物性値はいまだによ くわかっていないが、細分化され多孔性をもつ地盤 であると考えられている。 [2] 2-3 クレーターの深さ-直径の相関 深さ-直径の相関における知見として Pike らの 「新しいクレーターの深さ-直径の相関」 [6]によ ると、図 6 のように月面の比較的新しい年代にでき たクレーターは直径が 10-20km までは比例的に深さ も増加するが、それ以降は深さ-直径比が著しく小 さくなることがわかっている。 図 7 深さ-直径の相関(緑が高地, 赤が海)[2] また、J. D. Kalynn らによる「中央丘をもつクレ ーターの深さ-直径の相関」 [2]によると、図 7 の ようにクレーターの直径が約 10km 以上では高地の クレーターの方が海のクレーターよりも深くなるこ とが知られている。これは Pike らの研究では低解像 度であるため明確にわからなかったが、Kalynn らの 研究では、高解像度技術により鮮明に高地と海の差 が見てとることができる。 高地と海で深さが異なる理由は現在も判明してい ないが、L. D. Lalynn らの研究によるとレゴリス下 層のメガレゴリスの細分化され多孔性な地盤がより 深いクレーターを生成したと推測している。 [2] 3 研究手法 3-1 クレーターの深さ-直径の相関 本研究で使用する LROC 画像解析の適合性を確認 するとともに、物性の異なる地盤におけるクレータ ー深さの比較を行う。適合性を確認する手法とし て、深さ-直径の相関に関する既往の研究[2] [6] と本研究で得られた結果を比較する。 まず、月面の新しいクレーターの情報を取得する ため、アメリカの lunar and planetary institute が 掲載している月面地質図[7]から分析するクレータ ーを選出する。この地質図は月面地形の形状からそ れらの形状がいつの時代にできたものかを示してい る。図 8 はその一部である。黄色の部分のクレータ ーがコペルニクス系で 11 億年前以前のものである。 黄緑色のクレーターがエラトステネス系で 11 億~32 億年前のものである。本研究では、この比較的形成 年代の新しい 2 種類のクレーターを分析する。これ は、微小隕石などで斜面が削られる等の影響が少な い地形を選出するためである。 次に、図 9 のように LROC により月面の高解像度 データが取得可能になった月面クイックマップ[8] より選出したクレーター域をスキャンしその域の標 高の最大値と最小値を出し、 「深さ=最大値-最小 値」で求める。この際クイックマップを標高値で色 分けすることにより最大値と最小値に漏れがないよ うにする。 図 6 深さ-直径の相関[6] これらを計 136 個の新しいクレーターで行い、直 径、深さ、地盤の違いによる関係を分析する。 201211153 TORYUDANI - 4 CRATERS PERIOD COPERNICAN SYSTEM ERATOSTENIAN SYSTEM IMBRIAN SYSTEM 図 8 月面表側地質図 (縮尺: 1:5,000,000)[7] 図 9 クイックマップによる選択域のスキャン[8] 3-2 クレーターの斜面角度-直径の相関 3-1 と同様、lunar and planetary institute の月面 が、安息角の定義を「滑り出さない最大の斜面角 地質図[7]を利用し新しいクレーターの直径、地盤 度」と定義すればクレーターの最大斜面角度でも安 による斜面角度の相関を分析する。 息角と類似できると考える。 地盤の斜面角度はその地盤の重要な物性値である クレーターの最大斜面角度の測り方は、3-1 同様ク 安息角の測定に有効である。その物性値として流動 イックマップを用いて、図 10 のようにクレーターを 性の程度があげられるが、それらの相関関係は表 1 横断するラインを引く。この際、極力最大斜面角度 に示す。 [9]安息角は粒子間摩擦や粒子間の運動に に近くなるように標高別に色分けされたマップモー 対する抵抗に関係する特性値を示し、さまざまな試 ドにし行う。ライン上の始点からの距離と標高のデ 験方法で測定される。流動性の程度の関係を本研究 ータを入手できるのでそのデータを下に断面図を取 では、実物の粉体を用いた実験は行っていない 得する。 201211153 TORYUDANI- 5 表1 流動特性と対応する安息角[9] 流動性の程度 安息角(°) 極めて良好 25~30 良好 31~35 やや良好 36~40 普通 41~45 やや不良 46~55 不良 56~65 極めて不良 >66 図 11 クレーター断面図 図 10 クイックマップによる断面図取得[8] 図 12 近似曲線(5 次近似) 図 11 はその断面図の例である。このクレーターは 斜面角度は近似曲線を微分した値であるので、そ 直径 93km、深さ 3760m の有名なコペルニクスクレ れらの値の最大値を求め、その値をクレーターの最 ーターである。断面図を見ればわかるとおり、両側 大斜面角度とする。これらの近似を月面にある 95 個 面に急勾配の斜面があり、底面は広く、中央丘が存 のクレーターにて行う。 在する。 また、3-1 のように標高の最大値と最小値を求める この断面図の最大斜面角度を取得する上で、中央 のではなく、ライン上すべての標高を割り出すため 急など、特殊的な地形の起伏による影響を排除する 精度が落ちてしまう。そのため現段階では、直径が ために図 12 で示したように、近似曲線を用いて斜面 小さいクレーターでは正確な最大斜面角度を求める をならす。近似曲線は主に 4 次から 6 次の次数で行 ことが困難であるため、本研究では直径が 8km 以上 い、特異な点を排除しつつ斜面の勾配をより正確に のクレーターに絞って分析を行った。小さなクレー 近似できている曲線を使う。もし近似がうまくいか ターにおいても精度の高い斜面角度を求めることは ない場合は近似に影響を与えうる箇所を切り取り再 今後の課題として挙げられる。 度近似する。 201211153 TORYUDANI - 6 4 測定結果 4-1 深さ-直径の相関 深さ-直径の相関は図 13 のようになった。オレン 4-2 斜面角度-直径の相関 斜面角度-直径の相関は図 14 のようになった。4 ジのプロットが月の高地におけるクレーター値、青 -1 と同様、月の高地を示すプロットはオレンジ、月 色のプロットが月の海におけるクレーターの値であ の海は青色である。横軸が直径(km)、縦軸が斜面角 る。横軸が直径(km)、縦軸が深さ(km)である。各プ 度である。オレンジと青の直線はそれぞれ高地と海 ロットは対数表示で示してあり、オレンジと青い曲 のクレーターの斜面角度/直径比における線形近似 線は対数近似線である。 直線である。 測定結果は月の高地、海のクレーターとも深さ約 測定結果は月の高地、海のクレーターともに斜面 10km 以降深さ/直径比が小さくなっているのがわか 角度/直径比が直径約 20km 以降小さくなっている る。これより測定結果は 2-3 の図 6 で示した、Pike のがわかる。また、深さ-直径の相関と同様に、月 らの「新しいクレーターの深さ-直径の相関」 [6] の高地のほうが海のクレーターと比較して斜面角度 の結果とよく一致していることがわかる。 /直径比が直径約 20km から大きくなっているのが また、高地のクレーターと海のクレーターの深さ わかる。 /直径比を比較すると直径約 20km 以降から高地の また、深さ-直径の測定結果よりも同じ直径をも 方が海よりも大きくなっていることがわかる。これ つクレーターで斜面角度のばらつきが大きい。直径 より測定結果は、2-3 の図 7 で示した J. D. Kalynn 10km 付近では斜面角度が 0.6-0.9 と 0.3 もばらつ らによる「中央丘をもつクレーターの深さ-直径の きがある。これは 60 分法(°)であらわすと 11°の違 相関」 [2]とよく一致していることがわかる。 いである。このばらつきの原因は第 5 節で考察をす 以上より、月面クレーターパラメータの検討にお いて LROC 画像を用いて測定することの有効性が確 る。 また、本研究では 3-2 で先述したとおり直径 10km 以下のクレーターは測定を行っていない。深さ 認できた。 また直径 5km 付近の深さ/直径比で海のクレータ -直径の測定結果グラフでも直径が 10km を下回る ーの方が逆転して大きく値が出た。本研究では直径 と大きいクレーターとは違った傾向が見られたた の小さい新しいクレーターは、特に海であまり観測 め、より精度、解像度の高い測定方法を検討し、斜 されずプロット数が少ないことから優位な差が出て 面角度-直径の相関を測定する必要があると考えら いるか検討が必要であるとともに、今後さらなる測 れる。 定が求められる。 図 13 深さ-直径測定結果 図 14 斜面角度-直径測定結果 201211153 TORYUDANI- 7 5 考察 5-1 斜面角度の減少傾向 4-1 で先述したとおり、既往の研究結果と本研究 表 2 直径 300m 以下のクレーターにおける DA/t (直径/レゴリスの厚み)増加に伴う地形進化[10] の LROC 画像による測定結果がよく一致しているこ とが確認できた。そこで、その LROC 画像から測定 した月面クレーターの斜面角度について考察すると ともにそれらのパラメーターから導かれる月面地盤 の物性値について検討を加える。 まず、クレーター直径が大きくなるにつれ最大斜 面角度が小さくなる傾向についてだが、大きく 3 つ の要因が考えられる。 一つめは、クレーターの深さ/直径比が、直径が 大きくなるにつれ小さくなる点である。4-1 の測定 結果より深さ/直径比が極めて小さくなることが確 認できるが、これはつまり隕石の衝突により掘り出 された表層の量が増えても底は深くならないことを 意味する。したがって、堆積物が斜面に緩く堆積す る可能性がある。また、深さ/直径比の下げ幅が、 海のクレーターの方が大きかった結果とも整合性を とることができる。 二つ目として考えられるのは、地盤の層の違いに よる斜面勾配の変化である。Gwendolyn D. Bart の 研究[10]を引用すると、表 2 と図 15 より層構造を 持つ地盤に隕石が衝突すると、地盤の層の厚さによ ってクレーターの形状が変わることがわかる。この 形状変化によりクレーターに勾配の小さな斜面がで き、近似する際に最大斜面角度を緩める影響を及ぼ すと考えられる。実際に直径別の代表的な断面図を 図 16~18、20~22 に、LROR 画像を図 24~29 示 す。図からも直径が大きくなるにつれ一部平に近い 斜面が確認できる。この多層構造の要因はレゴリス 下のメガレゴリスや岩石の層では粒子形状が深さと ともに変化することが挙げられるが、深い月面地層 については研究が多くはなされていないため、今後 の研究課題になるだろう。実際に、直径の大きな高 地のクレーター③と海のクレーター③において平ら な斜面を省き一部区間のみ近似を行うと、斜面角度 の値は約 0.1 増加した。(図 19、23)従って、今後は 中央丘などの特異な地形を除きつつ、多層構造のク レーターでも斜面角度を正確に測定できる近似式の 図 15 層構造をもつターゲットへの衝突によっ 検討を行う必要があるだろう。 て形成された地形プロファイルの模式[10] 201211153 TORYUDANI - 8 図 16 高地のクレーター①(直径 11km) 図 20 海のクレーター①(直径 11km) 図 17 高地のクレーター②(直径 41km) 図 21 海のクレーター②(直径 40.5km) 図 18 高地のクレーター③(直径 83km) 図 22 海のクレーター③(直径 94km) 図 19 高地のクレーター③(85km-90km) 図 23 海のクレーター③(87km-90km) 201211153 TORYUDANI- 9 図 24 高地のクレーター①(直径 11km) 図 27 海のクレーター①(直径 11km) 図 25 高地のクレーター②(直径 41km) 図 28 海のクレーター②(直径 40.5km) 図 26 高地のクレーター③(直径 83km) 図 29 海のクレーター③(直径 94km) 201211153 TORYUDANI - 10 三つ目として考えられるのは、地盤物性の違いで ている。一方で大きなクレーターは斜面の縁が少し ある。LROC の Rock Abundance 機能で昼夜の温度 白っぽいが、全体的に切り立った斜面ではなく黒っ 比較により、月面の岩石層とレゴリスなどの砂層を ぽい砂層も多く見られる。 識別することができる。この機能で、直径の大きな 岩石は砂層と違い、安息角がないため切り立った クレーターと小さなクレーターを比較したものが図 斜面になり図 14 のように 0.9 近い斜面角度が測定さ 30、図 31 である。図 30 は直径 11km のクレーター れたと推測される。たとえば、図 30 の海のクレータ ①、図 31 が直径 94km の海のクレーター③である。 ー①は最大斜面角度が 0.87、図 31 の海のクレーター 色は赤色に近いほど岩石成分が多いことを示し、青 ③は 0.47 である。 色に近いほどレゴリス等の砂層が多いことを示す。 このようなクレーターの大小の違いによる地盤物 また、それぞれの斜面の一部を LROC の高解像度カ 性の違いは月面全体でおおよそ一致していることは メラで撮ったものも図 30、図 31 に示す。 図 32 よりわかる。なぜクレーターの大小により地盤 まず左側の Rock unbalance 機能より小さいクレー 物性が異なるのかはまだはっきりわかっていない ターの方が岩石の割合が高いことがわかる。また、 が、大きなクレーターの方は衝突地点付近のレゴリ 大きなクレーターは中央丘や斜面の最下層に岩石地 スも破壊し巻き上げてそのレゴリスが斜面に堆積し 盤がある一方、斜面は全体的にレゴリスの割合が高 たと考えられる。この原因の検討は今後の研究の課 いことがわかる。また、LROC 画像によると小さい 題となる。 クレーターは斜面が全体的に白っぽく、ごつごつし 図 30 海のクレーター①(直径 11km)の岩石表示 図 31 海のクレーター③(直径 94km)の岩石表示 201211153 TORYUDANI- 11 図 32 月面クレーターの岩石表示 5-2 斜面角度のばらつき 4-2 でも先述したように斜面角度-直径の測定結 斜面角度は arc tan 表記で 0.4~0.6 であり、度数法 果には、同程度の直径をもつクレーターにもばらつ で約 21°~30°の角度である。また、レゴリスの流 きが見られる。その要因について考察する。 動性は表 1 の流動特性と安息角の関係性から、極め ばらつきが生まれた要因の一つは、LROC 画像の て良好な値とわかる。これらは、レゴリス層に付着 標高における解像度が低いからであるだろう。ピン 力が影響していないことを示しており、レゴリスが ポイントで標高データを得るのではなく断面図のラ 緩くクレーター斜面に堆積していることがわかる。 イン上すべての標高を取得する方法はまだ確立され このように、レゴリスの安息角を求めることは将 ていないため、解像度が落ちてしまう。これによ 来、月面基地の土台などに利用する際に重要な検討 り、斜面角度の数値に誤差が生まればらつきが生じ 材料となるであろう。そのためにも、LROC の高解 たのではないだろうか。 像度データから、レゴリスの安息角を判断するため また、月の海のクレーター同士でも約 11°のばら に適した斜面を見つけて比較することが大切になっ つきが生じたことから、アグルーチネイト含有率な てくるだろう。今後の研究では以上の点に留意して どとは別の地盤特性が物性値に影響を与えた可能性 月面物性値の推定を進めていきたい。 がある。本研究ではその地盤特性を確認することは できなかったため、今後の研究課題とする。 6 まとめ 本研究では NASA が公開を開始した月周回無人衛 5-3 工学的視点 本研究から得られた測定結果を工学的視点に基づ 星ルナー・リコネサンス・オービター[3]に搭載さ き考察する。本研究では、クレーターの斜面角度よ れたカメラ(LROC)の高解像度衛星データを用いて、 りレゴリス層の安息角を推定し、月面開発に役立て 月面クレーターの形状パラメーターを検討すること ることを目的とした。 で以下の結論を得た。 しかしながら、月面の斜面角度の測定結果はばら つきが非常に大きく、安息角をはっきりと推定する 1. LROC 画像による深さ-直径の測定結果と既往 ことはできなかった。特に、5-1 の 3 つ目の理由で の研究による結果の一致より、研究手法の妥当 ある、岩石層と砂層によるばらつきが大きな原因だ 性を確認することができる。 と考えると、大きなクレーターの斜面角度より安息 角を推定するべきであろう。これは、図 14 より最大 201211153 TORYUDANI - 12 2. クレーターの最大斜面角度は、直径が大きいク レーターほど小さくなるが、この原因として斜 面の地盤物性の相違等が挙げられる。 3. 参考文献 [1] JAXA / ISAS / SLIM / 月面の地表地盤であるレゴリスの安息角を推定 http://www.isas.jaxa.jp/home/slim/SLIM/topp することで、月面施設の土台などへの有用性が upeji.html 検討できる。 [2] J. D. Kalynn, C. L. Johnson, O. S. Barnouin, G. R. Osinski / LUNAR COMPLEX また、本研究では斜面角度を測定する上で、直径 が 8km 以下のクレーターの結果を得ることができな かった。今後は、その原因である解像度の向上を進 CRATERS / 44th Lunar and Planetary Science Conference, 2013 [3] NASA / Space Exploration Resources / めるとともに、より精度の高い物性値の推定をおこ Arizona State University / ないたい。 http://lroc.sese.asu.edu/ [4] 千葉工業大学惑星探査研究センター / 荒井朋 謝辞 本研究を進めるにあたり、松島先生にはお忙しい 子 / かぐやデータと月試料の融合研究が拓く 月科 / 学/地球化学 43,169―197(2009) [5] The Lunar Sourcebook A User’s Guide to the 中論文の修正から研究の進捗報告の時などに色々と Moon / GRANT H. HEIKEN, DAVID T. ご指導していただき深く感謝いたしております。山 VANIMAN, BEVAN M. FRENCH in 1991 / 本先生には発表の練習や発表資料の添削にお付き合 P296 いしていただき、大変感謝しております。画像解析 [6] Richard J. Pike, U.S. Geological Survey, では、研究室の先輩方に方法や手順などを細かく教 Menlo Park, California 94025 / p291-p294 えていただき本当にありがとうございました。研究 DEPTH/DIAMETER RELATIONS OF 室の同期ともよく互いの研究内容を報告し合って元 FRESH CRATERS / Geophysical Research 気付けあったりしてとても励みになりました。 今回この卒業論文を作成することができたのも、 Letters, Vol. 1, No. 7 / November 1974, [7] lunar and planetary institute / Geologic ひとえに先生方先輩方同期のお力添えのおかげで Atlas of the Moon / す。今後もよりより研究を進めていくとともに、今 http://www.lpi.usra.edu/resources/mapcatalo 度入ってくる後輩のために助力できる先輩になりた g/usgs / U. S. Geological Survey いと思っております。本当にご協力ありがとうござ いました。 [8] Quick map / 2011 http://target.lroc.asu.edu/q3/ [9] 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 / 26.粉体の流動性 / 042-0909.pdf 1 / http://www.pmda.go.jp/files/000163308.pdf [10] Gwendolyn D. Bart / The quantitative relationship between small impact crater morphology and regolith depth / Icarus 235 (2014) 130–135
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