夏休み自由研究「虹をつくろう・しらべよう」実施報告

大阪市立科学館研究報告 26, 145 - 150 (2016)
夏休み自由研究「虹をつくろう・しらべよう」実施報告
長 谷 川
能 三
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概 要
2015年 は国 際 光 年 であることにちなみ、夏 休 み期 間 中 に小 ・中 学 生 を対 象 とした夏 休 み自 由 研 究
「虹 をつくろう・しらべよう」を実 施 した。この教 室 では、光 を分 光 して虹 色 を見 るだけでなく、簡 易 分 光 器
を作 成 し、いろいろな光 のスペクトルを観 察 した。ここで、その内 容 、工 夫 点 等 について報 告 する。
1.はじめに
プリズムが出 てこないため、プリズムを知 らない子 どもた
光 の 性 質 の 中 でも 、光 を 虹 色 に 分 ける 「 分 光 」 は 、
物 理 や化 学 、天 文 学 など、さまざまな分 野 で重 要 な実
ちも多 いようであるが、今 回 、比 較 的 多 くの参 加 者 がプ
リズムのことは知 っていたようである。
験 や観 測 の手 段 である 。回 折 格 子 レプリカフィ ルムを
使 った実 験 や工 作 では、光 が虹 色 に分 かれて見 える
美 しさ を 主 に 扱 っ ている もの も 多 いが 、こ の 夏 休 み 自
由 研 究 では、単 に美 しいだけでなく、光 源 によってスペ
クトルが違 うことを知 ってもらうことを目 的 とした。そのた
め、簡 易 分 光 器 の作 成 し、いろいろな光 のスペクトルを
観 察 してもらった。
2.実 施 日 ・参 加 者 等
日
時 : 2015年 8月 18日 (火 )・19日 (水 )
14時 ~15時 30分
対
象 : 小 学 4年 生 ~中 学 3年 生
参 加 費 : 1,000円
写 真 1.虹 スクリーンに光 をあてて虹 を観 察
参 加 者 : 31人 (8月 18日 )、25人 (8月 19日 )
3-2.虹 みえ~るの作 成
3.内 容
次 に、回 折 格 子 レプリカフィルム(以 下 、回 折 格 子 フ
3-1.虹 の観 察
ィルム)を配 布 した。回 折 格 子 は、ガラスの表 面 に1μ
虹 の写 真 や、虹 スクリーン(小 さなプランスチックビー
m程 度 の 一 定 の 間 隔 で多 数 の 溝 を 作 ったも の で、干
ズを水 滴 の代 用 としたもの)に光 をあてて現 われる虹 を
渉 によって光 を分 光 することができる。ガラス製 の回 折
見 て、虹 にはどんな色 に見 えるか、虹 を見 て気 がつい
格 子 は高 価 であるが、回 折 格 子 レプリカフィルムは安
たことがあるか等 を聞 いていった。また 、虹 以 外 にも 、
価 で入 手 することができ、このような実 験 ・工 作 に向 い
環 水 平 アークや 環 天 頂 アーク 、幻 日 など 、虹 のよう に
ている。
空 に見 える気 象 光 学 現 象 を紹 介 した。
この回 折 格 子 フィルムを通 して天 井 の照 明 などを見
虹 のように光 を虹 色 に分 けることができるものとして、
ると、光 が虹 色 に分 かれて見 える。しかし、回 折 格 子 フ
プリズムを紹 介 した。小 ・中 学 校 の学 習 指 導 要 領 には
ィルムは薄 く、扱 いにくい。また、回 折 格 子 フィルムを直
接 手 で触 ると、手 の脂 分 が表 面 の溝 を埋 めてしまい、
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大阪市立科学館 学芸員
hasegawa@sci-museum.jp
光 が虹 色 に見 えなくなる部 分 がでてくる。
そこで、この回 折 格 子 フィルムを、透 明 な袋 に入 れ、
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長谷川 能三
写 真 2.回 折 格 子 フィルムで光 を見 る
写 真 4.簡 易 分 光 器 の作 成
写 真 3.「虹 みえ~る」の作 成
写 真 5.簡 易 分 光 器 によるスペクトルの観 察
さらにラミネートコートすることで、非 常 に扱 い易 くなる。
透 明 な袋 としては、ポジフィルムを入 れるポリプロピレン
製 の袋 を 用 いた(ラミネ ート コートするた め、耐 熱 性 に
注 意 する必 要 がある)。このような加 工 をした回 折 格 子
は「虹 みえ~る」と名 付 け、これまでもサイエンスショー
等 でスペクトルを観 察 するのに用 いている。尚 、また、
袋 に入 れずにラミネートコートすると、回 折 格 子 の溝 が
埋 まってしまい、スペクトルは見 えなくなる。
作 成 した虹 みえ~るを使 って、いろいろな元 素 のス
写 真 6.簡 易 分 光 器 で観 察 した蛍 光 灯 のスペクトル
ペクトル管 の光 を観 察 してもらった。周 りが暗 く 、光 源
がスリットのように細 長 い場 合 には、虹 みえ~るでも十
分 スペクトルを観 察 できる。
完 成 した簡 易 分 光 器 を用 いて、身 近 なあかりのスペ
クトルを観 察 してもらった。光 源 と用 意 したのは、白 熱
電 球 、蛍 光 灯 、電 球 型 LED、青 色 LED、高 圧 ナトリウ
3-3.簡 易 分 光 器 の作 成
ム灯 、低 圧 ナトリウム灯 、水 銀 のスペクトル管 (水 銀 灯
次 に、回 折 格 子 フィルムとボール紙 を用 いて、簡 易
の代 用 )である。これらのスペクトルを観 察 、比 較 するこ
分 光 器 を作 成 した。図 3の型 を印 刷 したボール紙 を型
とで、似 ているところや違 いを意 識 してもらい、光 源 に
に沿 って切 っていき、覗 き口 になる部 分 に回 折 格 子 フ
よってスペクトルが異 なることを知 ってもらった。
ィルムを貼 り、箱 を組 み立 てていくというものである。尚 、
ただ、ス ペクト ルを 比 較 する ためには 、スケ ッチなど
限 られた時 間 の中 で工 作 を行 なうため、ボール紙 には、
で記 録 することが 望 ま しく 、ここでは1~ 2種 類 の 光 源
あらかじめ折 り目 をつけ、またその一 部 には目 盛 りとな
のスケッチをしてもらい、他 の光 源 については帰 ってか
る紙 も貼 っておいた。
らの自 由 研 究 の続 きとしてもらった。
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4.作 成 した簡 易 分 光 器
今 回 作 成 した簡 易 分 光 器 は、オリジナルで設 計 した
もので、
① はさみで工 作
② 高解像度
③ 暗 い光 源 にも対 応
④ 波 長 目 盛 りを付 けることができる
という特 徴 がある。
通 常 、このような簡 易 分 光 器 の作 成 では、スリットの
部 分 を切 り取 るのに、カッターナイフが必 要 なものが多
い。そこ で、スリットや 覗 き口 をV字 型 に切 り抜 くように
することで、はさみだけで切 ることができるようにした。ス
リットは細 長 いV字 を2つ合 わせることで、細 長 い菱 形
となる。これにより、スペクトルの上 下 の部 分 は非 常 に
解 像 度 が高 くなり、まん中 付 近 はスリット幅 が広 いため、
暗 い光 源 のスペクトルも観 察 できるようになった。例 え
ば雲 に向 けると太 陽 のスペクトルが見 えるが、スペクト
ルの上 下 の部 分 では、ナトリウム等 の暗 線 を観 察 する
ことができる。さらに、スペクトルの背 景 になる部 分 に、
黒 地 に白 で描 いた目 盛 りを印 刷 したコピー用 紙 を貼 る
ことで、スペクトルの波 長 を読 み取 ることができるように
した。ただし、波 長 が正 しく表 示 されるかどうかは工 作
精 度 によるため、今 回 、数 字 は入 れず、スペクトルを比
較 するときの参 考 程 度 とした。
写 真 8.いろいろな光 源 のスペクトル
上 から、白 熱 電 球 、電 球 型 LED、蛍 光 灯 、水 銀
のスペクトルランプ、高 圧 ナトリウム灯 、低 圧 ナトリ
ウム灯 の ス ペ クト ル。電 球 型 LE Dの ス ペク ト ルは
青 と 緑 の 間 で暗 く なっ て い る こ と や 、蛍 光 灯 の ス
ペクトルには水 銀 の輝 線 スペクトルが含 まれてい
ることがわかる。また、高 圧 ナトリウム灯 はいろいろ
な色 の光 が含 まれ、オレンジ色 の部 分 が明 るく見
写 真 7.完 成 した簡 易 分 光 器
えるが、そのまん中 が暗 くなっているのがわかる。
5.考 察
の作 成 では、あらかじめ周 囲 の余 分 なところのカット、
今 回 の夏 休 み自 由 研 究 では、大 阪 府 の新 任 教 員 体
目 盛 りの部 分 のカットと目 盛 りの貼 り付 け、折 り目 をつ
験 研 修 の受 入 として、4人 の教 員 に事 前 準 備 および補
けるという工 程 を事 前 準 備 でしておいたため、工 作 時
助 をしていただいた。そのため、当 初 の予 定 よりも準 備
間 をかなり短 縮 し、工 作 精 度 も上 げることができた。研
に手 間 をかけることができることから、工 作 で時 間 のか
修 で来 ていただいた宮 崎 浩 貴 教 諭 、宮 本 弘 行 教 諭 、
かる部 分 を 事 前 の 準 備 で済 ま せ 、そ の 分 、ス ペクト ル
井 上 雅 人 教 諭 、三 原 理 緒 教 諭 に感 謝 いたします。
の観 察 等 に重 点 をおいた。具 体 的 には、虹 スクリーン
このように、事 前 準 備 ができたため、比 較 的 スムーズ
は事 前 準 備 で作 成 しておき 、観 察 だ けにとどめた。ま
に工 作 やスペクトルの観 察 を行 なうことができ、当 初 の
た、使 用 しているプラスチックビーズに触 れずに済 むよ
目 的 でもある光 源 によるスペクトルの違 いにも興 味 を持
うに、透 明 な袋 に入 れて配 布 した。また、簡 易 分 光 器
ってもらえたようである。
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長谷川 能三
図 1.当 日 配 布 レジメ(1)
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図 2.当 日 配 布 したレジメ(2)
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長谷川 能三
図 3.簡 易 分 光 器 の型 紙
これをA3サイズ程 度 のボール紙 に印 刷 して使 用 した。実 線 の部 分 を切 り、点 線 の部 分 を折 る。右 側 上 下 の細
長 いV字 型 の部 分 がスリットとなる。左 側 の広 いV字 型 の部 分 が覗 き口 となる部 分 で、ここに500本 /mmの回
折 格 子 フィルムを貼 る。右 側 まん中 より少 し上 と下 の四 角 い切 り込 みが目 盛 りを付 ける部 分 で、ここを切 らずに
目 盛 りなしでも使 用 できる。上 下 の切 り込 みを、組 み立 てる時 に互 い違 いに差 し込 むことで丈 夫 になる。
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