平成 23 年度丸亀市家庭教育セミナー講演要旨 「たかがアニメの教育学~サザエさん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃん~」 講師 東洋大学文学部教授 藤本典裕 氏 アニメ「サザエさん」と「ちびまる子ちゃん」に描かれている家族を見ると、権力の象 徴だった怖い父親像が崩れ、かつての父親の厳しさと母親の慈しみが母親だけに求められ ようになってきたことがみてとれる。 それに伴って、子育て観も変化してきた。昔は、子どもは神の子であり、自分の進むべ き道を知っている。だから、親や周りの大人たちは前にまわってひとつの方向に子どもを 引っ張っていくのでなく、後ろから支え、背中を押してやればいいと考えていた。 しかし今は核家族化が進み、その中で子育てが母親だけの仕事になり、夫や親、他の母 親に相談できず一人だけで悩み、ストレスを抱える母親が増えている。 また、子どもは大人の常識では測れないものの考え方をする。一見何を考えているか分 からない子どもの言葉を一生懸命聞く、「待つこと」、時間をかけることは非常に大切だけ れどなかなか難しいことである。 その点で「クレヨンしんちゃん」の家族は、理想的な家族かも知れない。しんちゃんの 母(ミサエさん)は、何度叱られても懲りない子ども(しんちゃん)に対して、じっくり 付き合っている。誰かと比べない。子どもに対してきちんと「ごめん」が言える。よその 子にもダメなことはダメと言える。ママ友やご近所さんに子育てを助けてもらえる関係を つくっている。もちろん時々「とうちゃん」の出番もあり子育てに参加する姿勢が見られ る。 現在、自分の子どもだけが幸せになればいいという「自子(じこ)中心主義」の親が増 えているのかも知れないが、家庭の中だけで自分の子だけを「人成す(一人前の人間に育 てる) 」ことはできない。一人の子どもだけが幸せになるような社会は、結局誰も幸せには ならないのではないかと思う。 そこで、 「カモカのおっちゃん」のような、地域の子どもを誰であっても叱ってくれるよ うな大人の存在が必要なのではないか。子どもを取り巻く大人たちや子育て中の母親たち といった「~たち」という豊かな関係の中で子育てしていけるような社会になることが望 まれている。
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