(空間伝送(回線設計、アンテナ))

第11回 情報伝送工学 空間伝送と回線設計
・空間伝送とは
・伝送線路を用いずに情報(電気信号)を伝送すること
・通称→無線
・空間伝送のメリットとデメリット
メリット → 電線などの伝送線路を使わない為、送・受信機を自由に配置
可能(モバイル)
デメリット → 光・電磁波の空間減衰が大きい為、それを補う大きなアンテナ
や高周波電力が必要
・搬送波源の分類
電波
電磁波
光波
音波(可聴音)
音響波
人体通信
超音波
・伝搬を媒介する媒質と伝搬速度
光・電磁波 → なし(誘電体・磁性体中も伝搬)、空気中2.99792・108[m/s]
音波 → 空気、液体、金属、空気中340、水中1500、金属6000[m/s]
・空間伝送の例
電波 → ラジオ・テレビ放送、携帯電話、無線LAN、衛星通信・放送
光波 → リモコン、赤外線通信(赤外線)
音波 → 超音波通信(船舶-潜水艦間通信)
・空間伝送の周波数による分類
1. 低周波数(HF~VHF) (ラジオ、テレビ)
2. 超短波(UHF) (携帯電話、無線LAN)
3. マイクロ波およびミリ波 (衛星放送)
4. 赤外線 (リモコン等)
5. 可視光 (可視光通信)
周波数高い
回線設計
回線設計とは伝送線路も含んだ系における通信が可能となる様に電力の出力、
アンテナ利得、損失および増幅電力の配分を行うことであり、さらに受信される
雑音との比から通信が可能かを評価するものである。
球の表面積
4πd2
Pe
d
Po
点波源から離れた位置での受信電力密度
点波源から球の等方に放射されたP[W]なる電磁波の距離d[m]の点で受信する電力
密度Pd[W/m2]は、半径dの球の表面積4πd2で割れば
Pd 
P
4d 2
・・・(11.1)
この分は自由空間
伝搬損失に現れる。
となるが、通常Peは分離してdBを示し、さらにPo内のPeは1として自由空間伝搬として波長
で規格化して対数をとりdB表示にて使用する。その際、電力は波長λは2乗で作用する
ことに注意する。
電波の場合(衛星通信を例に)
放送局や通信衛星の送信から受信までを含めた伝送信号の総合C/N(搬送波電力対
雑音電力)比は上り回線と下り回線とで計算し、その合計から算出する。この計算式を以
下に示す。
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ダウンリンク
1. 下り回線の(C/N)D [dB]
(C / N ) D  C  N  Pe  L p  L  Lr  Gr  ( K  T  B )
但し、Cは受信機電力であり、Nは雑音電力である。
・・・(11.2)
2. 上り回線の(C/N)U [dB]
(C / N )U  CU  N S  Pg  L p  L  Lr  Gr  ( K  TS  B )
・・・(11.3)
但し、CUは受信機電力であり、NSは雑音電力である。さらに、Pg、GS、TSはそれぞれ基地
局eirp、衛星受信アンテナ利得および衛星雑音温度を示す。
よって、これらのC/N比を用いることにより
等価放射電力
3. 総合(C/N)T 比
1 /(C / N )T  1 /(C / N )U  1 /(C / N ) D
・・・(11.4)
については、比に直して計算した後に10logをとりdBに変換する。
これらの定数について衛星通信を例に具体的に説明する。
A.衛星部分
1. 衛星送信電力(送信機出力)P
電力の対数をとって
P[ dBW ]  10 log( P[W ]) ・・・(11.5)
を計算する。
2. フィーダ(伝送線路)損失Lf
アンテナから送信機または受信機までのフィーダ(給電線)、分配・合成回路およ
び切り替えスイッチなどでの損失[dB]
フィード
3. アンテナ利得GS
波長≪パラボラの大きさ
衛星の送信アンテナの絶対利得[dB]
パラボラ
送信アンテナ利得
アンテナ
微少アンテナからの利得を0dBiと定義
送信アンテナの面積が大きければエネルギーが正面に集まりアンテナ利得大
アンテナ直径
2
  D 
Gr  10 log   






 ・・・(11.8)

4. 等価等方放射電力(eirp)Pe
Pe  P[ dBW ]  L f [ dB ]  GS [ dB ]
送信電力
・・・(11.6)
フィーダー損失 送信アンテナ利得
を等価等方放射電力(equivalent isotoropical radiated power)または実効輻射電力
(effective isotoropic radiation power)と呼ぶ。
5. ポインティング(指向)損失Lp
アンテナが正しい方向からずれた場合の最大利得からの低下分[dB]
B.伝搬路
6. 自由空間伝搬損失L
自由空間伝搬損失を正とすれば、先の(11.1)式の4πd2は分子に配置され、さらに等
方性アンテナの実効面積は
2
S

4
であるから、このアンテナを受信点にて電力密度 Pd の平面波の中に置いた時に受
信される電力をPrとすれば、これはアンテナの表面積に比例するので
2
P
  
Pr  Pd  S 


P


4  d 2 4
 4d 
2
等方性アンテナの実効面積
受信点の電力密度
を得る。よって、損失を+とすれば逆数をとって、アンテナからd[m]離れた場合の自由
空間伝搬損失は
dB
距離が大きくなると減衰大
 4d 
L[ dB ]  10 log




電力
2
・・・(11.7)
となり、改めてd[m]は衛星と受信点との距離であり、λは通信する周波数の波長であ
る。この値は点波源からのエネルギーの放射状の拡散現象を考慮していることにより
求められる。ここで重要なのが、λ=c/fなので、損失は周波数に比例していることであ
る。
よって一例としてf=12GHzではλ=2.5cmであり、d=37930kmではL=205.6dBとなる。
7. 降雨減衰Lr
12GHz帯の電波の降雨による減衰は時間あたりの降雨量および電波の伝搬路長
により変化するので、受信する地域によって異なる。WARCの取り決めでは、日本
においては最悪月にその値をこえる減衰が発生する時間率が1%となる降雨減衰量
として2dBを用いている。
C.受信機
効率
アンテナ直径
8. 受信アンテナ利得Gr
パラボラアンテナなどの開口面アンテナの絶対利得は
  D  2 

Gr [dBi ]  10 log 
    


・・・(11.8)
から計算できるので、λ=c/fにおいてf=12GHzでは一例として、開口能率およびア
ンテナの直径をそれぞれ
  0.7, D  0.6m の場合のアンテナ利得は36dBiとなる。
10. ボルツマン定数(K)*注
K=1.3807×10-23[J/K]の10logをとった-228.6[dBJ/K]を使用する。
11. 雑音温度T
受信機の雑音の程度を示すのに普通は雑音指数(noise figure)Nを用いるが、
回線設計では雑音温度(noise temperature)Tを使用して通常は
*注 ボルツマンが導入した普遍定数の一つであり、気体定数をアボガドロ数で割った値。
1.380658×10-23J ・K-1 として、分子の運動エネルギーと絶対温度との関係を示す
尺度と考えられ、エントロピーの式の比例定数でもある。
T [ dBK ]  10 log(T [ K ])
・・・(11.9)
としてdB表示で使用する。なお、雑音指数と雑音温度の間には
N  1  T / T0
・・・(11.10)
なる関係がある。ここで、T0は周囲温度(20°+273°=293K)である。
アナログBS
12. 受信帯域幅B
放送衛星の帯域幅27MHzの10logをとった74.3dBHzを使用する。
13. 受信機雑音電力N
受信機の雑音電力は、入力に標準雑音源が接続されているものと仮定すれば
NK
受信機の雑音温度
ボルツマン
受信帯域幅に比例
・・・(11.11)
T  B
←正しい!次々ページの項目11を参照のこと!
で計算され、10logをとったdB表示で使用する。なお、ここでの雑音は、実際には
受信機本体による雑音(増幅器およびミキサなど)によるショット雑音と入力端子
に接続されるアンテナ雑音である熱雑音から構成される。
14. 15. 16. 搬送波対雑音比(C/N)
受信機への入力電力と受信機内部で発生する雑音電力との比であり、約10dBより
小さくなるとFMでは特有のスレッシュホールドレベルにかかり、急激に受信品質が
劣化する。
ポインティング損失(アンテナずれ)
降雨減衰
C  P  L f  GS  L  LP  Lr
①
②
①-②+③=56.7dBm
③
 20  2.3  205.6  39  0.5  2  151.4dBm
受信アンテナ利得
受信機入力電力=-151.4dBw+Gr=-115.2dBw
受信機雑音
アンテナの入力雑音
N  k T  B

10 log10 1.38 10 23
受信機雑音温度は受信機175K
+アンテナ145K=320Kより
10log10(320)

アナログ衛星波の帯域27MHz
より10log10(27・106)=74.3
 228.6dBJ / K  25dBK  74.3dBHz
受信機の半導体性能HEMT
ノイズは帯域幅に比例
 129.3dBw
D.影像信号
17. FM改善度IFM
周波数(FM)変調では周波数に比例して雑音が増加する三角雑音が発生し、この
抑圧を行うと復調した影像では信号対雑音比(S/N)がC/Nよりも良くなる。その良くな
る量をFM改善度と呼び、次式で表される。
I FM  3 / 2  (f / f m ) 2  B / f m
・・・(11.12)
但しΔfは周波数偏移であり、fmは最高映像変調周波数である。
18. エンファンシス効果IEV
三角雑音の色信号への影響を軽減し、かつ影像信号の低域における伝送回路特性
の影響を少なくする為に
①送信側で低域側の振幅を10dB下げ、高域側は3.5dBあげるプリエンファシス
をかけ、
②受信側でその逆のディエンファシスを行っている。これによるS/Nの改善量は
2.9dB程度である。
19. 信号対雑音比(S/N)
C/N比にさらに復調による信号改善効果を含んだ復調後の信号と雑音との比を
S/N比と呼ぶ。
20. 視覚評価係数W
人間の目は高い周波数に対しては解像度が落ちる為に、高い周波数の雑音があ
ってもそれほど目につかず、実際のS/Nよりも良く見える。この見え方の差の特性を
視覚評価係数といい、CCIRで統一されたカーブが採用されている。
21. 評価S/N比
上記の様な人間の目の視覚特性を利用したS/N比を評価S/N比といい、一方で考
慮しない場合を無評価S/N比という。
実際の衛星通信に想定される値を挿入時のC/N比の計算を以下に示す。計算を行う
回線は表9.1の様に示すことが出来る。さらにこれらの結果より復調後のS/N費の計算
結果も表9.2に示す。
P
GS
Lf
L, Lr
Gr
図10.1 計算を行う回線の系
K, T, B
遠藤、泉著、“衛星放送の基礎知識” 兼六館出版(1988)より
項目
衛
星
伝
搬
記号
数値
単位
備考
1. 衛星送信電力(送信機出力) P
20.0
dBW
100W
2. フィーダ(伝送線路)損失 Lf
-2.3
dB
3. 送信アンテナ利得 GS
39.0
dB
4. 等価等方放射電力(eirp) Pe
56.7
dBW
5. ポインティング(指向)損失 Lp
-0.5
dB
6. 自由空間伝搬損失 L
-205.6
dB
東京
1+2+3
D=37930km
λ=2.5cm
7. 降雨減衰
Lr
8. 受信アンテナ利得 Gr
-2.0
36.2
dB
時間率99%
dB
  0.7, D  0.6m
λ=2.5cm
受
信
機
9. 受信機入力電力
C
-115.2
dBW 4+5+6+7+8
10. ボルツマン係数
K
-228.6
dBJ/K ←雑音限界
11. 雑音温度
T
25.0
dBK
320K
HEMTに
より実現
(=受信機175K+アンテナ145K)
12. 受信帯域幅
B
74.3
dBHz
27MHz
13. 受信機雑音電力
N
-129.3
dBW
10+11+12
C/ND
14.1
dB
9-13
C/NU
30.0
dB
30dBと仮定
C/NT
14.0
dB
14. C/N比(下り)
15. C/N比(上り)
16. C/N比(総合)
雑音は帯域
幅に比例
遠藤、泉著、“衛星放送の基礎知識” 兼六館出版(1988)より
項目
記号
17. FM改善度 IFM
数値
単位
21.1
dB
備考
Δf=17MHz
影
像
信
号
fm=4.5MHz
18. エンファンシス効果 IEV
2.9
dB
19. S/N比(無評価) S/N
38.0
dB
20. 視覚評価係数W W
11.2
dB
21. S/N比(評価) S/Nv
49.2
dB
16+17+18
19+20
・アンテナとは
無線機器の信号(電磁波)を空間に放射したり、空間にある電磁波を無線機
器に導くための部品であり、回線設計に大きく影響を与える。
・非共振型アンテナの動作原理
ホーンアンテナ
電磁波が開口面に伝
搬するに従い、ほぼ平
面波に変換
パラボラアンテナ
パラボラの局面により、
電磁波を強制的に平
面波に変換
平面波・・・伝搬方向との直交面に位相のそろった電磁波
レンズアンテナ
レンズによる屈折およ
び光路長差により、電
磁波を強制的に平面
波に変換
アンテナ
集光部
電波天文で使うアンテナは通常右の写真のような形をしている。大きな鏡面が主鏡
部、上部の小さな反射部が副鏡。回転放物面の主鏡で反射・集光した天体からの
電波は、回転双曲面の副鏡でさらに反射して一点に集光される。カセグレン方式と
いう。右の写真(臼田64m)では主鏡面の中央に穴があり、その中に集光する。実
際にはさらに反射鏡があるが、ここでは省略する。
給電部
集光された電波信号は給電部を通って電気信号に変換される。給電部にはホーン
と呼ばれる円錐(または角錐)状の部分があり、ここでさらに小さな領域まで集光さ
れる。その先に同軸導波管変換器があり、電気信号に変換される。多くの
場合、給電部にシステム雑音校正装置が付属する。
受信機
電気信号となった天体電波を増幅する。低雑音で増幅する必要があるため、通常、
冷却したLNA(低雑音受信機)が使用される。受信機部分をフロントエンドと呼ぶこ
とがある。
周波数変換部
増幅された信号を取り扱いの容易な低周波数帯(中間周波数帯、IF)に変換する。
そのために参照信号とミキサーを利用する。VLBI観測では観測システムの位相安
定度が要求されるので、周波数変換を行う部分はすべて
基準信号となる水素メーザに位相ロックしている必要がある。
バックエンド
周波数変換された後の観測システム全般をバ
ックエンドと呼ぶ。人によって定義が違う。
VLBI天文観測で使われるアンテナ
主にJ-Net
野辺山45m(天文台)
水沢10m(天文台)
鹿児島6m(天文台)
鹿嶋34m(通総研)
主にVSOP
臼田64m(宇宙研)
VERA(天文台、建設中)
水沢20m
鹿児島20m
父島20m
石垣20m
国外
VLBA(アメリカ)
アメリカ周辺に25m×10台
EVN(ヨーロッパ)
ヨーロッパ各地の電波天文台をネットワーク化
CMVA(ヨーロッパ)
EVNのミリ波VLBI版
MERLIN(イギリス)
最長基線200kmの短基線・実時間VLBI観測網
雑音温度
アンテナで集光された天体の信号は白色雑音の電気信号である。ある帯域B[Hz]
を考えると、その中に含まれるパワー(電力)P は、
P =kTaB
として表される。このTaをアンテナ温度(単位K)と呼ぶ。天体のフラックス密度Sν
とアンテナの性能(有効開口面積A)によって決まる値である(kTa B =1/2ASν B )。
この受信電力をゲインGのアンプで増幅する。
アンプ出力のパワーは
GkTa B+ N1 B
=G(Ta+TN1)kB
となる。入力信号を増幅するだけでなく、かならず付加的な雑音信号N 1B が発生
する。これが受信機雑音である。これをTN1 として、あたかもアンプの入力部に付
加された雑音のように温度単位で表現することができる。これをアンプの雑音温
度という。
アンプを含むすべての機器を信号が通る度に同様の雑音が付加される。システ
ム全体を通して考えた雑音温度をシステム雑音温度(Tsys )という。観測信号とし
て観測機器から出てくる雑音信号のパワーは
G(Ta+Tsys)kB
である。観測したい信号は Ta、雑音はTsys である。Ta は大きい方が良く、そのため
に開口面積を大きくする。Tsysは小さい方が良く、そのために受信機その他の受信
システムを低雑音化する。それでも通常のVLBI観測では、Ta ≤1k 、Tsys > 100K で
ある。