外部テストの観点別・絶対評価への利用の可能性

新課程時代の英語指導を考える
vol.
【英コミ通信】
7
2003 年 11 月 6 日発行 ◎ベネッセコーポレーション 英語コミュニケーション能力テスト編集部
http://www.fine.ne.jp/info/english/
Vol.7 の主な内容 ◎大学入試センター試験英語リスニングテスト続報
文部科学省より一部実施内容が公表
(ベネッセ教育総研 主任研究員 飯塚信)
◎新課程時評: 外部テストは高校での「観点別・絶対評価」に利用できるか
(東京外国語大学 根岸雅史先生)
◎指導事例紹介: 指導体系の変化に対応するために、シラバスにより指導を体系化
◎セミナー探訪④: 兵庫県英語指導研究会
進路指導トピックス
大学入試センター試験 英語リスニングテスト続報
文部科学省より一部実施内容が公表
2006年度からのセンター試験 英語リスニングテストは、9月
23日のモニターテスト実施など詳細公表は間近と考えられてい
たが、ついに11月5日、一部内容が文部科学省より公表された。
【リスニングテスト実施方法】 (2003年11月5日 文部科学省発表資料より)
たためである。
実施時間「20・30分案」、得点「50点満点」へ
今年の6月には、大学入試センターから「段階評価」方式によ
りリスニングテストの得点を扱う予定である、という説明が国大協
にされたものの、国大協の基本姿勢は反対であった模様だ。そ
位置付け:
試験時間:
配点:
音源:
試験会場:
解答方法:
リスニングテストは、科目「英語」の一領域として実施する。
20∼30分 (なお、筆記試験は80分)
50点満点 (なお、筆記試験は200点満点)
個別音源機器
大学の教室で実施。
(1) パート単位に個別音源機器に内臓された音声(日本語)で解
答方法を説明する。
(2) 英語の音声を聴かせ、問ごとに正解を解答させる。
受験方法:
科目「英語」受験者は、全員リスニングテストの受験を必須とする。
成績提供方法: 各大学に、筆記試験の成績とリスニングテストの成績とを区別した
上でセットで提供する。
その他:
(1) 聴取不能者が発生した場合の対応方法
個別音源機器は、試験開始前に日本語の音声によって受験生に
聴取できるか確認を行うが、聴取不能者が発生した場合は、実施
当日に本試験とは別問題により、該当者に対し、CD等を用いて再
度試験を実施する。
(2) 身体障害者への対応方法
障害別の対応方法を別途検討中。
の後、大学側との調整が進み、最終的には今回の文部科学省
発表の50点満点に落ち着いた。
50点満点は、昨年度末から検討が重ねられていた有力案で
ある。英語200点+リスニングテスト50点となるものの、配点、得
点の扱いは各大学の検討に委ねられる。
個別音源方式の可能性とリスク
個別音源方式は、メーカー数社に開発要請を実施し、コスト
ダウン策が見えたことで現実味を帯びてきた。ただし、毎年60
万個の使い捨てとなり、社会的見地からは環境問題への配慮も
欠かせないなどの課題も抱える。また個別音源方式を採用する
場合は、2,000円前後の受験料上乗せも検討されており、受験
生への金銭的負担をどう緩和するかが課題となる。
当初、11月中旬に国大協総会が開催されることから、大学会
場での実施案も踏まえ、そこで最終審議が為されるとの見込み
記録メディア
もあった。しかし、この件に関しては、継続審議の状態が長らく
※機器と記録メディアが一体に
ならなければ再生は不可能
続いており、社会的にも早期公表の要請は高まっていた。今回
は、ここまでの検討の経緯とその内容についてまとめてみたい。
大学入試センター試験
大学入試センター試験
英語リスニングテスト
英語リスニングテスト
個別音源機器のイメージ図
個別音源機器のイメージ図
手差し
回転式音量ボリューム
電源入/再生中の表示
会場は大学実施に決定
もとより、国大協は英語リスニングテスト運営に懐疑的で、特
再生スイッチ
に現実的な運営(高校会場)はリスクが高いとの認識であった。
一方、文部科学省は、高校会場での音源・音質確保は可能と判
断していた模様だ。だが高校側は、入試実施の運営責任は負
リセットスイッチ
※電池室内に設けてネジ止め
ヘッドホンレシーバー
又はイヤーレシーバー
えないという姿勢であり、仮に高校会場であっても入試運営は
大学側で・・・との一貫した意見が交わされていたようだ。
この食い違いの背景には、個々の大学(東京大・名古屋大な
英語リスニングテストの実施に関しては、一応の決着は見たも
のの、まだ運営への懸案、高校教育への影響を踏まえた議論は
ど)でも、リスニングテストの運営ではトラブル発生の可能性は完
十分尽くされてはいない。今後、正式発表は文科省で設営され
全には排除できない点、会場運営の膨大な準備期間、高校会
た、大学と高校の協議会を経てという手順になる。
場数に見合う労力が確保できない、などの課題が解決しなかっ
(ベネッセ教育総研 主任研究員 飯塚信)
新課程時評
∼∼∼東京外国語大学 根岸 雅史先生
にうかがいました
◆◆外部テストは高校での「観点別・絶対評価」に利用できるか◆◆
1.高等学校における絶対評価について
昨年度より中学校に導入された絶対評価は、設定された目標に到達しているかどうかを見る到達度評価である。高
等学校においては、この9月になりやっと『評価規準,評価方法等の研究開発(中間整理)
(http://www.nier.go.jp/kaihatsu/koukouhyouka/pdf/gaikokugo.pdf;以下、『中間整理』)』が配布された。本稿では、
この『中間整理』をベースに、英語コミュニケーション能力テストのような外部テストを高校絶対評価にどう利用できる
かについて考察することにする。
2.高等学校における評価規準
『中間整理』では、「各科目の評価の観点の趣旨」をもとに、科目ごとに「評価規準」が示されている。『中間整理』
において評価規準が示されているのは、「英語Ⅰ」と「オーラル・コミュニケーションⅠ」のみである。そして、学習指導
要領の言語活動に示されているコミュニケーション活動をもとにした「内容のまとまり」というものが規定され、それぞ
れの評価規準は「内容のまとまり」ごとに説明されている。この「内容のまとまり」の特性に合わせて、評価の観点が適
宜選択されるために、空欄となっている部分もある。このような方法での枠組みの適用は、「英語Ⅰ」「オーラル・コミュ
ニケーションⅡ」や「リーディング」、「ライティング」においても、おそらく同様であろう。
3.英語コミュニケーション能力テストの観点別・絶対評価への利用の可能性
英語コミュニケーション能力テストは、現在のところ「リスニング」「リーディング」「ライティング」のスコアが出てくるこ
とになっている(なお、「スピーキング・テスト」も現在開発中であると聞く)。これらのスコアに基づいた6段階の「グレ
ード」を評価基準に利用してみる。技能評価を行っている英語コミュニケーション能力テストは、4観点のうち、「表現
の能力」と「理解の能力」での利用が可能と思われる。
それぞれの科目の評価基準を英語コミュニケーション能力テストの成績をもとに決めるのだが、その基準は(少な
くとも、今のところ)それぞれの学校の実状に合わせて決めるために、以下に示すものは、あくまでも一つの利用例で
ある。なお、評価基準とは、最低限の到達基準であることを明記しておく。
この事例を示すにあたり、「英語Ⅱ」は
「英語Ⅰ」より、「オーラル・コミュニケーショ
評価観点
英コミ
科目
理解の能力
表現の能力
リーディング
リスニング
ライティング
(スピーキング)
ンⅡ」は「オーラル・コミュニケーションⅠ」よ
英語Ⅰ
グレード2
グレード2
グレード2
――
り、グレードひとつ分基準を高く設定してい
英語Ⅱ
グレード3
グレード3
グレード3
――
る。また、「オーラル・コミュニケーションⅠ」
OCⅠ
――
グレード3
――
――
は音声面に特化しているために、同じ「Ⅰ」
OCⅡ
――
グレード4
――
――
である「英語Ⅰ」よりもグレードひとつ分基
リーディング
グレード4
――
――
――
ライティング
――
――
グレード4
――
準を高く設定している。さらに、「リーディン
グ」や「ライティング」を「英語Ⅱ」履修の次年度に履修するとして、これらの基準をグレードひとつ分高く設定してある。
実体として、グレードひとつ分の進歩を想定することが難しいこともありえると思われるが、そのような場合は、よりきざ
みの細かいスコアを利用して評価基準を設定するという選択もありえる。
4.can-do statement の観点別・絶対評価への適用
上記のグレードの評価基準が実際にどのような基準となっているかを知るために、それぞれのグレードの can-do
statement を見てみることにより、英語コミュニケーション能力テストのグレードの評価基準としての利用可能性を検証
することができる。それぞれのグレードの can-do statement が、各科目の評価基準としてある程度の妥当性を見出せ
るようであれば、英語コミュニケーション能力テストのような絶対的尺度を持った外部テストをいくつかの観点の評価
に利用できることになる。また、今後、高等学校における「絶対評価」のための評価基準作りにおいても can-do
statement のような具体性を持った記述が必要となるであろう。
(東京外国語大学 根岸 雅史)
英語指導トピックス
∼ 指導環境の変化に対応するために
シラバスにより指導を体系化∼
県立A高等学校
センター試験の変化や
生徒の学力変化にどう対応するか
この高校は、東北地方南部にある進学校。朝自習など学
力伸長を目的とした様々な取り組みを実践する一方、サッ
カー部はインターハイに出場するなど部活動も盛ん。
同校では、英語指導の環境変化をとらえた対応の必要性
を感じていた。
◆同校がとらえた英語指導における環境変化
・センター試験の英語で速読力が求められる傾向に。
・2006 年度センター試験から英語でリスニングが導入。
・近年の新入生の語彙力・文法力の低下や、教科書レベルの長
文に対する抵抗感の強まり。
・前述の結果、高校で指導すべき内容が増加。
限られた授業時間で指導効果を高めるために
これらの環境変化に対応し、かつ、限られた授業時間の
中で指導効果を高めるためには、これまで実践してきた指
導の数々を体系化してはどうかという意識が校内で強まっ
ていった。時期を同じくして、英語科以外の教科でも、指導
の目線を合わせる必要性が議論されていた。そこで、同校
ではシラバスの運用に着目し、2002 年の 12 月からシラバス
の作成を開始。2003 年4月から指導に活用している。
◆シラバスの構成
・「総合シラバス」…教員が指導上の全体の目標を確認するも
の。学校行事、進路学習、教科指導など学校としての指導の目
線合わせができるようになっている。
・「教科シラバス」…生徒に配布する教科ごとのもの。5教科分あ
る。
※誌面の都合上、英語科の「教科基本シラバス」のみ掲載。資料参照。
【資料 「教科基本シラバス(3年間分)」】
シラバスを通して英語指導を体系化
シラバスの作成を通して様々な指導が体系化されていっ
た。例えば、これまではオーラルコミュニケーション(以下
OC・2単位)と英語Ⅰ(4単位)の担当教員は別で、実際に
は OC で文法的な内容を扱うことも多かった。しかしそれで
は担当教員間での連携が弱くなり、総合的に学力がつかな
いという問題があった。そこで、シラバス作成を通して可能
な限り同じ教員が OC と英語Ⅰを担当するように配慮した。
また、秋口までは OC の学習内容を常駐の ALT とのチーム
ティーチングによるリスニングとスピーキング力養成に当て
た。加えて、リスニング力と速読力の向上を目的に、1∼3学
期の奇数週には土曜講座を設けて「E-COM」を教材として
使っている。さらに秋以降の英語Ⅰでも、授業の導入の 10
分間はリスニング教材を取り入れている。「リスニング力の向
上となると、やはり継続して日々触れていないと効果が薄い
のではないかと思っているからです」と先生は語る。
取り組みの充実はさらに続く…
校内ではこの取り組みを「チャレンジ」として捉えている。
担当の先生は「年度始めの校内テストの結果を見ると、中学
校の新課程の影響もあるのか、新入生の語彙力や文法力
に課題があることがわかっています。これを乗り越えていか
なければならないわけですから、この取り組みを始めてよ
かったと感じます。環境変化に対応するためにも、効果を
検証しながら、取り組みを充実させていきたいですね」と語
る。同校の取り組みの今後にこれからも注目したい。
セミナー探訪④
英語の先生方のネットワークをご紹介します!
兵庫県英語指導研究会
∼『入試の変化』と『生徒の変化』から
『英語科として』の対応策を考える会∼
10 月 16 日(木)神戸ラッセホールにて、兵庫県内の英
語科ご担当の先生方を対象にベネッセ主催『英語指導
研究会』を開催しました。この研究会が開かれたのは、普
段ベネッセ担当者が学校を訪問する中で、「大学入試セ
ンター試験へのリスニングテスト導入に向けて、他校はど
んな指導をしているのか」「大学入試が変わっているとい
うが、実際大学側の意図はどこにあるのかが知りたい」等
のご要望が高まったことにあります。
『入試』を多面的に分析・報告
上記のようなご要望を受け、研究会は三部構成になり
ました。第一部では高等学校を取り巻く環境変化の整理
として、ベネッセ担当者より大学入試分析・大学入試セン
ター試験リスニングテスト情報・中学新課程による高校入
学生の気質変化について報告がありました。第二部では
岡山大学髙塚教授をお招きし、大学入試を作成する側
の観点から、大学が入試で測ろうとする英語力・採点基
準等について基調講演をいただきました。第三部では滋
賀県立彦根東高等学校をはじめとした、組織的な英語
科指導に取り組んでおられる学校の事例をご紹介させて
いただきました。
参加された先生が特に強い関心を示されたのは、第一
部では、大学入試センター試験リスニング情報や自由英
作文・リスニングを課すようになった大学の情報、第二部
では髙塚先生からの大学の本音も含めた入試問題の出
題傾向に関するお話、第三部では、大学入試を見据え
て、組織として指導を進めている事例でした。特に事例
紹介において、先生方から反響が大きかったポイントは、
英語科全体で生徒の課題を共有し、統一した指導方針
を立てて指導に取り組まれていることです。入試や生徒
の気質が変化する中であっても、組織で指導をすること
で、模擬試験でも安定した成績上昇を実現しています。
先生方のお悩みは『教科内の方針統一』
会議後に先生方から頂いたアンケートのお声をいくつ
かご紹介します。
◎大学側の本音が聞けてよかった。
◎本校の英語の指導をどうするかについて議論され
ていないのが現状です。英語科内の打ち合わせや
指導方針の共有化の重要性を感じました。
◎以前から初期指導の大切さを英語科でも話し合っ
ていたが、統一した実施が出来ていなかったので、
この事例で統一した実施の重要性を強く感じた。
参加された先生方は、特に入試や生徒の気質変
化などへの対応をせまられる中で、『ひとりひとりの教
員が個々に指導工夫するだけでは間に合わない。英
語科としてのゴールや指導方針をスタッフ全員が共
有し、取り組まなければならない』という危機感をお感
じになっていらっしゃるようでした。
29
29
出口の変化:入試分析
まとめ
一部の大学・学部のみ
+ センター試験
リスニング導入
国公立大受験者必須
W riting
+自由英作文
Listening
和文英訳型作文
R eading
特に
語彙・構文の知識
正しく読む力
+速読
今まで伸ばす必要があった領域
出口(入試)で求められる英語技能・領域が増加
どの力をいつ伸ばすのが効果的か、目線合わせが必要
(会議資料抜粋)
限られた時間の中で組織として取り組むために
現在、ベネッセ大阪支社には、この会議の内容を
ダイジェスト版に加工して校内で全英語科先生対象
に研修会を行ってくれないか、というご要望が多く寄
せられています。時間がない中で、効率よく環境変化
を捉え、共有化できる場として重宝していただいてい
るようです。ぜひ、他県の先生方でも同じようなお悩
みを持たれている先生がいらっしゃいましたら、御校
の担当者までお気軽にお声がけください。
(国際教育事業部・兵庫県担当 牧嶋恭子)
お知らせ
今 年 も 、 ベネッセ・駿台共催模試のデータをもとに
2004 年度入試の志望動向をご報告する説明会を 11
月上旬から開催いたします。国 立 大 セ ン タ ー 5 教
科7科目化、ロースクール設置による学部入
試 の 影 響 な ど 、変 化 の 大 き な 2 0 0 4 年 度 入 試
の分析報告にご期待ください。
※開催時期、説明会名称は地区により異なります。詳しくは各校に
お送りしていますご案内書でご確認ください。
これから
変化の大きな
2004 年 度 入 試 を
読む!