ドイツ・ケルン市

ドイツ・ケルン市
(100 万人都市ケルン市における環境問題対策及び廃棄物処理の実情)
ケルン市役所(環境都市計画課)
、ごみ処理会社AVG
1. 視察日程等
(1) 期
日 平成 22 年 10 月 8 日(金)
(2) 場
所 ドイツ ケルン市役所
(3) 応対者 ライナ・リーブマン氏、AVG担当者
(4) 通
訳 青木モトコ氏
2. ケルン市の概要
ケルンは、ドイツ連邦共和国ノルトライン=ヴェストファーレン州の都市で、人口約
100 万を有するドイツ第 4 の都市。ライン川の河畔に位置しており、陸上、水上交通の
要所である。重工業が発展する一方で、
オーデコロンの発祥地でもある。市内に
12 のロマネスク様式の大きな教会があり
中でもユネスコ世界遺産に登録されてい
るケルン大聖堂が有名。第 2 次世界大戦
後、産業の発達により街は復興したもの
の、工場や家庭より排出されるPM10
(細じん)や二酸化窒素により環境が悪
化。現在、様々な対策が行われている。
ケルン市庁舎(環境部門)前にて
3. 研修内容
(1)空気環境への対策について
ケルン市では 1960 年代に薬品工業及び自動車産業により大幅な戦後復興を成したが、
それら工場及び家庭の石炭ストーブからの排ガスにより、酸性雨の影響を受けていた。
1970 年代に入り、工場の煙突にフィルターの設置や石炭ストーブから地域暖房へ移行
するなど様々な対策がとられてきた。それにより改善はしたものの近年新たな問題が出
てきている。それは、自動車からの排ガスである。現在も排気ガスの基準は満たされて
いない。(排ガス基準オーバーの日数は 35 日までとなっているが、48 日間の基準オー
バーが確認されている)そこで 2008 年、州からの指導もあり排気ガスに対する環境計
画を作成。主に 3 つの施策が実施されている。
一つ目はケルン市中心部に車両を規制する環境ゾーンを設置したことである。ミュン
スターと同様に有害物質排出の尐ない順に緑・黄・赤と三色のステッカーを車両に貼る
ことにより区分し、市街中心部へ進入できる車両を規制している。市としては、段階的
に規制を厳しくし最終的に緑ステッカーのみ進入可能としたい考えだが、市街中心部に
入る業務用トラックの殆どが赤・黄ステッカーであるため、反発も多い。
二つ目は『考える信号機』である。簡単に言うと各地域の排気ガス濃度を随時測定し、
濃度が高いと信号を青にすることにより渋滞を軽減するというもの。実際、ケルン市に
はアウトバーン 10 本をはじめ、市街地においても渋滞が名物となっており、その際に
排出される排気ガスが大きな問題となっている。現在は試験配備段階であるが、今後『考
える信号機』の導入で、排気ガスを 20%削減できると考えている。
三つ目は先に述べた 2 施策を支えるもの
として路面電車を活用したTDM施策(交
通需要マネジメント)として『パーク&ラ
イド』というものを推進している。これは
都市の外縁部において、乗用車から鉄道・
バス等の大量公共輸送機関へ乗り換えるも
のである。そのため、路面電車等に乗り換
える拠点等も多数あり、公共機関を使いや
すい仕組みが出来上がっている。
市内にある路面電車の駅
(2)省エネ環境への対策について
最近、各地において既存住宅の老朽化が問題となっており、耐震上の問題などから建
て替えや改修が多くなってきている。ケルン市においては省エネルギーで生活できる住
宅造りを推進している。
一つは自然エネルギーの有効活用である。ケルン市では太陽光に注目し上手く活用す
る以下のような基準を設けている。
・建物の壁にガラス素材を採用することで光及び熱を利用する。
・建物が周囲にある木の陰などに隠れないようにする。(5~30%省エネ)
・原則、家は南向きに立てる。
(7~30%省エネ)
以上の基準を設け建てた住宅においては、1 ㎡に必要なエネルギーが従来の住宅より
48%も削減されている。勿論、このようなハイスペックな住宅は初期投資に大きな負担
となるが、国からの補助もあり、尚且つランニングコストにおいて費用回収は可能とさ
れている。また、市有地を購入し住宅を立てる際は、これら基準をクリアしないと土地
を購入することができない。これらのことは市営団地等においても行われており、断熱
材等の積極的な導入により、暖房費の削減率は 93%である。家賃も増えてはいるもの
の、ランニングコストにおいてカバーするという考え方はここにも出ている。
(3)気候変動への対策
近年、日本においてもゲリラ豪雨など様々な気候変動が言われているが、ここケルン
市においても以前では考えられない集中豪雨により、ライン川が氾濫することが出てき
ている。そこで 2009 年に『気候対策計画』が策定され様々な取組が行われている。
一つ目はライン川の洪水対策である。事業期間 10 年、総事業費 220 億円の大事業で
ある。また、川からの導水路を今後 50 年間で充実させていくとのことであった。
二つ目は都市部温暖化対策である。市内の緑地化計画をはじめ、建築物内の温度上昇
を防ぐための遮光シートの開発などを行っている。また、気温測定車や気温測定器(市
内 14 ヶ所)を配置し気温が高い地域を把握し、病院や老人福祉施設等があれば移築し
ている。
この他にも先に述べたような排気ガス抑制対策や太陽光利用による省エネルギー対
策など、様々な角度から取組を行っている。
(4)環境教育対策について
環境対策は市民の意識改革から始まる。今回の欧州研修で再認識したことだが、ここ
ケルン市においても力を入れている。まず、幼稚園・小学校などの頃より意識付けを徹
底させることを目指している。主な事業は次の通り。
・1995 年より環境・教育啓発専門部署設置
・環境図書館の設立
・350 の教育機関とのネットワークの設置
・教師への環境教育実施(15 回/年)
このように現行の環境対策だけではなく、
これからの環境政策を円滑に進めるための
準備も行われている。この教育施策につい
ては、大きな理解を得て年々予算が増えて
いるとのことであった。
リーブマン課長と…(ケルン市役所にて)
【施設視察】
(1) 期
日 平成 22 年 10 月 8 日(金)
(2) 場
所 ケルン市
AVG(ケルンごみ処理・再利用有限会社)
(3) 応対者 AVG担当者
(4) 研修内容
AVG(ケルンごみ処理・再利用有限会社)は焼却施設(発電装置付)及びコンポス
ト製造施設を保有しており、ケルン市が50%以上を出資(一部民間が出資)但し、焼却
設備以外については、それぞれの専門技術を有する民間企業が過半数を出資する子会社
を設立して運営。
今回は、コンポスト製造施設を見学。簡単に言うと巨大な倉庫に生ごみを入れ、発酵
等により大量の堆肥を作っている施設である。厳密にはりんごの皮などの『ビオごみ』
と呼ばれる有機物ごみを堆肥化するもので、ケルン市より年間80万トンの『ビオごみ』
を受け入れている。併設の焼却施設では年間75万トンの受け入れであるため、焼却より
コンポストにされるものが多い。受け入れ廃棄物の殆どがケルン市からの受け入れ。
問題点としては、回収時おける分別の徹
底がなされていないため、廃棄物受け入れ
後に手作業による分別処理を行わなければ
いけない点、また、廃棄物受け入れ時の手
数料とコンポストの売却により売り上げを
得ているが、収益としては赤字である点、
この2点が今後どのような改善を行うか検討
されている。
実際、日本国内において同規模のコンポス コンポスト製造施設(廃棄物搬入口)
ト製造施設は尐ない。AVGと同様の問題点があるからと考えられる。分別の進んだド
イツでも分別処理に費用が係るのであるから、今の日本ではかなり難しい問題である。
やはり、費用に係る問題は大きいが、環境・リサイクルを考えコンポスト製造施設を
導入するドイツと同問題を先送りする日本、意識の違いを感じた施設見学であった。
4.
質疑応答
Q1.ケルン市が環境問題に積極的に取り組んだ動機はなんですか?
A.排気ガス等により都市部の高温化が進み、現在では都市部と郊外部で8~10℃気温差
があります。また、以前は一切無かった竜巻が発生するようになりました。このような
生活環境の変化が大きいです。
Q2.省エネ住宅と従来の住宅で費用はどれくらい違いますか?
A.建築費は10~15%、省エネ住宅の方が高くなります。しかし、光熱費などのランニ
ングコストで十分、償還が可能です。
Q3.パーク&ライドにより実際効果は出ていますか?
A.自家用車については、公共交通の利用などを推進することにより現象しています。
しかし、排気ガスの主な要因である営業用のトラックなどはあまり減尐していません。
5.
感想
第二次大戦で焼け野原になり、その後、復興を遂げたケルン市は100万人都市とのこ
とであったが、日本の100万都市とは大分イメージが違った。街頭TVや電光看板など
は殆ど見当たらず、全てが古くから残っているような重厚な感覚の街であった。その町
のシンボルであるケルン大聖堂。ここにも温暖化を含め様々な環境変化が影響を与えて
いる。見た目は灰色の大聖堂であるが、これは酸性雨による影響で本来は白い大聖堂だ
ったとのこと。これもケルン市民の環境意識啓発の要因となっているようだ。
ケルン市環境課のライナ・リーブマン氏は『環境行政は市民の住みやすい環境を作る
ことが目的』と何度も訴えられていた。このように目に見えるところまで悪影響を及ぼ
すようになった生活環境を行政だけの頑張りで解決することは難しい。今回の訪れた自
治体の担当者全てが『市民・企業の協力なくして環境政策に前進は無い』と同じ意見で
あった。
この二つの言葉が当たり前であるが、自治体職員として忘れてはならないキーワード
と感じた。
省エネ・エコはボランティアではなく、すでに義務となっていることを理解していた
だき、我々行政が市民・企業の協力を得る場を多く設ける必要があると感じた研修であ
った。