市町村役場における豪雨災害情報の利活用状況について

第 28 回日本自然災害学会学術講演会講演概要集
pp.123-124
2009
市町村役場における豪雨災害情報の利活用状況について
太田好乃* (岩手県立大学総合政策学部)・牛山素行(静岡大学防災総合センター)
1.はじめに
近年,洪水ハザードマップや,リアルタイム雨量・水位情報等の豪雨防災情報整備が急速に進みつつある.これ
は,情報通信技術や観測・予測技術の進歩,水防法改正による洪水ハザードマップ作成の事実上の義務化などが背
景となっている.しかし,これらの情報が災害の現場で十分認知され,活用されているとは必ずしも言えない.豪
雨防災情報の活用を図るためには,整備が進んでいる防災情報の認知度や,活用実態を把握し,その課題を抽出し
ていく必要がある.このような問題意識から,市町村の防災担当者を対象とした調査を実施してきた(牛山ら,2003;
牛山,2006;牛山ら,2006).本研究では,今回の調査結果と2005年に実施した調査(牛山ら,2006)と対比しつつ,
主に豪雨災害を対象とし,市町村における防災情報活用の現状と,その課題を明らかにすることを目的とする.
2.調査手法
全国市町村の防災担当者を対象に,調査票を郵送送付・郵送回収した調査票は,2008年12月22日に送付し,回答
は2009年4月末到着分で締め切った.調査対象は,2008年12月1日現在で存在した1805市町村で,内訳は783市(う
ち政令市17,中核市39,特例市43),806町,193村,23特別区である.有効回答は1244件,回収率は68.9%だった.
3.調査結果
3.1 リアルタイム雨量・水位情報に対する認知
「Yahoo!天気情報」
,国交省管理の「雨量観測所のデータ」
(以下「川の防災情報(雨量)
」
),
「全国一級河川流域
等の河川観測所のリアルタイム水位データ」(以下「川の防災情報(水位)」
,「都道府県庁が整備している雨量・水
位を一般向けに公開しているページ」(以下「県の水位雨量情報」)の4種を挙げ,それぞれに対する認知を尋ねた
(図1).
「日常的によく見ている」,
「見たことはある」の合計を認知率とすると,Yahoo!天気情報は認知率が92.8%,
「川の防災情報(雨量)
」が86.3 %,県の雨量水位情報は86.9%となっており,もっとも認知率が低い「川の防災情
報(水位)」でも81.2%と,全体的に8割以上の高い認知率を示している.2005年調査と比較すると,Yahoo!天気情
報の認知率はもともと9割を越えており大きな変化は見られないが,
「川の防災情報」は,水位が19.7%,雨量が16.6%
上昇しており,県の雨量水位情報も増加の傾向が見られる.
3.2
豪雨災害関係のハザードマップ整備状況
①シミュレーションに基づき浸水予測図・浸水深等を記載した地図,②浸水実績図,③土石流危険渓流や急傾斜
地崩壊危険区域を地図上に示したもの,
④土砂災害防止法に基づく警戒区域・特別警戒区域を地図上に示したもの,
の4種類を挙げ,作成の有無を尋ねた.
「洪水ハザードマップ」
(①と②)を作成している市町村は721(58.0%)と
なっており,2005年調査の25.7%と比較して大きく増加した(図2).
(なお,図中で③④は「土砂ハザードマップ」
として示す)
.また,①~④のいずれかを作成していたのは72.1%と,もはや未作成の市町村の方が少数派となった.
しかし,自治体規模別に洪水ハザードマップの作成率を集計した結果,小規模自治体ほど作成率が低い傾向が2005
年調査と同様に見られた.この原因の一つとして,市町村役場における専門的な人材の不足が考えられる.
3.3 ハザードマップの公開・利用状況
ハザードマップの配布対象を尋ねた結果,全戸配布が8割以上と,2005年調査より増加しており,公開がより浸
透してきている.また,電子媒体としての公表方法を尋ねたところ,ホームページで公開している市町村は66.7%
であった(図3).これは2005年調査の2倍以上に増加している.しかし,ハザードマップ作成後のフォローアップ
を行なった市町村は41.5%と過半数に満たない.この原因としても,3.2で挙げた人材不足などが考えられる.
3.4
地域防災に対する考え方
地域防災に関する論点について2つ選択肢を挙げ,賛同する方の選択を求めた.避難指示・勧告は67.6%の市町村
が空振りになっても良いので積極的に出すべきだと考えており,空振りは許されないので慎重に出すべきだと答え
第 28 回日本自然災害学会学術講演会講演概要集
pp.123-124
2009
た32.4%を上回った(図4).また,ハザードマップは87.4%が積極的に作成・公開すべきだと考えており(図5),
災害時の避難の判断については,住民が最終的に判断すべきであると考えている市町村が53.4%,行政が責任を持っ
て判断すべきであると考えているのは46.6%となり,大きな差は見られなかった(図6).
4.おわりに
リアルタイム情報は多くの防災担当者に認知されるようになった.災害時の住民との連携等に際し,この情報を
どのように活用していくかが今後の課題として挙げられる.また,ハザードマップの作成率は増加傾向にあり,公
開の一般化が進み公開方法も多様化していることから,災害の素因情報が一般の人にとってより身近になってきて
いると言える.今後はその有効的な利活用方法を考えるとともに,作成率やフォローアップの自治体規模による差
を無くすため,国や県などによる支援を検討していく必要がある.また,避難指示や勧告は積極的に出すべきとす
る意見が多数を占めたが,
「空振り」を懸念して積極的に出せないとする意見も少なくない.情報の出し方や伝達方
法について,地域ごとに防災ワークショップなどで平時から意識共有を図ることが望まれる.
県の雨量水位情報(N=1238)
4 9.7 %
30.3
川の防災情報(水位)(N=1240)
1 1 .7 6 .50 .6
5 0.9
34.4
川の防災情報(雨量)(N=1240)
1 .2 %
4 .0 %7 .9 %
37 .2%
2008年調査(N=1244)
19.9%
38.1%
4 9.1
0%
日常的によく見ている
20%
存在は知っていたが,見たことはない
0 .2
4 .42 .7
4 3.7
40%
60%
見たことはある
80%
100%
今回のアンケートで初めて存在を知った
0%
洪水ハザードマップのみ
土砂ハザードマップのみ
20%
14.8
40%
59.5
60%
図1 リアルタイム情報の認知率
N=871
N= 1 2 2 0
N =1223
ホームページ
で公開, 66.7%
図 3 ハザードマップ電子媒体公開方法
ハザードマップ
には,様々な
デメリットもあ
るので,作成,
公開,普及は
慎重であるべ
きだ, 12.6%
図2 ハザードマップ作成率
避難勧告や指示
は,「空振り」が許
容されないので,
できるだけ慎重に
出すべきである,
32.4%
電子媒体は
作成していな
い, 28.8%
ハザードマップ
には,様々なメ
リットがあるの
で,積極的に
作成,公開,
普及を進める
べきだ, 87.4%
図 5 ハザードマップの作成・公開・普及について
避難勧告や指示
は,「空振り」に終
わってもよいか
ら,できるだけ積
極的に出すべき
である, 67.6%
図 4 避難勧告・指示の発令について
災害時の避難
は,行政が責
任をもって判断
すべきであり,
住民は行政の
判断を頼りにし
て欲しい,
46.6%
N= 1 1 9 4
80%
洪水および土砂ハザードマップ
未作成
わからない
その他, 4.4%
27.9%
0 .5
8 .1 5 .1
5 1.9
2005年調査(N=1089) 11.5 14.2
Yahoo!天気(N=1241)
14.1%
災害時の避難
は,最終的に
は住民が判断
すべきであり,
行政の仕事は
それをサポート
することである,
53.4%
図 6 避難の判断について
100%