第 7 章 物質輸送 7.1 対流が無いときの輸送束表記と拡散方程式 物質輸送は濃度勾配が原因で、物質内部や異物質間を成分分子や原 nA,y 子が移動する現象で、次の Fick の拡散則が支配する。 Fick の拡散則:成分濃度や密度の勾配に比例して拡散する。 j A,y = −DAB dρA dx mass = −ρ DAB A dy dy [kg/(m2•s)] (7-1) nA,y = −DAB dcA dx mol = −ct DAB A dy dy [mol/(m2•s)] (7-2) n=-Ddc/dy 濃度勾配の表記には、場合に応じて質濃度あるいはモル濃度のどちら かを用いる。各式の記号は次の物理量を示している。 y Fig.7-1 Fick の拡散則 jA,y:(y 方向 A 成分の)質量輸送束あるいは質量拡散率[kg/(m2•s)] nA,y:(y 方向 A 成分の)モル輸送束あるいはモル拡散率[mol/(m2•s)] ここで DAB:拡散係数[m2/s]、ρ:混合物密度[kg/m3]、ρ A:A 成分密度[kg/m3]、cA:A 成分モル濃度[mol/m3]、ct: 全成分モル濃度[mol/m3]、 xAmass:A 成分の質量分率、xAmol:A 成分のモル分率である。 対流が無いときや固体内の拡散方程式は次式で表せる。熱輸送式の対流項がないときと同じ形式である。 ⎛ ∂ 2 cA ∂ 2 cA ∂ 2 cA ⎞ ∂ cA = DAB ⎜ + + + SA 2 ∂t ∂ y 2 ∂ z 2 ⎟⎠ ⎝ ∂x (7-3) ⎧⎪ 1 ∂ ⎛ ∂ c A ⎞ 1 ∂ 2 c A ∂ 2 c A ⎫⎪ ∂ cA = DAB ⎨ + ⎬+ S 2 ⎜r ⎟+ 2 ∂t ∂ z 2 ⎭⎪ A ⎩⎪ r ∂ r ⎝ ∂ r ⎠ r ∂θ (7-4) デカルト座標: 円柱座標: 球座標: ⎧⎪ 1 ∂ ⎛ 2 ∂ c A ⎞ ∂ cA ∂c ⎞ ∂ 2 c A ⎫⎪ 1 ∂ ⎛ 1 = DAB ⎨ 2 r + 2 sin θ A ⎟ + 2 2 ⎬+ S ⎜ ⎟ ⎜ ∂t ∂θ ⎠ r sin θ ∂φ 2 ⎭⎪ A ⎩⎪ r ∂ r ⎝ ∂ r ⎠ r sin θ ∂θ ⎝ (7-5) ここで cA:A 成分モル濃度[mol/m3]、DAB:拡散係数[m2/s]、SA: A 成分発生消失率[mol/(m3•s)]を使っている。 拡散方程式の輸送係数が熱伝導方程式の熱伝導率と違っているが、それ以外は同じ形式である。拡散方程式では、 系内あるいは系の境界で反応が生じ、拡散と発生を同時に考える必要がある。熱伝導方程式でも原子炉のウラン燃 料内等の例では系内で発熱を生じるが、熱移動だけの場合、発熱項は0である。 非定常状態拡散式や熱伝導方程式は偏微分方程式である。その解法には、変数変換法、変数分離法、ラプラス変 換法等がある。以下は、対流が無いときの拡散方程式の解の例である。 7.2 平行平板間の定常濃度変化 定常状態では(7-3),(7-4),(7-5)式の左辺が0となる。従って、対流が無く、1次元平行平板間で両側濃度が固定さ れているときの解くべき拡散方程式は次式で表せる。 d 2cA =0 dy 2 (7-6) (7-6)式を境界条件:y=0 cA=cA,0、y=L cA=cA,L を使って解くと、次の定常状態濃度分布と拡散率を得る。 47 濃度分布: c A = c A,0 + ( y c −c L A,L A,0 成分 A の拡散率: nA,y = −DAB ) (7-7) dcA D = − AB ( cA,L − cA,0 ) dy L (7-8) ここで、L:幅[m]、nA,y:A 成分 y 方向モル輸送束[mol/(m2•s)]である。 得られた拡散率は、薄い膜を透過する水素や水蒸気等の透過率推算に用いられる。表 面拡散率を後で示す物質移動係数の定義( nA,y = hM ΔcA )を使い表すと、物質移動係数 hM は、 hM = DAB の関係があることが分かる。 L Fig.7.2 平行平板 間の濃度分布 7.3 球状粒子内の定常濃度分布と反応率 球状粒子内の定常濃度分布と反応率を求める。具体的には、例えば球状多孔質 Ni 触媒内で CH4 水蒸気改質反応 (CH4+H2O=CO+3H2)を起こす場合で、触媒内 CH4 濃度変化や触媒全体の反応速度が求められる。反応が一次反 応と仮定し、kA を一次反応速度定数[1/s]すると、球座標系の定常状態拡散方程式は、次式で表される。 DAB 1 d ⎛ 2 dc A ⎞ r − k Ac A = 0 r 2 dr ⎜⎝ dr ⎟⎠ (7-9) この式に基づいて、対流が無く、多孔質球状粒子内で一次反応が生じる場合の定常状態濃度分布と反応率を求める。 境界条件は次の通りである。 r=a cA=cA,a、r=0 dc A =0 dr (7-10) 粒子内濃度の解と粒子表面から内側への拡散率は次の通りである。 ⎛ kA ⎞ sinh ⎜ r r ⎟ cA a ⎝ DAB ⎠ a e 粒子内濃度変化: = = c A,a r ⎛ kA ⎞ r a sinh ⎜ a e ⎟ DAB ⎠ ⎝ 表面拡散率: nA,r r=a = −DAB dcA dr =− r=a kA D AB kA D AB −e −e −r kA D AB −a kA D AB (7-11) Fig. 7-3 球中の濃度分布 " % + cA,a DAB ( *a k A coth $ a k A ' −1$ D ' a *) DAB AB & # , (7-12) 触媒がどれだけ有効に働くかを示す指標に触媒有効係数ηがある。多孔質触媒全体が cA,a の均一濃度にある状態 が最大の反応率を示し、そこから、拡散作用でどれだけ触媒内部濃度が減少し、触媒性能が低下するかを示す無次 元指標である。 実際の平均粒子濃度 −4π a 2 nA,r 3D r=a = = 2 AB 触媒有効係数: η = 4 3 a kA 全体が cA,a で均一濃度 π a k Ac A,a 3 ηは、シーレ数(Thiele modulus)と呼ばれる新たな無次元数 a Fig. 7-4 に示す。 48 ⎡ ⎛ kA kA ⎞ ⎤ ⎢a coth ⎜ a ⎟ − 1⎥ DAB ⎠ ⎥ ⎢⎣ DAB ⎝ ⎦ (7-13) kA = α のみの関数として表せる。その計算値を DAB ( ) 1 DAB/a2 の値が反応速度定数 kA の値に比べて十分に大きいとき、 8 6 4 粒子全体が均一濃度の反応律速になり、ηは1に近づく。このとき、 r=a =− 0.1 ak A c で表せ、総括物質移動係数 hM,0 を 3 A,a (reaction limiting) 2 8 6 η=3(αcoth(α)-1)/α2 η=3/α 4 η 表面拡散束は nA,r η=1 (diffusion limiting) 2 nA,r r=a = hM ,0cA,a により定義すると、hM,0 は hM ,0 = 0.01 ak A で表せる。逆 3 8 6 4 2 に kA が DAB/a2 に比べて十分に大きくなると、ηは 3 DAB a kA ⎛ 3⎞ ⎜⎝ = α ⎟⎠ に 0.001 -2 10 10 -1 0 10 1 10 10 2 3 10 4 10 a(k1/DAB)0.5(=α) Fig. 7-4 触媒有効係数の変化 近づく拡散律速になり、拡散束は nA,r r=a = − k A DAB cA,a になり、hM,0 は、 hM ,0 = k1 DAB で表せる。このように図の横軸シーレ数の大小により表面拡散率の律速段階が異なる。 そこで、全体の抵抗を表す経験式として、次式が求められる。 n n ⎛ 1 ⎞ ⎛ 3 ⎞ ⎛ ⎛ 3 ⎞ ⎧⎪ ⎛ a k A ⎞ 1 ⎞ ⎜ ⎟ =⎜ ⎨1+ ⎜ ⎟ ⎟ = ⎜ ak ⎟ + ⎜⎜ ⎝ A ⎠ ⎝ k A DAB ⎟⎠ ⎝ ak A ⎟⎠ ⎪ ⎝ 3 DAB ⎠ ⎝ hM ,0 ⎠ ⎩ n n n ⎫ ⎪ ⎬ =(1/反応抵抗)n+(1/拡散抵抗)n ⎪⎭ (7-14) n=2を使うと、Fig. 7-4 上で二つの実線間の差はほとんど観察できないほど近似できている。 7.4 平板からの非定常拡散 1次元平板からの非定常拡散過程を調べる。具体的には、1次元平板表面から成分 A が拡散溶解し、対流の影響 がないときの平板近傍に生じた境界層内への非定常状態濃度変化と拡散率を求める。すなわち平板近傍で、1 次元 定常拡散方程式: ∂ cA ∂ 2 cA を、境界条件:y=0 cA=cA,0、y=∞ cA=0、初期条件:t=0 cA=0 で解く。 = DAB ∂t ∂ y2 変数変換による解法:拡散方程式で相似変数 η = y 2 DABt を使い変換すると、 ∂ ∂ ∂η y ∂ = =− 、 0.5 1.5 ∂ t ∂η ∂ t 4DAB t ∂η ∂2 1 ∂2 ∂ ∂ ∂η 1 ∂ 、 2= と変数変換できるので、拡散式は = = 4DABt ∂η 2 ∂ y ∂η ∂ y 2 DABt ∂η ∂y η 2 d 2cA dc + 2η A = 0 の常微分方程式となる。これを解き、 c A = C1 + C2 ∫ e−η d η の一般解 dη dη 2 0 を得る。境界条件を当てはめると次の関係を得る。 y c 2 濃度変化: A = 1− c A,0 π 2 D ABt ∫ 2 e−η dη (7-15) 0 y2 ∂c DAB − 4 DABt e モル輸送束: nA,y = −DAB A = cA,0 ∂y πt 表面拡散率: nA,y y=0 = cA,0 DAB πt (7-16) Fig. 7-5 平板表面から (7-17) の非定常拡散の濃度変化 49 時間と場所に関わらず、濃度分布が相似変数ηのみで表されることは、濃度変化が壁付近の限られた領域内(濃 度境界層と呼ばれる)で変化することを意味する。濃度境界層の厚みが時間的に変化しても、濃度境界層内で濃度 変化が相似的に変化するのみである。この例では濃度境界層厚さが、 DABt に比例して増加し、表面拡散率は、t-1/2 に比例し時間とともに減少する。また物質移動係数 hM が hM = nA,y y=0 DAB の関係を得る。 πt c A,0 であるので、 hM = 7.5 平行平板間の非定常拡散 対流が無く、1次元平行平板間内で初期に一様濃度 cA,0 にあり、その後表面が 別の一定濃度 cA,L に維持され拡散する場合の非定常濃度変化と拡散率を求める。 両側を無限平板に挟まれた領域内の静止した物質内部の濃度変化を求める。初 期の均一状態から突然境界の濃度が一定値に変化した場合の領域内の濃度変化で ある。一次元拡散式 ∂ cA ∂ 2 cA を、境界条件 y=L , L cA=cA,L、y=0 = DAB ∂t ∂ y2 ∂ cA =0、 ∂y 初期条件 t=0 cA=cA,0 で解く。 () ∞ ラプラス変換による解法:拡散式を、 c! A s = ∫ c Ae− st dt を使ってラプラス変換す ると s!c A − c A,0 = DAB 0 c dc! d 2 c! A となり、さらに y=L で c! A = A,L 、y=0 で A = 0 の境界条 2 dy s dy Fig. 7-6 平行平板間内の 濃度の時間変化 件を用いて解くと、ラプラス空間での濃度変化は、 10 c A ( t, y ) = c A,0 s + (c A,L − c A,0 s ) a+i∞ 1 st ∫ e c! Ads の関係を使いおこなう。この逆変換は、s=0 2π i a−i∞ nA,y|y=0L/2DAB(cA,L-cA,0) [-] ( ) c! A s, y = 6 4 ⎛ s ⎞ cosh ⎜ y⎟ ⎝ DAB ⎠ となる。逆変換は、 ⎛ s ⎞ cosh ⎜ L⎟ ⎝ DAB ⎠ 2 D ⎛ 1⎞ n + ⎟ π 2 における留数を求めることから計算できる。 と sn = − AB 2⎠ L2 ⎜⎝ ( ) すなわち Re s ⎡⎣ c! A ,s = a ⎤⎦ = lim s − a c! A から実空間での上の解を求め ( ) ( ) る。同様にラプラス変換内で拡散率 j A,y s, y を求めると、 nA,y s, y = −DAB る。逆変換して得られた結果は次の通りである。 50 2 1 (L2/πDABt)0.5/2 6 4 2 0.1 6 4 Σexp(-(n+1/2)2π2DABt/L2) 2 0.01 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 DABt/L2 [-] Fig. 7-7 壁からの拡散率の時間変化 dcA DAB =− cA,L − cA,0 dy s ( ) " s % sinh $$ y '' # DAB & とな " s % cosh $$ L '' # DAB & ( ) 濃度変化: c A t, y = c A,L − ( ) 拡散率: nA,y t, y = −DAB ( 2 c A,L − c A,0 π ) ( −1) n 2 ⎡ ⎛ ⎡⎛ 1⎞ y ⎤ 1 ⎞ 2 DAB ⎤ ∑ ⎛ 1 ⎞ cos ⎢⎜⎝ n + 2 ⎟⎠ π L ⎥ exp ⎢⎢ − ⎜⎝ n + 2 ⎟⎠ π L2 t ⎥⎥ n=0 ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎜⎝ n + 2 ⎟⎠ ∞ (" 1 % 2DAB ( cA,L − cA,0 ) ∞ n ∂ cA =− −1) sin *$ n + ' π ∑ ( ∂y L )# 2 & n=0 壁からの物質移動速度は、 nA,y y=L =− 2DAB ( cA,L − cA,0 ) L 2 ( + y + * " 1 % 2 DAB t - exp − $ n + ' π L , *) # 2 & L2 -, 2 ( " + 1 % 2 DAB * exp − n + π t ∑ * $# 2 '& L2 n=0 ) , ∞ (7-18) (7-19) (7-20) となる。 Fig. 7-7 に見る様に、時間が小さいときに、(nA,y)y=L は指数関数からのずれが大きくなる。級数解では多くの n の値を加える必要があるので、この領域の逆変換を別の形で表すと、 nA,y y=L = DAB (c − c ) になる。この結果は π t A,L A,0 7.4 節の結果(7-17)と同じであり、境界面近傍に生じた境界層内の拡散が壁からの移動速度を律速している。 7.6 流れがあるときの輸送束表記と拡散方程式 2成分(A+B)混合物が流れているときの、流れの中での成分 A の物質収支式は次式で表せる。 ⎛∂n ∂n ∂n ⎞ ∂ cA ∂c ∂c ∂c + u A + v A + w A = − ⎜ A,x + A,y + A,z ⎟ + S A ∂t ∂x ∂y ∂z ∂y ∂z ⎠ ⎝ ∂x (7-21) ここで n A nA,x ,nA,y ,nA,z は、成分 A のモル輸送束ベクトル[mol/(m2•s)]、cA は成分 A のモル濃度[mol/m3]である。xA ( ) を成分 A のモル分率とすると、nA,y 等は Fick の拡散式と次の関係にある。 nA,y = −ct DAB ∂ xA + x A nA,y + nB,y ∂y ( ) (7-22) 上の式は、金属中に水素が固溶拡散する場合のように、体積輸送が無い領域における成分 A の拡散では(7-19)式 の右辺第二項は0となる。しかしながら、例えば、不活性ガス B 中に反応成分 A が含まれ、成分 A のみが反応や 拡散で移動する場合(一方拡散状態と呼ぶ)は、nB,y=0 であり、モル輸送束 nA,y は次式になる。 nA,y = − ct DAB ∂ x A (一方拡散の場合) 1− x A ∂ y (7-23) 他方、成分 A と成分 B が互いに逆方向に拡散し、互いの成分が接触したところで反応しあうときには、相互拡散条 件にあり、nA,y+nB,y=0 となる。従って次式を得る。 nA,y = −ct DAB ∂ xA (相互拡散の場合) ∂y (7-24) 7.7 物質移動係数 成分 A のモル分率あるいは質量分率が小さいときも(7.22)式の第二項は無視できるので、流れのある場合の物質 収支式は次式になる。 51 ⎛ ∂ 2 cA ∂ 2 cA ∂ 2 cA ⎞ ∂ cA ∂c ∂c ∂c + u A + v A + w A = DAB ⎜ + + + SA 2 ∂t ∂x ∂y ∂z ∂ y 2 ∂ z 2 ⎟⎠ ⎝ ∂x (7-25) ! 流れがある場合、まず運動量方程式を解いて速度 v u,v, w を求め、次に対流成分がある場合の拡散式を解き、濃 ( ) 度変化や拡散率(あるいは物質輸送束)を求める。しかしこれまで求められているのは、流れが安定な層流のごく 限られた状態のみであり、一般的な整理をおこなうには、次の物質移動係数を用いた現象論的な方法が有効である。 物質移動係数 hM[m/s]を、流体とそれと接触する境界面間のモル輸送束(拡散率)の中で次式の様に定義する。 nA,y y=0 (= n ) = h (c A,y,w M A,m ) − c A,w = − DAB ∂ cA ∂y (7-26) y=0 この定義は、熱伝達係数の定義式で、熱伝導率 kT が拡散係数 DAB に、熱流束 qw が nA,y,w に、温度 T がモル濃度 cA に、熱伝達係数 hT が物質移動係数 hM に替わった以外、式の形は同じである。 物質移動係数 hM の意味を考察するため、流れのある場合の拡散方程式を、代表長さ L[m]、代表速度 U[m/s]、代 表濃度 cA,0[mol/m3]を用いて以下の様に無次元化する。 c! A = cA ⎛ u v w⎞ ⎛ x y z⎞ tU ! v, ! w! = ⎜ , , ⎟ 、 x, ! y! , z! = ⎜ , , ⎟ 、 t! = 、 u, c A,0 L ⎝U U U ⎠ ⎝ L L L⎠ ( ) ( ) 以上の関係を使うと、拡散式は次の様に無次元形に変換される。 ∂ c! A ∂ c! ∂ c! ∂ c! 1 ⎛ ∂ 2 c! A ∂ 2 c! A ∂ 2 c! A ⎞ S A L + u! A + v! A + w! A = + + + ∂ t! ∂ x! ∂ y! ∂ z! Re Sc ⎜⎝ ∂ x! 2 ∂ y! 2 ∂ z! 2 ⎟⎠ c A,0U (7-27) 式中の Re, Sc は次に定義する無次元数である。 Re = ν UL 、 Sc = DAB ν (7-28) 従って、拡散方程式で記述できる体系では、Re と Sc、反応率 SA を決めると、物質移動の様子が決まることを意味 する。このように求められた体系内の濃度変化を流体とそれを区切る壁との間の物質移動速度 nA,y で整理する。同 様にこの項も無次元化すると、次式となる。 hM L ∂ c! A 1 = Sh ) = − ( DAB c! A,m − c! A,w ∂ y! (7-29) y=0 このように、Sh 数は、熱移動の Nu 数と同様に物質移動の場合の代表的無次元数となる。例えば、Sh 数につい て次のような無次元整理式が提案されている。 l 円管内強制対流乱流物質移動(あるいは熱伝達)Dittus-Boelter 式: ⎛ h d⎞ Sh ⎜ = M ⎟ = 0.023Re0.8 Sc0.3 (冷却の場合) ⎝ DAB ⎠ 整理式中の Re = (7-30) um d は Reynods 数である。Sh 数の代表長さ L に円管直径 d を取り、代表速度 U に平均速度 um を ν 取る。 l 平板強制対流物質移動: ⎛ h x⎞ ShX ⎜ = M ⎟ = 0.332 Re X 1 2 Sc1 3 (Sc 数が 0.6 以上の場合) ⎝ DAB ⎠ 52 (7-31) 整理式中の Re X = u∞ x と定義し、Sh 数の代表長さ L に物質移動が始まる地点からの距離 x を取り、代表速度 U に ν 物質移動面から十分離れた地点での主流速度 u∞を取る。 l 球の周りの物質移動(Ranz-Marshall 式): ⎛ h d⎞ Sh ⎜ = M ⎟ = 2 + 0.60 Re1 2 Sc1 3 ⎝ DAB ⎠ (7-32) u∞ d と定義し、Sh 数の代表長さ L に、球の直径 d を取り、代表速度 U に球から十分離れた地点で ν 整理式中の Re = の速度 u∞を取る。 7.9 流れ中の物質移動の具体的計算例 例として、流れのある場所におかれた多孔質触媒の反応率を考える。 例2と同じ状況で、球形触媒粒子に主流速度 U で向かってくる状態での反応率 を求める。気流中での拡散抵抗を、物質移動係数を用いて評価する。種 A のモル 輸送束 nA,r について、触媒から十分はなれた地点での A 成分濃度 cA,∞を用いると 次式となる。 −nA,r r=a ( ) = hM c A,∞ − c A,a = DAB dc A dr (7-33) r=a 表面濃度 cA,a を使うと、粒子内部への拡散と反応を考慮した質量束 nA,r は、例2 Fig. 7-8 多孔質触媒モデル の結果を参考にして次式の様に求められる。 −nA,r r=a = DAB dc A dr = r=a ⎛ c A,a DAB ⎡ kA kA ⎞ ⎤ ⎢a coth ⎜ a ⎟ − 1⎥ a ⎢ DAB DAB ⎠ ⎥ ⎝ ⎣ ⎦ (7-34) 二つの式より表面濃度 cA,a を消去すると次式を得る。 − nA,r r=a = c A,∞ DAB a 1 DAB + hM a a kA DAB (7-35) 1 ⎛ kA ⎞ coth ⎜ a ⎟ −1 DAB ⎠ ⎝ 求められた式は、触媒から遠くはなれた成分 A 濃度 cA,oo と拡散係数 DAB、一次反応速度定数 kA、触媒粒子半径 a のみで表されている。右辺分母の第一項は、触媒粒子の周りにできる境界層内の拡散抵抗、第二項は触媒内の拡散 と反応の寄与である。第一項は、Ranz-Marshall の式を使えば無次元数の Sh 数として求めることができる。さら ( ) に p が小さいとき pcoth p = 1− p 2 3− p 4 45 + − − の近似式を利用すると、(7-35)式は次式で近似できる c A,m DAB (− n A,r r=a )a = DAB 3DAB + hM a k1a 2 右辺第一項は粒子外の拡散抵抗を、第二項は粒子内の拡散抵抗を表す。 53 (補講7) ガス吸収塔の解析 Fig.7-9 のようなぬれ壁状のガス吸収塔を用い、有害物質を含むガスとそれを吸収 yA,G,out する液とを向流接触させ、有害物質を回収する場合のガス側と液側の濃度変化を求め る。液は下方に流れ、吸収成分 A を含むガスは上方に流れる。内部気液界面近くの濃 yA,L,in 度変化の様子を Fig.7-10 に示す。 吸収されるガス成分 A は、気相中を上方に移動しながら横方向にも拡散し、液表面 z から吸収され、液内を下方に流れながら液内部にも拡散する。上方あるいは下方への 流れは、横方向の拡散速度に比べて十分に速いので、上下方向の拡散を考える必要は 無い。下降液の質量流量を WL [kg/s]、上昇ガスの質量流量を WG [kg/s]、ぬれ壁塔断 面積を AS [m2]、ぬれ壁塔単位体積あたりの気液接触面積を AV [m2/m3]、ガス中ある いは液中の着目 A 成分の質量分率を yA,G,∞、yA,L,∞とすると、高さ z における微分物質 収支は次式で書ける。 WL dy A,L,∞ dz = WG dy A,G,∞ dz yA,G,in yA,L,out = j A,y AS AV (7-36) Fig.7-9 濡れ壁塔 yA,G,∞、yA,L,∞はともに z 方向に増える方向にある。塔のある位置 z まで(7-36)式を積 分すると、次式を得る。 ( ) ( WL y A,L,∞ − y A,L,in = WG y A,G,∞ − y A,G,out ) z (7-37) jA,y 特に(yA,G,∞ vs. yA,L,∞)平面に描いた yA,G,∞と yA,L,∞の変化を操作線と呼ぶ。 Fig. 7-11 に見る様に、操作線は、z=0 位置の(yA,G,out, yA,L,in)から z=h 位置の(yA,G,in, yA,L,out)まで傾き WG/WL の直線である。一方、塔内気液 界面でのガス側から液側へのガス吸収率 jA,y [kg/m2s]について次の関 WL WG 係が成立すると考える。 ( ) ( j A,y = ρ G hM ,G y A,G ,∞ − y A,G ,S = ρ L hM ,L y A,L,S − y A,L,∞ ) (7-38) この式は、上昇あるいは下降速度が十分に速いとき、濃度変化が気液 界面のごく限られた領域の境界層内でおこり、その間の移動が物質移 動係数で表せる事を意味する。(7-38)式の関係を(yA,G,∞ vs. yA,L,∞)平面 Fig. 7-10 流れがある液中へのガス吸収 で描いた関係(直線)をタイラインと呼ぶ。直線の傾きは、 -ρGhM,G/ρLhM,L である。気相から液相への吸収速度が十分に速い ( ) とき、気液界面濃度、yA,L,S と yA,G,S は平衡関係 f y A,G ,S = y A,L,S で 表せる(図では一点鎖線)。このような図式は、内部の濃度変化 のおおよその値を知るのに便利で、また安定なガス吸収を起こす 条件を判断するのに役立つ。 定量的に求めるには、(7-36),(7-38)式より、次式を得る。 y A,L ,out ∫ y A,L ,in dy A,L,∞ y A,L,S − y A,L,∞ h =∫ 0 hM ,L AV (W L ρ L AS ) dz (7-39) 54 Fig. 7-11 操作線、平衡線とタイライン y A,G ,in ∫ y A,G ,out h dy A,G,∞ y A,G,∞ − y A,G,S =∫ 0 hM ,G AS AV (W G ρ G AS ) (7-40) dz 平衡関係を代入し、積分し、回収に必要な高さ h が求められる。(7-39), (7-40)式の左辺は、液側あるいはガス側の 移動単位数(NTU)と呼ばれ、無次元の値である。図の矢印付き破線の逆数を入口から出口条件まで積分した値に 相当する。 もし平衡関係が Henry 法則に従うとき、yA,L,S=KAyA,G,S なので、(7-38)式は次式になる。 j A,y = 1 1 ρ G hM ,G + 1 K A ρ L hM ,L ⎛ y A,L,∞ ⎞ ⎜ y A,G,∞ − K ⎟ ⎝ A ⎠ (7-41) (7-41)式の右辺の係数は、ガス側と液側の二つの拡散抵抗を加えたものであり、総括物質移動係数と呼ばれる。 (7-41)式を(7-36)式に代入し、入口と出口の間で積分すると、次式を得る。 ln y A,G,in − y A,L,out K A y A,G,out − y A,L,in K A = 1 ρ G hM ,G Atot + 1 K A ρ L hM ,L ⎛ 1 ⎞ 1 ⎜⎝ W − K W ⎟⎠ G A L (7-42) ここで二つの境膜物質移動係数が場所によらず一定を仮定している。また Atot は装置全体の気液接触面積である。 ガス側から液側への全吸収率 J [kg/s]は、入口—出口の物質収支より次式で表せる。 ( ) ( J tot = WG y A,G ,in − y A,G ,out = WL y A,L,out − y A,L,in ) (7-43) (7-42), (7-43)式を組み合わせると、次式を得る。 J tot = 1 ρ G hM ,G Atot + 1 (y A,G,in K A ρ L hM ,L ) ( − y A,L,out K A − y A,G,out − y A,L,in K A ⎛y − y A,L,out K A ⎞ ln ⎜ A,G,in ⎟ ⎝ y A,G,out − y A,L,in K A ⎠ ) (7-44) (補講8) 熱交換器の解析 T1,in 同様な体系で、高温側流体から低 温側流体に熱を伝え交換させる熱 交換器がある。熱交換器は、外側シ T2,out T2 z ェル管内部に、N 本の細い熱交換チ T2,in T1 T1,out ューブ(直径 d [m])を挿入し、高 温側流体と低温側流体を熱交換器 チューブの内部と外部とを接触せ Fig. 7-12 熱交換器図 ずに互いに逆向きに流し、熱を伝え る装置である。一次側高温流体の温度を T1 [K]、質量流量を W1 [kg/s]、比熱を CP,1 [J/(kg•K)]、二次側低温側流体 の温度、質量流量、比熱をそれぞれ T2 [K]、W2 [kg/s]、CP,2[J/(kg•K)]とすると、次式が成立する。 W1C P,1 dT1 dT = −π dNq = W2C P,2 2 dz dz (7-45) ここで、q [W/m2]は単位面積あたり高温側から低温側に伝わる熱量である。これは熱交換器の位置によって変化す 55 る。高温側から低温側に熱伝達では、Fig.7-13 のように、高温側流体境界層内と低温側流体境界層内の熱抵抗 1/hT,1, 1/hT,2、伝熱壁の熱抵抗 tW/λS を考慮する必要がある。q はこれらの熱抵抗と次の関係にある。 q = T1 − T2 1 + tW + 1 hT ,1 λS hT ,2 (7-46) (7-42)式の q に(7-43)式を代入し、熱交換器入口-出口間で積分すると、次式を得る。 ⎛ T − T2,in ⎞ ln ⎜ 1,out ⎟= ⎝ T1,in − T2,out ⎠ 1 Atot hT ,1 + tW λS + 1 hT ,2 ⎛ 1 1 ⎞ ⎜W c −W c ⎟ ⎝ 2 P,2 1 P,1 ⎠ (7-47) ここで、Atot は全熱交換面積である。高温流体から低温流体へ の全熱移動速度 Qtot [W]は以下のように表される。 ( ) ( Qtot = W1cP,1 T1,in − T1,out = W2 cP,2 T2,out − T2,in ) (7-48) (7-47),(7-48)式を組み合わせると、次式の関係を得る。 Qtot = (T Atot 1 hT ,1 + tW λS 1,out + 1 hT ,2 ) ( − T2,in − T1,in − T2,out ⎛T −T ⎞ ln ⎜ 1,out 2,in ⎟ ⎝ T1,in − T2,out ⎠ ) (7-49) 右辺第一項は、総括熱通過係数に面積を乗じたもの、第二項 は、対数平均温度差である。 Fig. 7-13 熱交換器内温度分布図 56 演習問題 ! 1.成分 A のモル分率が小さく、系内で発生消滅がないときの成分 A の物質収支式は次のように書ける。 v u,v, w ( ) を速度成分とする。 ⎛ ∂ 2 cA ∂ 2 cA ∂ 2 cA ⎞ ∂ cA ∂c ∂c ∂c + u A + v A + w A = DAB ⎜ + + 2 ∂t ∂x ∂y ∂z ∂ y 2 ∂ z 2 ⎟⎠ ⎝ ∂x ! 濃度 cA、座標(x,y,z)、速度 v ( u,v, w) をそれぞれ、代表濃度 cA,0、代表長さ L、代表速度 U で無次元化し、上の式を 無次元物質収支式に書き換え、二つの無次元数 Re, Sc が現れることを導け。 さらに上の拡散方程式と熱の収支式(6.2 式で発熱がない場合)と見かけ上同じ式になることに着目して、両者 の無次元数の対応関係を示せ。 2.内部に流動がなく静止した半径 a の球状試料を考える。初期に A 成分が含まれず、t>0 で A 成分表面濃度が一 定(cA,0)に維持される場合の1次元拡散による球試料内部の濃度変化 cA(t,r)と表面から内部への拡散率 R(t)を求め る。解くべき拡散方程式は次の通りである。 ∂ c A DAB ∂ ⎛ 2 ∂ c A ⎞ = 2 r ∂t r ∂ r ⎜⎝ ∂ r ⎟⎠ 初期条件は、t=0, cA=0、境界条件は、r=0 で ∂ c A ∂ r = 0 、r=a で cA=cA,0 である。 (1) 上の拡散方程式を Laplace 変換し、境界条件を満足する解を求める。 ( ) (2) この Laplace 変換の解は、sinh a s DAB = 0 における留数を求めることで得られる。すなわち、a sn DAB = inπ であるので、 sn = − n2π 2 DAB a 2 での留数を求めることになる。 (3) 上の解析を使って球粒子内部の濃度 cA(t,r)を求める。 ⎛ ∂c (4) 球粒子内部への拡散率は、 R = 4π a 2 ⎜ − DAB A ∂r ⎝ ⎞ ⎟ であるので、これを使って R(t)を求める。 r=a ⎠ (5) 次に上の拡散方程式を変数分離法で求める。すなわち、拡散方程式を満足する解として次の関数: c A,0 − c A c A,0 ∞ = ∑ An Rn ( r ) Tn ( t ) を代入したとき、r の関数である Rn ( r ) が満足する関係を求める。 n=0 () (6) 同様に t の関数である Tn t が満たす関係を求める。 (7) 初期条件より An の値を求める。 a (8) 球形粒子内の平均濃度 cA,m の時間変化を、 c A,m = ∫ 4π c Ar 2 dr の関係を使い求める。 0 3.z 軸方向に十分に長い、半径 a の円筒形ペレット触媒内で、不可逆一次反応が生じる 場合の触媒内 r 方向濃度変化 CA(r)と、表面拡散率 jA,r r=a を以下の手順で求める。 (1) 拡散式の設定: θ 動径方向には均一で濃度変化が無く、z 軸方向にも十分に長い状況を考える。不可逆 57 一次反応では、球状触媒の場合と同様に、発生(実際には消失) 2.0 項が SA=-kACA で表せるものとする。 ∂t 、∂ ∂θ 、∂ ∂z を含む項 を無視したものとなる。その式を求めよ。 (2) 境界条件の設定: 境界条件は本文の球の場合と似た仮定で設定する。円筒ペレッ 1.5 I0(z), I1(z), K0(z) 定常状態拡散方程式は、(7-4)式中で ∂ I0(z) 1.0 I1(z) 0.5 K0(z) ト中心で濃度分布が対称、ペレット表面で一定濃度 CA0 に維持さ れるとする。 (3) 0.0 0.0 0.5 2 d f 1 df + − α 2 f = 0 の形の微分方程式の一般解は、次の二つ dr 2 r dr 1.0 1.5 2.0 z 変形ベッセル関数の値 の0次変形 Bessel 関数の線形結合式で表される。A, B は境界条 件から求められる定数である。 () ( ) ( ) f r = AI 0 α r + BK 0 α r このうち、I0(αr)は r=0 で有限の値を取るが、一方 K0(αr)は r=0 で無限となる。後者はこの場合の解には該当しな い。以上のことを使い、拡散方程式を、境界条件を満足する解 CA(r)を求める。 (4) 円筒形触媒表面拡散率 nA,r r=a を、 nA,r ここで、 dI 0 (α r ) dr r=a = −DAB ∂ cA ∂r から求める。 r=a = α I1 (α r ) の関係を使っている。I1(αr)は一次変形ベッセル関数である。 58
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