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オープンサイエンスへの取り組みと「情報管理」

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情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
巻頭言:
1
白木澤 佳子
オープンエデュケーション
3
重田 勝介
11
菊池 健司
19
宮入 暢子
32
治部 眞里
長部 喜幸
オープンサイエンスへの取り組みと「情報管理」
開かれた教育が変える高等教育と生涯学習
■誰でも受講できるオンライン講座「MOOC」の普及によって,大学に入らなくて
も高等教育が受けられるオープンな学習環境が現実のものとなりました。これら
オープンエデュケーション活動の普及は,国内外における高等教育と生涯学習の
多様化,質の向上に効果的な触媒です。オープンエデュケーションが高等教育と
生涯学習にもたらす今後の可能性について解説します。
トレンドを知るためのビジネス情報収集手法
情報プロフェッショナルが磨いておきたい選択眼とは
■トレンド情報はビジネスの成功に不可欠な情報で,市場,顧客,技術・研究,広
くは世の中に関するトレンドまで多種多様です。マーケティングデータバンクで
多くの顧客の相談に乗ってきた調査のプロが,トレンド情報の考え方や収集方法
について解説し,情報選択の極意も明かします。すぐに役立つ代表的な参考情報
源も紹介します。
研究者識別子ORCID
活動状況と今後の展望
■2009年に始まった国際的な研究者識別子付与活動であるORCIDの取り組みについ
ては,サービス開始前の2012年1月に弊誌で紹介しました。同年10月のサービス
開始から3年余りがたちました。ORCID識別子の登録者は180万人を超え,急速に
研究者の間に浸透しています。ここでは,2015年末までのORCID活動状況を概観
し,今後の方向性について紹介します。
第5期科学技術基本計画における主要指標について
■2015年12月の総合科学技術・イノベーション会議において「第5期科学技術基本
第5期科学技術基本計画に
おける主要指標について
治部 眞里, 長部 喜幸
計画」答申案が了承され,2016年1月に「第5期科学技術基本計画」が閣議決定さ
れました。2016年度からの5年間の科学技術政策の方向性を定めるこの重要な計
画における主要指標に関する一考察を紹介し,同計画の確度をより向上させるた
めの新たなシステム開発の可能性について述べます。
目次
April
月号
43
余頃 祐介
53
樋口 知之
57
浦 さやか
金丸 明彦
松村 悠子
宮脇 英俊
情報論議 根掘り葉掘り:
61
名和 小太郎
この本!~おすすめします~:
66
渡辺 治
情報界のトピックス
69
PINUP
71
訂正:日本の学協会誌掲載論文のオンライン入手環境
72
編集後記
74
永続的識別子"DOI"の多様な活用状況
2015年DOIアウトリーチ会議in東京からの示唆
■2015年DOI アウトリーチ会議は,ジャパンリンクセンターのホストにより12月3
日に東京で開催されました。今回は「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」
の最終報告に加えて,海外のDOI登録機関から日本のコミュニティーに対して,
ユースケースを交えたDOI登録のメリット,DOI登録対象の多様性についての紹
介がありました。講演の概要と質疑応答について報告します。
視点:
データ駆動科学技術を担う人材の育成
確率的思考と逆推論
リレーエッセー:
つながれインフォプロ 第28回
図書館,出前はじめました
偽書あれこれ
コンピューターサイエンスを教養に
投稿規定・原稿の書き方・著作権規定
appx1
佐藤 翔
Contents
vol.59 no.1
JOHO KANRI 2016
Journal of Information Processing and Management
April
1
SHIROKIZAWA Yoshiko
Open Education
3
SHIGETA Katsusuke
The business information collection method to know a
trend
11
KIKUCHI Kenji
ORCID
19
MIYAIRI Nobuko
Main indicators for 5th Science and Technology Basic
Plan
32
Various utilizations of persistent identifier, "DOI"
43
YOGORO Yusuke
Opinion:
53
HIGUCHI Tomoyuki
Preface:
Toward forum for open science: "JOHO KANRI"
Innovating higher education and lifelong learning through openness
The requirement for enhancing the ability of the selection of good quality
information as a business information specialist
Status updates and future plans
Implications from DOI Outreach Meeting 2015 in Tokyo
Scientific senses and skills necessary for promoting the
data-driven science and technology
JIBU Mari
OSABE Yoshiyuki
Stochastic modeling, Statistical thinking, and Inverse analysis
Relay essay:
Building networks among info pros (28)
57
We started "Demae Library"
URA Sayaka
KANAMARU Akihiko
MATSUMURA Yuko
MIYAWAKI Hidetoshi
61
NAWA Kotaro
My bookshelf:
66
WATANABE Osamu
Topics of the information community
69
PINUP
71
In-depth argument on information:
Fake publication
From deformed version to virtual authorship
Computer science as a subject of liberal arts
Errata: Online availability of articles published in Japanese society
journals
Editor's note
Appendix
Instructions for authors 2016 (vol. 59)
72
74
appx1
SATO Sho
オープンサイエンスへの取り組みと
「情報管理」
科学技術振興機構
理事
白木澤 佳子
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 1-2. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.1
2016年 度 が ス タ ー ト し ま し た。 本 年 度 か ら
のようにJ S Tは文献検索サービスだけでなく,
5年間の第5期科学技術基本計画では,I C Tの進
簡単に外部情報との連携を可能とする仕組み
化 に よ り, 社 会・ 経 済 の 構 造 が 日 々 大 き く 変
や学術情報を可視化するサービスを提供する
化する「大変革時代」の到来に対応するために,
こ と で, 学 術 情 報 の 流 通 を 促 進 し て い ま す。
わ が 国 と し て 世 界 に 先 駆 け た「 超 ス マ ー ト 社
研 究 者, 研 究 機 関 に 関 す る 情 報 に つ い て は,
会」の実現を目指すという方向性が打ち出さ
res earc hmapを国立情報学研究所(NII)の協
れ て い ま す。 世 の 中 に あ ふ れ て い る 多 種 多 様
力の下で運営し,約3,400の研究機関情報,24
な 情 報 の 中 か ら 必 要 な 情 報 を 探 し 出 し, そ こ
万 人 の 研 究 者 情 報 を 提 供 し て お り, 大 学 に お
か ら 知 識 を 獲 得 し, 新 た な 価 値 に つ な げ る こ
ける教員マスターデータベースとしても利用
とができるかどうかがわが国の今後の科学技
されています。
術の発展を左右するといっても過言ではあり
ません。
研 究 デ ー タ の 共 有 の 推 進 で は, バ イ オ サ イ
エンスデータベースセンター(N B D C)におい
J S Tで は, 日 本 の 学 協 会 が 発 行 す る 電 子
て, さ ま ざ ま な 研 究 機 関 の ラ イ フ サ イ エ ン ス
ジャーナルのプラットフォームとなるJ-STAGE
分野の研究データを統合的に利用できるよう
を 開 発・ 運 用 し, 現 在, 約1,900誌,270万 件
に 整 備 を 進 め て い ま す。 た と え ば, 科 研 費 や
の 記 事 へ の ア ク セ ス が 可 能 と な っ て い ま す。
J S Tのファンディングプログラムで得られた研
ま た, 電 子 ジ ャ ー ナ ル 等 の 相 互 リ ン ク を 可 能
究データも,N B D Cに提供していただき,オー
にするDOI(Digital Object Identifier)の登
プンにしていく取り組みを進めているところ
録 を 行 う ジ ャ パ ン リ ン ク セ ン タ ー を 物 質・ 材
です。C R E S T,さきがけでは,本年度以降に
料研究機構(NIMS),国立情報学研究所(NII),
発足する研究領域で採択された研究者の皆さ
国 立 国 会 図 書 館(N D L) と 共 同 で 運 営 し,1
んがデータマネジメントプランを作成するこ
つの論文から関連する情報をより効率的に入
と に よ り, デ ー タ の 保 存, 管 理 に 関 す る 方 針
手 で き る 仕 組 み を 提 供 し て い ま す。 さ ら に 長
を 明 確 に し, デ ー タ の 公 開 を 促 進 す る こ と を
年 に わ た り, 日 本 最 大 級 の 科 学 技 術 文 献 デ ー
目 指 し ま す。 ま た,2015年 度 か ら 開 始 したイ
タベースを作成し(J - G L O B A Lおよび株式会
ノ ベ ー シ ョ ン ハ ブ 構 築 支 援 事 業 で は 物 質・ 材
社ジー・サーチのJ D r e a mⅢから提供),その
料研究機構(N I M S)が採択され,物質・材料
累 積 件 数 は 約3,700万 件 と な っ て い ま す。 こ
分 野 の デ ー タ の 蓄 積, 活 用 を 目 的 と し た 情 報
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
1
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
統 合 型 物 質・ 材 料 開 発 イ ニ シ ア テ ィ ブ の 構 築
プンアクセスジャーナル,研究データの共有,
が進められています。
さらにはデータの共有に伴う個人情報保護の
世 界 で は, 欧 米 を 中 心 と し て オ ー プ ン サ イ
問 題 な ど を 取 り 上 げ, 読 者 の 皆 さ ま に 最 新 の
エンスを巡る議論が活発になっています。J S T
トピックスに関する情報を提供するととも
はこの3月に研究データ共有に関する国際会議
に, 企 業・ 大 学・ 図 書 館 の 現 場 で の 新 た な 取
(R e s e a r c h D a t a A l l i a n c e : R D A)の総会をア
り 組 み に つ い て も ご 紹 介 し て ま い り ま し た。
ジ ア で は 初 め て 東 京 で 開 催 し ま し た。 こ れ か
J S Tは2016年10月に創立20周年を迎えます。
らもこのような取り組みを通して日本におけ
これを機会に「情報管理」につきましてもいっ
るデータ共有・活用に関する議論を活性化し,
そ う の 内 容 の 充 実 を 図 っ て ま い り ま す。 皆 さ
オープンサイエンスを推進します。
まのさらなるご支援をよろしくお願いいたし
「情報管理」では,オープンサイエンス,オー
2
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
ます。
オープンエデュケーション
オープンエデュケーション
開かれた教育が変える高等教育と生涯学習
Open Education
Innovating higher education and lifelong learning through openness
重田 勝介 1
SHIGETA Katsusuke1
1 北海道大学 情報基盤センター
1 Information Initiative Center, Hokkaido University
オープンエデュケーションは,教育を学校や大学など教育機関の枠を超えて「オープン」にする活動であり,教材蓄
積や教育改善,生涯学習を広める効果をもつ。オープンエデュケーションはオンライン教育の普及をさせ,高等教育
と生涯学習のあり方を促す可能性をもつ。知識基盤社会にふさわしい高等教育と高度な人材育成を実現させるために,
オープンエデュケーションは不可欠である。
オープンエデュケーション,オープン教材,MOOC,高等教育,大学教育,生涯学習,人材育成
原稿受理(2016-02-15)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 3-10. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.3
1.「オープン」エデュケーションとは
ツールに関する「オープン・テクノロジー」を提案
している1)。また筆者は拙書2)にて,オープンエデュ
オープンエデュケーションとは一般に,教育を学
ケーションにかかわる活動を「コンテンツ」「プラッ
校や大学など教育機関の枠を超えて「オープン(開
トフォーム」
「デバイス」
「コミュニティ」に分類し
く)」にすることを指す。このようなオープンエデュ
た。ではオープンエデュケーションの「オープン」
ケーションの概念が主流となったのは,2000年代後
とは何だろうか。筆者はオープンエデュケーション
半からのことであり,当初この用語は1960年代後半
が「オープン」にするものは,
「アクセス」
「ライセ
から普及した英国を発祥とした初等中等教育におけ
ンス」
「シェアリング」の3つだと考えている。
る教育改革のことを指した。教師から生徒への一方
まずオープン「アクセス」は,教育のために必要
向的な管理教育を改善することを目的に,教室と教
な知識への自由なアクセスのことである。学術研究
室の境目をなくし,生徒の興味を重視する学習者中
においてオープンアクセスとは,学術情報や論文を
心の教育活動が行われた。近年ではオープンエデュ
インターネットを通じて無料で自由に利用できるよ
ケーションはインターネットなどのネットワークや
うにすることを指す注1)。オープンエデュケーション
テクノロジーを活用し,教育を受ける機会をより開
におけるオープンアクセスでは,この範囲を教育分
かれたものにする活動のことを指すようになった。
野のリソースにも拡張する。その代表例がオープン
飯吉はオープンエデュケーションの構成分野とし
教材(Open Educational Resources: OER)である。
て,オープンコースウェア(Opencourseware: OCW)
学校や大学などの教育機関に限らず,何らかの専門
のような教材に関する「オープン・コンテンツ」,教
性をもった個人や組織が,教育のためにインターネッ
育的知識に関する「オープン・ナレッジ」,教育的
ト上に公開する教材は,すべてOERである。近年では
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
3
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
無料の大学教科書を制作するオープン教科書(O p e n
共有することを指す。事例として,さまざまな個人
Textbook)が米国を中心に普及している。
や組織が制作したOERを検索できるWebサイトである
次のオープン「ライセンス」は,誰かの作った教
「OER Commons」注3)や,大学によるOER公開Webサ
材を他者が使うことへの自由な承認(ライセンス)の
イト「OCW」注4),OERをモジュール(ある構成単位)
ことである。この目的は教材の再利用を促すことにあ
に分割・蓄積して再利用をしやすくしたOERリポジト
る。OERの幅広い利用を促しさまざまな分野やレベル
リである「OpenStax CNX」注5)
(図1)
,米国Apple社が
に対応した教材をそろえるためには,新たに教材を
提供するアイチューンズ・ユー(iTunes U)注6)やカー
一から作るのではなく,今ある教材を再編集し作り
ン・アカデミー(Khan Academy)注7)などがある。
替えるのが効率的である。そのために,多くのOERで
OERを共有するだけでなく,OERを使って学び,相互
は権利処理情報と再利用の可否があらかじめ表示さ
に教え合うような学習コミュニティーもあり,この
れる。OERで用いられるライセンス表示の代表例がク
代表例が「OpenStudy」注8)である。
リエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下,C Cラ
イセンス)である。C Cライセンスはインターネット
時代のための新しい著作権ルールで,作品を公開す
2.
MOOCによるオープンエデュケーショ
ン「発見」
る作者がある条件の下,自分の作品を自由に使うこと
を承認する意思表示をするためのツールである注2)。
オープンエデュケーションの活動は2000年代前半
O E RにC Cライセンスを付与することで,作者の権利
から地道な活動として脈々と続いてきたが,2011
を守りながらOERの共有と再利用を促すことが可能と
年を境に起こった「MOOC(Massive Open Online
なる。
C o u r s e:大規模公開オンライン講座)ブーム」によ
3つ目のオープン「シェアリング」とは,オープン
り世間の衆目を集めることとなった。誰でも受講で
アクセスとオープンライセンスを前提として,誰も
きるオンライン講座であるMOOCは,オープンエデュ
が教材を制作し,制作したOERをインターネット上で
ケーションのさまざまな活動によって得られた知恵
図1 OpenStax CNX
4
オープンエデュケーション
と経験を生かしている。登録すれば誰でも受講でき
る教育サービスであることから,M O O Cは先に触れ
3.
オープンエデュケーションが促すもの
たオープンエデュケーションがもつ「オープン」の
オープンエデュケーションの活動は,世界的な広
要素のうち,オープン「アクセス」の要素を満たし
がりを見せている。その背景には,オープンエデュ
ている。しかしながら,一部に例外はあるものの多
ケーションが教育機会の拡大や教育格差の是正に寄
くのM O O Cでは教材にC Cライセンスなどのオープ
与しうるという理念的な側面と,教材や教育環境を
ンなライセンスは付与されない。またM O O Cの教材
オープンにすることが教育機関の広報として有益で
は一般的にMOOCを提供するCoursera(コーセラ)
,
あるという実利的な側面がある。インターネット上
edX(エデックス)などのサービス内での利用に限定
でさまざまなOERが公開され,OERを共有するWebサ
されているため,利用者が新しい教材を追加したり,
イトやコミュニティーが生まれることで,教科書を
今ある教材を再利用するようなオープンシェアリン
買い学校や大学に通わずとも誰でも無料で自由に学
グを行うこともできない。この意味でM O O Cは限定
べるようになる。また,OERをデジタル教材として教
的なオープンエデュケーションだともいえる。一方
育現場に取り入れることで,教育効果を高めること
で,M O O CはこれまでO E RやO C Wが果たせなかった
も可能だろう。
オープンエデュケーションの急速な認知を促した。
これらのようなオープンエデュケーションが促す
その理由には,M O O Cが「eラーニング」という名
効果は,大きく分けて「教材蓄積」
「教育改善」
「生
前で定着しつつあったオンライン教育の新たな可能
涯学習」の3つに整理できる。
「教材蓄積」とは,C C
性を世間に示したことがある。世界のトップ大学が
ライセンスのようなオープンなライセンスが付与さ
M O O Cで講座を公開したことで,大学に入学せずと
れたO E Rが数多く提供され,さまざまな教育者や学
もさまざまな学術分野についての知識を,まるで大
習者によって制作・利用・再利用されることであり,
学講義を受けるような形で学べるようになった。ま
多様な教材がインターネット上に蓄積されることで
た,M O O Cが教育の「イノベーション」として衆目
ある。OER Commonsや大学によるOCWサイトはそ
を集める中で,M O O Cの普及が今ある高等教育の仕
の代表例である。「教育改善」とは,このようなO E R
組みを崩壊させるというまことしやかな言説が広ま
を自学自習に用い学校や大学などの教育現場で教材
り,関係者の危機感を募らせたことがある 。さら
として利用することで,より効果的な教育を実現す
にM O O Cの受講状況の調査から,講座の修了率が平
ることである。大学講義の予習教材としてO E Rを用
均して1割に満たないことが明らかとなり,インター
注9)のような教育
い,反転授業(Flipped Classroom)
ネットで自由に学ぶことの限界も示した。
手法と組み合わせ,学生の理解度を高めることがそ
3)
いずれにせよM O O Cはオープンエデュケーション
の一例である。また「生涯学習」とは,OERを用いて
が世間に知られる起爆剤の役目を果たし,インター
インターネットを介した生涯学習の機会を提供する
ネット上の「オープンな学習環境」がもつ可能性と
ことである。たとえば高校や大学を卒業した後,ま
課題を示すこととなった。これ自体は歓迎すべきこ
た経済的・地理的要因などさまざまな難しい事情を
とではあるが,教育をオープンにすることによる有
抱えて学校や大学に通うことができないとしても,
意義かつ持続的な「教育イノベーション」を創出す
さまざまな学術分野の学習や専門家教育を無料で受
るには,一過性のM O O Cブームに乗じるだけではな
けられれば,知的好奇心を満たしつつ就業につなが
く,オープンエデュケーションが教育を変えるどの
る専門知識を得ることができる。M O O Cはその好例
ような可能性をもつのか,冷静な議論が必要である。
だろう。
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
5
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
4.
April
オープンエデュケーションが変える高
等教育と生涯学習
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
ものが自ら学ぶ」学習者を想定していたが,今日の
大学は体系化・組織化されたカリキュラムに基づい
て,密度の濃い隙間のない教育空間を作り上げるこ
オープンエデュケーションの普及は,高等教育と
とを目指している4)。大学が輩出する学生が身につけ
生涯学習のあり方を今後変化させる可能性を有して
る知識や技術の獲得を保証するためには,学習成果
いる。
やカリキュラムを絶え間なく評価し質向上を図るこ
とが不可欠である。加えて今日の大学は高校を卒業
4.1 高等教育における可能性
まず高等教育については,
以下の3つが挙げられる。
(1)教育現場でのMOOC活用
欧米諸国においてはC o u r s e r aやU d a c i t y,e d Xや
ながら学ぶ多くの非伝統的な学習者(non-traditional
student)に対して広く門戸を開いている。このよう
な学生は通常の学生と比べ,修了率が低いことが明
F u t u r e L e a r nなど,教育ベンチャー企業や大学コン
らかになっている5)。大学は教育の質保証だけでなく,
ソーシアムによるトップ大学のM O O Cが数多く開講
さまざまな学生の状況に対応した学習環境を提供す
され,すでに研究総合大学が学部教育で提供してい
る体制を整えなくてはならない。
る学問分野は,ほぼ網羅されつつある。わが国におい
このとき,オンライン教育を大学教育に導入する
ても2013年にMOOC普及を推進する協議会「JMOOC
ことが意味をもつ。教育にテクノロジーを効果的に
(日本オープンオンライン教育推進協議会)
」が産学
導入し,教育の質を担保しながらいつでもどこでも
連合による組織として設立され,2014年から日本語
学べる環境を提供するデジタルラーニング(D i g i t a l
によるM O O Cが開講されている。大学はM O O Cを一
L e a r n i n g)の導入は,このような学習環境を実現す
般向けのオンライン講座だけではなく,学内教育用
る一助となる。学生の既習内容や理解度に応じて適
の教材にも転用できる。たとえば講義においての予
切な教材やカリキュラムを提供するアダプティブ
習教材や補習教材としてM O O Cを用いて,オンライ
ラーニング(Adaptive Learning)はその一例である。
ンでの学習と教室での対面授業を組み合わせたブレ
この手法を導入するためには,オンライン学習で蓄
ンド型学習(Blended Learning)を導入することがで
積される学習履歴データを活用したラーニングアナ
きる。実際に多くの大学ではM O O Cを用いた反転授
リティクス(Learning Analytics)が不可欠である。
業が実施されている。
学生の限られた学習時間と大学の限られた予算や人
加えて,M O O Cを今ある大学の授業に組み入れる
だけでなく,M O O Cを用いた全く新しい教育プログ
的資源を踏まえれば,大学がデジタルラーニングを
教育へ積極的に導入することは理にかなっている。
ラムを立ち上げる取り組みもある。米国アリゾナ州
海外におけるこの分野での注目すべき活動は,学
立大学ではedXで開講するMOOCを使った初年次教育
習履歴データのオープン化である。米国カーネギー
を実施し,イリノイ州立大学ではC o u r s e r aで開講す
メロン大学やM I Tなどの大学は,N S F(米国国立科学
るM O O Cを使ったM B Aコースを開設している。英語
財団)の補助を受けてLearnSphere(図2)というプ
以外の教材の数はまだ限られるものの,ここ数年で
ロジェクトを推進している注10)。LearnSphereでは各
急速に増えたM O O Cを活用し,高等教育の新しい姿
大学の学習履歴データをO E RやM O O Cなどの教材と
を模索する動きは今後も続くであろう。
共に公開するリポジトリを構築し,研究知見だけで
(2)デジタルラーニングの普及
6
したての若者だけでなく,働きながら,家族を養い
なくデータそのものを共有してデジタルラーニング
国内外において高等教育は,教育の質向上に向け
の研究を加速させようとする取り組みであり,オー
た教育改革が,国・地域や企業を含めた社会全体か
プンサイエンスに近いアプローチである。このよう
ら強く求められている。かつての大学は「学びたい
な教育分野におけるオープンデータの推進は,ラー
オープンエデュケーション
図2 LearnSphere (https://learnsphere.org)
ニングアナリティクス研究の一助となるだろう。一
ト工科大学など欧米の6大学はM O O Cを用いた単位互
方で,学習履歴データの利活用にあたっては,学習
換システムを計画している6)。わが国においても北海
者がデータの利用方法に同意し,コントロール権を
道地区の国立大学7校の間で,O E Rを共同制作し,反
保持する権利の確保が必須である。実際に米国では
転授業向けの教材として用いながら,遠隔教育を行っ
公立学校で学習履歴データを用いるW e bサービス
ている7)。OERとMOOCがオンライン教育と対面教育
が,保護者の懸念により中止となる事例も見られる。
の双方にもたらす効果を踏まえれば,今後も高等教
M O O Cで得られる学習履歴データの活用可能性にの
育機関におけるオープンエデュケーションの普及は
み注目するのではなく,学習者や教育者の利便性と
進展すると考えられる。
図2
プライバシーのバランスを取ることが求められる。
(3)大学間教育連携の促進
大学教育でのM O O C活用が進むにしたがって,今
後大学間での教材の共有・流通が進むと考えられる。
4.2 生涯学習における可能性
生涯学習については,以下の3つが挙げられる。
(1)生涯学習の促進
実際にCourseraやedXは,ある大学の作ったMOOCを
CourseraやedX,またJMOOCがいま実現している
他の大学へライセンス販売することで収益を上げて
ことは,高等教育レベルのコンテンツ公開だけでな
いる。また,
各大学で共通して教える科目がある場合,
く,インターネットを介した生涯学習の提供である。
教材を共同制作し利用することは,決して安くはない
M O O Cの性質上,インターネットに接続する環境さ
教材開発にかかる費用を抑えることにつながる。た
えあれば誰しもM O O Cで学び,学習者同士でコミュ
とえばスタンフォード大学の運営するM O O Cプラッ
ニケーションをして刺激を受け合いながら学ぶこと
トフォームStanford Onlineでは,ブリティッシュコ
ができる。また大学のM O O Cを受講し,講義の内容
ロンビア大学など複数の大学でM O O Cを共同制作し,
に興味をもった学習者が再び大学で学ぶことも考え
各校の正規授業で用いている注11)。オランダのデルフ
られる。M O O Cは既存の教育制度と生涯学習の間を
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
7
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
学習者が「往復」する架け橋の役割をもちうる。情
れるような相互編集がなされる相対的・批判的なも
報化の進んだ知識基盤社会において必須である「開
のとなっている。このような社会の中では,教育制
放制教育注12)」の考え方に基づいた生涯学習を実現す
度の枠を超えて社会の中で共同的・持続的に知識を
る一手法にもなりうる。
構築し伝達することが必要である。
(2)人材育成手法の変化
O E Rを用いた学習コミュニティーはこのような学
O E Rの普及は専門家教育の手法や枠組みを変える
習環境を創出しうる。MOOCも当初,Courseraのよう
可能性もある。たとえば医療看護の分野では,ジェ
な大学教育を模したシステムではなく,より共同的
ネラリストとしてキャリアを築いたり,ジェネラリ
な知識構築を狙った共同体であった。最初のM O O C
ストがスペシャリストを目指したり,また潜在看護
である “Connectivism and Connective Knowledge
師が再び職を得たりと,同じ職種の中でもさまざま
(CCK)
” では,学習者はホームページ上に用意された
なキャリア段階の移行がある。こうした多様なニー
OERを使い,それぞれが学んだ内容をブログやTwitter
ズに応じてO E Rを組み合わせたオンライン教育の機
で相互に伝え合いながら協同的に学んだ。OERを使っ
会を提供し,能力を評価して認定証を与えれば,専
た学習コミュニティーは,かつてイリッチ8) が唱え
門家それぞれにとって望ましいキャリアを築くきっ
た技能訓練と人間形成を分離せず,人々が学校制度
かけをつくることが可能になるだろう。
にとらわれず臨機応変に学ぶ「教育のための網状組
しかしながら,医療看護など特定の分野に限った
としても,その分野をすべて網羅するOERを制作する
織」をコンピューターとインターネットが実現した
ものともいえる。
ことは容易でない。さまざまなキャリア段階に対応
またこのような学習コミュニティーでは,学習者
するOERを機関を越えて開発し,専門家教育や学び直
が学んだ内容を基にOERを制作し,OERを使って教え
しに寄与する学習環境を整えることが望ましい。ま
る側に回ることが期待される。教えることは自らが
ずは現場のニーズが高く,確実に教えるべき内容か
学ぶための近道である。OERの制作は学んだ知識を基
ら機関をまたいでOERを開発することが,普及への近
に実際に手を動かしながら学ぶ方法であり,誰しも
道となるだろう。標準化できる部分はO E Rを活用し,
が「作り手」となることで知識を伝播させるメイカー
各機関で独自の教育内容や実技は対面教育で充実さ
ズムーブメントと通じるアイデアである。教育者と
せる。医療看護の分野に限らず,教育現場の実情に
学習者が入れ替わり続けるフラットな関係性は,あ
応じたブレンド型の教育を展開することが,専門職
らゆる分野において知識が複雑化した現代社会にお
の知識や技能を高めることにつながるだろう。
いて,知識を継承してゆくために効果的な方法であ
でん ぱ
(3)現代社会にふさわしい学習コミュニティーの創出
る。オープンエデュケーションは,教育制度を超え
現代社会では社会の中でやり取りされる情報量が
て生涯学び続けることが不可欠である現代社会に相
爆発的に増大し,あらゆる学術分野において知識が
複雑化している。どの分野においても専門家は,学
校や大学で一時的に知識や技能を習得するだけでな
く,職に就いた後も学び続け専門職としての能力を
8
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
性のよい教育のあり方だといえる。
5.
まとめ
更新してゆく必要がある。自然科学など,新しい現
オープンエデュケーションは2000年代前半におけ
象の発見により理論の修正が常に行われ,知識の更
る実験的な模索期を経て,現在ではさまざまな教育
新がたびたび行われる分野も多い。このような知識
場面に用いられる普及期に入っている。米国では,
を広めるとき,知識の内容や体系が頻繁に変化する
オープンエデュケーションが連邦政府レベルで教師
ため,教える側が教材を常に更新する必要に迫られ
や生徒を支援する活動として推進されている9)。オー
る。また,現代社会における知識はWikipediaに見ら
プンエデュケーションの普及には,O E Rに不可欠な
オープンエデュケーション
オープンライセンスを支えるための著作権法整備と
ケーションの活動の普及は国内外における高等教育
活動への資金援助が不可欠である。大規模な寄付財
ならびに生涯学習が多様化し質を向上させるための
団による支援が期待できないわが国においては,政
効果的な触媒である。一過性のブームに踊らされる
府や自治体による支援を考えざるをえない。オープ
のではなく,教育機会の均等化と教育効果の向上の
ンエデュケーションが国や地域に与える中長期的な
ため,オープンエデュケーションを意義ある形で普
効果を踏まえ,これらの活動を支える個人や組織へ
及してゆくことが,今後ますます求められる。
の支援が強く求められる。
インターネットが社会におけるあたりまえのイン
フラとなっている現代社会において,オンライン教
育の重要性は高まる一方である。知識基盤社会にふ
さわしい高等教育と高度な人材育成に向けて,オン
ライン教育は「教育イノベーション」の実現に不可
欠な要素である。OERやMOOCの活用,オープンエデュ
重田 勝介(しげた かつすけ) shige
iic.hokudai.ac.jp
ORCID: http://orcid.org/0000-0003-2372-5840
北海道大学准教授。大阪大学卒(博士 人間科学)。東京大学助教,
U Cバークレー客員研究員を経て現職。専門分野は教育工学,オープ
ンエデュケーション。著書に『オープンエデュケーション』(東京電
機大学出版局),
『ネットで学ぶ世界の大学 MOOC入門』
(実業之日本社)
など。
本文の注
注1)
日本学術振興会. 科学研究費助成事業. オープンアクセス:https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/08_
openaccess/index.html
注2)
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン. クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは:http://creativecommons.
jp/licenses/
注3)
OER Commons: https://www.oercommons.org/
注4)
代表的なOCWとしてMIT OpenCourseWare(http://ocw.mit.edu/)がある。
注5)
OpenStax CNX: https://legacy.cnx.org/
注6)
iTunes U. Apple(日本):http://www.apple.com/jp/education/ipad/itunes-u/
注7)
Khan Academy: https://khanacademy.org/
注8)
OpenStudy: http://openstudy.com/
注9)
重田勝介. 反転授業:ICTによる教育改革の進展. 情報管理. 2014, vol. 56, no. 10, p. 677-684. http://doi.org/10.1241/
johokanri.56.677
注10) LearnSphere: http://learnsphere.org/
注11) Stanford Online (2015) Changing the Global Course of Learning: https://lagunita.stanford.edu/courses/Education/
OpenKnowledge/Fall2014/about
注12) 教育学者である慶應義塾大学名誉教授・村井実氏によって提唱された教育の仕組みのこと。開放制教育の体制(開
放制体制)の特徴について同氏は以下のように整理している。1)すべての人々の生活の中に教育の機会がある 2)学校で学習を欲する人は自由にそこへ行くことができる 3)人々の生活の中での学習と学校での学習との間に
は,自由な交流と交換の可能性がある 4)人々は,生涯にわたって自由な学習の機会をもち,社会の活動力はそ
れだけ十分に発揮される。
(村井実『教育の再興』講談社,1975年)
参考文献
1) 飯吉透, 梅田望夫. ウェブで学ぶ:オープンエデュケーションと知の革命. 筑摩書房, 2010, 270p.
2) 重田勝介. オープンエデュケーション:知の開放は大学教育に何をもたらすか. 東京電機大学出版局, 2014, 199p.
3) Cooke, Deborah. "Massive Disruption: MOOCs in Higher Education". The EvoLLLution. 2013-06-18. http://evolllution.
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情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
April
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
com/revenue-streams/distance_online_learning/massive-disruption-moocs-higher-education/, (accessed 2016-0111).
4) 広田照幸ほか. “教育する大学:何が求められているのか”. シリーズ大学5. 広田照幸, 吉田文, 小林傳司, 上山隆大, 濱中
淳子編. 岩波書店, 2013, p. 5.
5) Complete College America. "Time is the enemy". http://www.completecollege.org/docs/Time_Is_the_Enemy.pdf,
(accessed 2016-01-11).
6) Grove, Jack. "Moocs: international credit transfer system edges closer". Times Higher Education (THE), 2016-01-04.
https://www.timeshighereducation.com/news/moocs-international-credit-transfer-system-edges-closer, (accessed
2016-01-11).
7) 重田勝介ほか. M O O Cプラットフォームを利用した大学間連携教育と反転授業の導入:北海道内国立大学教養教育
連携事業の事例から. デジタルプラクティス, 2015, vol. 6, no. 2, p. 89–96.
8) イリッチ, イヴァン著; 東洋, 小澤周三訳. 脱学校の社会. 東京創元社, 1977, 232p.
9) Garg, Kumar; Chien, Colleen V. "Promoting Open Education to Help Teachers and Students Around the World".
White House, 2014-09-26. https://www.whitehouse.gov/blog/2014/09/26/promoting-open-education-helpteachers-and-students-around-world, (accessed 2016-01-11).
Author Abstract
Open Education is a movement to disseminate teaching and learning beyond institution including universities and
schools. It enables to store open learning materials, promote educational improvement and spread lifelong learning. Open
Education will change higher education and lifelong learning to leverage online learning. Open Education is essential for
innovation of education to realize knowledge-based society.
Key words
Open Education, OER, MOOC, higher education, lifelong learning, human resource development
10
トレンドを知るためのビジネス情報収集手法
トレンドを知るためのビジネス情報
収集手法
情報プロフェッショナルが磨いておきたい選択眼とは
The business information collection method to know a trend
The requirement for enhancing the ability of the selection of good quality information as a business
information specialist
菊池 健司 1
KIKUCHI Kenji1
1 株式会社日本能率協会総合研究所
1 JMA Research Institute Inc.
本稿では,全般的なトレンド情報収集の考え方を整理し,代表的な参考情報源(Web サイト・文献)を紹介している。
トレンド情報には主に以下の 4 種類が存在する。
(1)市場トレンド情報,
(2)顧客トレンド情報,
(3)技術・研究トレ
ンド情報,
(4)世の中トレンド情報。特に(4)の世の中トレンド情報を意識してウオッチしておくことが重要である。
情報提供・管理ビジネスに携わる関係者は,情報選別の「選択眼」を磨く意識を常にもっておきたい。そして選択眼
を磨くには,まずは多くの情報源に当たり,その特性を理解しておく必要がある。
トレンド情報,ビジネストレンド,情報収集,市場情報,顧客情報,技術情報
原稿受理(2016-02-03)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 11-18. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.11
1.
はじめに
方を皆さまにお伝えしたいと思う。
「トレンド」を知るためのビジネス情報収集手法は,
情報を扱う多くの関係者にとって,非常に関心が高
いテーマだと拝察される。
2.
トレンド情報を整理する
「トレンド情報」といっても,その種類は実に多種
他社に先んじていかにしてトレンドを読み解くの
多様である。人によってその解釈もさまざまであろ
か,そもそもトレンドというのはどのように把握し
う。時間軸でみた場合,
「最新」
「時系列」
「将来」の
ていけばいいのか,日々,悩んでいるビジネスパー
いずれのとらえ方もある。
ソンは数多い。トレンド把握が重要であることに異
を唱える方はおそらくいないであろう。
本稿では「トレンド情報」を以下4つの分類で整理
して考えることとする。
仕事柄,日々多くのビジネス情報に触れている(触
(1)市場トレンド情報
れざるをえない)こともあり,よく顧客から「トレ
(2)顧客トレンド情報
ンド情報を一体どのように集めているのか」「どのよ
(3)技術・研究トレンド情報
うに多くの情報を咀嚼しているのか」と尋ねられる。
(4)世の中トレンド情報
そ しゃく
おそらく,
「これぞ正解」という明快な答えは存在
しないのだが,よい機会でもあるので,トレンド情
いずれも読んで字のごとくではあるが,一応紹介
しておく。
報をいかに集めて咀嚼していくのか,私なりの考え
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JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
(1)市場トレンド情報
映しているから」「これからはこういう時代になる,
特定製品・サービス・業界全体の直近の市場トレ
そうなるとわが社はこういう取り組みをしていくべ
ンド情報(市場規模や注目企業,新製品等の情報)
きだ」といった要するに「時代感を把握する」こと
が主体である。今後特に重視すべきは,市場予測(定
が重要なのだが,この発想は現業に埋没してしまう
量・定性両方)情報と用途先情報(生産財・中間財
と,ついつい忘れてしまう。
なら用途先の変化,消費財なら利用者の変化)であ
ることを意識しておきたい。
民間調査会社(富士経済,矢野経済研究所他)資
料や当該業界の専門誌等で定点観測されるケースが
多い。
(2)顧客トレンド情報
・BtoC(Business to Consumer,企業と消費者間取
り引き):関連ビジネスに携わる方は誰もが気にし
ているのがこの情報である。生活者のライフスタ
以上,4分野を紹介したが,ではこうした情報はど
のように集めていくのがよいのであろうか。トレン
ド情報収集の進め方について,次章で触れることと
する。
3.
トレンド情報収集の進め方
「視野を広げる」「広げたうえで発想する」という
考え方は非常に重要である。
イルや,何を欲しているのかを把握するための情
ここまでの流れでお気付きの方も多いと思うが,
報が中心である。典型的な情報源は,アンケート
私はまずは業種業界を問わず,
「世の中トレンド情報」
調査結果やトレンド情報誌(『日経トレンディ』
(日
を収集する癖をつけるべきだと考える。
経BP社)や『DIME』
(小学館)等)が挙げられる。
・BtoB(Business to Business,企業間取引):企
そのうえで,各所属機関の実情に応じたトレンド
情報を収集していくことをお勧めする。
業にとっても無関係ではない。取引先の情報(特
情報収集の流れとしては,
以下のような順番になる。
に業界の変化の流れ)は大きな顧客トレンド情報
1)BtoC
であり,注視していないと戦略を見誤る可能性が
ある。
(3)技術・研究トレンド情報
〈
(4)世の中トレンド〉→〈
(1)市場トレンド〉→〈
(2)
顧客
(生活者)
トレンド〉→
〈
(3)技術・研究トレンド〉
2)BtoB
本誌読者の皆さまはこの情報をみている方が多い
〈
(4)世の中トレンド〉→〈
(1)市場トレンド〉→〈
(2)
だろう。最新技術や最新研究開発情報はいつの時代
顧客(取引先)トレンド〉→〈
(3)技術・研究トレンド〉
にもニーズが高い。商用データベースやW e bサイト
まずは世の中全体の流れを大きく把握したうえで,
などから有益な情報を収集できるジャンルの筆頭格
市場で今何が起きているのかを確認・検証する,そ
である。魅力的な専門誌も多い。この分野は,将来
して顧客の状況を確認する。ここまでで「今起こっ
予測レポートを併せてみておくことが,1つの肝であ
ていること(これまでに起こったこと)」をよく整理
る。官公庁・業界団体による各種「技術ロードマップ」
し,
「これから何が起こるのか」を発想していく。
や「メガトレンド」シリーズ(日経B P社)は業界を
問わず,知っておきたい情報源である。
(4)世の中トレンド情報
重要だが見落とされがちなのがこの情報である。
「過去・現在」を整理し,
「将来」を見据えたうえで,
「技術・研究トレンド情報」を収集し,深掘りして確
認していけば,間違いなく発想領域の広がりを感じ
ていただけるであろう。
業績好調な企業や新規事業・新商品開発に秀でてい
ここで簡単に情報収集手法の基本について触れて
る企業の共通項の1つが,「世の中」全体の流れがよ
おく。ビジネス情報を探す際の基本プロセスは今も
くみえていて,視野が広いことが挙げられる。
昔もそんなに大きく変化していない,というのが私
「今これが売れているのは,こういう時代背景を反
12
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April
の考えである。
トレンドを知るためのビジネス情報収集手法
意外に知られていない情報収集のセオリー
探す順番とは
Web情報
文献情報
Conclusion
 官公庁/自治体
 業界団体
 シンクタンク/金融機関
 民間調査会社
 有力全国紙・ビジネス誌
 業界専門誌紙
 官公庁/自治体URL
 業界団体URL
 シンクタンク/金融機関URL
 民間調査会社URL
 有力メディアURL
 業界専門誌紙URL
 ビジネス情報ポータル
① 文献とWeb情報は補完関係
② 文献でしか得られない情報・Webで得た方が効果的な情報,
両方存在する
図1 知っておきたい情報を探す順番
Page 11
私自身はどんな情報を収集する際にも,この順番
を崩すことはまずない(図1)。
4.
トレンド情報収集~虎の巻
(1)官公庁/自治体→(2)業界団体→(3)シンクタ
虎の巻,という少し懐かしいコトバを使ってみた
ンク/金融機関→(4)民間調査会社→(5)有力全国紙・
(若い読者はご存じであろうか)。ここでは,トレン
ビジネス誌,有力メディア→(6)業界専門誌紙
「これが王道」と,もうかれこれ20年以上にわたり,
各所で訴え続けてきた。ビジネス調査する際には,
ド情報収集において,もっておきたい考え方をいく
つか示しておこう。
1)追いかけるのではなく,
「先回りする発想」をもつ
この順番で肉付けしていくことが非常に有効だと思
おそらくトレンドを追いかけている間は,いつま
う。あくまでも肉付けの順番であり,いずれの情報
でたっても時代の後追いである。前にも述べたが,
ソースにも特徴(表1)があり,いずれも有益である
今起こっている事象を参考に,今後はこういう時代
ことを申し添えておく。
になっていくということを常に頭の中で発想する癖
をつけるべきである。これはトレーニング次第で相
当強化できる。中期経営計画立案,中期研究テーマ
検討,もちろん新規事業発想にも必ず役に立つのが
表1 主なビジネス情報源の特徴
情報源
官公庁 / 自治体
業界団体
シンクタンク / 金融機関
民間調査会社
有力全国紙 ・ ビジネス誌
業界専門誌紙
特徴
調査の規模が大きく,信頼性・客観性が高い。国内・海外を問わず,国の成長戦略の確認は必須である。
トレンド情報の視点からは, 将来ビジョンや技術ロードマップは必見。 新たな委員会や審議会が立ち上
がった際にはぜひ注目しておきたい。
調査したい業界に業界団体が存在するかどうかは最初にみておきたい。 業界団体のデータが業界スタ
ンダードになるケースもみうけられる。 業界ビジョン報告書を発刊している場合はぜひ入手したいところ。
アナリストレポートを筆頭に特定の業界や企業について, コンパクトにまとめられている。 Web サイトで
入手できるレポートも増加傾向。 日本企業は金融等特定の業界を除くと, 海外企業に比べ, 利用が少
ない印象があり, 実にもったいない。
富士経済, 矢野経済研究所等の大手をはじめ, 特定業界の専門機関もさまざま存在する。 海外にも
多数存在。 日本国内では, 10 万円前後の文献が中心。 調査会社の刊行資料から時代のトレンドを読
み取れる。
メジャーな新聞や雑誌において, どのような特集が取り上げられているのかは把握しておきたい。 特に
企業特集は深読みしておきたい (なぜこの企業が特集されているのか, 注目される理由は, といった
視点)。
速報性が高く, 業界誌紙にしか載らない, ややマニアックな情報が得られることが大きな特徴。 当該
業界のメーカー ・ 流通業とのつながりが深いため, 製品情報や参入企業のコメントが豊富。 年間契約
を前提としたものも多い。
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
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情報管理
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vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
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April
「先回り」発想である。
4)既存のトレンド予測情報を参照,「その後」を検
2)なぜ「そうなっているのか」自問自答する
国内・海外問わず,世の中では不思議な事象が多
証する
官公庁や業界団体,そして調査会社等が発表する
く見うけられる。たとえば,欧米が先行する形で,
各種将来ビジョンによる未来予測,あるいは年末年
その音質のよさが再評価され,アナログレコードの
始発刊のトレンド誌や業界誌紙でよくみられる「20XX
人気が復活している。この世界的なアナログレコー
年のキーワード」のような特集記事。
ド大復活を予見した人は一体どれくらいいるだろう
こうした予測は当然当たることもあるが,外れる
か。音楽配信全盛の時代にアナログレコードがはや
こともある(将来予測自体が難しいのだから,ある
るのはやはり不思議な事象に私には映る。また,デ
意味当然である)。その時点で次年度以降の戦略立案
ジタル化が当たり前の世の中で,なぜアナログ製品
のために参考にする人は多いと思うが,たとえば1年
である高級紙製品や文具に顧客は引かれるのか。
後に実際どうなったかを検証する人はあまりいない
世の中のトレンドがデジタル一辺倒であれば,ア
だろう。
ナログの世界でヒット商品が生まれる,なぜかひと
「この予測はよいポイントをついている」「この資
手間かけた商材が売れる,といった事象は普通に起
料の内容は自分の発想に近い」といった「頼りになる」
こっている。こうした事象を説明するには,世の流
情報源を探すという観点からも,時には検証してみ
れや人間の心理を深読みしないと背景がみえてこな
るとよいであろう。
い。今起きている事象から世の中を読み解き,そこ
5)
「定点観測」する情報源をもつ
から自分のビジネス領域に与える影響や自社の事業
文献でもW e bサイトでも構わないが,定期的に見
展開につながるヒントを会得できるかどうか…,非
続けるトレンド情報源を見つける,自分(自社)に
常に重要な視点である。
新たな気付きや示唆を与えてくれる,相棒のような
3)自分で「トレンドを予測」してみる
情報源を見つけてみてはいかがであろうか。
個人的に続けていて有効だと感じていることの1つ
現業関連で読んでいる専門誌やW e bサイト以外で
が,自分でトレンドを予測する,という行為である。
探すことが重要である。後ほど,お勧め情報源を紹
「来年はこういうものが流 行 るのではないか」「この
介するので,皆さまの琴線に触れるようであれば,
は
や
ビジネスが今後3年以内にブレークしそうだ」「鍵と
ぜひ定点観測をしていただきたい。
なる技術はおそらくこれとこれになる」といったこ
6)
「過去のトレンド」をみる
とを定期的に予測することはビジネス展開において
もよいトレーニングになる。
私の場合,仕事柄,こうした予測に加えて,きっ
と来年は時代がこう変化するので,こういう調査案
「情報は最新でなければ意味がない」「とにかく最
新情報を探せ」といった声を本当によく耳にする。
確かに最新情報は重要だが,過去の情報も相当重要
である。
件がかなり増加するに違いない,と予測し,近年は(た
経験上申しあげておくと,情報収集活動に秀でた
またまかもしれないが)そんなに外れることがなく
ビジネスパーソンの多くは,過去の統計や年鑑類,
なってきた。
情報を大切にしている(ちなみに過去の情報を廃棄
ポイントは自分の業界のみにとらわれず,広く世の
ふ かん
してしまい,後悔している企業を多く知っている)
。
中を俯 瞰 しながら(違う業界や顧客の業界などを意
今注目されている技術があったとすると,「もとも
識しながら)発想してみることだろう。企業研修等
とそれはどういう社会背景や期待を背負って登場し
でやってみると面白いと思うが,いかがであろうか。
て来たのか」を知っておくと,他社に差をつけるこ
とができる。
たとえば「平成27年版情報通信白書」(総務省)に
14
トレンドを知るためのビジネス情報収集手法
掲載されている「コネクテッドカー(I C T端末として
見本市・展示会なども「観察」視点を与えてくれる。
の機能を有する自動車)」は,その将来性が高く期待
「どういう企業が出展しているのか」
「この企業は昨
されているが,実は約20年前の業界誌ですでに特集
年は確か出展していなかった」「あのブースはなぜあ
記事が組まれていたことはあまり知られていない。
んなに混んでいるのだろう(すいているのだろう)
」
「過去30年未来20年」という私の造語があるのだが,
極論すると,延べ50年程度のスパンでビジネスをみ
…。その「場」に身を置くことで初めて得られるト
レンド情報もある。
なければ,人と違う発想はなかなかもつことができ
ないのではないか。
ビジネスのヒントはどこに転がっているかわから
ない。街の息吹から景気回復や景気減速も実は読み
過去の情報をどうか侮るなかれ。
取れる。「実際に見て自分で感じる」という行為から
得られる「情報」は貴重なはずである。
7)
「観察」の重要性
す で に「 ブ ル ー ボ ト ル コ ー ヒ ー( 東 京・ 清 澄 白
河,2015年2月オープン)」(https://bluebottlecoffee.
j p / c a f e s)や,「シェイクシャック(東京・外苑前,
5.
2015年11月オープン)」(http://www.shakeshack.jp)
トレンド情報収集の参考情報源
トレンド情報収集において大事な視点は,前項で
の店舗に実際に出向いた方はどれくらいいるだろう
も述べた,見続けるこだわり情報源をもつこと,そ
か。前者はコーヒー界のApple,後者はマクドナルド
して,あまり人が見ていない(とおぼしき)情報源
キラーと呼ばれるハンバーガーショップであり,い
を知る,の2点では,と考えている。
ずれも日本初上陸である。
トレンド情報を収集できる情報源は数多いが,ま
T Vや新聞,雑誌等で知っているという方もいると
ずは知っておきたい情報源(W e bサイト)を下記に
思うが,トレンドを感じるにはこうした店舗に実際
いくつか紹介しておく。参考になる書籍も多々ある
に足を運び,その息吹を感じてしまうのが一番早い。
ので,表2にまとめて整理しておく。
ビジネスの視点でみると,こうした海外の注目店舗
が「日本参入を果たした背景は」
「顧客層は」
「勝算は」
5.1 官公庁・業界団体関連
といったことが頭に浮かぶ。繰り返しになるが,人
官公庁や業界団体の作成する報告書は,トレンド
が多く集まる場所や話題の場所には,可能な範囲で
情報入手における基本である。どのような情報があ
出向いて観察してみることをお勧めする。
るかをしっかりと把握し,事業展開に生かしていき
表2 トレンドを考える上で見ておきたい書籍 (一例)
書籍名
ビジネスの先が読めない時代に : 自分の頭で判断する
技術
ビジネスモデル 2025
イーロン ・ マスク : 未来を創る男
未来に先回りする思考法
ベンチャーキャピタリストが語る : 着眼の技法
21 世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由
キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる 「超」
マーケティング理論
ゼロ ・ トゥ ・ ワン : 君はゼロから何を生み出せるか
シグナル&ノイズ : 天才データアナリストの 「予測学」
グロースハッカー 第 2 版 : 会社もサービスも劇的に成長
させるものの売り方, つくり方
「捨てない未来」 はこのビジネスから生まれる : 赤字知ら
ずの小さなベンチャー 「日本環境設計」 のすごいしくみ
日経 MJ トレンド情報源
「ポッキー」 はなぜフランス人に愛されるのか? : 海外で
成功するローカライズ ・ マーケティングの秘訣
著者
発行元
発行年
小林 敬幸
KADOKAWA
2015 年
長沼 博之
アシュリー ・ バンス
佐藤 航陽
古我 知史
佐宗 邦威
ソシム
講談社
ディスカヴァー ・ トゥエンティワン
ディスカヴァー ・ トゥエンティワン
クロスメディア ・ パブリッシング
2015 年
2015 年
2015 年
2015 年
2015 年
ジェフリー ・ ムーア
翔泳社
2014 年
ピーター ・ ティール他
ネイト ・ シルバー
NHK 出版
日経 BP 社
2014 年
2013 年
ライアン ・ ホリデイ
日経 BP 社
2015 年
岩元 美智彦
ダイヤモンド社
2015 年
日経 MJ( 流通新聞 ) 編 日本経済新聞出版社
年刊
三田村 蕗子
2015 年
日本実業出版社
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
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情報管理
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2016
vol.59 no.1
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April
たい。
(1)経済産業省委託調査報告書/経済産業省
http://www.meti.go.jp/topic/data/e90622aj.html
経済産業省が民間調査会社等に委託して実施した
「洗練された大人へ国際視点を」をキャッチフレー
ズとしたポータルサイト。国際情勢はもちろん,
海外からみた日本市場の洞察が興味深い。
(3)日本ビジネスプレス
調査報告書の一覧。リンクがあり,報告書の中身
http://jbpress.ismedia.jp
もすぐに確認できる。どのような調査が行われて
海外と日本の地方都市に焦点を当てたニュースサ
いるかを概観するだけでも,「時代のトレンド」が
イトであり,登場当時から注目している。人と違
読み取れる。必見サイトの1つ。
う視点をもちたい方に特にお勧めしておく。会員
(2)特許出願技術動向調査等報告/特許庁
https://www.jpo.go.jp/shiryou/gidou-houkoku.htm
限定記事が見られる有料会員制度もある。
(4)事業構想オンライン
特許出願の状況から今後の注目ビジネスを読み解
http://www.projectdesign.jp
くことができる。個人的には,特に次年度調査予
新規事業人材を育成している事業構想大学院大学
定テーマを1つの指標として常に参考にしている。
によるポータルサイト。新たなビジネスのヒント
(3)景気ウォッチャー調査/内閣府
http://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher/watcher_
menu.html
が学べる注目サイト。『月刊事業構想』(紙媒体)
と併せて見ておきたい。必読情報源の1つ。
(5)トレンド総研
国によるいわゆる街角景気調査である。生活者に
http://www.trendsoken.com/research/
近い位置でビジネスを展開しているさまざまな事
主にライフスタイルを中心としたトレンド情報を
業者の生の声が集められている。代表的な顧客ト
発信している。どのようなアンケート結果が掲載
レンド情報といえよう。世の中を俯瞰するために,
されているのかを見るだけでも「今」を洞察する
BtoBビジネスに携わる方にも見ていただきたい。
視点が磨かれる。
(4)研究開発戦略センター(C R D S)/科学技術振
興機構
http://www.jst.go.jp/crds/index.html
5.3 投資家の視点
ここまでほとんど触れてこなかったが,特に海外
国内・海外の科学技術イノベーションの最新情報
の投資家やスタートアップ企業の動向を知ることで,
を確認できる。特に日本に居ながらにして得られ
今後のビジネス展開の予測に相当役立つことをぜひ
る海外の技術・研究戦略情報は非常に参考になる。
知っておきたい。実はトレンド情報をつかみたいビ
ジネスパーソンにとっては,今最も注目しておきた
5.2 民間機関関連
ご紹介したい情報源は相当数に上るが,トレンド
把握の視点で,特にお勧めできるものは以下である。
(1)不景気.com
(1)TechCrunch Japan
http://jp.techcrunch.com
世界の先端テクノロジーとスタートアップ情報を
http://www.fukeiki.com
ウオッチする際に有効。スタートアップや買収案件
国内外の不景気な情報を集めているポータルサイ
などからトレンドを読み取っていきたい。あくま
ト。不景気トレンドをみることで,今後衰退して
でも一例だが,
「日本のVC(ベンチャーキャピタル)
いく業界を読み解くことができる。これも定期的
が 予 想 す る2016年 の ス タ ー ト ア ッ プ・ ト レ ン ド
に確認されることをお勧めする。
(2)ニュースフィア
http://newsphere.jp
16
い手段かもしれない。
(前編)
」
(http://jp.techcrunch.com/2015/12/29/
v c2016/)は興味深い内容であり,こうした記事は
逃さないようにしたい。
トレンドを知るためのビジネス情報収集手法
(2)Forbes Japan
トレンド情報収集に限った話ではないが,よく言
http://forbesjapan.com
われるのが「情報が多過ぎて,どれを見ればよいの
こちらもTechCrunchと並んで見ておきたいWebサ
か判断が難しい」ということである。本誌の読者も
イトの1つ。海外における起業家情報等を把握でき
社内で「何を見たらよいのか」という相談を受ける
る。海外発のビジネスアイデアやヒントをチェッ
方は多いであろう。
クできる。
(3)Inc.
http://www.inc.com
確かに本稿だけでも,10以上のURLや参考文献を紹
介している。ではどうすればよいのか。
おそらく「選択眼」を磨いていくほかはない。情
私が注目している海外情報源の1つがこのW e bサ
報提供・管理に携わる関係者に今求められているの
イト。特に米国で急成長している未上場企業ラン
は,間違いなく「選択眼」であろう。
キングは要注目(The 2015 Inc. 5000 : http://www.
inc.com/inc5000)。
(4)Small Business Trends
情報量が爆発的に増えていく環境下において,
「探
せるようで探せない」ユーザーが増えていくのがこ
れからの時代である。そうなれば,ユーザーに見る
http://smallbiztrends.com/
べきものを勧めることができることが1つの仕事の価
その名のとおり,海外のスモールビジネストレン
値となる。常に人はアドバイスを求めており,すで
ドが見られるW e bサイト。いつの時代もスモール
にそういう時代に突入しているのだ。
ビジネスやスタートアップにはこれからの成功事
業のヒントがあふれている。
(5)Techmeme
http://www.techmeme.com/
選書,選Webサイト,選データベース……。
「選択眼」を磨くためには,1度は可能性のありそ
うな情報源に触れるしかないのだ。大変ではあるが,
そこに仕事の価値があるなら立ち向かうしかない。
海外のTe c h系トレンド情報のキュレーション(い
もちろん私自身もまだまだ道半ばではあるが,ト
わばまとめ)W e bサイト。新たなテクノロジーの
レンド情報収集をはじめとしたビジネス情報収集の
動きを概観するには,使いやすいと思う。
活動を通じて,これからも「選択眼」を磨いていき
6.
たいと考えている。
おわりに
ここまでトレンド情報の収集の際の視点の置き方
と参考情報源を中心に話を進めてきた。何らかの形
で読者の皆さまのビジネス展開の参考となれば,こ
のうえない喜びである。特に「4. トレンド情報収集
~虎の巻」の項で紹介した法則はいずれも不変的な
内容だと思っている。
菊池 健司(きくち けんじ) kenji_kikuchi
jmar.co.jp
1990年日本能率協会総合研究所入社。メンバー制ビジネス情報提
供機関であるマーケティング・データ・バンク(MDB)において,情
報提供業務に携わる。得意分野は,ビジネストレンド情報や新規事業・
新商品開発における情報収集手法の解説。講師歴は,個別企業,自治
体,図書館向けセミナーをはじめ,日経BP社,東洋経済新報社主催セ
ミナー他多数。
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
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JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
April
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
Author Abstract
In this report, I summarise the information collection methods of general business trend and introduce two major
information sources, namely the internet and paper documents. There are four major information types regarding
business trend as below. (1) Market information, (2) Customer/consumer information, (3) Technology and R&D
information, (4) Whole business trend information. Here I would especially like to emphasize the importance of "(4) Whole
business trend information" and those who want to be a business information specialist should always watch what is
happening in the business scene. For those who provide or manage business information, I strongly recommend to have
the mind of enhancing "the ability of the selection of good quality information". In order to do so, checking the various
information sources and understanding their characteristics are crucial.
Key words
trend information, business trend, information collection, market information, customer information, technical information
18
研究者識別子ORCID
研究者識別子ORCID
活動状況と今後の展望
ORCID
Status updates and future plans
宮入 暢子 1
MIYAIRI Nobuko1
1 ORCID Inc.
1 ORCID Inc.
世界中の研究者への一意の識別子付与を目的とする国際非営利組織 ORCID Inc. が,2012 年 10 月にサービスを開始
してから 3 年余りが経過した。2014 年 11 月にアジアで初の ORCID アウトリーチ・ミーティングが東京で開催され
た直後に 100 万人を超えた ORCID の ID 登録者数は,その後 1 年余りで 180 万人を超え,研究者識別子の業界標準
として急速に浸透している。本稿では,研究者およびメンバー機関にとっての ORCID の意義を再確認するとともに,
2015 年末までの ORCID Inc. の活動状況を概観する。特に,国や地域レベルで導入を進める ORCID コンソーシアム
の動向や,DOI 発行機関による ORCID レジストリの自動アップデートなど,加速度的に進展する ORCID の原動力
となったイニシアチブを紹介し,今後 ORCID の活用を目指す日本の研究機関,出版社,研究助成機関などに参考情
報を提供する。
ORCID,研究者識別子,研究者ID,名寄せ,研究者プロフィール,学術情報流通
原稿受理(2016-01-26)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 19-31. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.19
1.
はじめに
2.
ORCIDとは
世界中の研究者への一意の識別子付与を目的とす
ORCIDとは,Open Researcher and Contributor IDの
る国際非営利組織ORCID(オーキッド)Inc. が,2012
省略形である。文字通り,研究者のみならず学術コ
年10月にサービスを開始してから3年余りが経過し
ミュニケーションにかかわるすべての貢献者の識別
た。O R C I DのI D登録者数はすでに188万人を超え 注
子となるIDを発行するオープンなシステムであり,ま
1)
,研究者識別子の業界標準として急速に浸透して
たそれを運営する組織の名称としても使われる。本稿
いる。研究コミュニティーにおけるO R C I Dへの支持
では,曖昧さを回避するため以下の名称を用いる。
が高まる一方で,一部には消極的反応もみられる。
・ O R C I D識別子:希望する個人に対して発行される
O R C I Dの基本情報についてはすでに複数の文献1)~ 9)
があるが,本稿では,まず研究者および機関メンバー
にとってのORCIDの意義を再確認のうえ,ORCIDの成
16桁の番号
・ O R C I Dレコード:識別子の下に記述およびリンク
される個人にまつわる情報
立経緯から2015年末までの活動状況を概観するとと
・ O R C I Dレジストリ:すべてのO R C I Dレコードの集
もに,世界各地でのO R C I D導入状況について主要な
合体としてのデータセット,またそれに付随する
ものを概説し,今後の活動について展望する。
Web上のサービス
・ ORCID Inc.:ORCIDレジストリと付随するサービス
を運営する組織体
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
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情報管理
JOHO KANRI
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Journal of Information Processing and Management
・ ORCIDメンバー機関:年会費を支払ってORCID Inc.
が提供するAPIサービスを利用する登録機関
3.
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April
アルファベット表記や漢字表記,旧姓など氏名のバ
リエーションも入力可能である。属性情報や業績の
それぞれについて,公開・非公開を選択することが
ORCIDレコードおよびORCIDレジス
トリの目的
でき,非公開を指定しない限り,登録情報はW e b上
で閲覧可能となる注3)。
O R C I Dレコードは一見すると,数ある研究者プロ
O R C I Dレコードは属性情報と業績を含めた研究者
フィールシステムと同様の体裁をとっているため,
の登記情報であり,O R C I Dレジストリは研究者と
自身での管理が面倒だと考える研究者もいる。また,
O R C I Dメンバー機関が相互に協力してデータの品質
他の研究者とのネットワーキングや,ディスカッショ
と信頼性を維持するためのプラットフォームであ
ンフォーラム,ブログなどの機能がないことで,他
る。それらは単なる同姓同名の解決のためのリソー
のシステムより見劣りするかもしれない。しかし,
スにとどまるものではなく,また研究者が個人で管
O R C I Dの目的は,研究者プロフィールを含むあらゆ
理するためだけのプロフィールシステムでもない。
るシステムのソースとなる情報を研究者自身によっ
個人によるO R C I D識別子の取得は無料であり,希
望すれば誰でも登録することができる注2)。取得した
て提供し,これにより研究者の入力負担を軽減する
ことである。
O R C I D識別子は,所属機関や連絡先,あるいは姓の
ORCIDの主な利点は,以下の2点に集約される。
変更などにかかわらず生涯同じものを使うことが原
(1)研究者にとってそもそも自明である自身の姓
則である。
名表記や所属機関,業績などの情報を自らレジス
研 究 者 は 自 身 のO R C I Dレ コ ー ド と し て16桁 の
O R C I D識別子の下に略歴,所属機関や電子メールア
トリに登録し,それらの情報を必要とする第三者
(ORCIDメンバー機関)に対して開示できる。
ドレスといった属性情報や,研究業績・出版物・助
(2)論文の投稿時や助成金の申請時にO R C I D識別子
成金獲得などの業績を記述することができる(図1)。
をあらかじめ提示することにより,出版社や助成
ORCID識別子(16桁)
略歴・自己紹介
別名・名前バリエーション
他IDシステムとのリンク
学歴・職歴・所属
研究業績・出版物・
助成金獲得などの業績
ORCID識別子の下に略歴, 所属機関や電子メールアドレスといった属性情報や, 出版物や助成
金獲得などの業績を記述することができる。
図1 ORCIDレコード例 (http://orcid.org/0000-0002-3229-5662)
20
研究者識別子ORCID
機関がアウトプット情報にO R C I D識別子を含める
者ディレクトリ,機関リポジトリ,研究者S N Sなどの
ことができると同時に,さまざまな場面での研究
システムの中でORCIDを運用している。
者の入力負担を軽減する。
図3にORCIDレコードと研究者,ORCIDメンバー機
ORCID開発の背景として,学術コミュニケーション
関の関係を示す。研究者はO R C I D識別子を取得し,
における名前の曖昧さの解消(name disambiguation)
自身のO R C I Dレコードを編集・管理することができ
が筆頭に挙げられるが,この曖昧さは,論文の出版や
る。また,O R C I Dメンバー機関が提供するシステム
助成金供与後のデータ収集・分析が,それを必要とす
上でO R C I D識別子を使ってログインすることにより,
る第三者によって行われていたために生じる問題であ
O R C I Dレジストリより認証トークンが発行され,自
る。研究者自身の参加によって学術コミュニケーショ
身のO R C I Dレコードへのアクセス許諾を与えること
ンの下流で行われていた名寄せの問題を,ORCIDは上
ができる(電子認証プロセス)注5)。メンバー機関に
流で解決し,研究者のみならず研究コミュニティー全
はこの認証トークンを使って,当該研究者のO R C I D
体の労力を軽減するためのインフラとして機能する。
レコードから情報を読み取ったり,研究者に代わっ
4.
て情報を追加したりする権限が与えられる。所属情
研究者とORCIDメンバー機関の役割
報,業績などの記述は研究者自身によるマニュアル
入力も可能であるが,第三者であるO R C I Dメンバー
ORCIDは研究者自身による登録(オプト・イン)を
機関が入力することによって情報の信頼性が高まる
基本としている。全登録数のうち,約30%が研究者に
とともに,研究者の入力負担が軽減される。O R C I D
よる直接登録(ORCID.orgでの直接登録)である。一
メンバー機関が書き込んだ情報を他のメンバー機関
方,約70%はORCIDメンバー機関により提供される他
は参照することができ,O R C I Dレジストリを介して
システムを経由しての登録(メンバー機関によるバッ
効率的な人名および研究活動情報の流通が可能とな
チ登録+メンバー機関からの認証登録)である(図2)
る。以下に幾つかO R C I Dメンバー機関による典型的
が,この場合も研究者自身によるログインを必要とす
な活用例を挙げる。
る。ORCIDメンバー機関はすでに350を超え注4),その
多くが論文投稿査読システムや大学・研究機関の研究
(1)オンラインジャーナルの投稿査読システム
出版社は投稿時に著者のORCID識別子を取得し,出
約30%が研究者による直接登録, 約70%はメンバー機関によるバッチ登録+メンバー機関からの認証登録。
図2 ORCID識別子発行数の推移 (2012年10月~ 2015年12月)
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情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
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図3
ORCIDレコード
研究者
xxxx-xxxx-xxxx-xxxx
•
ORCID識別子の取得
ORCIDレコードの編集・管理
ORCID識別子の提示と
電子認証による許諾
基本情報
•
•
氏名
メールアドレス
など
•
アクセス許諾管理
•
経歴・所属情報
•
研究業績・実績
業績等の書き込み
•
•
•
•
•
論文
査読
出版物
助成金
特許 など
ORCIDメンバー機関
図3 ORCIDレコードと研究者, ORCIDメンバー機関の関係
版物にそれを記述するとともに,著者のO R C I Dレ
研究者自身が登録した情報の場合は,その氏名がソー
コードにも新たな出版物情報を反映させる。また,
スとして表示される。ORCIDメンバー機関によって登
査読者のORCID識別子を取得し,査読実績をORCID
録された情報であっても,その管理権限は研究者個
レコードに追加する。
人にあり,また1度与えたアクセス許諾も研究者自身
(2)大学の研究者ディレクトリ
研究者のO R C I D識別子とリンクし,所属情報とし
て大学名をO R C I Dレコードに追加する。また,略
歴や出版物リストなどをO R C I Dレコードの内容と
22
のORCID設定画面で取り消すことが可能である。
5.
他のIDシステムとの連携
同期させる。
サービス開始から3年余りが経過し,O R C I Dはコ
(3)研究助成機関
ミュニティー志向型の業界標準(de facto standard)
助成金申請時に申請者のORCID識別子を取得し,助
としての位置を獲得しつつあるが,国際標準や既存
成金供与の際にはその事実を申請者のORCIDレコー
システムとの互換性,相互運用性についても考慮さ
ドに記述する。助成金を得た研究者が後に新たな
れている。
論文を出版した際には,研究者自身の報告を待たず
O R C I D識 別 子 の16桁 の フ ォ ー マ ッ ト はI S N I
にORCIDレコードから直接出版情報を把握できる。
(International Standard Name Identifier,ISO規格
上記(1)の事例としてF1000Researchによって追
27729)のそれにならい,すでに両者の間では重複番
加された査読実績(図4),また(2)の事例としてコ
号が発生しないように取り決めがされている。フォー
ロラド大学ボルダー校によって登録された研究者の
マットは同じでも,ISNIは広くテレビ番組や音楽,映
所属情報を図5に示す。
画といったメディアコンテンツまでを対象とし,個
ORCIDレコード上のすべてのアイテムにはそのソー
人だけでなく法人や架空の人物についても公的アイ
ス名が含まれており,第三者が登録した情報であれば
デンティティー(Public Identity)として記録する。
その機関名
(もしくはサービス名)
が表示される。
一方,
ISNIは,OCLC(Online Computer Library Center, Inc.)
研究者識別子ORCID
図4
F1000Researchによって追加された
査読実績
図5
コロラド大学ボルダー校によって登録された
研究者の所属情報
図4 ORCIDレコードの査読情報の例
(ソース : F1000Research)
図5 ORCIDレコードの所属情報の例
(ソース : コロラド大学ボルダー校)
によって運用されているバーチャル国際典拠ファイ
フィールシステムで実現しているが,中には電子認証
ルVIAF(Virtual International Authority File)とも互換
プロセスではなく,16桁のORCID識別子を直接入力す
性がある。ISNIやVIAFが知的・芸術的生産物のアウト
ることを求めるサービスもある。ResearchGate注9)や
プットを起点とした第三者による典拠作成を主眼と
r e s e a r c h m a p注10)などがこれにあたるが,誤入力や
しているのに対して,ORCIDは研究者自身とメンバー
他者のI Dを使ったなりすましなどの懸念があるため,
機関の相互協力の下,識別子の事前提示と電子認証
ORCID Inc.が提供するAPIを用いた認証プロセスへの早
によるワークフローの改善と効率化を目指すもので
期移行が望まれる。こうした状況について利用者への
あり,目的も存在意義も異なる点に注意されたい。
注意を喚起し,サービス提供者に適切なORCID APIの
学術コミュニティーに特化した人物同定の試みは,
実装を促すため,2016年にさまざまなシステムの実
O R C I Dが初めてではない。これまで開発された多く
装レベルを判定するイニシアチブ(ORCID Integration
のシステムが,レコードの記述を研究者自身による
Levels Initiative)の実施が予定されている。
自己申告か,他者(機械的な判別を含む)による同
O R C I Dレコードに記述される情報は,登録の際に
定のいずれかに依拠していた。O R C I Dレジストリは
研究者が同意するプライバシーポリシーにのっとり
両方の長所を取り入れたハイブリッド型で運用され
運用される注11)。多くのシステムと同様,ORCIDはク
ており,既存のI Dシステムとの連携は各サービス機
ラウド上に蓄積された情報のセキュリティーについ
関がORCIDメンバーとなってORCID APIを実装するこ
て細心の注意を払っており注12),なりすましや不適切
とによって実現する。
なI D利用などセキュリティーおよびプライバシー上
たとえばトムソン・ロイター社の研究者ディレク
トリResearcherID注6)は自己申告型であり,エルゼビ
で生じる疑義については,提供されたW e bフォーム
を用いてORCID Inc.に申し立てることができる注13)。
ア社の文献データベースS c o p u sには機械的アルゴリ
すでにジャーナル投稿管理システムを中心として
ズムで名寄せを行うScopus Author Identifier注7)が実
O R C ID識別子を用いたシングルサインオン(S i n gl e
装されている。いずれもO R C I Dとすでに連携してお
Sign-on: SSO)注14)の採用が進んでおり注15),2016年に
り,研究者は前述の電子認証プロセスによって両サー
はeduGAIN注16)経由でのShibboleth(シボレス)注17)
ビスを自身のO R C I D識別子に結び付けることができ,
認証を用いたORCIDへのログインもサポートされる予
情報の同期も可能である注8)。
定である。これにより,所属機関による認証とO R C ID
6.
へのログインが結び付き,本人確認の真正性が高まる
セキュリティーとプライバシー
ことが期待される。
こうしたORCIDとの連携はすでに多くの研究者プロ
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
23
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
7.
ORCID Inc.の成立と運営体制
た 注20)。選考の結果9プロジェクトが採用され,そ
の成果は2014年5月に米国イリノイ州で開催された
2009年11月に米国マサチューセッツ州において
O R C I Dアウトリーチ・ミーティングにおいて発表さ
開催された名前識別子サミット(N a m e I d e n t i f i e r
れた注21)。この9プロジェクトには,大学・研究機関
S u m m i t)に参加した出版社,学会,研究助成機関,
が運用する研究者プロフィールシステムへのO R C I D
大学・研究機関から成るグループは,名寄せの問題
識別子の実装や,汎 用機関リポジトリソフトウェア
を共有し,それを解決するためのコミュニティー志
であるDSpaceやFedoraのORCIDモジュール開発,学
向型イニシアチブとしてORCIDを提案した。紙媒体か
会メンバー管理やオンライン学位論文,研究業績評
ら電子媒体へと移行しながら肥大化しつつある学術
価システムにおけるO R C I D運用などが含まれる。こ
情報の管理には,信頼性の高い研究者情報とその業
れらのプロジェクトにより開発されたコードやプロ
績への正しいリンクが不可欠であり,そのような情
グラムは広くオープンソースとして公開され,後に
報サービスの母体として,営利・非営利にかかわら
加入するO R C I Dメンバー機関のために役立てられて
ずすべてのサービスをつなぐためのプラットフォー
いる。
ムが模索された注18)。
はんよう
2014年初めにはO R C I D識別子登録数は50万人を数
当初20余りの組織が支持を表明したO R C I Dイニシ
え,同年11月に東京で開催されたアウトリーチ・ミー
アチブは,2010年8月に米国デラウェア州において
ティングの直後には100万人を超えた。この頃までに
登記され,正式に非営利団体ORCID Inc.が発足した。
はメンバー機関の加入数も160以上を数えた。急速な
以来,発案メンバー機関の代表を中心に構成される
ORCIDメンバー機関の増加は,各国・地域のORCIDコ
理事会が意思決定機関となり,O R C I Dレジストリを
ンソーシアムの成立によるところが大きい。
プラットフォームとしてA P Iを提供する技術モデルや
その運用原則,機関メンバーからの会費徴収によっ
てオペレーションコストを賄うビジネスモデルなど,
9.
ORCIDコンソーシアムの発展
今日のO R C I Dが提供するサービスの原型が提案され
最も早くORCIDコンソーシアム結成の動きを見せた
た。続いて技術検討部会,アウトリーチ検討部会な
英国では,2014年の後半にJ I S C注22)とA R M A注23)が
どが組織され,ORCIDレジストリの技術要件やコミュ
中心となって試行プロジェクトを実施し,英国の大
ニティーへの啓蒙などについて話し合いが進んだ。
学や研究機関のシステムにO R C I Dを実装する利点や
満を持してORCIDレジストリとAPIサービスの提供が
そのコストについて検討した注24)。プロジェクト終了
開始されたのは2012年10月16日のことである。
後に発表されたレポート注25)では,O R C I D活用事例
8.
や将来的な実装に向けての提言がなされた注26)。すで
ORCIDの進展と拡大
にこの時点で広く学術コミュニティーに受け入れら
れていたORCIDの導入には,コスト以上に潜在的な利
O R C I D識別子登録数は半年で10万人を数え,サー
点があり,技術的な問題よりもむしろ機関内での周
ビ ス 開 始1年 後 に は30万 人 を 超 え た。 こ の 時 点 で
知や運用上の工夫が必要であるとされた注27)。これを
O R C I Dメンバー機関として80余りの組織が年会費を
受けて2014年6月には英国の50以上の大学・研究機関
納めており,当初発案メンバー組織からの寄付や借
が参加するORCIDコンソーシアムが成立した注28)。さ
金によって賄われていたORCID Inc.は徐々に持続可能
らに2015年12月には英国研究会議(RCUK: Research
な運営体制への一歩を踏み出した。
Councils UK)が同コンソーシアムに加入し,2016年
2013年にはスローン財団注19)からの資金援助を受
けてO R C I Dを活用したサービスの開発提案を公募し
24
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
以降の研究助成金申請システムへのO R C I D導入を目
指している注29)。
研究者識別子ORCID
米国では,国立衛生研究所(National Institutes of
Health: NIH)が中心となって連邦政府の各機関が参
10. アジア・太平洋地域でのORCID導入
状況
加するSciENcv(Science Experts Network Curriculum
Vitae)注30)へのORCID導入が進んでおり,ORCID識別
オーストラリアでは,ANDS注36)をはじめとする幾
子の提示により研究助成金の申請時の情報入力の簡
つかの団体が,2015年4月よりORCIDコンソーシアム
素化を図っている 注31)。また,英国の医学研究支援
を協議するワーキンググループを結成し,各機関の
団体であるウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)
参加を求めている注37)。同年末までに40以上の大学・
は2013年よりオプションとしていた助成金申請時の
研究機関が参加を表明し,2016年2月にはコンソーシ
ORCID提示を2015年8月より義務化した注32)。
アムの成立が正式に発表される予定である。ニュー
こうした英米の研究助成機関でのO R C I D導入と相
前後して,欧州等でも国家レベルでのORCID採用が始
ORCIDコンソーシアムの検討が行われている。
まっている(表1)。既存のコンソーシアム組織や研
日本国内では,国立情報学研究所(N I I),科学技
究評価システムの枠組みにO R C I Dを利活用するケー
術振興機構(J S T)に加えて営利企業2社の計4機関が
スが多い。たとえばイタリアでは,74の大学・研究
2013年よりORCIDメンバーとなっている。2015年9月
機関と教育・大学・研究省が参加する非営利コンソー
には物質・材料研究機構(N I M S)が新メンバー機関
シアム機関Cineca注33)を母体としてORCIDコンソー
として加入し,同年11月に米国サンフランシスコで
シアムが成立し,2016年末までにイタリアの研究者
行われたO R C I Dアウトリーチ・ミーティングにおい
の8割以上について過去10年分の業績をORCIDレコー
て,同機構がホストをする研究者ディレクトリおよ
ドに登録して国・地域の研究評価システムに資する
び機関リポジトリへのO R C I D導入に向けたパイロッ
ことを目標としている
。
ト開発の報告を行っている 注38)。また2015年12月に
ORCID Inc.はコンソーシアム向けに年会費の割引を
は,J - S TA G Eに著者のO R C I D識別子を表示した初め
行っており,たとえば20 ~ 29の機関が参加する場合
ての論文注39) が掲載され,今後国内学会誌を中心に
には,通常1万ドルであるプレミアム・ライセンスの
ORCID識別子の利用が広がることが期待される。日本
年会費が4,000ドルになる注35)。コストの低減だけで
での大学への導入事例はまだないが,幾つかの大学
なく,事務手続きの一元化や,同じ地域で多くの機
ではすでに機関リポジトリや研究者総覧へのO R C I D
関が一斉にO R C I Dを活用し始めることで知識や経験
導入に向けた検討が行われている。その際に必ず懸
が共有されるなど,コンソーシアム結成には多くの
念として挙げられるのが,O R C I Dレコードに業績を
メリットがある。
追加する際に利用できる日本語文献データベースが
注34)
表1
ジーランド,台湾,シンガポールなどでもすでに
表1 欧州 ・ 太平洋地域。 国レベルでのORCID推奨と
コンソーシアム成立の状況 (2016年1月5日現在)
国名
英国
オーストラリア
状況
年
国レベルでのORCID導入推奨
2013
ORCIDコンソーシアム成立
2015
国レベルでのORCID導入推奨
2015
ORCIDコンソーシアム成立
2016
スウェーデン
国レベルでのORCID導入推奨
2013
フィンランド
国レベルでのORCID導入推奨
2015
デンマーク
ORCIDコンソーシアム成立
2014
イタリア
ORCIDコンソーシアム成立
2015
ポルトガル
公的研究助成機関によるORCID提示の義務化
2013
オーストリア
公的研究助成機関によるORCID提示の義務化
2015
4か国で国レベルでのORCID導入が進む。 ORCIDコンソーシアムの立ち
上げも4か国に及ぶ
ないことである(図6)
。Airitiが提供する総合文献デー
タベースをいち早くリンク対象とした台湾では,す
でに5大学によりORCIDが導入されており,日本語文
献のソースについても提供各機関の早期の対応が望
まれる。
11. DOI登録機関による自動アップデート
各国・地域でのコンソーシアムの成立に加えて,
O R C I D識別子の普及を大きく後押ししたのが,「D O I
登録機関によるO R C I Dレジストリの自動アップデー
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ORCIDレコードのアクセス許諾を与えることになる。
初めて著作物にORCID識別子が表示された際に受信す
るCrossrefからのリクエストに対して電子認証プロセ
スを経て応答することにより,それ以降CrossrefがDOI
を付与する当該著者の出版物はすべて自動的にORCID
レコードに反映される。研究データについても,同様
の仕組みがDataCiteによって運用されている注42)。
こうしたDOI登録機関による自動アップデートの仕
組みによって,研究者自身が出版後に新たな業績を
自身のO R C I Dレコードに追加するという手間が不要
となる。さらに,所属大学や助成金を供与した機関
などがORCIDメンバーであれば,研究者による報告を
待たずに新たな出版物を把握することが可能となる。
12. 出版社によるORCID識別子の義務化
英国の王立協会(Royal Society)では,2016年1月
図6 ORCIDに業績を追加できるソース一覧
から発行するすべてのジャーナルで投稿時に著者の
ト」である。すでに2014年よりCrossrefとDataCiteを
O R C I D識別子の提示を義務化することを発表注43)し
パートナーとして試行されていた注40)運用が,2015
た。これに続いて,2016年1月7日には,PLOSやIEEE
年10月に正式に開始された注41) ことにより,出版プ
などの7出版社が同年中に投稿時に著者のORCID識別
ロセスの入り口で名寄せを完了する道筋がついた。
子の提示を義務化することを表明注44) し,これに賛
例として,図7にCr o s sr e fによるOR CIDレコードの
自動アップデートの概念図を示す。ここで研究者は,
論文を投稿する先の出版社だけでなく,Crossrefにも
同する他の出版社にも公開書簡注45) への署名を促し
ている。
すでに3,000以上のオンラインジャーナルでO R C I D
図7
著者は論文投稿時
に電子認証を経て,
ORCID識別子を原
稿とともに提出
出版社はアクセス
許諾を得て, 受理
した論文の出版メ
タデータに, 著者の
ORCIDを記述
DOIを付与する際
に, 論文メタデータ
よりORCID識別子
を認識し, 該当す
る著者のORCIDレ
コードに書き込み
新しいDOIと論文
メタデータが著者
のORCIDレコード
に追加される
電子メールにより通知
図7 CrossrefによるORCIDレコードの自動アップデート (概念図)
26
研究者識別子ORCID
識別子の入力がオプションとして可能であり,2015
てもスタッフの派遣が難しかった国・地域でのワー
年夏に実施されたORCID Inc.によるアンケート調査で
クショップ開催が実現した注53)。ORCIDメンバー機関
は,ジャーナル投稿時にO R C I D識別子の提示を求め
数も2015年末までに350余りに増加し,前年同期の2
られたとする研究者が4割を超えた注46)。今後,ます
倍以上となっている。
ます多くのジャーナルでO R C I D識別子が使われるこ
とが期待される。
13. さらなるオペレーションの拡大を目
指して
参加機関の増加や2015年に実装された多くの機能
拡張注47)により,O R C I Dレジストリおよび関連サー
ビスのサポート体制にも充実が求められるように
なった。2015年の初頭に開設されたメンバーサポー
トページ注54) は,機関メンバーの情報センターとし
て機能し,技術ドキュメントなどの参考資料などが
2015年はORCID Inc.にとって大きな飛躍の年となっ
提供されている。また,ヘルプデスクを強化し,新
た注47)。米国の公益信託より資金援助を受け注48),年
機関メンバーの導入サポートや問い合わせに対する
頭には10名であったチームに11名を追加して新たな
タイムリーな回答,スペイン語や中国語など多言語
運営体制を確立した。新たにコミュニケーション担
による対応を実現している。
当ディレクター職が設けられ,それまで欧米および
2016年初頭にあたり,ORCID Inc.は以下の3点を組
出版産業に偏りがちであった情報発信がより広範と
織の重点目標として掲げている。
なり,ソーシャルメディアでの情報発信回数も飛躍
・ 持続可能性(Sustainability):2016年末までに,メ
的に増加した。また,ボランティアとして活躍する
ンバー年会費からの収入のみによってオペレー
O R C I Dアンバサダー注49)へのサポートも充実した。
ションコストを賄う。
また,ORCIDレジストリ登録者へのアンケート調査の
・ 業界でのリーダーシップ(Industry Leadership)
:
実施や,それまで年2回の開催であったアウトリーチ・
学術コミュニケーションのさらなる進化において
ミーティングを年3回に増やすなど,コミュニティー
重要な役割を果たし,さまざまなイニシアチブや
からのインプットを積極的に取り入れる体制が強化
国際会議への積極的な参加を通じてO R C I D識別子
された。
の普及を進める。
欧州委員会(E u r o p e a n C o m m i s s i o n)が進める
・ 組織の成熟(Organizational Maturity)
:組織の拡
Horizon 2020施策の中に位置付けられるプロジェクト
大と運営コストの増加に際し,運営の効率化を目
T H O R注50)は,O D I N注51)の後継となる国際プロジェ
指し,新技術や業務フローの改善について機敏に,
クトとして,さまざまな学術プラットフォーム上で研
かつ創意工夫をもって臨む。
究論文やデータとその作成者を,デジタル識別子を
これらの3つの重点目標の下,O R C I D I n c .では四
用いてシームレスに結び付けることを目的としてい
半期ごとの達成目標をW e b上で公開している注55)。
る。ORCIDを含む10機関が参加する本プロジェクトの
非営利組織として限られた人員と経費で運営される
資金は欧州委員会によって助成され,ここにはT H O R
ORCID Inc.にはさまざまな限界があり,課題も多い。
専属のORCIDスタッフ1名の雇用が含まれている。
特にORCID導入やコンソーシアム結成には,各機関や
またヨーロッパに加えて,北米,中南米,アフリカ・
コミュニティーの自発的な努力に頼るところが大き
中東地域,アジア・太平洋地域を担当する計5名から
く,そうした草の根の支援のない地域では,O R C I D
成るメンバーシップチームの確立により,世界各国・
について理解と賛同を得ることは難しい。これを踏
地域でのO R C I D普及活動をさらに進める体制が整っ
まえて2016年上半期にはコミュニティー全体との対
た 注52)。2015年にはケニア,ブラジル,メキシコ,
話とオープンな情報提供を目的として,ORCIDコミュ
アラブ首長国連邦,台湾など,これまで要請があっ
ニティー W e bサイトの開設が計画されている。出
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版・研究にかかわるさまざまなステークホルダーが,
ア・太平洋地域でのますますのO R C I D識別子の普及
O R C I Dの利用について積極的に議論し活用事例を発
を目指して微力を尽くす所存である。
信することが,O R C I Dのさらなる発展には不可欠で
ある。
執筆にあたり,大学評価・学位授与機構の土屋俊
教授,科学技術・学術政策研究所の林和弘上席研究官,
14. おわりに
O R C I Dアンバサダーの坂東慶太氏に,それぞれ多大
な助言と示唆をいただいたことを記して感謝する。
ORCIDレジストリのサービス開始から3年余りが経
過し,ORCID Inc.はますますその活動の幅を広げ組織
としての成熟を遂げたが,コミュニティーの支援を
受けて始動した当時のスタートアップ精神はいまだ
に健在である。筆者は2012年末よりアウトリーチ部
宮入 暢子(みやいり のぶこ) n.miyairi
orcid.org
会のメンバーとして2年以上にわたりボランティアと
ORCID: http://orcid.org/0000-0002-3229-5662
して活動した後,2015年7月より現職に就任した。
子ORCIDの普及活動と機関メンバーサポートに従事。ハワイ大学マノ
延べ10か国・地域に点在する20名の同僚とのコミュ
ニケーションには,地理的・時間的な制約も多いが,
彼らと共に働く機会を得たことは幸甚である。アジ
ORCIDアジア・太平洋地区担当のディレクターとして,研究者識別
ア校にて図書館情報学修士取得後,トムソン・ロイター・プロフェッ
ショナル株式会社の学術情報部門のアジア主任コンサルタント,ネイ
チャー・パブリッシング・グループのコンサルタント/アナリストを
経て,2015年7月より現職。
本文の注
注1)
2016年1月20日現在
注2)
https://orcid.org/registerからWebフォームを使って登録
注3)
O R C I Dレジストリに登録された公開情報は年に1度,クリエイティブ・コモンズがC C0と定義する権利放棄,す
なわち完全にオープンなライセンスのもとに公開される。
注4)
ORCIDメンバー機関リスト:http://orcid.org/about/community/members
注5)
これはOAuthとして知られるオープンプロトコルを用いた,ログインIDとパスワードを使った電子認証プロセス
であり,16桁のIDをマニュアル入力することではない。ORCIDにおけるOAuthの利用については,以下を参照の
こと。"Tokens through 3-legged OAuth authorization". ORCID Member Support Center. https://members.orcid.
org/api/tokens-through-3-legged-oauth-authorization
注6)
ResearcherID.com. Thomson Reuters: http://www.researcherid.com/
注7)
"New Scopus "Author Identifier" wows users". Elsevier. https://www.elsevier.com/about/press-releases/scienceand-technology/new-scopus-author-identifier-wows-users
注8)
ResearcherIDでは,ログイン後の画面に表示されるExchange Data With ORCiDというボタンをクリックして遷
移後の画面からデータの同期を選択する。また,S c o p u sはW e b上から利用できるウィザードを提供している。
"Manage My Author Profile". Elsevier. https://www.elsevier.com/solutions/scopus/support/authorprofile
注9)
ResearchGate: https://www.researchgate.net/
注10) researchmap: http://researchmap.jp/
注11) https://orcid.org/privacy-policy
注12) http://support.orcid.org/knowledgebase/articles/136222-how-do-you-keep-the-orcid-registry-secure
注13) https://orcid.org/orcid-dispute-procedures
注14) シングルサインオン(Single Sign-on: SSO)とは,1度の利用者認証によって独立した複数のシステムを利用でき
るようにすること。これにより,利用者はシステムごとにIDやパスワードを入力する必要がなくなる。
28
研究者識別子ORCID
注15) Alison O'Connel. "Enabling publication workflows: Persistent identifiers in article submissions". ORCID. https://
orcid.org/blog/2015/04/14/enabling-publication-workflows-persistent-identifiers-article-submissions
注16) http://services.geant.net/edugain/Pages/Home.aspx
注17) Shibboleth: https://shibboleth.net
注18) "Research community members seek to resolve author name ambiguity issue". Crossref. http://www.crossref.org/
crweblog/2009/12/research_community_members_see.html
注19) スローン財団:http://www.sloan.org
注20) Laurel Haak. "ORCID awarded grant from Alfred P. Sloan Foundation to support university and professional society
integration of persistent identifiers". ORCID. https://orcid.org/blog/2013/06/13/orcid-awarded-grant-alfred-psloan-foundation-support-university-and-professional
注21) "Adoption and integration program". ORCID. http://orcid.org/content/adoption-and-integration-program
注22) JISC: https://www.jisc.ac.uk
注23) ARMA: https://www.arma.ac.uk
注24) “J I S C等,英国高等教育機関におけるO R C I Dの試行プロジェクトのH Pを公開”. カレントアウェアネス. h t t p : / /
current.ndl.go.jp/node/26113
注25) "Institutional ORCID Implementation and Cost- Benefit Analysis Report". JISC. http://repository.jisc.ac.uk/6025/2/
Jisc-ARMA-ORCID_final_report.pdf
注26) “英J i s c等,英国高等教育機関におけるO R C I Dの試行プロジェクトに基づくコストと利点の分析レポートを公開”.
カレントアウェアネス. http://current.ndl.go.jp/node/28500
注27) 高城雅恵. “ORCID導入のコストと利点とは?英国の試行プロジェクト”. カレントアウェアネス-E, No.284 (E1687),
2015. http://current.ndl.go.jp/e1687
注28) “ORCID,英Jiscによる国家的なコンソーシアムを通じ英国の高等教育機関で採用”. カレントアウェアネス. http://
current.ndl.go.jp/node/28736
注29) “英国研究会議(R C U K),英J i s cによる同国のO R C I Dのコンソーシアムに参加”. カレントアウェアネス. h t t p : / /
current.ndl.go.jp/node/30137
注30) SciENcv: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sciencv/
注31) Laurel Haak. "NIH testing ORCID iDs in the ScienCV platform". ORCID. https://orcid.org/blog/2013/01/16/nihtesting-orcid-ids-sciencv-platform
注32) http://www.research-operations.admin.cam.ac.uk/about-us/bulletin/item/wellcome-trust-grant-applicationsrequire-orcid
注33) Cineca: http://www.cineca.it/en
注34) “イタリアが国家規模でO R C I Dを採用,3年間のコンソーシアム・メンバーシップについて合意”. カレントアウェ
アネス. http://current.ndl.go.jp/node/28728
注35) ORCIDコンソーシアム・メンバーシップ年会費についてはhttps://orcid.org/content/consortium-memberlicense-agreementを参照のこと。
注36) ANDS: http://www.ands.org.au
注37) Natasha Simons. "Australian ORCID Consortium Model released for comment". ORCID. https://orcid.org/
blog/2015/08/14/australian-orcid-consortium-model-released-comment
注38) Kosuke Tanabe. "Project Ninja: ORCID implementation in NIMS Digital Library". Slideshare. http://
www.slideshare.net/ORCIDSlides/lightning-talk-session-national-institute-for-materials-science-ktanabe-55216652
注39) Yasuhiko Kubota, et al. "Bowel Movement Frequency, Laxative Use, and Mortality From Coronary Heart Disease
and Stroke Among Japanese Men and Women: The Japan Collaborative Cohort (JACC) Study".
Journal of Epidemiology, Article ID: JE20150123. http://doi.org/10.2188/jea.JE20150123
注40) Josh Brown. "New webinar: The metadata round trip| ORCID". ORCID. https://orcid.org/blog/2015/01/13/newwebinar-metadata-round-trip
注41) Laurel Haak. "Auto-update has arrived! ORCID records move to the next level". ORCID. https://orcid.org/
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blog/2015/10/26/auto-update-has-arrived-orcid-records-move-next-level
注42) Martin Fenner. "Explaining the DataCite/ORCID Auto-update". DataCite. https://blog.datacite.org/explaining-thedatacite-orcid-auto-update
注43) Phil Hurst. "From January you'll need an ORCID". The Royal Society Publishing Blog. https://blogs.royalsociety.org/
publishing/from-january-youll-need-an-orcid
注44) Laurel Haak. "Publishers to Start Requiring ORCID iDs". ORCID. https://orcid.org/blog/2016/01/07/publishers-startrequiring-orcid-ids
注45) "Requiring ORCID in Publication Workflows: Open Letter". ORCID. https://orcid.org/content/requiring-orcidpublication-workflows-open-letter
注46) Alice Meadows. "Survey says: Community perceptions of ORCID, Part 1". ORCID. https://orcid.org/
blog/2015/11/23/survey-says-community-perceptions-orcid-part-1
注47) Laurel Haak. "2015: The year in review". ORCID. http://orcid.org/blog/2015/12/18/2015-year-review
注48) Laurel Haak. "ORCID receives $3 million grant to build international engagement capacity". ORCID http://orcid.
org/blog/2015/04/07/orcid-receives-3-million-grant-build-international-engagement-capacity
注49) http://orcid.org/content/orcid-ambassadors
注50) Technical and Human infrastructure for Open Research: http://project-thor.eu/
注51) ORCID and DataCite Interoperability Network: http://odin-project.eu/
注52) Laurel Haak. "ORCID announces newly formed global membership team". ORCID. https://orcid.org/
blog/2015/05/15/orcid-announces-newly-formed-global-membership-team
注53) ORCIDワークショップやイベントなどはhttp://orcid.org/about/eventsを参照のこと。
注54) http://members.orcid.org
注55) 2016 ORCID Roadmap. https://trello.com/b/EkHgZPJO/2016-orcid-roadmap
参考文献
1) 蔵川圭, 武田英明. 研究者識別子ORCIDの取り組み. 情報管理. 2011, vol. 54, no. 10, p. 622-631. http://doi.org/10.1241/
johokanri.54.622, (accessed 2016-01-06).
2) 蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, no. 307, p. 15-19.
3) 林和弘. 学会から見た研究者ID ORCIDがもたらす学会への影響と連携の可能性. SPARC Japan NewsLetter. 2011, no.
10, p. 12-14.
4) 時実象一. 研究者登録システムORCID. 薬学図書館. 2014, vol. 59, no. 2, p. 120-125.
5) 高橋昭治, 恒吉有紀. Scopusの著者識別機能とORCIDとの連携. 薬学図書館. 2014, vol. 59, no. 2, p. 126-129.
6) 坂東慶太. ORCIDアウトリーチ・ミーティング in シカゴ. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 6, p. 423-428. http://doi.org/
10.1241/johokanri.57.423, (accessed 2016-01-06).
7) 宮入暢子. ORCIDアウトリーチ・ミーティング in 東京. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 10, p. 765-768. http://doi.org/
10.1241/johokanri.57.765, (accessed 2016-01-06).
8) 谷藤幹子, 田辺浩介. 次世代研究者プロフィールサービス:SAMURAIからNinjaへ. 情報管理. 2015, vol. 58, no. 2, p.
107-116. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.107, (accessed 2016-01-06).
9) Meadows, Alice. "Everything you ever wanted know about ORCID: ...but were afraid to ask". College & Research
Libraries News. 2016, vol. 77, no. 1, p. 23-30.
Author Abstract
ORCID Inc., a non-profit, international organization, provides persistent and unique identifiers for researchers and started
its registry service since October 2012. The number of live ORCID IDs exceeded 1 million shortly after the first ORCID
30
研究者識別子ORCID
outreach meeting in Asia, held in Tokyo in November 2014; thereafter, ORCID garnered increasing attentions as de facto
standard researcher ID, surpassing 1.8 million within a year. This article aims to introduce value positioning of ORCID
identifiers and overview ORCID's activities up to 2015. ORCID national and regional consortia, as well as ORCID registry
"auto-update" by DOI agencies, have much accelerated the adoption of ORCID internationally, and Japanese institutions
are encouraged to follow their suit.
Key words
ORCID, researcher identifier, researcher ID, name disambiguation, researcher profile, scholarly communication
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2016
vol.59 no.1
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April
第5期科学技術基本計画における主要
指標について
Main indicators for 5th Science and Technology Basic Plan
治部 眞里 1
長部 喜幸 2
JIBU Mari1
OSABE Yoshiyuki2
1 国立研究開発法人 科学技術振興機構
1 Japan Science and Technology Agency (JST)
2 日本特許庁
2 Japan Patent Office
2015(平成 27)年 12 月 18 日に第 14 回総合科学技術・イノベーション会議にて,
「第 5 期科学技術基本計画」答申
案が了承され,その後,2016 年 1 月 22 日に閣議決定された。科学技術基本計画は,科学技術の振興に関する施策の
総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画であり,科学技術政策の方向性を定め,予算配分などにも直接影
響する重要な意味をもつ。第 5 期科学技術基本計画においては,主要指標・目標値の設定がその特徴の 1 つである。
本稿では,科学技術基本計画における主要指標について,筆者の一考察を紹介し,併せて,同計画の確度をより向上
させるための新たなシステム開発の可能性について述べる。
科学技術基本計画,評価,PDCAサイクル,内閣府,総合科学技術・イノベーション会議,客観的根拠に基づく政策
原稿受理(2016-02-08)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 32-42. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.32
1.
背景
わが国は,
「科学技術基本法」(1995年法律第130
32
発表された。第5期基本計画は2016年度から5年間の
科学技術政策の方向性を定め,予算配分などにも直
接影響する重要な意味をもつ。
号)に基づき,科学技術基本計画(以下,基本計画)
CSTIにおいては,科学技術・イノベーションの企画
を策定し,科学技術政策を推進してきた。現在まで,
立案の他に,研究開発の評価に対する取り組みも基
第1期(1996 ~ 2000年 度 ), 第2期(2001 ~ 2005年
本計画ごとに推進されてきている。第1期基本計画に
度),第3期(2006 ~ 2010年度),および第4期(2011
基づき策定された「国の研究開発全般に共通する評
~ 2015年度)の基本計画が策定されてきたところで
価の実施方法の在り方についての大綱的指針」
(1997
ある。第1期から第4期までは内閣府に設置された総
年8月 内閣総理大臣決定)をはじめとして,第2期,
合科学技術会議を司令塔として,策定・実行されて
第3期,および第4期基本計画においては「国の研究
きた。2014年の内閣府設置法の1部を改正する法律
開発評価に関する大綱的指針」
(それぞれ2001年11月,
(2014年法律第31号)の施行に伴い,総合科学技術会
2008年10月,および2012年12月 内閣総理大臣決定)
議は「総合科学技術・イノベーション会議」(Council
が策定され,評価関係者の責務,評価の効果的・効
for Science, Technology and Innovation: CSTI)へと改
率的な実施,評価実施体制の確立が推進されてきた
組され,新たな歩みを始めている。第5期基本計画に
ところである。
関しては,2015年12月18日第14回総合科学技術・イ
本稿では,研究開発評価において重要な因子であ
ノベーション会議にて,諮問第5号「科学技術基本計
る指標について,答申案およびC S T Iの基本計画専門
画について」に対する答申(案)(以下,答申案)が
調査会での検討も踏まえながら,筆者の一考察を紹
第5期科学技術基本計画における主要指標について
介してゆく。
三菱総合研究所等がその任に当たってきた。しかし,
なお,本稿は筆者の私見であり,筆者が所属する
第4期基本計画では,④・⑤の観点が導入されたにも
機関の意見・見解を表明するものでない点に留意願
かかわらず,これまで取り組むべき課題に対応した
いたい。
目標(アウトカム指標等による目標)に関しては示
2.
されていないものが多く,フォローアップとしては,
第4期基本計画を踏まえた,第5期基本
計画の特徴
状況把握にとどまっていたといえる。
第5期基本計画においては,第4期基本計画の観点
④・⑤を踏襲し,特に,④における研究開発政策各
第4期基本計画に基づき策定された「国の研究開発
階層(政策体系)の相互の関連付けを明確化するこ
評価に関する大綱的指針」において,評価において
とから,図1のような関連付けが第13回基本計画専門
は以前より以下の①~③の観点から取り組まれてき
調査会(2015年10月29日)で発表された。
た旨,第4期基本計画においては,科学技術イノベー
基本計画は階層構造を有しており,上位層(レイ
ション政策を一体的,総合的に推進していくために,
ヤー 1)として「主要な政策目的・目標(計画の方向性・
さらに④・⑤の点を充実する必要がある旨がうたわ
重点)」,中位層(レイヤー 2)として「計画を支える
れている。
政策目的・目標(の全体像)
」が配置されている。そ
<以前より取り組まれてきた観点>
して,この各階層に特定の指標を定めたことが,第5
①優れた研究開発の成果を創出し,それを次の段階
期基本計画の特徴の1つといえる。図1の主要指標は,
の研究開発に切れ目なく連続してつなげ,研究開
ふ かん
「全体を俯瞰し,計画の方向性や重点を示す指標」で
発成果の国民・社会への還元を迅速化する,的確
あり,主要指標の分析を通じて,C S T Iが進歩の把握,
で実効ある評価を実施すること。
問題点の抽出,政策への反映を行うことができる。
②研究者の研究開発への積極・果敢な取り組みを促
レイヤー 1に主要指標が,レイヤー 2に主要指標に関
し,また,過重な評価作業負担を回避する,機能
連する詳細な指標が付与され,主要指標をフォロー
的で効率的な評価を実施すること。
アップすることにより,計画の進捗の把握・分析が
③研究開発の国際水準の向上を目指し,国際競争力
行われ,レイヤー 2の詳細な指標により,状況変化の
の強化や新たな世界的な知の創造などに資する成
把握,政策の進捗把握,課題分析に資するデータの
果の創出を促進するよう,国際的な視点から評価
収集が行われる枠組みとなっている。
を実施すること。
<第4期基本計画の特徴的な観点>
④研究開発政策各階層(政策体系)の相互の関連付
3.
第5期基本計画における主要目標につ
いて
けを明確化し,最も実効性の上がる階層において
PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを確立す
ること。
答申案では,
「第5期基本計画の進捗及び成果の状
況を把握していくため,主要指標を別途定めるとと
⑤研究開発の推進からその成果の利用,活用に至る
もに,達成すべき状況を定量的に明記することが特
までを視野に入れて,取り組むべき課題に対応し
に必要かつ可能な場合には本基本計画の中に目標値
た目標(アウトカム指標等による目標)を設定し,
を定め,主要指標の状況,目標値の達成状況を把握
その達成状況を的確に把握すること。
することにより,恒常的に政策の質の向上を図って
基本計画の進捗および成果の状況のフォローアッ
いく」とうたわれ,主要指標・目標値の設定が第5期
プとして,第1期,第2期,第3期基本計画においては,
科学技術・学術政策研究所が,第4期基本計画では,
基本計画の特徴の1つであると読み取れる。
第15回基本計画専門調査会の資料には,主要指標
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主要指標の趣旨:
○主要指標は全体を俯瞰し, 計画の方向性や重点を示す指標
○主要指標の分析を通じて, CSTIが進捗の把握, 問題点の抽出, 政策への反映を⾏う。その際, 指標の数
字のみにとらわれ過ぎないように注意し, 関連する政策の実施状況やその効果等を把握し, 政策改善につなげ
る。
○主要指標については, 実際にデータを取って活用しながら, その妥当性を検証し, 必要に応じて⾒直していく。
○必要に応じて, より詳細な指標(レイヤー2など)を活用する。
基本計画の階層構造
主要指標の設定
主要な政策目的・目標
レイヤー1
 主要指標をフォローアップするこ
とにより, 計画の進捗の把握・
分析
(計画の方向性・
重点)
データの収集・分析
計画を支える政策目的・目標
レイヤー2
 状況の変化を把握し, 政策の
進捗把握, 課題分析に資する
データの収集を⾏う
(の全体像)
具体的な取り組みの方向・内容
各省施策
各省施策
各省施策
出典) 第13回基本計画専門調査会, 資料2 「主要指標に関する趣旨と位置づけについて」
図1 主要指標 (レイヤー 1) の趣旨について
案(表1)が提示されており,第5期基本計画の主要
指標はおおむねこれらの指標に設定されるものと考
えられる。
政策目的別に主要指標が設定され,全体的には適
切な指標が多角的に設定され,これら指標を基に分
析を行えば一定の成果を出せるものと考えられる。
4.
主要指標についての一考察
レイヤー 1を俯瞰する指標とは,理想的には,定量
的で簡潔であり,変化の激しい現代社会において長
しかしながら,上記指標のうち幾つかはレイヤー 2
期的な使用に耐えうるものが好ましい。長期的使用
に相当する指標と考えられるものも散見される。た
とは,指標とは評価のための目印である一方,指標
とえば,女性研究者の採用割合は,ポジティブ・ア
もまた評価される対象であり,長期的な被評価にも
クション注1)に対する施策レベルの指標に過ぎず,ま
耐えうるものという意味である。指標が事象を観察
た,研究開発型ベンチャーの出口戦略(I P O数等)も
する時,事象もまた指標を観察しているのである。
国自らが設定する主要指標としては,過度に具体的
な印象を受ける。
34
さらなる考察が必要ではないか。
2015年10月20日付の日本経済団体連合会による「第
5期科学技術基本計画の策定に向けた緊急提言1)」に
レイヤー 1を把握する主要指標としては,レイヤー
おいても,主要指標について,
「P D C Aサイクルを回
2における個々の政策群がパッケージとして実現され
すための主要指標の検討にあたっては,全体を俯瞰
たことを定量的に測定できるような指標が置かれる
でき,かつ分かりやすく適切な数の,検証可能な具体
べきである。そうでなければ,国が多額の研究開発
的指標が策定されることを期待する。その際,指標に
投資を行ったことによる効果を適切に把握すること
よっては,CSTIにおいて10年以上の長期的な成果を見
は困難であろう。レイヤー 1であれレイヤー 2であれ,
極めていくことも重要である。
」
と提言され,
全体俯瞰,
表1に挙げられた指標を採用することに全く異論は
わかりやすさ,具体性,長期的使用などがポイントと
ないが,基本計画の確度をより向上させるためには,
いえる。
第5期科学技術基本計画における主要指標について
表1 第5期基本計画における主要指標
政策目的
主要指標
未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値 ・ 非連続なイノベーションを目的とした政府研究開発プログラム
創出
(数/金額/応募者数/支援される研究者数)
・ 研究開発型ベンチャーの出口戦略 (IPO数等)
・ ICT関連産業の市場規模と雇用者数
・ ICT分野の知財, 論文, 標準化
経済 ・ 社会的課題への対応
課題ごとに特性を踏まえ以下の観点でデータを把握
・ 課題への対応による経済効果
(関連する製品 ・ サービスの世界シェア等)
・ 国や自治体の公的支出や負担
・ 自給率 (エネルギー, 食料自給率等)
・ 論文, 知財, 標準化
科学技術イノベーションの基盤的な力の強化
・ 任期なしポストの若手研究者割合
・ 女性研究者採用割合
・ 児童生徒の数学 ・ 理科の学習到達度
・ 論文数 ・ 被引用回数トップ1%論文数およびシェア
・ 大学に関する国際比較
イノベーション創出に向けた人材, 知, 資金の ・ セクター間の研究者の移動数
好循環システムの構築
・ 大学 ・ 公的研究機関の企業からの研究費受入額
・ 国際共同出願数
・ 特許に引用される科学論文
・ 先端技術製品に対する政府調達
・ 大学 ・ 公的研究機関発のベンチャー企業数
・ 中小企業による特許出願数
・ 技術貿易収支
出典) 第15回基本計画専門調査会, 資料2 「第5期科学技術基本計画における指標及び目標値について (案)」
これらポイントを満たしうる指標の候補は,実のと
らかのプロキシ指標を挙げる必要がある。たとえば,
ころ答申案に記載されており,具体的には「第1章 基
7.について,国際的な研究ネットワークが構築され
本的考え方」の「
(2)科学技術基本計画の20年間の実
れば,国際共同研究等が増加し,国際共著論文が増
績と課題」に散見される。第1章(2)には,以下のア
えていくはずであり,国際共著論文数から7.の指標
ウトプット指標が挙げられており,これこそが基本計画
が類推できる。
の過去20年の実績および今後の10年以上の長期的な成
果等を一貫して俯瞰するための指標ではないだろうか。
2.の「 国 の 国 際 競 争 力 」 を 図 る 指 標 と し て は,
E U2020の イ ノ ベ ー シ ョ ン イ ン デ ッ ク ス,W o r l d
1.論文数(質・量)
E c o n o m i c F o r u mのイノベーションインデックス,
2.国の国際競争力
Thomson Reuters社のイノベーションインデックス
3.大学・研究開発法人と企業との共同研究件数
等,外国にはさまざまな指標が存在する。C S T Iにお
4.大学・研究開発法人の特許保有数
いても,政府あるいは国際機関が導出するこれらイ
5.特許実施等収入
ンデックスを使用するべきと考える。これらインデッ
6.ノーベル賞受賞者数
クスはコンポジット指標であり,政府あるいは国際
7.国際的な研究ネットワークの構築
機関においてインデックスを導出するにあたり,構
8.若手が能力を十分に発揮できる環境の整備
成要素である指標を発表している。たとえば,欧州
9.博士課程進学者数
会議(EU Commission)のイノベーションインデッ
10.大学が生み出す知識・技術と企業ニーズとの
クスは,25の構成要素からなる。
かい り
間に生じる乖離を埋めるメカニズム
また,わが国においても,たとえば日本再興戦略
このうち1.3.4.5.6.9.は定量的に追えるもので
では,指標の一部にコンポジット指標を用いている。
あり,次章で紹介する。2.7.8.10.については,何
日本再興戦略の成果目標の1つとして「今後10年間で
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世界大学ランキングトップ100に10校以上入る」なる
目標がある注2) が,実際の計測においては,「T H E世
界大学ランキング」注3)
「Q S世界大学ランキング」注4)
「上海交通大学ランキング」注5) を参照しており,そ
えている。
以上,先述の10指標のうち,定量的分析が比較的
難しい2.7.8.10.の指標であっても,プロキシ指標
やコンポジット指標,あるいはO E C Dのパイロット
れぞれを構成している指標も発表されている。なお,
指標を活用することにより,実態を把握することは
THE世界大学ランキングは,2014年まではThomson
可能といえる。また,残りの6つの指標について,国
Reuters社の論文データベースを使っていたが,それ
際比較可能なものが,OECDの “Science, Technology
以降Elsevier社のデータベースへと変更された。その
and Industry Scoreboard 2015” などにおいて,計測
ために100位以内の日本の大学として東京大学しかラ
されているので次章で紹介したい。
ンキングされず,それも順位が下がったと言われて
いる。
「8. 若 手 が 能 力 を 十 分 に 発 揮 で き る 環 境 の 整
5.
あるべき主要指標とその国際比較
備」について,OECDは “Science, Technology and
定量的指標の6つの指標(1.論文数(質・量)
,3.
Industry Scoreboard 2015” において,新しく導入し
大学・研究開発法人と企業との共同研究件数,4.大学・
たパイロット指標として,E l s e v i e r社の論文データ
研究開発法人の特許保有数,5.特許実施等収入,6.
ベースを使用し,論文の責任著者を分野別に無作為
ノーベル賞受賞者数,
9.博士課程進学者数)について,
に抽出し,アンケート調査を実施し,年齢等を聞い
取得可能なデータから,わが国の科学技術イノベー
ている。若手研究者の論文数を把握しようとする試
ションの現状をみてみよう。
みである当アンケート調査の結果によれば,年齢だ
けでなく,性別,あるいは研究者としての流動性,
平均賃金等を把握することが可能となり,エビデン
スに基づいた政策決定に貢献できることになる。
5.1 論文数(質・量)
図2は,Elsevier社のScopus Custom Dataを使用
して論文数およびその論文数に占める被引用回数
最後に「10.大学が生み出す知識・技術と企業ニー
TOP10%論文の割合を示したものである。被引用回数
ズとの間に生じる乖離を埋めるメカニズム」は,大
T O P10%は論文の質を示す代表的指標である。2003
学等のシーズを企業へとつなぐメカニズムの構築で
年から2012年の間の日本の論文数は世界第5位,被引
あるが,これがうまく機能すれば,大学発の知的ス
用回数TOP10%のシェアは,世界30位となっている。
トックが最終製品へとつながるわけである。大学の
量に比べて,質が低いという結果となっている。論
シーズから製品へとつながった数を取得したり,産
文の量における世界1位は米国,中国,英国,ドイツ
学マッチング実績や市場へのインパクトを把握した
と続く。質に関しては,スイス,オランダ,デンマー
りすることができれば,10.についても把握すること
クと続き,米国は7位と落ちるが依然として上位に位
は可能となる。これに関する分析の報告はまだない
置する。
が,筆者らは,以前,医薬品のパイプラインに着目
し,大学,中小企業・ベンチャー,大企業など事業
36
5.2 大学・研究開発法人と企業との共同研究
体別の研究開発および製品取得状況を分析した2)。ま
件数
た,商標は製品と密接に関連するため,商標データ
1992年までは,右肩上がりに上昇していたわが国
を分析することにより,その商標名を付した製品の
における大学・公的研究機関における企業からの受
開発動向を把握することができる。すなわち,商標
入研究費比率(受入研究費総額に占める企業からの
データの分析が最終製品の数を把握する一助となり,
研究費の割合)だが,1993年から1995年には頭打ち
ひいては10.の指標構築のキーファクターとなると考
となり,1996年を境に急激に減少している(図3)
。
第5期科学技術基本計画における主要指標について
出典) OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2015 - ©OECD 2015
図2 論文数および被引用回数TOP10%論文のシェア (2003~2012年)
5
%
3.88
3.76
3.58 3.62
4
3.57 3.65
3.28 3.3
3
2.27
2
1.62
1.46
2.57
2.36
3.03
2.99
2.94
2.82
2.77
2.63 2.66 2.66 2.61
2.54
2.88
2.78
2.81
2.36
2.5
2.43
2.34
2.26 2.26
1.75
1
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
0
出典) Main Science and Technology Indicators Volume 2015/1 - ©OECD 2015
図3 大学 ・ 公的研究機関における企業からの受入研究費比率 (日本)
大学・公的機関における企業からの受入研究費は,
さらに財務省財政制度分科会(2015年10月26日開
企業の業績に多大な影響を受けるといえる。特に日
催)の資料2「文教・科学技術」によると,今後15年
本の高度経済成長はハイテク産業の高い技術力によ
間(2031年度まで)安定的な国立大学法人運営のた
り支えられてきたが,ハイテク産業の付加価値の世
めに,運営費交付金の額を毎年1%減少させることを
界シェアは,1996 ~ 1997年を境に下降の一途をた
提言しており,また,科学技術政策についても量か
どっている3)。これにより,企業からの受入研究費も
ら質への転換が示唆されている 注6)。当該資料2の第
1996年以降減少したものと考えられる。そして,減
28ページ「我が国の科学技術関係予算と論文の量・
少は回復せず,それ以降2013年まで2.5%前後で横ば
質の推移」にもあるように,科学技術関係予算額と
いとなっている。
論文とは非常に高い相関をもっているため,仮にア
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
37
ている(1-2-51 図参照)
。
情報管理
10
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1-2-50 図
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J o u r n a我が国の大学等からの特許出願の審査結果の
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April
状況の推移
(件)
(%)
ウトプットである論文数をこれまで以上に増加させ
100
8,000
特許査定
るまたは質の高い論文を創出するためには,企業か
7,000
拒絶査定、取下・放棄
80
特許査定率
2,234 1,958
6,000
ら受け入れる研究開発費を増加するなど,原資をど
63
60 60 60 60
70
5,000 58
56 57
60
67
こからか獲得する必要がある。
1,883
4,000
ただ,同資料にもあるように,大学・研究開発法
1,748
3,000
4,643
40
人等に企業からの研究費を5年で5割増にするのは,
4,436
2,000
589 1,058
3,207
20
501
大学・研究開発法人側にもかなりの努力が必要と考
364
2,330
1,000
253
1,321
153
208 379 535 744 886
えられる。
0
0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(年)
5.3 特許実施等収入
(備考)
我が国の大学等からの特許出願は、出願人が大学長又は大学を有す
る学校法人名の出願及び承認 TLO の出願を検索・集計。企業等との
共同出願も含む。
2007年度以降の大学等における特許権の実施等の
件数を見ると,堅調な伸びを示し,2012年度までの5
年間で約2.5倍に増加した。また,実施等収入額は増
減を繰り返しているものの,同5年間で約2.0倍に増加
した。2012年度の実施等収入額は,前年度に比べ約4.7
億円増加している(前年比42.7%増)(図4)。
日本人のノーベル賞受賞は2014年,2015年は連続
受賞であり,これまでの日本人受賞者数は19名(文
学賞,平和賞,経済学賞は除く),世界第5位の受賞
者数となり,日本の科学技術・学術研究の水準が国
際的に非常に高いことがうかがえる(図5)。この2年
連続した物理学賞は,青色発光ダイオードの発明と
104
全大学計
4,589
(備考)
出願人が大学長又は大学となっている出願(2014
年3 月データ取得)
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を集計した。
ニュートリノが質量を持つ証拠であるニュートリノ
2007 年度以降の大学等における特許権の
振動の発見であり,前者は発明が製品へとつながり
実施等件数を見ると、堅調な伸びを示し、
人類に利益をもたらしたイノベーティブな研究,後
2012 年度までの 5 年間で約 2.5 倍に増加し
者は物理学の根幹をなす理論に一筋の光を当てた学
た。また、実施等収入額は増減を繰り返して
術的価値の高い研究である。また2015年の生理学・
いるものの、同 5 年間で約 2.0 倍に増加した。
医学賞は線虫の寄生によって生じる感染症に対する
2012 年度の実施等収入額は、前年度に比べ
治療法の発見で,これも製品へとつながったイノベー
約 4.7 億円増加している(前年比 42.7%増)
。
ティブな研究である。
1-2-52 図
大学等における特許実施件数及び収入額の推移
実施等件数
(件)
10,000
実施等収入額
9,000
8,000
6,000
5,000
4,000
774
3,532
986
4,234
1,092
891
4,527
4,968
(百万円)
2,000
8,808
1,446
7,000
3,000
5.4 ノーベル賞受賞者数
広島大学
1,558
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
5,645
800
600
2,000
400
1,000
200
0
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年度)
0
(備考)
許権(受ける権利を含む)
のみを対象とし、実施許諾及び譲渡の
備考) 特
特許権
(受ける権利を含む)
のみを対象とし, 実施許諾および譲
件数及びそれらによる収入を計上
渡の件数およびそれらによる収入を計上
(資料)
文
部科学省「平成
24
年度 大学等における産学連携等実施状況に
出典) 特許庁 「特許行政年次報告書2014年版」, 第1部 第2章 大企業・
ついて」を基に特許庁作成
中小企業 ・ 大学における知的財産活動の状況
図4 大学等における特許実施等の件数
および収入額の推移
1.第 1 部第 1 章 1.(1)④1-1-10 図参照
特許行政年次報告書 2014 年版
備考1) 受賞者の国名は受賞時の国籍でカウントしている。 ただし二重国籍者は, 出生国でカウントしている。
備考2) 2008年物理学賞受賞の南部陽一郎博士, 2014年物理学賞受賞の中村修二博士は, 米国籍のため米国に計上している。
備考3) 国籍および出生国について,ノーベル財団が未公表なものに関しては,同財団が公表した主な活動拠点国で計上している。
出典)The Official Web site of the Nobel Prize Nobel Laureates and Country of Birthおよび内閣府「平成27(2015)年ノーベル賞(自
然科学分野) の発表について」 を基に作成
図5 国別 ・ 分野別のノーベル賞受賞者数 (上位10国 1901~2015年)
38
63
第5期科学技術基本計画における主要指標について
%
100
サービス産業, 農学
社会科学, 経営学, 法律
80
60
人文科学, 芸術, 教育
40
健康, 福祉
工学, 工業
20
自然科学
OECD
0
再校時修正s0005 図表.xlsx
出典) OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2015 - ©OECD 2015
図6 分野別博士課程修了者の割合 2012年
全分野
人
自然科学および工学
80,000
8,000
一部拡大
6,000
70,065人
4,000
60,000
2,000
ポルトガル
スウェーデン
スイス
スウェーデン
ポルトガル
スイス
オランダ
メキシコ
トルコ
オランダ
カナダ
メキシコ
トルコ
ポーランド
オーストラリア
スペイン
韓国
フランス
イタリア
ブラジル
ロシア
日本
英国
ドイツ
中国
米国
0
カナダ
16,167人
20,000
ポーランド
オーストラリア
0
40,000
出典) OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2015 - ©OECD 2015
図7 博士号取得者数に占める自然科学および工学分野の割合と博士号取得者数 (2008~2012年)
5.5 博士課程進学者数
また,図6および図7に示すように,博士課程進学
者については博士課程修了者の状況と博士号取得者
をOECDは把握している。
となっている。
6.
第5期基本計画のフォローアップにつ
いて
日本の医療福祉分野の博士課程卒業者の割合は世
界第1位で,33.2%となっている(2012年)が,自然
科学系の博士課程修了者の割合は,OECD平均よりも
低いのが現状である。
6.1 概要
第5期基本計画の実施においては,客観的根拠に基
づく政策を推進するため,基本計画の方向性や重点
2008年から2012年に博士号を取得した数につい
として定めた事項の進捗および成果の状況を定量的
て,日本は世界第5位の1万6,167人,米国が7万65人
に把握するなどして,期間中毎年のフォローアップ
で世界第1位である。また,同報告書には,女性の博
を行うことがうたわれている。
士号取得者数の割合に関するデータも記載されてお
また,答申案においては,
「公的シンクタンク等と
り,米国は34.5%。日本は37.5%で米国より高い結果
連携すること」が掲げられているものの,PDCAサイ
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39
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クルの構築と実効化においては,司令塔であるC S T I
ストックの計測が可能となる。さらに当該分析手法
自らがデータを収集し,データをにらみ,因果関係
を他分野に拡張することによって,幅広い分野にお
を分析して,次の新しい政策を策定する仕組みが必
いて,政府研究開発投資に対する知的ストックを計
要ではないか。
測することが可能になり,基本計画における政府研
究開発投資額に対する数値目標を,客観的なエビデ
6.2 「府省共通研究開発管理システム
(e-Rad)」と,他のデータとを結び付けた新
ンスに基づき設定することが可能となるだろう。
また,当該システムの構築により,PDCAサイクル
たなシステムの開発
の実効化の確度が向上し,政府研究開発投資という
具体的には,筆者は,府省共通研究開発管理シス
資源の配分見直しがエビデンスベースで行われると
テム(e-Rad)と他のデータを結び付けた新たなシス
テム開発が重要と考えている。
答申案においては,
「府省共通研究開発管理システ
ムへの登録の徹底や,当該システムと資金配分機関の
いえる。
さらに,政府研究開発投資の全体額を決定する際
にも,投資に対する知的ストックの計測が重要にな
る。答申案では,
「対GDP比の1%にすることを目指す」
データベースとの連携を進めつつ,総合科学技術・イ
「期間中のGDPの名目成長率を平均3.3%という前提で
ノベーション会議及び関係府省は,公募型資金に対す
試算した場合,第5期基本計画期間中に必要となる政
る評価・分析を行い,その結果を資金配分機関やス
府研究開発投資の総額の規模は約26兆円となる」と
テークホルダーに提供する」ことがうたわれている。
記載されているが,当該目標の妥当性の判断,およ
e-Radは,原則として公募型研究資金制度を対象と
び目標の増減の検討についても,投資に対する知的
しており,その運用に当たっては「マクロ分析に必
ストックが重要な因子となるであろう。
要な情報を内閣府に提供すること」が,公募要領等
以上,本稿では,基本計画の確度をより向上させ
に明記されている。これにより,府省を超えた政府
るための指標候補,および,フォローアップのため
全体の公募型研究資金制度における資金配分情報に
のe-Radを活用した新システム開発の重要性を紹介し
ついて,府省別・配分機関別,被配分機関別・分野別,
てきた。2016年度から第5期科学技術基本計画が開始
研究者・男女・年齢別等,さまざまな切り口から分
する。C S T Iが科学技術・イノベーション政策の司令
析を行うことができる。
塔としての機能を十分に発揮し,わが国の科学技術・
また,論文,特許,商標,製品等に関する指標は,
イノベーションが躍進してゆくことを期待する。
研究開発投資に対するアウトプット・アウトカムと
いった知的ストックを示す指標である。e-Radにこれ
ら指標をひも付けることにより,政府研究開発投資
が生み出した成果を把握することができる。
筆者の知る限りe-Radと論文・知財等データベース
とを連結・分析した報告はない。拙著は,以前,製
薬企業等が有する研究開発パイプラインに着目し,
医薬品分野の論文⇒特許⇒パイプライン⇒製品(医
薬品)データを連結し,製品につながった論文およ
び特許を分析することにより,基礎研究から最終製
品までの知識の流れを分析した4)~ 6)。今後この分析
にe-Radのファンディングデータを連結すれば,医薬
品分野に関しては,政府研究開発投資に対する知的
40
治部 眞里(じぶ まり) m2jibu
jst.go.jp
ORCID: http://orcid.org/0000-0003-0725-5842
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター
フェロー。ノートルダム清心女子大学情報理学研究所助教授,文部科
学省科学技術・学術政策研究所上席研究官を経て,2008年JSTに入構。
2013年より2年間経済協力開発機構(O E C D)に赴任。帰国後内閣府
に出向,第5期科学技術基本計画の策定に従事。MBA(McGill大学)・
医学博士(岡山大学)。専門は科学技術政策。
長部 喜幸(おさべ よしゆき) osabe-yoshiyuki
jpo.go.jp
ORCID: http://orcid.org/0000-0002-2783-537X
特許庁調整課審査基準室室長補佐。東京大学薬学部卒,同大学院薬
学系研究科(修士)卒,2002年特許庁入庁。その後特許審査官,ルー
バン・カソリック大学客員研究員,経済産業省生物化学産業課課長補
佐,経済協力開発機構(O E C D)知財アナリスト等を経て現職。専門
はバイオおよび知的財産。
第5期科学技術基本計画における主要指標について
本文の注
注1)
ポジティブ・アクションについて,一義的に定義することは困難だが,一般的には社会的・構造的な差別によっ
て不利益を被っている者に対して,一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより,実質的な機会均等を実
現することを目的として講じる暫定的な措置をいう。http://www.gender.go.jp/policy/positive_act/
注2) 「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6月30日):https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf
注3)
THE世界大学ランキング:https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2016/worldranking#!/page/0/length/25
注4)
QS世界大学ランキング:http://www.topuniversities.com/university-rankings
注5)
上海交通大学ランキング:http://www.shanghairanking.com/ja/index.html
注6)
科学技術政策については,以下のような提言がまとめられている。
・ 官民あわせた研究開発投資は,過去25年にわたり,他主要国に比べて最も高い水準を維持し,政府投資につい
ても過去20年で社会保障関係費を上回るペースで拡充してきている一方,質の高い論文の割合は他主要国に比
べて低水準にとどまっており,研究の「質」の向上に向けたシステム上の課題があるのではないか。
・ 科学技術政策の多くが投資・投入目標のみとなっており,P D C Aサイクルが十分に機能していないのではない
か。「質」を向上させるため,具体的な数値目標を含む成果(アウトカム)目標にコミットする形に転換する
べきではないか。
・ 産学連携(大学と企業の共同研究)は国際的に低い水準にあり,オープンイノベーションで研究の「質」を高
めるため,促進する必要。そのため,大学にある産学連携本部機能の見直しや大学が企業から受け入れる研究
開発費を5年で5割増といったKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)設定が必要ではないか。
・ 研究の推進力となる競争的研究資金についても,「質」の向上に向けて,国際的な競争力向上・研究資金の最
適配分・研究成果の最大化・大学改革との一体性といった観点から,システム改革を進めることが急務ではな
いか。
(出典)財務省 財政制度分科会(2015年10月26日開催)資料2 文教・科学技術より
参考文献
1) 一般社団法人日本経済団体連合会. “第5期科学技術基本計画の策定に向けた緊急提言”. 2015-10-20. h t t p : / / w w w .
keidanren.or.jp/policy/2015/094.html, (accessed 2016-01-18).
2) 長部喜幸, 治部眞里. 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(3):医薬品開発を担う事業主体に関する分析. 情報
管理. 2014, vol. 56, no. 10, p. 685-696. http://doi.org/10.1241/johokanri.56.685, (accessed 2016-2-16).
3) みずほ総合研究所. “みずほリポート 日本企業の競争力低下要因を探る:研究開発の視点からみた問題と課題”.
2010-09-29. http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report10-0929.pdf, (accessed 2016-2-16).
4) 治部眞里, 長部喜幸. 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(4):パイプラインにつながる特許の判別指標. 情報
管理. 2014, vol. 57, no. 1, p. 29-37. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.29, (accessed 2016-2-16).
5) 治部眞里, 長部喜幸. 日本版N I H創設に向けた新しい指標の開発(5):パイプラインにつながる特許判別指標の応用.
情報管理. 2014, vol. 57, no. 3, p. 178-186. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.178, (accessed 2016-2-16).
6) 治部眞里, 長部喜幸. AMED(日本版NIH)創設に向けた新しい指標の開発(8)
:医薬品研究開発における知識の流れ.
情報管理. 2014, vol. 57, no. 8, p. 562-572. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.562, (accessed 2016-2-16).
Author Abstract
The draft, "The 5th Science and Technology Basic Plan" has been approved at the 14th Expert Panel on Basic Policy on
December 18, 2015. Thereafter, it was endorsed by the Cabinet on January 22, 2016. The Science and Technology Basic
Plan is a very basic plan for the promotion of science and technology in order to implement policies comprehensively
and systematically. It has established the direction of science and technology policy, and has an important meaning to
influence directly budget allocation. In The 5th Science and Technology Basic Plan, setting some main indicators and
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
41
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
April
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
target values are one of its features. We introduce possibilities of a new way of thinking for indicators and a new system
for evaluations to improve the consistency of the Science and Technology Basic Plan.
Key words
Science and Technology Basic Plan; evaluation; PDCA cycle; Cabinet Office; Council for Science, Technology and
Innovation; evidence-based policy
42
永続的識別子 “DOI” の多様な活用状況
永続的識別子“DOI”の多様な活用状況
2015年DOIアウトリーチ会議in東京からの示唆
Various utilizations of persistent identifier, "DOI"
Implications from DOI Outreach Meeting 2015 in Tokyo
余頃 祐介 1
YOGORO Yusuke1
1 国立研究開発法人 科学技術振興機構 知識基盤情報部
1 Department of Databases for Information and Knowledge Infrastructure, Japan Science and Technology Agency (JST)
2015 年の DOI アウトリーチ会議は,ジャパンリンクセンターのホストにより東京で 2015 年 12 月 3 日に開催された。
そこでは,
「研究データへの DOI 登録実験プロジェクト」の最終報告に加えて,海外の DOI 登録機関から日本のコミュ
ニティーに対して,そのユースケースを交えた DOI 登録のメリット,DOI 登録対象の多様性について紹介があった。
DOI,IDF,Japan Link Center,JaLC,DOI登録機関,DOI RA,研究データ,DOI登録実験プロジェクト,DataCite,
Crossref,mEDRA
原稿受理(2016-02-12)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 43-52. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.43
1.
はじめに
促すとともに,世界から日本の研究成果へのアクセ
ス環境を向上することにある2)。それ以来,国立研究
DOIアウトリーチ会議は,
国際DOI財団
(International
開発法人 科学技術振興機構(J S T)
,国立研究開発法
D O I F o u n d a t i o n : I D F)が,D O I(D i g i t a l O b j e c t
人 物質・材料研究機構(N I M S),大学共同利用機関
Identifier)の普及を目的として,毎年冬季に,世界各
法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)
,
地で開催しているイベントである。2013年は台北お
国立国会図書館(N D L)の4つの学術機関が共同で運
よび北京で,
2014年はイタリアのミラノで1)開催され,
営しており,JSTがその事務局を務めている。
いずれも大成功を収めた。
そして,2015年のD O Iアウトリーチ会議は,わが
国で唯一のDOI登録機関(Registration Agency: RA)
であるジャパンリンクセンター(Japan Link Center:
<図表>
J a L C)のホストにより,12月3日,J S T東京本部(東
京都千代田区)で開催された。日本国内の研究機関,
大学図書館,出版社,システムベンダーなどから,
100名を超える方々にお越しいただいた(図1)
。
JaLCは,2012年3月15日に国際DOI財団から,日本
で唯一のD O I登録機関に認定された注1)。J a L Cを設立
した目的は,日本発の学術コンテンツの書誌情報を
網羅的に収集することによって日本国内の利活用を
図1 2015年DOIアウトリーチ会議の様子
Members of the情報管理
project
2016.4. vol. 59 no. 1
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情報管理
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vol.59 no.1
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2.
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April
講演概要
これまでのジャーナル論文に加えて,書籍,研究デー
タ,
eラーニングにもDOIを登録できるようになった5)。
2.1 Introduction to DOI: Norman Paskin
おのおののメタデータスキーマもシステム開発段階で
用意した。しかしながら,
研究データについてメタデー
(IDF)
IDFは1998年に創設され,2000年頃からDOI登録に関
タやデータの利活用にどのようなニーズがあるのかを
して実質的に活動を開始した。現在,D OI登録件数は1
考えるべく,2014年10月から2015年9月にかけて,
「研
億2,000万件に上り,D OI解決(レゾリューション)注2)
究データへのDOI登録実験プロジェクト」6)を実施して
数も年間20億回に達している。DOI登録はDOI登録機関
きた。プロジェクトの成果物として,
「研究データへの
によって行われており,現在,世界では9つのD OI登録
DOI登録ガイドライン」7)を取りまとめ日本語版と英語
機関が活動している。日本では,
JaLCがその役割を担っ
版8)とをJaLCのWebサイトで公開している。
ている。
参加機関は公募によって募集し,14の機関から9プ
IDFは技術的なインフラ(Technical infrastructure)
,
ロジェクトが参加した(図2)。日本国内で研究デー
および社会的インフラ(Social infrastructure)を提供
タにかかわる大部分の機関に入っていただいた。1か
している。技術的インフラの提供とは,DOI解決や持
月半に1回程度,計8回ミーティングを行い,かなり
続性を確保することである。また,社会的インフラ
密に議論をしてきた。さまざまな研究分野の方々に
の提供とは,永続性を確保するための義務などのポ
参加していただき,研究分野によってデータの取り
リシーの制定や,DOI登録機関における共通の問題の
扱いが多様であることがわかった。
検討,I S Oなど外部の標準化団体との調整,その他の
研究データへのDOI登録については,機関内でのレ
識別子との連携などである。これらを取りまとめた
ビューを経て,必要なものだけにDOIを登録するべき
DOI Handbook
と考える機関もあれば,研究者個人が自由にDOIを登
は,英語版の他に,中国語版,韓国
3)
語版,日本語版4)を用意している。DOI登録機関はこ
<図表>
録する機関もある。
れにのっとってDOI登録実務を行う。これら共通イン
誰が,いつ,どのようにDOIを登録するのかも研究
フラを運用するための経費は,D O I登録機関がI D Fの
分野により多様であった。これまでJ a L Cが取り扱っ
年会費として負担している。
てきた学術論文の場合は,研究者が論文を書いて,
D O Iはさまざまな分野に活用されている。D O Iの
出版社がメタデータを作りDOIを登録するという流れ
第1のアプリケーションは,学術論文であり,現在,
であった(図3)
。機関リポジトリであれば,同様に
登録されているD O Iの大半を占める。他方,後述す
論文を執筆するところまでは研究者がやるが,その
る,EIDR(Entertainment Identifier Registry)は,映
後のメタデータ作成とD O I登録は大学図書館が行う
画やテレビ番組などのエンターテインメントのコン
(図4)
。このように,
学術論文へのDOI登録フローでは,
テンツに対してD O Iを登録している。また,m E D R A
研究者と出版社あるいは大学図書館との役割分担が
(multilingual European DOI Registration Agency)で
Members of the project
は権利管理にも利用している。
講演は,
3つのセッションにより構成された注3)~注5)。
2.2 Session 1
2.2.1 「研究データへのDOI登録実験プロジェ
クト」最終報告:武田英明(ジャパンリンクセ
ンター運営委員会)
2014年12月にリリースしたJ aL Cの新システムでは,
44
9 projects with 14 organizations
図2 「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」
図 2. 「研究データへの
参加機関 DOI 登録実験プロジェクト」参加機関
永続的識別子 “DOI” の多様な活用状況
はっきりしていた。他方,研究データとなると多様
定のプロジェクト自体が会員にはならない。プロジェ
なステークホルダーが存在しており,それらが複雑
クトを主催する機関が単体の場合は,その機関が
に絡み合っている。たとえば,図書館がメタデータ
JaLCの会員となり責任をもってDOI登録をすることと
を作ってくれる場合もあるし,プロジェクトがメタ
した。プロジェクト終了後は誰かが責任をもってほ
データを作ってその登録までやるかもしれない,あ
しい,それはプロジェクトが始まる前から決めてお
るいは,研究機関そのものが組織的に関与するケー
いてほしいという趣旨である。複数機関から構成さ
スもありうる。いろいろな関与の仕方があって,そ
れるプロジェクトの場合は,各構成機関のJ a L Cの会
れぞれのステークホルダーがどの行為をするのかと
員資格でDOIを登録することとし,DOI prefixは,そ
いうのはプロジェクトによって違ってくる(図5)。
れぞれの機関に固有のものを払い出すこととした。
また,研究データは,存続期間の定めのあるプロ
これにより,プロジェクト終了後は,各構成機関固
Life cycle of data and stakeholders
ジェクトから生み出されることが多いので誰が責任
有のD O I p r e f i xのままで管理し続けられるようにな
をもってDOIの永続性(persistent access)を確保す
る。ただし,このようにプロジェクト由来の研究デー
るのかということを議論した。J a L Cの会員は,原則
タにDOIを登録するためのDOI prefixを申請する際に
- in case of publisher -
Life cycle of data and stakeholders
Publisher
Publisher
としては研究所や大学のような組織である。期間限
- in case of publisher Register
ID
Publisher
metadata
Publisher
Register
Register
Modify
save
Create
publish
Register
Modify
Modify
測が継続的に行われる場合など,追加・更新が動的
に発生するデータセットの取り扱い,DOIのlanding
Researcher
Data
metadata
Create
remove
28
図 3. DOI 登録フロー(学術論文の場合)
Researcher
Data
て,事務局が把握できる体制を構築した。
そのほか,D O Iを登録する研究データの粒度,観
Create
ID
は,事務局にプロジェクト名と代表機関とを通知し
save
Create
publish
Modify
remove
28
Life cycle of data and stakeholders
図 3. DOI 登録フロー(学術論文の場合)
- in case of university
library -
p a g eの記載事項などについても議論を重ねた。詳細
は誌面の都合上,「ガイドライン」の記載に譲ること
とする。
ここまで紹介してきたように,研究データへのDOI
図3 DOI登録フロー (学術論文の場合)
登録について,そのリコメンデーションをガイドラ
Life cycle of data and stakeholders
- in case of Library
university library -
インとして提示した。どういうタイプのデータに,
Institutional Repository
誰がいつどのようにD O Iを登録するのかについて,
Register
ID
Institutional Repository
J a L Cとして持続性を確保できるように最小限の要求
を定めるにとどまり,後は,それぞれのプロジェク
Library
metadata
ID
Create
Register
Register
Modify
トごとに検討をして,DOI登録ポリシーをそれぞれで
Researcher
save and
publish
Modify
Createof data
Modify
Create
Register
Life cycle
stakeholders
- in case of research data -
Data
metadata
Researcher図
remove
29
4. DOI 登録フロー(機関リポジトリの場合)
図4 DOI登録フロー
(機関リポジトリの場合)
save
publish
Modify
remove
Data
Create
決めることとした。各機関のデータマネジメントポ
リシーに連携して定めるものであって,データその
もののマネジメントポリシーとは別である。
29
Research Institution
Library
図 4. DOI 登録フロー(機関リポジトリの場合)
Register
ID
Create
metadata
Project
Register
Modify
JaLC
Metadata
Create
Register
Modify
Domain
Metadata
save
publish
Modify
remove
Researcher
Data
Create
30
図 5. DOI 登録フロー(研究データの場合)
図5 DOI登録フロー (研究データの場合)
Totoro’s relations
2
2.2.2 研究データにDOIを登録しているDOI登
録機関によるショートトーク
2
1)
「DataCite」Patricia Cruse
DataCiteは,2009年に設立された国際機関である。
正会員が24機関,準会員が8機関で,アジアからは,
JaLCとKISTIが正会員となっている。
そのミッションは,研究データへの容易なアクセ
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.59 no.1
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April
ス,研究データの学術記録における正当な寄与,デー
2)
「Wanfang Data」
タのアーカイブ化支援,研究結果の検証可能化,将
Development of Data DOI in China: Qiao Xiaodong
来の研究における研究データの再利用である。現在
中 国 のD O I登 録 機 関 で あ るI S T I C(I n s t i t u t e o f
のところ,700万件近いデータセットにD O Iを登録し
Scientific and Technical Information of China:中国科
ている。そのうち34%は,直近の1年間に登録された
学技術情報研究所)では,約2,300万件のD O Iを登録
ものであり昨今,データ共有に関する理解が浸透し
しており,そのうち研究データへのD O I登録は2008
てきたことの表れである。
年から開始し,国内の20の学術機関が現在約1万6,000
研究者は,
「時間がない」「データが整理されてい
件のDOIを登録している。研究データの種類としては,
ないため他人が見てもわからない」「データ共有によ
乳酸菌の種,環境データ,地学情報や,医薬データ
り,研究内容を誤解されてしまう可能性があるから
などである。また,論文にひも付く写真や図表など
共有できない」など,主張することが多い。そのた
にもDOIを登録している。
め研究者に対しては,「データ出版をすることで世界
中国では政策レベルでデータシェアリングや再利
中に名が知れ渡り有名になれる」「賞を受賞できるか
用に力を入れている。研究機関もその推進のため,
もしれない」「引用を追跡することで,研究のインパ
独自のデータセンターを構築しているが,研究者は
クトの測定も可能になる」といったメリットを伝え
自分の研究データを積極的には共有したがらない。
ている。
なぜならば,それらに対する知的財産権による保護
最近の活動として注目すべきは,THOR(Technical
and Human infrastructure for Open Research)プ
が不明確であったり,データ取得に対する寄与への
評価が十分ではなかったりするためである。
ロジェクトで,DataCite,ORCID,PANGAEA,英
国 図 書 館(B r i t i s h L i b r a r y),C E R N,E M B L - E B I,
3)
「Crossref」
ANDS(Australian National Data Service),DRYAD,
Registering DOIs for Research Data: Chuck Koscher
Elservier,PLOSがメンバーとなりHorizon2020の下で
C r o s s r e fでは,現在,データに約110万件のD O Iを
E Uにより設立されたプロジェクトである。研究デー
登録している。しかしここでは,
「研究データ」と,
「そ
タに対するPIDsであるDOIと,研究者に対する永続的
の他のデータ」との違いを意識する必要がある。
「研
識別子(Persistent Identifier: PID)であるORCID IDと
究データ」は,生の研究をするための,いわば原材
の結合,論文著者へのクレジットの付与,研究の再
料であり,論文を書くための基盤となるものである。
現性のサポートを目指している。
一方「その他のデータ」は,研究のための原材料で
現在では各プラットフォームの統合や,そのため
のメタデータスキーマの作成といった課題の検討を
46
はない。Crossrefでは,
「その他のデータ」を中心に,
DOIの登録を行っている。
行っている。その後ワークフローを定めて,ツールを
たとえば,O E C DのS t a t L i n kという経済・財務の
作成する予定である。さらに組織や,プロジェクトに
データベースにDOI(10.1787/OECDStatlinks)が登
もD O Iを登録して,プロジェクトに関係する研究デー
録されていたり,個々の統計データそのものにもDOI
タも一括して検索できるようにする予定である。そう
(10.1787/888933292750)が登録されていたりする。
することにより,たとえば米国の資金配分機関である
また,米国のNamesforLifeでは,生物の種別に対する
NSF
(National Science Foundation:米国国立科学財団)
IDとしてCrossref DOIを活用している(例:10.1601/
は,T H O Rプロジェクトを通じて,研究資金提供をし
tx.25474)
。このようにCrossrefでは,書籍でもジャー
た研究に由来した研究成果(たとえば論文や研究デー
ナル論文でもないものについて,データとしてDOIの
タ,特許など)を調べられるようになる。
登録を行っている。
永続的識別子 “DOI” の多様な活用状況
2.2.3 質疑応答
15分間の質疑応答が行われた。まずは,「諸外国
は,DOIの削除ページに導くこととしているとのこと
であった。
のD O I登録機関における,データを登録する人への
インセンティブ提示の状況について」の質問があっ
2.3 Session2 DOIを登録することによる
た。これに対してDataCiteからは,xmlによる登録だ
メリット:海外のDOI登録機関によるユース
けでなくW e bフォーム入力による登録も可能とする
ケースの紹介
などD O Iを容易に取得できるようにしている。また
2.3.1 「Crossref」
Elsevier社のScienceDirectなどのジャーナルプラット
Advantage of registering DOIs: The key to metadata
フォームと連携して,論文に引用されるデータセッ
applications: Chuck Koscher
トの情報(海洋データの場合,そのデータが取得さ
C r o s s r e fの最大の特徴は,世界中から多くの出版
れた場所の地図)を表示するなど,雑誌論文とデー
社等が参加し,C r o s s r e fを介してさまざまなコミュ
タセットとをつなぎ,パーツをまとめることにより
ニティーに対してメタデータを提供していることで
引用されやすくなり,研究者の功績が認められやす
ある。当初から収集してきた著者名やタイトルなど
くなると説明をしているとの回答があった。
の基本的なメタデータが,現在のCrossref発展の礎と
第2に,C r o s s r e fから紹介されたデータへのD O I登
なっている。時代が進み,
引用文献や研究資金提供者,
録について,「DOIの解決先がDOIのlanding pageでは
ORCID,CrossMark,ライセンス情報などの新しい態
なく,いきなりE x c e lファイルという例があり,D O I
様のメタデータも収集しはじめた。これらのメタデー
の解決先について,I D Fでの取り決めやD O I登録機関
タを活用し,引用文献リンク,被引用文献リンク,
ごとの決まりがあるのか」といった質問があった。
研究資金提供者情報の提供,ORCIDのbiography情報
Crossrefからは,IDFとして確立されたルールはなく,
への自動アップデート,DOI Event Trackingなど,さ
データを登録する人がどのように使ってもらいたい
まざまな付加的なサービスも提供している。
かによると回答があった。また,DataCiteからは,そ
のデータの使い方をそのコミュニティーがどのよう
2.3.2 「EIDR」
に考えているかによるが,そのD O Iが削除された場
Overview: Raymond Drewry
合には,このD O Iは削除されましたというD O Iの削除
EIDRは,映画やテレビ番組を専門にDOIを登録する
ページ(tombstone page:墓石ページ)に飛ばすよ
機関である。オーディオビジュアル業界で効果的・効
うにし,ユーザーが共通の経験をできるようにして
率的なコンテンツ配信の支援を目的としている。会員
いるとの回答があった。さらに,JaLCからは,研究デー
としては,Disneyなどのコンテンツ制作者,NETFLIX
タへのD O I登録実験プロジェクトの中で,l a n d i n g
などのコンテンツ配給者,Adobeなどの技術的なイン
p a g eを作るように強く推奨をすることにしたとの回
フラ提供会社,映像コンテンツに関する標準化団体な
答があった。
どである。
第3に,
「D O Iを削除する場合や,データを統合し
データモデルについては,まずは映画のタイトル
て新たなデータセットを作成した場合のDOIの取り扱
そのものにDOIが登録され,その劇場版(Theatrical)
,
い」について質問があった。DataCiteから,DOIは永
地域によった検閲版(Regional Censored Cut)
,短編・
続性が必要であるので,登録したDOIは原則として削
長編などのDirector's Cutさらに,それぞれの言語バー
除しないとしており,たとえデータを削除したとし
ジョンごとに固有のDOIを登録している。この情報や,
ても,landing pageは残しておき,データが削除され
関連コンテンツの情報はメタデータに記述され整理
た旨を記述しておくことにしているとの回答があっ
されている。図6は,
『となりのトトロ』の例である。
た。加えて,どうしても消さなければならない場合
1つの『となりのトトロ』でも,4種類のDOIが登録さ
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れていることがわかる。
いる。ライセンシングサービスは独占的なものでは
これまでワーナー・ブラザース(Warner Bros.)の
ないので,ユーザーは複数のサービスの中から,イ
コンテンツをX b o xに配信する際の手続きは,電話や
ンターネット上でライセンスを取得(購入)するこ
eメール,E x c e lシートなどで行われてきたが,膨大
とができる。
に時間がかかるうえにミスも頻発していた。そこで,
信頼できる識別子であるDOIで,対象を一意に定める
2.4 Session3 多様化するDOI登録対象
ことにより,ミスを起こすことなく着実・効率的に
2.4.1 国立国会図書館におけるDOI付与の取り
業務を行えるようになった。従来は50時間ほどかかっ
組み:伊東敦子(国立国会図書館)
ていた仕事が15分程度で済むようになった。
日本国内の博士論文は国立国会図書館(N D L)の
2.3.3 「mEDRA」
Life cycle of data and
stakeholders
他,学位を授与した大学の図書館などに所蔵されて
いる。N Ddata
Lでは,1923年9月以降の国内博士論文の
- in case of research
-
Advantages of registering DOIs: rights management,
約57万人分を所蔵している。2013年3月までは印刷
Context Aware Multiple Resolution: Paola Mazzucchi
物で収集してきた。2013年4月に博士における学位
mEDRAは,イタリアのミラノに所在し,欧州をマー
授与のルールを定めた学位規則が改正され,博士論
Library
ケットにして活動をしている。母体はイタリア出版
文は原則として学位を授与した大学によりインター
社連盟であることもあり,DOIを利用した権利管理の
ID
ドメインでのサービスに特徴を有する。mEDRAでは,
ネット等によって公開されることとなった。それに
Register
メタデータの収集の際に,権利情報も収集し,コン
Create
テンツとライセンシングサービスとをDOIにより結び
metadata
なり,これまでに約1万点を収集した。これらに対
JaLC
Modify
Register
Metadata
するD O I登録は大学が行っている。一方,1991年か
すると,そのlanding pageにおいて,コンテンツを
Researcher
をデジタル化し,D O Iを登録した(例:h t t p : / / d o i .
Research Institution
伴ってN D Lでも電子版博士論文の収集を行うことに
注2)
付けている。ユーザーがD O Iをレゾリューション
Create
Project
Domain
ら2000年までにN
D Lが収集した博士論文の約14万件
Modify
Register
Metadata
閲覧するか,書誌情報を含んだメタ情報を閲覧する
save
Data
Create
か,ライセンシングサービスを利用するかを選択す
org/10.11501/3162461)。
publish
Modify
remove
国立国会図書館は,江戸時代以前(~
1868年)の
30
ることができる。これはm E D R Aが提供している最新
和 古 書, 清 代 以 前(~ 1911年 ) の 漢 籍,1830年 以
のサービスであり,Rights aware resolutionと呼んで
前の洋古書を古典籍資料として,約28万点を所蔵
図 5. DOI 登録フロー(研究データの場合)
Totoro’s relations
Abstraction
Japanese Theatrical
Fox dubbed version
Disney dubbed
version
図6 『となりのトトロ』 に対するDOI登録
48
15
永続的識別子 “DOI” の多様な活用状況
している。現在では,このうち約9万点のデジタル
資料に関するサブジェクトリポジトリを公開し,科
化を終了しており,それらにD O Iを登録している。
学実験機器資料リポジトリでは126,教育掛図資料
この中で最も古い資料は,天平12年(740年)に出
リポジトリでは815の資料にJ a L C D O Iを登録してい
版された『集一切福徳三昧経』である(h t t p : / / d o i .
る。なぜ,このようなサブジェクトリポジトリを構
org/10.11501/1286980)(図7)。
築しているのか。明治・大正期に輸入または国産
じゅういっさいふくとくざんまいきょう
古典籍資料では,紙に書かれた情報だけでなく箱書
された科学実験機器(例:天文上望遠鏡h t t p : / / d o i .
きも重要な情報となる。蘭 山翁画像(国指定重要文
o r g /10.18876/00000344),および教育掛図は,日本
化財)では,箱のデジタル画像データとともにDOIを
の科学技術振興の歴史を知るうえで重要な学術資料
登録している(http://doi.org/10.11501/1288400)。
であるためである。それらは,戦災や自然災害・劣化・
このように古典籍資料にD O Iを登録することにより,
摩耗などによって,これまで,その多くが失われて
発表論文の参考文献にD O Iとともに記載してもらえ,
きた。今後も喪失の可能性がある。また複数の大学・
他の研究者がそのDOIで目的の古典籍資料を一意に探
博物館に所蔵されている資料を俯 瞰 的・網羅的に分
せるようになるうえ,メタデータに記された付加的
析することにより,新たな学術的な知見の獲得が期
な情報も入手することができる。コンテンツの利活
待される。当時の科学技術教育の実態を明らかにす
用を促進し,研究活動の活性化・高度化に寄与する
るためには,資料情報の集約やそれらに対する参照
ものとなる。
など,
“研究実施環境”の充実が重要であるためである。
らんざん
ふ かん
さらに,単に科学実験機器や教育掛図のI m a g e
2.4.2 「博物資料情報へのDOIの付与について」
:
D a t aをメタデータとともに保存するだけではなく,
堀井洋(一般社団法人学術資源リポジトリ協議
より付加価値を高めるためにD O Iの登録も行ってい
会,合同会社AMANE)
る。これにより,論文や書籍等から引用されること
一般社団法人学術資源リポジトリ協議会では,文
による博物資料情報に対する参照関係の明確化を図
献ではない資料,とりわけ,博物資料へのDOI登録を
ることができるほか,今後は博物資料の “存在肯定”
行っている。博物資料とは,今から100年以上前に教
の手段としてDOIを利用できるのではないかと考えて
育で使用されたロールフィルム資料,天文関連科学
いる。
実験機器資料,近世~近現代の古文書資料,江戸時
代に輸入された象の骨格標本(図8)などを指す。
博物資料情報にD O Iを登録するにあたり,特有の
悩みもある。“非Born-Digitalな” 博物資料の場合,こ
2015年12月 か ら,
科学実験機器資
料と教育掛図
れまでの論文へのDOI登録の場合と異なり,creator,
古典籍資料
-国立国会図書館で一番古い資料
集一切福徳三昧経
DOI:10.11501/1286980
国立国会図書館所蔵資料のうち、年代が明確な一番古い資料
図7 DOI登録された, 740年に出版された資料
図 7. DOI 登録された西暦 740 年に出版された資料
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登録された西暦 740 年に出版された資料
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招致が決定し,I D Fへの具体的なプログラム提案の検
討にあたっては,ジャパンリンクセンター運営委員
会(武田英明委員長 国立情報学研究所教授)
,同普及
分科会(堀切近史主査 トムソン・ロイター・プロ
フェッショナル株式会社アカデミックマーケット シニアセールスマネジャー)の力も借りつつ議論を
重ねた。この提案は,ほぼそのままI D Fに受け入れら
れた。ジャパンリンクセンター運営委員会および同
⽯川県⽴⾃然史資料館所蔵 旧制四高標本資料
Biological specimen
7
AMANE.LLC 2015.
図8 DOI登録された, 江戸時代に輸入された
象の骨格標本
普及分科会の委員の方々には,ご多忙の中親身になっ
てプログラムの検討にご尽力いただいたことをこの
誌面をお借りしてお礼を申しあげる。
図 8. DOI 登録された江戸時代に輸入された像の骨格標本
このプログラム構成は日本のコミュニティーにお
publisher,descriptionをどのように定義するのか
いて目を引いたためか,想像以上の多くの方々にご
が,コミュニティー内で問題となっている。現状
参加いただいた。質疑応答やTea Breakの際には積極
では,c r e a t o rにはI m a g e D a t aのデジタル化を行っ
的な意見交換やネットワーキングが交わされ,多く
た人,p u b l i s h e rには学術資源リポジトリ協議会,
の参加者に満足いただけた模様であった。また,I D F
descriptionには箱張紙,本体注記,箱注記,虫挟玉
メンバーにも日本での今後のD O Iの普及について,
入包紙注記,状態などの博物資料にとって大切な付
大きな手応えを感じていただけ,メンバーの中での
随情報を載せている。
J a L Cのプレゼンス向上にも幾ばくか寄与したのでは
-
以
上
-
4
ないかと考えている。
2.4.3 Constructing Bibliographic
Relationships through DOI for Asian
から,2016年2月でちょうど4年目を迎えた。途中,
Studies: Estelle Cheng(Airiti)
DOI登録対象コンテンツの拡大などを伴った新システ
A i r i t iは2000年に台湾で設立され,2011年からD O I
ムのリリースを経て,DOI登録自体は,ほぼ安定して
登録機関として活動している。Airitiでは,DOIを単な
行えるようになった。
る識別子として用いるだけではなく,メタデータを
このタイミングで,東京でDOIアウトリーチ会議を
活用し,関連するコンテンツの結び付けを促進して
開催したことにより,今後もJ a L Cが持続的な発展を
いる。たとえば博士論文とそれに関連した雑誌論文
遂げていくための重要な示唆を得た。たとえば,DOI
とを結び付け,各landing pageで案内している。ま
登録の際に収集したメタデータの活用,諸外国のDOI
た,『ノルウェイの森』のショートストーリー版,小
登録機関との連携を効果的に行うためのメタデータ
説版,映画版のように同じ作品でも表現の異なるも
スキーマの設計,D O I同士(論文とそれに付随する
のにはそれぞれに固有のDOIを登録し,その関係性を
研究データなど)だけでなく他のP I D sや研究者I Dな
landing pageで案内している。
ども含めてつなげていくこと,コミュニティーとと
3.
もにI D化のマインドを醸成していくことなどにより,
おわりに
2015年のD O Iアウトリーチ会議を東京に招致する
50
J a L Cが固有のD O I(J a L C D O I)の登録を開始して
オープンサイエンスを加速させ,J a L Cが,わが国に
おけるオープンイノベーションのためのインフラと
なることである。
ことは,2014年11月,「研究データへのD O I登録実験
今回のアウトリーチ会議では,日本のコミュニ
プロジェクト」が発足した頃に決まった。東京への
ティーに対して,この業界における世界のフロント
永続的識別子 “DOI” の多様な活用状況
ランナーの方々にご講演をいただき,大変含蓄深い
はん すう
ものがあった。今後もこれらを反 芻 し続け,ここに
込められた含意を看取することにより,長期的には,
上述の得られた示唆のように大局観をもって,今後,
JaLCが飛翔すべき航路について検討をしていきたい。
余頃 祐介(よごろ ゆうすけ) yogoro
jst.go.jp
ORCID: http://orcid.org/0000-0001-9796-1163
2003年に半導体材料系で大学院博士前期課程を修了後,民間定期
運航航空会社,半導体製造装置メーカーを経,2006年より科学技術振
興機構に所属。技術者向けeラーニング,失敗知識データベースの企画・
運用業務,経営企画部門を経て,2012年よりJapan Link Center(JaLC)
の企画・運用に携わる。DOI関連の会議・集会に多数参加。
本文の注
注1)
2013年2月にジャパンリンクセンター固有のDOI(JaLC DOI)登録を開始し,約150万件のJaLC DOI登録を行って
いる。
注2)
DOI名の前に「http://doi.org/」を付してインターネットで検索されたとき,DOI名とともに管理されている所定
のlanding pageにリダイレクトを行うこと。
注3) Session1
Report on "Experiment Project to register DOIs for Research Data" (Hideaki Takeda, JaLC), Registering DOIs for
Research Data: updates from DOI Registration Agencies (DataCite, ISTIC, CrossRef)
注4)
Session2
注5)
Session3
Advantages of registering DOIs, including use cases from CrossRef (metadata feeds, funder identification, text and
data mining, DOI event tracking, collaboration with ORCID); EIDR (movie and entertainment industry); mEDRA
(rights management, Context Aware Multiple Resolution)
Diversification of Content, including speakers from National Diet Library (NDL), Institutional Repository (AMANE)
and Airiti
参考文献
1) 余頃祐介, 中山久美子, 水野充. 2014年DOIアウトリーチ会議. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 12, p. 936-941. http://doi.
org/10.1241/johokanri.57.936, (accessed 2016-02-01).
2) ジャパンリンクセンター運営委員会. ジャパンリンクセンターとは何か:その成り立ちと基本方針. h t t p : / / d o i .
org/10.11502/jalc_policy, (accessed 2016-02-01).
3) DOI Handbook. http://doi.org/10.1000/182, (accessed 2016-02-01).
4) DOI ハンドブック. http://doi.org/10.11502/DOI_Handbook, (accessed 2016-02-01).
5) 加藤斉史. ジャパンリンクセンターの新機能. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 12, p. 946-948. http://doi.org/10.1241/
johokanri.57.946, (accessed 2016-02-01).
6) 武田英明, 村山泰啓, 中島律子. 研究データへのDOI登録実験. 情報管理. 2015, vol. 58, no. 10, p. 763-770. http://doi.
org/10.1241/johokanri.58.763, (accessed 2016-02-01).
7) ジャパンリンクセンター運営委員会. 研究データへのDOI登録ガイドライン(日本語版).http://doi.org/10.11502/rd_
guideline_ja, (accessed 2016-02-01).
8) Japan Link Center Joint Steering Committee. Guidelines for Registering DOIs for Research Data. http://doi.
org/10.11502/rd_guideline_en, (accessed 2016-02-01).
Author Abstract
The 2015 DOI Outreach Meeting, organized by JaLC (Japan Link Center), was held on December 3, 2015 in Tokyo. In the
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meeting, in addition to the Report on "Experiment Project to register DOIs for Research Data", DOI Registration Agencies
from various countries had demonstrated to the Japanese community the benefits of DOI and diversification of content in
various use cases.
Key words
DOI, IDF, Japan Link Center, JaLC, DOI Registration Agency, DOI RA, Research Data, Experiment Project to register DOIs,
DataCite, Crossref, mEDRA
52
視点 ●データ駆動科学技術を担う人材の育成
データ駆 動 科 学 技 術を担う人材の育成
確率的思考と逆 推 論
情報・システム研究機構 統計数理研究所 樋 口 知 之
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 53-56. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.53
1. めまぐるしく変遷するバズワード
ボディー(システム)と見なす概念の実現形である
計算機演算能力の劇的な向上を示す経験的指標と
といえる。その産業界,特に製造業への進展のあり
して「ムーアの法則」がよく知られているが,デー
さまがインダストリー 4.0であり,神経の張り巡らさ
タ量の増大スピードはそれとは比較にならないス
れ方がより細かくなったシステムがI o Tともいえる。
ケールである。ムーアの法則では5年で性能が約10倍
I o Tについては,センサーが比較的よくコントロール
になる一方,たとえば遺伝子配列を読むシーケンサー
された環境下に設置された状況のものを指すことが
が単位時間当たりに吐き出すデータ量は5年で1万倍
多いため,よりオープンな環境下に設置された形態
以上にもなっている。その差は5年でなんと1,000倍
を,IoE(Internet of Everything)と呼ぶ。
である。犯人の特定や追跡に効果をあげているビデ
オ・サーベイランスの性能向上も著しいが,時間・
2. データ駆動科学技術
空間の解像度の改善は結果として桁違いな量のデー
ビッグデータに関する記事は新聞の科学技術の欄
タを算出している。データ源もインターネットコン
だけでなく社会面でも頻繁に目にするようになり,
テンツだけでなく多様となり,スマホに搭載された
その社会へ与える影響については一般にも浸透して
諸センサー,RFID(Radio Frequency IDentification)
きた。一方,科学技術を先導するアカデミアの動き
リーダー,POS(Point Of Sales)レジなど,情報シ
はどうであったのか。2009年にMicrosoft社から “The
ステムと実生活空間との接点でのデータ発生頻度は
Fourth Paradigm: Data-Intensive Scientific Discovery”
増大の一途である。いわゆるビッグデータ時代が到
が刊行された5)。そこには,特に自然科学を中心と
来したのである1)~ 3)。
した研究アプローチの変遷が簡潔にまとめられてい
ビッグデータがバズワード(b u z z w o r d)となる
る。太古の時代での自然現象を記述する
「経験
(主義)
」
前には,Smart Cityや CPS(Cyber Physical System)
から,自然現象をモデル化し,それを汎 化 する「理
が,社会イノベーションに資するICT(Information
論研究」の登場,また,計算機の出現が促した複雑
and Communication Technology)としてよくメディ
な現象をシミュレートする「計算的方法」の台頭の後,
アに取りあげられていた。一昨年あたりからは,I o T
まさに今,「データ中心科学」あるいは「データ駆動
(Internet of Things),インダストリー 4.0といった,
科学」ともいうべき新しい方法の誕生――第四のパ
通信やセンサーにより力点のある総合的な技術が注
ラダイムへのシフト――をわれわれは眼前にしつつ
目を浴びている。このようにI C T業界では流行語は1
あることが記されている。この数年の産業界の動き
年単位で変わっていくが,システム科学の視点とビッ
は,データ駆動科学を技術開発に積極的に応用しよ
グデータの利活用の重要性は一貫している4)。要は,
うというもので,それを本稿では「データ駆動科学
これらの技術は,インターネットを神経に,神経内
技術」と呼ぶことにする。米国のマテリアル・ゲノム・
を走る信号をビッグデータとした,社会インフラを
イニシアチブ6) に代表される,マテリアルズ・イン
はん か
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フォマティクスにかかわる国家研究プロジェクトも,
近年,研究対象の複雑さやその機能の多様性から,
その考えの具現形といえる。
それらの表現に利用する数理モデルに含まれる変数
このように,データ駆動科学技術の重要性は国外
の次元(自由度)が顕著に高くなっている。モデル
では十分に認識され大型研究開発プロジェクトが始
の柔軟性を増大させるとともに,将来の環境下での
動しているのに対して,国内においては,その革新
モデルの頑 健 性(予想外の外界変化にもある程度適
的時代性の理解は一部の研究領域にとどまっている
応できる能力)も担保させるために,多種の複雑な
ようにみえる。その主たる原因は,日本は諸外国と
拘束条件が課されることも普通である。その結果,
比してビッグデータの本格的な利用に必要な人材の
変数値の同定や対象挙動の将来予測には近似計算が
系統的な教育システムが脆 弱 であるため,成長が見
必須となり,雑な言い方になってしまうが,超高次
込めるさまざまな分野に適切な人材を配置する余裕
元積分の唯一の救世主であるモンテカルロ計算の登
がないことにある7)。事実,国内において統計学を学
場機会は増すばかりである。ところが日本において
べる学科あるいは専攻は,統計数理研究所を基盤機
は,乱数を利用するモンテカルロ計算はなぜか日陰
関とする総合研究大学院大学の統計科学専攻のみと
の存在であった(と自虐的に筆者はとらえている)
。
いう,驚くべき状態である。3年ほど前に,データサ
その背景に,一般には唯一の解を正確に求めると期
イエンティストを増やす提言を本誌に執筆させてい
待されている科学計算に対して,“サイコロを振る行
ただいたが7),それ以降,ようやく滋賀大学にデータ
為” が,心理的に好まれていないことがある。
がん けん
ぜいじゃく
サイエンス学部が生まれつつある(2017年4月設置計
この確率的思考を忌避する傾向は,リスク解析の
画中)以外,大学や研究機関レベルで大きな取り組
研究動向にも見て取れる。リスク解析には,まず不確
みがいまだ見受けられない。
実性の把握を慎重に行い,次に多数の因子の変化を
未知の部分も含めて確率的な振る舞いとして記述す
る。外界との相互作用を切り離せない開放系や準開
3. 確率的思考とリスク解析
先日,ベクトル計算機の開発に著しい貢献のあっ
放系(図1)での問題設定となると,不確実性の表現
た三浦謙一先生(国立情報学研究所名誉教授)の擬
作業は数多くの困難をともなう8)。たとえば,人工物
似乱数の生成法に関する講演を聴く機会があった。
の利用上のリスク研究においては,外界(環境)との
優れた擬似乱数はさまざまな場面に有益であるが,
接触が開放系であることを大前提として,状況変化に
特に多重数値積分のためのモンテカルロ計算には直
柔軟に適応できる人工物の設計に力点が置かれてい
接的な効果がある。その講演の結論の1つが,大規模
る。外界の動きは未知である(われわれのもつ知識に
科学計算におけるモンテカルロ計算の有用性をもっ
は限界がある)ため,人工物機能の確率的構造を備え
と認識すべきでは,という問題提起であった。
たモデル化(便宜的かつ近似的表現)が必要となる。
モデル選択
準開放系
対立仮説 帰無仮説
モデルA
モデルB
最左は, 統計的検定で頻出する 2 つの仮説のみを検討する枠組み。 中央は, 多数のモデルの中から
1 つを選ぶ枠組み。 外界とは隔絶されている。 最右は, 外界と相互作用があるために, モデル選択が
機能しないケースを示している。
図1
図1 外界との相互作用の模式図
54
視点 ●データ駆動科学技術を担う人材の育成
人工物の活躍の場が準開放系だけでなく生活にまで
4. ユーザー主導と逆推論
深く浸潤してくると,人間の多様な価値観と接触せざ
統計学を記述する際の言語となる確率論は,偶然
るをえず,個々のユーザーの満足度(不満足度)を最
現象に対して数学的なモデルを与え,解析する数学
大限考慮した人工物の機能と性能が求められる。よっ
の1分野である。確率論(正確には確率解析)は,原
て今後は,その場,その時だけでなく,各ユーザーの
因(理論,仮定,モデル)から結果(実現値,データ)
満足度(不満足度)に適応できるかどうかも重要にな
を導く順問題(前向きの推論)といえる(図2)
。上
り,リスク解析はより複雑化する8)。
述したモンテカルロ計算もそうである。それとは反
不確実性の把握と表現以外にも難問は数多く残
対に統計学は,
データから原因を読み解く,
逆問題(後
る。リスクをもたらす源因子からその結果にいたる
向きの推論)を取り扱う。なお,ベイズの定理を用
パスが複雑になると,モンテカルロ計算なしにはリ
いると,その反転性から,順解析であるモンテカル
スク評価は実現不可能となる。にもかかわらずモン
ロ計算を逆推論に利用することが可能となる10)。こ
テカルロ計算は,その近似計算であるが故に,解析
の反転トリックこそが,数値シミュレーションと大
的計算による精度保証を期待するリスク評価には好
規模データ解析を統合するデータ同化の基礎となっ
まれない。また,生起可能性の評価にゼロを期待する,
ている8),10)
(図3)。
一般の方々の安全性リスクに関するリテラシーも問
ビッグデータの利用においては,そもそも順問題
題である1),8),9)。このように,確率的思考の明らか
の起点となる理論やモデルがない場合が多く,結果
な必要性と現実の差を目の当たりにすると,モンテ
から原因を探る逆推論(帰納的推論)が主役となる。
カルロ計算やリスク解析に代表される確率的思考は,
特に,EC(Electronic Commerce:電子商取引)サイ
高等教育レベルでしっかりと体得しておくことが望
トのビッグデータのように,データが購買行動など
まれる。教育カリキュラムにおいても,確率的思考
の個人の行動結果である場合は,個人ごとに逆推論
ができる科学的センスを磨くために,確率構造を利
をカスタマイズせねばならない。企業が提供する製
用して複雑な課題を近似的に解く演習がもっとあっ
品・サービスを個人ごとにカスタマイズする技術を
てもよいと思う。
「個人化技術」と呼ぶ。テーラーメード,
オーダーメー
ドのような形容詞が前についた,「コ」(個人・個性・
原因
順問題:確率解析
モデル,仮定
結果
データ,実現値
逆問題:統計学
図2 順解析と逆解析を模式的に示した図
x : 興味のある対象
y : データ
ベイズの反転公式
p( x | y ) =
逆解析
順解析:シミュレーション等
図2
p ( y | x ) p ( x )
∑ p( y | x ) p( x )
等号の右側と左側で, x と y の縦棒との相対関係が反転していることがわかる。 この事実により, ベイズの
反転公式と呼ばれる。
図3 ベイズの定理
図3
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個別・固有など)に特化した製品やサービスを提供
が 4),7),9), あ わ せ て 本 稿 で は, 確 率 的 思 考 や 逆
するための技術も個人化技術である1)。日本は順解析
推論を鍛錬する機会の少なさを課題として指摘し
(演繹的推論)の教育および研究推進に重点が置かれ
た。これ以外にもそのような人材には,応用分野
えんえき
ているため,ビッグデータの本格的利用に関して,
で問題を発見してアナリティクスの問題に落とし
特に産業界においては世界から大きく立ち遅れる可
込む力,また,アナリティクスの結果を現場に適
能性がある。そもそも社会,生活,産業においては
用して応用分野の成果につなげるためのコミュニ
逆問題解決の方が本質的であり,これまでの教育の
ケーション力も要求される。そのため,データサ
あり方に,初等教育を含めて議論が必要と思う11)。
イエンスを再定義すれば,「データから価値を見い
だす(引き出す)手法やプロセスの研究分野」と
5. ビッグデータ時代の科学的センスとスキル
大くくりにすべきであろう。データ駆動科学技術
ビッグデータ時代はさまざま分野において,データ
を振興するには,確率的思考と逆推論のセンスを
駆動科学技術のアプローチがイノベーションの推進
備え,生活者の視点や目線に立てる研究者がもっ
に大きな役割を果たしつつある。本稿ではその推進を
ともっと増えなくてはいけない。
担う人材に具備されるべき科学的センスについて私
次回は,データ駆動科学技術におけるAI(Artificial
見を披露した。データ駆動科学技術を担う人材には,
Intelligence)の役割を解説しながら,今後の科学研
当然ながら,データサイエンスの十分な習得が期待さ
究における人とマシンの関係を論説してみたい。
れる。ここでのデータサイエンスは
「アナリティクス」
,
つまり,統計学,機械学習,最適化,データマイニン
グ,自然言語処理などの統合領域を指す9)。残念なが
ら日本においては,データサイエンスを系統的に行え
樋口 知之(ひぐち ともゆき)
1984年東京大学理学部地球物理学科卒業。1989年同大大学院博士
る組織が少ないため,データ駆動科学技術を担う人
課程修了。理学博士。同年文部省統計数理研究所助手。以来,時系列
材が圧倒的に不足している7)。
システム研究機構理事・統計数理研究所長。日本学術会議情報学分野
この量的問題は一般にもよく周知されつつある
解析,ベイジアンモデリング,データ同化の研究に従事。現在,情報・
の連携会員。
参考文献
1) 樋口知之. ビッグデータと個人化技術. 統計. 2012, vol. 63, no. 9, p. 2-9.
2) 樋口知之. 木を見て森も見るビッグデータ解析技術. NHK技研R&D. 2014, no. 146, p. 16-26.
3) 樋口知之. 機械エンジニアのためのビッグデータの基礎知識. 日本機械学会誌. 2015, vol. 118, no. 1163, p. 610-615.
4) 樋口知之. スモールデータ,ビッグデータ,そしてスマートデータ:人口知能ブームの中での統計学. 統計. 2016,
vol. 67, no. 1, p. 9-14.
5) Hey, T.; Tansley, S.; Tolle, K. eds. The Fourth Paradigm: Data-Intensive Scientific Discovery. Microsoft Research. 2009,
287p.
6) "Materials Genome Initiative". https://www.whitehouse.gov/mgi, (accessed 2016-02-05).
7) 樋口知之. データ・サイエンティストがビッグデータで私たちの未来を創る. 情報管理. 2013, vol. 56, no. 1, p. 2-11.
http://doi.org/10.1241/johokanri.56.2, (accessed 2016-02-05).
8) 樋口知之. 統計学からのロボティクス研究への期待. 日本ロボット学会誌. 2015, vol. 33, no. 2, p. 68-71.
9) 樋口知之. ビッグデータが変える日常と非日常の境目. 電子情報通信学会誌. 2016, vol. 99, no. 1, p. 30-35.
10) 樋口知之. 予測にいかす統計モデリングの基本:ベイズ統計入門から応用まで. 講談社, 2011, 146p.
11) 樋口知之. 教育小景:生きる力を育む統計学. 中等教育資料. 2014, vol. 65, no. 5, p. 2-3.
56
リレーエッセー ●つながれインフォプロ
Building networks among info pros
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第 28 回 図書館,出前はじめました
浦 さ や か ,金 丸 明 彦 (長崎大学附属図書館中央図書館)
松 村 悠 子 ,宮 脇 英 俊 (長崎大学附属図書館経済学部分館)
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 57-60. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.57
長崎大学附属図書館では,「出前図書館」という新
たなサービスを開始した。
長崎大学には3つのキャンパスに3つの図書館(文
教キャンパス:中央図書館,坂本キャンパス:医学
分館,片淵キャンパス:経済学部分館)があり,そ
れぞれの図書館でサービスを行っている。本稿では,
この新しい取り組みについて,中央図書館・経済学
部分館の事例を中心にご報告する。
出前図書館を始める
図1
図1 貸し出し
・ 返却の専用機器
“司書にしかできない知の拠点で行うサービスを考
えよう” として,2015年10月,長崎大学に出前図書
館が誕生した。
2015年4月半ばに出前図書館というものの存在を知
り館内に広めるというタネをまき,4月終わり頃に出
前図書館の事業開始が承認され,若葉が芽吹き始め
る感がした。秋口にこの花を咲かせるために(出前
図書館事業スタート),開花までの約半年間に準備を
整え,入念なお手入れ(教員との協力関係構築や必
図1
要物品導入)を行ったのである。
タネをまき若葉を育てる期間に,兵庫教育大学附
属図書館での先行事例注1)を参考にするなどして事業
図図2 広報ポスター
2
の概要を練り上げた。館内で実施のゴーサインをも
らい,必要となる品々を用意した。出前本を運搬す
活動を行った(図1,図2)。
るカート,出前が実施されていることを目立たせる
図3
今ではオーダーメイド版と称している特定の授業
のぼりや看板,展示用品,貸し出し・返却の専用機
向けの出前のほかに,各学部の教室前などで貸し出
器(学生の出席管理用機器をカスタマイズした)な
すことで,特定の授業の学生だけではなく,通りか
どである。全学の教務委員会で報告し,その後広報
かったすべての学生を対象にしたサービスも加える
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ことにもなった。
その結果,2名の教員から10月に計3回の授業への
本学で行った出前図書館の概略は次のとおりである。
出前依頼があった。授業への出前(オーダーメイド
1.学部のエントランスや講義室などに図書を運ん
版)に際しては,事前に教員にヒアリングシートの
で,その場を即席のミニ図書館にする。
2.各学部の授業科目や全学教育科目に沿った内容
の図書を出前する。
提出をお願いし,授業内容を把握するとともに,教
員にも選書にかかわってもらった。また,図書館職
員選書分についても事前に教員に内容を確認しても
3.出前先のその場で貸し出し・返却手続きを行う。
らい,全部で40 ~ 50冊程度の図書を決定して出前に
4.選書した図書はNU-LibGuides(授業資料ガイド)
臨んだ。
に登録する。
いずれの授業でも,出前した図書について先生方
5.出前図書は,40~50冊程度を用意する。
が学生にその場で紹介してくださることにより,学
出前図書館を実施することで次のような効果を期
生の図書への関心が深まったようで,その場で手に
待した(図3)
。
とって読みふける学生や,実際に借りて帰る学生が
①授業の理解向上
いた。おそらく,われわれ職員が出前するだけでは,
②主体的な学習姿勢の確立
ここまでの関心は得られなかったと思う。
③読書意欲の増進
その後,1月に医学分館担当者と共同での出前図書
④学習意欲の向上
館も行った。こちらは,理系の教員が文系の学生に
⑤教員と連携した授業支援の確立
授業を行うという目的の授業で,中央図書館からは
⑥図書館貸し出し数の増加
一般的な図書を,医学分館からは貴重資料も含めた
図1
専門的な図書をそれぞれ出前した。
オーダーメイド版から少し遅れて,学部への出前図
中央図書館での出前図書館
10月からのサービス開始を前に,全教職員宛てに
書館も10月後半より開始した(図4)
。各学部注2)の学
メールでの広報活動を行った。また,学部掲示板へ
務担当者にお願いし,比較的人通りの多い場所を出
のポスター掲示によって,学生への周知も図った。
前場所として提供してもらった。出前は週に1回,い
図 図3 事業概要図
3
58
図
リレーエッセー ●つながれインフォプロ
中央図書館での出前実績は,表1のとおりである。
経済学部での出前図書館
8月にアクティブ・ラーニング型の授業をされてい
る教員と打ち合わせを行った。10月から1月までの毎
週の授業に,出前図書館を活用することで実現の運
びとなった。先生からも書架からの選書およびメー
ルでのリストアップをしていただき,早々に,図書
の選定を済ませ,蔵書にないものは購入し,2015年
図図4 学部への出前風景
4
10月8日(木曜日)2限目,経済学部で最初の出前図
表1 中央図書館での出前図書館実績
10月計
11月計
12月計
1月計
オーダーメイド版
合計
出前回数 出前平均冊数 貸し出し冊数 貸し出し人数
1回
49冊
7冊
6人
4回
45冊
3冊
2人
2回
54冊
5冊
5人
3回
50冊
4冊
4人
4回
57冊
30冊
23人
14回
51冊
49冊
40人
書館を実施した(図5)
。出前した図書は58冊注4)。
出前場所は経営戦略論を学ぶ約100名の学生たちで
授業中の利用 貸し出し冊数 貸し出し人数
10月計
23冊
4冊
3人
熱気に満ちた大講義室である。初日は授業の概要説
11月計
24冊
3冊
2人
1月計
9冊
5冊
4人
12月計
29冊
7冊
4人
明等で模様眺めの感があり,借りた人は1人だった。
合計
85冊
19冊
13
しかし,出前図書館をしなかったら貸し出されてい
なかっただろうと思うと,感慨深いものがある。ま
ずれかの学部に1時間というスケジュールだった注3)。
た,借りるまでには至らないケースでも,授業中に
出前する図書は40 ~ 50冊程度で,出前時間の前後
出前本を活用している姿を見るとやってよかったと
に行われている授業のシラバスを参考に,学生の興
実感した。授業の回数を重ねていくと,その進み具
味を引くような,学部の専門性に配慮した内容の図
合に合わせて,用意していく出前本に変化を与えた。
書を中心に選んだ。また,語学やレポート作成,文
たとえば,学習内容の中間発表のプレゼンテーショ
学の図書も混ぜるようにした。
ンが行われる予定の前週には,パソコンソフトのマ
図4
試験期直前の1月末まで,計10回の出前を行ったが,
ニュアル本やプレゼンテーションの仕方の資料を加
授業への出前に比べてなかなか学生が足を止めてく
れず,苦戦した。足を止めてもらえないものだから,
出前した図書の内容が適切なのかどうかも判断がつ
図5
かず,まだ手探り状態である。しかし,「何あれ。出
前図書館だって」と友人同士で話しながら通り過ぎ
長崎大学附属図書館中央図書館
る学生や,中には「どうして,この取り組みを始め
たんですか」と質問してくれ,「いい取り組みだと思
います。頑張ってください」と声をかけてくれる学
生にも出会えた。また,通りすがりの教員からも,
「次
表1
から事前に連絡してくれれば,自分から学生にアナ
ウンスするよ」と声をかけてもらえることもあった。
このように貸し出し冊数は少ないながらも,図書館
への関心をもってもらえたことで,この取り組みを
始めたことに意義を感じることができた。また,あ
りがたいことに,地元新聞に取り上げてもらうとい
下段左右 : 出前本を選ぶ学生たち
図5
上段 : 授業中に出前図書館を紹介する教師
ううれしい出来事もあった。
図5 経済学部の出前図書館
長崎大学附属図書館中央図書館
表2
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えたりした。多くの資料が授業中に利用されていた。
図書館にいるだけでは決してこの光景は見ることは
最後に
2015年度に長崎大学図書館で初めて実施した出前
できなかったわけである。授業に貢献できた図書館,
図書館。1年目には小さな花が咲いたように思える。
図書館から飛び出した資料たち,学生たちが図書館
この花にとまってくれた学生さんたち,この花を咲
に行かなくても,その授業に関連する資料を手にで
かせる花壇を貸してくださった先生方には感謝を申
き,読んで,知識を増やしていくことができる環境
しあげたい。今年はまだ小さかったけれども,来年
を作ってあげられたことに新しい息吹を感じた。
度はこの花にできたタネからもう一回り大きな花を
経済学部での出前図書館の回数は11回(10月8日~
1月14日)だった。貸し出しは19冊という冊数であっ
咲かせてみたいと思っている。どのような花になる
かこれから楽しみである。
たが,授業と連携したので,授業中の利用85冊と合
わせたら,初年度としてはまずまずの結果だったか
なと思う(表2)
。
経済学部では秋からの4か月間,木曜日2限目にキャ
ンパス内を,ブックトラックを押して講義室に向か
う私たち図書館員の姿が恒例となった。この出前図
参考調査担当,図書情報担当を経て,2014年7月より再び参考調査
担当へ。「記憶に残るガイダンス」とは何か,模索中。
金丸 明彦(かなまる あきひこ)
図書館在職期間の大半をサービス課で勤務。現在は,参考調査業務
書館を知ったある教員から,「あまり図書館に行かな
を担当し,貴重資料利用関連業務も兼任している。
い学生だけでなく,図書館に毎日行く学生にとって
松村 悠子(まつむら ゆうこ)
も,まとめて関連する本が見られる意義がある。大
学の学びでは,いろいろな本を,意見の違う本を読
み比べる必要がある。とてもよいきっかけになる」
という好意的なご意見をいただいた。
表2 経済学部での出前図書館実績
し人数
6人
2人
5人
4人
23人
40人
浦 さやか(うら さやか)
10月計
11月計
12月計
1月計
合計
機関リポジトリ担当,医学分館を経て2015年7月より経済学部分館
で主に目録業務を担当。図書館史に興味がある。
宮脇 英俊(みやわき ひでとし)
九州大学で12年,地元長崎への転勤を機に長崎大学に居座り16年。
電子図書館的業務や契約業務を長く担当。現在は経済学部分館勤務。
義務教育中の娘2人の成長を楽しみつつ,分館改修に備える日々。
授業中の利用 貸し出し冊数 貸し出し人数
23冊
4冊
3人
24冊
3冊
2人
29冊
7冊
4人
9冊
5冊
4人
85冊
19冊
13人
本文の注
60
注1)
Listen:兵庫教育大学附属図書館広報誌, vol. 9. http://hdl.handle.net/10132/15439, (accessed 2016-02-10).
注2)
長崎大学附属図書館中央図書館のある文教キャンパスには,多文化社会・教育・工学・薬学・環境科学・水産の
6学部がある。
注3)
出前スケジュールは図書館ホームページでお知らせしている。http://www.lb.nagasaki-u.ac.jp/use/cent/demae/,
(accessed 2016-02-10).
注4)
NU-LibGuides(授業資料ガイド):http://guides.lb.nagasaki-u.ac.jp/20151515004501, (accessed 2016-02-10).
情報論議 根掘り葉掘り ●偽書あれこれ
偽書あれこれ
名和小太郎
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 61-65. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.61
「これは本物か」という問いにたいしては3つのレ
高度の知的対話に参加できたはずはない――これが
ベルの答えがあるという。貨幣を例にとってみると,
プラトン支持派の主張である。いや,ソクラテスに
その第1は「贋金か否か」という社会的なレベル,そ
は美少年趣味があったからクセノポンは参加できた
の第2は「その成分は金か否か」という科学的なレベ
――これがクセノポン支持派の言い分である。前者
ル,その第3は「そもそも貨幣は存在するのか否か」
からみれば,クセノポンの『饗宴』はプロト偽書と
という存在論的なレベルであるという1)。
なる。
にせがね
しんがん
今回はこの真 贋問題について,書物を例にして追
いかけてみよう。
余談となるが,クセノポンは何度も国籍を変え,
対ペルシャ戦争においては将軍にもなったという
くせもの
曲者であった。筆も立った。
1. プロト偽書:『ソクラテスの弁明』『饗宴』
まず,偽書とはいわないが,プロト偽書といった
2. バロック的偽書:『ドン・キホーテ』
らどうか,そんな例を示してみたい。そもそも偽書
17世紀に発行されたこの本は,その高い評判とと
とはなにか。作者と作品のあいだに食い違いがある
もに,真贋論争という点にかけても一筋縄ではいか
ということだろう。具体的には,著者が他者の作品
ない存在である4)。これを岩根圀和の論考によって紹
を剽窃した,あるいは著者が他者の名前をかたった,
介しよう5)。『ドン・キホーテ』の原作は前編と後編
ということである。いずれにしてもオーサーシップ
の2部に分かれている。ところが,この両編のあいだ
がかかわる。
に贋作の後編が入っている。以下,前編,後編偽作,
ひょう せつ
そのオーサーシップは近現代に作られた概念であ
がんさく
後編真作と呼ぼう。
る。だが,そのプロトタイプとして,いがみ合った2
まず表紙。書名をみると前編は『才知あふるる郷
人のあいだの怨 念がプロト偽書を作らせたという例
士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』,後編偽作は
が紀元前からある。その中にプラトンとクセノポン
『後編:才知あふるる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・
おんねん
による作品群がある2)。
マンチャ』
,後編真作は『後編:才知あふるる騎士ド
2人はともにソクラテスの弟子であった。同時にと
ン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』となっている。
もに『ソクラテスの弁明』と『饗宴』という作品の著
作者名をみると,前編は「ミゲル・デ・セルバンテス・
者でもある。まずプラトンであるが,かれはいずれの
サアベドラ」
,後編真作では「前編の作者ミゲル・デ・
著書においてもクセノポンの名前を引用していない。
セルバンテス・サアベドラ」となっているが,後編
完全に無視している。クセノポンはこれを快く思わず,
偽作は「アロンソ・フェルナンデス・アべリャネーダ」
自分の著書でそのソクラテス観を示している3)。しか
と仰々しく名乗っている。そのアべリャネーダとい
もその文体をプラトンのそれに酷似させて。
う名前は今日ではたどれない。仮名らしい。
加えて,『饗宴』はB.C.416年に実施された行事の記
録であるが,この年にはクセノポンは14歳に過ぎず,
さらに当時の慣行としていずれもパトロン名を掲
げている。前編と後編真作が実在の貴族名を挙げて
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いるのに対して,後編偽作はドン・キホーテの出身
いるが,なぜかその作品にはウェルズへのクレジッ
地のお歴々を示している。加えて後編偽作の方は出
トが付いている。
版社も架空,また教会の出版許可も架空,というこ
とである。
さらにもうひとつ。オーソン・ウェルズのラジオ
番組「マーキュリー劇場」で放送された「火星人来襲」
しんかん
しからば『ドン・キホーテ』が成立した由来につ
(1938年)は全米を震撼させたが,それはH・G・ウェ
いてはどうか。前編ではこの物語は当初セルバンテ
ルズの
『宇宙戦争』
を再構成したものでもあった。オー
スが書いたということになっているが,途中でじつ
ソン・ウェルズは偽物作りの愉 しみに溺れていたの
は原作者が存在し,それはアラビアの歴史家ベネン
かもしれない。
たの
ヘリであると明かす。いっぽう後編偽作はそれをア
ラビアの賢者アリソランであるという。物語の筋書
3. 反体制的偽書:
『ショスタコーヴィチの証言』
きにしても,後編偽作は前編を受けているが,逆に,
20世紀ソビエトを代表する作曲家としてドミートリ
後編真作には後編偽作の設定したキャラクターが登
イ・ショスタコーヴィチがいる。かれは死の直前にそ
場したりしている。セルバンテスの筆が滑ったとい
の秘めた思いを語り,この記録を残したという7),8)。
うことだろう。
それは『ショスタコーヴィチの証言』
(以下『証言』
)
じつはセルバンテスもその偽作者も互いに相手を
それと認識し,いがみ合った関係にあったという。
そもそも音楽研究者のあいだにはショスタコー
セルバンテスは時代遅れの古典主義にしがみつく小
ヴィチの作品には隠された意味があるのではないか
作家であり,その相手の偽作者はバロック的作風を
という推測があった。たとえば柴田南雄は,交響曲
得意とする売れっ子の劇作家であった,という。贋
第7番(通称,
レニングラード交響曲)の「戦争の主題」
作が前編の評判を利用して稼ごうとしただけではな
はフランツ・レハールの「そこはとても気楽なのさ」
いらしい。
というパッセージそっくりだという見解を紹介しつ
にもかかわらず,セルバンテスはドン・キホーテ
自身に「拙者の物語は1,000の3万倍部も印刷された」
つ,この主題はモーリス・ラヴェルのボレロのパロ
ディーであるとも指摘していた9)。
と自賛させている。後年,バロック派の劇作品にも
『ド
『証言』には「私の交響曲はスターリンに粛清され
ン・キホーテ』のパクリはしばしば現れた。話が後
た芸術家――たとえば演出家フセヴォロド・メイエ
先になったが,バロックとは,いびつ,奇妙さ,不
ルホリド――への墓碑である」といった記述があっ
規則さなどを指す概念と解されている。
た。音楽ならば墓碑のように可視的ではなく,権力
* *
者の監視から逃れやすい。
余談を少々。20世紀の映画監督兼脚本家兼俳優で
ということで,『証言』は西側の研究者にすんなり
あったオーソン・ウェルズは『ドン・キホーテ』の映
受け入れられたかにみえた。いっぽうソビエト側は
画化を試みている6)。
結局は未完成になったようだが。
これを偽書であると真っ向から否定した。
そのウェルズだが,かれはずばり『フェイク』
(1973
問題は『証言』の出版手順にあった。まず,編者
年)という作品を発表している。その筋書きは,2人
ソロモン・ヴォルコフ――音楽ジャーナリスト――
の贋作者――画家とその伝記作家――が奔放に行動
がショスタコーヴィチに面接してかれの会話を録音
し,かれらの姿をウェルズ自身が画面に顔を出し巧
し,さらにそれをタイプ原稿に編集し,最後にそれ
みに語る,という仕掛けになっているらしい。
をショスタコーヴィチ自身が確認したうえで署名し
ついでにいうと,ウェルズはチャールズ・チャッ
62
として1979年に出版された。
た,という。
プリンの『殺人狂時代』
(1947年)の原案作者でもあっ
原稿はスイスの匿名金庫に保管されていたが,ヴォ
たという噂もある。チャップリンはそれを否定して
ルコフは1976年に西側に亡命し,ショスタコーヴィ
情報論議 根掘り葉掘り ●偽書あれこれ
チの死後その英語訳を出版した。なぜか著作権は編
が実施した核実験によって,ハイアイアイ島もろとも
者に与えられていた。
消えてしまった。そのときに何回目かの現地調査を
ここで西側でも偽書論が現れた。各章の第1ページ
していたシュテュンプケも巻き込まれてしまった。た
とされる署名入りの原稿が,じつは若き日にショス
だしかれは調査前にそれまでの調査ノートをシュタ
タコーヴィチが書いたものの転用ではないか,とい
イナーに手渡していた。それがこの書物となった。
う指摘である。この後,偽書論と反偽書論との論争
この書物は,種の命名法,解剖図の書きぶり,引
がくり返されている。ただし研究者のあいだでは偽
用と脚注の付け方,参考文献表と索引の形式など,
書論ということで,決着はついたようだ
すべてが学術的なモノグラフの体裁をもっている。
。
注)
20世紀の音楽研究は楽譜中心,構造分析に集中し
しかも専門家がレビューもしている。
てきたが,この論争はその音楽研究の中にとんでも
この書物については,多くの紹介が新聞の文化欄
ないテーマ――反体制論,イデオロギー論,倫理論
や専門誌の書評欄に寄せられた。だが,それら書評
など――を持ち込むことになった。
の1つが読者の1人に疑問を引き起こした。その読者
ここで非専門家ではあるが,私の意見を示してお
は投書した。これはどうみても偽りの書物だ。行動
きたい。ショスタコーヴィチは偽書という形で,自
心理学の専門家がたくらんで読者の反応を観察して
分の本音を伝えたかったのではないか。自分で自分
いるのではないか。手の込んだ社会実験ではないか。
名義の偽書を作る。誰がみても偽書の形になってい
じつはこの本はシュタイナーによる知的な遊びで
れば,権力者であってもいかんともしがたい。ウン
あり,鼻行類はそもそも実在しない動物であった。
ベルト・エーコは,かつて本欄でも触れたことがあ
あらためてこの書物を見直すと,引用文献には架空
るが,
「自分は自分名義の偽書を書いたことがある」
のものもあり,学名にはラテン語の語法に合わない
と述懐している
ものもあった。さらにいえば,シュテュンプケはシュ
。(くどいが素人論議の根拠。晩年
10)
の交響曲第15番は,作曲家自身によるO p .141よりも
タイナーの筆名であった。
編曲者によるO p .141 b i sの方がより告白的に聞こえ
これらの事実は1988年にカール・D . S .ゲーステに
る。晩年のショスタコーヴィチにとってはオーサー
よって明らかにされた。かれは『鼻行類』に対するあ
シップなどどうでもよかったのではないか。)
れこれの反応――上記の読者の投稿を含む――を編集
し,これにかれの疑似科学論を加えて出版した12)。も
4. 疑似科学的偽書:『鼻行類』
ちろんシュタイナーの了解を得たうえで。
ここで科学的なレベルの偽書論に移る。1972年,
ドイツで『鼻行目の構造と生活』というモノグラフが
刊行された11)。序文によれば,
著者ハラルト・シュテュ
ンプケは無名の研究者であったが,その遺稿を著名
5. カルチュラル・スタディ的偽書:「境界を侵
犯すること」
最後は存在論的なレベルの偽書について。1996年,
な動物学者G・シュタイナーが整理してこの書籍に仕
物理学研究者のアラン・ソーカルは「境界を侵犯す
立てたという。この書籍は直ちにフランス語,英語,
ること」という論文を『ソーシャル・テキスト』に
そして日本語に翻訳された。いずれの翻訳について
投稿した13)。このソーカル論文には「量子重力の変
もそれぞれの国の著名な研究者が関与している。
形解釈学に向けて」というサブタイトルが付けられ
後書きによれば,この書物は新しく発見された哺
ていた。ソーカルはこの論文で,
「ポストモダン科学」
乳動物である「鼻行類」についての報告である。そ
という概念を示し,それは非線型性,非連続性を特
の鼻行類は南太平洋にあるハイアイアイ島――第2次
徴とし,既存の専門分野の境界を侵害し,既存の知
大戦中に日本軍により発見された――にガラパゴス
的秩序を破壊するものであると主張した。
化して生存していた。だが,その小動物は戦後某国
この論文は109件の注と219件の引用文献をもって
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いた。引用の中には,ニールス・ボーア,ヴェルナー・
かわる。しかも著者はその偽物に,カルチュラル・ス
ハイゼンベルクからノーム・チョムスキーにいたる
タディ批判という本音を入れ込んでいた。だが,専
大家の業績もあった。なお,
『ソーシャル・テキスト』
門家集団は真の作品と見なしている。この入り組ん
はカルチュラル・スタディ系の学術誌であり,その掲
だ構造を「存在論的な偽書」
,
と解してもよいだろう。
載論文はその領域の厳密な査読を経たものであった。
この論文は評判となった。
『ガーディアン』は「現
たわごと
代フランス哲学は古臭い戯言の山である」と肯定的な
6. 真作なしの偽書:『亜書』
これは日本の話だが,
2015年より『亜書』
(全112巻)
評価をした。
『リベラシオン』は「ラブレターの文法
というタイトルをもつ書籍が小さな出版社から刊行
的な間違いを直す無粋な科学者の奴ら」と反発した。
されつつある16)。1巻の価格は6万4,800円である。こ
問題はこの論文がパロディー論文だったというこ
の本は国会図書館に納本され,その価格の半額が納
とにあった。それをソーカル自身が論文の出版後に直
本の対価として出版社に支払われつつある。出版社
ちに暴露したのであった。ソーカルは,これによって
は,著者のアレクサンドル・ミャスコフスキーは架
『ソーシャル・テキスト』を拠点とする研究者集団を
空の人物である,と説明している。
からかったわけだ。かれの底意は,カルチュラル・ス
新聞報道によれば,この書籍はA5サイズで480ペー
タディの分野では,引用を組み合わせれば,ナンセン
ジのハードカバー。各ページには縦12センチ,横9セ
スも学問になる,と嘲笑することにあったようだ。
ンチの枠内にギリシャ文字やローマ字がランダムに
ちょうしょう
なぜ,このパロディー論文が査読を通ってしまっ
たのか。査読者には,論理が通っており,引用文献
並べられ,ノンブルは振られておらず,全く同じ内
容のページもある。
が実在すれば,その論文を信用してしまう,という
じつはdhcmrchtdjという意味不明の文字列をもつ
思い込みがあったようだ。これがデータの信頼性や
文書を収蔵している図書館がある。J・L・ボルヘス
仮説の反証可能性にこだわる物理学の研究者には耐
の示した『バベルの図書館』がそれである17)。この
えられなかったのだろう。物理系と社会系とのあい
図書館には,あらゆる文字列をもつ書物が所蔵され
だに引用法の理解について齟 齬があったということ
ている。まず,古今の書籍,つぎにそれらの誤植あ
になる14)。
りの版,さらには乱丁,落丁ありの版もある。その
そ
ご
この後,人文系の研究者のあいだではソーカルの
ような書籍群を『亜書』は意図的に創作したことに
ルール違反を責める意見が飛び交った15)。肝心の
なる。その大部分は真作なしの偽書となるだろう。
『ソーシャル・テキスト』の方は情緒的な反応をした
だけである。
これを究極の偽書といってもよいだろう。
『亜書』は,たぶん,少数のパソコンで制作された
社会学の分野でも,すでに数年前に『ビヘイバラル・
作品であろう。電子化の時代にあっては,真作なし
アンド・ブレイン・サイエンス』掲載の1論文は査読
の偽書を容易に出版できるということか。ゴースト
システムの再現実験をなし,誤りがランダムに生じ
ライターとゴーストオーサーが顔を利かす時代にな
る確率を計算したりしていた。だが,それに言及す
りつつある18)。2016年2月,国会図書館は『亜書』を
る研究者はいなかった。
図書ではないと決定し,納本対価の返却をもとめる
偽書論としてみると,この論文は面白い事例とな
こととした19)。
る。著者はパロディーだと主張している。パロディー
64
とは,誰かの作品の模倣,引用,パスティーシュ,パ
注)『ショスタコーヴィチの証言』の偽書論争につ
ラフレーズ,アプロプリエーション,つまり偽物とか
いては船山隆,中田朱美両氏にご教示をいただいた。
情報論議 根掘り葉掘り ●偽書あれこれ
名和 小太郎(なわ こたろう)
焼け跡闇市派の世代。東京大学理学部卒。工学博士。タテ社会をヨ
コ歩きして,現在は情報セキュリティ大学院大学特別研究員。専門は
情報政策論。著書に『技術標準対知的所有権』
(中央公論社),
『起業
家エジソン』(朝日新聞社),『学術情報と知的所有権』(東京大学出版
会),『個人データ保護』
(みすず書房)など。
参考文献
1) 磯貝友紀ほか, 西野嘉章編. “揺れ動く「真」と「贋」”. 真贋のはざま:デュシャンから遺伝子まで. 東京大学出版会,
2001, p. 8-30.
2) Wikipedia. "Xenophon". https://en.wikipedia.org/wiki/Xenophon, (accessed 2016-01-29).
3) 高橋睦郎. 哲学5:クセノポンとは誰か. 図書. 2015, no. 800, p. 58-63.
4) Wikipedia. "Alonso Fernández de Avellaneda". https://en.wikipedia.org/wiki/Alonso_Fern%C3%A1ndez_de_
Avellaneda, (accessed 2016-01-29).
5) 岩根圀和. 贋作ドン・キホーテ:ラ・マンチャの男の偽者騒動. 中央公論社, 1997, 222p.
6) Wikipedia. "Don Quixote (unfinished film)". https://en.wikipedia.org/wiki/Don_Quixote_(unfinished_film), (accessed
2016-01-29).
7) 水野忠夫. “訳者あとがき”. ショスタコーヴィチの証言. ヴォルコフ, ソロモン編. 中央公論社, 1980, p. 420-424.
8) Wikipedia. "Testimony". p. 509-514. https://en.wikipedia.org/wiki/Testimony_(book), (accessed 2016-01-29).
9) 柴田南雄. ショスタコーヴィチの「回想録」.海. 1980, 6月号, p. 21.
10) エーコ, ウンベルト; カリエール, ジャン=クロード著; 工藤妙子訳. もうすぐ絶滅するという紙の書物について. 阪急
コミュニケーションズ, 2010, 472p.
11) シュテュンプケ, ハラルト著; 日高敏隆, 羽田節子訳. 鼻行類:新しく発見された哺乳類の構造と生活. 博品社, 1995,
120p.
12) ゲーステ, カール D. S. 著; 今泉みね子訳. シュテュンプケ氏の鼻行類. 博品社, 1996, 151p.
13) ソーカル, アランほか著; 田崎晴明, 大野克嗣, 堀茂樹訳. “境界を侵犯すること”.「知」の欺瞞. 岩波書店, 2000, p . 281338.
14) 名和小太郎. 学術情報と知的所有権. 東京大学出版会, 2002, 400p.
15) 村上陽一郎, 野家啓一. サイエンス・ウォーズ. 現代思想. 1998, vol. 26, no. 13, p. 34-51.
16) 塩原賢, 竹内誠人. 1冊6万円謎の本,国会図書館に「代償」136万円. 朝日新聞DIGITAL. 2015-11-01. http://www.asahi.
com/articles/ASHBY3VSMHBYUCVL008.html, (accessed 2016-01-29).
17) ボルヘス, J. L. 著; 鼓直訳. “バベルの図書館”. 伝奇集. 岩波書店, 1993, p. 103-117.
18) 名和小太郎. ゴーストライター,そしてゴーストオーサー . 情報管理. 2015, v o l . 58, n o . 5, p . 389-392. h t t p : / / d o i .
org/10.1241/johokanri.58.389, (accessed 2016-01-29).
19) 国立国会図書館収集書誌部.『亞書』の返却及び代償金返金請求について. 2016-02-02. h t t p :/ / www.n d l .go .jp / jp /
news/fy2015/1214208_1830.html, (accessed 2016-02-03).
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渡 辺 治 (東京工業大学情報理工学院)
コンピューターサイエンスを教養に
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 66-68. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.66
コンピューターサイエンスの研究者として,コン
ンピューターは理解できない。たとえば,これが車
ピューターのこと,コンピューターサイエンスのこと
だったら,その使い方(つまり運転)を習熟してい
を,世の中の人々に知ってもらいたいと思っている。
くうちに,車ってこういうもんだなぁ,ということ
その気持ちを込めて3冊の本を紹介させていただく。
がわかってくるだろう。残念ながら,ワープロソフ
技術者や研究者なら誰でも,自分の分野を知って
トに習熟してもコンピューターへの理解は得られな
もらいたい,という気持ちはあるだろう。そうした
い。それは,コンピューターの見え方が,あまりに
自然な動機もあるが,コンピューターのことを知っ
多様だからだ。そのうえで走るソフトによって,コ
てもらいたい,という背景には,「知ることが多くの
ンピューターの用途や役割が大きく変わってしまう
人びとのためになる」という信念も少なからずある。
からである。1つの使い方に慣れたとしても,それは
前置きが長くなるが,まずはその信念の一端から話
それ。まったく違った使い方が,ある日,突然出現
を始めよう。
してくるのである。
使い方のノウハウを学ぶことは必要だ。けれども,
急速に日常化したコンピューター
私たちは日々,コンピューターと接して暮らして
いる。これは専門家のことではない。今や高校生以
それだけに追われる人が多い,コンピューターが何
者であるかを知らないまま,ただ「使う」ことに振
り回されている人が,少なくないように思う。
上でスマホ等の情報端末を1日中触らない人は少数派
だろう。そのスマホも立派なコンピューターである。
このようにコンピューターの利用は私たちの日常に
なっている。
大抵の場合,ものを作って提供するのは,その業
種のプロであり,その他の人はそれを買ってきて使っ
たとえば,1996年頃だと,まだコンピューターは
たり,消費したりする。しかし,コンピューターに
少し特別なものだった。この20年間にあっという間
代表される情報処理技術の特徴は,誰もが比較的簡
に日常化してしまったのである。20年は決して短く
単に「作り手」になれることである。
はないが,たとえば,水道や電気,あるいは交通網
もちろん,コンピューターやスマホは工場で生産
のようなインフラと比べると,それらが普及してき
される。また,基本ソフトや本格的なアプリは専門
た歴史とは桁違いに短い期間に普及したといえるだ
家が開発している。けれども,人々が,便利だ,あ
ろう。
るいは,面白い,と思うものを情報処理の分野で開
人々は,急速に生活の中に入り込んできたコン
発できるのは専門家だけではない。たとえば,お小
ピューターと付き合わねばならなくなった。そのた
遣い帳として使いやすいE x c e lのシートはアマチュア
め,巷 にはコンピューターのノウハウ本が大量に出
でも作れるし,それは多くの人に使ってもらえるか
回っている。けれども使い方のノウハウだけではコ
もしれないのだ。
ちまた
66
使う側にいるだけではもったいない
この本!おすすめします ●コンピューターサイエンスを教養に
情報処理技術はまだまだ発展途上である。思いも
つかない応用が生まれる可能性に富んでいる。だか
ら,常に使う側にいるだけではもったいない。多く
『思考する機械 コンピュータ』
ダニエル・ヒリス著;倉骨彰訳
草思社文庫,2014年,830円(税別)
の人が,いろいろなレベルで,役立つ道具や,人を
ひ
惹きつけるアイデアを提案できるのである。
しかしながら,日本では,情報処理技術に関しても,
「作るのは専門家」「自分たちは使う人」という固定
観念が支配しているように危惧している。さらには,
WindowsやMac,iPhoneの影響で,
「生産者は米国」
「日
本は消費する側(使う側)」という風潮さえある,と
き ゆう
思うのは私の杞憂だろうか。
コンピューターとその上で行われる情報処理につ
いて,より多くの人が,もう少しよく知るようになっ
たら,「こんな道具」や「あんな使い方」を,いろい
ろな立場の人が提案できるようになるだろう。もっ
と面白い社会になると考えるのである。
コンピューターを知るための本
http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_2058.html
『CODE コードから見たコンピュータのからくり』
Charles Petzold著;永山操訳
日経BP社,2003年,2,500円(税別)
以上の考えのもと,この記事の主な読者である情
報処理技術の関係者の皆さんに,皆さんの周辺の一
般の方々にお薦めいただきたい本を紹介させていた
だく。
その1番目が『思考する機械 コンピュータ』であ
る。コンピューターというと電子機器という側面に
ついつい目が行ってしまう。コンピューターを知る,
とは言っても,実はコンピューター上で実現されて
いる情報処理の本質を知ることの方が重要である。
そして,それは電子機器とは独立なのである。本書は,
情報処理の本質にかかわる概念や考え方を,電子機
器についての回り道をせず,単刀直入に,かつ具体
http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/books/579100.html
的な実例を使いわかりやすく説明している。だから
といって,説明ばかりにならずに,著者の経験や逸
れた情報を処理する機械」という観点から,その処
話などを交え,読み物としても優れている。
理の仕組みを丁寧に,そして深く解説した本である。
もちろん,コンピューターの電子機器としての側
薦めておいて申し訳ないのだが,ちょっと変わっ
面も重要ではある。抽象的な本質論だけでなく,
なぜ,
た本なので,万人向けではないかもしれない。じっ
現在のコンピューターのような仕組みに落ち着いた
くり読む暇があり,かつ頭が十分柔らかい若者向け
のかを知ることも大切だ。その観点からお薦めした
の本である。この本の虜 になる若者はきっといるは
いのが,
『C O D E コードから見たコンピュータのか
ずで,そういう彼・彼女らは,日本を変える原動力
らくり』である。コンピューターを「二進列で表現さ
になるはずである。
とりこ
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なぜ,コンピューターサイエンス
さらにもう一歩進めて,私は,コンピューターサ
教科書ではあるが,多くの人に手に取って読んで
もらいたい,という思いから,新書版で出版する,
イエンスを教養として学ぶべきことの1つに加えるこ
という冒険を試みた。そのため(特に教材として使
とを提案したい。
う最初の4章は)説明的で,読み物としては少々硬い
私たちは,なぜ,物理,化学,生物などを教養と
本になってしまったかもしれない。読みにくいとこ
して学ぶのだろう。自らの将来の仕事に関連する可
ろは適宜飛ばして,計算世界観を語っている後半の5,
能性があるから,という実利面だけではない。自然界,
6章を気楽に読んでいただければと願っている。
もっと大げさにいえば私たちを取り巻く世界の見方
を与えてくれるからである。物理なりの,生物なりの,
それぞれの学問分野の世界観は,人として生きてい
くうえで大切な見方なのである。
『コンピュータサイエンス 計算を通して世界
を観る』
渡辺治著 丸善出版,2015年,1,000円(税別)
情報処理技術の核となる学問分野であるコン
ピューターサイエンスも同様だ。これまでの理系科
目とは異なる,新たな見方を与えてくれる。だから
一般の人々にとっても重要なのだ,と主張したい。
あえてひとことでいえば,情報処理の本質は「計算」
である。ただし,ここでの「計算」とは,単純な演
算や判断の組み合わせで表される処理の総称であ
る。コンピューターサイエンスは,さまざまなこと
をいかに「計算」として表すかを研究する学問であ
る。つまり,コンピューターサイエンスでは,物理
現象でも,生命現象でも,社会現象でも,すべてを
「計算」としてみようとする。私たちは,この見方
を「計算世界観」と名付けた。英語でComputational
Thinkingと呼ばれている考え方もそれに近い。
http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/news_
event/2015/108972.html
計算世界観は,これまでにない新たな見方であり,
情報処理の本質をさらに深く理解するためにも重
要な見方である。だからこそ,人は教養としてコン
ピューターサイエンスを学び,計算世界観の考え方
にふれてほしいと考えるのである。
東工大では,1995年からコンピューターサイエン
スを理系教養科目の1つとして,全学の1年生に教え
てきた。その中で,コンピューターサイエンスのエッ
センスを教える工夫をいろいろと生み出してきた。
計算世界観という考え方も,そうした活動の中で形
になってきたのである。それらを再検討し,新たな
教科書としてまとめたのが『コンピュータサイエン
ス 計算を通して世界を観る』という本である。
68
渡辺 治(わたなべ おさむ) watanabe
is.titech.ac.jp
ORCID: http://orcid.org/0000-0003-0284-7566
1958年生まれ。1980年東京工業大学理学部情報科学科卒。工
学博士(1987年)
。1997年より,東京工業大学教授。現在,東京
工業大学情報理工学院所属。計算の理論,主に計算複雑度の理論
とアルゴリズム理論の研究に従事。グローバルC O E「計算世界観
の深化と展開」
(2007-2011)拠点リーダー,科研費新学術領域「計
算限界解明」
(2012-2016)領域代表などを務める。電子情報通信
学会,情報処理学会フェロー。
情報界のトピックス
情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 69-70. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.59.69
米国で「Open eBooks initiative」が本格ス
なデータベースから回答を探し出して意思決定支援
タート
を行うシステム。2011年には米国の人気クイズ番組
米ホワイトハウスは2月24日,低所得家庭の子ども
「ジェパディ!」で勝利して話題になっている。I B M
に電子書籍を無料提供する「Open eBooks initiative」
はソフトバンクと共同で,日本の起業家やアプリケー
を本格スタートしたことを発表した。このイニシア
ション開発者,イノベーターに向けて,Watsonの日
チブは,オバマ大統領が2015年4月に発表した,低所
本語A P I(アプリケーション・プログラミング・イン
得家庭の子どもの学習機会強化のためのイニシアチ
ターフェース)を提供する。このA P Iでは,
「自然言
ブの1つ(本誌vol. 58, no. 3の本欄にて既報)。米国博
語分類」(質問が異なる方法でなされても回答を見つ
物館・図書館情報サービス機構(Institute of Museum
け出す),「対話」(質問をするときの個人的なスタイ
and Library Services: IMLS)の支援と,5大出版社と
ルに合わせた会話を生み出す),「検索およびランク
独立系出版社数社の協力を得て,人気のある電子書
付け」(データ内にある「信号」を検知し,機械学習
籍約1万タイトルを今後3年間無料で提供する。電子
を活用して,情報検索を向上させる)などの言語ソ
書籍の閲覧には,スマートフォンやタブレットで利
リューション,
さらに「音声認識」や「音声合成」といっ
用できるアプリを使うが,このアプリを利用するた
たスピーチソリューションが含まれている。
めには,低所得児童への財政支援の指定校の教師や,
(http://www-03.ibm.com/press/jp/ja/pressrelease/49119.
低所得家庭の子どもの利用が多い図書館などの職員
wss) (accessed 2016-03-04).
による登録が必要である。公開される書籍の選定は
全米の図書館司書らによって行われる。Open eBooks
Twitter,ISIS関連アカウントを大量に凍結
Initiativeの運営は,ニューヨーク公共図書館(New
米Twitterは2月5日に公式ブログ上で,2015年中ご
York Public Library: NYPL),米国デジタル公共図書館
ろ以降だけで12万5,000件以上のアカウントを凍結
(Digital Public Library of America: DPLA),NPOのFirst
し,その多くがI S I Sに関連するものだったと発表し
B o o kの提携により行われており,ニューヨーク公共
た。また,ユーザーからの報告を確認するための担
図書館が閲覧アプリの開発,米国デジタル公共図書
当者を増やして,応答時間を大幅に短縮しているこ
館が書籍の選定,First Bookが利用登録をそれぞれ担
とも明らかにした。Twitterのルールでは,
「脅迫やテ
当している。
ロ行為の助長を含め,暴力行為を行うという脅迫ま
(https://www.whitehouse.gov/blog/2016/02/23/
たは暴力行為の助長」を行うアカウントは一時的に
now-available-library-opportunity) (http://www.
ロック,または永久に凍結するとしており,同社で
openebooks.net/) (accessed 2016-03-04).
はフィルタリングツールを活用して,このルールに
違反しているアカウントを見つけ出し,凍結などの
IBM「ワトソン」日本語版,提供開始
日 本I B Mは2月18日, 同 社 の コ グ ニ テ ィ ブ・ コ ン
ピューティング・システム「W a t s o n」(ワトソン)
措置を行っているとしている。
(https://blog.twitter.com/2016/combating-violentextremism) (accessed 2016-03-04).
の日本語版サービスの提供を開始したと発表した。
Watsonは人間の自然言語による質問を理解し,膨大
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電子公報以前の特許文献テキストデータ等を順
店」と回答した。また紙・電子書籍の両方で読書し
次公開
ている人では,54%が「紙の方が多い」と回答して
特許庁は,2月29日より電子公報以前の日本の特
いる。この結果から,紙書籍を書店で購入するとい
許・実用新案文献について,フルテキストデータが
う従来型の読書スタイルが依然として根強いことが
J-PlatPatで順次表示可能になると発表した。特許庁は
わかる。この調査は日本の20〜59歳の男女2,201人を
電子公報以前の公開特許公報等についてO C Rフルテ
対象にインターネットにより実施された。
キストデータ等の蓄積を進めている。また2016年1月
(https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1529.html)
以降に起案された拒絶理由通知等で引用された,電
(accessed 2016-03-04).
子公報以前の特許公報等については,フルテキスト
データを人手で順次作成しており,拒絶理由通知等
の起案から原則約7〜8週間で表示可能になるとして
4K・8K放送の「コピー禁止」検討に反対の動き
一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)
いる。今後,出願人等はJ-PlatPatで文献番号を入力す
は2月3日, 主 婦 連 合 会 と 共 同 で, 意 見 書「4K・8K
ることにより,フルテキストデータを参照できるよ
放送における『コピー禁止』の運用について」を一
うになる。
般社団法人 次世代放送推進フォーラム(N e x T V - F)
( h t t p s : / / w w w. j p o . g o . j p / t o r i k u m i / c h o u h o y u /
に 対 し 提 出 し た と 発 表 し た。 こ れ は2015年12月 に
chouhoyu2/h280229_fulltext.htm) (accessed 2016-
N e x T V - Fの公表した技術資料が,一般的な4K・8K放
03-04).
送の録画禁止を検討していることを示す内容になっ
ていたことをうけたもの。意見書では,コピー禁止
電子書籍利用横ばい,根強い紙書籍
70
は不正利用対策として有効でないばかりか,一般視
M M D(モバイルマーケティングデータ)研究所は
聴者が不便を強いられることを指摘。「無料放送およ
2月25日,
「2016年電子書籍および紙書籍に関する調
び公共放送における4K・8K放送は国民の資産である
査」の結果を発表した。これによると,電子書籍を
電波を用いて行われる公共的なサービス」であり,
「現在利用している」人は無料コンテンツで22.9%(無
現在の地上デジタル放送と同じように「コピー禁止」
料コンテンツ未利用:61.1%,試しに利用してみた程
は「運用不可」とするよう求めている。N e x T V - Fは
度:16.0%)
,有料コンテンツは16.5%(有料コンテ
4K・8K放送等の実用化に向けた実証・試行的な放送,
ンツ未利用:75.5%,試しに利用してみた程度:7.8%)
サービスの開発と普及を推進することを目的として,
と前年比横ばいとなり,普及が進んでいない現状が
2013年に設立された。
明らかになった。紙書籍については,83%が「紙書
(http://miau.jp/1454488105.phtml) (accessed 2016-
籍で読書をしている」と回答し,購入先は85.5%が「書
03-04).
PINUP
科学技術総合リンクセンター
「J-GLOBAL」をリニューアル!
科 学 技 術 振 興 機 構(J S T) は2016年3月28日
「情報管理」vol. 1 ~ vol. 23
(1958年1月号~ 1981年3月号)を公開
に「J - G L O B A L」 を リ ニ ュ ー ア ル し ま し た。
J - G L O B A Lは,J S Tがこれまで体系的に整備して
きた10種類の科学技術情報(研究者,文献,特許,
研究課題,機関,科学技術用語,化学物質,遺伝子,
科学技術振興機構(J S T)は,2016年3月16日,
資料,研究資源)を登載し,それらを統合的に検索
17日に創刊号からの23年分,3,631記事をJ-STAGE
できるサービスです。
に登載し公開しました。
こちらのURLからご利用ください。
http://jglobal.jst.go.jp/
■J-STAGE「情報管理」
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/johokanri/-
リニューアルの主な内容は以下のとおりです。
char/ja/
■化学物質情報,資料情報の拡充
日本化学物質辞書We b(日化辞We b),J S T資料
■誌名の変遷
所蔵目録We b検索システム(O PA C)という2つの
「月刊J I C S T」として創刊されてから下記のよう
サービスをJ - G L O B A Lに統合し,登載情報を拡充
に雑誌名の変遷がありましたが,全記事を同一サイ
しました。化学物質情報にはスペクトル情報など連
トに登載しました。各号の号タイトル欄に当時の誌
携データベースへのリンクや物質の代表的な用途な
名を表示しています。
どの情報を追加し,化学構造検索機能も利用可能と
なりました。資料情報にはJ S T所蔵情報をはじめと
vol. 1, no. 1(1958.1)
する各種情報を追加しました。
∼ vol. 5, no. 12(1962.12)月刊JICST
J S T独自の名寄せ処理によって著者所属機関や
vol. 6, no. 1(1963.1)
∼ vol. 8, no. 2(1965.2) 月刊JICST・情報管理
特許出願機関を識別するための機関I Dを付与し,
J - G L O B A Lに登載しました。機関名の表記ゆれを
vol. 8, no. 3(1965.3)
∼ vol. 8, no. 15(1966.3) 情報管理・月刊JICST
気にすることなく検索が可能です。
■詳細検索(目的別検索)機能を追加
vol. 9, no. 1(1966.4)
∼現在
■機関IDの登載
情報管理
研究者や文献を所属や発行年,各種I Dなどの項
目を指定して検索可能になりました。
訂正記事も個別に採択し,元記事とリンクを張り
ました。
■可視化機能の追加
研究者の共著関係などをネットワーク図で表示す
る機能を追加しました。
■お問い合わせ先
「情報管理」編集事務局 joho-kan jst.go.jp
■英語化
画面を英語表示に切り替えることができるように
なりました。
■お問い合わせ先:helpdesk jst.go.jp
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
71
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
訂正:日本の学協会誌掲載論文のオンライン入手環境
同 志 社 大 学 免 許 資 格 課 程 セ ン タ ー 佐藤 翔
vol. 58, no. 12掲載の論文「日本の学協会誌掲載論文のオンライン入手環境」の記載内容に誤りがありました。
これは本文中においてCiNii Articlesから「日本農学文献記事索引」へのリンクは書誌事項へのリンクのみであると
していたのに対し,実際はその書誌事項からさらに本文ファイルへのリンクが付与されていたことに伴うもので
す。事実と異なる記述を掲載したことにつきまして,関係者の皆さまに心よりおわび申し上げます。
p.910 右段 下から10行目
誤:ただし,このうち医中誌W e b,日本農学文献記事索引についてはオンライン本文へのリンクではなく書誌
事項へのリンクであるため,以下の「オンライン本文へのリンク」に関する分析からは除外する。
正:ただし,このうち医中誌W e bについてはオンライン本文へのリンクではなく書誌事項へのリンクであるた
め,以下の「オンライン本文へのリンク」に関する分析からは除外する。
p.912 左段 下から9行目
誤:調査対象論文全体のうち,CiNii Articlesから有料・無料を問わず何らかのオンライン本文が提供されている,
ないしは本文へのリンクが付与されていたのは36.1%と,約3分の1にとどまった。
正:調査対象論文全体のうち,CiNii Articlesから有料・無料を問わず何らかのオンライン本文が提供されている,
ないしは本文へのリンクが付与されていたのは36.6%と,約3分の1にとどまった。
p.912 表1 CiNii Articles調査に基づく論文のオンライン提供状況
誤:オンライン提供全体 あり 436,880(36.1%)
なし 772,794(63.9%)
正:オンライン提供全体 あり 442,612(36.6%)
なし 767,062(63.4%)
p.913 左段 下から8行目
誤:英語論文の42.9%がオンライン で提供されているのに対し,日本語論文は34.7%にとどまる。
正:英語論文の43.2%がオンライン で提供されているのに対し,日本語論文は35.2%にとどまる。
p.913 右段 上から1行目
誤:一方,人文学(31.1%)や化学(30.9%)分野の論文はオンライン提供が遅れている。
正:一方,人文学(31.2%)や化学(30.9%)分野の論文はオンライン提供が遅れている。
72
日本語
(N=1,001,695)
34.7%
訂正:日本の学協会誌掲載論文のオンライン入手環境
英語
(N=207,347)
42.9%
0%
20%
p.913 図1 CiNii Articles調査:論文の記述言語とオンライン提供の関係
913 図 1. CiNii Articles 調査:論文の記述言語とオンライン提供の関係
誤: 誤: 正:
正:
40%
なし
60%
80%
100%
あり
P913 図 2. CiNii Articles 調査:論文掲載誌の分野とオンライン提供の関係
日本語
(N=1,001,695)
誤:
日本語
(N=1,001,695)
総合領域(N=27,451)
34.7%
英語
(N=207,347)
20%
40%
なし
60%
80%
物理学(N=86,493)
50.6%
生物学(N=56,733)
42.0%
43.2%
英語
(N=207,347)
工学(N=274,198)
42.9%
0%
35.2%
57.2%
100%
38.3%
農学(N=58,590)
0%
20%
40%
60%
80%37.4% 100%
社会科学(N=138,770)
あり
35.3%
なし
医学(N=423,648)
あり
31.3%
人文学(N=78,259)
正:
31.1%
化学(N=41.471)
Articles調査:論文掲載誌の分野とオンライン提供の関係
P913p.913 図2 CiNii
図 2. CiNii Articles 調査:論文掲載誌の分野とオンライン提供の関係
30.9%
0%
20%
なし
日本語
35.2%
誤: 正:
(N=1,001,695)
正:
誤:
英語
総合領域(N=27,451)
生物学(N=56,733)
43.2%
工学(N=274,198)
0%
20%
40%
なし
農学(N=58,590)
60%
80%
38.3%
あり
社会科学(N=138,770)
100%
80%
57.2%
50.6%
農学(N=58,590)
44.8%
生物学(N=56,733)
43.1%
37.4%
工学(N=274,198)
35.3%
社会科学(N=138,770)
38.6%
35.3%
医学(N=423,648)
31.3%
医学(N=423,648)
31.4%
人文学(N=78,259)
31.1%
人文学(N=78,259)
31.2%
化学(N=41.471)
30.9%
化学(N=41,471)
0%
20%
40%
なし
60%
80%
100%
30.9%
0%
20%
40%
なし
あり
100%
あり
物理学(N=86,493)
50.6%
42.0%
60%
総合領域(N=27,451)
57.2%
(N=207,347)
物理学(N=86,493)
40%
60%
80%
100%
あり
正:
p.917 注6)
誤:表 1 では「オンライン提供なし」論文は 77 万 2,794 本であるが,J-STAGE 収録状況
調査,
メディカルオンライン収録状況調査の対象は 76 万 7,062 本である。
これは CiNii Articles
物理学(N=86,493)
50.6%
調査において,日本農学文献記事索引のみに収録されていた論文
5,732 本を当初「オンライン
誤:表1では「オンライン提供なし」論文は77万2,794本であるが,J
- S T A G E収録状況調査,メディカルオンラ
農学(N=58,590)
44.8%
提供あり」に集計していたためであるが,前述のとおり実際には書誌事項のみの提供であった
生物学(N=56,733)
43.1%
ため,CiNii Articles
調査においては集計から除外した。他の調査においても「オンライン提
イン収録状況調査の対象は76万7,062本である。これはCiNii
Articles調査において,日本農学文献記事索引
工学(N=274,198)
38.6%
供なし」に集計すべきところであるが,全体に与える影響は少ないと考え,以降の調査では日
社会科学(N=138,770)
35.3%
のみに収録されていた論文5,732本を当初「オンライン提供あり」に集計していたためであるが,前述のと
本農学文献記事索引のみで提供されている論文を対象から除外している。
総合領域(N=27,451)
p.917 注6)
57.2%
おり実際には書誌事項のみの提供であったため,CiNii
Articles調査においては集計から除外した。他の調査
正:削除
医学(N=423,648)
31.4%
人文学(N=78,259)
31.2%
化学(N=41,471)
30.9%
においても「オンライン提供なし」に集計すべきところであるが,全体に与える影響は少ないと考え,以
降の調査では日本農学文献記事索引のみで提供されている論文を対象から除外している。
0%
20%
正:注6)をすべて削除
40%
なし
60%
80%
100%
あり
p.917 注6)
誤:表 1 では「オンライン提供なし」論文は 77 万 2,794 本であるが,J-STAGE 収録状況
調査,
メディカルオンライン収録状況調査の対象は 76 万 7,062 本である。
これは CiNii Articles
調査において,日本農学文献記事索引のみに収録されていた論文 5,732 本を当初「オンライン
提供あり」に集計していたためであるが,前述のとおり実際には書誌事項のみの提供であった
ため,CiNii Articles 調査においては集計から除外した。他の調査においても「オンライン提
供なし」に集計すべきところであるが,全体に与える影響は少ないと考え,以降の調査では日
本農学文献記事索引のみで提供されている論文を対象から除外している。
正:削除
情報管理 2016.4. vol. 59 no. 1
73
情報管理
JOHO KANRI
2016
vol.59 no.1
Journal of Information Processing and Management
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
April
本号が発行される2016年4月1日,新聞の1面には
どのような見出しが掲載されているでしょうか。
「障害者差別解消法」「合理的配慮」の文字が掲載さ
れていてほしいと思います。「障害を理由とする差
別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」
(2013年6月25日制定)が施行される日だからです。
この法律の背景には,障害を「人間であれば誰も
が取り得る自然な状態のひとつである」とする理解
があります。従来の「障害は個人の内部に存在する
治療すべき要因」とする考え方(医学モデル)から,
「障害は障害者ではなく,社会が作り出している」
という考え(社会モデル)への移行という意味で画
期的です。
弊誌は2015年(vol. 58, no. 4)の「『合理的配慮』
の基盤としての情報のアクセシビリティ」で情報保
障の観点から合理的配慮について取り上げました。
2016年(vol. 58, no. 12)の「身体を拡張する筋電義
手」は,情報技術の進歩が障害の概念を変えること
に言及しています。2015年(vol. 57, no. 12)には「音
声の障がい者のための最先端音声合成技術」を掲載
しました。障害の有無を超えて誰もが人間として生
きやすい社会となるために,情報科学技術が何を可
能にしたか,今後もお伝えしたいと思います。
本号は,弊機構理事の白木澤による巻頭言「オー
プンサイエンスへの取り組みと『情報管理』」に始
まり,オープンエデュケーション,研究者識別子
ORCID,DOIと,オープン化に関連した記事を多数
掲載しました。このオープン化はオープンにするこ
と自体を目的とするのではなく,情報・データの共
有によって研究のさらなる発展やイノベーションに
つながることを目指すものです。
本号から,目次,標題ページの体裁を変更しまし
た。いかがでしょうか。創刊号からの全記事が読め
る開かれた雑誌として,さらに皆さまの役に立つこ
とができますように。本年度もご愛読のほど,どう
ぞよろしくお願いいたします。
(KM)
□次号予定
●講演 ウェブ世論と著作権の新たなリスク
●ゲーム情報学:コンピューター将棋を超えて
●情報学研究データリポジトリ(NII-IDR)の取り組み
●朝日新聞フォトアーカイブ
●組織のセキュリティー文化を反映するシーサート活動
情報
管理
JOHO KANRI
Journal of Information Processing and Management
科学技術振興機構
vol.59 no.1 April 2016
●編集委員会
<委員長>小賀坂康志(科学技術振興機構)
<編集委員>
江草由佳(国立教育政策研究所)
・岡安渉子(富士通㈱)
・
小河邦雄(大正製薬㈱)・清田陽司(㈱ネクスト)・
山下正隆(旭化成㈱)・木 村美実子・佐藤恵子・嶋田一義・
坪 井彩子・中村拓・火口正芳・日高真子・樋廻美 香 子・
山崎美和・余頃祐介(以上 科学技術振興機構)
●編集事務局
木村美実子(事務局長)・酒井加代子・大井喜久子・
中山広之(以上 科学技術振興機構)
2016年4月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥12,960(税込)
本体 ¥1,296(税込)
1部定価
●版下作成・印刷
昭和情報プロセス株式会社
発行
国立研究開発法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8460
E-mail: joho-kan jst.go.jp
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/
Published monthly by Japan Science and Technology Agency (JST)
JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN
・ 本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,編集事務局宛に現品をご返送ください。送料は当機構
の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。
・ 未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。
© Japan Science and Technology Agency 2016 無断転載を禁ず
74
2016 年 4 月 1 日
「情報管理」誌 投稿規定
国立研究開発法人 科学技術振興機構
「情報管理」誌編集委員会
当機構で編集・発行する月刊誌「情報管理」(Web 版,冊子体)への投稿はこの規定に従ってください。
1. 編集方針
1.1 本誌の目的
本誌は,情報の整備・流通・活用の各段階にかかわる方々が経験と知識や知恵を出し合い,共有し,話し
合うためのステージを提供し,情報の生産から利用の「情報のサイクル」を活性化させることによって,日本
の情報科学技術や情報リテラシーの普及・向上を通じて科学技術振興の基盤整備に寄与することを目的とし
ています。
1.2 発行形態
本誌は,Web 版「情報管理」(PDF および HTML)と,冊子体「情報管理」によって発行します。
1.3 主題範囲と掲載記事の種類
情報の整備・流通・活用に関する幅広い主題範囲を扱います。例としては,
学術情報流通,データベース,デジタルコンテンツ,情報加工,情報提供・利用,情報技術,
規格・標準,人材育成,知的財産,情報生活,図書館・情報センター,情報政策・制度 等
が挙げられます。
記事は,総説・解説,事例報告,原著論文,対談・座談会,講演,集会報告,図書・ニュースの紹介,エッセー・
オピニオンなど多岐にわたります。
1.4 対象読者
本誌は以下のような読者を対象としています。
*企業・大学・図書館などで,情報を扱う業務に日ごろ従事している方々
*研究・企画や営業などの専門業務にあたって情報を発信・利用している方々
*オピニオンリーダー,組織の意思決定に携わる方々
*情報に関心をもつ一般の方々
2. 投稿にあたって
国の内外から広く,投稿原稿を受け付けています。
2.1 原稿の種類
総説・解説,事例報告,原著論文のいずれかに該当し,媒体を問わず他の出版物に発表されていない原稿
を受け付けます。原稿は原則として日本語とします。主題は,1.3 に示した本誌の主題範囲を対象とします。
2.2 査読と受理
投稿原稿は編集委員会で査読し,受理の可否を決定します。原稿の評価は,内容の質と独創性,読者にとっ
て幅広い関心主題であるか否かに重点をおきます。また,査読の結果を基に著者に対し原稿内容の改善,な
いし修正をお願いすることがあります。なお,査読の後,受理を決定した日をもって原稿の受理日とします。
appx1
2.3 著作権
本誌に受理され,掲載された記事の著作権は原則として科学技術振興機構に帰属します。クリエイティブ・
コモンズ・ライセンスの適用等をご希望の方はお申し出ください。記事の利用にあたっては「『情報管理』誌著
作権規定」に示した手続きに従ってください。
3. 執筆要項
別紙「『情報管理』誌 原稿の書き方」に従って執筆してください。
3.1 原稿の文字数と使用文字
本文の文字数は,1 記事 6,000~8,000 字(図表込みで刷り上がり 6~8 ページ)を目安とします。
原則として常用漢字を用います。使用可能文字は 2 バイト文字:JIS X 0208-JIS 第一水準漢字,JIS 第二水
準漢字,1 バイト文字:JIS X 0201 です。英数字は半角を用います。
3.2 提出方法
電子化したものを提出してください。本文は MS Word 形式とします。図表の形式については,「原稿の書き
方」の 4 に従ってください。
本文,写真,図,表は,それぞれ別ファイルとして用意し,原稿提出票とともにメール添付で下記編
集事務局宛にお送りください。
〒102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3
国立研究開発法人 科学技術振興機構 「情報管理」編集事務局
Tel. 03 (5214) 8406 Fax. 03 (5214) 8460 E-mail: joho-kan jst.go.jp
4. 掲載にあたって
受理が決定した原稿は,以下のように取り扱います。
4.1 著者校正
初校時に 1 回のみ著者校正をお願いします。
4.2 別刷の提供
掲載記事 1 件につき,本誌 1 部を贈呈します。別刷(表紙あり,有料)を希望される場合は,受理後に事務
局からお尋ねしますので,印刷手配前にお申し込みください。最低 50 部,以降 10 部単位の印刷部数(60 部,
70 部,80 部…)としてください。
4.3 原稿料
掲載した原稿については,当機構の規定に基づき,所得税法に定める源泉徴収を行ったうえ,原稿料をお
支払いします。
appx2
2016 年 4 月 1 日
「情報管理」誌 原稿の書き方
1 記述項目
以下の項目を順に記述してください。
(1) 標題(和文および英文)、副題(和文および英文)。各 25 字くらいまで。
(2) 著者名(和文および英文)
(3) 著者の所属機関名および部署名(和文および英文)
(4) 著者の E-mail アドレス
※著者が複数の場合,(2)~(4)をそれぞれ記述してください。
(5) 著者抄録( 和文お よ び 英文) : 抄録は 「 科学技術情報流通技術基準 抄録作成( SIST 01 )
<http://jipsti.jst.go.jp/sist/pdf/SIST01.pdf>」を参考にして作成してください。なお,抄録の長さは,和文抄
録が 200~400 字,英文抄録が 100~200 語程度です。抄録は和文,英文両方を提出してください。
(6) 著者付与キーワード(和文および英文):和文キーワードに対応する英文キーワードを記載してください。
キーワードの数は 5~10 個です。
(7) 本文
(8) 著者紹介
(9) 注記
(10) 参考文献
2 章,節などの見出し
章,節などの見出しには,ポイントシステムを使用してください。
例 第1 章
→ 1. はじめに
第 2 章,第 1 節
→ 2.1 「情報管理」誌とは
第 2 章,第 1 節,第 1 項 → 2.1.1 「情報管理」誌の電子化
項以下の細分
→ (2) XML 化
3 文章と句読点
文章は「である」調とし,簡潔で明確に表現してください。句読点は(,)および(。)を使用します。
4 図・写真および表
(1) 図・写真および表には一連番号を付与し,簡潔なタイトルを付けてください。写真は図として扱います。
例 「図 1 システム構成」,「図 2 サーバー構成」…,「表 1 システム仕様」,「表 2 コンテンツ一覧」
(2) 図・写真および表の挿入箇所は,本文原稿内に,「←図 1」,「←表 2」のように指定してください。
(3) 図・写真および表の刷り上がり時の大きさは,特に著者の指定がない限り当編集委員会に一任するものと
します。
(4) 画像の解像度は 300dpi 以上にしてください。
(5) 図および表データは MS Word,Excel,PowerPoint で作成したものを提出してください。
(6) カラーの図表は,冊子体ではモノクロ印刷になることを想定して,配色等にご注意ください。なお,Web 版
(PDF および HTML)ではそのままカラーで表示されます。
(7) 図表の転載は,著作権者の了解を取り出典を明記してください。
(8) 写真は,著作権者および写っている方の了解をお取りください。
5 動画
(1) 各動画には一連番号を付与し,タイトルを付けてください。
(2) 冊子体および PDF 用に,特徴的な静止画像を添えてください。解像度は 300dpi 以上としてください。
(3) 動画は,MP4 形式としてお送りください。
appx3
6 注記と参考文献
(1) 本文の後に,注記(本文の注),参考文献の順に分けて記載してください。
(2) 注記は,本文の該当箇所に,注 1),注 2)…のように一連番号を付けます。
(3) 注記の内容は,(2)の番号順に記載してください。
(4) 参考文献については,本文の引用箇所に引用ないし参照した順に,1),2),3)…のように一連番号を付け
てください。
例 …については,1995 年の調査 2)があるが,…
(5) 参考文献の書誌事項を,(4)の番号順に記載します。参考文献欄に記載するのは,本文に引用箇所のある
文献のみです。
(6) 参考文献の記載は「科学技術情報流通技術基準 参照文献の書き方(SIST 02)」
<http://jipsti.jst.go.jp/sist/pdf/SIST02-2007.pdf> に従います。以下 7 に記載例を示します。
(7) MS Word の「脚注自動作成機能」および「文献自動作成機能」は使用しないでください。
脚注や参考文献を移動・削除すると,一連番号との整合がとれなくなる場合があります。脚注や参考文献は,
必ず通常の文章入力方法で記入してください。
7 参考文献の記載例 (SIST 02 参照文献の書き方 からの抜粋)
(1) 雑誌記事を引用する場合
雑誌
一連番号) 著者名.論文名.雑誌名.出版年,巻,号,p.始めのページ-終わりのページ.
例 1 西潔,石原和弘.火山地域における震源計算についての提案.火山.2003,vol.48,no.5,
p.407-413.
例2 Pisciella, Paola; Pelino, Mario. FTIR spectroscopy investigation of the crystallisation process in an
iron rich glass. Journal of the European Ceramic Society. 2005, vol. 25, no. 11, p. 1855-1861.
例 3 下山昌彦.セキュリティスキャナを用いた偽札の新しい検査手法の開発.CICSJ Bulletin.2005,
vol.23,no.3,p.95-98.https://www.jstage.jst.go.jp/article/cicsj/23/3/23_3_95/_article/-char/ja/,
(accessed 2006-03-07).
(電子ジャーナルの場合-入手先,(入手日付).を加える。)
(2) 図書を引用する場合
図書
一連番号) 著者名.書名.版表示,出版者,出版年,総ページ数 p.
例 4 照明学会編.照明ハンドブック.第 2 版,オーム社,2003,573p.
例 5 Frenkel, D.; Smit, B. Understanding Molecular Simulation: From Algorithms to Applications. 2nd ed.,
Academic Press, 2002, 664p.
例 6 鵜飼保雄.“遺伝率の相対性”.量的形質の遺伝解析.医学出版,2002,p.109-110.
(図書の一部を参照した場合)
(3) Web ページを引用する場合
Web ページ
一連番号) 著者名.“Web ページの題名”.Web サイトの名称.入手先,(入手日付).
例 7 坂本和夫編.“パルスレーザーアブレーションにおけるドロップレットフリー薄膜の作製技術”.
J-STORE.http://jstore.jst.go.jp/cgi-bin/techeye/detail.cgi?techeye_id=32,(accessed 2006-0623).
appx4
2010 年 4 月 1 日制定
2015 年 4 月 1 日改訂
「情報管理」誌 著作権規定
(目的)
第 1 条 本規定は,「情報管理」誌(Web 版,冊子体を含む。以下,本誌)に掲載される著作物に関する著
作権の取り扱いに関する基本事項を定める。
(定義)
第 2 条 本規定において,次の各号に掲げる用語は,当該各号に定める意義を有する。
(1)本著作物 著作権法第 2 条第 1 項第 1 号に規定するものであって,以下のいずれかに該当するもの
をいう。
① 本誌に掲載される論文,解説記事等(本編集委員会の依頼に基づくものを含む)
② 本誌に掲載される活動報告,エッセー等(本編集委員会の依頼に基づくものを含む)
③ その他前記①および②に類するものであって本編集委員会が指定するもの
(2)本著作者 著作権法第 2 条第 1 項第 2 号に規定するものをいう。
(3)本著作財産権 本著作物の著作財産権をいい,著作権法第 21 条(複製権),第 22 条(上演権及び演
奏権),第 22 条の 2(上映権),第 23 条(公衆送信権等),第 24 条(口述権),第 25 条(展示権),第
26 条(頒布権),第 26 条の 2(譲渡権),第 26 条の 3(貸与権),第 27 条(翻訳権,翻案権等)及び第
28 条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定めるすべての権利を含む。
(4)本著作者人格権 本著作物に関する著作者人格権をいい,著作権法第 18 条(公表権),第 19 条(氏
名表示権)及び第 20 条(同一性保持権)に定めるすべての権利をいう。
(著作権の帰属)
第 3 条 本著作財産権は,すべて国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下,当機構)に帰属する。
2 本著作財産権は,投稿後,本編集委員会により本著作物の受理が決定された時点をもって
当機構に譲渡されたものとする。
3 特別な理由により前 2 項に定める取り扱いが不可能である場合,本著作者は投稿を行う際に
その旨を当機構に対して書面で申し出るものとし,かかる場合の取り扱いについては,本編
集委員会及び本著作者の協議によって定める。
4 前項に定める場合であっても,本著作者は,法令及び前項に定める特別な理由の許容する
範囲において,当機構に対し,本著作財産権について国内外で無償で独占的に利用する
(複製,公開,送信,頒布,譲渡,貸与,翻訳,翻案及び二次的著作物の利用を含む)権利を
許諾(有償無償を問わず,当機構がサブライセンスを行う権利を含む)するものとする。
5 投稿された本著作物が本誌に掲載されないことが決定された場合,当機構は,本著作財産
権を本著作者に対して返還する。
(著作者人格権の不行使)
第 4 条 本著作者は,当機構及び当機構が本著作物の利用を許諾した第三者に対し,本著作者人格権
を行使しない。
2 前項の規定は,当機構及び当機構が本著作物の利用を許諾した第三者が,本著作物を原著
作物として二次的著作物を作成した場合においても適用される。
3 当機構は,当機構が二次的著作物を創作する場合及び第三者に本著作物の利用を許諾する
場合には,本著作者にその旨を通知する。
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(著作者による著作物の利用)
第 5 条 本著作者は,当該本著作者が創作した本著作物を利用する場合(第三者に利用を許諾する場合
を含む),その利用目的等を当機構が別途定める事項を記載した書面により当機構に申請し,
その許諾を得るものとする。
2 当機構は,当該本著作物の利用が,本誌の発行目的又は活動の趣旨に反しない限り,前項
に定める本著作者からの申請を許諾する。
3 第 1 項の規定にかかわらず,本著作者は,次の各号に定める場合には,当機構の許諾を得
ることなく本著作物を利用できるものとする。なお,利用にあたっては出典(本誌誌名,掲載
巻号,ページ,DOI等)を明記する。
(1)本著作者個人又は本著作者が所属する法人若しくは団体のWebサイトにおいて,当該本著
作者が創作した本著作物を掲載する場合(機関リポジトリへの保存及び公開を含む)
(2)著作権法第 30 条から第 50 条(著作権の制限)において許容された利用
(著作者による保証等)
第 6 条 本著作者は,本著作物が,①第三者の権利を侵害していないこと,②本著作物が二重投稿では
ないこと,及び③本著作物が共同著作物である場合には,当機構への投稿を行うにあたり,当
該共同著作物の他の著作者全員の同意を取得していることを保証する。なお,本著作者は,本
著作物において第三者の著作物を引用する場合には,出典を明記する。
(二重譲渡の禁止)
第 7 条 本著作者は,当機構以外の第三者に対し,本著作物に係る一切の著作財産権の譲渡及びその
利用許諾(出版権の設定を含む)をしてはならない。
(紛争解決に関する協力)
第 8 条 本著作物に関する第三者からの権利侵害又は本著作物による第三者に対する権利侵害等,本
著作物に関して紛争が発生した場合又は発生するおそれがある場合,本著作者及び当機構は
相互に協力してこれに対処する。
(協議)
第 9 条 本規定に定めなき事項及び本規定の各条項の解釈に疑義が生じた場合,本著作者及び当機構
は,信義誠実の原則に従って協議し,これを解決するものとする。
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