第1号 2010年12月02日 - メディポリス国際陽子線治療センター

がん治療のイノベーション
センター長 菱川 良夫
◆乳がんの定位陽子線治療◆
医療に使用されている粒子線は、陽子線と炭素イオン線(重粒子線)の2種です。
この3月まで勤務していた、兵庫県立粒子線医療センターは、この2種の粒子線が使用でき
る世界で唯一の施設です。他の30数カ所の施設は、いずれかの粒子線のみであり、指宿
の当センターでも陽子線のみです。
当センターの計画段階でどちらの治療をするかの議論がありましたが、乳がん治療の研究
を開始したかったので、陽子線治療装置に決めました。
従来からがん治療では、放射線治療が使用されています。コンピュータの技術が進み、精
度の高い放射線治療ができる時代になって来ました。
粒子線治療の特徴である、がんへのピンポイント治療も最近の高精度放射線治療装置で
可能です。ただ、放射線は体を通り抜ける性質があり、がんの奥に照射されます。
粒子線の特徴は、がんをピンポイントで治療しますが、がんより奥には照射されません。
乳がんの存在する乳房の奥に肺があります。粒子線では、乳房の中のがんのみに照射で
きますが、放射線では、通り抜ける性質のため、肺にどうしても照射されます。
したがって、従来の放射線での乳がん治療は困難でした。
一方、粒子線はがんより奥には行きませんので、肺への照射は心配ありません。
がんの奥の肺は心配ないことがわかりましたが、がんの手前の皮膚はどうでしょうか。
乳がんは皮膚に近い部位にあることが多く、1方向からだけの治療の場合、皮膚への影響
は強く出ます。場合によってはやけどのようになります。がんが治ってもやけどは困るので、
多方向から照射し皮膚への影響を減らすことを考えました。
陽子線治療では、色々な角度から治療のできるガントリー装置が使えます。
多方向から短時間で照射するには、放射線治療で開発された定位放射線治療を陽子線に
利用することを考えました。新しい開発技術です。これを定位陽子線治療と言います。
当センターでは、定位陽子線治療ができるガントリーを装置メーカである三菱電機に作って
もらいましたので、これから慎重に、定位陽子線治療につき検討を始めていきます。
その目標とするところは、合併症があり手術ができないか、どうしてもメスを入れたくない早
期乳がんの患者さんの治療です。
がん治療のイノベーション
センター長 菱川 良夫
◆リゾート滞在型医療◆
当センターの特徴はリゾート地でのがん治療です。
過去にリゾートに滞在された方は、誰と滞在されたかを思い出して下さい。
多くの方は家族と滞在されたでしょう。ここでは、家族で滞在していただき、家族の中の
がん患者さんを治療します。
シングルマザーでお母さんが、がんになった場合、小さなお子さんの世話は大変です。
また、治療を受けるお母さんは、いつも小さなお子さんのことが気になります。
一緒に滞在することで、離ればなれになる事で生ずる親子間の心配事は軽減できます。
心配しながらのがん治療より、そのようなことがないがん治療の方が、治療効果が期待
できる可能性が大です。
老夫婦のみで生活している場合に、どちらかががんになった場合、患者さんは病院で、
残った伴侶は家と、別れ離れに生活することは、老夫婦にとって大変なストレスです。
老夫婦が、一緒に生活し、治療を受ける事がどれほど良いでしょうか。
のんびりと豊かな気持ちで家族がリゾートに滞在し、励ましを受けながら治療することで、
がんの治癒する可能性も高くなるでしょう。
リゾート地での特徴は、時間がゆっくりしています。
滞在中の時間を利用して、治療後に再びがんにならないような勉強をしていただきます。
それらは、食事療法や運動療法、免疫療法などの代替療法です。勉強をしていただき、
自分に向いていると考えたら、実行するのも良いでしょう。
がん治療を自分でするのは困難ですが、がんにならない心身を作るための色々な考え方
を勉強するのは決して無駄ではありません。そのように勉強をしていただけるプログラム
を作っていきます。
欧米の方は、リゾートに滞在をしても、読書やウォーキングで自由な時間を過ごされますが、
せかせかした日本人はそのような時間の使い方が苦手です。
そこで少し色々楽しいことができることを考えました。すでに、無農薬の野菜作りをしていま
すが、それへの参加も自由です。パン作りや陶器作りのようなことも考えています。
また、「役にたち隊」を作ります。隊長、副隊長の下、患者さんの役にたつことをします。
隊員は、当センターの職員と近隣のボランティアの方です。
患者さんが買い物に行きたいと言えば、一緒にお付き合いします。
野菜作りを教えたりもする予定です。将棋の相手が必要なら隊員の誰かがするでしょう。
患者さんの役に立つことで、隊員は暖かい幸せな気持ちになるでしょう。
患者さんもそのようなコミュニケーションを通じて、幸せを感じるのではないでしょうか。
日本一幸せ度の高いセンターを目指すべく、みんなで患者さんのお役に立ちたいと考えて
います。
新たながん治療の扉
診療部門 有村 健
私は今年7月に、これまでお世話になった鹿児島大学放射線科医局を離れ、当センターに赴
任しました。小さい頃に隣町の頴娃(現:南九州市)に住んでいたこともあり、私にとって指宿
は大変なじみの深い場所です。池田湖や長崎鼻への遠足、
唐船峡のそうめん流し、開聞岳登山、用水路のグッピーや
ツマベニチョウの観察などが楽しい思い出です。
メディポリス内の遊歩道を散策すると、木漏れ日や風の薫り
が温かく、懐かしく、そして癒されます。
南国指宿は、がん患者さんの傷ついた心と体を癒すのに、 東京ドーム77個分の敷地を有する当施設内の遊
歩道を散策頂きながら心身ともにリフレッシュでき
最適な風土だと思います。
ます。九州南西部(山川)が北限とされるつまべに
蝶など自然の情景をお楽しみ頂けるかと思います。
粒子線治療は最先端のがん治療です。
X線治療よりも大がかりな加速装置が必要で、建設に多額の費用がかかります。そのため個
人負担もどうしても割高になってしまいますが、治療効果が高く、患者さんの体には大変優し
い治療です。X線治療では抗癌剤を併用することが多く、また体の広い範囲に放射線が当た
るため、治療が進むにつれて体はどんどんつらくなりますが、粒子線治療では、治療をしな
がら趣味も仕事も続けられます。ただ治療の時くらいは、のんびりと頭も体も心も休めてはい
かがでしょうか。温泉にゆっくりと浸かりながら、自然に触れあうも良し、観光に足を伸ばすも
良し、また心ゆくまでゴルフを楽しむのも良い気分転換になると思います。苦しく険しいイメー
ジが先行しているがん治療ですが、当センターで楽しい思い出を作って頂ければと思います。
当センターには医師や看護師以外にも大勢のスタッフがいます。このような病院にはあまり
馴染みがないかもしれませんが、アメリカのNASAをイメージして頂くと理解しやすいかもしれ
ません。スペースシャトルの打ち上げでは、パワフルなシャトルと華やかな宇宙飛行士にどう
しても目が行きがちですが、それだけでは到底宇宙には辿り着けません。それを支える最高
の技術と有能なスタッフが揃って、初めて宇宙への安全な旅が実現するのです。当センター
においても、最新の粒子線治療装置と医師(センター長)に注目が集まると思いますが、看護
師や放射線技師、物理士、専門技術員、研究員、事務員が全員で力を合わせて、初めて粒
子線治療という最先端医療が完成します。スタッフはそれぞれの領域の専門家集団であり、
それぞれが主体性を持って粒子線治療を支えます。医師は医療チームのリーダーではあり
ますが、あくまでもone of themです。それぞれの職種を敬い合い、頼れる関係を築くことこそ
が、私達が目指すべきチーム医療だと考えています。従来の視点や考え方に囚われず、‘悩
めるがん患者さんのために’、スタッフ全員が一丸となって、新たながん治療の扉を開いてい
きます。
粒子線治療装置の整備状況
~その経過と匠の技について~
センター機能整備部門 永山 伸一
気が付けば、猛暑の夏も終わり、グランドオープンまで半年を切っており、時の流れの速さに
は驚かされます。振り返ってみると、2008年当初、技術系部門としては、私と技師3名で、
粒子線治療施設の立上げに初期から参加していることになります。今では、技師6名、物理
士2名、研究員2名、施設管理1名の計11名になっています。ほとんどの者が治療連携施設
である兵庫県立粒子線医療センターでの半年から2年におよぶ研修を行い、研修期間中も
指宿での立ち上げに関する準備を行い、研修を終えた者から、指宿で建物の建設工事、粒
子線装置の主要部分(シンクロトロン・ガントリー)の搬入・組立に立会い、本年の3月に建物
の完成を迎えました。春先には地元の方への見学会、4月3日には落成記念式典にて、千名
を超える来場者の皆様への内覧会を実施し、期待の大きさを実感したこと昨日のように思い
出されます。さらに、高額装置や病院情報システムの入札、文部科学省への放射線発生装
置の使用許可申請・施設検査など気の抜けない日々も続きました。施設検査は、粒子線治
療を開始するにあたり必須であり、粒子線を使用しても大丈夫な施設(装置と建物)であるこ
との承認をもらう重要な検査で、10月頭に原子力安全技術センターより無事合格通知をもら
いました。いずれも、全員始めての経験で、バタバタと対応しているうちに、やっと治療開始
へとひた走るところまで、漕ぎ着けたところになります。
ここまで平坦な道のりではなく、使用許可申請の際は
先行施設と同様なので順調に済むかと思いましたが、
避難通路が独自の形であったため、専門員の先生か
ら追加の放射線遮へい計算のシュミレーションを次々
求められ、正直、時間が経つことへの焦りを感じつつ、
1つ1つ対応し、無事クリアできました。粒子線装置の施設検査前の調整でも、困難は用意さ
れていました。10万個もの部品からなる粒子線装置の搬入組立は7月に見事完了し、調整
がスタートしました。入射器の調整は非常に順調に進みましたが、シンクロトロンに入ると何
と落雷による障害など予期せぬ障害に3度も見舞われ、計8日間も止まってしまいました。
正直心の中では施設検査日に間に合わないのではないかと心配している時期もありました。
しかし、技術系職員の努力と兵庫県立粒子線医療センターの技術支援、装置の三菱電機の
頑張り、施工の安藤建設や九電工の協力により、最終的には、余裕を持って検査を受検でき、
調整開始から施設検査合格までの期間も約80日と過去最短で行うことができました。
粒子線治療は、表側では、粛々と短時間で患者さんの治療を終えることができ、非常にきれ
いにさえ見えます。しかし、裏側は、技術部門として、治療を安定に高品質に供給し続ける道
で、匠の技(困難な修行を乗り越え、経験を積んだ者たちが、磨きぬかれた技術を駆使して、
鮮やかに粛々と遣り遂げてしまう)のようなところがあります。だからこそ、この技には見習う
べき先輩が必要で我々技術部門においては、兵庫県立粒子線医療センターの放射線技術
科を先輩として進めております。治療連携という相互補完の関係に留まらない、自施設の治
療が止まっても患者さんの治療を完遂する目的で同形態の施設の立ち上げを支援する、患
者さんを中心とする医療理念の視点での協力により、ここまでやってきております。この場を
借りてお礼を述べたいと思います。まだ、その技術を移管させてもらい、さらに経験を養って
いるところではありますが、1日も早く治療を開始できるように力を合わせて、今後も取り組ん
で参ります。温かく見守っていただければと思います。
患者さんの気持ちに寄り添う看護を
目指しています
看護部門 中馬 育子
ただ今、センター専属の看護師2名が中心となり、粒子線治療前の検査期間に入院施設とな
るメディポリス医学研究財団附属医院で診療に携っている看護スタッフ8名と共に計10名の
看護師で力を合わせ来春からの治療開始に向けた開設準備を進めております。
粒子線治療に関する知識が足りないことで、患者さんが不安を感じることの無いように、治療
のしおりを作成中です。受付の前には、患者さんが見やすい大画面の案内板を置く予定で、
表示する映像の準備もしています。治療に関すること以外にも、自然に恵まれた施設内の見
所も情報を集めています。遠方からいらっしゃる患者さんと一緒に来られたご家族にもリラッ
クスして頂ける施設を目指しています。
粒子線治療に関しては未経験のスタッフばかりですが、連携施設である兵庫県立粒子線医
療センターで研修を受けた看護師、医師、放射線技師、医学物理士が協力して定期的に勉
強会を行い、患者さんが安心安全に治療を受けられる環境や、業務の流れを検討していま
す。看護師間では特に、粒子線治療を受ける患者さんに、どのような思いや心労が生じるの
か先行施設の資料や文献などを元に話し合い、患者さんの気持ちを大切に、支えていける
看護援助の提供を考えています。
また、できるだけ患者さんに接する時間を増やすために、記録や連絡業務に掛かる時間を短
縮するための電子カルテをメーカーさんと共に作成中です。
看護スタッフみんな、患者さんの笑顔に会えることを楽しみに日々頑張っています!
施設展望所から見える、
きれいな夕焼け
私達のハートを
込めて準備中です。
粒子線治療の広報活動について
事務部門 田中 克孝
我々、がん粒子線治療研究センターでは、2007年より様々な形で粒子線治療について幅広く
啓発活動を行って参りました。市民公開講座や出張講演をはじめ、施設見学など、粒子線治
療に対する理解を深めて頂き、がんの治療にはこういう治療があるのだということを知ってい
ただく為に日々、活動しおります。
その中で、市民公開講座につきましては、一定の役割を果たしたとの判断で、今年7月の鹿
児島市での市民公開講座を持ちまして終了させて頂きましたが、出張講演や見学は継続し
て活動していく予定です。 以下は今までの実績です。
【市民公開講座】
2007年 5件 鹿児島市、鹿屋市、奄美市、鹿児島市、指宿市
2008年 3件 薩摩川内市、霧島市、都城市
2009年 10件 人吉市、出水市、加治木町、鹿児島市、宮崎市、
南さつま市、福岡市、佐賀市、西之表市
2010年 9件 姶良市、鹿屋市、熊本市、長崎市、大分市、福岡市、
知名町、和泊町、鹿児島市
参加者合計 10,090名
【出張講演】
2007年 1件
2008年 9件
2009年 138件
2010年 202件 10月31日現在
参加者合計 33,776名
【施設見学】
2010年3月末~ 234件 10月31日現在
参加者合計 5973名
施設見学、出張講演については一部有料になる場合もございますが、お気軽にお問い合わ
せ下さい。なお、見学につきましては、見学コース内の一部が放射線管理区域に設定されて
いることと、装置の調整中であることから十分な対応が出来ない日が出てくる可能性がござ
います。
また、手続きの関連から事前お申し込みの無い方々のご見学は出来ませんので、事前のご
連絡を必ずお願いいたします。
その他、粒子線治療に関するお問い合わせや、実際の治療に関するご相談などお電話での
ご確認を頂けますようお願い致します。
人が幸せを感じられる施設を目指して
普及推進部門 大迫 久信
ディズニーランドが遊びのテーマパークなら、ここメディポリス指宿は人々を幸せにする
為のテーマパークです。
メディポリス指宿周辺エリアには美しい町(温泉)・山(農、畜産物)・海(海産物)や暖い
人々のおもてなしの心があり、それらを丸ごと「人々が元気になる」になる為のフィールド
として、病気の治療や心のケアはもとより家族みんなが幸せになれる施設作りを進めて
います。
例えば粒子線治療は身体への負担が少なくてすむ為、治療中でもゴルフや釣りなどの
趣味をお楽しみいただけます。
メディポリス指宿周辺には、あのタイガーウッズもプレイした事で知られる指宿カントリー
クラブをはじめとして30分のアクセス圏内に3箇所のゴルフ場があり、各施設共に特別な
料金にてプレイすることが出来ます。
広大な敷地内にはプールやグランド、テニスコートなど治療中の患者さんやご家族様が
爽やかに汗をかいていただける運動施設が整っています。
また、施設を取り巻くように遊歩道が整備されており、自然
の中を散策頂きながら心身ともにリフレッシュ頂けるかと
思います。
休診日となる週末は日本有数の温泉地指宿や鹿児島の観光名所を巡っていただき地元
の英雄西郷隆盛や篤姫など歴史を感じていただいた後は、黒豚やさつま揚げなど郷土
料理に舌鼓を打ってみては如何でしょうか。
ちなみにパワースポットとして知られる屋久島までは高速船を利用して1時間でアクセス
できます。
また、治療中の療養施設となる天珠の館は患者さんとご家族が一緒に生活でき、自然
の中で癒されながら日常生活を楽しんで頂けます。
源泉かけ流しの温泉やスパを完備したリゾートホテルでの生活は家族の団らんによる
家族間の絆や家族で一緒にいることの幸せを感じていただける施設です。
更に農林漁業体験や景観などを組み合わせ、地域全体の活性化を目指した取り組みに
も力を注いでおり普段の生活では味わうことの出来ない体験をお楽しみいただく事で
都市部と農村部との交流にも一躍かえるよう準備を進めています。
もとは国の保養施設であったものを民間企業の手で再生し、リゾート施設と最先端の
医療施設を融合させた医療リゾートが、いよいよ来春から稼動します。
メディポリス指宿を通じて多くの人々が健康で幸せになって頂ける施設を、スタッフ全員
で、もう一つ二つと幸せのアイテムを取り揃えながら準備を進めていきたいと思います。