Clinical Case Study An Unusual Case of Severe

Clinical Case Study
An Unusual Case of Severe Hypertriglyceridemia and Splenomegaly
Amit R. Rahalkar1, Jian Wang1, Sandra Sirrs2, James Dimmick3, Daniel Holmes4, Nadine Urquhart4, Robert A. Hegele1,a
and Andre Mattman2
1
Robarts Research Institute and Schulich School of Medicine and Dentistry, University of Western Ontario, London,
Ontario, Canada;2 Adult Metabolic Disease Clinic, Department of Medicine, Vancouver General Hospital, UBC,
Vancouver, British Columbia, Canada; 3 Department of Pathology and Laboratory Medicine, Children’s and Women’s
Health Centre of British Columbia, UBC, Vancouver, British Columbia, Canada; 4 Department of Pathology and
Laboratory Medicine, St. Paul’s Hospital, UBC, Vancouver, British Columbia, Canada.
a
Address correspondence to this author at: Robarts Research Institute, 406-100 Perth Drive, London, Ontario, Canada
N6A 5K8. Fax: +1 519 663 3037; e-mail [email protected].
臨床症例研究
脾腫を伴った重度の高トリグリセリド血症の稀な一例
症例
日本人とイギリス人を祖先に持つ 49 歳の男性が、非外傷性脾破裂による脾摘出後 5 ヶ月の診断のために、代
謝病クリニックに紹介されてきた。高血圧と軽度の前頭部痛の既往があるが、他には神経学的、心血管系の症
状はなし。喫煙歴は無く、アルコール摂取の頻度は高くない。母親には冠動脈疾患の既往があり、父親は軽度
の高血圧がある。血族結婚、脾腫、糖尿病、及び発達遅滞の家族歴は無い。
破裂した脾臓は 727g の重量があり、脾腫はリンパ節にまで広がる顕著な洞組織球増殖症を伴っていた。ほと
んどの組織球は泡末状で(図.1a)、わずかながら青色を呈し過ヨウ素酸シッフ反応(PAS)、PAS とジアスタ
ーゼおよびメイギムザ染色陽性の細胞があった。脂質蓄積疾患が疑われたが、組織球はゴウシェ細胞に特有の
細胞質線形構造を持たず、非特異的であった。脾破裂前に測定された患者のリポプロテインは正常で、過去に
トリグリセリドが 2mmol/L を超える事は無かった。
1
図 1. インデックスケースの病理とゲノム研究
(a)脾臓のヘマトキシリン=エオジン染色切片(40 倍)、マルピギー小体を置き換える白色脾髄 が広がっ
ているのを示している。白色は類洞の多数の泡沫状組織球のためである。挿入画参照(400 倍)。(b)Light
Cycler (Roche Diagnostics)を用いた DNA ゲノム分析とコドン 158 における患者のアポ E 溶解曲線を代表する C
曲線、コドン 158 での 56.4 度での TGC3 塩基(システイン)と 62.99 度(それは Cys158 の許容範囲の 63.568.5 度の範囲外であるが)の溶点を持つ不確定な三塩基コード配列のヘテロ接合性を示している。この残査
によって、コードされる別のアミノ酸を示唆している。正常 E2/E4(A)と E2/E3(B) の溶解曲線は、参考文献に
示されている。(c)患者のプラスミド直接シークエンスは 、変異アレルのコドン 149 においてインフレーム
欠失を示すアポ E アレルを複製した。下のトレーシングで、コドン 157 においてアルギニンをコードしてい
る CGC によって、E3Δ149 ロイシンが同定される。上のトレーシングで、コドン 158 でシステインをコードし
ている TGC の三塩基により、正常の E2 が同定される。
脾摘出後 2 ヶ月の検査所見で 血清総コレステロール 7.9(正常値<5.2)と HDL-コレステロール 1.4 (正常値
>1.0)、トリグリセリド 4.3(正常値<1.7)を伴った高脂血症を確認した。肝機能検査はγGTP88μg/L(正常値
2
<49μg/L)と上昇を認めた以外は正常であった。ヘモグロビンと白血球数は、正常で軽度の血小板上昇を認め
た。5 ヶ月時での身体所見で、肥満(BMI 28.9lg/m2) と高血圧(安静時血圧 140/100mmHg)。心血管検査は
正常であった。黄色腫、黄色板症や肝腫大は認めなかった。心エコーによる左室駆出率は、50%と正常であっ
た。冠動脈 CT スキャンでは明らかな血管閉塞は認めず、脳 MRI では虚血に由来する非特異的な白質の変化を
認めなかった。頸動脈超音波では明らかな閉塞を認めなかった。
脾摘出 6 ヶ月後、患者の血清トリグリセリドは 17.2mmol/L。患者はシーフードの多い、低脂肪、低糖食を処
方された。8 ヶ月時、血清トリグリセリドは 1.5mmol/L まで低下したが、総コレステロールは 8.2、HDL コレ
ステロールは 1.2 mmol/L と高値であり、アポリポプロテインのアポ B とアポ A-1 濃度は、それぞれ 1.19 と
1.35g/L であった。患者の食事療法は緩められたが、12 ヶ月時再度トリグリセリドが 21.1mmol/L まで上昇した。
心血管疾患を示唆する所見があったことと、繰り返す高度の高脂血症を認めたため、アスピリン、血圧降下剤、
抗高脂血症療法(アトバスタチン 10mg/日とサーモンオイル 3g/日)が開始された。遺伝子検査がオーダーさ
れた。
考察
原発性高トリグリセリド血症は比較的ありふれた疾患の一つであり、いくつかは分子遺伝学的に明らかになっ
ている。例えば、いくつかの家族性乳糜血症はリポ蛋白リパーゼや、その共同因子であるアポ C—Ⅱをコード
する遺伝子の変異による。いくつかの家族性リポ蛋白血症は転写因子をコードする、上流転写ファクター1
(USF1)遺伝子の変異によるものである。異常 β リポ蛋白血症(3 型高リポ蛋白血症)の発症には、欠失アポ
E E2 アレルが 2 コピー結合する事が必要である。しかしながら、ほとんどの原発性高トリグリセリド血症は、
分子レベルでの原因は不明である。高トリグリセリド血漿を悪化させる二次的な因子は、食事、肥満、アルコ
ール摂取、糖尿病、腎疾患、妊娠、非アルコール性脂肪肝、パラプロテイン血漿、自己免疫疾患、ステロイド
などの薬剤である。
脾腫の原因は、患者の年齢により様々である。例えば、鎌状赤血球症の脾臓での隔離は、若年齢に起こる一方、
非肝硬変の門脈線維化はすべての年齢で起こる。脾腫大のメカニズムには、(a)感染症、EB ウイルス、サイ
トメガロウイルスなどのウイルス感染症、細菌、寄生虫、真菌感染症、流行地域ではマラリアや住血吸虫症な
ど、(b)自己免疫疾患、若年性関節リウマチなど、(c)溶血 、(d)腫瘍、急性リンパ性白血病、非ホジキ
ンリンパ腫、ホジキン病、急性、慢性骨髄性白血病など、(e)転移性病変、神経芽細胞腫など、(f)組織球
症、(g)門脈血栓による脾静脈血流の閉塞、肝硬変、またはうっ血性心疾患、(h)肝外門脈閉塞、海綿状変
性など、(i)脂質蓄積疾患、ゴウシェ病やニーマンピック病などである。
非外傷性脾脾腫と高とリグリセリド血症の鑑別診断には、家族性リポ蛋白リパーゼやアポ C-Ⅱ欠損症、稀なア
ポ E3 変異、リソソーム酸リパーゼ欠損や血球貪食リンパ組織球症があげられる(1)(2)(3)。これらの特別な稀
な疾患の鑑別には、完全なリポ蛋白プロファイルが必要である、つまり、アポ E 遺伝子型などの高度のリポ蛋
白分析、肝臓及び脾臓の腫大を示す腹部エコー、血清中の肝臓と炎症のバイオマーカーの評価などである。脾
臓の組織病理学的な評価に加えて、アポリポ蛋白 E(APOE)、アポリポ蛋白 C−Ⅱ(APOC2)、リポ蛋白リパー
ゼ(LPL)やリパーゼ A(リソソーム酸、コレステロールエステラーゼ、LIPA)遺伝子の分子学的解析が必要で
あろう。
3
二つの以前のレポートで、E3Δ149 ロイシンを指定する、コドン 149 におけるロイシン欠損を伴う非常に稀な
アポ E3 同位体の存在が確認されている(4)(5)。E3Δ149 ロイシン変異を伴う患者における臨床的特徴は高トリ
グリセリド血症、血小板減少、脾腫と、海青組織球症を伴う脾臓の泡沫組織球浸潤である。
この症例は DNA アポ E 遺伝子型の解析が、LightCycler(Roche Diagnostics)を用いて行われ、結果は患者はコ
ドン 112(システイン 112)における三塩基 TGC においてホモ接合を有しており、アポ E2 と E3 同位体と合致
する所見であった。しかし一方、コドン 158 における非典型的増殖は E2, E3, E4 同位体とは異なる事を示して
いた(図.1b)。アポ E 直接シークエンスは、コドン 149 とコドン 150 を架橋する 1 アレル三塩基 TCC 欠失を
示しており、それは残存 149 でのインフレームのロイシン欠失を予測している。正確な塩基配列と変異の遺伝
子フェーズを確認するため、F4 と F6(5)プライマー、pcDNA3+プラスミドと E.ColiDH5αTM(インビトロゲン)
を用いて、アポ E のエクソン 4 のプラスミドベクターサブクローニングが患者のそれぞれのアポ E アレルに対
して実施された。E3 アレル上で欠失が見つかり(図.1c)、患者のアポ E 遺伝子型 apoE2/E3Δ149Leu を確認し
た。
アポ E は肝細胞によるコレステロールの豊富なリポプロテインの取り込みを仲介する。それは LDL レセプター
のリガンドであり、またカイロミクロンレムナントと VLDLs の血漿からの取り込みを可能にするものである
(6)。アポ E は通常肝臓での合成の過程で VLDL に組み込まれる。血漿中に分泌された後、VLDL は LDL に変
換され、VLDL レムナントや IDL などのマイナーな中間代謝産物は、アポ E 残存 136 から 150 を介した LDL レ
セプターに取り込まれて分解される(6)(7)。アポ E はまたマクロファージや肝細胞以外からも HDL への結合
が起こる血漿中に分泌され、HDL の血漿からの排除を促進する(6)。
アポ E 遺伝子の一般的な遺伝子多型は、アミノ酸残存物 112 と 158 をコードする配列に影響し、3 つの蛋白同
位体と 6 つの優位なジェノタイプを作る。E3 同位体は最もありふれており(すべてのアポ E アレルの約
75%)、また 112 部位にシステインを有し、アルギニンを 158 に持つ(8)。E2 と E4 同位体をコードしているア
レルは単一核酸により、それぞれ E3 アレルとは異なる。E4 同位体(全体のアレルの約 15%)は 112 部位にア
ルギニンをもち、約 5%高い濃度の LDL コレステロールと関連している。E2 同位体(全体の約 10%のアレル)
は 158 部位にシステインを持ち、約 5%低い濃度の LDL コレステロールと関連している(8)。全体の人口で
E3/E3 ホモ接合は最も多い遺伝型である(8)。E2/E2 ホモ接合は約 1%の人口に起こり、III 型高脂血症の発現に
寄与しており、ほぼ同程度の(等モルの)血漿コレステロールとトリグリセリドの上昇と、早期の心血管疾患
が特徴である(9)。その他のアポ E の稀な変異は、脂質異常症と関連している(7)。
Nguyen ら(4)は二人の血縁関係の無い発端者において、E3Δ149Leu 変異を最初に同定した。双方の家族におい
て、変異は海青組織球症と脾腫大を含む優位な症状と関係していた。Faivre らは後に臨床的に III 型高脂血症を
持つ発端者に同じ E3Δ149Leu 変異を発見し、続いて数名の親族に同じ変異を見いだした。現在の症例は脂質異
常症の発現型と、脾摘の必要性と言う点で他の報告例と共通しているが、他の症例と比べて、持続するトラン
スアミナーゼの上昇、血小板減少、及び虚血性心疾患が見られない点が異なっている。この症例は E3Δ149Leu
アレルと、脾腫を伴う脂質異常症と泡沫状組織球症の浸潤を関連づける新たな証拠となる。この症候群は脾摘
後の高トリグリセリド血症の患者の鑑別疾患に含めるべきかもしれない。
E3/E3Δ149Leu 変異はアポ E の機能に負の影響を及ぼし、変異を持つキャリアは脂質蓄積疾患のサインや症状
を示す。脾臓泡沫細胞形成と E3Δ149Leu 変異の相関については、説明の必要性が残る。脾臓は E3Δ149Leu キャ
リアにおいて、主なトリグリセリド蓄積器官である、なぜなら重度の高トリグリセリド血症が、脾摘に引き続
4
いて起こっているからである。マクロファージはアポ E を血漿内に分泌し、血漿中のアポ E を含むリポプロテ
インを取り込む(6)。これはおそらくマクロファージが脂肪が多い脂質を吸収するスポンジのような役割をす
る事の説明になる。
以前の症例報告と比較すると、E3Δ149Leu キャリアにおける脂質異常症は、臨床的に良く似ている(表 1)。
私たちは E3Δ149Leu 変異が寄与する臨床的、病理学的変化は、遺伝的環境的要因によると推察する。この症例
とその他の症例から、我々は apoE3Δ149Leu は、脾腫と脾への海青組織球の泡沫状細胞の浸潤、脾摘に伴って、
明らかになる高トリグリセリド血症を特徴とする脂質蓄積疾患を引き起こすと結論付けられるかもしれない。
その疾患は食事、ライフスタイル、薬物療法に反応するようだ。
表 1. 以前に報告された apoE3 149Leu キャリアの生化学的、臨床的、遺伝的特徴
覚えておくべきポイント
5
・E3Δ149Leu ヘテロ接合に加えて、高トリグリセリド血症を伴う非外傷性脾腫の鑑別疾患には、リポプロテイ
ンリパーゼやその共通因子であるアポ C-Ⅱ欠損、リソソーム酸リパーゼ欠損や血球貪食リンパ組織球症が含ま
れる(1)(2)(3)。
・付随する高トリグリセリド血症と脾腫は各種の臨床症状を引き起こす状況が、稀にくみ合わさった結果とも
考えられる。この組み合わせの鑑別診断として、リポ蛋白プロファイル、アポ E 同位体分析、またはアポ E 遺
伝型タイピング;CBC 分画とスメア;血清アルブミン、ビリルビン、AST、APT、γGTP、ALP を含む肝機能検査
があげられる。画像検査は腹部エコー、左上側腹部 CT または MRI や、脾臓のアイソトープスキャンなどがあ
る。脾摘出後の組織学的評価では、典型的には泡沫状組織球症と海青組織球が見られる。149Leu 欠損を同定
するためのアポ E 分子分析、アポ C2, LPL, または、機能欠損変異を同定するための、LIPA 遺伝子分析が必要で
あろう。
謝辞
Grant/funding Support: Supported by the Jacob J. Wolfe Distinguished Medical Research Chair, the Edith Schulich Vinet
Canada Research Chair (Tier I) in Human Genetics, operating grants from the Canadian Institutes for Health Research
(MOP-13430, MT-8014), the Heart and Stroke Foundation of Ontario (NA-6059, T-5603, PRG-5967, and the Irwin Bernick
Summer Student Fellowship through the University of Western Ontario) and by Genome Canada through the Ontario
Genomics Institute.
Financial Disclosures: None declared.
参考文献
1.
Janka GE. Hemophagocytic syndromes. Blood Rev 2007;21:245-253.
2.
Tylki-Szymanska A, Rujner J, Lugowska A, Sawnor-Korszynska D, Wozniewicz B, Czarnowska E. Clinical,
biochemical and histological analysis of seven patients with cholesteryl ester storage disease. Acta Paediatr Jpn
1997;39:643-646.
3.
Saku K, Cedres C, McDonald B, Hynd BA, Liu BW, Srivastava LS, Kashyap ML. C-II anapolipoproteinemia and
severe hypertriglyceridemia: report of a rare case with absence of C-II apolipoprotein isoforms and review of the
literature. Am J Med 1984;77:457-462.
4.
Nguyen TT, Kruckeberg KE, O’Brien JF, Ji ZS, Karnes PS, Crotty TB, et al. Familial splenomegaly: macrophage
hypercatabolism of lipoproteins associated with apolipoprotein E mutation [apolipoprotein E (delta149 Leu)]. J Clin
Endocrinol Metab 2000;85:4354-4358.
5.
Faivre L, Saugier-Veber P, Pais de Barros JP, Verges B, Couret B, Lorcerie B, et al. Variable expressivity of the
clinical and biochemical phenotype associated with the apolipoprotein E p.Leu149del mutation. Eur J Hum Genet
2005;13:1186-1191.
6
6.
Lucic D, Huang ZH, Gu de S, Altenburg MK, Maeda N, Mazzone T. Regulation of macrophage apoE secretion and
sterol efflux by the LDL receptor. J Lipid Res 2007;48:366-372.
7.
Walden CC, Hegele RA. Apolipoprotein E in hyperlipidemia. Ann Intern Med 1994;120:1026-1036.
8.
Eichner JE, Dunn ST, Perveen G, Thompson DM, Stewart KE, Stroehla BC. Apolipoprotein E polymorphism and
cardiovascular disease: a HuGE review. Am J Epidemiol 2002;155:487-495.
9.
Mahley RW, Rall SC. Type III hyperlipoproteinemia (dysbetalipoproteinemia): the role of apolipoprotein E in
normal and abnormal lipoprotein metabolism. Scriver CR Beaudet AL Sly WS Valle D eds. The metabolic and molecular
bases of inherited disease 8th ed. 2001:p 2835-2862 McGraw-Hill New York.
論説
Alan T. Remaley
National Institutes of Health, Bethesda, MD.
Address correspondence to the author at: National Institutes of Health, Bldg. 10, Rm. 2C-433, 10 Center Dr, MSC 1508,
Bethesda, MD, 20892-1508. Fax 301-402-1885; e-mail [email protected].
アポリポ蛋白 A-1 と B は、HDL と LDL 濃度とともに多くの検査室で測定されているが、リポ蛋白は多くの他の
蛋白を含んでおり、そのうちのいくつかはリポ蛋白代謝に深く影響を与えるものである。例えばアポ E は抗動
脈硬化性 HDL 分子と、動脈硬化惹起性リポ蛋白アポ B 上に存在するので、分画していない血漿においては、
心血管系疾患の危険度マーカーとしてアポ E の有用性を相殺することになる。にもかかわらず、アポ E はリポ
蛋白代謝において、多彩な役割を持つ。そのうちのいくつかは、この興味深い症例で見られたマクロファージ
の脂質蓄積を説明するかもしれない。アポ E の最も良く知られた機能は、アポ B 含有蛋白の細胞への取り込み
のリガンドとして働くというものである。アポ E の正常型が欠損すると、リポプロテインの肝臓でのクリアラ
ンスが低下し、リポ蛋白の酸化とマクロファージ・スカベンジャーレセプターによる取り込みが増加する。ア
ポ E は細胞内、特にアポ E を産生するマクロファージにおいて、ABCA1 トランスポーターや他のコレステロー
ル排出メカニズムによる過剰細胞内コレステロールの排出を促すことにより脂質蓄積も防ぐ。
近年、アポ E の新しい役割が分かってきており、それらはこの症例のマクロファージの脂質蓄積と関係してい
る。リポ蛋白上のアポ E の存在は、また貪食されたリポ蛋白のリソソーム分解を促す(1)。アポ E の欠損や、
おそらくこの症例がそうであると思われる、異常なアポ E の存在により、貪食されたリポ蛋白は、おそらくは
マンノース6リン酸レセプターの産生と、輸送を変化させる事で、様々な過水分解酵素のリソソームへの輸送
を阻害する。マンノース6リン酸レセプターは、正常ではこれらの酵素をリソソーム内に導く。この干渉作用
の結果として、リポ蛋白の細胞内脂質分解とリソソーム内でのコレステロールエステルの蓄積が起こる。さら
に、カテプシン B、正常ではリソソームの蛋白分解酵素、が代わりに細胞外スペースに分泌され、これが不安
定なプラークの形成の原因と考えられる。現在、唯一アポ E ベースで臨床検査室のルーチンに行われる検査は、
アルツハイマー病の危険度を評価するためのアポ E 同位体の遺伝型検査である。リポ蛋白代謝におけるアポ E
の多面的役割を考えると、 特異的リポ蛋白分画におけるアポ E の測定は、将来の心血管系リスクマーカーの
研究対象として実りのある分野かもしれない。
7
謝辞
Grant/funding Support: None declared.
Financial Disclosures: None declared.
参考文献
1.
Wu D, Sharan C, Yang H, Goodwin JS, Zhou L, Grabowski GA, Du H, Guo Z. Apolipoprotein E-deficient lipoproteins
induce foam cell formation by downregulation of lysosomal hydrolases in macrophages. J Lipid Res 2007;48:2571-2578.
論説
Robert Shamburek
National Institutes of Health, Bethesda, MD.
Address correspondence to the author at: Bldg 10 7N115, 10 Center Drive, National Institutes of Health, Bethesda, MD,
20892-1666. Fax: 301-402-0190; e-mail [email protected].
臨床検査質は特にアポリポ蛋白(apo)E 多型のタイピング(E2,E3,E4)に集中しておりアポ E 自身の濃度測定
は少ない、なぜならアポ E の増加は高トリグリセリド血漿で見られるが、冠動脈疾患との関連が薄いからであ
る。リポ蛋白代謝におけるアポ E の役割と脾臓マクロファージの重要性がこの症例で示された。
タイプⅢ高リポ蛋白血漿(HLP)は優性及び劣性の遺伝性疾患である。劣性遺伝のタイプⅢHLP はアポ E2 のホ
モ接合を必要とするが、E2/2 アレル単独では臨床症状の発現に十分でない。なぜなら E2/2 ホモ接合の 10%以
下しか発症しないからである。肥満やエストロゲンの状況、糖尿病などの遺伝的、内分泌的、環境的因子「セ
カンドヒット」が発症には必要である。それにくらべて、apoE3Δ149Leu は稀な優性遺伝型のタイプⅢHLP で
単一アポ E アレルの欠損が原因となる。症状は「古典的な」劣性タイプⅢHLP に見られる結節性手掌黄色腫を
欠き、apoE3Δ149Leu の脂質プロファイルはセカンドヒットよりも正常な脾臓に依存している。
脾臓はトリグリセリドレムナント、リポ蛋白の血漿からの除去に重要で保存的な役割を担っている。脂肪肝と
脾腫大の進行は変異アポ E 含有トリグリセリドレムナントリポ蛋白の脾臓マクロファージによる異化亢進の結
果として起こる。マクロファージの取り込み増強は比較的正常な血漿脂質濃度と正常な脾臓に貢献する。
脾摘は残存リポ蛋白の欠損を露呈し高トリグリセリド血漿の発症に結びつく。そして、不完全な除去と同時に、
食事と二次的な要因がリポ蛋白(β-VLDL)の過剰産生を促す。
Tangier 病のようなその他の脂質異常症で起こる異常な脂質クリアランスにおいて脾臓は重要な役割を担う。
臨床像は脾摘後に悪化しうる。動脈硬化は脾摘後レムナントリポ蛋白のクリアランス低下のために加速するが、
臨床的に明らかになるのは 5 から 10 年後である。脾臓マクロファージは冠動脈疾患の発症抑制に働くかもし
れない。
8
(訳者:北村
謝辞
Grant/funding Support: None declared.
Financial Disclosures: None declared.
参考文献
1.
Schaefer EJ, Triche TJ, Zech LA, Stein LA, Kemeny MM, Brennan MF, Brewer HB, Jr. Massive omental
reticuloendothelial cell lipid uptake in Tangier disease after splenectomy. Am J Med 1983;75:521-526.
9
則子)