角膜 虹彩 眼房 水晶体 硝子体 視神経乳頭 黄班部中心窩 網膜 脈絡膜

視覚障害
筑波技術大学
特命学長補佐(SD 支援調整担当)
石田久之
視覚障害とは、視力、視野、色覚などの視機能の永続的な低下をいう。その範囲や程度は、
教育、福祉など、それぞれの分野によって異なっている。ここでは、教育に関わる内容を中
心に解説する。
1.目の構造(図1)
角膜
虹彩
眼房
水晶体
硝子体
視神経乳頭
黄班部中心窩
網膜
脈絡膜
視神経
強膜
図1
目の構造
1
眼球は脳の一部が突出してできた光刺激を感受する光受容器である。前後径は約 24mm
で、眼球前面より、角膜、眼房、水晶体、硝子体、網膜の順にある。
光を受容する本体は網膜にある視細胞で、錐体細胞(cone:600~700 万個)と杆体細胞
(rod:1億個)との2種があり、前者は色覚と形態覚を、後者は光覚をつかさどる。
目の構造はカメラに似ており、水晶体はカメラのレンズ(ピントあわせ)、虹彩は絞り、
網膜はフィルムと例えられる。
一眼から出た視神経は、半分が同側の脳に、残り半分が反対側の脳に向かい、大脳皮質の
後頭葉 17 野で終わる。ここが視覚中枢といわれる部位である。
2.視力
(1)視力の測定
視力とは,通常 2 つの点が離れていることを見分けられる能力をいう(最小分離閾)。
視力は、ランドルト環(図2)で測定する。ランドルト環は、直径の5分の1の幅と切れ
目を持つ環で、直径 7.5cm、幅・切れ目 1.5cm のランドルト環の切れ目の位置を 5m の距
離から見分けられると、視力 1.0 である(遠見視力)。
図2
ランドルト環
視力には、遠見視力の他に近見視力がある。近くを見る時の視力をいい,近距離視力表を
用いて目から 30cm 離れて測った視力をいう。教室での学習では近見視力も重要である。
(2)教育の場における視覚障害の定義
・筑波技術大学の入学資格
両眼の矯正視力がおおむね 0.3 未満であること。矯正視力が 0.3 以上であっても、視力以
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外の視機能(視野など)に重度の障害があるか、将来、視力低下や視機能低下の恐れがある
場合。
・盲学校の教育対象(学校教育法施行令第 22 条の 3)
(平成 14 年4月改正前)
(ⅰ)両眼の視力が 0.1 未満のもの
(ⅱ)両眼の視力が 0.1 以上 0.3 未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度の者のうち、
点字による教育を必要とする者又は将来点字による教育を必要とすることとなると認めら
れる者。
↓
(平成 14 年4月改正後)
両眼の視力がおおむね 0.3 未満又は視力以外の視機能障害が高度で、拡大鏡等を使用して
も文字等を認識することが不可能又は著しく困難な程度の者。
(3)盲と弱視
視覚障害といっても、視力の全く無い場合と、健常者とあまり変わらない視力がある場合
とでは、自身の生活様式、授業での教育方法はかなり異なる。
通常、視覚障害は、その視力により、盲と弱視に分けられる。視力 0.02 未満(矯正視力、
以下同様)を盲といい、この中で特に、明暗弁別ができない状態を全盲という。盲といって
も、光覚、眼前での手の動き、眼前に提示された指の数をわかる状態も含まれ、幅は広い。
視力 0.02 以上 0.3 未満を弱視という。弱視は、0.04 未満を重度、それ以上を軽度と分け
る場合もある(0.1 を境界とする場合もある)。なお、世界保健機関(WHO)は、0.05 未満
を盲(Blind)、0.05 以上をロービジョン(Low Vision)としている。
(4)視力と使用文字
盲の場合、点字を使用する。視力 0.01~0.02 で、点字と墨字の使用がほぼ同率となる。
更に視力が良くなるにつれ墨字使用の割合が増加し、視力 0.05 を超えると九割が、視力 0.1
前後からほぼ全員が墨字使用となる。
このように、視力と使用文字との大まかな対応関係はあるが、単に視力により、機械的に
当てはめるのではなく、学生の生活様式や学習スタイルを正しく認識し、適切な方法を提供
する必要がある。
3.視野
(1)中心視野と周辺視野
視線を一点に固定し、同時に見える外界の範囲を「視野」という。視線による「視角」に
よって表す。中心から 30 度以内を「中心視野」といい、これより外部を「周辺視野」とい
う。視野は「視野計」により測定する。平均的な日本人の場合、以下の値を示す(指標が白
色の場合)。
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上
上外
外
外下
下
下内
内
内上
合計
60 度
75 度
95 度
80 度
70 度
60 度
60 度
60 度
560 度
色視野(指標に色がついている場合)は、青、赤(黄)
、緑の順に狭くなる。
各人の測定値を560で除し百倍した値を視野の「視能率」という。
(2)マリオットの盲点(図3)
耳側15度、下方3度の位置に、直径5度の暗点がある。発見者の名前から“マリオット
の盲点”と呼ばれるが、これは誰にでもあり、視細胞の無い視神経乳頭部の視野への投射で
ある。人がこの盲点に気付かないのは、両眼視により、他眼の盲点をカバーしているからで
ある。
30°
20°
10°
0°
鼻側
図3
耳側
中心視野とマリオットの盲点
(3)視野の障害
視野の障害は、大きく三つに分類される。
・視野狭窄
視野狭窄は、視野の周辺部が欠け、見える範囲が狭くなる。中心視野は残っており、これ
を利用して教育などはできるが、周辺の状況が把握できないという状態になる。
・暗点
二つ目は、暗点である。先に説明したマリオットの盲点は、視覚の構造的なものなので、
暗点には入らない。暗点は、視野の中の一部が抜け落ちたようになる。特に中心暗点では、
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鋭敏な中心部分が見えないので、生活・学習上の影響は大きい。
・半盲
三つ目は半盲である。視覚路上の障害部位により、見えなくなる部分が異なる。両眼の鼻
側半分が見えなくなったり(異名半盲)、両眼右半分が見えなくなったり(同名半盲)とい
う症状が現れる。着席位置などの工夫が必要となる。
4.眼疾患
(1)視覚障害の原因
網脈絡膜・視神経疾患(28.2%)、角膜疾患(11.3%)、水晶体疾患(5.3%)、その他(17.3%)、
不詳(26.6%)
(2)主な眼疾患の概要
・糖尿病性網膜症
糖尿病の患者に見られる網膜の病変で、網膜上に出血が見られ、網膜剥離を引き起こし、
失明にいたることも少なくない。
・白内障
水晶体の混濁により生じる。混濁が強い場合はできるだけ早い時期に水晶体の摘出が必要。
・緑内障
以前は眼圧が正常眼圧を越えている状態を主な徴候とする疾患とされていたが、眼圧が正
常な場合もあり、視神経障害を主症状とする疾患全般を指す。
・網膜色素変性症
遺伝による眼疾で,幼少時より夜盲が起こり,徐々に進行し 20 歳頃には視野狭窄,視力
低下も強くなる場合と、青年期以降、夜盲や視野狭窄が急速に起こる場合とがある。
・視神経網脈絡膜萎縮
視神経の変性、炎症、外傷等により生じ、萎縮の程度により症状はまちまちであるが、視
力及び視野が障害される。
・角膜ヘルペス
へルペスウイルスによる疾患である。このヘルペスウイルスは,成人の約 80%に不顕性
感染(感染はしていても何の症状も現われないもの)している。再発しやすく,再発をくり
返すと病巣が広がり,治っても角膜が濁って不透明となるため,重度の視力障害となり,失
明することもある。
5.障害に関する指導と支援
(1)視力低下及び損失に対応した指導と支援
・“ゆっくり”と“繰り返し”
教育場面における視覚障害学生への対応として、二つの基本事項がある。一つは、“ゆっ
くり”である。この世界は、見えることを前提にして作られている世界である。その世界で、
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見えない、或いは、見えにくい学生が生活、学習をするのであるから、当然、行動は慎重に
ならざるを得ない。様々な面で動きはゆっくりとなる。
“遅い。早くしろ。”と、学生を焦ら
せてはならない。学生のペースを理解する必要がある。
もう一つは、“繰り返し”である。重要な部分は,繰り返して説明する。分厚い点字資料
から改めて必要箇所を見つけ出すのは大変なことである。後で調べなさい、調べようという
のは、健常者が考えるほど、簡単なことではない。できるだけ、授業内で、理解させ、整理
し、記憶させるべきである。そのためには、何度でも繰り返す必要がある。
また、“もう一度,お願いします”は,授業を聞いている証拠である。聞いていない学生
はそんな質問をしない。
“よく聞いておけ。”などと怒ってはならない。
一年間で教えるべき内容は山ほどある。ゆっくり、繰り返してやっていては、全部を教え
られない。時間がかかり、時間が足りなくなる。
そのためには、話す内容を精選し,資料を簡潔にする必要がある。つまり、事前の準備か
ら、教員の障害学生対応は始まっているのである。
・教員とは
改めてここで、教員の役割について簡単に言及したい。教員は、教室内における最大の支
援担当者である。なぜならば、授業を作るのは教員にしかできないからである。わかり易い
授業とするのも,理解できない授業になるのも教員次第だ。以前は、分からないのは学生の
勉強不足、ですんでいたが、今は違う。教員の授業技術が問われるわけである。ここに FD
研修の重要性がある。障害学生の行動特性を理解しながら、わかり易い授業を展開するのは
簡単なことではない。
(2)弱視学生の見え方の特徴
・ピンボケ(図4)
図4
ピンボケ
Jackson, A. J. & Wolffsohn, J. S. “Low Vision Manual” より
さて、ここから弱視学生(勿論、学生に限ったわけではない)の見え方の特長について述
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べることとする。第一に挙げられるのは、いわゆる“ピンボケ”である。いくら矯正しても
網膜上に明瞭に焦点が結べないものである。現象的には、字と字、字の中の線と線とを区別
できず、それらが一つに融合した結果、区別のはっきりしない漠然と一つになったものとし
て知覚される。
・見える範囲(視野)の減少
眼疾によっては、見える範囲(視野という)が狭くなる場合がある。障害された場所によ
り、中心部だけが見えたり(求心性視野狭窄)
、周辺部だけに視力があったり(中心暗点)、
様々な状態を示すが、同時に対応方法も様々である。求心性視野狭窄の場合、中心部の鋭敏
さや色覚は残っているが、狭い範囲しか見えないので、大きな文字の資料は読めない。また、
周辺部の視力だけの場合、色覚がなくなり、色の着いた資料は意味が無い。
更に、半盲という(鼻側、右側など)一側が障害を受けた場合、見える方向が決まってし
まうので、着席位置などの配慮が必要となる。
・眩しさ(羞明)
弱視学生には適切な明るさが必要である。
“適切な”とは、暗くないことは勿論であるが、
明るすぎてもいけないのである。コントラストが重要である。また、
“変化”も大敵である。
教室内の日差しの変化などにも注意は必要で、必要に応じカーテンなどを使い、一定の明る
さに保つ必要がある。
さて、多くの眼疾で眩しさを訴える。白けて見える、目を開けていられない、などである。
これは眼内で光が散乱することによるのであるが、羞明の原因となる波長の光を遮る遮光メ
ガネで対処する。また、簡便な方法として、教室内でつばの広い帽子を着用させても効果は
ある(図5)
。更には、室内の照明を落として、紙面の反射を抑えることもある。
また、ワープロ使用時には,黒い背景に白い字という、白黒反転も効果的である。
図5
簡便な眩しさ対策
・眼振
眼振とは、自分の意思とは無関係に生じる眼球の異常な動きのことである。ある方向の急
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速な動きと元にもどる緩徐な動きからなる。吐き気があったり、身体バランスを失ったりす
ることもあるので、付き添いやしばらく動かさないようにする必要がある。
・文字を持たない学生
本学学生の中には、視力がないので墨字は読めず、かと言って、点字の勉強も進んでいな
いので、点字も読めないという学生がいる。音声を中心とした情報収集、生活を送っている
学生である。このような“文字を持たない学生”には、早急な点字指導が必要である。本学
では、入学試験において、問題の読み上げ、解答の代筆などを行なっているが、それは、決
して、視覚障害者に、また、大学の授業において、文字が必要ないということを言ってはい
ないのである。
(3)点字を学習する学生への対応
盲学校で点字を習得した者は、学習上問題はないが、上述の“文字を持たない学生”や本
学在籍中に視力を失った者には適切な配慮が必要である。心理的ケアについては、後述する
が、読み書きの手段として点字の学習が重要となる。本学では、点字の授業があり、ここで
学習できるが、授業に遅れない速度で触読するためには週1時間では少なすぎる。授業だけ
ではなく、支援センターの点字指導も利用するなど、学生自身の積極的な学習を促す指導が
必要となる。
6.ロービジョンケア
弱視学生に生じる制約をまとめると以下のようになる。
(ⅰ)周囲の状況が視覚的にわかりにくい。
(ⅱ)移動や読み書きなど、社会生活が困難になる。
(ⅲ)視経験の曖昧さが生じる。特に文字の誤りなどは、影響が大きい。
(ⅳ)行動とその結果(知覚)とのギャップが生じる。
(ⅴ)疾病により存在しないものも知覚される(飛蚊症など)。
(ⅵ)他の感覚の動員が必要となる。聴覚や味覚、触覚など。
(ⅶ)近づいて観ることが必要であり、近づけない物の把握が困難である。
以上を踏まえ、主な眼疾患の特徴と対応について以下に述べる。
・網膜色素変性症
症状:文字が読みづらい。夜盲、夜外を歩きつらい。視力低下。視野狭窄。色覚異常。眩し
い所が見えにくい。日中も段差につまずく。
対応:弱視レンズ(ルーペ、拡大鏡、弱視眼鏡、単眼鏡など)。拡大(コピー、読書器)。
・白内障
症状:視力低下。目がかすんで見える。明る過ぎる場所や暗い場所の歩行に不自由。
対応:弱視レンズ、遮光眼鏡、白黒反転。
・緑内障
症状:頭痛。吐き気。目の痛み。中心部が欠損。
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対応:弱視レンズ、拡大、書見台。
・黄斑変性
症状:ぼやけてよく見えない。中心部が暗くなり、歪む。眼球振盪(焦点が定まらない)。
対応:弱視レンズ
・視神経炎
症状:中心暗点。
対応:拡大。
・先天性小眼球
症状:視力が低い。
対応:弱視レンズ。
・黄斑ジストロフィー
症状:暗点。ぼんやり。羞明。
対応:拡大、遮光眼鏡、白黒反転。
※
ジストロフィーというのは、遺伝子の要因で、組織や臓器が徐々に変性すること。
・弱視
症状:矯正がきかない。視力が低い(進行性を含む)。光に弱い。
対応:弱視レンズ。拡大。
・半盲
症状:鼻側、右側など、視野の半分が見えない。
対応:対象との位置関係を調整
・その他の対応:
ぶつからないようにゆっくり歩く。夜は出歩かない。目立たせる(資料に色付け、蛍光テ
ープの使用)
。リーディングサービスの利用。席を前にする。
7.心理的ケア
心理的ケアが必要とされるのは、大きく分けて、以下の二つの場面である。一つは、障害
の受容過程、もう一つは、新たな環境への適応過程である。
(1)障害の受容
障害の受容は以下のような段階的な過程として説明されることが多い。
第一段階:病名告知による衝撃、ショック
人によって程度の差はあるが、重度の身体疾患の告知によって落胆し、失望感を味わう。
病気らしい病気をした経験が無い人ほど、その種の感情は強い。混乱、錯乱状態に陥る場合
もある。
第二段階:防衛的退行(否認、逃避)
「まさか自分に限って…」「何かの間違いに違いない…」等、医師の告知を信じようとし
ない(信じたくない)。無口になる。周囲の状況に無感心を装う。多弁(躁的防衛)も生じ
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る。身体或いは機能喪失により情緒不安定になり、これを最小限に抑えるための心理的な動
きである。
第三段階:承認(怒り、抑うつ)
防衛的退行(第二段階)の心理が働いても、身体機能喪失という現実に直面し、認めざる
をえない時期が来る。「なぜ自分がこんな目にあわなければならないのか」という感情が湧
く。怒り、悲しみ、抑うつの状態。
第四段階:適応・受容(新しい自己への親しみ)
病気になった自分の体に慣れる。
→
再起
交通事故などによる中途障害や、青年期以降の障害の発現に対しては、否定や、怒りなど
の段階に留まっている場合もある。また、これらの段階は、一方向ではなく、行きつ戻りつ
であり、大学入学という新たな環境変化で、前の段階に戻ることもある。保護者や保健管理
センターなどと情報を共有しつつ、適応・受容へと指導していかなければならない。
(2)環境への適応
親元を離れての寄宿舎生活などは、それまで親の保護の下で生活してきた者にとって、非
常に大きなストレスとなる。特に大学生活は、自立的な学習が求められ、生活環境と共にそ
れまでの学習形態も変革が求められる。昼間の授業、それ以外の生活と環境の変化は極めて
大きい。これらに対する心理的ケアが必要である。
生活に関しては、徐々に適応していくが、集団生活になじめない学生も見られる。日常的
な声かけなどにより、学生の心身の状態に留意することは、教職員の義務でもある。
環境の変化にはもう一つの場合がある。学外実習である。学内の自立的学習と言っても、
やはり学内は学外の社会とは異なっている。学内は保護的教育の場である。しかし、実習と
言えども学外の機関で行なう以上は、社会生活の一コマである。容赦ない指導、叱責などを
まともに受けることもある。残念ながら、それらを受け入れられる学生ばかりではない。障
害のせいで、と否定的に考える学生もいる。社会の偏見、無理解への啓発は、直ぐには無理
としても、目の前で落ち込んでいる学生への思いやりは、また、本学職員が必要とする資質
である。カウンセリングというほど大げさではない、人生の先輩としての一言を彼らは待っ
ている。
終わり
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