ストレステストと中性子照射脆化の関係 - ioj

ストレステストと中性子照射脆化の関係
構造材は中性子照射によって脆化する:
2 月 12 日の読売新聞朝刊に「原発 5 基予測超す劣化」という記事が掲載された。確かに,九州
電力玄海発電所 1 号機では脆性遷移温度が 4 回目の試験片の取出(H21 年 4 月)による実測値
が 98 度と予測式大きく超える結果となった。また,玄海発電所 1 号機以外の発電所でも同様な事
象が確認されている。
一般的に材料は中性子の照射を受けると破壊に対する抵抗力が低下(ねばり強さを失い,硬く
脆くなる)する。安全の要である原子炉容器の胴部(炉心領域部)においては,中性子照射によっ
て脆化の目安である“脆性遷移温度”が上昇し,破壊に対する抵抗力の目安である“上部棚吸収
エネルギー”が低下する。この現象は中性子照射脆化と呼ばれている。
監視試験片による監視:
このため,原子炉の運転開始以降,原子炉容器と同じ材料でできた監視試験片を,あらかじめ
原子炉容器内に装荷しておき,この監視試験片を適宜に取出し機械試験等を行うことによって,
脆性遷移温度の上昇量を確認している。監視試験片は原子炉容器より炉心に近い位置に装荷さ
れているため,照射量が多く、将来の挙動を先行して確認できる。また,監視試験片は,専門の試
験機関で約 1 年かけて機械試験等を実施し,健全性を評価する。国内原子力発電所用鋼材の試
験結果のすべてを統計処理して求められた予測式が策定されている。関連温度はそれを用いて
予測されている。
脆性遷移温度と寿命延長の評価:
脆性遷移温度の実測値は値自体が“破壊の判定”の対象となるものではなく,運転を継続した
場合の原子炉容器の照射脆化の傾向を示すもので,原子炉容器が割れる温度ではない。実測さ
れた脆性遷移温度に注意を払いながら運転しており、原子炉容器の健全性に問題が生じること
はない。
例えば,原子炉容器の
脆性遷移温度の予測式を
上昇量の実測値が超えた
としても,原子炉容器の健
全性は,脆性遷移温度を
考慮した適切な運転管理
に加えて JEAC4201-2007,
JEAC4206-2007 に基づき
60 年の運転を想定し,次の評価を行い問題ないことが確認できれば原子炉容器の健全性確保さ
れていると言える。
①加圧熱衝撃事象に対する評価(PWR のみ)
運転開始後 60 年を想定しても,原子炉容器内に冷却材喪失事故等により非常用炉心冷却水
が注入され原子炉容器内の急激な冷却が起こると,原子炉容器内外間の温度差による熱応力と
内圧による応力により,原子炉容器内面に大きな引張り応力が発生する事象に対する健全性を
脆性遷移温度等に基づき評価した結果が基準値を上回っていること。(非常用炉心冷却系が作
動した場合に,原子炉容器が健全かどうかを評価)
②上部棚吸収エネルギー(材料の粘り強さ)評価
60 年を想定した場合でも上部棚吸収エネルギー予測値が,基準値を上回っていること。(原子
炉容器の粘り強さを評価)
このように,玄海発電所 1 号機では,4 回目の取出しにおいて,監視試験片の脆性遷移温度上
昇量は予測値を超えていたが,これまで脆性遷移温度に注意しながら運転を行ってきたことに加
え,JEAC4201-2007 及び JEAC4206-2007 に基づく評価を行い 60 年の運転を想定しても原子炉
容器の健全性に問題ないことが確認されていることから,今後の運転に対して影響はない。
照射脆化とストレステストとの関係:
原発の再稼動条件となっているストレステストとこの関連温度上昇との関連を考えてみる。スト
レステストは安全上重要な機器について,設計上の想定を超える事象に対してどの程度安全裕
度が確保されているかを評価するものである。
従って,評価対象事象は津波,地震,全交流電源喪失及び最終のヒートシンク喪失を想定し,
その想定事象に対して評価対象原子炉施設が,どこまで耐えられるかを評価するものである。加
えて,今回の福島事故を受けて事業者が設計上の想定を超える事象に対して安全性を確保する
ために取られている措置について,多重防護の観点から,その効果を示すものである。
このようにストレステストは原子炉施設の耐性試験であり,前述のとおり想定事象に対し,どこ
まで炉心損傷を起こすことなく持ち応えられるかを確認するもので,照射脆化との関係はない。
今後の課題:
関連温度の上昇が規格に基づく予想値を超えた結果が得られたからといって健全性に問題が
あるとは思えない。また現在の評価手法に問題がある訳でもない。しかし,最新の監視試験片の
測定結果を総覧し,脆化予測手法の精度向上について継続して取組んで行く必要はある。
[TH]
図
脆性遷移温度と上部棚吸収エネルギー(模式図)