JRIA21 環境 平成 21 年度 環境技術調査委員会 調査研究報告書 (概要版) 平成 22 年 3 月 社団法人 研究産業協会 この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 http://ringring-keirin.jp は し が き 平成 21 年度は、環境技術及びそれを取り巻く社会・経済環境に大きな変化があった。米国に おいては、4 月 27 日に全米科学アカデミーにおいて行われオバマ大統領の演説は、今後の米国 にける環境技術に対する取組みの強化を示すものであった。その中で、21 世紀にクリーンエネ ルギー技術で世界をリードする国が 21 世紀の世界をリードするとし、2050 年までに炭素汚染を 80%減らすことを目標に、再生可能エネルギーの発電容量を数年で倍増するために今後 10 年間 で 15 兆円の予算を再生可能エネルギーと省エネルギーに振り向けるとした。これを受けて、7 月 9 日にはエネルギー省が 30 億ドルのエネルギー支援を打ち出している。 我が国においては、鳩山総理大臣が 9 月 22 日の国連気候変動首脳会合において、温暖化を止 めるために化学が要請する水準にもとづくものとして、我が国の中期目標について、1990 年比 で言えば 2020 年までに 25%削減を目指すと演説し、国内排出量取引制度や再生可能エネルギー の固定買取制度の導入、地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して 実現を目指していく決意を述べた。 また、その後、12 月 7 日、8 日にコペンハーゲンで開催された COP15 において、気候変動に 関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4)の科学的知見を踏まえ、世界の気温上 昇が 2℃を下回るべきと認識し、世界の排出量を大幅に削減する必要があることに合意する、い わゆるコペンハーゲン合意に至っている。この合意にはさまざまな評価があるものの、先進国 だけでなく途上国の取り組みが定められている。 このように環境問題、主として地球温暖化対策に関する目標や取組みが大きく変化するとの 予測から、環境技術調査委員会として、本年度は今後の環境技術を中心とした環境ビジネスの 方向を主たる検討課題とした。具体的活動として、環境ビジネス市場の動向に関わる三つの講 演会を開催するとともに、本年度に重点的な施策が示された地球温暖化対策における環境技術 に関わる政策動向を調査した。 平成 22 年 2 月 社団法人 研究産業協会 環境技術調査委員会 委員長 清水建設(株) 山﨑雄介 環境技術調査委員会 委員名簿 (平成 22 年 3 月現在) <委員長> 山﨑 雄介 清水建設株式会社 技術研究所 副所長 <委員> 加藤 雅礼 株式会社 東芝 研究開発センター エコテクノロジー推進室 河原 進 日本電子株式会社 川村 邦明 株式会社 前川製作所 坂木 泰三 株式会社 リコー 第三研究室 分析営業本部 副理事 常務取締役 研究開発本部 先端技術開発センター 室長 高橋 渉 住友金属テクノロジー株式会社 吉田 直樹 株式会社 三菱総合研究所 技術品質管理部 部長 先進ビジネス推進センター 環境フロンティア事業推進グループリーダー (50 音順) <事務局> 大島 清治 社団法人研究産業協会 専務理事 松井 功 社団法人研究産業協会 調査研究部長 小林 一雄 社団法人研究産業協会 企画部長 1. はじめに 環境技術調査委員会は、環境技術に関する現状や課題を確認し、その解決に必要とされる調 査・検討を行い、会員企業をはじめ社会にその成果を公表することを目的として活動している。 これまでの 2 年間の活動では、脱温暖化社会のライフスタイル、将来必要な環境規制や科学 技術、エネルギーバランス、欧州化学物質規制 REACH、水資源とアグリビジネス、省エネルギー 政策の動向などの環境技術に関連して問題提起された幅広い課題について、見識者や政策担当 者のご講演をお聞きし、環境ビジネスの認識、環境政策・環境規制の方向、環境技術開発にお ける問題点等を討議し、多くの知見を共有してきた。 環境問題は、本来、社会経済活動に起因するもので、技術的な解決とともに社会制度の変革や そのための政策的取組を必要とする。本委員会におけるこれまでの議論も技術を手掛かりにしな がらも、その多くが制度・仕組みの検討や政策の討議に費やされてきた。 平成 21 年度は、主として地球温暖化対策に関する目標や取組みが大きく変化するとの予測か ら、今後の環境技術を中心とした環境ビジネスの方向を主たる検討課題とした。具体的活動と して、環境ビジネス市場の動向に関わる3つの講演会を開催し、問題提起された課題について 討議した。 また、12月には我が国の新成長戦略(基本方針)が閣議決定されたが、地球規模の問題を解決 する課題解決型国家として、イノベーションによる新たな需要の創出から雇用を生み、成長を達 成する方針が示された。その中で、日本強みを活かす六つの戦略分野のひとつとして、グリーン・ イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略が掲げられ、2020年までに新規市場50兆円超、 新規雇用140万人、日本の技術で世界の排出13億トン削減という目標が設定された。 それを実現する施策として、電力の固定価格買取制度の拡充等による再生可能エネルギーの普 及、エコ住宅・ヒートポンプ等の普及による住宅・オフィス等のゼロエミッション化、蓄電池や 次世代自動車、火力発電所の効率化など革新的技術開発の前倒し、規制改革・税制のグリーン化 を含めた総合的な政策パッケージを活用した低炭素社会実現に向けての集中投資事業の実施が挙 げられている。本委員会としてもこれらの動向を把握し、背景にある課題を確認するために、本 年度に重点的な施策が示された地球温暖化対策における環境技術に関わる政策動向を調査した。 本委員会として、今後の環境技術分野の重点課題を提起し、政策提言につなげるまでには至ら なかったが、本年度の調査結果をもとに方向性を議論し、次年度の検討課題を設定した。 2. 活動の経緯 本委員会では、環境ビジネスの動向調査を本年度の主要な検討課題とし、それらにかかわる 技術動向及び関連政策動向を調査し、研究開発の方向性を検討することとし、以下の活動を行 った。 2.1 環境技術テーマの検討 本委員会では、環境問題のうち当面の検討対象領域を環境ビジネスとし、それらにかかわる 技術動向及び政策動向を調査し、研究開発の方向性を検討することとしている。具体的には、 次の検討項目を抽出し、本年度はその中から①環境ビジネス全体像について、環境ビジネスの 現状と課題、エネルギーバランス、新エネルギーによる事業化への取り組みを取り上げ、講師 をお招きし、現状の取組状況と課題についてご説明いただき、それをもとに議論した。 ①環境ビジネス全体像 環境問題にかかわる新ビジネス、成長ビジネスの方向性 ・今後の環境ビジネス市場の動向 ・太陽光発電システムの現状と課題 ・環境ビジネスにおけるエネルギーバランスの考え方 ②資源問題の影響 資源制約・資源バランスの変化がもたらす環境ビジネスの方向 ・レアメタル・ベースメタルの動向 ・世界の水資源の変化とビジネス ③環境技術の方向性 環境技術によるビジネス展開事例と将来展望 ・地球温暖化がもたらす 2035 年の科学技術 ④環境規制の動向 上記の課題を進めるうえでの関連する規制の動向 ・地球環境法 ・環境政治学 ・環境リスク管理 2.2 環境ビジネスの現状と課題 講師:株式会社三菱総合研究所 環境フロンティア事業推進グループリーダー 吉田直樹氏 (1)環境ビジネスの定義 OECD では、 「水、大気、土壌などの環境に与える悪影響」と「廃棄物、騒音、エコ・システム に関連する問題」を計測し、予防、削減、最小化し、改善する製品やサービスを提供する活動 と定義している。 また、日本では環境省が「産業活動を通じて、環境保全に資する製品やサービス(エコプロ ダクツ)を提供したり、社会経済活動を環境配慮型のものに変えていくうえで役に立つ技術や システムを提供するもの」、経済産業省では「環境装置、公害防止、廃棄物処理・リサイクル装 置、施設建設、環境修復・環境創造、環境関連サービス、下水・し尿処理、廃棄物処理・リサ イクル、環境調和型製品の 9 分野からなるもの」との定義を行っている。 (2)環境ビジネスの市場規模 環境ビジネスの定義、そして対象とする環境問題の範囲にも依存するが、やや広義の解釈で とらえた環境ビジネスの市場規模については、既に 70 兆円程度との見方がある。政府が 2009 年末に示した「新・成長戦略」では、柱の一つとしてグリーン・イノベーションが掲げられて おり、2020 年までに市場規模を 50 兆円拡大、新規雇用 140 万人創出という目標を示している。 なお、世界の環境ビジネス市場については、2006 年に約 6,920 億ドル規模との推計があるが、 これは 1996 年からの 10 年間で約 1.4 倍の成長となっている。現状、市場の 8 割以上が欧米、 日本などの先進国であるが、今後という意味では新興国、途上国において年率 10%前後の成長 の予測もなされている。 (3)環境ビジネスにおける課題 定義からも理解できるように、環境ビジネスニーズ、市場は環境問題そのものの状況に依存 する。我が国においては、かつての環境ビジネスは、主に公害処理を意図したものが中心であ った。しかし、現在は地球温暖化、気候変動問題のウエイトが高まっている。新興国について は、公害の深刻化への対応が喫緊の課題となっている一方で、国際的枠組みによる気候変動対 策への取り組みも拡大する可能性が予見される。こうしたニーズの所在、変遷などに対する適 切な状況認識が必要である。 また、多くの場合、環境問題ビジネスの形成、隆盛は、問題の公共的性格もあり、行政の関 与による影響が大きい。かつての公害問題に際しては法規制強化が中心であったが、気候変動 問題に関しては、規制以外にも経済的手段、「見える化」などが活発に展開されている。また、 水や廃棄物などなどについては、社会インフラと密接不可分な側面もあり、やはり行政との関 係性が重要となる。環境問題の性格、特に海外市場においては対策地域、行政、インフラ面で の特徴などを踏まえ、単に環境技術単品としてでないソリューション、サプライチェーンの構 築、提供が必要である。 2.3 新エネルギーによる事業化への取り組み 講師:株式会社 東芝 電力流通 産業システム社 稲葉道彦氏 (1)太陽エネルギーのポテンシャル ドイツ連邦政府地球気候変動諮問委員会(WBGU)では、現状の技術レベルでも、サウジアラ ビア 1 国に太陽光パネルを敷き詰めれば、2010 年における世界中の 60%のエネルギーをまかな うことが可能であると予想している。 (2)市場動向 太陽光発電は地球温暖化防止策のキー技術として位置づけられ、北米におけるオバマ大統領 のグリーン・ニューディール政策やアジアや中東他における ODA 及び CO2 削減政策、また欧州や 日本における具体的な導入目標により今後大幅な市場の拡大が予想される。ただし、実際の導 入量に関しては、余剰電力購入制度(ネット・メータリング)や固定価格買取制度(フィード・ イン・タリフ)などの各国の政策によるところが大きい。 (3)太陽電池について 太陽光発電システムは、太陽光を吸収し発電を行うモジュール、モジュールより得られた直 流電力を効率的に交流に変換・調整するパワーコンディショナシステム(PCS)、電力系統との 連系を行う変電設備より構成されている。システム全体のコストにおいてはモジュールがほぼ 半分を占めているが、架台、工事費、配線などはモジュール効率に大きく依存しており、コス ト低減にはいかにモジュール効率を向上させるかが鍵である。 (4)PCS(パワーコンディショナ)について PCS は単に直流を交流に変換する以外に、太陽電池の温度変化や日射強度の変化に伴う出力電 圧、出力電流の変化に対して常に太陽電池への出力を最大限に引き出すという重要な役割をも っている。 (5)大規模太陽光発電システムの事例 国内の太陽光発電システム市場の約 85%は住宅用であり、産業用は主に NEDO フィールドテス ト事業で導入するケースが多いが、100kW 以上のサイト数が増加傾向にある。本格的なメガクラ スのソーラーの時代に先駆け、NEDO では、山梨県北杜市と北海道稚内市で実証設備を展開して いる。一方海外においては既に 10MW を優に超えるメガクラスのソーラーが多数建設されている。 (6)系統連系における課題 太陽光発電の出力は天候などの影響で変動するため予測が困難であり、電力供給の小刻みな 変動(20 分以内)に太陽光出力の変動が加わることで供給エリアごとに確保している調整力が 不足するおそれがある。そのためバックアップ電源が必要となってくる。 (7)東芝の太陽電池システムの特長 東芝では PCS に加え、電力系統の監視制御・保護システム技術、変電設備などのシステム技 術、大規模システムのトータルエンジニアリングにより、接続する電力系統の特性に配慮した、 最適なシステムを実現することができ、これまでに電力・産業用システムとして約 100 件の納 入実績を有している。 2.4 低炭素経済へ―世界の動き、日本の課題、NGO からの視点― 講師:気候ネットワーク代表 弁護士 浅岡美恵氏 これから日本が低炭素社会の構築を推進していくに当たっては、中長期の明確な削減目標を 定め、その達成のために二酸化炭素ならびにその他の温室効果ガスに価格をつけ、温室効果ガ スの排出主体に対して削減インセンティブを高めていく制度導入することが不可欠である。 (1)科学の要請 温暖化を止めるには排出量を自然吸収の範囲に収めることである。それを何時までに? どの レベルに? は政治の決断である。 海外の先進国は産業革命前からの気温上昇 2℃を目標に議論を進めているが、日本の中期目標 は 2℃のなしで議論が行われていた。 (2)国際政治の動き 2009 年には気候変動をめぐる国際政治の大転回があり、世界は低炭素経済に向けて移行しは じめるプロセスとして COP15 が開催された。現状では合意の困難さが目立つが、先進国と途上 国の新たな協力関係を模索しだした。また、先進国には途上国へ技術・適応・資金と制度など の支援が求められる。 (3)低炭素経済に向けた欧米の動き 明確で野心的な削減目標を設定し低炭素経済への道筋を示すとことにより、欧米各国は 2050 年 80%削減(90 年比)を一貫した削減経路で達成することを法律で定め、2020 年目標はその通 過点と位置づける。再生可能エネルギーにも高い数値目標を設定し、また一貫した削減の経路 は新たなビジネスを喚起し、消費者の意識を高めるなどの政治的シグナルとなる。 低炭素経済へ移行の 3 つの政策は ①炭素に価格をつける:キャップ&トレード型国内排出量と炭素税 ②再生可能エネルギー政策:発電電力の固定価格買取制度(FIT)など ③C&T 取引制度オークション収益、炭素税などの活用 (4)再生可能エネルギーの二つの普及策とドイツ、アメリカの例 ①FIT(固定価格買取制度):具体的には再生可能エネルギーを「固定価格」で「一定期間」電 力会社が買い取ることを保証し、投資回収に確実性をもたせることにより爆発的に拡大した。 ②RPS(固定枠制度):電力業者に一定割合以上の発電・買取義務を課すもの。 ③ドイツでは再生化エネルギー拡大のため、政治方針・政策導入を始めたのは 90 年以降である。 ④アメリカ産業界の動き アメリカの主要産業の集まりである USCAP (United States Climate Action Partnership) が共和党政権時代から再生化エネルギー拡大の政策転換を求めた。 (5)日本の動向 政権交代後、鳩山首相は 2020 年に 1990 年比 25%削減という新たな中期目標を発表し、そ の達成のために国内排出量取引制度や再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入、地球温 暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現を目指していく決意を表明 している。 (6)日本の課題:温暖化防止のための Make The Rule 国内法の早期成立を目指し、制度や資金面からのサポートを確立することが優先される事項 である。 日本では電力の炭酸ガス排出について、工場や家庭、オフィスなどの需要側に配分して排出 量を把握する間接排出(電力配分後)で行う独自の方式を用いてきた。諸外国の制度と同様、 電力を直接排出量でとらえ発電所単位で総量での割り当てをする。 2.5 関連動向調査 平成 21 年度は、環境技術及びそれを取り巻く社会・経済環境における大きな変化の下で、イ ノベーション政策、省エネルギー・新エネルギー政策及び地球温暖化対策における動向がどの ように変化しているか、また新たな政策として何が重点化されたかについて、公表されている 関連会議資料及び CTO 交流会資料などをもとに概要をまとめ、今後の検討課題を確認すること とした。
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