ICTイノベーションの衝撃(2) ICT立国 韓国の最先端ICT事情 Principal Research Engineer 湯浅 岳史 シリーズでお届けしている「ICTイノベーションの衝撃」 、 今回はICT立国を目指すお隣韓国の最先端 ICT事情についてご紹介します。 1 We Trust You 改札がない?! 表1 : 国連電子行政ランキング (2014年)i ソウル駅のKTX(新幹線)入口。 自動改札機は見当たらず、その気になれば誰もが自由 に行き来することができます。 床には「We Trust You! Only paid customers can を持っているお客様のみこのラインを越えることができ ます。)」の文字。そう、KTXは、全ての改札を撤廃したの です。 列車に乗るとき、日本でも韓国でも、我々は券売機で 切符を購入します。 この購入情報はデータセンターを経 由し、車掌の端末に転送されるので、車掌はどの座席が 購入済で、 どの座席が未購入かを車内で確認できます。 最初が「100万人主婦インターネット運動」。主婦の 在宅ワークを促進するため、ICT講座を無償で受けられる ようにしました。次に軍人や公務員、囚人も対象として、 強制的にICT関連知識や技術を習得させました。 これら の活動の結果、韓国国民のほとんどがICTを使いこなせ るようになりました。これがICTベンチャーを産み、産業 活性化、雇用安定を達成しました。 I C Tイノベーションの衝 撃 cross this line.(我々はあなたを信用しています。切符 (2) さらに金大中大統領は「デジタルニューディール政策」 と 称して、電子政府にも取り組みました。まずは、失業者を 雇用して紙の行政情報を電子化しました。現職の大手 ICT企業社長をICT担当大臣に据え、行政サービスの電子 化を強力に進めました。 これらの取り組みが、いま、電子政府ランキング一位と ソウル駅のWe Trust You! それであれば、改札をなくしてもいいではないか、 と いうのが「We Trust You」の発想です。 確かに不正乗車はゼロではないが、ある「かも」 しれな い 不 正を防ぐために、すべての駅に自動 改 札 機(日本 では通常1台が1,000万程度とされる)を設置するのは コストのムダである、という発想。これこそが「ICT化の いう結果を生んでいます。 3 病院で、空港で、駅で、街なかで、 いつでもどこでもICT 行政サービス 空港、駅、病院、市役所。街のあちこちに設置されている この機械、実はこれ、公的証明書発行機です。 本質」であるのかもしれません。 2 なぜ韓国はICT 立国を目指したのか? 韓国は、国連の電子政府ランキングで、近年毎年一位 となっています。なぜ韓国でこれほどまでにICTが普及し たのでしょうか? インチョン空港の証明書発行機 証明書発行機の操作画面 話は今から約20年前まで ります。 ID(マイナンバー)を入力し、指紋認証することで、住民 1997年、東南アジア通貨危機の影響で、韓国は深刻な 票、卒業証明書、課税証明書、兵役証明書などが即座に 経済危機に陥り、破産状態になりました。大手企業の倒産 発行されます。 が相次ぎ、街は失業者で れました。そうした危機のなか 国内外出張時、入院時、会社への書類提出時、様々な で就任した金大中大統領はICT立国を掲げて、経済の 場面で「いつでもどこでも」公的証明書を発行することが 立て直しを強力に進めました。 できるのです。 3 これだけではありません。日本で引っ越しをする際は、 KSIC社の創業は1998年、GISエンジンをベースに、都 転出届、転入届、その後住民票を発行していろんな手続 市のあらゆる3次元情報をデータベース化、可視化する き…しかも役所は平日しか空いておらず、ええ加減にせ 技術を保有しています。 えや!と感じる方も多いのでは? 例えば、3次元都市計画業務支援システム、国土交通 韓国では、電子政府ポータルサイトで「新しい住所」を 災害総合管理システム、不動産課税データベース、バス 入力するだけで、手続き完了です。 ロケーションシステム、有害大気汚染物質リアルタイム公 開システム、平昌冬季オリンピックの交通シミュレーショ ンなどを開発、実装提供しています。 I C Tイノベーションの衝 撃 (2) 図2 : 韓国の電子行政ポータルサイト ii さらに、このポータルサイトで転出届を出すと、 「転出 届を出すのであれば、同時に行うべき手続きが他に7個 あります。それらも自動処理しますか?」 と指摘してくれま す。 「Yes」 とすると、運転免許証、国民健康保険や、年金 等の住所変更も同時に行ってくれるのです。 住民票は何のためにとるのでしょう? 大部分は「なんら かの『行政』の手続きの際に住所を証明するため」にとる はずです。それであれば、なぜ私たち住民が住民票の 発行と、別の役所への提出のためにわざわざ役所に行く 必要があるのでしょうか? 役所同士で「私の住所証明」をやりとりし、私たちは その「許可」を与えればいいだけのはずです。 図3 : バス・特殊車両通行シミュレーション i i i また、 ビルのあらゆるセンサー群、例えばエレベーター、 水道、空調、入退室、照明、火災検知等のリアルタイム・ センシングデータを格納、可視化し、最適運用をサポー トする3次元BEMS/BIS ※プラットフォームを開発してい ます。 ※Building Energy Management System / Building Information System 韓国の電子政府法は、 「特別な理由がある場合を除き 行政機関は、行政機関の間で電子的に確認できる事項 については、国民に証明書などを提出させてはならな い」 と定めています。 これにより韓国の行政は、 「 いつでも、 どこでも証明書 の発行ができます」を更に進化させ、そもそも 「国民に住 民票など証明書等の提出をさせないこと」を前提にシス 図4 : BEMS BISプラットフォーム i i i テムが構築されているのです。 まさにICTイノベーション。発想の転換です。 今後、施設やインフラのマネジメント、さらには地域 全体のエリアマネジメントを行うにあたり、これらのICT 4 近くて遠い国、韓国の優れたICTソリューションを エリアマネジメントに活かす 国をあげてI C T 化を進める韓 国 故に、優 れたI C Tソ リューションを持つ企業が多く誕生しています。当社では 今回、このような会社の1つ、韓国空間情報通信(KSIC) を訪問しました。 プラットフォームは不 可 欠なツールになると考えられ ます。 近くて遠い国、韓国。ICT立国を目指し、優れたソリュー ションを生み出している韓国。わが国のICT改革を進め るにあたり、韓国とのコラボレーションも選択の1つとし たいです。 ※本記事は、当社が独自に調査・取材した内容とともに、 イーコーポレーションドットジェーピー (株)代表取締役社長 廉宗淳氏のダイヤモンド・オンラインにおける連載「韓国はなぜ電子政府 世界一なのか」 を参考に作成しました。 i)表1 UNITED NATIONS E-GOVERNMENT SURVEY 2014 P.15 ii)図2 廉宗淳氏提供資料 iii)図3、図4 KSIC社提供資料 4 I s View : 2016(株) イノベーション推進センター All rights reserved. お問い合わせ先:info@ipc-pacific.com
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