腹腔鏡下に病変を切除しえた嚢胞性子宮腺筋症の1例

日エンドメトリオーシス会誌 2009;3
0:1
2
1−12
4
121
〔一般演題/手術2〕
腹腔鏡下に病変を切除しえた嚢胞性子宮腺筋症の1例
東邦大学医療センター大森病院産科婦人科学教室
緒
谷口
智子,内出
一郎,土屋
雄彦,吉田
義弘
中熊
正仁,前村
俊満,片桐由起子,森田
峰人
内診所見:帯下は白色で子宮腟部びらんは認め
言
子宮体部に発生する嚢胞性病変の頻度は,全
られなかった.子宮は後屈で大きさ,硬度は正
子宮腫瘍の0.
3
5%にすぎないとされている〔1〕
.
常.付属器は触知しなかった.子宮右側に強い
一方,子宮腺筋症では病変部がびまん性に増殖
圧痛を認めた.
する例がほとんどであり,嚢胞性病変を呈する
8×4.
6cm 大で,
超音波断層法検査:子宮は6.
ことはまれである.今回われわれは,強度の月
子宮右側に3cm 大の腫瘤あり.左右卵巣には
経困難症を訴え,MRI の所見から嚢胞性子宮
異常所見を認めなかった.
腺筋症を疑い腹腔鏡下に病変切除を施行した1
:とくに異常を認めず,
血液生化学所見(表1)
例を経験したので報告する.
血清 CA1
2
5値は8
3.
5U/ml と上昇を認めた.
症
:子 宮 前 壁 右 側 に 約
骨 盤 部 MRI 検 査(図1)
例
8歳,0回経妊,0回経産.
症 例:2
3cm の腫瘤を認め,T1強調画像および T2
主 訴:月経困難症.
強調画像で腫瘤の周囲は低信号を呈し,内部は
0歳,月経周期3
0日型,整.
月経歴:初経1
高信号を呈していた.左右の卵巣は正常大であ
現病歴:初経の頃より経時障害を認めていた
った.
が,数年前から徐々に症状が悪化していた.4
経 過:以上より嚢胞性子宮腺筋症を疑い,鑑
年前に子宮前壁右側に3cm 大の腫瘤を認め,
別診断として副角子宮が挙げられた.十分なイ
変性子宮筋腫と診断されていた.強度の月経困
ンフォームドコンセントの結果,腹腔鏡による
難症のために救急搬送されることが数回あった
診断および病変切除術を行うこととした.
ため,精査を希望し当院を受診した.
:気管内挿管全身麻酔下,気
術中所見(図2)
腹法にて腹腔鏡を施行した.腹腔内を観察する
表1
血液一般
と,子宮前壁右側に2cm 程度の突出する腫瘤
血液検査結果
を認めた.子宮後壁には子宮内膜症病変および
生化学
WBC
4
1
0
0/µl
CRP
RBC
4
3
6万/µl
Na
0.
4mg/dl
軽度の癒着を認めた.左右卵巣に異常所見は認
1
3
9mM
められなかった.子宮体部腫瘤性病変付近に1
0
0
Hgb
1
3.
0g/dl
K
3.
6mM
倍希釈のバゾプレッシン生食を局注した後,筋
PLT
2
0万/µl
TP
8.
2g/dl
層をハーモニックスカルペルÑにて切開し腫瘤
凝固系
5mg/dl
摘出を行った.術中に腫瘤内容が漏出し,茶褐
0.
4
6mg/dl
色の液体の流出を認めた.腫瘤摘出後の子宮筋
GOT
1
3IU/l
層の縫合は,0PDS―Àにて2層縫合した.
GPT
9IU/l
LDH
1
2
5IU/l
BUN
PT
1
3.
7秒
Cr
APTT
3
4.
8秒
腫瘍マーカー
CA1
2
5
8
3.
5U/ml
両側卵管通過性は術前後ともに異常を認めな
かった.
122 谷口ほか
図1
MRI
子宮前壁右側に約3cm の腫瘤を認め,T1強調画像およ
び T2強調画像で腫瘤の周囲は低信号を示し,内部は高信
号を示していた.左右の卵巣は正常大であった.
図2
腹腔内所見
摘出した検体の病理所見(図3)では紡錘形
過良好であり術後第5病日に退院となった.現
の成熟した平滑筋細胞の細胞束が錯綜配列を取
在外来にて経過観察中であるが,月経痛は著明
っているのが観察され,平滑筋細胞は大小不同
に軽減している.
に乏しく異型性や核分裂の増加は認めなかっ
た.子宮内膜症病変が多数認められ腺筋症と診
考
察
Dubransky によれば,子宮に発生する嚢胞
断された.
性病変の頻度は全子宮腫瘍の0.
3
5%にすぎない
術後経過:術後創部に軽度の疼痛等を認める
とされている〔1〕
.Buerger & Petzing は,子
も,血液検査における炎症反応等を認めず,経
宮の嚢胞性病変を表2のように分類している
腹腔鏡下に病変を切除しえた嚢胞性子宮腺筋症の1例 123
表2 子宮の嚢胞性病変
1.Acquired Cysts
Cystic degeneration of myomas
Cystic adenomyosis
Cervical retention cysts
Serosal cysts
2.Congenital Cysts
Wolffian duct cysts
Müllerian duct cysts
図3
(Buerger & Petzing. 1
9
5
4)
病理所見 HE 染染色 10
0倍
紡錘形の成熟した平滑筋細胞の細
胞束が錯綜配列を取っている.平
滑筋細胞は大小不同に乏しく異型
性や核分裂の増加は認めない.子
宮内膜症病変が多数認められる.
子宮全摘術〔8,
1
0〕
,腹腔鏡下嚢胞穿刺吸引ア
ルコール固定〔5〕
,腹腔鏡下腫瘤摘出術〔3,
4,
1
3〕腹腔鏡下子宮全摘術〔4〕などの手術療法
がある.挙児希望のない症例では,臨床症状の
〔2〕
.一方,子宮腺筋症は病変部がびまん性に
消失と再発がない点を考えると,子宮筋腫や,
増殖しその結果として子宮筋層の肥厚を呈する
子宮腺筋症の場合と同様に根治治療である子宮
例がほとんどであり,嚢胞性病変を形成する例
全摘術が有用な治療法であると考える.挙児希
はまれである.嚢胞性子宮腺筋症 cystic adeno-
望のある症例や若年発症の場合では GnRH ア
myoma の発生は,初経開始後早期からの強度
ナログなどの薬物による保存的治療は,その投
の月経困難を訴える若年型と妊娠出産を経験し
与期間が限定されることや投与中止後に早期に
た後の3
0∼4
0代での発症の2峰性を示す〔3−
月経困難症が再燃することから,最終的にはな
5〕
.
んらかの手術療法を選択する必要性が生じてく
症状は強度の月経困難,下腹部痛,腹部圧迫
る〔2〕
.
感,過多月経とそれに伴う貧血が挙げられる
本症例のように,腹腔鏡下の腫瘤の摘出は筋
〔6〕
.診断は症状,腫瘍マーカー(CA1
2
5)
,MRI
腫核出術に準じた手技で可能であり,術後に症
検査,子宮卵管造影などでなされる.MRI で
状の著明な軽減が認められることから,根治性
は子宮内膜症特有の古い血液に含まれるメトヘ
と低侵襲性という利点を加味すると若年者や挙
モグロビンの効果で T1強調画像,T2強調画
児希望のある症例では腹腔鏡下手術による腫瘤
像いずれも高信号の内容を含む所見が典型的と
の摘出が有利であると考えられる.
いわれているが〔7〕
,T2強調画像では出血の
時期により血液の信号が異なるため多彩な信号
を呈する〔8〕
.鑑別疾患として双角子宮,副角
子宮,変性子宮筋腫,卵巣腫瘍,卵管水腫,妊
娠子宮などが挙げられる〔9〕
.稀有性と特有の
症状・所見に乏しいことから術前に診断を確定
することは非常に困難で,卵巣嚢腫や子宮筋腫
の液状変性と診断している例が多いようである
〔1
0〕が,本症例では詳細な医療面接と診察お
よび MRI で診断可能であった.
治療法には薬物による保存的療法と開腹によ
る腫瘤摘出〔1
1〕
・切開および内膜剥離〔1
2〕
,
文
献
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1
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診断 200
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00:5
96−
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adenomyosis の臨床病理学的検討.産と婦 2
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〔11〕高橋祐子ほか.術前診断に画像所見が有用であっ
た嚢胞性子宮腺筋症の1例.日産婦会誌 2
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〔13〕中熊正仁ほか.腹腔鏡下手術を施行した嚢胞性子
宮腺筋症の4例.日産婦関東連会誌 2
0
02;39:
13
4