米長期金利は上昇傾向続く! 「米ドル/円」114 円台も

【2016年11月25日公開】
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★竹内式「金利解析」理論で為替を解く★
『米長期金利は上昇傾向続く!
「米ドル/円」114 円台も』
執筆者:元HSBCチーフトレーダー
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●手のひら返しのトランプ戦略に「米ドル/円」 急騰
「いかさまヒラリー(以下 C)
」が『非常に強く賢明』。「オバマケアはコストがかかり過
ぎる、即撤廃だ」が『一部を引き継ぐ』
。何れもトランプ(以下 T)次期大統領の勝利前後
の発言の変貌ぶりだ。
チャート:YJFX!外貨 ex より筆者作成
米大統領選の開票が進むにつれて、T 氏優勢と伝わるとややパニック的に米長期金利は低下、
「米ドル/円」も高値より 4 円強の急落で安値 101.19 円を示現した。しかし舞台はここか
らだった。穏やかな勝利宣言、次期大統領にふさわしい振る舞いが起点となり、事前予想
とは全く異なる市場反応となった。
米 10 年債金利は 1.72%付近よりニューヨーク引けにかけて 2.1%手前まで急上昇、これに伴
い米ドル/円も 105.89 円まで上値を伸ばした。
英フィナンシャルタイムズ紙は T 氏の勝利演説を「落ち着いていて融和的」と評していた。
以降は T 次期大統領の推進する政策のポジティブな側面にスポットライトが当たり、アセ
ットクラス(注 1)全般急回復となった。
(注 1)http://www.ifinance.ne.jp/glossary/investment/inv043.html
●トランプ次期大統領の政策と影響
筆者作成
出所:各種報道等より筆者作成
T 次期大統領の推進する政策とはどれ程のものなのか。市場への影響、反応度合いという
側面から検証してみた。
この中で、①は為替にはやや中立。
③④⑤、特に③と⑤は保護貿易を標榜するものであるから、大幅な米ドル安・円高を想起
させる。ただこれらの政策は大統領正式就任後でないと発動できない。よって、現時点で
判定するのは不可能だ。
②については、11 月 17 日(木)のイエレン FRB 議長の上下両院合同経済委員会での議会証
言で、事実上の「12 月 14 日(水)の FOMC での利上げ告知の場」として注目された。勿論
“Interest rate hike could come relatively soon”(利上げは近い)と明言した。これ
で今後余程の経済指標の悪化が確認されない限り 12 月 14 日(水)の利上げは既定路線と
なった。
それより意外であったのは、こうした議会証言の場で T 次期大統領の政策に異論を唱えた
ことである。ドットフランク法(リーマンショック後に制定された、金融規制、金融機関
の高リスク取引の制限)撤廃に異議を申し立てた。更に大幅な規制緩和がもたらすリフレ
政策により、今後の金融政策が引き締め的になりかねないと警鐘を鳴らした。
就任前の次期大統領への半ば挑戦状であり、このままでは両者の関係悪化は避けられない。
空席の理事へタカ派選任との話もあり、引き締めが急がれると米ドル高という連想なのだ
ろう。
結局市場が特に材料視し、現在までの「米ドル/円」の急激な上昇を招いたのは上述②の最
終部分、そして⑥⑦⑧の米ドル高要因である。⑥⑦により今後 10 年程度での財源不足は報
道などによれば、約 5-10 兆ドルと大きな開きがある。インフラ投資の内容、法人減税後の
経済成長などの予想にばらつきがあるからだろうが、いずれにしても大きな財源不足であ
ることに変わりはない。
こうした財政拡張的な思惑が国債増発⇒債券売り圧力⇒米金利上昇⇒米ドル高の波及経路
となっている。実際、米 10 年債金利では T 氏勝利と報じられ急低下した 1.70%付近より本
稿執筆時点まで 60bp(Basis Point=ベーシスポイント、1bp=1/100=0.01)=0.6%以上の上昇
で現時点では 2.3%をゆうに超えてきている。
出所:筆者作成
これだけの短期間での大幅上昇は T 新政権への政策実行力に大きな期待値が込められてい
ると解釈して良さそうだ。
筆者が、実施されれば一番インパクトが大きいと考えるのは⑧である。米国では 2005 年に
Homeland Investment Act(米国本国投資法)が一年限りの時限立法で制定された。これに
より、米国に本社を置く多国籍企業の海外法人が利益としてため込んだ資金に、1 年限りで
5.25%という破格の税率を提示し本国への還流を促した。当時と比べると以下の様になる。
出所:各種報道等より筆者作成
前提条件として、今とは市場環境は異なり同列で比較するのは無理と思われるが、それを
承知で検証してみよう。T 次期大統領の想定する税率は 10%と 2005 年比では約 2 倍で、
「一
度限り」という条件も付与されている。大きく税率が異なることから当時と同額の還流は
期待できないが、実際に可決となればそれなりの米ドル買いとなって市場に持ち込まれる
可能性が高いと考えて良さそうだ。
T 大統領誕生では、事前には 1 兆ドルの米 GDP の剥落要因で株価 20%下落必至。そうしたネ
ガティブな側面だけが喧伝され、
「どうせ誕生するわけもないから」とポジティブな側面を
予め議論することが少なかった。それが誕生と伝わり、急速に後者のプレミアムを織り込
みに走った結果とこの様な動きになってしまった。
●トランプ次期大統領の政策期待で米長期金利上昇
さて、T 大統領誕生からの金利(日米 10 年債金利差)と「米ドル/円」の相関は非常に強
く、相関図で表せば以下のようになる。
出所:筆者作成
一度折り込み始めた T 大統領誕生プレミアムは途中やや調整局面を経て、年内は引き続き
継続しそうな勢いである。日本銀行が何の前触れも無く突然開始した「指値オペ」が本当
に機能すると仮定すれば、本邦 10 年債金利はほぼゼロパーセント付近に固定されることに
なる。換言すれば「米ドル/円」の変動要因は『米 10 年債金利だけ』となってしまう。
出所:筆者作成
米 10 年債金利はブレグジットの余波が依然残る 7 月 6 日(水)よりここまで約 1%の上昇
となっている。米国発での金利上昇はグローバルに波及しており、11 月 21 日(月)時点で
は 10 年債で依然マイナスとなっているのはスイスのみである。
金利上昇は債券価格では下落となる。7 月には大手格付け会社の試算では世界で約 10 兆ド
ルの債券がマイナス金利下に埋没していた。こうした時期に購入された世界の機関投資家
の債券は、現在大幅な評価損を計上すべき、あるいは処分されるべき時に差し掛かってい
る。米長期金利上昇が担保されるなら、
「米ドル/円」も同歩調を辿ると考えたい。
以上、まとめると T プレミアムは一定の期間継続して折り込まれる可能性が高い、そうで
あるなら、いずれ米 10 年債金利は 2.5%、2.7%へと上昇するはずである。この水準と整合的
な「米ドル/円」は現状の相関式で引き直せばそれぞれ 112.10 円、114.40 円付近となる。
-------------------------------------------------------------------------------【執筆者:竹内典弘氏(元外銀チーフトレーダー)プロフィール】
明治大学法学部 1989 年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴
任。専門は G7 通貨及び金利のトレーディング。1999 年グローバル金融大手英 HSBC ホール
ディングス傘下 HSBC 香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を
務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望を
する際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情
にも精通している。2010 年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。
-------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】
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おります。
本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、竹内典弘氏、およびワイジ
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