研究の成果と課題 新潟市立沼垂小学校 Ⅰ 石 塚 崇 学力向上に向けたセンターの研究にかかわって 1 子供一人一人の学びに応じた支援について ( 1 ) 成果 ① 絵を描けない、何を描いていいか分からない子供への支援 <CからB・Aへ> ○ 構想カードの活用 構想カードを使って描きたいものを描く時に、描けなかったり、友達の絵をまねして満 足していなかったりする子供がいる。構想カードへの表現が一種のレディネステストの役 割を果たしたと考えられる。 その際、次時までの時間を使って構想できるように 、「家でゆっくり考えてみる?」な どの個別の支援が効果的であった。 ○ 日ごろの子供の生活を学習に生かすこと 描くものを決められない子供に対して、その子の普段の生活を知っていると 、「夏休み に家族と出掛けたことを描いてみたら 。」など、具体的な指示やアドバイスができ、意欲 的な活動につながっていった。 ② 活動が停滞している子供への支援 ○ <BからAへ> 友達から学ぶ 実際にシートに表す段階で、ある程度描いて満足してしまい手が進まなくなった子供に 対しては、友達の「いいこと思いついた 。」という発表内容が効果的であった。失敗した 線を上手く活用して別の絵にしたり、新しく描き加えるものを思いついたこと等が発表さ れ、その後の工夫につながっていった。 ま た 、「友 達 の 絵 を見 に 行 って ご ら ん。 ○ ○ さん が お もし ろ い こと を し てい た よ 。」 と 声を掛けていくことで、キャラクターだけだった絵に自分で考えた飾りや自分自身の姿を 描き足したりと、自分の絵に生かしていく表現も見られた。 ○ 絵を全体的に見せること 大きなシートであるため、子供たちはなかなかシート全体を考えて描くことができない 子がいた。時々、少し離れたところからシートを見せることで、シート全体を意識して描 いていった。例えば、バックの空間に格子模様を入れたり、模様をどんどん増やしていく 姿が見られた。 ③ 「もっとやりたい」という子供への支援 <Aをさらに高めていく> ○ 新しいシートを用意してやる 1枚シートが完成した後で「もっとやりたい 。」という子供がいた。予備のシートとマ ジック等を渡すと、家で描いてきた。そのシートを、学年の校外学習の際に持って来て、 大事そうに敷いてお昼を食べていた。友達に声を掛けてもらうのがうれしそうであった。 ( 2 ) 課題 ① 会話の中から子供の思いをくみ取ること 手が進まない子供に対して、何にこだわり、何を思っているのかが分かりにくい。その子 との会話の中にヒントがあるのだが、聞きもらして、対応できないことがあった。具体的に は、思ったような色が出ないで悩んでいる子であった。描画材の面でも、子供の思いに応え ていけるようにしていかなければならない。 -1- ② 個々の作業進度を考慮すること シートに描くことが早く終わり、遊び出す子供が見られた。終わった子から、体育館の後 ろにシートを敷き詰めてカードを活用しながら鑑賞会をするなどの手立てが必要であった。 *子供たちの活動の様子:授業が終わっても休み時間に作業を続ける子供たち 2 評価規準を明確にした評価カードの設定にかかわって ( 1 ) 成果 ① ねらいに沿った評価カードにして、子供に意識させていくこと 特に図画工作においては、子供の実態に合わせてこんな力を高めたいというねらいを教師 が明確にもつことが大切である。また、そのことを評価カードも含めて子供に伝え、意識さ せていきたい。 今回は、シートづくりを通して、新たな発想を膨らましながら表して欲しいと願い 、「い いこと思いついた」があったかどうかという設問を設けた。2年生の子供たちには難しかっ た よ う だ が 、「 あ な た が 活 動 の 中 で こ う や っ た こ と が 、 い い こ と 思 い つ い た な ん だ よ 。」 と 伝えていくことで子供たちは少しずつ理解していった。 ② 評価カードから子供の思いを聞くこと 2年生の子供たちにとって、自分の活動を振り返り思い出すことはなかなか難しい。それ を、文章で上手く表現できにくい。評価カードの記述を基に子供の思いを聞くことは、子供 の内面を知るのに効果的で、その後の支援に役だった。その際、 × を付けているマイナスの 評価をしている子はもちろんだが、◎や○のプラスの評価をしている子の話にも耳を傾ける ことが大切である。 ( 2 ) 課題 ① 子供の実態に合わせたカードにしていくこと 上記 、(1)①の成果にも前述したが 、「( 描きながら)いいこと思いついた(ことはあり ましたか )」という設問は、子供たちには難しかったようで、思い付いていても子供の自己 評 価 が 良 く な か っ た 。「 始 め に 考 え た も の に 付 け 足 し た も の 」「 新 し く 考 え て 描 い た も の 」 などとすれば、書きやすかったように思われる。子供の実態に合った設問にしていく必要が ある。 3 シンプトム(徴候)の設定とその活用にかかわって ( 1 ) 成果 ① シンプトムを設定することで、見取りの視点ができ、支援が具体的にできる シンプトムとして設定した「期待をもちながらどんなシートをつくるか想像し、発表した り構想カードに描いたりする 。」「自分だけのシートをつくる楽しさを味わっている 。」とい う点から子供を見取り、前述1の(1)のような支援ができた。 -2- その際、あえてC評価を付けることで、その後の確実な支援につながっていった。 ② 新たなシンプトムを見付けていける … 子供のささいな行動も見取っていける シンプトムを設定することで、子供の関心・意欲・態度の高まりのより具体的な様子を見 取ろうと意識する。これは、シンプトムとして予想していなかった子供の姿に目がいくとい うことである。この蓄積によって、子供の姿が明らかになり、評価に客観性や信頼性が生ま れてくると思われる。本題材では、観察(会話 )、ビデオ、評価カードから次のような具体 的な姿が見られた。 ○ シートに表す活動から ・ 先生や友達に見てもらいたい、話を聞いてもらいたい(*関心・意欲・態度) ・ つぶやきながら表す(*関心・意欲・態度) ・ 目的をもって移動する。じっと動かないで集中する(*関心・意欲・態度) ・ 鼻歌が出る … 思うように進んでいる(*関心・意欲・態度) ・ 立って描く、尻を着かない、描くスピードがある … 体全体で伸び伸びと表す ( *関心・意欲・態度 ) ・ 色を欲しがる、色にこだわる(*関心・意欲・態度*発想・構想) ・ マジックの取り方 … 素早さ(*関心・意欲・態度) ・ 間違えた線を見立てて描く(*発想・構想) ・ 当たりを付けながら描こうとする(*発想・構想) ・ じっと作品を見る、思い付いたように素早く動いて描く(*発想・構想) ○ シートを使って感じたり遊んだりする活動から ・ つぶやき、会話(*鑑賞*関心・意欲・態度) ・ 友達とシートを並べる(*関心・意欲・態度) ・ シートの上に木の実を集める(*鑑賞) ・ 高い所からシートを見る(*鑑賞) 造形遊びでは、子供の「意識」が題材や材料に向かっていることが行動や発言などから見え れば、意欲が高まっていると考えられる。また 、「活動の継続・発展」という点から、活動が 止まるということは何かしらの壁が子供たちに生じていると考えられる。そこを乗り越えられ れば意欲は高まるだろうし、乗り越えられなければ意欲はしぼんでいくであろう。活動が止ま っている子、同じ所だけ何となく表していて外に進もうとしない子などに注目していきたい。 ③ 実際の評価に生かす … 子供の姿をキーワードで書き表すこと シンプトムから見えてきた実際の子供の姿をキーワード的に評価表に記録していく 。特に 、 評定したよりどころについて記入しておく。その際、個人内評価(今までとの違い)も見取 っていく。そのことで、信頼性、説明責任のある評価となっていくであろう。実際の評価表 は、下記のようなものである。 児 評価カード 関心・意欲・態度 童 思い付いた 満 足 A ○ ◎ 家で構想カード、どんどん続ける A C B 二択で決定 B 手遊び B B ◎ ◎ キャラクター、 伸び伸び A B A 見渡しながら A 場所見付け A C ◎ △ 「あげないよ」 A A どんどん A きれい、痛い A D × ○ 線遊び、呼び掛けA B A 迷路、会話 A 友達誘い、基地 A E × ◎ 学校で構想カード、 丁寧さ A C B 色、周り A 実をシートに A 授業での様子 発想・構想 ① ② A -3- 鑑賞の能力 評価の 鑑賞の様子 総括 ( 2 ) 課題 ① 評価規準と具体の評価規準、シンプトムを設定する際の簡略化を図る必要がある。設定の ための手続きを明確にして、シンプトムを蓄積していくと良い。また、学年や題材によって シンプトムのまとまりが見えてくると思われる。 ② 図画工作科での4観点(関心・意欲・態度、発想・構想、創造的な技能、鑑賞)のとらえ 方を明らかにしていく。 4 各観点の達成状況(%) 評価カード(児童) 思い付いた Ⅱ 満 各観点の達成状況 足 関・意・態 発想・構想 ① ② 鑑賞 題材の総括 ◎ 25 68 A 72 44 69 59 69 ○ 15 13 B 28 50 31 41 31 △ 13 13 C 0 6 0 0 0 × 47 6 学力向上に向けたその他の方策にかかわって 1 題材設定の工夫について シートをつくって、そのシートを活用する題材を設定した。シートの素材を選んで自分だけの シートをつくる喜びや、シートを野外で広げて遊べる楽しさを子供たちは感じ、意欲を高めって いったと思われる。 普段 、あまり友達と関われない子供が 、休み時間に「 シートを持って中庭に遊びに行こうよ 。」 と自分から友達を誘う姿が印象的であった。また、校外学習でうれしそうに自分がつくったシー トを敷いてお弁当を食べている子もいた。 子供たちの生活が変わっていくような学習内容を今後も考えていきたいものである。 -4-
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