Vol.100 - テレコム先端技術研究支援センター|SCAT

SCATLINE Vol.100
SCATLINE Vol.100
IN ACTIVITY
第97回テレコム技術情報セミナー
● と き:平成 28 年 2 月 5 日(金)
● と こ ろ:SCAT 会議室
講演 1:社会基盤に資する IoT
東京大学 先端科学技術研究センター
助教
鈴木 誠 氏
当センターの賛助会員企業などから 36 名が参加されました。
今回は「IoT の具体的な応用動向」をテーマにご講演いただき
ました。
講演 2:ICT が支える光のスマート農業
~NTT グループの取り組みと将来像~
日本電信電話(株) 研究企画部門
プロデュース担当部長
久住 嘉和 氏
本講演の要旨は、本号の SEMINAR REPORT にて掲載してい
ます。
第64回理事会
● と き:平成 28 年 3 月 9 日(水)
● ところ:SCAT 会議室
SCAT では、第 64 回理事会を開催し、平成 28 年度の事業計画および収支予算を決定しました。
平成 28 年度の事業計画では、平成 27 年度に引き続き、研究助成事業、技術情報の提供および知識の普及事業、調査研究および
その支援事業を三本柱とする事業計画が、また、収支予算では約 2.25 億円の一般会計収支予算計画が承認されました。
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May, 2016
SCATLINE Vol.92
SCATLINE Vol.100
May, 2016
ACTIVITIES REPORT
平成27年度の事業活動報告
研究助成事業
(1) 研究費助成
大学等の研究者、研究グループが行う先端的な情報通信技術
の研究に対して助成を行うものである。平成 27 年度は、平
成 25 年度開始分 10 件、平成 26 年度開始分 16 件及び平成
27年度開始分15件の計41件の研究に対して助成を行った。
また、平成 28 年度から助成を開始する 14 件の採用を決定し
た。
(3) 国際会議助成
先端的な情報通信技術に関する国際会議の開催経費に対して
助成を行うものである。平成 27 年度は、27 件の国際会議に
対して助成を行った。また、平成 28 年度に助成を行う国際
会議 33 件の採用を決定した。
(4) 平成 28 年度新規助成案件
平成 28 年度からの新規助成案件は、平成 27 年 9 月から 11
月にかけて公募を行い、
研究費助成64 件、
研究奨励金17 件、
国際会議助成 34 件の応募を受けた。SCAT 研究助成審査委
員会(委員長:富永英義早稲田大学名誉教授、審査専門部会
長:酒井善則放送大学特任教授)による厳正な審査の結果、
研究費助成 14 件(後年度の助成分を含めた助成総額 3,340
万円)
、研究奨励金 3 件(後年度の助成分を含めた助成総額
1,080 万円)及び国際会議助成 33 件(助成総額 724 万円)
を採用することとした。採用した助成対象は次のとおりであ
る。
(2) 研究奨励金
先端的な情報通信技術の研究を行う大学院博士後期課程進学
者に対して研究奨励金を支給するものである。平成 27 年度
は、平成 25 年度開始分 1 人、平成 26 年度開始分 2 人及び平
成27年度開始分3人の計6人に対し研究奨励金を支給した。
また、平成 28 年度から支給を開始する 3 人の採用を決定し
た。
■研究費助成
研究テーマ
研究代表者および所属
波形選択メタサーフェスの低電力化と無線 LAN システムへ
の応用
安在 大祐
名古屋工業大学大学院 工学研究科 助教
超高次元における最近傍データの高速探索
岩村 雅一
大阪府立大学大学院 工学研究科 准教授
高自由度光源システムを用いたイメージベーストレンダリ
ング
岡部 孝弘
九州工業大学大学院 情報工学研究院 教授
位置情報の付加された動画データ群を対話的に解析する手
法
陰山 聡
神戸大学 ステム情報学研究科 教授
加齢に伴う視覚機能低下を補償するエイジフリーディスプ
レイ法の開発
河野 英昭
九州工業大学大学院 工学研究院 准教授
光周波数同期伝送系における多値変調信号ホモダイン検波
方式の研究
古賀 正文
大分大学 工学部 教授
電界制御スピン軌道トルクを利用した磁壁移動デバイスの
高速化
小峰 啓史
茨城大学 工学部 准教授
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SCATLINE Vol.100
固体レーザーを用いた光周波数コムによる RF-光周波数シ
ンセサイザ
杉山 和彦
京都大学大学院 工学研究科 准教授
メタマテリアルにより超高屈折率無反射機能を励起したテ
ラヘルツ波アンテナ技術の確立
鈴木 健仁
茨城大学 工学部 講師
1ミクロン超薄膜8bitADコンバータの印刷作製と大面積IoT
センサへの応用
関谷 毅
大阪大学 産業科学研究所 教授
ウェブ検索における類似例を用いる検索意図明確化手法
田島 敬史
京都大学 情報学研究科 教授
スピン流を用いた高効率電気通信技術の創製
新見 康洋
大阪大学大学院 理学研究科 准教授
腕輪型ハンズフリーフォン向け指向性スピーカアレーの研
究
羽田 陽一
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 教授
60GHz 帯フロントエンドモジュール用 3 次元指向性制御ア
ンテナの試作評価
吉田 賢史
鹿児島大学学術研究院 理工学域工学系 助教
■研究奨励金
研究テーマ
表面弾性波フォノン共振器を用いた電子状態制御
多目的最適化問題に対する進化型探索と局所探索のオフラ
イン組合せ最適化
新生児脳成長統計形状モデル構築による発達障害発症リス
ク評価
研究者(大学院博士後期課程 1 年)および所属
佐藤 裕也
東京工業大学 理工学研究科 物性物理学専攻
谷垣 勇輝
大阪府立大学 工学研究科 電気・情報系専攻
盛田 健人
兵庫県立大学大学院 工学研究科 電気系工学専攻
■国際会議助成
国際会議名
第 13 回 計算機科学における余代数的手法 国際ワークショ
ップ
開催時期
2016 年 4 月 2 日~4 月 3 日
開催場所
Eindhoven
University
of
Technology (オランダ)
神戸国際会議場
(兵庫県)
パシフィコ横浜 会議センター
(神奈川県)
奈良春日野国際フォーラム
(奈良県)
慶應義塾大学 日吉キャンパス
(神奈川県)
富山国際会議場
(富山県)
金沢市文化ホール
(石川県)
パラレルシーエフデー2016
2016 年 5 月 9 日~5 月 12 日
光とフォトニクスに関する国際会議 2016
2016 年 5 月 17 日~5 月 20 日
ブロードバンドマルチメディアシステムと放送に関する国
際会議
2016 年 6 月 1 日~6 月 3 日
高性能スイッチングとルーチングに関する IEEE 国際会議
2016 年 6 月 14 日~6 月 17 日
化合物半導体週間国際会議 2016
2016 年 6 月 26 日~6 月 30 日
アジア太平洋センサ・マイクロ・ナノテクノロジー会議
2016 年 6 月 26 日~6 月 29 日
第 21 回光エレクトロニクス・光通信国際会議/国際会議フ
ォトニックをベースとするスイッチング 2016
2016 年 7 月 3 日~7 月 7 日
朱鷺メッセ
(新潟県)
第 23 回アクティブマトリックスフラットパネルディスプレ
イ 国際会議
2016 年 7 月 6 日~7 月 8 日
龍谷大学 響都ホール校友会館
(京都府)
第 10 回複合型高度ソフトウエア集約システムに関する国際
会議
2016 年 7 月 6 日~7 月 8 日
第 11 回情報セキュリティに関するアジア共同国際会議
2016 年 8 月 4 日~8 月 5 日
3
福岡工業大学
(福岡県)
九州大学 西新プラザ
(福岡県)
SCATLINE Vol.100
第 9 回固体におけるスピン関連現象の物理と応用に関する
国際会議
2016 年 8 月 8 日~8 月 11 日
2016 年 IEEE 第 16 回ナノテクノロジー国際会議
2016 年 8 月 22 日~8 月 25 日
計算科学とその教育に関する国際会議 2016
2016 年 8 月 23 日~8 月 25 日
第 13 回 IEEE VTS アジア・太平洋無線通信シンポジウム
2016 年 8 月 25 日~8 月 26 日
第 14 回近接場光学およびナノフォトニクスに関する国際会
議
2016 年 9 月 4 日~9 月 8 日
2016 年情報セキュリティ国際会議
2016 年 9 月 7 日~9 月 9 日
第 11 回セキュリティ国際ワークショップ
2016 年 9 月 12 日~9 月 14 日
第25 回半導体レーザ国際会議
2016 年 9 月 12 日~9 月 15 日
コラボレーション技術に関する国際会議:第 8 回
CollabTech2016/第 22 回 CRIWG2016 共同開催
2016 年 9 月 14 日~9 月 16 日
2016 年国際固体素子・材料コンファレンス
2016 年 9 月 26 日~9 月 29 日
米国電気電子学会 第 5 回民生用電子機器に関する国際会議
2016 年 10 月 11 日~10 月 14 日
神経情報処理国際会議2016
2016 年 10 月 17 日~10 月 21 日
2016 年アンテナ伝搬国際シンポジウム
2016 年 10 月 24 日~10 月 28 日
2016 年情報理論とその応用国際シンポジウム
2016 年 10 月 30 日~11 月 2 日
米国電気電子学会 アジア地区 固体回路会議 2016
2016 年 11 月 7 日~11 月 9 日
第 18 回マルチモーダルインタラクションに関する国際会議
2016 年 11 月 12 日~11 月 16 日
第 35 回概念モデリングに関する国際会議
2016 年 11 月 14 日~11 月 17 日
第 13 回モバイル・ユビキタスシステムに関する国際会議
2016 年 11 月 28 日~12 月 1 日
半導体生産技術国際シンポジウム 2016
2016 年 12 月 12 日~12 月 13 日
アジア南太平洋設計自動化会議 2017
2017 年 1 月 16 日~1 月 19 日
先進プラズマ科学と窒化物及びナノ材料への応用に関する
国際シンポジウム/プラズマナノテクノロジーと科学に関
する国際会議
2017 年 3 月 5 日~3 月 9 日
中部大学
(愛知県)
共通鍵暗号系に関する国際会議 2017
2017 年 3 月 5 日~3 月 8 日
東京国際フォーラム
(東京都)
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神戸国際会議場
(兵庫県)
仙台国際センター
(宮城県)
名古屋大学 野依記念学術交流
館 (愛知県)
東京都市大学
(東京都)
アクトシティ浜松コングレス
センター (静岡県)
DoubleTree by Hilton Alana
Waikiki Hotel(予定)
(米国ハワイ)
ソラシティカンファレンスセ
ンター (東京都)
神戸メリケンパークオリエン
タルホテル (兵庫県)
石川県政記念しいのき迎賓館
(石川県)
つくば国際会議場
(茨城県)
メルパルク京都
(京都府)
京都大学 百周年時計台記念会
館 (京都府)
沖縄コンベンションセンター
(沖縄県)
Hyatt Regency Monterey
(米国カリフォルニア)
富山国際会議場
(富山県)
日本科学未来館
(東京都)
長良川国際会議場
(岐阜県)
広島国際会議場
(広島県)
KFC ホール
(東京都)
幕張メッセ
(千葉県)
SCATLINE Vol.100
SCATLINE Vol.100
May, 2016
SEMINAR REPORT
社会基盤に資するIoT
この Nest の話以外に情報を得るものとしては、最近は少し
下火になって減ってきたような感もありますが、腕につけて運
動量を測るものが流行ったように思います。他におもしろいと
思ったものでは、スマートなフォークというのがあります。こ
れは食べるのが速すぎると震えて注意してくれるというもので、
ついつい食べ過ぎてしまうような人にはお薦めの機器です。
色々なものをスマートにしていこうというのが今の流れの一つ
で、それらの機器からデータを集めて、生活の質をより良くし
ていこうというのが基本的な流れのように思います。しかし、
単にデータを集めればよいのかというと、勿論そうではなく、
色々なもののあり方、組織のあり方、ビジネスのあり方を変え
ていくのが、IoT の目指すところではないのかと考えています。
物流の事例として、アウディーとアマゾンと DHL の 3 社が
手を組んで進めている事業があります。皆さん、アマゾンで物
を買って、家の宅配ボックスに届けてもらうとして、宅配ボッ
クスが満杯で帰られてしまったことがあるのではないかと思い
ますが、そうしたときに自分の車が使えたらうれしいと思いま
せんか? これは顧客にとってうれしいだけでなく、アマゾン
にとっても顧客の満足度が上がるという点で有り難いし、配送
会社にとっても配送できずに帰ってくるという無駄が省けるの
で有り難いことです。このサービスは、DHL のドライバーに配
送時間帯に車を止めている場所を教えて、1 回だけ開けられる
鍵をそのドライバーに与えて、その鍵で開けて車のトランクに
入れたら、その鍵は二度と使えなくなるという方法で実現して
います。普通に考えれば、車は単なる移動手段でしかないので
すが、こういう形で車を宅配ボックスとして使えるようにする
ことで、車で仕事場に行って、その車に配達してもらうことも
可能となります。
もう一つ、これもとてもおもしろいと思ったのでご紹介しま
す。
「PAY PER LAUGH」というもので、スペインの劇場での
事例です。数年前、スペインが経済的に大いに困窮を極めて、
劇場でお金を使う人がたいそう減ったときのことで、どうやっ
てお客さんを取り戻すかということで考え出されたものです。
このとき、劇場にとても高い税金がかけられていて、客さんの
入りが 30%も減っていました。そこで考え出されたのが、客席
にタブレットを据えつけて、お客さんが笑った回数を数えると
いうものです。お客さんが笑った回数を数えて、笑うたびに 30
セントもらうけれど、
入場料は只にしますというサービスです。
東京大学
先端科学技術研究センター
助教
鈴木 誠
氏
本日は、
「社会基盤に資する IoT」というタイトルでお話しさ
せていただきます。
最近、IoT という言葉をよく聞きますが、まず最初に、IoT で
何を目指したらよいのかについて説明した後、我々が手掛けて
いる取り組みを具体的に説明したいと思います。
IoT が目指すところ
2014 年 1 月頃に入ってきたニュースでとても衝撃的だった
のが、グーグルによる Nest の買収であったと思います。皆さ
ん方の中にもご存じの方も多いかと思いますが、少し小じゃれ
たサーモスタット、
これを家の中に設置して学習させることで、
温度管理するのが米国でとても流行っています。これはインタ
ーネットにつながる普通のサーモスタットなのですが、グーグ
ルが 32 億ドルも出してこの企業を買収したのが衝撃的なこと
でした。このサーモスタットがたくさん売れたとしても、32 億
ドルにはならない。それなのに、何故グーグルが 32 億ドルも
の値をつけたのか? このサーモスタットには、遠隔から操作
できるとか、日々の使用量をチェックできるとか、そのような
魅力的な機能があるけれど、それにしても 32 億ドルもの値段
がつくというのは考えさせられてしまいます。Nest は元々iPod
を作った人が立ち上げた会社ですが、その人をヘッドハントし
たかったというところにグーグルとしての意図があったようで
す。他には、家庭内の情報を収集するためのハブとして利用す
るためとも言われています。
5
SCATLINE Vol.100
これを行なったら顧客満足度が上がり、お客さんが増えて、お
客さん 1 人当たりから出してもらえる金額も増えたという結果
に至ったということです。
このように、自分たちは何でお金を稼ぐべきかというところ
まで踏み込んで思案するのが、IoT の究極的なゴールの一つで
はないのかと考えています。画像処理を色々と工夫すれば、涙
の数に合わせてお金を取るとか、つまらないと思ったら減らす
とか、そういったところにも適用できるという話です。
こういうところが IoT の最終ゴールになるのではないのかと
思うのですが、あまたの業界に適用していくのはとても難しい
と考えています。その例の一つとして、ゼンメルワイスという
1800 年代の医師の話です。
病院には第一産科と第二産科があっ
て、第一産科では 13%の人が産褥熱にかかると死んでしまうが、
それに対して第二産科では 2%の人しか死なないという事例が
ありました。これは何によるものなのかとよくよく観察した結
果、第一産科の医師は、解剖するときに手を消毒しないことが
違いなのではないのか、という説を唱えて学会に発表したとこ
ろ、それは非科学的な説だと見なされて、学会を干されてしま
ったという話です。例え正しいことを正しいと主張しても、人
がそれを受け入れてやり方を変えていくのにはとても時間がか
かるということで、IoT にも同じことが言えるのではないのか
思います。
IoT の世界に近いところでは、Programmable Logic Controller
(PLC)が 1960 年代に導入されたのですが、図 1 の上側が昔
の工場で、下側が今の工場でハイテクになっていますが、この
ように進展していくまでには随分長い時間がかかったというこ
とです。これは電力でも同じ状況で、エジソンが電力を開発し
てから工場が近代化するまでに、数十年を経過しています。
図1
いうものです。計測したところ、人による違いがすぐに現れま
した。横軸が時間帯で、1 ヶ月間における動きを検出した回数
を時間帯ごとにプロットしたものです。図 2 の左側はとても規
則正しい人で、朝 8 時に来て夕方の 5 時、6 時には帰ります。
図 2 の右側の人は大いに夜型となっていて、深夜 11 時、12 時
あたりがピークで、朝は遅くて 10 時、11 時頃に来て、大抵の
場合、夜中の 1 時、2 時頃でも研究室にいるというのがわかり
ます。こういう形でデータを取ってグラフ化してみると、色々
なことがわかるので、こういった身近なところから「見える化」
していくのがよいのではないのかと思います。
図 2 人の活動時間帯
IoT 取り組みのご紹介
現在進めている取り組みをご説明したいと思います。
アプリケーションは 2 つ、
「トマト農場」の話と「橋梁モニ
タリング」の話です。その基盤技術としては、このアプリケー
ションでも使用していますが、
「センサネットワークの基盤技
術」の話と最近始めた「よりシンプルに IoT デバイスを作るに
はどうしたらよいのか」という話をしたいと思います。試行錯
誤を繰り返すためにも、簡略化しようということで取り組んで
います。
(1) トマト農場における育成指標の計測
トマト栽培はオランダが有名ですが、日本とオランダのトマ
ト収穫量の差はとても大きく、5~6 倍ほど違います。これは、
日本は高温多湿で夏には作物が育たないことも原因として考え
られますが、今の日本では、トマトの世話は経験と勘で行われ
ていることが結構大きな原因ではないのかと思っています。収
穫量の改善に向けて、筑波大のトマトを専門にしておられる先
生と一緒に取り組んでいるのですが、葉を切るタイミンクを定
量化できないのかという観点で研究を進めています(図 3)
。こ
れは、もし生育度合がわかるのなら、出荷予測したり、出荷時
期を遅くするためにはどのように葉を切ったらよいのかと情報
を取得したりすることを目的としています。
何を測ったらよいのか色々と検討しました。筑波大の先生と
話し合って検討したのですが、一つ話題に上ったのが葉面積指
数(Leaf Area Index:LAI)というものです。その定義は、1 平
方メートル当たりの葉っぱの面積です。これを測ることができ
れば、葉にどの程度の光が当たるのかがわかるので、今後どれ
だけ生育していくのかがわかります。ただし LAI というのは、
通常葉を切り取って、面積をステアラーでスキャンして測るも
昔の工場と今のハイテク工場
IoT でも、同じ状況を覚悟しながら進めていく必要があると
思います。しかも IoT の場合、全ての産業に情報通信を導入し
ていくところが特徴である思います。今後、全ての産業のあり
方を少しずつ変えていくには、大いなる試行錯誤が必要ではな
いのかと考えています。これを情報通信の力だけで、情報通信
の研究者や技術者だけで進めるのはとても難しいことで、色々
な分野のパートナーを探して、議論しながら試行錯誤して進め
ていくのが必要になってくると思います。
仮説検証の試行錯誤といっても、それほど気張る必要はない
と思っています。図 2 は、研究室のメンバーがどの時間帯にど
れだけ活動しているのかを知りたくて実施した事例です。これ
はユビキタスの時代からあるアプリケーションで、椅子に加速
度センサをつけて、時間帯ごとに動きのあった回数を数えると
6
SCATLINE Vol.100
ので、それでは葉を壊してしまうので、非破壊的な手法で推定
するための研究を進めています。
図 6 センサの設置場所
図 7 が測定結果です。Monsi-saeki モデルの前提として、直
射日光が当たらないときの散乱光が対象とされているのですが、
図 7 の時間推移はこれを相対比率に直したものです。とてもノ
イジーな結果が得られています。曇りの日や雨の日は、比較的
安定していて LAI を求め易いのですが、
このような日を除いて、
いかにして安定して測れるのかということで研究を進めました。
図 3 農業 IoT 研究の背景
トマトの葉を壊さずに LAI を推定するために、Monsi-saeki
モデルというものがあります。これはトマトの群落に光が入射
したときに、光が透過する割合を推定するモデルです。このモ
デルによると、図 4 の式が示すように、トマトの群落の上下の
明るさの比を測ることで LAI がわかります。この LAI の変化を
測ることによって、
「そろそろ葉を切った方がよいのではないの
か?」と推測できるので、それでは LAI を測ってみようという
ことになりました。
図 7 1 日の光透過率推移
図4
安定して計測できる条件を色々と検討しています。散乱光条
件になるのは、雨天の日もそうですが、日の出のタイミングは
必ず散乱光条件になることがわかってきて、朝イチのタイミン
グを見つけて、そのときに計測する手法を開発しました(図 8)
。
Monsi-saeki モデル
まずは、センサを作りました(図 5)
。照度計にピンポン玉を
切ったものを上に被せて光が散乱するようにして、10 台ほどを
トマト農場のビニールハウスに取り付けて、無線で飛ばせるよ
うにして測定しました。図 6 に示すように、ワイヤーの下に吊
るすようにして設置しました。
図 8 朝の光透過率推移(5:00~9:00)
日の出時刻がわかれば朝イチは簡単にわかりそうに思います
が、その日の天候、地理的にどこなのか、山の影にならないの
か等の条件で、測定可能な時間帯はどうしてもずれてしまいま
す。そこで、図 9 に示すような条件で LAI の推定を行っていま
す。早目に測ってしまうと光が余り入って来ないので、とても
図 5 センサ及び測定期間
7
SCATLINE Vol.100
ノイジーになって、誤差が大きくなってしまうという問題があ
るのです。
(2) 橋梁モニタリング
橋梁モニタリングの課題は、トマト農場の場合と同じで、セ
ンサをつけたら何がわかるのかということです。これはとても
重要な問題で、人間による点検を超えられるのかどうかが、導
入するに当たっての判断基準になると思います。
センサでわかるのは一つだけです。例えば、橋の健全性がわ
かったとして、そのとき同時に路面の状態までわかるのかとい
うと、それはわからない。これはセンサでは当たり前のことで
す。しかしながら、人が点検する場合は色々なところまで見る
のに、センサで色々と点検しようとすると 10 個、100 個のセ
ンシングシステムが必要になってしまいます。人が点検に行け
ば、ある程度のことは調べられるので、果たしてセンサがコス
ト的に見合うものなのかどうかという問題に帰着します。
橋梁モニタリングを研究している先生方の見解が本当に真っ
二つに分かれていて、
「センサをつけてデータを測ってみなけれ
ば、何もわからないのではないのか。
」と言う先生もいれば、
「セ
ンサなんかをつけても何もわからない。人が出かけて行った方
が絶対によい。
」と言う先生もいます。
我々としては、
「何かセンサをつけて、それでデータを収集し
て、どこにつけたら何がわかるのかを少しずつ明らかにしてい
こう。
」というスタンスで研究を進めています。
図 12 は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で進
めているものですが、我々が受託しているプロジェクトでは、
土木系で費用の大きいものが二つあります。舗装管理は意外と
費用がかかって、3,000 億円ほど必要です。その次に大きいの
が橋梁点検で、これも 2,000 億円ほどかかります。この二つの
問題を解決しようということで研究を進めています。
塗装管理は、
車に iphone を取り付けて加速度を調べることで、
ポットホールがないか検出する技術の開発を目指していますが、
この説明は省きます。
橋梁点検の方を説明します。センサをつけて何がわかるのか
難しい問題ですが、我々が着目しているのは、連続高架橋の揺
れが同じかどうかを調べることで、故障箇所が浮き彫りになっ
てくるのではないのかと考て研究を進めています。高速道路、
例えば首都高速道路を思い浮かべていただくとわかり易いと思
いますが、作りが大たい同じで、交通量もほとんど変わらない
です。
図 9 光透過率測定の要件
この条件をアルゴリズムを使って、品種ごとにどのような育
て方をしたら収穫量が増えるのか、筑波大の先生と一緒に研究
を進めているところです。図 10 はその一例で、取得した画像
と推定した画像を組み合わせたものですが、このような形で
日々成長していく様子と LAI が伸びていく状況がわかるシステ
ムを作っています。
図 10 品種ごとの光モデル推定
このシステムが今すぐに収穫量増加に直結しているのかとい
うと、そこまでには至っていませんが、ここ 2 年ほど計測を継
続していて、筑波大の学生がデータを基に研究してくれている
段階です。図 11 は、赤い点線より上が 10 日間でもこんなに成
長したというもので、一番高いところがここまで伸びたという
画像です。
図 12 土木系インフラの現状と課題
図 11 10 日間の成長状況
図 13 は、新幹線の連続高架橋で振動を測ったものです。隣
り合う連続高架橋において、
振動を示す 2 つの図を比較すると、
8
SCATLINE Vol.100
左側は共振を起こしているのに対して右側は共振していないで
す。
応答速度に関しても、同じような構造物なのに振動に大きな
差が生じている。これは何に起因しているのか? 故障に起因
しているのか、それとも単に地盤が異なるだけなのか。この課
題を見つけ出そうということで研究を進めています。
図 15 加速度計の計測性能
図 13 新幹線高架橋の振動計測
そのために、幾つかのノードを開発中で、高精度版と省電力
版を作っています。図 14 の高精度版は、消費電力がけっこう
大きいので、設置してから一週間ほど連続して計測し、機器を
回収してくることを想定しています。省電力版は、精度は低い
が消費電力も低く、概ね 1 万倍ほど消費電力が違いますが、地
震の検知など 5 年、10 年と長期間使用するものとして開発を進
めています。
図 16 首都高速道路高架橋の振動計測
ここで、X1,Y1,Z1、X2,Y2,Z2 及び X3,Y3,Z3 の橋桁同士のた
わみの比較をしました。計測してみたところ、X1,Y1,Z1 はそれ
ほど揺れの大きさに差がないのに対して、X2,Y2 と比べて Z2
はかなり大きな差があることがわかりました(図 17)
。1 回の
実験なら追って実験してみたい気がしますが、2 回行ってこの
ような違いが出てきたので、何か違うところがあるのではない
かと考えています。
図 14 センサノードの開発
図 15 は、加速度センサの精度を示しています。サーボ型加
速度計は、従来型でとても大きいが、精度は大そう良いです。
研究で使用予定のものは、
サーボ型と比べて精度は 1 桁低いが、
ずいぶん小型で低消費電力です。
両者でこれだけ差があります。
まずは、サーボ型センサで測れるか検証するために、首都高
速道路にお願いして、フィールドでの計測を試みました。図 16
を見ると同じような構造に見えますが、床版連結といって 3 つ
の橋桁が接続されています。接続してあるので少し構造に違い
がありますが、3 つごとに同じ構造が並んでいることになりま
す。
図 17 振動の計測結果
無線による伝送実験もしました。
図18 の写真に示すように、
首都高速道路の高架橋の下は箱状になっていて、裏面は吸音板
で囲われています。箱 1 スパンは概ね 30m ほどで、12 スパン
の約 360m の区間で実施しました。内部は鉄骨が 2m 間隔で並
9
SCATLINE Vol.100
んでいて、30m 置きに箱を越えるのですが、このときとても狭
い 30cm ほどしかないところにもセンサを設置していくのです
が、ここは電波環境もかなり厳しく、12 スパンに 7~8 ホップ
ほどのネットワークを組んでデータを収集しました。
他には、
「レインボーブリッジ」
でも実証実験を行なっていて、
センサノードを全部で 30~40 台ほど設置して、1 日通してデ
ータを収集しました。
(3) 無線センサネットワークプラットフォーム
「トマト農場」と「橋梁モニタリング」についてお話しまし
たが、その分野の専門家と論議していく中で、単に無線ネット
ワークをつなげてデータが届くだけでは不十分だということが
わかってきました。彼らは計測したいのであって、通信できれ
ばよいのではないのです。しかも、有線と同じように計測した
いと考えているのです。
無線でセンサノードをバラバラと設置すると、それぞれが勝
手なタイミングで測った値が送られてくることになり、それで
はデータとしてとても扱いづらいです。同時にサンプリングし
て、かつ、ロスなくデータが送られてきて、さらに、低消費電
力であれば尚更よいというのが、共通の要求事項であることに
気づきました。この条件で無線による基盤構築の開発を進めて
います。
図 20 は、1 台のノードで広いエリアをカバーするのは難しい
ので、マルチホップなネットワークの方がよいという話です。
「トマト農場」の群落の上と下で明るさを比較する話をしま
したが、これも同じタイミングで計測しないといけないです。
太陽の関係で下は日陰になっているが上は直射日光が当たって
いることもあるので、サンプリングスピードが遅いネットワー
クではサンプリングの同期はけっこう重要なのです。また、植
物はけっこう水分を含んでいるので、成長すると電波的な障害
物となります。それ故、通信路はしっかりと確保する必要があ
ると考えています。
省電力にしたいというのは共通の思いですが、無線の消費電
力で何がポイントかというと、
「受信待機」に大きな電力を要す
ることです。マルチホップでは送信に加えて受信もしないとい
けないので、受信待機状態にしておく必要があります。間欠受
信では消費電力を低く抑えられるものの、無線オフのときに送
られてくると、
パケットロスになってしまいます
(図20 左側)
。
だから、何らかの同期をとる手段が必要となります。
時計合わせをせずに同期をとるには、
例えば、
1 秒間に 5ms、
10ms だけ立ち上がって、自分宛にパケットがあるかどうかを
確認する方法があります(図 20 中央)
。この場合、パケットを
1 秒間送信し続けないといけないので、送信オーバーヘッドが
とても大きくなります。時刻同期をとる方法もありますが(図
20 右側)
、マルチホップのトポロジーを組んだ状態でスケジュ
ールを組むのは大変難しいことなのです。
図 18 高架橋下での無線通信実験
ここまで述べてきたことは、同一構造のものを比べることで
違いを見い出そうというものですが、一つわかり易いものとし
て、斜張橋というものがあります。斜張橋は、図 19 に示すよ
うな構造になっていて、
「横浜ベイブリッジ」などがこの構造で
す。主塔があって、車が走る主桁をこのケーブルがしっかりと
引っ張ってくれているから、橋が倒れずに立っていられるので
す。逆の言い方をするなら、このケーブルにかかっている力を
推定できれば、橋がしっかりと立っているかどうかがわかるは
ずです。そこで、ケーブルの張力を測りたいところですが、当
然、間にバネ秤のようなものを挟むわけにはいかないので、推
定できる何かうまい方法を見つけようということになります。
図 19 斜張橋の振動計測(かもめ橋)
その手法として、ケーブルに加速度センサを取り付けます。
ギターやピアノは、
張力が高くなると高い音色が出るのですが、
同じ原理で、橋のケーブルも張力が高くなると周波数が高くな
ります。そこで、加速度を測ることでケーブルにかかっている
張力が推定できるのではないのかということで実験をしました。
図 19 の測定データは、大井競馬場の側にある「かもめ橋」で
計測したものですが、弦と同じ構造なので、このように倍音の
波形がたくさん現れます。20 台ほど設置してデータを収集して、
張力の推定をしました。
10
図 20 マルチホップ通信の省電力化
SCATLINE Vol.100
マルチホップ型を構成するのに木構造を組むというのがあり
ますが、子ノードが多数つながれている親ノードは、消費電力
が大きくなったり、パケットが蓄積して輻輳によるパケットロ
スが生じたりと、色々な問題が発生します(図 21)
。
図23に示すように、
Chocoには色々とメリットがあります。
ルーティングして目的のノードにパケットが届かないとなると、
再度ルーティングして次の相手となるノードを探す必要があり
ますが、Choco は受信したらすぐに転送するという簡単な方式
なので、電波環境の変動にはとても強いです。しかも、ノード
が一斉に立ち上がって、ささっと通信して、すぐに停止するの
で、低消費電力にできます。データ転送量が低いときには、ル
ーティングに必要な定期的な通信を無くせるので、特に低消費
電力化に効いてきます。こういったローパワーの無線ネットワ
ーク上で TCP プロトコルを動かすのは意外と難しいのですが、
Choco はエンド to エンドで簡単に通信ができるので、TCP の
ような 100%信頼性も実現できます。
時刻同期の難しさは、パケット到達時間が変動することが一
番の原因ですが、Choco は受信してすぐに転送を繰り返すだけ
なので、パケットが届いたときから測り始めて、ホップ数×パ
ケット数の時間が送信開始時刻であることから、時刻同期も簡
単に取れます。
図 21 木構造型マルチホップの問題点
この対策として、Choco という同時送信型プロトコルを開発
していて、ルーティングしないでマルチホップのネットワーク
を構成するものです。ルーティングしないというのはどういう
ことかというと、最初に 1 ノードが送信すると、受信したノー
ドはすぐに全ノードに転送します。これは基本的にはフラッデ
ィングなのですが、普通のフラッディングは、受信したら干渉
が起きないようにランダムな時間をおいて転送します。Choco
では、受信したら即座に全てに転送するようにしています。
普通に考えると、
複数のノードが同時にパケットを飛ばすと、
コリジョンが発生して受信できないはずですが、802.15.4 のよ
うな低速の通信であれば、図 22 に示すように、波形がうまく
重なると受信できるという素朴なアイデアが最近提案されてい
ます。マルチホップのセンサネットワークはルーティングがと
ても複雑で、
作りづらい使いづらいところがありますが、
Choco
を使うとバックオフやコリジョン・アボイダンスは要らなくな
るので、ルーティングの嫌らしさを回避できます。
しかも、1ms、2ms のパケットを受信・転送、受信・転送と
ホップ数だけ行なえばよいので、消費電力的にとても優しいネ
ットワークが作れます。1 スロットを 1 フラッディングして、
そのスロット要求を適切にスケジューリングすることで、先ほ
ど示したような要求条件、同時サンプリング、伝送ロスなしを
満たせるネットワーク基盤が作れます。いささか眉唾な通信方
式なのですが、技術基準適合認定も取れています。
図 23 Choco のメリット
Choco と普通のルーティングを比較しました。パケット送信
間隔を変えることで、Common Transport Protocol(CTP)と
比べて消費電力がどのように変わるか評価しました。図 24 は
評価結果です。
図 22 通信プロトコル Choco の概要
図 24 消費電力(Choco vs CTP)
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SCATLINE Vol.100
用の小さいトンネルがありますが、その中でも使えるようなカ
メラの開発を現在進めています。
無線がオンしている時間割合を示すデューティー比で比較す
ると、10 秒に 1 回の通信では大して差はないです。送信間隔を
延ばしていくと、どちらもデューティー比は小さくなるが、
Choco の方の減少が顕著です。これは、ルーティングのオーバ
ーヘッドが無くなるからだと思います。
また、Choco のように方式が簡単になって一斉にオンしてオ
フするように動くと、消費電力的な偏りは無くなります。CTP
プロトコルでは、子ノードが多数つながれている親ノードは消
費電力が大きいようですが、Choco ではそのような差異はない
ようです。
Choco は、大規模化も簡単にできて、我々が居る 7 階建ての
研究棟に 250 台設置して実験をしました。本当にポンポンとノ
ードを置いていくだけで、250 台のネットワークが組めてしま
います。概ね 1 時間ほどで設置できて、8 ホップほどのネット
ワークが安定して組めました。250 台が 5 分に 1 回の割合で送
信して、単三電池 2 本で 1 年ほど持つぐらいの消費電力です。
2.4GHz 帯で実験を進めていますが、2.4GHz 帯の Wi-Fi と干渉
があると使えないのではないのかと言われていますが、性能は
落ちていないです(図 25)
。
図 26 規模に対する性能(Choco vs ORPL)
(4) IoT デバイス・スマートフォン間通信
最後に、
「LED を利用した IoT デバイスとスマートフォンの
通信」
の話をしたいと思います。
スマートフォン通信というと、
すぐに思い浮かぶのは Bluetooth Low Energy(BLE)や Wi-Fi
などですが、最近、これとは別の通信手段が現れてきたような
気がします。
以前、山手線トレインネットというのがありました(図 27)
。
これは、今乗っている山手線の電車がどこを走っているのか、
各車両の温度、各車両の混み具合などがリアルタイムでわかる
アプリケーションです。これには一つおもしろいところがあっ
て、アプリケーションを起動したまま乗車すると、今あなたは
「この電車に乗っていて、しかもこの車両にいます。
」というの
がわかるようになっています。これはどうやって実現している
のかというと、実は超音波通信で行っています。ネット上で見
た記事なのですが、BLE は機種依存性が大きくて実現が難しい
ので、スピーカが付いていれば超音波が使えるので、超音波通
信で実現したという内容でした。スマートフォン通信だからと
いって、BLE や Wi-Fi とは限りませんという話です。
図 25 Choco の消費電力と信頼性
ノードの台数が増えていくと、CSMA ベースの通信ではどう
しても信頼性が落ちてしまいます。図 26 は、1 秒に 1 パケット
送信してノード数を増やしていったケースですが、ルーティン
グベースのプロトコルである ORPL の場合、2 台で 100%を達
成できなくなっていますが、Choco の場合スケジューリングし
ているので、24 台まで 100%を維持できている評価結果となっ
ています。また、Choco は信頼性の高い通信ができるので、100
台に対して 1 分程度でリプログラミンクできています。
Choco を使って色々なデバイスを作っています。通信の信頼
性が高いことから、カメラをつなげてトマトが成長していく姿
を撮影するアプリケーションを考えています。省電力で画像が
送れてマルチホップできるものというのは意外と少なく、農業
図 27 山手線トレインネット
最近出てきた HDMI ドングルの Chromecast でも超音波が使
われています。Chromecast をゲストモードで使いたいとき、
以前のバージョンでは Wi-Fi アプリケーションのパスワードを
ゲストに教えないとテレビに映し出せなかったのですが、新し
いバージョンではテレビのスピーカから超音波で一時的に使え
るパスワードを流してやることで、Chromecast と接続できる
ようになります。応用例としては、ゲストのスマートフォンの
中にある画像や動画を皆で共有する用途などが挙げられます。
スマートフォンと通信できる第三の通信方式があってもよい
のではないのかと思っています。これから色々と出てくるであ
12
SCATLINE Vol.100
ろう IoT デバイスを、スマートフォンで見る機会が増えてきた
とき、どのような通信方式が有利かを検討しています。データ
を無線でサーバに集めて、それをグラフにして見るのは、標準
的な見方であると思いますが、現場で直接見るのも、とてもわ
かりやすい方法であると思います。サーバに集めてしまうと、
どのセンサからのデータなのかが分かりづらいので、その場で
見たいという要求が出てくると思います。そのとき、全てのデ
バイスにディスプレイを取り付けてしまうと、とても高価にな
ってしまうので、スマートフォンをディスプレイとして使うこ
とを考えています。
BLE でこれを実現しようとすると、100 個のデバイスがある
と 100 個の無線ノードが見えることになり、識別性が悪くなっ
てしまいます。Near Field Communication(NFC)を用いれば
近接通信なので他のノードは見えませんが、最近とても小型な
ったといってもアンテナサイズがネックになって難しいです。
他には、イヤホンジャックで聞くというのも最近出てきました
が、コネクタやケーブルが必要になるので使いづらいです。そ
こで考えているのが LED を使ったスマートフォンとの通信で
す。
スマートフォンのカメラで高速に点滅させた LED を撮ると、
カメラのフレーム周期は 30fps でも、100μs 程度で点滅させた
LED が空間的に展開されて映し出される「ローリングシャッタ
ー現象」というのが生じます。この現象を示したものが図 28
の写真で、距離を近づけていくと、このように縞模様が見えて
きます。ここに情報を埋め込んでやれば、IoT デバイスとスマ
ートフォンによる通信になるのではないのかと考えています。
まとめ
IoT というと、無線で集めて、それをクラウドに上げて、と
いうことになってしまいがちですが、
それを簡単なシステムで、
人が現場に出かけて行ってデータを集めるという方法でも、最
初はそのぐらいの IoT 化でもよいのではないのかと考えていま
す。
以上です。ありがとうございました。
図 28 ローリングシャッター現象
「ローリングシャッター現象」
というのは結構おもしろくて、
ホテルの中で秘密の話をしている人を遠くからローリングシャ
ッターで撮ると、側にあるお菓子の袋などが音声で震えて、音
声が復元できるというような研究も行なわれています。この現
象を利用すると、30fps のカメラでも 1.5kbps 程度の通信がで
きます。
本講演録は、平成 28 年 2 月 5 日に開催されたSCAT主催「第 97 回テレコム技術情報セミナー」のテーマ、
「IoT の具体的な応用動
向」の講演内容です。
*掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
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SCATLINE Vol.100
May, 2016
SEMINAR REPORT
ICTが支える光のスマート農業
~NTTグループの取り組みと将来像~
域ネットワーク加入数が固定電話を追い抜いたことです。業界
全体として、モバイル化、高速広帯化の波が到来しました。
日本電信電話株式会社
研究企画部門
プロデュース担当部長
久住 嘉和
氏
本日は、
「ICT が支える光のスマート農業」という題目でご説
明させていただきます。
題目は、大きく分けて 4 つあります。一つ目は、今なぜ当社
が農業を手がけようとしているのか、
「NTT グループの現状」
を含めて説明します。二つ目は、当社なりに捉えている「農業
分野の課題」について、三つ目は、その農業分野の課題に対し
て具体的にどのような
「取り組み」
を行っているかの説明です。
最後は、農業分野の「将来像」についての説明です。この 4 つ
の構成にてご説明します。
図 1 NTT グループの全体像
NTT グループの現状
NTT も民営化して 30 年が経ちました。当初は電気通信の国
内電話のみでしたが、1999 年に組織の再編があり、分離分割し
て国際通信にも進出しました。現在、国内・国際通信のみなら
ず、非通信の分野にも参入していて、事業ドメインの多角化を
図っています。
図 1 は、NTT グループの全体像です。分割時は市場競争がと
ても激しい状況でしたが、その後、ICT 分野の市場が急拡大し
ました。売上高は当初 5 兆円ほどでしたが、今では 2 倍の 10
兆円を超える規模にまで成長しました。グループ数も昔は電電
公社 1 社から 900 社程度まで増えています。
この間に、通信業界に非常に大きな波、変化点が 2 つありま
した。図 2 に示すように、一つ目は、2000 年に携帯電話加入
数が固定電話を追い越したこと、二つ目は、2011 年に高速広帯
図 2 加入電話の減少と新たな通信サービスの増加
その中で、NTT グループの役割も大きく変化してきました。
昔は電話事業が中心でしたので、人と人をつなぐことが NTT
の使命でしたが、
その後、
クラウド等の情報処理技術が登場し、
人と人をつなぐだけではなく、人と情報をつなぐことが必要に
なってきました(図 3)
。
今後は、当社のような通信事業者のインフラを利用して、数
多の企業が新しい価値を創り出していく時代になっていくと思
われます。つまり、電電公社が電話事業を独占していた時代は
終わり、様々な事業者が通信サービスを提供するようになり、
それらのサービスを様々な事業者の方々が活用して新しいサー
ビスを創出するようになりました。現在は NTT も黒子として
14
SCATLINE Vol.100
様々事業者の方々の事業を支える役割に変わってきたのです。
これはいわゆる「B2B2X モデル」であり、色々な企業と一緒に
なって、新しい価値を創り出していこうというものです。当社
はこれを「○○×ICT」と呼んでいます。
現在社会問題にもなっていますが、耕作放棄地が滋賀県と同じ
ぐらいの面積になりました。さらに、経営規模については、国
土面積が同じぐらいの欧州諸国に比べて約 10 分 1、米国と比べ
ると100 分の1 と小さいことが経営効率を下げる要因ともなっ
ています。
一方で、ポジティブな兆しも見えてきました。農業法人の数
が 1.3 倍になったこと、輸出もここ 3 年で 1.5 倍になったこと
等、プラスの面も出てきています。
そういう中で、当社としてはこれらの状況を好機だと捉えて
います。特に、JA 改革や TPP 合意があって、今日の日本は国
家的に「攻めの農業」を提唱していて、農業に相当意欲的な数
値目標を立てています。また、自治体も基本的には国の方針に
沿って動いています。JA グループもアンケート結果によると、
ICT の活用、市場拡大、収益増加に大いに関心を持っており、
ICT が貢献できる領域があるのではないかと考えています。
図 3 ICT の進展と NTT グループの役割の変化
2015 年 5 月の決算時に、当社は 3 つの大きなメッセージを
発表しました。その 1 つが図 4 の中央に示すところの、
「B2B2X
モデルを軸にして新たな市場を開拓」を目指すことです。これ
は当社 1 社だけではなく、
「パートナーリングを推進して、色々
な価値を創っていこう」という宣言をしたわけです。
どのような分野の方々と連携していくのかというと、現在、
医療、交通、農業、教育、街づくり、観光等 7 つの重点分野を
設定していて、その中で、農業も大きな成長分野として捉え、
様々な取組を推進しているところです。
図 5 日本の農業の現状と課題
その中で、どこに注力していくのかというと、
「生産」
、
「流通」
において、それぞれ図 6 に示すような分野に重点的に取り組み
を行っているところです。
図 4 新たなステージをめざして 2.0
農業分野の課題
現在、グループ全体では 900 社程度ありますが、農業につい
ては、その内の 20 社が集まって、約 60 名のバーチャルな体制
にて、様々な取り組みを行っています。現在、日本の農業分野
でどのような課題が存在しているのかを分析してみました(図
5)
。
ネガティブ、ポジティブ両方の課題があります。ネガティブ
な要因としては、
農業人口が長期的に減少傾向にあることです。
30 年前と比べて人口が 6 割も減っています。農業従事者の平均
年齢は 66 歳なので、人口減に加えてかなりの高齢化が進んで
います。もう一つは若い人、39 歳以下の割合が 26%であるこ
とに加え、3 年以内に離農する人が 3 割近くもいることです。
新規参入するには、
とても厳しい業界であるといえます。
また、
図 6 農業界の動向
NTT グループの農業分野への取り組み
NTT グループの具体的な取り組みについてご紹介します。現
在、NTT グループでは既存のソリューションが 20 ほどありま
す(図 7)
。また、研究所の R&D 成果も農業に活用できないか
模索しているところです。現在、これらのソリューションと R
&D を合わせた農業の取り組みを推し進めています。本日は、
時間の関係から、赤い枠で囲った項目に絞ってご紹介します。
15
SCATLINE Vol.100
また、星印の項目については実証実験を行っているので、具体
的な事例も含めてご紹介します。
ザーガスセンシングにかけて分析してプロットしたところ、き
れいな相関が見られました(図 10)
。沖縄の水が最も重く、北
上するほど軽くなっていくので、傾向分析できる目処が立ちま
した。
図 7 NTT グループの農業ソリューション・研究開発
図 9 レーザーガスセンシング
(1) 研究開発成果の農業分野への活用
まず、R&D 部門についてご紹介します。当社は、海外を含
めて 13 の研究所を有しています。研究所員は 2,500 名ほどい
て、色々な研究に取り組んでいますが、その中で農業に資する
R&D は 15 ほどが挙げられます。本日は図 8 の赤枠で示す 4
項目に絞ってご説明します。
図 10 日本国内の水の同位体比測定
米の成分比も、米国、日本、中国産をレーザーガスで分析し
てみたのですが、一部重なっているところはあるものの、炭素・
水素の同位体比から、産地の大よその傾向をつかめることが確
認できました(図 11)
。このような技術を使えば、大まかな産
地の判別ができます。
図 8 持株研究所及び開発会社プロダクト
一つ目は、
「レーザーガスセンシング」です。通信用レーザー
の食品の産地特定への活用です。二つ目は、当社は元々が音声
技術が得意の会社なので、
「音声認識技術とマイク技術」を使っ
た具体的な取り組みです。三つ目は、
「ウェラブル生体センサ」
です。
熱中症対策に使えないかという観点で取り組んでいます。
最後に、本日の題目の IoT としては、
「IoT ロボティクス基盤」
の研究をしているので、そのご紹介もしたいと思います。
一つ目の「レーザーガスセンシング」は、通信用レーザーを
使って食品の成分を分析できないかという取り組みです。食品
の成分は、
同位体の比率が違うため、
例えば水をとってみても、
重い水と軽い水とが含まれています。
この成分比の違いにより、
産地を特定したり、原料の分析を行ったりできるのではないか
という研究を進めています(図 9)
。他には、蜂蜜の成分や日本
酒の原料を分析したり、米や果物の産地を特定したりして、昨
今社会課題になっている産地偽装問題に使えないのかという取
り組みも行っています。
日本全国に研究所員が出かけて行って、ペットボトルに水を
汲んで持ち帰り、実際に測定してみました。一般的に、水は赤
道に近いほど重い水だと言われています。持ち帰った水をレー
図 11 米の炭素・水素安定同位体比分析
二つ目の「音声処理によるマイク技術」は、3 つほど技術要
素があります(図 12)
。一つは、
「ズームアップマイク技術」と
いうもので、20m 程度先の人が話す内容をマイクで拾える技術
です。
もう一つは、
「インテリジェントマイク技術」というもので、
例えば 100dB の騒音下でも音を聞き取れる技術です。100dB
というのは、高架下で電車が通過する際のレベルです。新橋の
高架下のうるさい環境を想像してみてください。あのような所
16
SCATLINE Vol.100
でひそひそ話をしていても、聞き取れるほどの性能なのです。
さらにもう一つは、
「ターゲットマイク技術」というもので、
取りたい音だけを取る技術です。例えば、サッカーを観戦して
いると、応援とキック音が入り混じると思いますが、キック音
だけを取りたい場合、それだけを抽出できるのです。これは相
撲でも使えるのではないかということで、
大相撲の 2015 年の 9
月場所から採用されました。力士がぶつかる音、手を叩く音、
そういうものを鮮明に取れるということで、ここ最近注目を浴
びている技術なのです。図 12 下部の 2 つの周波数スペクトル
図は、普通のマイクとターゲットマイクを比較したものです。
左はキック音と歓声のミキシング、右はキック音だけです。歓
声が入ってもキック音だけを抽出できるというものです。
2 つの技術を使って、音声をクリアにして、文字情報に変換し
て記録します。この作業記録を自宅で振り返ったり、営農指導
に活用したりする取り組みを進める予定です。
図 14 マイクで簡単に作業記録
話ががらりと変わって、三つ目の「生体センサ」をご紹介し
ます。東レとのコラボレーションから生まれたものです。図 15
左側は当社の技術で、電導性高分子という電気を通す分子があ
り、それをコーティングする技術特許を保有しています。右側
は東レの技術で、細かいナノファイバー素材による繊維です。
両者を組み合わせることで「hitoe」という新素材を開発しまし
た。
図 12 音声処理によるマイク技術
また「音声認識技術」というものがあります(図 13)
。これ
は、聞き取った音声を認識して、その場でテキスト化する技術
ですが、従来は音声を平均的な分散や平均値で捉えるもので、
認識率は可もなく不可もなくというレベルでした。今般、当社
のディープラーニング技術、Deep Neural Network(DNN)を
使って、脳の構造を模した形で、音声を再現できる技術を確立
しました。
図 15 東レとのコラボレーション
従来の導電性の繊維は、図 16 左側のように、繊維にコーテ
ィングしても隙間ができてしまい、皮膚との接触面積が広くな
って、安定した生体情報が取れないという問題がありました。
hitoe は非常に細かい PET ナノファイバーで出来ていて、皮膚
にぴったりと接触します。
図 13 音声認識技術
「インテリジェントマイク技術」と「音声認識技術」を使っ
て、現在、農作業での利用方法について実証実験しているとこ
ろです(図 14)
。農家の課題として、作業記録が面倒で行われ
ないという問題があります。メモするのも大変なので、マイク
で記録を取りたいという要望をいただいておりました。
これは、
トラクターがあったりドローンがあったりして、
「騒音下でも作
業記録が取れないのか?」という要望です。そこで、先ほどの
図 16 機能素材 hitoe 技術のポイント
17
SCATLINE Vol.100
hitoe を衣服に取り付けることで、生体センサが実現できます。
衣服の心臓に近いところにセンサとして取り付けて、心電波形
を測ります。最近はリストバンドタイプもありますが、それよ
りも一段と正確に微弱電波を測ることができます。図 17 は心
電波形で、心拍数も取れます。着るだけで人の体調が見られる
ものが実現できました。
当社ではこれを簡易に実現する「IoT ロボティクス基盤」とい
うものの研究開発に取り組んでいます。
図 19 IoT とその発展の方向性
図 17 ウエアラブル生体センサ
「hitoe を農業にどのように活用するのか?」ですが、熱中症
対策に使えるのではないかと考えています(図 18)
。農作業中
の死亡事故の 1 割は熱中症によるものです。Hitoe をつけた衣
服を着用していて、例えば、心拍数に変化があれば病院に連絡
するという、まさに人感センサのような感覚で情報を伝えるこ
とができます。また、トラクターの転倒事故というのもよく話
題になりますが、加速度センサがついていると、転倒したら病
院等の関係者に連絡するようなことも可能となります。
図 20 「人・モノ・社会の協調による社会駆動」の世界
例えばカメラが人を認識して、それをロボットに伝えて「い
らっしゃいませ」
と言わせるロジックを組み立てようとすると、
以前は上級者がプログラムを組んで、それぞれに書き込まない
と出来ないようなものでした。それがロボティクス基盤を使う
と、Web ブラウザの環境パワーポイントで絵を書くような形で
アクションと制御条件をつけることで、開発が可能になるオー
プンプラットホームをつくり上げました。
将来像としては、例えば、水田センサ等からのインプット情
報を元にドローンやトラクターを動かすのがとても簡便にでき
るようになることを想定しています。
図 18 農作業中の熱中症対策
(2) ICT ソリューションの農業分野への活用
図 21 で示した項目の中から、センサシステム、気象予測、
地図情報、収穫期予測技術にフォーカスしてご説明します。
最後に、IoT に関するお話です。IoT は、色々なモノに通信機
能をつけて、
「人とモノ」
、
「モノとモノ」をつなげていく仕組み
です。まず最初に情報を読み取ります。それから、その情報を
予測する頭脳の部分としてのビッグデータ等の解析技術と、解
析したデータを基に新しい価値を創り出すという循環になりま
す。データを収集して価値を生成するアルゴリズムをつくり、
それを人に伝えるのが IoT の姿なのではないかと考えています
(図 19)
。
現在当社では、図 20 に示すような農業を含めた 6 つの分野
で、IoT 基盤に活用しようと考えています。ただし、これを実
現するには技術的課題があります。つながれているロボットや
センサは無数にあり、それらを連携させる開発は多くのリソー
スを必要とし、技術的にも高度な内容となります。これを如何
に簡略できるかが、IoT 時代を前倒しするために必要ですが、
図 21 NTT グループの農業ソリューション
18
SCATLINE Vol.100
「センサシステム」と「気象ビッグデータ」は、先ほどの IoT
でいうところの情報を読み取る部分と頭脳の部分に相当します。
NTT グループでは通信費がかからない 920MHz 等のサブギガ
ヘルツ帯を使った自営広域無線を活用し、様々な情報を集めて
います。稲作、畑、ハウス等において各グループ会社が実証実
験しています。
さらに、Halex という気象ビッグデータ解析技術を持つグル
ープ会社があり、主要都市部という広範囲ではなく、1km メッ
シュで 3 日先の気象予測する技術を持っています。この技術と
センサシステムを組み合わせることで、精密かつ自然災害に強
い農業が実現できないかと考えて実証実験を行っています(図
22)
。後ほど、福島県における NTT ファシリティーズと愛媛県
における Halex による実証実験をご説明します。
図 24 衛星画像を活用した生産状況の管理
もう一つ、
「収穫予測」をご紹介します。NTT データのグル
ープ会社 JSOL は、元々はコンサル会社でしたが、そこで培っ
たビッグデータ解析ソリューションを生業にして、新たに農業
向けのビジネスを検討しています。キャベツやレタスなどの葉
物野菜には、収穫の適正時期があって、これを見逃すと膨大な
ロスが発生してしまうという課題があります。この時期をあら
かじめ予測できれば、ロスを減らせるのですが、これまでは生
産者の経験と勘で予測していて、その場合、1 ヶ月先の予測で
1 週間ほどのブレが生じてしまいます。その誤差が大きいと廃
棄ロスが大きくなるという問題が発生していました。JSOL は、
ある実証で 1 ヶ月前の予測で 2 日程度の誤差まで精度を高める
ことができました(図 25)
。
図 22 災害に強い精密農業の実現
「地図情報の活用」の農業への活用も検討しています。NTT
空間情報というグループ会社があり、従来、NTT グループの設
備保全用に図面、地図を提供している会社です。その会社が衛
星情報を使って農業への様々な取り組みを行っています。米国
の会社から衛星写真・地図等を入手して、画像販売ビジネス、
クラウドサービス、画像配信サービスを提供しています。
図 23 が衛星写真です。1 ピクセルで約 30cm 四方の精密な画
像で、牧場の牛が 1 匹 1 匹数えられるほどの高解像度になって
います。現在、1 ピクセル 16cm 四方の世界最高峰の精度を有
していて、都市部ではサービスを開始しています。
この高精細な地図と解析技術を用い、現在、たんぱく質の量
を測る付加価値サービスを検討しています。たんぱく質が少な
いと米の食味がよいと言われていますが、得られた情報を分析
することで、生育度合いを見える化することを検討しています
(図 24)
。
図 25 収穫予測に基づいた農業経営の高度化
NTT グループでは全国で色々な取組を行っています。また、
多くのパートナー企業と連携をしながら取り組んでいます。こ
の中から、
具体的な事例として、
実証実験を 2 件ご紹介します。
一つは、福島県で進めている実証実験、もう一つは、愛媛県の
ものです。
(3) 特定省電力無線技術を活用した実証実験
図 26 に福島県の実証実験を示します。この背景にあるのは
東日本大震災です。自宅と畑が離れていると移動に時間がかか
るので、自宅等の遠隔からできるものはそこから行う必要性が
ありました。図 26 の下部に実験構成が示されていますが、多
数のハウスがあって、これら全てを携帯電話網の 3G 回線でつ
なぐと、ハウスの数分だけの料金がかかることになります。で
きるだけ料金のかからない自営広域無線を使い、これらを束ね
た基地局から先は 3G 回線を使うように設計しました。もう一
つは、収集したデータ、これはビッグデータ解析となるのです
図 23 衛星の高解像度画像
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が、データからどのような遠隔制御ロジックを組むのかという
ことです。さらに、農村部では商用電源の確保が難しいという
問題があって、太陽光発電と蓄電池で電源を賄うことも合わせ
て実証実験しました。
図 29 に実証結果を示します。今回は、トマトの収量実験を
しましたが、収穫量が約 35%アップしました。ハウスへの移動
時間も 3 割減り、定量的にかつ大きな効果を出すことができま
した。通信コストは、3G 回線に代わって自営広域無線を使う
ことで、大幅な低減が達成できました。電力は、今回、環境制
御に係わるもの全てを太陽光電池で賄って、環境面にも配慮し
た構成が実現できました。
図 26 実証試験環境(福島県)
図 27 は、実証実験の構成です。ハウスの内に温湿度センサ
と土壌水分センサの 2 つを取り付けました。ハウスの外に子機
をつけて、ここから 920MHz の特定小電力無線を使って親機ま
でデータを飛ばします。データは 15 分間隔で取りました。農
業・食品産業技術総合研究機構の協力を得て、機構の建屋の 2
階に親機を設置して通信しました。
図 29 実証試験の結果
(4) 気象ビッグデータ解析技術を活用した実証実験
気象ビッグデータには大いに注目しています。米国では、気
象会社を買収して農業に資するという動きが出てきています。
例えば、モンサントという会社は、クライメートコープという
気象会社を 1,300 億円で買収ました。いわゆる次の農業、次の
一歩のために、
気象情報を積極的に活用しようという事例です。
NTT グループではこの気象ビックデータに強い会社があり
ます。Halex 社は気象庁のオープンデータを入手して、独自の
ビッグデータ解析をすることで、色々な付加価値を創り出して
います。気象情報というのは、一般に見える情報は実際には 3%
ほどしか使われていなくて、残りの 97%は使われていません。
その 97%に着目しているのが同社で、これらの情報を使って
色々なサービスを検討しているところです。
この気象ビッグデータを使って、
愛媛県で実証実験しました。
図 30 に事例の概要を示します。愛媛県の農作物の被害、自然
災害の被害は、13 億円にも及ぶと言われています。この実証実
験は、
被害を何とか最小限に食い止められないかということで、
気象ビッグデータを活用しようという取り組みです。まずは、
気象用にしか使われていないものを、農業用にシステムを作り
直さないといけません。その上で、システムを向上させて、露
地栽培におけるリスクをできるだけ回避しようというアプロー
チで実験しました。
「坂の上のクラウドコンソーシアム」という
共同事業体をつくって、県内の企業数社と実験しています。
図 27 実証実験の構成
図 28 が環境制御システムの構成です。取得したデータは 3G
回線でクラウドに送信します。クラウド側では、自動で制御す
るもの、
モニタリングして遠隔で手動制御するものもあります。
制御内容としては、ハウスの窓の開閉、灌水弁などです。
通信ができないと何事も進みませんが、2015 年 4 月から現
在まで、15 分間隔で全く途切れることなくデータが送信できて
います。
図 28 環境制御システム
図 30 実証試験の実例(愛媛県)
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図 31 は、実証実験のイメージです。実験のテーマは 3 つあ
って、一つ目は、気象予測データを取って、さらに実際にフィ
ールドの気象データを取ることで、測定の精度が上がります。
その地域特性に対応した予測精度を向上させることになります。
二つ目は、測定データを使って、農作業計画を立てて実施記録
をつけることで、コスト削減や品質向上に資する取り組みを行
ないます。三つ目は、利用者の観点から見やすいシステムにな
るように検討します。IT 企業がつくったものは大抵がわかりづ
らいもので、農業法人にも参加してもらって、改善事項や追加
機能の要望を聞きながら、一緒になって農業者が使い易いシス
テムにつくり上げました。
期の気象予報を取り入れて、営農に使える情報に仕立て上げる
というアプローチです。例えば、営農指導員向けに配信するサ
ービスができれば、
このタイミングではこういう物をつくって、
このように提供しなさいという営農指導ができます。
図 33 実証成果と今後の見通し
NTT グループの農業分野の将来の方向性
今後、NTT グループはどのような方向に進んでいくかをお話
します。以上ご紹介しましたように、NTT グループは農業用の
ソリューション、R&D 技術と多くのものを持っています。こ
れらを得意の分野であるネットワーク、クラウドを介してお客
様に提供することを目指していますが、当社は IT 企業であって、
農業分野では素人です。
当方 1 社だけでは対応できませんので、
色々な方々とパートナー連携をして、推し進めていこうと考え
ています。それから、農業分野の連携だけでなく、他の分野と
も連携することで、新しい価値、これまで想像もできなかった
ような価値をつくり出すというアプローチも考えています。そ
のための取り組みの柱として、グループ商材を連携させるグル
ープ連携、パートナー連携に力を入れていきます。さらには、
分野連携の推進というビジョンを掲げて、取り組んでいるとこ
ろです。
一つ目の事例は、
「グループ連携(プロダクト連携)
」です。
図 34 の下方に示すように、当社にはグループ会社は多数あり
ますが、恥ずかしながら連携ができていません。これから色々
な形で連携を実現する必要があります。先ほどの例の精密農業
の中で集めた情報も連携ができておらず、これらを地図情報、
気象情報などと組み合わせて災害に強い農業を目指していきた
いのですが、そのためには一旦情報を蓄積して、プロセス間で
連携させるためのグループ横断的な仕組みが必要になってきま
す。現在、NTT グループはこの仕組みの構築を実現していない
ので、
今後、
それらを実現する IoT 基盤が必要と考えています。
集めた情報は、当然、セキュアな状態を確保しないといけま
せん。当社のセキュリティー技術を活用すること、および、ビ
ッグデータ解析・AI 等の頭脳の部分を組み込むことで、情報を
セキュアに集めるだけでなく、集めた後も利用者の経営支援等
に資するような意味のある情報に変えて、それを利用者にお届
けする仕組みを目指します。これは、NTT グループに閉じた話
ではなく、日本の農業のために様々な企業や農業従事者等が使
えるような仕組みの実現を目指していきます。
図 34 は、バリューチェーンの横のつながりを示したもので
すが、情報連携するには、実際には横のつながりだけでは不足
図 31 実証実験のイメージ
図 32 がその農業用気象システムです。世界初の農業用気象
予測システムを構築しました。システムは、短期の予測に加え
て、中長期、1ヶ月、3 ヶ月、半年単位でも予測できるように
つくり上げました。また、過去の気象情報も使って、より精度
を高められるというシステムにもなっています。
図 32 農業用気象システム
図 33 は、成果と今後の見通しです。成果としては、まずは
この農業用気象システムをつくり上げたこと、当初から目標に
していたアラート機能をつけられたこと、農家が保有している
機器に応じて事前にレコメンド情報を提供する機能を盛り込め
たことです。さらに、害虫被害、霜の被害、低温障害、高温障
害などの10 項目をアラートする機能を組み込むことを検討し、
概ね実用化の目処がつけられました。
アラート機能は守りの農業にしか使えません。今後の見通し
としては、これをもっと攻めの農業に使おうということで、戦
略面に生かせる取り組みを始めています。つまり、もっと中長
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しています。
情報というのはレイヤ・階層構造に分かれていて、
階層間の連携がないとうまくつながりません。階層としてはイ
ンフラ層、データ層、情報層、ツール層、経営深層などに分か
れていていますが、センサ等のインフラ層で集めた生のデータ
を、利用者にとって意味のある情報に変える、お皿の上で切っ
た材料を並べるだけでなく、おいしい料理にする必要があるの
です。
ような新たなビジネスを創出できないか、具体的な話を日本全
国で展開しているところです。
図 36 パートナー連携
図 34 グループ連携(プロダクト連携)
図 35 で情報層と定義しているところは、いわゆるインフォ
メーションからインテリジェンスに変えるところを意識してい
ます。気象情報を例に取ると、集めたセンサデータから気象予
測したり、病害虫の発生予測したりするような、それ自体に意
味を持つインテリジェントな情報に変えていく層と定義してい
ます。そのために図 35 に青く示したツール類を使いながら、
インテリジェントな情報に変えます。変換された情報は、最後
に利用者が経営面に生かさなければいけないので、労務管理、
出荷計画、
財務会計などのアプリケーションをオープンにして、
最終的には色々な企業に使っていただくことを想定しています。
このように、情報の縦の流れ、プロセスの横の流れを意識した
上で、今後どのような IoT 基盤をつくっていくべきか、多方面
の方々と色々議論をしていきます。
最後に、三つ目は「分野連携」です(図 37)
。社会課題とい
うのは、農業に限らず色々な分野に内在しているものです。例
えば、農業や防災で、連携が可能ではないかと考えています。
気象データの活用を考えてみると、
気象情報は防災に役立つし、
農業でも活用できるので、気象情報をハブにした分野連携が図
れます。
現在、推進しているのは食育です。例えば、小学生が農場に
行って、農業教育を受けて、作物栽培するとした場合、現地へ
行けない期間にはICT を使って遠隔から生育状況を観察するな
どの、食育の推進にも取り組みたいと考えています。
観光も手掛けたいと思っています。例えば、農村見学のツア
ーを組み、そこに ICT を絡ませることで連携を図っていくよう
な取り組みも進めたいと考えています。
図 37 分野連携
まとめ
これからの日本は、ますます農業の IoT 化が進んでくると思
います。当然、農家の IoT は我々ICT 事業者だけでは実現でき
ず、利用者側、異分野の人たちと連携しないことには、より良
いもの、普及するものはできないと考えています。そのため、
積極的に異分野・異業種の方々とコラボレーションして、オー
ルジャパンで将来の日本の強い農業を創っていきたいと考えて
います。今後とも NTT グループをよろしくお願いします。
図 35 農業 ICT の領域別階層モデルのイメージ
二つ目は、
「パートナー連携」です。当社は ICT 企業なので、
色々な会社と連携しないことには、農業分野でビジネスを展開
していくことはできないと思っています。そこで、図 36 に示
すような会社と連携して、色々な取り組みを推進しているとこ
ろです。JA グループ、自治体、商社、それに農機具メーカーな
どの色々な企業・団体と連携して、当社だけでは考えられない
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本講演録は、平成 28 年 2 月 5 日に開催されたSCAT主催「第 97 回テレコム技術情報セミナー」のテーマ、
「IoT の具体的な応用動
向」の講演内容です。
*掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
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