新特別用途食品制度施行

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◉TREND
(最近の話題や用語を紹介)
❹
新特別用途食品制度施行
∼特別用途食品制度における濃厚流動食の位置づけと今後の課題∼
神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部学部長▶
中村 丁次 先生
TEIJI NAKAMURA
高
齢化の進展や生活習慣病の増加、
表示制度の定着な
は非常に少ないことがわかりました。
ところが病者用の特殊食品は
ど社会状況の変化を踏まえ、
栄養管理に適切な食品
非常に多くの種類が市場にあふれています。
特殊食品を使わない
が提供されることを目的として、
新しい特別用途食品
と食事療法ができないぐらいに、
ある意味では市民権を得ている
制度が、
平成21年4月1日より施行された。
新制度においては、
「現
のです。
それにもかかわらず、
それらの食品が国の制度下にない、
状に対応した対象食品の見直し」
が図られ、
濃厚流動食が本制度
ということは、
ある意味では野放し状態になっているわけで、
これ
において
「総合栄養食品」
として許可基準型病者用食品に含まれ
は低蛋白だ、
低カロリーだ、
これは減塩食品だという発売元企業の
ることになった。
PRを信じざるを得ないわけです。このようにクオリティ・コントロール
厚生労働省
「特別用途食品制度のあり方に関する検討委員会」
が非常に軟弱化しているような食品に対して病者用の食品だと言っ
の委員を務められた、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部
ていいのかということです。
学部長 中村丁次先生に今回の見直しの経緯や概要、
濃厚流動
一方では特定保健用食品という非常に厳しい定義規定があり、
食を取り巻く今後の課題などについて伺った。
健康人のための、
病気の予防用食品に強い引き締めを行い、
コント
ロールしていながら、
病者用の食品群はプア・コントロールであり、
制度見直しの経緯
中にはかなり質の悪いものもあるのではないかという声もありま
食品制度の中で、
健常者や境界域にある人が適切に食品を選
す。
薬物は厳しく質的担保をしていながら、
薬物療法と同等の扱い
択できる制度として、
保健機能食品制度
(栄養機能食品や特定保
をしなければいけない食事療法に関して、
その用いる食品がどこ
健用食品)
があります。
一方、
病者や高齢者など、
特に適切な
「栄養
まで信用できるか分からない状態で良いのか、
というのも今回の
管理」
が求められる人を対象にした食品制度としては、
特別用途食
見直しの理由になっています。
品制度が存在します。
ただ、
この制度は昭和48 年に制定されて以
一方、現在の病者用食品は在宅にはあまり普及していません。
降、
大きな改正もなく今日に至っているため、
現在の状況にマッチ
食事療法はこれから在宅においても普及していかなければなりま
しているとは言い難く、
高齢化や在宅療養者の増加に対応した制
せん。
そのときに質をしっかり担保できるような仕組みを作る必要
度として、
医療従事者が適切に選択できる新しい特別用途食品制
がある、
ということも制度見直しの大きな理由の一つです。
度が求められていました。
しかし、今回の見直しの大きなきっかけになったのは、厚生労
新制度における特別用途食品の分類
働科学特別研究事業において行われた、全国の栄養士に対する
そこで厚生労働省は、
一昨年
「特別用途食品制度のあり方に関
健康食品の有効性、
安全性に関する調査結果です。
この調査に
する検討会」
を発足させ、
制度の見直しに着手し、
「現状に対応した
よって、
特別用途食品制度にのった病者用食品を使っている病院
対象食品の見直し」
を図りました。
新制度における特別用途食品の
【病者用食品】
●許可基準型
病者用単一食品
・低ナトリウム食品
栄養表示
基準に基づく
栄養強調表示
で対応
・低カロリー食品
・低たんぱく質食品
・低(無)たんぱく質高カロリー食品
・高たんぱく質食品
宅配食品
・アレルゲン除去食品
栄養指針
・無乳糖食品
で対応
病者用組合わせ食品
・減塩食調整用組合わせ食品
・糖尿病食調整用組合わせ食品
・肝臓病食調整用組合わせ食品
・成人肥満症食調整用組合わせ食品
●個別評価型
【妊産婦、
授乳婦用粉乳】
【病者用食品】
●許可基準型
・低たんぱく質食品
・アレルゲン除去食品
・無乳糖食品
・総合栄養食品
◉新制度に関して
新制度の施行期日及び経過措置
平成 21年 4月1日から施行。
経過措置として平成 22 年 3
月31日までは従来どおりの許可表示が認められる。
いわゆる
濃厚流動食
(新規)
「特別用途食品」
と表示するには、
個別の許可が必要
乳児用、
幼児用、
妊産婦用、
病者用等の特別の用途に適する
旨の表示をしようとする場合は、
健康増進法第26条に基づ
く厚生労働省の許可が必要。
「特別の用途に適する旨」
の表示
●個別評価型
【妊産婦、
授乳婦用粉乳】
【乳幼児用調製粉乳】
【乳幼児用調製粉乳】
【高齢者用食品】
【えん下困難者用食品】
・そしゃく困難者用食品
・そしゃく・えん下困難者用食品
図1 特別用途食品制度対象食品の範囲の見直しの概要(厚生労働省 ホームページより)
05
乳児、
幼児、
妊産婦、
病者等の発育または健
康の保持もしくは回復の用に供することが適
当な旨を医学的、
栄養学的表現で記載し、
か
つ用途を限定したものを
「特別の用途に適す
る旨」
の表示という。
厚生労働大臣の許可証票がつけられる。
許可されたものには、
(厚生労働省 ホームページ等からの情報)
Trend
分類は図1のようになりました。
病者用食品の許可基準型には、
「低
早い時期から栄養的サポートをして合併症等を防ぐことも医療
たんぱく質食品」
「アレルゲン除去食品」、
、
「無乳糖食品」
、
そして
コストへの貢献度は高いのではないかと思います。
これは病気の
医療機関で使用頻度が高く、
また、
在宅療養における適切な栄養
早期発見、
早期治療が医療費のコストダウンにつながるのと全く
管理を行う目的から、
濃厚流動食が
「総合栄養食品」
として含まれ
同じです。
早期の栄養的介入で早期に栄養状態を改善した方が
ることになりました
(図 2)
。
医療経済的にはメリットがあるのです。
一方、
「低ナトリウム食品
(病者用)
」
と
「低カロリー食品
(病者用)
」
この早期の栄養的介入の手段として有力なのが、
濃厚流動食の
は特別用途食品制度から外れました。
その理由は、
強調表示による
利用です。
つまり食事摂取量が少なくなったときに、
この食品を一
栄養表示基準が一般の食品表示に定着し、
低ナトリウム、
低塩、
低カ
つ添えるとか、
普通の食事に添えるといった工夫を早い時期から行
ロリー、
ノンカロリーなどの記載がある一般食品が多く存在するた
うことが医療機関の中でもっと一般化していけば良いと思います。
めです。
高血圧症や腎症などの患者が食品を選択する際は、
医療機関
例えば、
まだ体重低下は目立たないが食べる量が10 ∼ 20%ぐら
で食事栄養指導を徹底すれば、あえて病者用食品として疾病名、
い落ちてきた、
そういう患者さんにも献立以外に必ず濃厚流動食
病態名などがなくても適切に選択できるとの方向性が示されたのです。
をつけるとか、
そういうことが日常的に行われて、
在宅でも同じよ
うに食欲がなくなった患者さんに、
濃厚流動食が手軽に利用でき
総合栄養食品の位置づけ
るようになれば良いと思うのです。
これからの栄養補給等を考えると、
いわゆる濃厚流動食がとて
も重要になると予想されます。
いろいろな副作用、
価格の問題で
病態別の製品は個別評価型の範疇に
TPNの機会は減少し、
通常の食事療法では限界があるため、
濃厚
総合栄養食品という範疇は、
主に汎用的に使われる、いわゆる
流動食の役割が大きくなり、
濃厚流動食こそ病者用食品といえる
日本人の食事摂取基準に合わせた組成の濃厚流動食を対象として
時代がくると思います。
濃厚流動食は診療報酬の特別食加算から
いますが、
一方で糖尿病用や、
腎疾患、
肝疾患用に組成をアレンジ
も外れてしまっているのですが、
そうした一般食品の範疇で扱われ
しているものなど、
病態別にアレンジした製品があります。
それらの
てきた濃厚流動食が医療機関の中でどんな影響を及ぼしているか
製品は、
個別評価型病者用食品として臨床データを添えるなどし
というと、
TPN等輸液の使用量が減少し、
濃厚流動食の使用頻度
て申請していけば良いと思います。
そうすれば特定保健用食品の
が増加したため、
食材費が圧迫されるようになったのです。
そのた
個別評価と同様に対象の病名も明示することができるのです。
めに、
企業は価格競争を強いられるなど開発のモチベーションも
いずれにしろ、
「病者用食品は基本的には人形マークのついてい
低下しかねない状況です。
適正な価格で濃厚流動食を開発できる
るものを使いなさい。
人形マークのついていない食品以外は保証
状況を維持しなければ、
この分野は発展しないと考えています。
できません」
というくらい信頼性が担保され、
総合栄養食品や個別
そのためには、
やはりクオリティ・コントロールをしっかりして、
評価型病者用食品として認められた濃厚流動食を使うべきだ、
と
病者用食品の位置づけを明確にしなければなりません。
病者用で
いうことが認知されればさらなる濃厚流動食の普及につながってく
あることを表示させて認知度を高める一方、
病者対象の食品である
るということです。
ことから、
栄養組成など品質の確保を図る必要性も高く、
規格基準
今後の課題
や各種栄養成分の基準も細かく示されています。
ようやく今回制度が見直され、新しい内容で施行されましたが、
総合栄養食品をどう利用するか
やはり制度という枠組みが作られても、こうした食品を扱う管理
現在は、
入院患者さんで栄養障害が著しく悪化した人に対して
栄養士等がいかにうまく本制度に対応していくかが肝心です。
例え
NST が介入して、
栄養状態を改善するシステムが普及しはじめてい
ば管理栄養士は、
今後ベッドサイドに赴き、
自分たちの行っている
ますが、
さらに、
栄養状態が悪化する恐れのある多くの患者さんに、
業務の質が担保されているかどうか、
あるいはこの制度で質がしっ
かり担保された食品を使っているか、
を検証する癖をつけないと
いけないと思います。
◉総合栄養食品を病者用食品に位置づけ
【総合栄養食品とは】
「Quality of Nutrition」
一方、
現在、
国際的に
「Quality of Nutrition」
という概念が提唱さ
治療中や要介護状態の患者が、
通常の食事摂取に困難を伴うことか
ら経口での摂取が不十分な場合に、
食事代替や補助として、
必要なエネ
ルギーを含め、
栄養素のバランスや性状
(流動性)
を考慮した加工食品
(いわゆる濃厚流動食を指す)
れています。
栄養の質とは何かという議論をはじめなければならな
いということであり、
そのためには栄養補給に使用するものの質が
担保される事が大前提になります。
さらに、
食品を扱う上では、
企
【総合栄養食品の利用は】
業倫理と職業倫理の両輪で議論していくことが不可欠であるとい
通常の食事摂取ができない場合でも、
効率よくたんぱく質等の栄養成
分と熱量を摂取
・腸管を利用するため生理的な栄養補給が可能
・長期の使用でも栄養成分の欠乏が起こりにくい
→在宅療法も含め病者の栄養管理に適している
われています。
すなわち食品を提供する企業の倫理ももちろんです
が、
商品を使いこなす管理栄養士においても世界的なレベルでプ
ロフェッショナルとしての倫理要綱を作成して、
常にそれを遵守し
た仕事をしていかなければ、
食品を取り巻く事故や事件を防ぐこと
ができないだろうということです。
管理栄養士をはじめ栄養管理に
病者用であることを表示させることで認知度を高める一方、
専ら病者
を対象とする食品であることから、
栄養組成など品質の確保を図る必要
性も高いので、
総合栄養食品を病者用食品の一類型として位置づけ
携わる医療スタッフの方々には、
ぜひ制度の意義を理解して、
患者
さんに信頼される栄養サポートの実現や御自身の日々の業務のレ
ベルアップを目指していただきたいと思います。
図2 総合栄養食品を病者用食品に位置づけ
(厚生労働省 ホームページより)
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