こころの薬 プログラム 「今、ここ」から始まる心の健康 ~仏教の智恵を現代に生かす体験型メンタルヘルス研修~ 主催:ウェルリンク㈱ 協力:薬師寺東京別院 薬師如来座像 左 手 に 薬 壺 を 持 ち、 衆 生 の 病 気 を 治 し、 安楽を与える仏様 8月20日6時30分より午後1時まで、 ウェルリンク(株)主催のメンタルヘルス 研修が薬師寺東京別院に於いて約30名 の参加者を集めて行われた。 以下はその体験レポートである。 (文・写真:鈴木ムク) 夏の朝の非日常 8月20日、朝6時過ぎ。東京・五反田、池田山の高台にある 薬師寺東京別院に向かって石畳の坂道を登った。この日の研 修プログラムに参加する人々が次々に集まってくる。なかには まだ暗い4時半や5時に家を出たという人もいた。 御家流香道家・故山本霞月氏の邸宅を改築したという厳か な日本家屋の玄関を入り、2階の写経道場「まほろば」に集合 する。窓の下の庭の緑がすがすがしい。 ウェルリンク(株) 社長・宮下研一 主催者を代表してウェルリンク(株)社長・宮下研一 が開会の辞を述べたあと、奈良・薬師寺から駆けつけた 2名の僧侶(本日の講師でもある)が入場して、いよいよ 般若心経の読経が始まった。我々一同の唱和する声が 響き渡り、部屋の空気がにわかに引き締まる。 最後に唱和した次の言葉は、般若心経の神髄をわか りやすく伝えてくれるものだった。 「かたよらない心 こだわらない心 とらわれない心 ひろく ひろく もっとひろく これが般若心経 空のこころなり」 般若心経を読経する 第1講:法話①『幸せの条件』大谷徹奘執事 6:50~ や感じ方の違い、つまり各人のモノサシが違う ことがわかる。同じモノサシでも目盛りが違う。 そのことに気付き、自分に言い聞かせることが 大事だ。 人間関係とは出会いであり、 「縁」である。縁 が成長すると「絆」になる。我々が今、ここに隣 合わせているのも「縁」。 「たまたま」ではなく、 仕事のやりくり、電車の運行、さらにはその電車 を作った人など、様々な縁が結び連なったうえ での「よっぽど」の縁であり、そのひとつが欠け 大谷徹奘氏の法話は年間6万人が聴講する ても実現しないのだ。と氏は言って、我々隣同 という人気ぶりだが、その話術、表情、まさに命 士を向かい合わせて「よっぽどの縁」と声を出 を持って全身で語る迫力と、自身の体験を交え しての握手をさせた。たぶん、こうして「縁」は たわかりやすい内容は、たしかに誰もが引き込 「絆」になるのだろう。 まれてしまう。 この「縁」の連なりが「運命」だが、 「命を運 氏によれば、お経には「幸せ」という言葉はな ぶのが運命、運転手は自分」なのである。 く、かわりに「安心」 (やすらかなこころ)という 最後に氏は、幸せの条件として3つの自問を 言葉がある。これを考える際に、何が「安心」を 挙げた。 じゃまするのか、つまり「不安心」の種を考える 1:与えられているものを積極的に受けとめ よい。すると、アンケートなどでも1位にくるのが 活かしていますか? 「人間関係」。物もお金も、それ自体が動くわ 2:自分の初心信念を忘れていませんか? けではなく必ず人間が介在しているのだから、 3:「相手の人にも心あり」を忘れていません あらゆる物事の背後には人間関係があるともい か? える。 深く自分に問いかけることを「静思(じょう 人間関係をどう良くするかを考える際にも、 し)」といい、是非この3つを静思してください、 どんな時に悪くなるかを考える。すると、価値観 というお話であった。 ボディーワークと食(じき)作法 8:15~ 続いて、ウェルリンク(株)メン タルヘルス研究所所長・小西喜朗 によるボディーワーク。 体を伸ばしたり揺らしたりして 緊張を解きほぐし、呼吸を整えな がら、 「今、ここにある」身体を感 じることを実践する。 心を静め、心身を調整するリラ クゼーション法とのことだが、職場 でも簡単に実践できそうである。 箸、器が一直線に並ぶ 質素な朝粥に普段の 飽食を知る その後、3階へ移って朝食。茶粥と香菜だけ して「よろこびと 感謝と うやまいの ここ の質素なものだが、それでも昔よりはよくなって ろをもって いただきます」と唱和し、粥のひと いるという。 つまみを施しとして別皿に取り分けてから食べ 仏教では食事も重要な修行の一つで、本来 始める。 は無言、正座で、振る舞いや器の配置などにも 最後は椀にお茶をすすいで飲み干し、残した 厳格な作法がある。 「五観の偈」 「六方礼拝」そ 一切れのタクワンでよく拭ってから片づける。 第2講:メンタルヘルスセミナー 小西喜朗 9:10~ 「現代社会に求められるメンタルヘルスケ ア」と題した前出の小西によるセミナー。 うつや自殺者の急増という現状をふまえ、職 場におけるストレスマネジメントの重要性を説 く。ストレスは目標と現状とのギャップから生じ、 目標を達成すれば喜びとなるが、そうでない場 メンタルヘルス研究所所長・小西喜朗 合に過大なストレスとなって心身に影響を与え る。そもそも組織とは、一人では不可能な仕事を 複数で分かち合い助け合って遂行していくため のもの。ストレスに対しても助け合う仕組みが 必要だ。 人の思考や行動の奥底にあってそれらに影 響を与えるが「情動・感情」である。しかも、意 識からも身体からもコントロールが難しい。この 「情動・感情」に直接働きかける方法として、 「マインドフルネス」という概念が最近の精神 科学の世界で話題だ、という。これは「感覚と 瞬間に生きること」に気付き感じることである。 意識を通して世界をあるがままに受容するこ 先の法話にあった「静思」がまさしくそれでは と」であり、 「今ここに存在すること」 「この瞬間 ないだろうか。 第3講:写経と法話② 10:10~ 再び2階の写経道場へ戻り、説明の後、写経を始める。墨を擦る静 かな音と墨の臭いが気持ちを静め、一文字一文字の筆運びに集中さ せる。 262文字の般若心経を、下に敷いたお手本をなぞる形で写経し、 奉納する(通常は奉納料2000円)。奉納料は奈良薬師寺の白鳳伽 藍復興に使われ、納経された写経は薬師寺内陣に永代供養されると いう。 「般若心経の心」村上太胤執事長 途中から(まだ終えていない人は写経を続け ながら)村上太胤執事長が入室し、般若心経の 核心をわかりやすくかみ砕いて解説し、現代に 活かす知恵を語った。 ひと言で言うと「小欲知足(欲を小さくして足 るを知る)」。ようするに「やせ我慢」の思想で ある。 「100万円あったら嬉しいな」と思っても、 いざ手に入れば今度は「300万円欲しい」と、 「もっと、もっと」と求めてしまうものだが、そう している限りいつまでたっても満足しない。喜 びも苦しみも、不満も満足も、全ては心が感じ、 心が作り出すものである。心が変われば世界が 変わる。だから心を変える勇気と努力が大事だ。 心で喜ぶ、心で楽しむ、そういう生き方をしよう、 という話であった。 「かたよらない心、こだわらない心、とらわ れない心」。まさしくこれは小西の提唱する「マ インドフルネス」に通じるものであり、現代の精 神科学と太古の知恵が響き合うのを感じた。 交流会(昼食) 12:00~ 全てのプログラムを終え、3階の朝食会場へ 常の時間と空間を体験出来たこと自体に多くの 集まって、昼食の弁当と抹茶・茶菓子が振る舞 人が意義深いものを感じたようだった。 われた。堅苦しい作法は抜きの自由な歓談で、 午後1時、解散。玄関を出ると、照りつける日 それぞれが名刺交換をしたり感想を述べあい 差しと蝉の声。精神の小旅行から現実に戻った ながら「よっぽどの縁」を確認しあった。 気がした。 セミナーの内容だけでなく、このような非日
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