展望台

展望台
世界で戦うために
木内 重基
弊社、株式会社 IHI エアロスペースは、昨
年創立15周年を迎えました。
1953年、東京都杉並区荻窪にあった旧中
島飛行機の原動機工場から始めた固体ロ
ケットの開発は、すでに60年以上経過し、こ
の固体ロケット技術を核として長年防衛事
業、宇宙事業に携わって参りました。この
間、1998年、群馬県富岡市に工場を移転し、
2000年には、日産自動車の一事業部から IHI
グループの独立会社に変遷しました。
昨年、無事節目の年を迎えることができ
ましたのは、ひとえに弊社を常日頃からご
指導頂いている関係諸官庁および企業の皆
さまのご支援の賜物と、この場を借りて感
謝申し上げます。
弊社が得意とする固体ロケット技術とは、
推進系としての固体ロケットモータ技術か
ら固体ロケットシステム技術〔例えば、多連
装ロケットシステム(MLRS)やイプシロン
ロケットのような衛星打上げシステム〕ま
でをカバーする幅広い技術分野になります。
その技術レベルは、BMD 用能力向上型迎
撃ミサイル(SM-3 Block Ⅱ A)の日米共
2
防衛技術ジャーナル April 2016
同開発で評価されたように、欧米を凌駕す
るレベルに達しております。固体ロケット
に基づきかなり制限されております。簡単
に言えば、不拡散の視点からすでに固体ロ
モータの要としては、設計・解析力、高性能
/高品位材料、工程管理能力、非破壊検査な
どがあげられます。特に、耐熱材料は非常に
ケット技術を有している国にしか輸出する
ことができません。また固体ロケット技術
を有している国々は、それを維持し続けて
重要な分野であり、戦略物資でもあるカー
ボン/カーボン複合材については、世界最
高品質で、世界最大の大きさのものを製造
おり、世界市場への事業展開は、たいへん厳
しい環境になっております。競争優位にあ
る技術力、人材および設備を維持するため
できる設備を有しております。このような
競争力が得られた大きな要因としては、宇
宙事業の Mu ロケットシリーズや H- Ⅱロ
には、大きな投資を継続して行う必要があ
るにもかかわらず、閉ざされた市場である
がために、民間企業にとって、決して魅力あ
ケットシリーズの開発で得られた技術力、
人材および設備などを防衛事業と共通化し
たことがあげられます。今でいうデュアル
ユースになります。
かつて、防衛事業と宇宙事業は、厳格に区
分されていましたが、政府方針に基づき共
通化された成果であります。しかし、近年、
このデュアルユース効果がなくなりつつあ
ります。なぜなら、わが国において、防衛事
業、宇宙事業ともに未だ国家予算に依存し
た事業構造であるがために、国家財政の厳
しい事情を反映し、かつての勢いは失って
おります。
従って、政府においては、防衛装備移転三
原則で代表される防衛装備品に対する大き
な方向転換をされたように、弊社も生き残
りをかけて世界市場を視野に入れた事業展
開、新たな事業の立ち上げ、さらに、世界で
戦うためのコスト競争力実現のための生産
る事業といえない状況にあります。持てる
国々が維持するために行っている政策があ
る以上、わが国においても日本企業が「レベ
ルフィールド」で戦える事業環境を整えて
頂けることを切に願う次第であります。
一方で弊社としては、新たな事業展開も
模索しております。固体ロケットにおいて
は、50年前から耐熱用、構造用 FRP 材料を
使い始めています。FRP 材料が研究対象で
あった時代から材料開発を始めて、品質保
証のための非破壊検査まで独自に取り組ん
で参りました。欧米の固体ロケットメー
カーは、この実績を航空機分野に展開して
おり、弊社も航空機用エンジン部品に取り
組んで事業の立ち上げを行っているところ
であります。この事業が将来、固体ロケット
のデュアルユース市場となる可能性を信じ、
日夜努力している次第であります。
今年に入って、わが国の安全保障環境は
基盤をどのように確立するかなど暗中模索
しているところです。
大きく変わりつつ、さらにスピードを増し
て変化しております。弊社は、スピード感を
ところで、弊社が得意とする固体ロケッ
ト技術は、安全保障上重要な技術であり、世
界的に戦略技術として取り扱われています。
すなわち、技術や製品の不拡散のために厳
もってグローバル化に対応し、これからも
わが国の安全保障に貢献できるよう努力し
て参ります。
しい輸出管理が行われています。従って、固
体ロケット技術が欲しい国は世界に沢山あ
りますが、輸出相手国としては、政府の方針
株式会社 IHI エアロスペース
代表取締役社長
3