広島カンツリー倶楽部西条コース クラブハウス空調設備リニューアル事例

── 実 施 例 ──
広島カンツリー倶楽部西条コース
クラブハウス空調設備リニューアル事例
まる
こ
しょう
じ
㈱中電工 広島中部支社 丸 子 祥 司
■キーワード/リニューアル・ヒートポンプ
1.はじめに
2-2 空調設備概要
広島カンツリー倶楽部は1955年に開設された広島県屈
《既存機器》
(撤去)
指の名門ゴルフ場である。西条コースは「ゴルファーを
吸収式冷温水発生機(A重油焚) 1基
苦しめるコースではなく,
楽しませるコースを」という,
冷却能力:150USRT
優しさや温かさをコースに求めた思想により設計されて
加熱能力:180USRT
いる。松林と自然の地形を残した風格ある名門コースと
冷却塔(吸収式用) 1基
して,プロのトーナメントやアマチュアの競技大会が数
冷却能力:250RT
多く開催されている。
空気調和機(外調機) 1基
このたび,クラブハウスの空調熱源である既設の吸収
冷房能力:77kW
式冷温水発生機を空気熱源ヒートポンプ空調機に更新し
暖房能力:99kW
て,大幅な省エネルギー化と保守性向上をはかった。
ファンコイルユニット 計43台
パッケージエアコン(14kW相当) 計8系統
2.工事概要
《新設機器》
2-1 建物概要
空気熱源ヒートポンプビル用マルチエアコン
建物名称 広島CC西条コースクラブハウス
計4系統
建物用途 事務所・レストラン・温浴施設
空気熱源ヒートポンプパッケージエアコン
所 在 地 広島県西条町下三永730-10
計22系統
構 造 鉄筋コンクリート造
合計冷房能力:505kW
延床面積 3,487㎡
合計暖房能力:546kW
工 期 平成26年7月〜平成27年1月
設 計 大原建築コンサルタント事務所
《既設再用》
空気熱源ヒートポンプパッケージエアコン 計2系統
設備施工 ㈱中電工 広島中部支社
写真-1 クラブハウス外観
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ヒートポンプとその応用 2015.
11.
No.89
── 実 施 例 ──
《既存設備》
外調機
FCUへ
室内機へ
FCUへ
室内機へ
外調機
冷却塔
吸収式冷温水発生機
(A重油焚)
パッケージエアコン室外機
《更新設備》
冷媒配管既設再利用
室内機へ
室内機へ
パッケージエアコン室外機
室内機へ
室内機へ
(更新)
マルチエアコン室外機
(既設再利用)
パッケージエアコン室外機
図-1 空調設備システムフロー図(上:既存設備/下:更新設備)
図3−7−1
3-3 既存空調設備劣化診断
3.リニューアル内容
既存設備の更新にあたって劣化診断を実施した。劣化
3-1 既存空調設備概要
診断の結果,既存吸収式冷温水発生機は経年劣化により,
図-1
(上)に既存空調設備のシステムフロー図を示
冷温水配管を含めて全面更新が必要と判断された。
す。
既存パッケージエアコンについては,系統により更新
熱源はA重油焚き吸収式冷温水発生機で,外調機と
が必要なものと再利用可能なものとに分けられた。
FCUの組み合わせであった。また,一部小部屋には空
気熱源パッケージエアコンを増設していた。
3-2 既存機器故障対応
平成26年7月に既存熱源機である吸収式冷温水発生機
が故障し,その修理復旧には10日間を要すると想定され
た。
(写真-2)
7月は祝日の連休もあり,お客さまへの空調停止の影
響を極力少なくするため,リース機器による仮設の空調
を実施することとした。
施工は連休前の2日間で機器設置・試運転まで完了し,
空調停止の影響を最小限にとどめることができた。仮設
の空調設備は窓等の既存開口部を仮設間仕切りでふさ
ぎ,配管を貫通させた簡易なものとした。
(写真-3・4)
ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89
写真-2 既存吸収式冷温水発生機
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── 実 施 例 ──
写真-3 仮設空調機設置状況
写真-5 新設天井カセット型空調機
写真-4 仮設室外機設置状況
写真-6 新設室外機
3-4 更新空調設備概要
図-1
(下)に更新空調設備のシステムフロー図を示
す。
既存単純更新と空気熱源ビル用マルチエアコン方式の
比較提案を行い,イニシャルコスト・ランニングコスト
および保守の優位性からビル用マルチエアコン方式での
設計依頼を受託した。
吸収式冷温水発生機と冷温水配管・外調機・FCUは
全て撤去し,空気熱源ビル用マルチエアコン・パッケー
ジエアコン方式へ全面的に更新した。
(写真-5)
既存吸収式冷温水発生機の撤去スペースには空調設備
のトランスを設置,既存冷却塔の撤去スペースには鉄骨
写真-7 新設室外機
架台を新設して,空気熱源ビル用マルチエアコンの室外
機置き場とすることで,
スペースを有効に活用している。
小部屋の空気熱源パッケージエアコン室外機は壁面や
バルコニー・テラスを利用して設置し,冷媒配管の短縮
もはかっている。
(写真-6・7)
また,劣化度の小さい既存パッケージエアコンについ
ては再利用し,劣化度の大きいパッケージエアコンにつ
いては機器のみ更新し,冷媒配管は再利用した。
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ヒートポンプとその応用 2015.
11.
No.89
── 実 施 例 ──
3-5 短期休業施工
な夜間電力の利用により,さらに省エネルギー・省ラン
更新工事の時期は,協議の結果年間で最もお客さまの
ニングコスト・省CO2化がはかれると考えられる。
少ない1月を選んで,1月19日〜28日の10日間を臨時休
今後も同様の提案・設備提供ができるよう,最新技術
業日として集中実施した。
の習得と情報収集に努め,お客さまの要望に幅広く応え
降雪による作業中止の余裕を見込んでの工程であった
ていきたいと思います。
が,幸い臨時休業期間中に積雪はなく,問題なく施工す
おわりに,本稿執筆にあたりデータを提供いただいた
ることができた。
広島カンツリー倶楽部様ほか関係者の皆さまに深く感謝
作業班を撤去・屋外・屋内作業の大きく3班に分けて,
いたします。
同時並行作業を行うことで全体工程の短縮をはかった。
また並行作業のなかでも短縮することができない耐圧
試験等の試験時間は十分確保して品質管理を行った。
4.経済性評価
4-1 省エネルギー効果
表-1に省エネルギー効果実績を示す。
A重油の消費量は更新前に比べて約50%減少したが,
吸収式冷温水発生機だけでなく,給湯ボイラでも使用し
ているため,更新後も消費がある。
また空調設備の電気容量が100kW以上増加したため,
デマンドを監視している。
ランニングコストはヒートポンプ機器の活用により約
12%減少し,CO2排出量も約11%減少となった。
表-1 省エネルギー効果実績
表−1 省エネルギー効果実績
項 目
単位
既存
更新
空調設備電気容量
kW
194
302
消 費 電 力 量
−
100
116
※
A 重 油 消 費 量
−
100
50
※
備考
一次エネルギー
−
100
88
※
ランニングコスト
−
100
88
※
CO
−
100
89
※
2
排 出 量
(既存:平成25年7月∼平成26年6月
/更新:平成26年7月∼平成27年6月)
※ それぞれ既存を100とする
換算係数:電力 0.709kg CO2/kWh,9.76MJ/kWh
A重油 2.710kg CO2/ℓ,39.1MJ/ℓ
表3−7−1
5.おわりに
本件では,既存空調熱源機器の故障から仮設空調設備
の設置,仮設の運用期間を利用して設備劣化診断と更新
設計を行った。
仮設設備の運用により,更新設計時間が確保でき,劣
化診断と合わせて精度の高い『省エネルギー提案』が可
能となり『省エネルギーリニューアル工事』に至った事
例である。
コスト変動の大きい化石燃料からヒートポンプに転換
することで,省エネルギー化がはかれ,ランニングコス
トの削減につながっている。
将来,給湯ボイラをエコキュートに転換すれば,安価
ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89
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