オープンカフェの利用者特性と温熱環境に関する研究

オープンカフェの利用者特性と温熱環境に関する研究
環境設備工学講座
1.はじめに
原田研究室
植木丈弘
4.テラス・店内選択
現在の日本では、カフェブームにともないテラス席をもつオープン
テラス、店内選択とどのような要因が関係しているかを把握するた
カフェが多く見られるようになった。テラス席は利用者の満足を得る
め各項目ごとに店内、テラス利用状況を集計した。店舗 A 入店者数を
他に店のファサードとしての役目を果たし、景観的にも非常に魅力的
図2 に、
店舗A のテラス・店内選択と各項目の集計結果を図3 に示す。
である。国や地方自治体も、景観法の制定など景観重視の動きのなか
(1)利用者属性[図 3(b)
]
で、このテラス席による景観がつくりだす、まちのにぎわい演出効果
テラス席は『20 代』
、
『30 代』でやや割合が高かった。
『40 代』∼
に注目しており、日本各地ではオープンカフェの社会実験として、公
『60 代以上』は店内利用の割合の方が高かったが、季節を問わずテラ
共空間にテラス席を設ける試みが行われている。しかし、年間を通じ
スで約 20%を占め、年代の高い利用者もいることが確認できた。
た利用を考えた場合、時としてテラス席利用が少なくなるのは、にぎ
(2)利用者意識[図 3(c)
、
(d)
、
(e)
、
(f)
]
わい演出として逆効果である。そこで、まずテラス利用者の特性につ
「もし、テラス席しか空いていなかったらどうするか」という質問
いて把握する必要があるが、利用者がどのような意識を持ち、行動を
に対して、テラス席利用者では半数以上が『むしろテラス席に座りた
とるかは、
まだ十分に分かっていない。
テラス席は半屋外空間であり、
かった』
であり、
テラス席を利用したくて利用していることが分かる。
屋外環境の影響を受けやすく、温熱的には厳しい条件下にある。そこ
店内利用者でも『あきらめて帰った』
『店内席が空くまで待った』の割
で、最も影響が大きいと思われる温熱環境の面からテラス席における
合は 2 割ほどで、テラス席を利用したくないという割合は高くないこ
利用者特性についてのデータを得ることを目的とする。
とが分かった。また、テラス席では店内席と比べ席の満足度がやや高
2.調査概要
かった。寒暑感ではテラス席利用者の方が外の寒暑感として『暖かか
名古屋市内のテラス席にテーブルを 4 つ以上もつ店舗を 3 店選んだ。
った』
『暖かくも涼しくもなかった』
『涼しかった』の快適範囲の意識
店舗の詳細を表 1 に示す。店舗選定に際しては利用者属性の幅を広げ
を多くもっていた。また、テラス席利用者は席が『暑い』と感じなが
るため、立地条件として比較的中心市街地に近い店舗(店舗 A)と近
らも座っている利用者は意外と多く、8、9 月では 40%近くあった。
郊の、駅に近い店舗(店舗 B)
、近郊住宅地内に立地する店舗(店舗 C)
表 1 調査店舗の属性
をそれぞれ選んだ。 調査日程は季節による変化をみるため 7 月∼12
運営形態
店舗の高さレベ
ル
最寄駅との距離
営業時間
座席数
立地場所
月の土日祝日(のべ 33 日)の 11:30∼17:00 の時間帯で行った。
調査項目は利用者属性、利用者意識、利用者行動、その時の状態、
に分類して項目をそれぞれ選定した。概要を表 2 に示す。調査方法は
店舗A
チェーン
ビルの屋上(7F)
店舗B
個人
道路レベルと同じ
店舗C
チェーン
敷地が道路レベルよ
り3mほど高い
駅から徒歩1分
駅から徒歩2分
駅から車で5分
10:00∼19:00
9:00∼19:00
10:00∼18:00
店内18席、テラス50席店内17席、テラス16席 店内22席、テラス34席
中心市街地の近く
近郊
近郊
(人/h)
アンケート調査、観察調査、実測調査の 3 つを行った。アンケート調
属性
年代
性別
同行人数
時間帯
職業
住所
利用頻度
査は利用者属性、利用者の意識、オーダーのデータを得るために行っ
た。アンケート項目の概要を表 3 に示す。アンケートは店の方にオー
ダーを取った後に渡してもらった。明らかに中学生以下と思われる回
答は集計から除いた。観察調査は、観察者が店の 1 席を借り、実際に
・席の満足度
・席の明るさ感
・テラスへの関心
を観察者が調査した。また、利用者の年代、性別について、アンケー
トを取れなかった利用者は観察者により判断した。実測調査では、店
・他の座りたかった席
・オーダー
内、テラス、屋外それぞれに温湿度計を設置し、意識、行動と温湿度
・年代・性別・同行人数
・時間帯
・職業・住所
・利用頻度
との関係性をみるため店内、テラス、屋外のそれぞれの温度、湿度を
を調べたところ、8、11、12 月では 3 店で高い相関を示したが、9、
10 月は相関係数は低くテラス気温が頭打ちになっていた。店舗 B で
はテラス気温が 9 月には 31℃以上にならず、10 月では 20.4℃付近で
頭打ちになる。夏から冬にいくほど偏回帰係数が高く、冬ほど外気温
変化によるテラス気温変化の度合いが高いといえる。この傾向は他の
2 店も同様であった。
5
0
9月
10月
11月
12月
総計
図 2 入店者数(店舗 A)
質問内容
「非常に暑い」∼「非常に寒い」の7段階評価
「風が強い」「日射が強い」「じめじめしている」「むしむしする」「ほこりっぽ
い」「あてはまるものはない」で当てはまるもの全てに○
「満足」∼「不満」の4段階評価
「明るすぎる」∼「暗すぎる」の5段階評価
テラス席しか空いていなかったら「むしろテラス席に座りたかった」「テラス
席に座った」「店内席が空くまで待った」「あきらめて店をでた」の1つに○
「ドリンク」「デザート」「軽食」「食事」「アルコール」「その他」で当てはまるも
の全てに○
「仕事中」「仕事の休憩中」「私的な時間」「その他」から選択
「初めて」「数回目」「時々利用する」「よく利用する」から選択
27
テラス気温
いて店舗 B の集計を図 1 に示す。各月で屋外気温とテラス気温の関係
10
[℃] 32
3.テラス席環境
環境について把握する必要がある。テラス気温と屋外気温の関係につ
15
8月
アンケート項目
・外の寒暑感
・外の天候評価
座った席、入店時間、出店時間、滞在時間、入店時に埋まっていた席
テラス席利用者の特性を調べる前に利用者の置かれているテラスの
20
状態
入店時に埋まっていた席
店内温湿度
テラス温湿度
屋外温湿度
表 3 アンケート項目概要
利用者がどのような行動をとるかを調査する目的で行った。利用者の
測定した。
意識
行動
外の寒暑感
入店時間
外の天候評価 出店時間
席の満足度
滞在時間
席の寒暑感
オーダー
席の明るさ感 選択席
テラスへの関心
店舗A 入店者数
25
表 2 調査項目概要
22
17
店舗B
8月
相関係数
0,8108 0,2006 0,2744 0,8496 0,9053 0,9676
偏回帰係数 0.640
9月
10月
0,153
0,230
11月
0,700
12月
1,370
総計
0,811
12
10
20
外気温
8月 テラス気温
10月
12月
線形 (12月)
30
40
[℃]
9月
11月
線形 (8月 テラス気温)
図 1 利用者の入店時の外気温とテラス気温(店舗 B)
(3)利用者行動[図 3(g)
、
(h)
]
囲においても、
『満足』の割合は高く 50%以上であった。
[図 5(d)
]
8 月から 10 月にかけてはテラス席は、アルコールを注文する利用者
テラス利用率が高くなるのは外気温が 20∼22℃の付近であった。
店
に好まれ、11 月では店内より食事をする割合が増えていた。また、テ
舗 B では 34℃を下回るとテラスが利用され始め、16℃を下回ると利
ラス席では店内席よりも 60 分以上の滞在の割合が高くなり、30 分以
用がなくなっていた。
[図 5(e)
]
滞在時間はテラス気温の上昇とともに 30 分以下の割合が減少して
下の滞在が大きく減少していた。
(a)
(b)100%
テラス利用率
100%
年代
いき、20∼28℃の間では、60 分以上の滞在の割合が高くなっていく
80%
80%
傾向があった。
[図 5(f)
]
60%
60%
7.まとめ
40%
40%
20%
テラスは若い年代が好み、店内席に比べ滞在時間がのびる傾向にあ
20%
0%
E
0%
8月
9月
10月
11月
テラス
(c)
100%
12月
I
総計
E
8月
1 0代
店内
I
2 0代
10 0%
80%
8 0%
60%
6 0%
40%
I
E
I
10月
3 0代
E
11月
4 0代
I
E
12月
5 0代
I
った。そして店内より満足度が高く、夏季や冬季において席の寒暑感
総計
60代以上
が『暑い』や『寒い』場合にも、不満の割合はそれほど高くないこと
席 の満足度
(d)
「もし、テラス席しか空いていなかったらどうするか」
E
9月
などから、利用者の立場からの利用性の高さも覗えた。また、テラス
利用者は多少の暑さ、寒さに関わらず利用していたことからも、夏季
4 0%
や冬季の環境条件下においても利用の可能性が十分にあると判断でき
20%
2 0%
0%
I
E
I
E I
8月
満足
E
どちら かというと満 足
I
E I
11月
E I
12月
り店内・テラスを選択し、テラス気温が高く、席の寒暑として暑さを
総計
どちら かというと不 満
不満
感じると滞在時間が長くなるなど気温との関係性を示すこともできた。
80%
80%
テラス席 席の満足度と席の寒暑感の関係
(b)
店内席 席の満足度と席の寒暑感の関係
100%
100%
80%
80%
40%
60%
60%
20%
20%
40%
40%
20%
20%
0%
0%
総計
I
E
I
E
10月
(h)
I
E
I
E
I
11月
12月
総計
暑い
暖 かくも涼しくもな い
寒い
60%
80%
6 0%
60%
60%
4 0%
40%
40%
20%
I
E
10月
I
11月
E
I
12月
E
I
20%
0%
総計
0%
ド リン クのみ
ド リン ク+ 食事
ドリン ク+ デ ザート
ドリ ンク +食事+ デ ザート
アルコー ル
そ の他
0%
E
I
8月
10分
60分
E
I
9月
20分
70分
E
I
10月
E
I
E
11月
30分
80分
40分
90分
I
E
12月
I
総計
暖
か
くも
9月
E
暑
い
I
50分
100 分以上
10分
60分
図 3 店舗 A 店内・テラス選択 *図中のE,Iはそれぞれ
5.属性、意識、行動の相互関係
テラス席、店内席の意味
テラス席利用者の属性、意識、行動の関係性をみるためそれぞれの
組み合わせで集計した。結果を図 4 に示す。
席の満足度と席の寒暑感の関係では、店内席と比較すると、テラス
不満
30分
80分
40分
90分
10分
60分
50分
100分以上
20分
70分
30分
80分
40分
90分
50分
100分以上
図 4 店舗 A 属性、意識、行動の相互関係
(a)
店舗 A テ ラ ス 席 外 気 温と 外 の寒 暑 感 の 関係
(b)
店 舗 A 店 内 席 外 の 寒 暑感 と外 気温 の関 係
100%
1 00%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
では、ほぼどの寒暑感申告においても『不満』
『どちらかというと不満』
20%
0%
0%
10- 12- 14- 16- 18- 20- 22- 24- 26- 28- 30- 32- 34- 3612 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 [℃]
非 常 に暑 か った
暑かった
暖かかった
暖 か くも 涼 しくも な か っ た
涼 しか っ た
寒かった
非 常 に寒 か った
の割合は低く、
『満足』の割合が高くなっていた。
[図 4(a)
、
(b)
]
行動については、席のどの寒暑感においても、店内に比べテラスで (c)
は 30 分以下の割合が低くなることが分かった。また、
『暖かい』から
20分
70分
どちらかというと不満
店内席 席の寒暑感と滞在時間の関係
100%
非
常
に
8月
E
どちらかというと満足
(d)
80%
2 0%
I
満足
不満
100%
20%
E
どちらかというと不満
テラス席 席の寒暑感と滞在時間の関係
8 0%
40%
0%
どちらかというと満足
暖
80%
満足
(c)
滞在時間
10 0%
暑
い
オー ダー
100%
E
8月
9月
非 常に暑 い
暖か い
涼しい
非 常に寒 い
暑かった
暖かくも涼しくもなかった
寒かった
(g)
I
非
常
に
暑
い
E
非
常
に
12月
I
寒
い
E
非
常
に
11月
I
い
非常に暑かった
暖かかった
涼しかった
非常に寒かった
E
寒
い
10月
I
涼
し
E
くも
な
い
9月
I
涼
し
E
暑
い
8月
I
暖
か
い
E
非
常
に
暑
い
I
涼
し
い
0%
E
暑
い
0%
寒
い
非
常
に
寒
い
60%
40%
暖
暖
か
か
くも
い
涼
し
くも
な
い
60%
寒
い
非
常
に
寒
い
(a)
席 の寒暑感
い
(f)100%
外の寒暑感
寒
むしろテラス席に座りたかった
I
10月
寒
い
店内席が空くまで待った
テラス席に座った
E
9月
非
常
に
あきらめて店を出た
(e)100%
る。店内利用者に比べ快適範囲に感じる気温の幅が広く、外気温によ
0%
総計
涼
し
い
E
し
い
I
12月
涼
E
か
い
I
11月
暖
E
し
くも
な
い
I
10月
か
くも
涼
E
暑
い
I
9月
暖
暖
か
か
い
くも
涼
し
くも
な
い
E
い
I
8月
暑
E
店 舗 A テラ ス席 テ ラ ス 気 温 と席 の 寒 暑感 の 関 係
(d)
店 舗A テラ ス席 テ ラ ス気 温 と席の 満足 度
1 00%
100%
80%
『涼しい』の範囲において、60 分以上の割合がテラスの方が高かった。
10- 12- 14- 16- 18- 20- 22- 24- 26- 28- 30- 32- 34- 3612 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 [℃]
非常 に暑かった
暑かった
暖か かった
暖か くも涼し くもな かった
涼 しかった
寒かった
非常 に寒かった
80%
60%
60%
40%
テラス席内でみると、
『暑い』から『寒い』になるほど、滞在時間が
40%
20%
30 分以下となる割合が高くなっている。
[図 4(c)
、
(d)
]
12- 14- 16- 18- 20- 22- 24- 26- 28- 30- 32- 3414 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36
6.気温とテラス利用
気温との関係性を調べるために寒暑感との関係、店内・テラス選択 (e)
との関係、滞在時間との関係を集計した。結果を図 5 に示す。
外の寒暑感と外気温の関係ではテラス利用者の方が『暖かい』
『暖か
くも涼しくもない』
『涼しい』の快適範囲の割合が、高い温度帯で多く
なっている。そのテラス席利用者の席の寒暑感としては、テラス席気
温が 24℃を超えると『暑い』の割合が高くなっていき、18℃を下回る
と『寒い』の割合が高くなっていく。
[図 5(a)
、
(b)
、
(c)
]
テラス席気温と席の満足度の関係では今回測定できた温度のどの範
20%
0%
非 常 に暑い
暖 かく も 涼し くも ない
非 常 に寒い
暑い
涼 しい
[℃]
0%
13-16 16-19 19-22 22-25 25-28 28-31 31-34 34-37 [℃]
暖 かい
寒い
店舗B 外気温 と店 内・テ ラス選 択
満足
(f)
10 0%
8 0%
8 0%
6 0%
6 0%
4 0%
4 0%
2 0%
2 0%
0%
どち らかと いう と満 足
どち らかと いう と不満
不満
店舗A テ ラス席 テラス気温と 滞在時間の関係
10 0%
0%
1 2- 1 4- 1 6- 1 8- 2 0- 2 2- 2 4- 2 6- 2 8- 3 0- 3 2- 3 414
16
18 20
22
24
26
28
30 32
34
36 [℃]
テラス
店内
1 2- 1 4- 1 6- 1 8- 2 0- 2 2- 2 4- 2 6- 2 8- 3 0- 3 2- 3 414 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 [℃]
10分
20分
30分
40分
50分
60分
70分
80分
90分
100分以上
図 5 気温とテラス利用