日英語の再帰形構文

日英語の再帰構文
JAECS東支部第3回研究談話会
2005/09/24
中央大学理工学部
東京理科大学
清水 眞
1
1. はじめに
日英語の再帰構文を考察
„ 仁田(1982)、天野(1987) 、影山」(2000)
„
2
2 問題の背景
„
„
„
日本語おける動詞の自他の交替のうちのあるタ
イプの事象 「再帰性」に関連
「動作主から出た働きかけが結局は動作主自身
に戻ってくるによって、動作が完結するといった現
象」
その意味的特徴を有する構文=「再帰構文」
3
2.1 仁田(1982)
„
再帰動詞
(1) 彼は入浴後いつも冷水を浴びることにしている
。
(2) ここでは靴を履き換えて下さい。
「浴びる、被る、履く、着る、脱ぐ」など
4
典型的な他動詞 = 動作主が他の存在に対
して働きかける
„ 再帰動詞 = 動作性の働きかけが、他の存
在ではなく、常に動作主自身に及ぶことによ
って、動作が終結する
„
5
■
他動詞の再帰用法
(3) 子供は手を叩いて喜んだ。
(4) あわててご飯を食べたので、舌をかんでしまっ
た。
6
仁田の議論
再帰動詞と再帰用法の分類だけではない
■ 再帰動詞あるいは再帰用法と態および相の関
係をも考察
■ 統語論的事象を統語的な分析・記述のみで処
理するのではなく、意味論的―語彙論的事象
とも関連させながら分析・記述すべき と い う 主
張
■
7
天野(1987)
再帰動詞、再帰構文、再帰性に対して批判
的
■ 「再帰性」という概念を確立する必要はなく、
再帰動詞と他動詞の再帰用法は他の他動
詞あるいは他動詞構文と同様に扱ってよい
と主張
■
8
再帰性と相の関連
「ている」をつけた時
z 通常の他動詞は基本的に「動きの継続」
z 再帰動詞は「変化の結果の継続」
工藤(1982)
„
(5) 母がシャワーを浴びている。
9
工藤(1982)への反論
„
z
z
(5)の解釈
「変化の結果の継続」のみならず、「動きの継続」
も
「変化の結果の継続」の解釈が優先されるわけで
もない
天野(1987:4)
10
まともの受動文が対応しない
„
再帰性を持つ他動詞文 は まともの受動文と対応
しない。典型的な他動詞からはずれて、意味的な
あり方が自動詞に近づいているため。
(6) a. 太郎は紺の背広を着ていた。
b. *紺の背広は太郎に着られていた。
仁田(1982)
11
仁田(1982)への反論
(7) a. 森尾氏の意図したのよりも若い年齢層が、よく彼の
デザインした服を着ている。
b. 森尾氏のデザインした服は、彼が意図したのよりも
若い年齢層によく着られている。
„
(6b)の容認不能であるのは、再帰性のためではなく、無
生物主語の受動文に対する一般的な制約のため
天野(1987:5)
12
影山(2000)
„
„
自動詞と他動詞の交替のメカニズムを論じた論文
中心的概念 = 「項のすり替え(argument surrogation)」同
一指示であるふたつの主体のうち、一方を他者にすり替
えることにより、別の意味が生じるという考え方
e.g. 自動詞workー>他動詞work
「行為者が自分の肉体や頭脳の神経組織に働きかける」と
いう語彙概念構造のうち、「自分」が「他者」にすり替わっ
て「使役」の意味が生じる
z
13
日本語の再帰動詞の分析
„
x=「彼女」 w=「ドレス」
(8) a. 彼女は急いでドレスを着た。
b. [x ACT ON w] CAUSE [w BECOME [w BE AT-ON-x’s BODY]]
影山(2000:59)
14
日本語の使役動詞の分析
■
y=「子供」 w=「スーツ」
(9) a. 彼女は急いで子供にスーツを着せた。
b. [x ACT ON w] CAUSE [w BECOME [w BE AT-ON-y’s
BODY]]
„
(8b)x’s BODY->(9b)y’s BODY
15
語彙的再帰用法 vs語用論的再帰用法
■
語彙的再帰用法「浴びる」「着る」
„
語用論的再帰用法
(10) 彼は毎朝ひげを剃る。
仁田(1982:88)
16
英語の再帰用法
(11) a. shave oneself
b. devote oneself to
c. prepare oneself for
(12) a. The barber shaved me.
b. She devoted a lot of time to it.
c. She prepared her son for the examination.
影山(2000:60)
17
3 データの検索
„
2節で概観した日本語と英語の再帰構文の例を、
バイリンガル・パラレル・コーパスを用いて検索
18
3.1 データとプログラム
関西外大コーパスB
日本語の文学作品とその英訳のテキスト
西村(2002)
■
Parallel Scan
日英パラレル・コーパス検索専用パラレルコンコー
ダンサ
赤瀬川 (2002)
„
19
3.2 検索した再帰動詞および再帰用法
„
仁田(1982)、天野(1987)、村木(1986)
20
再帰動詞
„
(冷水を)浴びる、(ベレー帽を)被る、(靴を)履く、
(背広を)着る、(服を)脱ぐ 、 (首を)出す 、 (肩を)
すくめる、(首を)かしげる
21
再帰用法
„
(手を)叩く、(手を)振る、(舌を)噛む、(体を)曲
げる、(眉を)吊り上げる、(髭を)剃る、(心・気持
ちを)静める、(指を)立てる、(足を)折る、(腕を)
挙げる、(胸を)ハラハラさせる、(手を)詰める、(
腰を)掛ける 、 (手袋を)はめる、(イヤリングを)付
ける、(爪を赤く)塗る、(髪を)とかす
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検索結果
「浴びる」89例、「被る」62例、「履く」171例、「着る」215例、「
脱ぐ」141例、「叩く」73例、「振る」440例、「噛む」82例、「曲
げる」42例、「吊り上げる」2例、「剃る」40例、「静める」7例、
「立てる」710例、「折る」72例、「挙げる」371例、「はらはらさ
せる」1例、「詰める」25例、「掛ける」175例、「出す」1619例
、「はめる」24例、「付ける」739例、「塗る」76例、「とかす」7
例、「すくめる」17例、「かしげる」21例
23
4 分析と考察
„
再帰用法はもちろん、再帰動詞も、語彙のレベル
で再帰的であるのではない
24
「浴びる」と共起する「を」格の名詞句
„
「 罵声」、「皮肉」、「視線」、「反論」、「批判」、「
激しい非難」等は、仁田の再帰動詞の定義で
ある、「動作性の働きかけが、他の存在ではな
く、常に動作主自身に及ぶことによって、動作
が終結する」にあてはまらない
(13)一年の時、僕はカワサキから罵声を浴び放
しだった。(Sixty Nine)
25
「風呂」、「シャワー」、「水」
„
「風呂」、「シャワー」、「水」、「湯」、「果汁」、「ラムネの
泡」等である。「風呂」、「シャワー」 の 英語の対訳 =
take a bath、bathe、take a shower、shower等 対応
する表現がほとんど自動的に決定
他もほとんど
bathe、shower
(14) a. 三杯の水を浴びると、
b. --- he poured three buckets of water over himself,
--(塩狩峠)
26
「被る」
(15) a. この境内のわきの往来の人は、みんな灰
か埃のようなものを頭から被っていた。
b. The people in the street by the shrine
grounds were all covered over their heads and
shoulders with something resembling dust or
ash.(黒い雨)
27
「履く」
„
„
„
「靴、パンプス、ブルージーンズ、雪靴、バスケ
ットボール・シューズ、スキー、靴下、足袋、ゲ
ートル、ズボン、スカート、はかま、モンペ、ス
テテコ、股引き」
履き物、服のボトムス、下着に分類
wear、put on、in、on
28
「着る」
„
„
„
„
「ジャンパー、制服、軍服、ネグリジェ、コート、
襦袢、雨合羽、ワンピース、白衣、セーター、ウ
インド・ブレーカー、ユニフォーム、着物、スー
ツ、シャツ」
服、下着全般
wear、put on、in、onに訳される
「恩」grateful
29
「はめる、付ける」
„
„
「はめる」の目的語 = 「手袋、指輪、腕輪、ボタ
ン」「ボタン」以外はwear、put on「ボタン」fasten
、button
「付ける」の目的語 = 「服、衣裳、法衣、袴、下
着、シュミーズ、イヤリング、指貫、バァイタリス
」化粧品以外はwear、put on化粧品にはapply
30
衣服、装身具関係
„
総じて、wear、put onが用いられる
31
他動詞ー>自動詞
„
(16) John shaved (himself).
丸田(1998:146)
32
Levin (1993:35-6)
„
shave oneself=caring for the whole body
33
身体を用いるジェスチャー
„
„
„
(17) a. われわれはまた手をたたいて、笑い
ました。
b. We clapped and laughed, ---(ビルマの
竪琴)
(18) 和音はきよしの手をたたいて、笑いまし
た。
34
„
„
(19) a. 「ほう、20年!二昔も前のことになりま
したかねえ。それじゃわたしの頭がはげるのも
無理はありませんわ」六さんは額をたたいた。
b. ‘My goodness … twenty years. It seems
like two ages ago. No wonder I’ve gone bald.’
Roku slapped his forehead.(塩狩峠)
35
「噛む」
„
「指を噛む」>「唇を噛む」>「舌を噛む」、「口の
中噛む」>、「奥歯を噛みしめる」
36
語用論 vsコロケーション
語用論的なものとして同じように取り扱う
„ コロケーションの情報
Sinclair (2004)
Hunston and Francis (1999)
„
37
意味の特化
clap his hands->clap hands->clap
„ drink wine->drink,
smoke a cigarette->smoke
„
38
日本語の再帰構文の分類
衣服、装飾品の着脱
■ 身だしなみ
■ 身体を用いるジェスチャー
■ 精神状態
■
39
パターン
„
„
日本語の表現=「修飾句なしの名詞句+他動詞」
英語の表現= vt+himself/his own/his NP/bare NP
40
日本語の再帰構文の意味の焦点
「自分」ではなく、身体の部位、精神状態?
■ 英語の再帰構文に近いもの=「自殺する、自己批
判する」等?
■
41
日本語の再帰構文
„
„
„
定義が観念的
統語的な必然性?
翻訳等の観点からは有意義?
42