1 4 2012 (平成24)年4月1日施行の児童福祉法により,障害児施設・事業の一元化 が図られました。基本的な考え方は,障害児が「身近な地域で支援が受けられる こと」,「どの障害にも対応できるようにすること」です。これにより,従来は, 障害種別ごとに分かれていた施設体系を通所・入所の利用形態によって,「障害 児通所支援」と「障害児入所支援」として分類しました。 1.障害児通所支援 障害児通所支援とは,「児童発達支援」,「放課後等デイサービス」,「保育所等 訪問支援」を指します。 児童発達支援は,障害のある児童を児童発達支援センターへ通所させることで 支援を実施します。福祉サービスを行う「福祉型」と,福祉サービスに併せて治 療を行う「医療型」があります。それぞれの対象者とサービス内容は以下のとお りです(表1)。 表1 児童発達支援センターの概要 対象者 福祉型児童発達支援センター 医療型児童発達支援センター 身体に障害のある児童,知的障害のある児童または精神に 上肢,下肢または体幹機能に障害のある児童 障害のある児童(発達障害児を含む) ※手帳の有無は問わず,児童相談所,市町村保健セン ター,医師等により療育の必要性が認められた児童も含む サービス 日常生活における基本的な動作の指導,知識技能の付 上肢,下肢または体幹の機能の障害のある児 与,集団生活への適応訓練など 童に対する児童発達支援及び治療 児童発達支援センターでは,通所利用の障害児への支援だけでなく,地域の障 害児・その家族を対象とした支援や,保育所等の施設に通う障害児に対し施設を 訪問して支援するなど,地域支援に対応しています。地域の関係機関と連携しな がら適切な支援を提供するため,児童発達支援管理責任者を配置しています。また, 障害の特性に応じたサービス提供も認められており,受け入れる児童の障害特性に 応じて,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士などの専門職の配置をしています。 放課後等デイサービスは,放課後や夏休みなどの長期休暇中において,生活能 力向上のための訓練等を継続的に提供することにより,学校教育と相まって障害 児の自立を促進するとともに,放課後等の居場所づくりを推進します。対象とな る児童は,幼稚園,大学を除いた学校教育法に規定する学校に就学している障害 児です。ただし,引き続き,放課後等デイサービスを受けなければその福祉を損 なうおそれがあると認めるときは満20歳に達するまで利用することができます。 サービス内容は,日常生活上の訓練,創作的活動,作業活動,地域交流の機会 18 1章 障害児保育の概念 の提供,余暇活動の提供など本人の希望に合わせて提供されます。保護者の就労 状態によっては,家庭での生活の中で,十分に障害児の発達保障ができないこと もあります。放課後等デイサービスは,そのようなニーズを満たすものといえます。 保育所等訪問支援は,保育所等を利用中の障害児,または今後利用する予定の 障害児が,集団生活の適応のための専門的な支援を必要とする場合に提供されま す。訪問先は,保育所に限らず,幼稚園,認定こども園,小学校,特別支援学校, その他児童が集団生活を営む施設として,地方自治体が認めたものとされていま す。訪問担当者は,主に障害児施設で障害児に対する指導経験のある児童指導 員・保育士で,障害児本人および訪問先のスタッフに対して集団生活への適応の ための専門的な支援を行います。支援は2週間に1回程度が目安とされています が,障害児の状況,時期によって頻度は変えることができます。 2.障害児入所支援 障害児入所支援とは,「福祉型障害児入所施設」,「医療型障害児入所施設」を 指します。重度・重複障害や被虐待児への支援の充実を目指しています。また, 18歳以上の者は,障害福祉サービスで対応することをふまえて,施設での生活か ら地域生活へ移行する自立のための支援も行っています。 障害児通所支援と同様に,児童発達支援管理責任者を配置しています。そして, 利用している障害児に対して,計画的に地域の関係機関と連携しながら適切な支 援を提供しています。基本的に,身体障害,知的障害,精神障害の3障害対応を することが望ましいとされていますが,他の障害のある児童を受け入れることも 可能です。その場合には,障害の特性に応じた専門職員の配置が可能です。 表2 障害児入所施設の概要 福祉型障害児入所施設 身体に障害のある児童,知的障害のある児童又 医療型障害児入所施設 上肢,下肢または体幹機能に障害のある児童 は精神に障害のある児童(発達障害児を含む) ※手帳の有無は問わず,児童相談所,市町村保 対象者 健センター,医師等により療育の必要性が認め られた児童も含む (引き続き,入所支援を受けなければその福祉 を損なうおそれがあると認めるときは,満20歳 に達するまで利用することができる。) サービス ・食事,排せつ,入浴等の介護 ・疾病の治療 ・日常生活上の相談支援,助言 ・看護 ・身体能力,日常生活能力の維持・向上のため ・医学的管理の下における食事,排せつ,入浴等の介 の訓練 護 ・レクリエーション活動等の社会参加活動支援 ・日常生活上の相談支援,助言 ・コミュニケーション支援 ・身体能力,日常生活能力の維持・向上のための訓練 ・身体能力,日常生活能力の維持・向上のため ・レクリエーション活動等の社会参加活動支援 の訓練 ・コミュニケーション支援 19 福祉型障害児入所施設と医療型障害児入所施設の対象者とサービス内容は表2 のとおりです。 3.並行通園 並行通園は,障害のある幼児が保育所・幼稚園に入所しながら,別の専門機関 で療育を受ける形態です。近年では,障害のある子どもが地域の保育所・幼稚園 で健常の子どもとともに保育を受ける統合保育が一般的に行われています。これ は,障害のある子どもを持つ保護者が「自分の子どもを地域の中で育てたい」, 「自分の子どもが小学校以降もつながっていられる友だちを作りたい」といった 考えに合致しています。また,保護者自身が持っている「地域で同年齢の子ども を持つ保護者に自分の子どもを理解してもらいたい」という思いにも応えること ができます。しかし一方で,障害のある子どもを持つ保護者には,障害に応じた 個別の専門的な療育を受けたいという考えもあります。つまり,この両方のニー ズに応えるための方法が並行通園であるといえます。 ただ,療育を受ける専門機関が遠い場合,移動に時間がかかること,保育所・ 幼稚園の保育料と専門機関の利用料を二重に負担しなければならないこと,など の課題があります。また,子どもが週に何日かは専門機関で生活するという選択 をした場合,保育所・幼稚園で受ける保育が断片的になりがちで,他の子どもに 比べて活動に対する充実度が低くなる可能性があります。そのため,並行通園の 利用には,保育所・幼稚園と専門機関との職員間で情報交換をする機会を設けた り,保護者を通じて子どもの状態を把握したりするなど,双方の利点を生かし欠 点を補えるような体制が必要になります。 4.外国の障害児保育(アメリカ合衆国,イギリス) a アメリカ合衆国 アメリカでは,1975年に成立した「全障害児教育法」(Education for All Handicapped Children Act:P.L.94-142)を基本枠組みに,現在まで修正が加えら m現在では1990年の修正で 名称が「障害者教育法」 (Individualswith Disabilities Education Act: P.L.101-476)に変更され ています。 れていますn。 障害児教育の特徴としては,①すべての障害児に無償で適切な公教育を与える, ②個別教育計画(IEP:Individualized Education Program)を作成する,③最も制 約の少ない環境で教育を行う,④障害児をもつ親の権利を保障する,という4つ があげられます。地域によって多様ですが,アメリカの就学前施設には一般的に, 保育所(nursery school)と幼稚園(kindergarten)があり,3〜5歳までの幼児は 保育所に行き,その後,6歳の幼児(小学校に就学する前の1年間)が幼稚園で 過ごすことが多いです。また,日本と違い,障害児には何らかの分野で秀でた才 能をもつ子ども(gifted children)も含まれます。 アメリカでは3歳〜21歳のすべての障害児に,無償で適切な公教育が与えられ ます。これは,学校での指導と学校外の関係者によって与えられるサービスにな 20 1章 障害児保育の概念 ります。いうなれば,法律によって無償での並行通園が保障されているといえま す。教育は個別教育計画(IEP)に準じて行われます。子どもに障害があると疑 われた場合,親の承認を経て公的な機関で評価を受け,関係者によるIEP会議が 開かれます。そこで,子どもが受けるサービスについて協議されて,個別教育計 画が作成され,教育が行われます。個別教育計画では,障害児ができるだけ健常 児と一緒に教育を受ける機会をもつように,つまり「もっとも制約の少ない環境」 (Least Restrictive Environment:LRE)で教育を受けられるように配慮されます。 また,障害のある子どもをもつ親は,「適正手続きの保障」として,学校の記録 を閲覧できる権利,評価の方法や結果について詳細な情報を得られる権利などが 保障されており,親を主体に教育が考えられています。 s イギリス イギリスでは,「障害児」という名称ではなく,「特別な教育的ニーズがある子 ども」と呼ばれます。これは,障害だけを意味するのではなく,貧困,民族・言 語・宗教の違い,家庭環境などによって学習上の困難がある子どもや学校への適 応に課題のある子どもも含まれている点が大きな特徴です。この概念は,「ウォ ーノック報告」 (1978年)によって提唱され,1981年の教育法(Educational Act 1981) において制度的に位置づけられました。その後,この法律に修正が加えられてい きm,特別な教育的ニーズがある子どもの教育機会の保障,親の権利の強化など が進められました。イギリスでは,地方分権が進んでおり,一概にはいいにくい 複雑な教育制度になっています。ただ,就学前においては,一般的に2〜5歳向 けの保育園(nursery school),5〜7歳向けの幼稚園(infant school)において, n現在では,2001年の改訂 で「特別な教育的ニーズ・ 障害法」(Special Educational Needs and Disability Act 2001)になって います。 無償で就学前教育が行われています。 特別な教育的ニーズがあると認められた子どもには,判定書と呼ばれる文書が 作成されます。判定書は,「第1部 子どものプロフィール,第2部 特別な教 育的ニーズ,第3部 特別な教育的対応,第4部 教育の場 第5部 教育以外 のニーズ,第6部 教育以外の対応」という6部からなり,子どもの教育的ニー ズに応じた支援が提供されます。ちなみに,小学校以上では,特別な教育的ニー ズの学校方針を実施し,全体的な調整を行う特別な教育的ニーズコーディネータ ー(Special Educational Needs Coordinator:SENCO)が配置されています。 SENCOは,特別な教育的ニーズのある子どもの業務に広範に携わっており,極 めて重要な役割を担っています。 この「特別な教育的ニーズ」は,子ども自身の要因だけでなく,子どもがどの ような環境におかれているのかを,十分にふまえたうえで必要な支援を行うとい う考え方であり,わが国で進められている特別支援教育においても,重要な視点 になります。 (松井剛太) 21
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