―― 実 施 例 ―― 梅新第一生命ビルディングの環境配慮設備 ㈱竹中工務店 大阪本店 設計部 篠 島 隆 司 ・ 古和田 卓 ■キーワード/ ■キーワード/事務所・環境計画・省エネルギー 施 工 竹中・奥村・錢高・西松・ 1.はじめに 日本建設共同企業体 「梅新第一生命ビルディング」 (以下「本建物」とする) 敷 地 面 積 02,032fl は,大阪梅田の中心地に位置する,御堂筋の北の基点で 延 床 面 積 23,185fl あり,国道1号線と国道2号線の交点でもある梅田新道 階 数 地下1階,地上17階,塔屋2階 交差点に面した,最高の立地条件に計画された環境配慮 構 造 鉄骨造,鉄骨鉄筋コンクリート造 型のオフィスビルである。本建物は,北側に位置する露 用 途 事務所, (従用途)飲食店舗 天神社への南門線を廃道し,二つの敷地を一敷地とする 工 期 平成18年1月25日∼平成19年10月31日 「敷地整序型土地区画整理事業」の手法を用いて計画さ れた。廃道はするものの,歴史ある露天神社の参道機能 3.環境に配慮した設備計画 は,新しい建築の中央部に,幅13m・高さ10mのピロ 本建物は,環境配慮設計を行っており,屋上緑化,雨 ティ空間を設けて公開空地として確保することで,歩車 水や空調ドレン水の緑化散水利用,BEMSの導入などを 分離がなされ,より安全で快適な参道空間を形成した。 行っている。特に,エントランスをエコ空間とし,照明 本建物では,建築主の環境配慮に対する取り組みもあ 電源は太陽光発電(5kW)から供給し,外気導入はクー り,基本設計時点からさまざまな環境配慮設計を計画し, ルチューブを用い,空調には氷蓄熱ビル用マルチを採用 特に空調面では,太陽位置を意識した南側コア配置や, した。また,ダブルスキンカーテンウォールについては, 東西面へのダブルスキンカーテンウォールの採用による ダブルスキンによる日射熱負荷低減とともに,遮熱・遮 日射熱負荷低減をはかった計画とした。 光を目的としたPCa壁を利用した制震装置を設置するこ とによって地震力の低減を行うという,二つの環境負荷 2.建物概要 所 在 地 大阪市北区曽根崎2丁目 建 築 主 第一生命保険相互会社 設計・監理 ñ竹中工務店 大阪本店設計部 写真−2 参道機能を確保した公開空地 写真−1 建物外観 ヒートポンプとその応用 2008.9.No.76 写真−3 屋上緑化と室外機 ― 12 ― ―― 実 施 例 ―― を低減する外装融合技術「e−WALL」を採用している。 ど,テナントの要望に対しフレキシビリティに対応でき るよう計画した。 (図−1) また,これら環境配慮設計に加え,快適性とフレキシ ビリティに優れた魅力ある貸室空間の創出に取り組んで 4.空調設備計画 いる。オフィスは,使い勝手の良い無柱空間とし,冷房 4−1 空調設備概要 負荷が少ない北面に外光を十分に取り入れる全面ガラス 空調計画においては,冷暖フリーの個別空調方式を基 を有している。特に天井は,すべてが点検口になる600 準とし,共用部は冷暖切替の個別空調方式,エントラン □グリッドシステム天井とし,600□照明器具に空調吹 スは氷蓄熱ビル用マルチを採用した。 基準階(3∼17階)貸室: 出口,吸込口,スプリンクラーヘッド,感知器などを組 み込んだうえ,空調ダクトにフレキシブルダクトを,ス 空気熱源ヒートポンプパッケージ冷暖フリービル用 プリンクラーにフレキシブル配管を用いることで間仕切 マルチタイプ 23組 ができた場合の移設工事が容易な計画とした(写真−4)。 基準階(3∼17階)共用: 計1,575kW さらに,電気配線計画としては,自由度の高いOAフロ 空気熱源ヒートポンプパッケージ冷暖切替ビル用マ アと十分な電気容量50VA/flを確保している。セキュリ ルチタイプ 9組 ティ面では非接触式ICカードを用いた入退管理を行い, 計354kW 1階エントランス: ワークスペースとして高いクオリティを備えた計画とし 空気熱源ヒートポンプパッケージビル用マルチタイプ た。また,各階バルコニーに空調予備機設置スペースを (氷蓄熱)18kW (冷暖切替)28kW 設け,各階外壁には将来用換気ルート・開口の確保,屋 他機械室,諸室等: 上に冷却塔,非常用発電機予備設置スペースを設けるな 空気熱源ヒートポンプパッケージ 計93kW 換気は,全熱交換器により各階の北側から給気し,東 西面・南面へ排気することで,給排気のショートカット の防止とダブルスキンカーテンウォールへの排気導入に よる日射熱取得の低減をはかった。図−1にカーテンウ ォール断面と給排気イメージを示す。ダブルスキンカー テンウォールの構造は,アウタースキンをフロートガラ ス (一部セラミックプリントガラス),インナースキンを Low−e複層ガラスとし,ダブルスキンサッシ間に電動 ロールスクリーンを設けた。見込寸法250㎜という超薄 型一体型のダブルスキンカーテンウォールは,賃貸面積 写真−4 オフィス基準階 を最大限に確保することができ,事業性に優れているほ N 北面:フロート ペアガラス 給気 透明ガラス 電動ロールスクリーン Low−e複層ガラス CH=2,800 空調排気 給気 給気 給気 給気 給気 給気 給気 給気 排気 排気 空調:冷暖フリー個別空調方式 換気:全熱交換器 排気 排気 排気 排気 排気 e−WALL 屋外 貸室 排気 排気 OAフロア 100 排気 排気 排気 ダブルスキンサッシ 制振部材 外側: 10㎜フロート 給排気イメージ図 ダブルスキンサッシ概念図 内側:Low−eペアガラス 10㎜フロート+空気層12㎜+10㎜フロート 図−1 基準階平面・断面概念図 ― 13 ― ヒートポンプとその応用 2008. 9. No.76 ―― 実 施 例 ―― か,施工性にも優れている。 ∼4℃程度,内側が1℃程度高い結果となった。また, 4−2 ダブルスキンの熱的性能について 室内の鉛直温度分布は,床面と床上1.5mの温度差が 本建物では,ダブルスキン間に室内空調排気を導入す 0.6℃程度と室内排気通風がある場合に比べれば劣る結 ることによって,極めて低い日射熱取得率をめざした。 果となった。これらの結果より,スキン内への室内排気 設計段階でのシミュレーション計算,実大モックアッ 通風により若干室内環境改善がはかれ,また,スキン内 プ実験,完成前実建物による実測をそれぞれ行った。そ の温度上昇の軽減効果は大きいことが実証された。日射 れぞれの結果を示す。 熱取得率は,室内排気通風の有無によらず0.07となり, 4−2−1 シミュレーション計算 さらにセラミックプリントガラス部分は,0.04とさらに 日 時:平成17年4月∼6月に実施 良好な結果で,シミュレーションやモックアップ実験と 解析モデル:定常マクロモデル 同等以上の結果となり,設計値を満足することが確認で 結 果:自然通気と空調排気導入の場合のシミュレ きた。図−4にシミュレーション,実験,実建物での実 ーション結果を図−2に示すが,排気導入 測での日射熱取得率の比較を示す。 の場合はロールスクリーン内側インナース 4−2−3−3 結果からの考察 キン外側で30∼35℃程度となり,良好な 日射熱取得率0.07という優れた熱的性能は,透過率の 結果を示した。日射熱取得率は,ロールス 小さいロールスクリーンを採用した影響も大きい。これ クリーンあり空調排気導入時にて,0.06の により, ペリメータの快適性が向上できたと考えられる。 計算結果であった。 また,ダブルスキン間のロールスクリーンにて集熱した 4−2−2 実大モックアップ実験 日射熱をそのままスキン外へ排熱しているため,ペリメ 日 時:平成18年7月26日,27日 ータにおける空調負荷軽減がはかれる。ガラスカーテン 測定方法:実際にダブルスキン内を通風させて実測。日 ウォールの外装とする場合,省エネルギーという観点で, 今回採用したダブルスキン方式が有効であるといえる。 射負荷は電熱線に代替 結 果:ロールスクリーンあり空調排気導入時にて, 4−3 クールチューブの概要 日射熱取得率0.08であった。 本建物では,既存地下躯体として残存した地下ピット 4−2−3 実建物での実測 の有効利用として,エントランス空間の外気取り入れダ 4−2−3−1 測定方法 クトを,年間を通して安定した温度となる地下ピットに 夏季(平成19年7月末)に,ダブルスキン内ロールス 通すことで,夏は予冷,冬は予熱として利用する計画と クリーンの開閉,スキン内への室内排気通風の有無を測 した。エントランス空間は,外気導入で陽圧とすること 定条件として与え,実測値より,室内への日射取得率, により,入口から外気が入りにくくなり,温熱環境の改 ダブルスキン内温度分布,侵入熱量などを算出した。 善をはかる計画とした。クールチューブイメージを図− なお,このときの外気温度は30∼30.5℃,ガラス面日 5に示す。冬期実測結果を図−6に示すが,地下ピット 射量は543W/flであった。 内は外気温度にかかわらず15℃程度で安定しており,ク 4−2−3−2 実測結果 ールチューブ入口温度(外気温度)が2∼6℃に対して, 室内排気通風の有無による実測結果の比較を図−3に 出口温度は9∼10℃と,効果があることが実測された。 示す。ダブルスキン内へ室内排気通風がある場合は,室 内排気を行っているスキン上部で温度が低い傾向があ り,内ガラスのスキン側表面温度は,46∼47℃程度(一 5.CASBEE Sクラス取得へ向けての展開 部下部で52℃前後)となったが,放射環境に影響する室 本建物でのCASBEE評価と主な項目を図−7に示す。 内側の表面温度(測定点はFL+1.0m)は約30℃(室温は なお,CASBEEの評価は,環境品質・性能(Q)が高く, 25℃)と十分に小さくなり,内ガラスに用いたLow−e複 環境負荷(LR)が低いほど高評価となり,Qは,Q1: 層ガラスの効果が大きいと考えられる。また,室内(窓 室内環境,Q2:サービス性能,Q3:室外環境,LR 面から0.25m)の鉛直温度分布は,床面と床上1.5mの温 は,LR1:エネルギー,LR2:資源・マテリアル,LR 度差が0.3℃程度と良好であった。 3:敷地外環境に分けて評価される。本建物はSランク 室内排気通風がなく自然通風の場合は,スキン下部よ 評価となり,BEE(環境性能効率) は3.2であった。 り外気を吸い込み上部から排気する気流が発生し,上部 本建物では,さまざまな環境配慮設備に加え,十分な ほど温度が上昇して約61℃とかなりの高温になってい 公共的空間の確保と参道としての演出といった地域社会 たが,内ガラスのスキン側表面温度は47∼49℃程度, の風土や歴史性への配慮,地域の活性化への配慮,地球 室内側の表面温度は約30℃(室温23.8℃)で,内ガラスの 温暖化への配慮,ビルに働くワーカーの快適性への配慮 表面温度と室温との差は,排気通風時よりスキン側が3 なども高評価の対象となった。 ヒートポンプとその応用 2008.9.No.76 ― 14 ― 100 1,300 600 165 R 28335 R 27685 650 2,730 R 28335 R 27685 650 70 100 165 165 70 100 85 250 85 250 CH=2,800 90 2,555 CH=2,800 2,730 2,555 90 435 435 1,300 600 165 100 ―― 実 施 例 ―― 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0 80.0 deg 自然換気によるスキン内温度分布 空調排気導入によるスキン内温度分布 図−2 ダブルスキン温熱シミュレーション (夏季) (m) 3.0 2.9 65−70 2.7 60−65 55−60 2.4 50−55 2.7 2.5 2.4 2.0 1.7 FL+ 1.5 0.3℃ 46∼47℃ 45−50 1.7 40−45 35−40 1.0 30−35 1.0 52℃前後 0.3 左端 左端 0.3 中央 0 中央 外ガラス−ブラインド間空気温度 内ガラスのスキン側表面温度 1.0 0.5 0 20 22 24 26 28 30 温度 (℃) 室内鉛直温度分布(窓面から0.25m) _ スキン内室内排気通風あり (m) 3.0 2.9 65−70 2.7 60−65 55−60 2.7 2.5 2.4 2.0 1.7 1.7 FL+ 1.5 1.0 1.0 0.3 0.3 中央 2.4 50−55 47∼49℃ 45−50 40−45 35−40 30−35 左端 左端 0 中央 外ガラス−ブラインド間空気温度 内ガラスのスキン側表面温度 0.6℃ 1.0 0.5 0 20 22 24 26 28 30 温度 (℃) 室内鉛直温度分布(窓面から0.25m) ` スキン内室内排気通風なし (自然通風) 図−3 実建物での実測結果 ― 15 ― ヒートポンプとその応用 2008. 9. No.76 ―― 実 施 例 ―― なお,本建物は完成から日も浅く,今後さらにデータ 6.おわりに を収集して効果の把握を行いたい。また,今後の社会情 勢などを踏まえ,さらに積極的に環境配慮設計に取り組 本建物は,環境配慮設計の結果として,平成17年に みたいと考えている。 事務所ビルとしてCASBEE大阪初のSランクとして公表 され,大阪市建築物総合環境評価制度平成19年表彰に 最後に,本計画に際して深い理解とご協力をいただき おいて「CASBEE大阪 OF THE YEAR 2007」を受賞でき ました建築主をはじめ,すべての関係各位の皆さまに深 た。 くお礼を申しあげます。 0.10 設計値 0.08 実測値は設計値を満足している 0.08 0.08 0.07 日 射 0.06 熱 取 得 0.04 率 0.02 0.06 0.04 0.00 計算値(設計時) シミュレーションによる計算 実験(設計時) 実大モックアップ実験 実測 フロート+Low−e 実測 シルクプリント+Low−e 図−4 日射熱取得率の比較 1F屋外植栽より 1FエントランスPACへ OA取り入れ (1,400„/h) クールチューブ (ガルバニウムダクト) 300φ 約100m F 1F ピット内(B2階)温度 クールチューブ出口温度 クールチューブ入口温度 (℃) 20 15 10 5 B1F B2F 0 ピット内部 B3F 図−5 クールチューブのイメージ 8 11 14 時 刻 17 20(時) 図−6 クールチューブ実測結果(冬期) CASBEE評価 Sランク(CASBEE大阪公表) 建築物の環境性能効率( BEE ) 建築物の環境性能効率 (BEE) 建築物の環境品質・性能と環境負荷低減性 建築物の環境品質・性能と環境負荷低減性 レーダーチャート レーダーチャート BEEによる建築物のサステナビリティランキング BEEによる建築物のサステナビリティランキング Q-2 重み係数=0.3 100 建 SS 築 79 物 79 の 環 境 50 品 質 ・ 性 能 0 Q 0 5 B B++ A A 4 3 3 Q-1 重み係数 =0.3 B B-− Q-3 2 2 重み係数 =0.4 1 1 0 0 25 25 LR-1 重み係数=0.4 C C 50 建築物の環境負荷 L 100 LR-2 重み係数=0.3 建築物の環境品質・性能 Q BEE = LR-3 重み係数=0.3 25*(SQ −1) 25* (5 −SLR) = 建築物の環境負荷 L 79 25 = 3.2 = Q 建築物の環境品質・性能(建築物の居住環境のアメニティを向上させる性能評価) =4.1 S Q = SQ4.1 Q-1 室内環境 Q-2 サービス性能 SQ2=4.1 SQ1=3.8 5 4 3 3.8 3.8 4.3 4.3 3.9 3.9 4 3.3 4.4 4.0 4 3.8 3 3.3 2 1 Q-3 室外環境(敷地内) SQ3=4.4 5.0 5 5 温熱環境 光・視環境 空気質環境 1 4.0 2 2 音環境 4.0 3 機能性 耐用性 ・信頼性 1 対応性 ・更新性 生物環境 まちなみ 景観 4.0 S LR = SLR=4.0 LR 建築物の環境負荷低減性(建築物の環境負荷を低減させる性能評価) LR-1 エネルギー 4.5 4 3 LR-2 資源・マテリアル LR-3 敷地外環境 SLR2=4.1 SLR3=3.8 SLR1=4.1 5 5 5 5.0 4 4.0 3 3.0 4.2 3.8 建物の 熱負荷 自然 設備システム 効率的 エネルギー 効率化 運用 1 4 4.0 4.5 3 2 2 1 地域性 アメニティ 4.0 4.0 3.0 3.0 2 水資源 保護 低環境 負荷材料 1 大気汚染 騒音・ 振動・悪臭 風害 光害 ヒート 地域インフラ アイランド化 負荷 図−7 CASBEE評価と主な評価項目 ヒートポンプとその応用 2008.9.No.76 ― 16 ― ダブルスキンによる外皮性能の向上 (Q1) 約40㎡ごとに冷暖房フリー個別空調 (Q1) 給気口と排気口の距離を十分確保 (Q1) F☆☆☆☆材料の全面使用 (Q1) OAフロアあり,電気容量50VA/㎡(Q2) 空間のゆとり(階高4.1m,天井高2.8m) (Q2) 十分な耐震性・制振装置導入 (Q2) 雨水利用(地上緑化散水用)の採用(Q2) 電力本予備線引き込み2ルート化 (Q2) 電気室は水没の恐れのない2階以上の階に設置 (Q2) 電話局からの引き込み2ルート化 (Q2) 受変電,空調室外機の増設スペースあり (Q2) 周辺環境に応じた建物の配置,形状等 (Q3) 熱負荷抑制(PAL値基準値の24%減) (LR1) 擬音,節水型便器による水資源保護 (LR2) クールチューブの採用(LR1) 太陽光発電(5kW)の採用(LR1) BEMS(エネルギー消費量の管理システム) の導入(LR1) 雨水利用の採用(LR2) 既存建築地下躯体の再利用 (LR2) 再生建築資材の採用(3品目) (LR2) 健康被害のおそれが少ない材料の使用 (4品目) (LR2) 防振装置等設置による騒音・振動防止 (LR3) 大気汚染の防止に努めている (LR3) 低騒音・低振動機器等の採用および配置 (LR3) 外壁による反射光の影響なし (LR3) 屋上緑化等ヒートアイランド対策 (LR3)
© Copyright 2024 Paperzz