平成 18 年 7 月豪雨における松江市街地住民の被災意識に関する研究 正会員・○川口洸葵* 正会員・ 熊谷昌彦** 正会員・ 大西一嘉*** 平成 18 年 7 月豪雨、水害、松江市 避難行動、災害情報 1. 研究の背景と目的 平成 18 年7月豪雨の発生によって、島根県松江市 ( 人 口 193649 人 , 住民基本台帳 ,2007.3.31 現在 ) ではとり わけ死者こそ出なかったが、212 棟が床上浸水するなど 大きな被害を受けた。松江市に隣接する宍道湖は水はけが 悪く、流入河川により水位が上がりやすい。以前から水害 リスクが指摘されているが、市街地を流れ、宍道湖と海を 結ぶ大橋川の改修治水事業については景観面も含めた市 民的合意がとれていない。 以上のことを踏まえ、本研究では平成 18 年 7 月豪雨に おいて島根県松江市の被災実態と被災住民の意識の把握 表 1 平成 18 年 7 月豪雨による被害 人的被害(人) 市町村名 死者 重傷 軽傷 被災区分 ( 棟 ) 全壊 半壊 一部損壊 床上浸水 床下浸水 棟数 世帯 棟数 世帯 棟数 世帯 棟数 世帯 棟数 世帯 松江市 0 1 7 7 − 0 0 14 − 212 − 浜田市 出雲市 大田市 安来市 雲南市 奥出雲町 飯南町 その他 市町村 島根県 0 2 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 1 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 4 5 6 2 3 5 18 − − 135 2 0 5 4 10 − 135 2 0 5 4 10 1 0 2 1 1 0 0 11 11 5 4 1 11 10 3 1 1 68 50 373 5 5 2 4 5 18 1215 − 13 − 65 65 40 38 43 31 32 32 35 38 46 46 114 114 161 1603 5 364 ※ 2006 年 8 月 31 日現在 を目的としてアンケート調査を実施した。 2. 調査概要 (1)水害発生後の行動、意識に関するアンケートの作成 に先立って、2006 年(平成 18 年)11 月 14 日に島根県 松江市役所防災安全課、また同年 12 月 9 日に島根県庁総 務部消防防災課それぞれにおいてインタビュー調査を行 なった。 (2)避難する住民の多かった松江市の東本町 4,5 丁目、 寺町の住民にアンケート調査を行った。配布期間は 2006 年(平成 18 年)12 月 12 日より、2007 年(平成 19 年) 図 1 松江市浸水区域図 1 月 10 日までである。配布数は 284 件、回収数は 104 件、 表 2 アンケート回答者の年代と性別 年代 回収率は 37%であった。 3. 島根県松江市の被災状況 松江市の被害状況は、全壊7棟、一部損壊 14 棟、床上 浸水 212 棟、床下浸水 1215 棟であった(表 1)。 30 代(人)40 代(人)50 代(人)60 代(人)70 代 (人)不明(人)合計(人) 男 女 別 不明 合計 1 1 0 2 性 4. 被災住民の意識 4.1 アンケート回答者の年代と性別 ア ン ケ ー ト 回 答 者 は 60 代 と 70 代 以 上 の 方 が 70 人 (68%)を占めており、比較的高齢の方が多い(表 2)。 松江市の高齢化率は 23.1%(2007.3.31 現在 ) と全国の平 均を上回る。今回の調査では、60 代以上で独居の場合が 22 人(21%)みられた(表 3)。 Study on Consciousness of Habitants in Matsue city Damaged by 2006 Flood over Shimane Prefecture area. 17 15 0 32 18 20 0 38 1 1 1 3 46 57 1 104 同居人数 414ha、市街地・約 215ha)に達した ( 図 1)。また島根 は約 36 億円で、これは島根県全体の約 10%を占めている。 6 11 0 17 表 3 高齢者の家族構成 ま た 豪 雨 に よ っ て、 浸 水 面 積 は 約 629ha( 農 地・ 約 県全体の被害総額約 370 億円のうち、松江市の被害総額 3 9 0 12 1 人(人) 2 人(人) 3 人(人)4 人(人)5 人(人)合計(人) 年 代 60 代 7 15 6 0 1 29 70 代以上 15 11 5 4 1 36 合計 22 26 11 4 2 65 表 4 住家被害と避難の有無の関係 避難状況 避難した(人) 避難していない(人) 不明(人) 合計(人) 割合 一部損壊 0 1 0 1 1% 被 床上浸水 10 15 0 25 24% 災 床下浸水 4 22 0 26 25% 1 30 0 31 30% 区 その他 不明 1 18 2 21 20% 分 合計 16 86 2 104 100% 割合 15% 83% 2% 100% KAWAGUCHI Koki, KUMAGAI Masahiko,OHNISHI Kazuyoshi 4.2 罹災証明による判定結果と住民の避難 罹災証明の判定結果を見てみると床上浸水 25 件 (24%)、 床下浸水 26 件 (25%) を合わせて 51 件(49%)を占めて いる(表 4)。避難をした者の割合が 16 件(15%)であ るのに対し、避難をしなかった者が 86 件(83%)と多い。 避難をした住民 (N=16) 19% 避難をしていない 8% 住民(N=86) 0% 以上の住民が避難をしていない。 20% 30% 避難所までの距離 避難をした住民 (N=16) 6% 6% 2% 0% 39% 13% 40% 25% 50% 60% 70% 情報入手 10% 6% 13% 40% 50% 45% 20% 30% 避難場所への誘導又は介助 情報のすばやい提供 その他 水害時にどのような点に困ったかという設問では避難 をした住民からは、 「避難所までの距離」、 「避難所の設備」、 80% 90% その他 100% 不明 44% 3% 7% 60% 34% 70% 80% 90% 100% 避難場所の設備の充実 炊き出し 不明 図 3 水害時に期待される支援 「情報の入手」という回答が得られた。避難をしていない (図 2)。 38% 図 2 水害時に困った点 住民(N=86) 住民の半数近くから「情報の入手」という回答が得られた 6% 避難所の設備 避難をしていない 8% 4.3 水害時に困った点 19% 41% 10% 罹災証明の判定結果と避難の有無の関係を見てみると、 住宅が床上浸水以上の被害を受けた場合であっても、半数 19% 受け取る側(住民)も平素から避難場所の確認、防災訓練、 連絡網の整備など、情報入手後の避難行動を円滑に進める 4.4 期待される支援 ための体制を整える必要があると思われる。 必要な支援はなにかという設問では、避難をした住民と (3) 被災住民が避難をすることを決定しても、避難所へ行 避難をしていない住民の両者に共通して、「情報のすばや くための支援が伴わなければ、安全に避難することは出来 い提供」という回答が得られた。また避難をした住民と比 ない。要援護者 ( 高齢夫婦、高齢独居者 ) に CATV などに 較して、避難をしなかった住民が「避難場所への誘導また よる避難情報提供システムを整備するだけでは住民の安 は介助」と回答している(図 3)。 全が確保されない点が今後の大きな課題といえる。 5. 今後の災害対策 (4) 過去の水害事例研究でも指摘されているように「正常 平成 18 年 7 月豪雨を契機に松江市では以下のような水 化の偏見」による避難の遅れも残された課題の一つであ 害対策を打ち出している。①災害情報を発信するケーブル る。また障害者などへの情報デバイド対策など災害時要援 テレビの加入範囲を松江市全域に広げる。また災害情報専 護者の特性に見合った防災対策を地道に積み上げていく 用のチャンネルを設けることとする。②災害対策本部内に 事が望まれる。 専門的に情報を扱う「機能班」を設け、住民への情報の提 供が正確かつ、円滑に進むようにする。 <謝辞> 6. まとめ なおインタビュー調査、アンケート配布に協力していた 平成 18 年7月豪雨について、調査した結果を以下にま だいた松江市防災安全課の方々をはじめ、アンケート調査 とめる。 に協力していただいた松江市の住民の方々に厚く御礼申 (1) 松江市では高齢化が顕著に進んでいる。この状況下で し上げます。 の水害で、床上浸水、床下浸水以上の被害を受けた場合 [ 参考文献 ] であっても避難をした住民は全体の 2 割にすぎない。避 難をした住民は困った点として避難所までの距離や避難 所の設備を挙げている。また避難をしていない住民は困っ た点として、情報の入手を挙げている。 (2) 松江市では平成 18 年 7 月豪雨を経て、今後、ケーブ ルテレビによる情報の提供、機能班の設置等の対策を展開 していく。情報を発信する側(行政)、情報の媒体(携帯、 ケーブルテレビ)の整備によって、これらの情報に関する 問題は改善に向かっているといってよい。しかし、情報を * 神戸大学大学院工学研究科博士課程前期 ** 米子工業高等専門学校建築学科・教授・工博 ***神戸大学大学院工学研究科・准教授・工博 * 大西一嘉 , 西野秀樹 : 平成 16 年豊岡水害における要援護者の避難支 援システムに関する研究 , 神戸大学都市安全研究センター研究報告 , 第十号 ,pp.263‐270, 平成 18 年 3 月 31 日 大西一嘉 , 熊谷昌彦 , 菊池広顕 , 川口洸葵 : 自然災害後の被災者生活再 建支援に関する研究−平成 16 年台風 23 号豊岡水害および新潟県中 越地震を通して− : 平成 16 年豊岡水害における要援護者の避難支援 システムに関する研究 , 神戸大学都市安全研究センター研究報告 , 第 十号 ,pp.273‐290, 平成 18 年 3 月 31 日 島根県HP http://www.kisyou.go.jp 松江市HP http://www.pref.shimane.lg.jp/kasen/ 大阪管区気象台 http://www.osaka-jma.go.jp/ 国土交通省中国地方整備局出雲河川事務所 http://www.izumokasenmlit.go.jp/ Graduate Student,Kobe University Prof.Dept of Architecture,Yonago National College of Technology,Dr.eng. *** A .Prof,Graduate School,Kobe University,Dr.Eng. **
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