逸失利益の算定方式

平成25年(ワ)第20923号
原告準備書面
原
告
被
告
損害賠償請求事件
別紙4
平成27年10月6日
東京地方裁判所民事第27部2係
御中
原告
㊞
逸失利益の算定方式
現在、逸失利益の算定には、ライプニッツ方式と新ホフマン方式の2通りの
算定方法があり、最高裁は、いずれに方式によっても不合理とは言えないと判
示している。(最判昭和53年10月20日(昭和50年(オ)第656号)、
判例タイムズ371号60頁)、最判平成2年3月23日(平成1年(オ)第
1479号)、判例タイムズ731号109頁)
また、平成11年11月22日付「交通事故による逸失利益の算定方式につ
いての共同提言」では、特段の事情のない限り、ライプニッツ方式を採用すべ
きとして、現在は、ライプニッツ方式が広く採用されている。
しかし、ライプニッツ方式は不合理であり、共同提言にも明らかな誤りがあ
るため、この問題を完全かつ、合理的、整合的に解決するため、妥当な算定方
式についての立証を行う。
(1)ライプニッツ方式の採用は不合理
ライプニッツ方式の採用は、明らかに不合理である。
何故なら、遅延損害金(法定利息の5%)が単利でしか加害者(被告)に請
求できないのに対し、ライプニッツ方式は、複利で利息が控除されている事で
ある。
もし、遅延損害金が複利で請求できるのであれば、複利で控除されるライプ
ニッツ方式の採用もおおよそ合理的とも言えるが、現在の裁判実務における遅
延損害金のほぼすべてが単利でしか請求できない事を考えると、遅延損害金を
複利で請求することは、実務上、現実的では無い。
したがって、中間利息の控除も単利である新ホフマン方式で控除すべきで、
ライプニッツ方式の採用は明らかに不合理である。
(2)ライプニッツ方式の採用が不合理である事の検証(別紙4(図1))
例えば、症状固定日から10年後に100万円の逸失利益が発生すると仮定
する。(毎年ではなく、10年後とする)(別紙4(図1)①)
この場合の症状固定日現在の価値をライプニッツ方式、新ホフマン方式のそれ
ぞれで算定する。
-1-
なお、『毎年』ではなく、『10年後』であるので、『年金現価表』ではなく
『現価表』を用いて算定する。
(ライプニッツ方式)
100万円×0.61391325(ライプニッツ係数現価表10年)
≒61万3913円(端数切り捨て)
(新ホフマン方式)
100万円×0.66666667(新ホフマン係数現価表10年)
≒66万6666円(端数切り捨て)
以上が、各方式による訴額になる金額である。(別紙4(図1)②)
しかし、仮に、裁判が長期化して、10年が経過してしまったとする。(別
紙4(図1)③)
この場合、症状固定日から10年後の将来は、既に10年後の現在なので、
理屈の上では、遅延損害金を加算すると、100万円にならなくてはならない
はずである
実際に、遅延損害金を計算してみる。
(ライプニッツ方式)
61万3913円×5%×10年≒30万6956円(端数切り捨て)
(新ホフマン方式)
66万6666円×5%×10年=33万3333円(端数切り捨て)
以上が、症状固定日から10年後の遅延損害金である。
したがって、賠償額は、訴額+遅延損害金の額となる。
(ライプニッツ方式)
61万3913円(訴額)+30万6956円(遅延損害金)
=92万869円
(新ホフマン方式)
66万6666円(訴額)+33万3333円(遅延損害金)
=99万9999円≒100万円
新ホフマン方式の賠償額が100万円に1円足りないのは、端数処理の問題で
ある。
つまり、新ホフマン方式は、単利で利息を控除し、単利で遅延損害金を計算
しているため、理論通り100万円の賠償額になる。
一方、ライプニッツ方式は、複利で利息を控除しているのに、単利でしか遅延
損害金がつかないため、92万869円と100万円から大幅に賠償額が減っ
てしまっている。
すなわち、遅延損害金が単利でしか請求できない以上、単利で利息を控除す
る新ホフマン方式を採用すべきでライプニッツ方式は不合理である。
-2-
(3)各係数の算定方法
ライプニッツ係数や新ホフマン係数は、算式を見ると非常に複雑に見える。
しかし、実際に電卓や Excel を使って計算すると、実は簡単に計算をするこ
とができる。
(4)ライプニッツ係数(現価)の計算方法
現在を1として、1年後の逸失利益の現在価値は、1.05で割るだけであ
る。電卓であれば、『1÷1.05=』で計算できる。
以後、1年ごとに1.05で割っていくだけである。
つまり、『1÷1.05=』『÷1.05=』『÷1.05=』『÷1.05=』
『÷1.05=』・・・と、1.05で割り続けることにより各係数を算定で
きる。
1は元金で、0.05は5%の利息なので、1.05で割り続ける。
なお、1年ごとに、計算した結果に対して1.05で割り続けることは、複
利で利息を控除することを意味している。
(5)新ホフマン係数(現価)の計算方法
新ホフマン係数の計算方法は、遅延損害金と同じ『単利』で利息を控除する
ため、遅延損害金の算定方法に似ている。
すなわち、現在を1として、x年後の遅延損害金を計算する。
0.05(5%)×x年
これに現在の価値である1を加算する。
1+0.05×x年
利息を控除するので、現在の1を上記の数値で割る。
1÷(1+0.05×x年)
つまり、上記算式のxに年数を代入すると、新ホフマン係数(現価表)の数値
になる。
(6)年金現価の計算方法
年金現価の算定方法は、現価表の金額を合計しただけである。
つまり、累計額がそのまま年金現価となる。
考え方としては、毎年、10万円の逸失利益が発生すると仮定する。
現価表を使って、1年後の10万円の現在価値、2年後の10万円の現在価値、
3年後の10万円の現在価値、4年後、5年後・・・と計算をして、その合計
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額が逸失利益額(年金現価)となる。
したがって、例えば、就労可能年数が5年であれば、現価表の1年から5年
までの係数の合計が年金現価係数となる。
(7)ライプニッツ係数表および新ホフマン係数表
以上の方法により、実際にライプニッツ係数、新ホフマン係数のそれぞれの
現価表、年金現価表を算定したのが別紙4(図2)である。
(検証のため、現実には使うことの無い500年程度まで算定している)
これを見れば、ライプニッツ係数(現価表)はずっと1.05で割り続けて
いるため、限りなく0に近づき、ライプニッツ係数(年金現価表)は限りなく
20に近づく事がわかる。
(限りなく20に近づくのは、1÷20=0.05(5%)になるためである)
(8)上記(2)及び別紙4(図1)①~③の検証(別紙4(図3))
x年後の将来に発生する逸失利益100万円に各係数(現価表)を乗じて症
状固定日現在の価値、すなわち、訴額を算定する。その後、x年後の遅延損害
金を算定し、訴額と遅延損害金を合計した賠償額を算定したのが、別紙4(図
3)である。
x年前に遡って、その後、x年後に戻るのであるから、理論上100万円に
ならないと不合理である。(別紙4(図1)①~③)
別紙4(図3)を見てもわかるとおり、新ホフマン係数を採用した場合、賠
償額は常に100万円になり、理論通りの合理的な結果となる。
これは、新ホフマン係数が単利で利息を控除し、単利で遅延損害金も算定し
ているので、このような合理的、整合的な結果となるのである。
一方、ライプニッツ係数は、複利で利息を控除し、単利でしか遅延損害金が
計算されないので、年数が先であれば先であるほど、被害者に極端に不利で不
合理な結果となってしまっているのである。
(9)共同提言の間違い
平成11年11月22日付「交通事故による逸失利益の算定方式についての
共同提言」では、『ホフマン方式(年別・単利・利率年5分)の場合には、就
労可能年数が36年以上になるときは、賠償元本から生じる年5分の利息額が
年間の逸失利益額を超えてしまうという不合理な結果となる』と指摘している
が、これは誤りである。
共同提言で指摘しているのは、別紙4(図4)の黄色の部分であると推測さ
れる。
つまり、36年以上になると、新ホフマン方式の場合、賠償元本の合計額よ
り、遅延損害金の額の方が上回ることは不合理であると指摘していると推測さ
れる。(ライプニッツ方式の場合、年数が増えても、限りなく賠償元本に近づ
-4-
くだけで、超えることは無い)
しかし、実際には、遅延損害金の額が賠償元本の額を上回ることは何ら不合
理では無い。
別紙4(図1)のように、症状固定日から10年を経過して、実際に逸失利
益100万円が発生し、更に、裁判が長期化して、症状固定日から13年が経
過してしまったと仮定する。(別紙4(図1)④)
この場合、実際に発生した逸失利益額100万円から、更に3年分の遅延損
害金が加算されていないとむしろ不合理なのである。
本件訴訟で言うなら、本件訴訟は、症状固定日(平成24年8月20日)か
ら既に2年半が経過している。
すなわち、症状固定日から現在までの逸失利益は、
『既に過去』であるので、
賠償元本に遅延損害金が加算されていなければ不合理である。
したがって、遅延損害金が元金を上回っても何ら不合理では無いし、時が経
過すれば、遅延損害金が加算されるので、元金を上回っていない方が不合理で
ある。(別紙4(図1)④)
(10)共同提言の指摘の誤り(2点目)
共同提言では、新ホフマン方式を採用することが不合理であるとするもう一
つの理由として、『基礎収入の認定につき、初任給固定賃金ではなく比較的高
額の全年齢平均を広く用いることとしていることとの均衡』を挙げているが、
基礎収入(賃金)の額と中間利息の控除とは無関係であり、全く別々の問題で
ある。
つまり、初任給固定賃金ではなく、比較的高い全年齢平均を広く用いている
から、複利で利息を控除する方が均衡がとれるという指摘がそもそも不合理で、
賃金は賃金、利息は利息、それぞれ全く別の問題として考える必要がある。
したがって、共同提言の指摘は不合理であり、新ホフマン方式を採用すべき
である。
(11)新ホフマン方式の問題点
既に立証したとおり、遅延損害金が単利でしか請求できないため、中間利息
の控除も単利である新ホフマン方式を採用すべきである。
しかし、新ホフマン係数を採用することにも問題点がある。
それは、多くの場合、給料は月給制であり、その他の逸失利益に関しても、
1年に1回ではなく、毎月発生する事が殆どである。
にもかかわらず、1ヶ月後の逸失利益も2ヶ月後の逸失利益もすべて1年後
の逸失利益として1年分の利息が控除されてしまっている。
したがって、中間利息の控除は新ホフマン方式を採用すべきであるが、『年利
(年単位)』ではなく、『月利(月単位)』で計算すべきである。
-5-
(12)月次新ホフマン係数(現価)の算定
(5)の新ホフマン係数の算定方法を参考に月次の新ホフマン係数を算定す
る。
年利5%を月利に換算すると、
0.05÷12
となる。
そして、xヶ月後の利息を計算する。
(0.05÷12)×xヶ月
これに現在の価値である1を加算する。
1+0.05÷12×xヶ月
xヶ月後から現在までの利息を控除するので、現在の価値である1を上記算式
で割る。
1/(1+0.05÷12×xヶ月)
上記算式のxに月数を代入すると新ホフマン係数(現価表)の数値になる。
(通
常の新ホフマン係数(現価表)と一致する)
ただし、通常は、1年分の逸失利益額を乗算するため、係数を12で割って、
月次の新ホフマン係数(現価表)を計算したのが別紙4(図5)である。
(13)月次新ホフマン係数(年金現価表)の算定
上記(12)で作成した月次新ホフマン係数(現価表)を月単位で累計した
値が別紙4(図6)の月次新ホフマン係数(年金現価表)である。
この表を使うことにより、月単位の利息まで正確に計算され、正しい中間利
息を控除することができる。
(14)就労可能年数の端数月の計算
端数月に関しては、月次新ホフマン係数表を使って、月単位まで計算するこ
とができる。
例えば、就労可能年数が14.47年の場合、14年+0.47ヶ月、すな
わち、
14年+0.47ヶ月×12≒14年5ヶ月(1ヶ月未満切り捨て)
-6-
係数は、10.83874(月次新ホフマン係数(年金現価表)より)
となる。
したがって、ライプニッツ係数と新ホフマン係数のいずれを採用すべきかと
いう問題は、月次新ホフマン係数を採用することで、合理的、整合的、論理的
に完全に解決する。
(15)唯一の問題点
逸失利益の算定で、唯一残されている問題は、裁判が長期化して、将来の逸
失利益の一部、又は全部が過去となってしまった場合である。
別紙4(図1)で言うと⑤の10年を経過して、実際に逸失利益が発生した後
の遅延損害金の算定方法である。
現在の実務では、訴額に対して遅延損害金年利5%が計算される。
しかし、症状固定日現在の価値である訴額は、理論上の価値なので、実際の
逸失利益の発生時点を過ぎたら、その発生額、つまり、100万円に対して年
利5%の遅延損害金が算定されなければ、遅延損害金が不合理に低く算定され
てしまう。
この差は、裁判が長期化すればするほど顕著となる。
逸失利益は、多くの場合、症状固定日の1ヶ月後から毎月発生しているため、
殆どすべての交通事故(人身事故)の賠償の際に問題となると思われる。
これを計算が煩雑化しないよう無視できる範囲と考えるか、論理的整合性を
優先するかは課題になると思われる。
(逸失利益算定上の問題では無く、遅延損害金を算定する際の問題である)
(16)まとめ
逸失利益の算定において、遅延損害金は単利でしか加害者(被告)に請求で
きないのに対し、逸失利益は複利で控除されるライプニッツ方式が広く使われ
ており、交通事故被害者に不合理かつ不利な金額となる。また、1ヶ月単位で
発生する逸失利益もすべて1年分の利息が控除されるので、更に被害者に不利
な利息が控除されてしまう。そして、裁判が長期化して、既に現実に発生し、
過去の逸失利益となった分に関しても、症状固定日現在の価値(訴額)に対し
て遅延損害金が加算されるので、交通事故被害者に更に不利な金額が計算され
てしまう。
結果として、交通事故被害者に不利な方、不利な方へと計算され、極端に過
小な賠償額が計算されており、しかも、理論上も不合理であるので、早急に是
正されるべきである。
以上
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