論文 現地調査データを用いた鉄筋腐食速度への影響因子に関する一考察

コンクリート工学年次論文集,Vol.37,No.1,2015
論文
現地調査データを用いた鉄筋腐食速度への影響因子に関する一考察
轟
俊太朗*1・渡辺
健*2・鬼頭
直希*3・笠
裕一郎*4
要旨:中性化による変状が顕在化した鉄道ラーメン高架橋柱に対して,鉄筋腐食に影響を及ぼすかぶり厚,
中性化深さの調査を実施した。また,中性化深さの傾向から高架橋の置かれる環境条件を推定した。さらに,
目視による変状情報に基づき鉄筋腐食速度を同定する手法を用いて鉄筋腐食速度の検討を実施した結果,鉄
筋腐食速度は湿潤状態にある箇所では平均 3.5×10-3mm/年,乾燥状態では平均 1.6×10-3mm/年であり,その比
は 2.2 倍であった。本高架橋では,鉄筋腐食速度に与える影響は,かぶり厚および中性化残り,中性化深さと
比較し部位の乾湿状態の影響が大きい結果であった。
キーワード:鉄道ラーメン高架橋柱,中性化,鉄筋腐食,劣化予測モデル,鉄筋腐食速度,影響因子
1. はじめに
の高い因子を選定し,マクロモデルへ積極的に導入する
鉄筋コンクリート構造物(以下,RC)中の鉄筋腐食は,
断面の欠損やコンクリートとの付着の低下により耐力
ことで,精度の向上やこれに基づく点検項目の設定を行
うことが重要である。
低下を引き起こす。さらには,鉄筋腐食によるかぶりコ
本研究では,主に中性化により鉄筋が腐食した経年 36
ンクリートのひび割れやはく離はく落は,外部劣化因子
年の鉄道 RC ラーメン高架橋の柱の調査結果から,かぶ
の侵入抵抗性の低下により,鉄筋腐食を加速させるとと
り厚および中性化深さを把握すると共に,現行のマクロ
もに,第三者に被害を及ぼす可能性があるため,的確な
モデルに基づき,中性化深さの分布や流水・滞水跡から
対応が必要である。一方で,我が国は,高度経済成長期
構造物が曝される環境条件を推定した。また,鉄道構造
を主とした膨大なコンクリート構造物の老朽化と技術
物等維持管理標準・同解説(以下,鉄道標準)に示すマ
者の減少,経済成長の低迷といった問題に直面している。
クロモデル(以下,劣化予測モデル)1),2)を用いて,目視
そのため,効果・効率的に維持管理する必要が生じてい
による変状情報を基に鉄筋腐食速度を算出し,推定した
る。そこで,RC 構造物の劣化指標となる鉄筋腐食量か
環境条件,かぶり厚,中性化残りおよび中性化深さが,
ら変状発生時期や経時的な構造性能の低下を定量的に
鉄筋腐食速度に及ぼす影響について検討を行った。
予測することは,点検や補修補強等の時期を定め,計画
的なアセットマネジメントに貢献できると考えられる。
鉄筋腐食の要因の一つである中性化に対しては,中性
2. 調査概要
2.1 調査対象構造物
化および鉄筋腐食の進行,鉄筋腐食によるひび割れ,は
調査対象部材は,高度経済成長期にあたる 1973 年に
く離はく落といった一連の劣化を予測するマクロモデ
しゅん功した RC ラーメン高架橋 2 基(R1,R2)の柱とす
ルが提案され 1),鉄道構造物等維持管理標準・同解説
2)
る。調査時点の経過年数は,36 年であった。R1, R2 は起
にも取り入れられている。しかし,このモデルは,恒温
点方から連続しており,構造形式は 1 層 2 柱 3 径間の片
恒湿条件下の室内実験や短期の暴露試験等を基に構築
張出しビームスラブ式である。なお,年代は不明である
された経緯があり,様々な環境条件下に曝される RC 構
が増線により,調査時点では 3 柱式複線高架橋に拡幅さ
造物を対象とすると,必ずしもすべての現象を忠実に再
れている。図-1 に概略形状を示す。寸法は設計図書に
現できているとは言えない。これは,雨,風,温湿度,
依るが,GL から横梁下までの高さ 6.5m は,レーザー距
日射等の環境作用と列車荷重等の荷重作用,養生や締固
離計を用いた計測値である。また,図-1 に併せて設計
め等の施工方法,形状・寸法や構造形式等の構造物・部
図書に記載される柱配筋図を示す。軸方向鉄筋は D29,
材諸元,水セメント比やセメント中のアルカリ量,塩分
帯鉄筋は D13 である。軸方向鉄筋間隔は 160mm,帯鉄
濃度等の材料諸元など,供用中の RC 構造物に発生しう
筋間隔は横梁下 1.5m およびフーチング天端 1.5m では
る現象を忠実に再現できていないことに由来する。した
150mm,その他柱中央では 300mm である。帯鉄筋のか
がって,マクロモデルの設定では,劣化に及ぼす影響度
ぶり厚の設計値は,32.5mm である。設計図書からコン
*1 (公財)鉄道総合技術研究所
構造物技術研究部
コンクリート構造
研究員
*2 (公財)鉄道総合技術研究所
構造物技術研究部
コンクリート構造
副主任研究員
*3 (公財)鉄道総合技術研究所
構造物技術研究部
コンクリート構造
研究員
*4 (公財)鉄道総合技術研究所
構造物技術研究部
コンクリート構造
副主任研究員
-919-
工修
(正会員)
博士(学術)
(正会員)
(正会員)
工修
(正会員)
起点方 R1 27.3m
C2
C3
C4
クリートの設計条件は,圧縮強度 24N/mm2,水セメント
比 55%,粗骨材の最大寸法 25mm であった。ただし,配
R2 27.3m 終点方
C1
C2
C3 C4
合や配筋検査書類等の施工記録は現存していない。図-
8m
2 に,構造物の周辺状況を示す。起点方を背にして,左
8m
側が人道を跨いで家屋,右側は空き地である。右柱は,
調査時点では増線部により日射や雨が遮られている。左
2.6m
左柱付近には高さ約 8m の家屋があるが,柱端部と家屋
左
の距離は約 4m である。線路方向の方位は,北北東であ
る。また,飛来塩分が少ないと考えられる地域に位置し,
8m
8m
点線は増線部
10@150mm=1.5m
600mm
15@300mm=4.5m
1.0m
柱はいずれも雨,日射,風の影響を受ける。なお,R1C3
8m 3m 3m 8m
帯鉄筋:D13
600mm
帯鉄筋かぶり
32.5mm
軸方向鉄筋:D29
10@150mm=1.5m
@160mm
右
6.5m
GL
1.3m
離岸距離は 1km 以上であることから,飛来塩分の影響は
※ 起点方を背にして左右
小さいと考えられる 2)。対象構造物では,大気の温湿度,
図-1
二酸化炭素および酸素濃度は,概ね一致すると考える。
構造物の概略形状
右
家屋
:高さ約4m
:高さ約8m
なお,対象構造物近傍での気象庁の過去 5 年間の日平均
気温は 16.2℃,年平均降水量は 3347.9mm である。
目視調査では,鉄筋腐食と思われる変状が認められた。
塩化物イオン濃度は 0.16~0.30kg/m (データ数:3 箇所),
起点方
C3 約4m
道路
C4
R1
調査対象柱
:詳細調査
:簡易調査
3
左
C2
中性化深さは 0~32.5mm(データ数:137 箇所)であった
C1
ことから,劣化要因は中性化であると推定した。
C2
R2
2.2 調査の目的および方法
人道
北
C3
空き地
(1) かぶり厚
離岸距離約1km以上
C4
かぶりの厚さおよび品質は,劣化因子の侵入に対する
終点方
図-2
構造物の周辺状況
:帯鉄筋かぶり厚測定箇所
:中性化深さ測定箇所
横梁下0.5m
2側線 軸方向鉄筋
3)
抵抗に寄与する 。特にかぶり厚が小さいと,施工性の
悪化から,かぶり中の粗骨材量の低下 4),ブリーディン
グや空隙による品質低下が生じること,その結果,収縮
・R1C4, R2C3
0.75m間隔
( 含む)
・R2C1, R2C2
1.5m間隔
量が大きくなりひび割れが発生しやすくなることから 5),
劣化を加速させる。そこで,本調査では,図-3 に示す
詳細調査および簡易調査において,軸方向鉄筋の影響を
横梁
6.5m
5.0m
2.0m
1.5m
帯鉄筋
受けない,柱上下端部から 140mm の 2 側線で,帯鉄筋 1
:詳細調査 140mm
:簡易調査
本毎に詳細にかぶり厚を測定した。なお,かぶり厚は,
磁気式の電磁誘導法を用いて測定した。
終点面
終点面
以降,図中
外面 左柱 内面 右柱 外面 ・起点面:起 ・外面:外
・終点面:終 ・内面:内
起点面
起点面
図-3 測定位置
(2) 中性化深さ
鉄筋の腐食における不動態皮膜の消失は,コンクリー
トの中性化の進行にも関連しており,中性化深さの測定
は鉄筋位置が早期に腐食環境下にあったか否かを判断
するには有効である。ところで,二酸化炭素の拡散・侵
入は,気中と比べ水中では遅く,雨がかりがある場合に
図-3 に測定位置,表-1 に測定箇所数を示す。柱高
は,水中養生状態による品質の向上と相まって,中性化
さ方向の測定を詳細調査,柱下部のみの調査を簡易調査
6)
の進行が遅くなることが報告されている 。これを参考
とする。詳細調査は,コンクリートのはく離はく落が多
にすると,中性化深さにより品質および環境条件の状態
く観察された R1C4, R2C1~C3 の左柱で,計 4 本に対し
が推定可能であると考えられる。中性化深さの調査では,
て実施した。中性化の測定位置および箇所数は,詳細調
ビット径φ24mm のドリルを用いて削孔し,エアスプレ
査を行った R1C4, R2C3 では横梁下 0.5m から 0.75m 刻み
ー等により孔内を清掃した後,フェノールフタレイン 1%
で計 8 箇所,R2C1, R2C2 では横梁下 0.5m から 1.5m 刻
溶液を噴霧して,コンクリート表面から発色点までの距
みで計 4 箇所とした。簡易調査での中性化の測定位置お
離を測定した。1 孔につき上下左右 4 箇所を計測し,そ
よび箇所数は,横梁下 5.0m の位置(地上 1.5m)で左柱
の平均を調査箇所の中性化深さとした。
計 3 本,右柱 7 本である。かぶり厚および中性化深さは,
2.3 測定位置および測定箇所数
柱の各方向 4 面で測定した。
1
-920-
表-1
3. 調査結果
図-4 に,柱高さ方向のかぶり厚分布を示す。いずれ
の柱も柱上端に近づくに従いばらつきが小さくなり,設
調査項目
調査箇所
詳細調査
簡易調査
横梁下0.0m~6.5m
横梁下5.0m(地上1.5m)
計かぶり厚 32.5mm に近い値となる。本高架橋では,か
終
横梁下からの距離(m)
ぶり管理を柱上端で行ったことが推察できる。図-5 に,
面方向のかぶり厚の分布を,面毎に平均して示す。本高
架橋では,外面が最もかぶり厚が小さく 28.3mm,内面
が 40.3mm と大きい。図-6 に,帯鉄筋 1 本毎のかぶり
厚の最大,最小,平均値を,柱名ごとに示す。帯鉄筋 1
本毎の平均値は,設計かぶり厚 32.5mm に近い値である
0
1
2
3
4
5
6
7
ことから,鉄筋カゴの回転もしくは芯ずれが生じている
内
外
起
終
横梁下からの距離(m)
3.1 かぶり厚
測定箇所数
R1C4左
設計値32.5mm
0
1
2
3
4
5
6
7
横梁下からの距離(m)
と考えられる。全ての計測結果の平均値は 33.5mm であ
り,鉄筋カゴのはらみ出しや製作時の加工誤差,かぶり
厚の測定誤差等によって生じると考えられる。
3.2 中性化深さの傾向とそれによる環境条件の推定
(1) 左右柱の中性化深さ
図-7 に,左右柱の中性化深さを示す。なお,柱高さ
方向の影響を除去するために,横梁下 5m での測定値を
0
1
2
3
4
5
6
7
横梁下からの距離(m)
0 10 20 30 40 50 60
かぶり厚(mm)
終 内
外 起
R2C2左
設計値32.5mm
調査箇所数
左柱 右柱
4本
3本 7本
内
外
起
R2C1左
設計値32.5mm
0 10 20 30 40 50 60
かぶり厚(mm)
終 内 外 起
0
1
2
3
4
5
6
7
R2C3左
設計値32.5mm
0 10 20 30 40 50 60
0 10 20 30 40 50 60
かぶり厚(mm)
かぶり厚(mm)
図-4 柱高さ方向のかぶり厚分布
示した。右柱に比べ,左柱の中性化の進行が早い。平均
面毎の平均かぶり厚(mm)
値では左柱 22.0mm,右柱 13.6mm である。調査時点では
増線により右柱は雨がかりがなく,常に乾燥状態にある
ことから,中性化の進行が早い条件下にあると考えられ
るが,その傾向は見られない。左柱は東南東面に位置し,
日射および風当たりが良いため,雨がかりはあるものの
右柱に比べ乾燥状態にあったことが推察される。なお,
高架橋 R1, R2 に依存した違いはないため,同様の材料,
施工および環境条件であると推察し,左右の柱では環境
50
40
30
20
10
0
終
図-5
条件のみ異なると仮定した。
内
外
起
面方向のかぶり厚分布
帯鉄筋1本毎のかぶり厚(mm)
:右柱
:左柱
最大値
80
平均値
70
設計値32.5mm
60
最小値
50
40
30
20
10
0
柱名: R1C2 R1C3 R1C4
R2C1
R2C2 R2C3 R2C4
図-6 帯鉄筋 1 本毎のかぶり厚分布
(2) 面方向の中性化深さ
図-8 に,柱の外面と内面の中性化深さの関係を示し
た。なお,同じ柱かつ柱高さで測定した中性化深さを比
較した。一般的に,柱の外面は張出しスラブにより柱上
部で雨が遮られるものの,周辺に遮断物がある場合を除
き,雨がかりを受ける。一方,柱の内面は中間スラブ等
により雨がかりを受けにくい。34 箇所中 22 箇所で,内
面の方が大きい結果となった。なお,日照が悪い条件下
では,外面と内面の中性化深さの差が大きくなる 7)。日
当たりの良い左柱は,27 箇所中 12 箇所で内面よりも外
面の方が,中性化深さは大きい。一方で,調査数が少な
書に従い 55%とし,環境の影響の程度を表す係数 βe は乾
いものの,右柱では 7 箇所中 7 箇所で内面の方が大きい。
燥状態:1.6 と湿潤状態:1.0,コンクリートの材料係数
図-9 に,左右柱の外面と内面の中性化深さの平均を
γc はブリーディングによる品質低下がある場合:1.3 とな
示す。なお,平均中性化深さは,横梁下 5m での測定値
い場合:1.0,合計 4 パターンで中性化深さを推定した。
の平均値とし,高さ方向の影響を除去した。併せて,設
なお,中性化深さのばらつきを考慮した安全係数 γcb は
計で用いる乾湿状況やブリーディング等の影響を考慮
1.0 とした。左柱の外面の中性化深さの平均値が最も大
した中性化深さの推定式 8)による値を示した。ここで,
きく,右柱の外面が最も小さい。推定値を見ると,左柱
水セメント比は記録がないため定かではないが設計図
は乾燥状態 βe=1.6 とした推定値,右柱は湿潤状態 βe=1.0
2
-921-
中性化深さ(mm)
とした推定値に近いことがわかる。このことからも左柱
の外面は日射,風当たりが良く,乾燥状態に近い状態で
あると考えられる。
(3) 柱高さ方向の中性化深さ
図-10 に,柱下部と打継目直下の中性化深さの関係を
示す。ここでは,左柱に面方向の明確な傾向がないため,
全ての面の測定値を示した。なお,柱下部は横梁下 5.0m,
打継目直下は横梁下 0.5m の値である。打継目直下での
内面の中性化深さ(mm)
ブリーディングによる品質低下と,柱下部の自重による
終
内
外
起
35
平均値13.6mm
30
25
20
15
10 平均値22.0mm
5
右柱
左柱
0
C: 2 3 4 1 2 3 4 2 3 4 1 2 3 4
R1
R2
R1
R2
図-7 左右柱の中性化深さ(横梁下 5m)
35
コンクリートの締固め作用,および外面では水中養生状
態による品質の向上等により,柱下部と比較し,打継目
直下では中性化深さが増加する傾向が報告されている
6)
が ,本調査では柱下部と打継目直下の中性化深さに傾
向がなかった。柱の最上端を目視観察した結果(写真-
1),張出しスラブの水切り不良により,滞水跡があった。
柱上端部の中性化の進行が低下した原因の一つに,張出
30
25
20
15
10
0
0
しスラブからの流水・滞水の影響があったと考えられる。
3.3 目視による変状情報に基づく鉄筋腐食速度の検討
図-8
平均中性化深さ (mm)
供用中の RC 構造物を対象として,鉄筋の腐食量や腐
食速度を計測することは容易ではない。そこで,ひび割
れやはく離はく落といった目視調査により得られる変
状を基に,鉄筋腐食速度を検討した。なお,変状の発生
時期が特定できれば,経過年数から鉄筋腐食速度を同定
できるが,変状の発生時期は特定できないのが実態であ
る.そこで,本研究では変状率算出範囲を定義して,そ
図-11,12 に,目視による変状情報に基づく劣化予測
手法のフローと概要を示す。初めに,中性化測定位置を
中心に領域(以下,変状率算出範囲)を設定する。なお,
中性化深さの部位毎のばらつきを考慮して変状率算出
範囲を中性化測定位置中心に設定した。そして,鉄筋上
を 40mm のメッシュ単位で区分し,目視による変状情報
から領域内の変状率を算出する。ここで,メッシュ単位
βe=1.6, γc=1.0
βe=1.0, γc=1.3
10
βe=1.0, γc=1.0
5
0
外面 内面
左柱
内面 外面
右柱
左右柱の外面と内面の平均中性化深さ
35
30
25
20
15
10
5
0
5 10 15 20 25 30 35
柱下部の中性化深さ(mm)
(横梁下5.0m)
図-10 柱下部と打継目直下の中性化深さの比較
は 40mm の幅を持った RC 供試体を想定した。劣化予測
1),2)
βe=1.6, γc=1.3
15
打継目直下の中性化深さ(mm)
(横梁下0.5m)
(1) 劣化予測手法の概要
外面と内面の中性化深さの比較
20
図-9
に平均的な鉄筋腐食速度を同定した。
5 10 15 20 25 30 35
外面の中性化深さ(mm)
25
の範囲で,目視と劣化予測による変状率が適合するよう
は,鉄道標準に示す劣化予測モデル
左柱
右柱
5
を用いて,目視
0
による変状情報の処理と同一のメッシュ単位で,劣化予
測を行う。入力パラメータとして,中性化深さは変状率
るものである。本手法で同定した鉄筋腐食速度は,変状
算出範囲内では一定,帯鉄筋のかぶり厚は測定値を基に
率算出範囲でのかぶり厚の傾斜や中性化深さのばらつ
線形補間または補外,軸方向鉄筋かぶり厚は帯鉄筋のか
きから生じるマクロセル腐食等を考慮した平均的な値
ぶり厚に帯鉄筋径を加算した値とした。図-6 に示した
である。なお,設定した変状率算出範囲の寸法の影響は,
通り,帯鉄筋 1 本毎のかぶり厚の分布からはらみ出し等
小さいことを確認している。
(2) 柱高さ方向の分布から見る乾湿状態の影響
が小さいため,測定値の線形補間外とした。鉄筋腐食速
と同様に線形と仮定した。最後に,劣化
図-13 に,柱高さ方向の鉄筋腐食速度 vcnd の分布を示
予測による変状率と目視による変状率が一致する鉄筋
す。データ数は,10 個である。併せて,鉄筋腐食速度
腐食速度を繰返し計算により算出し,鉄筋腐食を同定す
3.0×10-3mm/年 1),2)を示す。これは,500×500mm の鉄筋
度は,文献
1),2)
3
-922-
コンクリートスラブの暴露試験で得られた平均的な鉄
図-15 に,かぶり厚,中性化残り,中性化深さと鉄筋
筋腐食速度であり,構造物の環境条件等に応じて,定期
腐食速度 vcnd の関係を示す。なお,柱高さ方向の影響を
的な検査から適切に修正することが前提の値である。変
除去するため,同一高さの測定値を比較すると,かぶり
状箇所との整合率は,58~100%で,平均 82%である。な
厚,中性化残り,中性化深さの影響度を区分して考える
お,変状箇所の整合率は,目視の変状箇所とそれと整合
ことは困難だが,かぶり厚,中性化残り,中性化深さの
する劣化予測の変状箇所の割合である。目視・打音調査
値が小さいほど鉄筋腐食速度が速い傾向にある。本結果
により,中性化残りが 10mm 以上で,かつ異物混入や外
では,横梁下 1.5m が横梁下 3.5, 5m と比べ,鉄筋腐食速
的接触等ではく離はく落したと考えられるものは除外
度が大きい。そのため,かぶり,中性化残り,中性化深
した。なお,図-6,図-9 に示した通りかぶり厚が大き
さと比較して,柱高さ方向による環境条件の違いが大き
く,乾燥状態にある柱内面には変状がないため,データ
く影響したと考えられる。
はない。データ数は少ないが,柱高さ位置が高いほど鉄
筋腐食速度が大きい。横梁下 1.5m で区分すると,鉄筋
水切り
腐食速度 vcnd は,横梁下 0.5~1.5m で平均 3.5×10-3mm/
年,横梁下 3.5~5.75m で平均 1.6×10-3mm/年であり,柱
張出しスラブ下面
上端と下部で約 2.2 倍の鉄筋腐食速度の差があった。
図-14 に,変状情報により同定した値 vcnd と環境条件
を考慮した鉄筋腐食速度式
縦梁
9)
による算出値 vcal との比で
柱上端
ある。なお,この鉄筋腐食速度式は,気温や表面含水率
縦梁
写真-1
の影響を考慮することができる。そこで,気温は気象庁
滞水跡の状況
現地調査データ取得
の過去 5 年の日平均気温の 16.2℃,中性化残りは測定値,
塩化物イオン濃度は全測定値の平均 0.23kg/m3,表面含水
2.入力データの仮定
1.目視による変状情報
率は 3, 4, 5%とした場合の値を比較した。vcnd/ vcal は,横
3. 劣化予測
梁下 0.5~1.5m では表面含水率 5%の値が 1 に近く,横梁
Rsp目視の算出
Rsp予測の算出
下 3.5~5.75m では表面含水率 3~4%の値が 1 に近い。柱
鉄筋腐食速度の修正
4. Rsp目視 = Rsp予測
上端部は柱下部に比べ,中性化深さおよび外観目視から
No
YES
5. 鉄筋腐食速度vcndの同定終了
Rsp目視:目視によるはく離はく落率
Rsp予測:劣化予測によるはく離はく落率
推定した通り,張出しスラブからの流水,滞水により湿
潤状態にあり,鉄筋腐食速度が増加したと考える。
(3) かぶり厚,中性化残り,中性化深さの影響
図-11
1. 目視による変状情報
・変状率算出範囲
1.5m
1.5m
1.5m
はく離
はく落
1.5m
2
2
2
0
0
0
0
0
120*120
0
0
0
2
2
0
0
0
0
0
140*300
0
0
2
2
2
0
0
0
0 3 .5m
0
0
0
2
2
2
0
0
110*250
0
0
0
140*260
0
0
2
2
2
0
0
0
0
・メッシュ単位
40mm
中性化深さ
鉄筋
2. 入力データの仮定
・中性化深さ:変状率算出範囲内一定
・帯鉄筋かぶり厚:測定値を基に線形補間外
・軸方向鉄筋かぶり厚:帯鉄筋かぶり厚+径
※帯鉄筋下以外は線形補間
コンクリート
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α√t
劣化予測モデル1),2)
調査時点
 r 腐食開始
ひび割れ はく離はく落
 rsp
 r cr
中性化残り<10mm
・線形仮定
鉄筋腐食速度
供用年数
鉄筋
腐食生成物
コンクリート
図-12
2
2
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2
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2
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2
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2
2
2
2
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2
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0
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0
0
Rsp目視=16%
中性化速度係数
かぶり厚(mm)
鉄筋腐食深さ
160*320
変状
:中性化測定位置
3. 劣化予測
4. Rsp目視とRsp予測の比較
■ 目視結果
Rsp目視
2.0m
目視変状情報に基づく劣化予測手法のフロー
20
10
0
0
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0
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300
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0
0
0
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0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
はく離
はく落
Rsp予測
■ 劣化予測結果
2
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
2
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2
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0
0
0
0
0
0
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
-923-
2
0
0
2
0
0
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0
0
2
0
0
2
0
0
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0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
Rsp予測=16%
変状箇所の整合率86%
※ 変状箇所の整合率:目視変状と整合した
劣化予測の変状箇所/目視の変状箇所×100
5. 鉄筋腐食速度vcndの同定終了
鉄筋腐食速度vcnd=2×10-3mm/年
:測定値
:推測値
600 柱幅(mm)
目視変状情報に基づく劣化予測手法の概要(R2C2・左柱・起点面の例)
4
2
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
2
終
0
起
鉄道標準1),2)
1
2
3
4
5
6
3%
4%
5%
7
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
0 1 2
4
6
8
10 12
vcnd/vcal
vcnd(×10-3mm/年)
図-13 柱高さ方向の鉄筋腐食速度 vcnd 分布
図-14 環境条件を考慮した鉄筋腐食速度式との比較
4.0
4.0
3.5
3.5
3.0
3.0
2.5
2.5
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
横梁下からの距離
横梁下からの距離
横梁下からの距離
0.5
0.5
1.5m 3.5m 5m
1.5m 3.5m 5m
1.5m 3.5m 5m
0.0
0.0
-15 -10 -5
0
5
10
0
5 10 15 20 25 30
0
10
20
30
40
中性化深さ(mm)
かぶり厚(mm)
中性化残り (mm)
(a)かぶり厚
(b)中性化残り
(c)中性化深さ
図-15 かぶり厚,中性化残り,中性化深さと鉄筋腐食速度 vcnd との関係
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
vcnd(×10-3mm/年)
vcnd(×10-3mm/年)
vcnd(×10-3mm/年)
外
横梁下からの距離(m)
横梁下からの距離(m)
0
1
2
3
4
5
6
7
4. 結論
pp.222-233, 2007.1
本研究で調査対象とした構造物では,かぶり厚が主に
3)
曽我部正道,谷村幸裕,松橋宏治,宇野匡和:鉄道
設計値および粗骨材の最大寸法より小さく,かつ中性化
高架橋の RC 高欄の変状調査とその劣化予測,コン
残りが 10mm 以下の場合に,鉄筋腐食による変状が発生
クリート工学,Vol.47, No.8, pp.16-24, 2009.8
していた。調査から得られた結果を下記に示す。
4)
片野啓三郎,久我龍一郎,久田真:塩害に対するコ
(1) かぶり厚は,柱高さ方向では柱高さ位置が高いほど
ンクリートの鉄筋保護性能の評価に関する基礎的
ばらつきが小さく,面方向では内面と比べ外面でか
研究,コンクリート構造物の補修,補強,アップグ
ぶ り 厚が 小 さい 。 全平 均 では 33.5mm と設計値
レード論文報告集,第 6 巻,pp.23-28, 2006.10
32.5mm よりも大きい。
5)
鬼頭直希,渡辺健,大木裕久,岡本大:コンクリー
(2) 中性化深さは,左右柱および面方向では日当たりの
トの体積変化を考慮したひび割れおよびはく離は
良い左柱の外面で中性化の進行が早く,柱高さ方向
く落発生限界腐食量の評価,コンクリート構造物の
では明確な傾向はない。
補修,補強,アップグレード論文報告集,第 14 巻,
(3) 目視による変状情報に基づき鉄筋腐食速度を同定
pp.639-646, 2014.10
する手法を用いて,鉄筋腐食速度の検討を実施した
6)
-3
谷村幸裕,長谷川雅志,曽我部正道,佐藤勉:鉄道
RC ラーメン高架橋の中性化に関する耐久性照査法
結果,鉄筋腐食速度は部位が湿潤状態では平均 3.5
-3
×10 mm/年,乾燥状態では平均 1.6×10 mm/年であ
の適用に関する研究,土木学会論文集,Vol.760/V-63,
り,その比は 2.2 倍である。
pp.147-157, 2004.5
(4) 鉄筋腐食速度に与える影響は,かぶり厚,中性化残
7)
り,中性化深さと比較し部位の乾湿状態が大きい。
轟俊太朗,曽我部正道,谷村幸裕,松橋宏治:実構
造物を対象とした複合劣化に関する影響因子の定
量評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.31, No.2,
参考文献
1)
pp.1519-1524, 2009
鳥取誠一,宮川豊章:中性化の影響を受ける場合の
8)
鉄 筋 腐 食 に関す る 劣 化 予測, 土 木 学 会論文集,
2012
No.767/V-64, pp.35-46, 2004.8
2)
土木学会:コンクリート標準示方書,pp.145-148,
9)
飯島亨,工藤輝大,玉井譲:コンクリート中の鉄筋
(財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理
の腐食速度に及ぼす気温の影響,鉄道総研報告,
標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物,
Vo.23, No.6, pp.11-16, 2009.6
5
-924-