漏電ブレーカ(ELB)の安全使用と漏電状況の調査 安全・安心な使用のための誤動作及び誤不動作の考え方、現場での漏電状況の具体的調査例 増永秀人(労働安全コンサルタント・電気部門) 九州産業コンサルタント協会 1.はじめに (漏電ブレーカとは?) 1-1.漏電現象及び発生する危険 1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う問題点 2.漏電発生時のブレーカ操作による停電復旧操作 (動作した時は?) 2-1.復旧手順 2-1-1.基本的な操作手順 2-2-2.手順実施時の注意事項 2-2.復旧できない場合 2-2-1.子ブレーカ全数切でも親ELBが入らない場合 2-2-2.子ブレーカが全数投入されても親ELBが動作しない場合 a)間欠的な漏電 b)設備特性 c)もらい動作(他設備不具合の影響) 2-2-3.親ブレーカが ELB ではない場合 (中性相欠相保護等) 3.ELB の取扱い (安全に使うためには?) 3-1.動作試験 (正常に動作するか?) 3-1-1.テストボタンによる試験 3-1-2.試験機による試験 3-1-3.試験時の注意点 3-2.設置方法及び選定 3-2-1.二次側接続設備の最適化 (誤動作の要因①・一次送り) 3-2-2.逆接続 (漏電検出回路の取り扱い) 3-2-3.動作電流・時延の選定(複数台数での協調・高調波対策等) 3-3. 使用設備の接地 3-3-1.共通接地によるもらい誤動作 (誤動作の要因②・ELB 専用接地) 3-3-2.外箱の接地不良等による誤不動作 (誤不動作の要因) 3-3-3.三相四線式 (誤動作の要因③) 3-3-4.非接地系等 (地絡過電流と地絡過電圧等) 4.漏電調査 (漏電している・漏電しているのではないかを調べるには?) 4-1.停電しての絶縁抵抗測定 (メガ測定) 4-2.停電しないで行う測定 (零相電流による推定) 4-2-1.臨時に行う方法 a)クランプリークメータ b)漏電現象の記録 c)活線漏電点標定器 4-2-2.常時監視を行う方法 a)絶縁監視装置(Io、Ior、Igr 方式) b)漏電火災報知器 4-2-3.設備運用状態との比較検討 (漏電記録の例) (date.2017/3/25) 1 1. はじめに top へ 漏電ブレーカ(ELB)は、ビル、工場、工事現場から家庭まで、多様な場所で漏電災害防止のために使 用される設備です。しかしながら、何度も落ちる・関係ないところまで停電する(誤動作)、使用している のにビリッとする・漏電火災が無いか心配だ(誤不動作)等のご相談もお受けします。安全・安心な使用の ためには、ELB 本体の取扱い、配線方法、絶縁測定調査から接地システム等の多岐にわたる要素が関連し ています。ここでは初歩的な取り扱いから漏電調査、各種の関連項目までの私がご相談を受けた、または ご説明のために調査検討した事項の取り纏めという形での記述を行います。操作をする場合はここまでで 良いとの区分は困難で、なぜか?を含めての周辺知識の習得も必要と考えています。 参考として ELB 内部の構造例を添付しています。九州産業コンサルタント協会ホームページへ戻り、ご 参照ください。 1-1.漏電現象及び発生する危険 top へ 漏電現象を簡単に言えば、電流の一部が大地へ漏れ出して帰ってこない現象となります。ケーブル、電 気設備の電圧がかかる部分(電路等の充電部)は、相間と同様に、大地(アース)間も絶縁体で被覆する・ 物理的な離隔距離を取る等で絶縁が取られています。絶縁が不良になると、電流の一部が大地へ漏れ出し て漏電が発生します。右図のように、ブレーカ出電流 I1 と戻 電流 I2 は健全な場合は同時同量ですが、漏電が発生すると、 ELB 漏電分の電流差があるものとなります。漏電した電流は拡散 I1≠ I2 して消滅することはありません。電気的な特性に従って、大 I1 地等を経過して電源である変圧器へ戻ります。 分岐ブレーカ 電路(配線) I2 漏れ電流は、ほとんどの場合はmA(千分の 1 アンペア)単 位の大きさです。工場等での動力用の完全地絡と呼ばれる事 漏電 故では最大 10A 程度までになります。mA 単位の電流でも、 設備 人体を流れるとけいれん等の障害を引き起こします。変圧器 へ戻る途中で水回り、金属製配管、建屋鉄骨等の予期できな いルートで流れ、感電災害を起こす危険があります。設備外 箱等に生じる電圧での電撃で転倒して頭を打つ、溺れる、高 所の足場から墜落する等の重大災害が二次的に発生する危険 火災 B種接地 発熱 漏電電流 感電 D種接地 もあります。継続すれば発熱で絶縁劣化が進行し、小さな電 流がどんどん大きくなり、局部的な過熱が発生します。ケーブル等では線間の絶縁が不良となって短絡し て大電流が流れると(地絡短絡と呼ばれる電気事故)、短時間で火災になります。 漏電災害はケーブル等での絶縁体劣化のみでなく、接触しないと信じ込んでいた部分への人体の接触、 電気配線の間違いなど、災害発生までは予想もしなかった原因による事例が多数あります。絶縁物の劣化 要因も雨濡れ・化学的劣化(使用環境) ・物理的劣化(ケーブルの無理な折り曲げ、振動) 、小動物の食害等 多種多様です。これらの要因はネズミがかじったケーブルが雨漏れで濡れる等複合することがあります。 電気使用設備までのあらゆる場所で発生し、漏電原因を完全に予防することは極めて困難です。 ※ 漏電発生時の電力増加 2 漏電すると電気料金はどれくらい増えるのか?と尋ねられることがあります。感電防止用 ELB の設定電 流 30mA が流れ続けたとして、100V での電力換算では 3W、1 か月では 3×24×30≒2.2kWh、電力料金 25 円/kWh とすれば 55 円/月となります。金額の増加としては、ほとんど認められません。ELB がなけれ ば、漏電は電力量増加等では知ることができず、感電・火災等の災害が発生して初めて気づく危険な現象 です。電圧 100V の電線等から電気が漏れるのに、小さな電流しか流れないことは不思議ですが、これは 国内の低圧電気設備の接地(アース)が電源の系統接地と設備外箱等の機器接地を別にとるように「電気 設備技術基準」で決まっているためです。 ※ ELB 動作と接地の関係 ・高圧部への波及 高圧 6600V 受電の自家用設備では、大きな漏電があると高圧まで影響して全停電になるのでは?との心 配をお聞きすることもあります。電圧変換は絶縁変圧器で行われ、高圧-低圧間は絶縁されています。低 圧部で大きな漏電が生じても(大きな地絡電流が流れても) 、漏電電流は低圧部を循環し、高圧部の故障と して検出されて停電となることはありません。やや専門的になりますが区分スイッチ(PAS)用保護装置 (SOG)の誤動作防止のためにも、低圧部の漏電を防止し、接地を良好にしておくことが必要です。 ・漏電が生じない電気火災 電気火災の原因である短絡(ショート)電流が設備内部で発生しても、接地が不適で漏電が発生せず、 ELB が動作しないことがあります。例えば絶縁性の壁に取り付けてあるクーラの接地工事が無い場合、内 部不良で短絡電流が流れても、外箱焼損等で漏電状態になるまで動作はありません。分岐(安全)ブレー カ等の過電流動作がなければ火災発生の恐れがあります。 ELB の安全安心な運用のためには、本体の取り扱いと同様に接地と漏電電流の関係の理解が重要です。 本体取扱いを 3-2 節に、接地との関連を 3-3 節で説明を行います。 1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う問題点 top へ 漏電ブレーカ(ELB)は、漏電成分(1-1 の図の I1 と I2 の差)電流を本体内部で常時検出し、絶縁不 良・安全離隔がなくなった等の発生原因に関係なく、自動的に開となるブレーカです。正しく選定された ELB が使用されている場合、漏電発生個所を停電させることで漏電による重大災害を防止することができ ます。 分電盤での ELB 使用例を示します。図・左は自家用設備(工場、事務所等)、図・右は一般用設備(家 庭)で使用されている分電盤の例です。一般用の場合はリミッタが ELB の前に取り付けられています。 リミッタ 親ブレーカ 子ブレーカ 3 電気結線図は図・右のようになります。ELB が親ブレーカとして全体 電源より 受電用に使用され、子(安全)ブレーカ B が 10~20 台分岐しています。 ブレーカ B は、分岐回路毎の短絡(コード又はコンセント等の電気品の ELB 故障) 、又は電気の使い過ぎ(タコ足配線で電気ポットを 2 台つないだ等) による過(大)電流での事故防止が目的です。ブレーカ B から電気が送 られている設備(負荷)のどこかで漏電が起きると、親ブレーカ(ELB) が動作し、分電盤全体を停電させることで漏電状況をなくします。漏電に 対しては安全が保たれますが、漏電していない健全な部分まで、同時に停 負 荷 へ 電するという電気の使用に対しての不具合が発生します。安全と利便性 B B B B B B B B B B B B B B 負 荷 へ のトレードオフ現象とも言えます。 ELB は分岐回路毎の使用が最良ですが、経費上等で、特に電灯(100V)分電盤ではコンセントなどへの 分岐(子)用には、 (漏電検出機能の無い)安全ブレーカが使用されることが一般的です。医療用設備等で 停電範囲を極小化する必要がある場合は、子ブレーカに ELB が使用されます。2-2-3 に概要を記述します。 一般用(家庭用)ではリミッタが親 ELB の前についています。リミッタは保安設備ではありません。電 気的な故障はなくても、全体の電流が取引上の契約アンペアを超過すると、動作して電 気の使用を中断させます。制限する電流により色別が定められています。使いすぎの原 因になった家電(ドライヤー、レンジ等)を停止してハンドル(レバー)を上げるとそ のまま入ります。子ブレーカも同様ですが、ELB はそのままでは入りません。電気事故 が発生したことを明示するために、ハンドルが図の「落ちた」と言われる中立(トリッ プ)位置になるので、次節 2-1 で説明するリセット操作が必要です。 自家用でも家庭用の盤と類似のものが使用されています。リミッタがなく、 ELB(親)と分岐ブレーカ(子)になっています。基本料金がリミッタによる契 約アンペア(A)ではなく、実測された電力量(kW)で別途決定されるためです。 小規模な動力で、 「負荷設備契約」 「主開閉器契約」が適用されている場合も同様 です。家庭用で取引用電力計がスマートメータになり、電流制限機能を持つ場合も同様にリミッタがない ものになります。電流超過となり遮断した場合は、一定時間後に自動投入されます。 ※ 点検時の安全対策 自家用分電盤の中扉(緑矢印)を開くと、母線(ブス)等の絶縁されていな い充電部(赤矢印)が露出します。中扉で覆うことで操作者との離隔(絶縁) を取り、安全を保つ構造となっています。家庭用の場合も外箱を外すと充電部 が露出します。中扉(外箱)を開いての点検・操作は、前述した接触しないは ずの部分(裸充電部)への接触による感電の恐れが大きい作業です。事業所で は、労働安全衛生法による低圧活線近接作業になり、 「低圧電気取扱教育」修了 者で行うことが必要です。ブスは触れやすい最前列が中性(接地)相となって のものがほとんどですが、使用する分岐ブレーカによっては極性(電圧がかか っている)相が前列になっている場合があり、特に注意が必要です。 以降、中扉を開いた状態での図も掲載しますが、技術員でない方は構造理解のための参考としてご覧く ださい。改造されていない分電盤で、中扉(外箱)を閉じた状態でのブレーカ操作は安全です。 4 2.漏電発生時のブレーカ操作による停電復旧操作 top へ ELB トリップ時の応急復電処置として、分電盤でのブレーカ操作による方法がよく利用されています。 分岐(子)ブレーカと親(ELB)ブレーカの操作により、分岐単位での漏電個所を見つけ、切り離すこと で停電を復旧させる方法です。特別な測定器等は必要ありません。 2-1. 基本的な操作手順 手順は、東北電気保安協会殿ホームページ(右図・参考資料 1)にわかりやすい説明が記載されていま す。一部引用して追記します。 ・手順 1 全ての子ブレーカを「OFF」にします。全ての 負荷設備が漏電部分も含めて切り離されます。 ・手順 2 親ブレーカ(ELB)のハンドルを「OFF」位 置まで押下げ(リセット)後、引き続いて「ON」位置ま で押上げます。漏電個所が切り離されているので ELB は 入ります。 ・手順 3-1 子ブレーカを数秒間隔で一つずつ、ELB が 動作するかどうかを確認しながら「ON」にします。漏電 個所がつながった子ブレーカが「ON」になると、漏電状 態になり ELB が動作します。その子ブレーカを再度 「OFF」にします。 ・手順 3-2 ELB を「ON」にして、他の子ブレーカをす べて「ON」にします。漏電個所以外の停電は回復します。 漏電個所のブレーカは「OFF」のままとします。別途の 点検修理が必要です。 この方法は、事業用・家庭用ともに行うことができます。しかしながら、かなりの割合で復旧できない 場合があります。東北電気保安協会殿ホームページにも、 「漏電ブレーカが動作したとき、原因を確かめな いで ON にすることは危険です。ON にする前に東北電気保安協会へ必ず連絡してください。 」のコメント がついています。復旧できない例を次節にご紹介します。 ※ トリップ位置のリセット ELB は電気故障を検出した場合、トリップ位置となり二次側を停電させます。漏電、又は過電流の故 障検出要素が作動した場合にのみ生じ、ハンドル 操作ではトリップ位置にすることはできません。 図・左がトリップ位置です。ハンドルの上側の緑 OFF と下側の赤 ON の表示が半分ずつ見える中立 状態となります。ハンドルを上げようとしてもフ ラフラするだけで、 「ON」位置にはなりません。ブレーカが壊れて「ON」にできないと勘違いすること もあります。ハンドルを押下げて図・中の「OFF」位置にすることでリセットされます。押し下げる途中 に、カチという感じの指先への感触があります。これが異常確認・リセットの操作になります。この後 で、図・右の「ON」位置とすることができます。図・右の「ON」位置のハンドルを手で押し下げると、 5 内部のバネの力で瞬時に「OFF」になります。 動作によりそのまま「OFF」になるものもあるので注意が必要です。事業所等で使用される 3 極の過電 流保護用(安全)ブレーカも同様の動作を行います。 ※ 漏電動作電流の設定値 ELB は、安全のために、設定(感度)値までに必ずトリップ動作するように作られています。実際には 定格不動作電流と呼ばれる、設定値の 1/2 以上から設定値までの間で動作します。感電防止用の設定値 30mA の場合は 15mA 以上 30mA 以下での動作が正常です。これに対して、過電流保護用(安全)ブレー カは設定値(例えば 20A)以上でなければ動作しないように作られています。このために、ELB は頻繁に 動作しすぎると感じられることもあります。 安全ブレーカは MCCB(Molded Case Circuit Breaker)又は NFB(No-Fuse Breaker・商品名)とよ ばれています。ELB も本来は ELCB と記すべきですが、本稿では一般的な ELB を使用しています。 2-1-2.手順実施時の注意事項 ブレーカ操作を行う場合に、実施した方が良い点をご説明します。 ・操作開始前の子ブレーカ状況の確認 手順 1 では、子ブレーカに「OFF」状態のものがないかを確認し、マークしてからの実施が安全です。 他の原因で「OFF」となっている場合があります。手順 3 での「ON」操作で、故障等で「OFF」処置され ていたブレーカまで間違えて「ON」にすると、除外されていた故障までもが再発します。平常から「OFF」 状態の子ブレーカには、表示をつけておくと安心です。 ※ 漏電という言葉が良く知られるようになったためか、電気が来ないのは漏電のためだ、との先入観を 持たれることがあります。ポット 2 台の同時使用等での電気の使いすぎでの子ブレーカのみの動作の場合、 蛍光管が 2 灯同時につかない等の現象は漏電による停電だとの思いこみもあります。ブレーカがどのよう に動作したかの確認のためにも、不具合発生前の状態をマーキングしておくことが役立ちます。 ・漏電表示ボタンの確認(過電流有無の確認) 手順 2 では、必ず、漏電表示を確認し、押し込んで復帰した後に「ON」にします。漏電動作では、表 示ボタン(この機種では黄色)が、図・右のような状態で表面から突出 します。 「ON」操作により自動復帰するものもありますが、事前の手動 復帰が可能です。一般的な ELB は漏電流での遮断機能も持っています。 過電流の場合には表示ボタンが突出しないままでトリップ動作します。 ELB が動作したので、漏電ときめてかかることはできません。復帰させておかないと、次の動作が過電 流であっても、漏電によるものと間違える原因となります。 ※ ELB の過電流動作 一般的な ELB は、電磁機械力で異常過電流の遮断を行う安全ブレーカを、漏電検出回路で動作させる 構造になっています。 「ON」にすると、ELB 本体から「ビビビ」等の異音・振動等があってトリップす る場合は、二次側の短絡等が継続しているための過電流トリップの状態です。漏電のみの動作は、電流は 通常の負荷電流の範囲内であるので、内部のバネの動作音だけでトリップします。分岐(子)ブレーカが 6 劣化している場合等に、親 ELB が先に過電流動作する場合があります。 過電流の原因となる引出配線の短絡、コンセントの破損、電動機故障等は常に予 想しておかなければならない事態です。右図は、分電盤内で小動物が持ち込んだ異 物により、母線が短絡の直前となっていた例です。短絡の衝撃で原因となった小動 物等が外れてしまうことが多いので、異物、糞等の侵入跡がないかの日常目視点検 が事故防止に有効です。こまった異物としては、盤内に金属工具等が仮保管されて いることもあります。測定器による二次側の調査と、配線・端子が黒く変色してい ないか?焦げたにおいが無いか?緩んでいるところは無いか?の目視点検が有効です。 ・漏電表示ボタンの形状、配置 漏電表示ボタンの色は、白、黄色が一般的ですが、メーカ・製造年代により各種のものがあります。 上図の緑矢印がいずれも動作表示ボタンです。赤矢印は、後述する手動試験ボタンです。上図以外にも 色・配置は様々なものがあります。漏電表示は黄色ときめてかかるのではなく、文字(試験・TEST)表 示を確認することが必要です。漏電表示の復帰忘れと勘違いして、試験ボタンを押して停電させること は、残念ながらよくある事故です。 ・その他の ELB の表示 漏電保護専用のものです。試験ボタンのみがあり、緑色が一般的です。漏電表示ボ タンはありません。過電流の遮断(消弧)能力は無いので、電源(一次)側に過電流 保護(安全)ブレーカが必要です。改造等で、既設の回路に漏電保護の追加が必要に なった場合等に使用されます。古い ELB では過電流保護兼用であっても動作表示がな い場合もあります。 配線(子)ブレーカと同様の形状のものです。親ブレーカが ELB でない場合等 に、漏電保護を分岐回路毎に行う場合に使用されます。左側は遮断容量 30A、右側は 遮断容量 20A です。過電流遮断兼用ですが、漏電表示はないので、動作状態はハン ドル位置による確認になります。トリップ位置もなく、漏電で直接「OFF」位置にな ります。 2-2. 復旧できない場合 基本的な手順では復旧できない場合があります。漏電ブレーカの表示に各種のものがある以上に、実際 の使用状態は千差万別です。接続されている各種の設備の特性も複雑に関連します。分電盤にはブレーカ 以外のものも設置されています。原因調査には、一定の知識と経験が必要です。専門家に依頼すべきもの ですが、状況と概要を理解しておくことは、安全操作のためにも必要です。3 例に分類して記述します。 ① 手順 1 で全ての子ブレーカを切っても、手順 2 の親 ELB が入らない場合 ② 手順 2 のあと、手順 3-1 で全ての子ブレーカを入れても親 ELB がトリップしない場合 7 ③ 設備構成が異なる(親ブレーカが ELB でない)場合 2-2-1.すべての子ブレーカが切でも親 ELB が入らない場合 a) 絶縁不良個所が分離されていない場合 子ブレーカ全数 「OFF」でも、 配線の状態により絶縁不良個所が分離されていないため、親ブレーカ「ON」 で漏電状態となり、親ブレーカが再トリップすることがあります。 ・ELB と子ブレーカの関係が違う場合 一つの分電盤に下図のように二台の親 ELB があることがあります。二つの親ブレーカと、子ブレーカグ ループの関係を盤面から判断することは困難です。親子関係(親 ELB と子ブレーカの関係)は内部確認を 行うとわかりますが、停電時には、その余裕はありません。間違えて、関係のない子ブレーカを切ると、漏 電回路の切り離しはできないため、親 ELB は「ON」入になりません。 BE BE BE B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 上下分割 左右分割 親 ELB が二つある例(中扉表面) 盤の内部ブス BE 電気結線 この盤は左右分割で左 ELB が左半分、右 ELB が右半分です。同様の盤では上下分割で、左 ELB が上半 分、右 ELB が上半分の場合もあります。ブレーカの関係を確認して盤面に表示し、停電時には慌てないよ うにしておくことが早期の停電復帰につながります。 ・ELB の二次側から外部への電源引出線がある場合 親 ELB の二次側母線から負荷ケーブル(外線)が引き出されていることがあります。図では赤白黒のケ ーブルが引き出されています。離れた場所に孫ブレーカのある分電盤があると考えられます。孫ブレーカ 後に絶縁不良があると、子ブレーカの全 数を「OFF」としても絶縁不良個所の切 BE り離しはできません。孫ブレーカを 「OFF」とする必要があります。分電盤 の増設等で、安易に電源引き出しを行っ たと考えられます。結線図の「どこか に?」の増設分電盤は、炊事場の奥、本 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B どこかに? 棚の後ろ等、見つけにくい場所にあることが普通です。引出線をつける場合には、結線図の○印の場所に、 法規により分岐ブレーカ等を設置することになっていますが、節約されて直接引出になっている場合がほ とんどです。前例と同様に、平常時に確認し、分岐(子)ブレーカを設置しておくことが必要です。 8 ・制御用電源の引出がある場合 負荷ケーブルと同様に、制御用電源が直接引き出されているこ とがあります。図・左は受電ブレーカ一次側からの例、図・右は 二次側母線から引き出されている例です。いずれもネジ止めの黄 色(IV)線が制御電源の引出部です。動力盤の場合は三相のうち 2 相が単相 200V として使用され、R1、S1 等の線番号が付けら れています。制御回路は安全だという発想ですが、屋内盤でも雨 漏れ・空調配管の結露による水滴等で水濡れして、防水性能が弱 いコントローラ等の内部に浸水することがあります。リミットス イッチ等が屋外現場に引き出されている場合もあります。分電盤 であっても、タイマー、マグネット等の制御要素が付帯され、制御盤に近い状態になっている場合等は制 御回路のワタリが多く、切り分けは極めて困難です。ネジ等を外しての漏電調査は、時間がかかり副次的 な障害の危険もあります。制御電源引出点の見やすい場所に 2 極式のブレーカを設置しておけば安全に切 り分けができます。 ・ニュートラルスイッチがある場合 古い分電盤で、1 線切(片線切)のブレーカが使用されていることがあります。他の 1 線(白色線の接地 側)は図・左のように盤下部の黄色の接地集合端子(ニュートラルスイッチ)につながっています。スナッ プ型(左図)とプル型(右図)があります。ブレーカとブレーカに一対一で対応するニュートラルスイッチ を同時に開放しなければ、2線切型ブレーカと同様の切り離し効果は得られません。古い分電盤での使用 が多く、劣化によりレバーが折れて再投入不能になることもあります。ブレーカ操作による調査はできな いと考えることが安全です。 操作の後、ニュートラルスイッチの入忘れ・投入不良があると「中性相喪失」という異常電圧が発生す る故障になり、接続されている電気品の焼損等が生じることがあります。左図ではニュートラスイッチ 2 台が運用中でも開放されています。調査後、間違えて入りとすると、事故発生の恐れがあります。通常の 2線切型ブレーカに更新することが最良です。 b) ELB 不良の場合 ELB は漏電と過電流の二つの保護機能を持つため、不良を発生しやすい装置です。概ね 15 年~20 年が 更新時期とされていますが、大幅に超過して使用されている例がよくあります。分解修理は不可能で、故 障時には更新が必要となり、停電復旧には交換品手配を含めての時間がかかります。思いもしなかった不 具合が起きるのが事故です。劣化が進んだものは事前の更新が必要です。 9 右図はトリップして「ON」にも「OFF」にもならなくなった故障例です。電 灯分電盤で子ブレーカ 4 台を持つ受電(親)としての使用です。電圧測定で一次 側は正常、二次側は無電圧で、開放中であることは確認できました。漏電表示は 不動作、ハンドルは中立(トリップ)位置で上下のどちらへもフニャフニャの状 態でした。撤去したあと、原因は不明ですが「OFF」可能となりました。動作試 験では、22.5mA で動作しましたが、再度、 「OFF」にならなくなりました。ハンドル操作のリンク機構に 不具合があったと判断されます。子ブレーカの一つの二次側の相間が短絡していたので、子ブレーカの動 作前に過電流で動作し、そのまま機械的不具合になったと考えられます。子ブレーカの劣化と親ブレーカ 30A、子ブレーカ 20A で短絡感度が近いことが原因である可能性があります。 ・機械的な不良 ハンドル機構はリセット操作も含めて精密なものです。内部のラッチ等が甘くなり、「ON」位置に固定 できないことがあります。ELB は「ON」時のハンドル押し上げの力で内部バネを圧縮(蓄勢)し、リンク 機構により固定します。ハンドルの上げ操作には硬さがあり、正常であれば途中からカチンと入ります。 手動「OFF」は圧縮バネの開放によるため、通常は少し下げるだけで、そのまま動作しますが、不具合が あると引っかかったような状態で動作することがあります。 「ON」位置であるのに二次側の設備が使用できない場合があります。ハンドルと主接点は一体構造でな いため、接点は閉じず、回路的には「OFF」のままとなっているためです。確認には一次と二次の電圧を テスタで確認することが必要です。検電器ではケーブルの誘導による電圧も検出されることがあるので不 確実です。検電器は電圧が無い事を確認するものです。同様の現象は MCCB でも発生します。 ・内部制御回路の不良 漏電検出回路が誤動作を行うと、ハンドルを上げて制御回路が活きると同時にトリップ動作になります。 漏電が継続している場合と同じ状態です。二次側が漏電していないことの確認(二次側絶縁測定、子ブレ ーカ等の目視確認)と本体劣化状態からの推測になります。三つ目の保護機能としての 2-2-3 の中性相欠 相保護がある場合は検出リード線を外すことで ON 位置になり、線間電圧等にも異常はなかったことがあ ります。リード線が結線されていなくとも「ON」動作への影響はないとされています。 ※ 誤動作と誤不動作 設備安全には、 「誤動作」と「誤不動作」の考え方があります。ELB にとっての「誤動作」とは二次側に 不具合が無いのに「ON」でなくなること、 「誤不動作」とは不具合があるのに「ON」になることです。安 全の立場からは、「誤動作」は許容できても、「誤不動作」は許容できません。上記の ELB 不良の場合も 「ON」にはなりませんが、二次側は無電圧のままなので、感電等は無く電気的には安全側です。予防保全 としての更新が必要です。 2-2-2.すべての子ブレーカが投入されても親 ELB がトリップしない場合 手順 3 で、親 ELB がトリップしないことがよく発生します。ELB を「ON」にする時点では漏電状態が なくなっているためです。二次側設備の不安定な漏電、設備特性による ELB の誤動作、他の個所の漏電に よるもらい動作の場合等があります。そのままにしておくと、再度停電することも起こります。4-2 に説明 する、漏電個所調査を行うことが安全です。 10 a) 間欠的な漏電 ・不完全な絶縁劣化が生じている場合 停電中に絶縁が回復することがあります。コンセント口等の水濡れ、屋外照明灯の劣化 等が考えられます。ELB は「ON」になりますが、時間がたって漏電状態に戻れば、トリ ップします。雨漏れ、水道等の漏水調査、ふらついている照明などの周辺調査が有効です。 右図は 1/4 まで水が溜まっていた屋外照明灯グローブの例です。この状態でも連続した漏 電は発生していませんでした。通常は、通電しておけば電流による発熱で絶縁は回復していきますが、そ うでない場合もあります。 ・故障機器が切り離されている場合 絶縁不良の電気品を使用しようとして、コンセントに差し込んだとたんに停電したため、停電に驚いた 人がコンセントから、あわてて引き抜くことがあります。漏電原因が消滅しているため、ELB は入ったま まになります。寮等ではよくある現象です。 「電気修理が得意」な人がいないかを聞き出すことも有効です。 分電盤には制御機能のある部品も組み込まれています。図・左はリモコンリレーです。壁等にあるスイ ッチの入切りで照明の個別の点灯・消灯を行います。図・ 右はマグネットスイッチです。複数の外灯等の一括入切 り、ポンプの起動停止等に使用します。リモコンリレー が OFF 表示になっている場合、マグネットスイッチの 中央部(赤矢印)が引込んでいない場合(OFF の状態) では、接続機器は切り離されています。一度停電すると、 盤面または他の個所に取り付けられたスイッチから入り操作をするまでは停止のままです。絶縁不良であ っても切り離し状態であるため、漏電はなくなり、ELB は入ったままになります。スイッチで入りになる と、その時点で漏電が再発します。ELB を入れた後、普段は動いているのに停止している設備がないかを 探すことが有効です。 動力回路ではリレー等による自己保持と呼ばれる電気制御回路が使用されるため、よくある現象です。 電灯回路ではスナップスイッチなど、機械的にそのままの状態となっている場合が多いので、あまり発生 しませんが、確認する必要があります。 ※ 勘違いによるマグネットスイッチの危険な操作 設備の動作中にはマグネット引込みであることを知っている人が、漏電表示と勘違いをして、マグネッ トを指等で押しこむことがあります。極めて危険です。二次側が短絡状態の場合、押し込んだとたんに大 電流が流れて墳破し、重大な人災になる恐れがあります。漏電により動作するものは ELB のみです。マグ ネットは ELB 動作による停電で、安全に電源がなくなったことによる OFF 動作です。マグネットスイッ チが付属のサーマルリレー(過電流保護装置、通常はマグネットの下)で動作している場合は、更に危険 です。必ず専門員による点検が必要です。 b) 設備特性による「誤動作」場合 ELB 二次側に接続されたサーバ用無停電装置等により誤動作が生じることがあります。漏電は出て行っ た電流が帰ってこない現象です。無停電装置は、ある意味で電流をため込む装置です。漏電判断は時間的 11 な平均値ではないために、タイミングの関係でため込まれた電流は帰ってこないと判断され、漏電として 検出されることがあります。偶発的な誤動作になります。無停電装置の安定運用のためにも、ELB 二次へ の接続から、3-2-1 に示す一次送りへの変更が必要です。同じような現象がノイズフィルタ等の静電容量分 (キャパシタンス)の大きい機器でも生じることがあります。 c)他の系統からの「もらい動作」の場合 電灯回路に発生が多くなっている誤動作現象です。動作した ELB の二次側でない設備の大きな漏電等に より偶発的に発生します。系統の異常であり、ELB の異常ではありませんが、運用上では誤動作になりま す。自系統の漏電ではないため、ほとんどの場合、そのまま復帰します。「もらい動作」の理解が無いと、 どこが悪いのかわからない状況で不要な調査に時間を取られることになります。インバータ設備等の対地 容量(キャパシタンス)の大きな設備が多くなっていること、接地系統が旧来のままであること等が原因 と考えられます。詳細は 3-3-1.ELB 使用設備の接地に記述します。もらい動作が疑われる場合は、2-1 の 子ブレーカの操作前に、まず再投入してみることも方法の一つです。 2-2-3.親ブレーカが ELB ではない場合 ・中性相欠相保護ブレーカ 電灯分電盤で中性相欠相保護専用ブレーカが使用されている場合です。テストボタンがあり、ELB にそ っくりですが、漏電ではなく、中性相欠相による線間電圧の異常高(135V 以上)で動作します。動作表示 ボタンは電圧異常で突出します。漏電保護としては子ブレーカに ELB が使用されます。動作した場合は中 性相欠相を改修しなければ、再投入はできません。強引にブレーカ投入操作を行うと、二次側の設備に異 常電圧がかかり、絶縁破壊を起こす場合があります。矢印の白色リード線が電圧検出用のリード線で、ブ レーカ二次側の中性相(対地電圧 0V)に接続されます。分解可能なブスの場合は、それ以上は分解できな い末端部が、検出リード線の接続位置です。 左:ブレーカ全体配置 中:親ブレーカ(中性相欠相保護)右:子ブレーカ(配線用 ELB) 事故時の誤操作防止のためには、ブレーカの横に「ELB ではない」等の表示をつけておくと安全です。 親ブレーカの漏電動作による停電は無いので、次節の 3-2-1 の「一次送り」の配線は不要です。図・左でも 一次送りブレーカ取付け用個所は空になっています。子ブレーカ上段の操作禁止用の赤キャップが付いて いるところが非常灯等の回路で、安全ブレーカが使用されています。 12 ※ 中性相欠相による障害 り、共に 100V ですが、中性相が図の×点で断線(欠相)すると基準 点がなくなり、電源変圧器の 200V が負荷の抵抗分である R1 と R2 200V 電源変圧器 V1= で分圧された電圧になります。R1>>R2 の場合、V1≒200V になり ます。中性相欠相で、通常 100V が最大 200V まで大きくなります。 V1 R2 100V 線間電圧 V1 と V2 は、中性相が健全な場合は接地点が電圧基準とな V2 で単相 200V の中点を接地して中性相が作られています。それぞれの R1 100V 電灯 100V で使用される単相 3 線式は、右図のように、電源変圧器 R1 × 200 R1+ R2 B種 接 地 中性相に電流が流れない、R1≒R2 の場合は欠相しても 100V 近くが維持できますが、不要な設備も点灯し たままにする等の対策が必要となり、実用上困難です。 中性相欠相と漏電が同時に発生すると、大きな事故になることがあり えられます。片線が漏電での接地状態となり、漏電していない側の対地 電圧が電源変圧器の発生電圧である 200V になったと考えられます。漏 2 00 V R1 電源変圧器 漏電 電していない側の回路で、タイムカード、コンピュータ等の電子回路使 用の設備がほぼ全数破損となっています。電子基板に D 種接地があり、 R2 示します。漏電発生以前にも若干の線間電圧異常が発生していたとは考 1 00 V 欠相状態で、屋上分電盤の雨漏れによる漏電が発生した事故例を右図に 1 00 V ます。ナイフスイッチの爪付きヒューズの中性相ネジ緩みによる中性相 B種 接 地 対地電圧の異常が基板内での電圧差となったと考えられます。100V 配電は、200V 配電に比べて安全なシ ステムですが、中性相が健全であることが絶対条件です。 ※ 中性相欠相保護のためのブレーカ更新 かつては、図・左のナイフスイッチ(KS)が多用され、中性相欠相がヒューズの緩み・劣化断線、歯受 け、ケーブルの緩み等で多発していました。なぜか?中性相を選んで劣化 が生じるともいわれ、中性相にはヒューズではなく、断線のない銅線が使 用されるなどの対策も取られていました。中性相欠相が生じても電球が切 れる程度の事故でしたが、最近は電子基板焼損等の大きな損害が発生しま す。KS は全相同時遮断を行うブレーカに更新することが安全です。ブレー カは同容量の KS よりも小さいので、盤改造などなしに更新できます。KS の二次側に母線がない場合も多く、図・右の例では欠相検出リード線(白)を二次側端子に直付けにする ことで対応しています。現在、内線規程 1375-2 により、単相三線式に使用する ELB は中性相欠相保護付 きとするようになっています。 三相 200V 動力では線間電圧が 200V であるために、中性相欠相による異常電圧での障害は発生しませ んが、ヒューズが 1 本だけ断線すると、欠相運転という異常状態になります。奇妙な部分停電、電動機の 回転異常・大電流による焼損等の事故が発生します。100V 電灯と同様に、残存している KS はブレーカに 更新することが安全です。 ・漏電警報付き過電流ブレーカ 13 漏電を検出してもトリップ動作が無いブレーカです。表示灯(緑矢印)が点灯し、警報出力で分電盤の ブザー等を動作させます。工場等で漏電時も安全のために二次側を停電させたくな い場合に使用されます。労働安全衛生法等で ELB の設置が義務付けられている場 所への使用はできません。2-1 節のブレーカ操作による漏電復旧は、親ブレーカは 「ON」のままなので、表示灯による確認になります。トリップ動作は過電流によ り発生するので、トリップの場合の子ブレーカ操作による調査は危険です。二次側 の短絡等の調査が必用です。 メーカにより本体が白色のもの、オプションで漏電トリップ要素を付加する場合もあります。本体表面 に「漏電アラーム」等の表示があります。 ・親ブレーカの省略 もっとも困るのが、親(受電)ブレーカがない分電盤です。図・左がその例で、端子台で受電されていま す。漏電時には他所の送電元 ELB が動作することがありますが、ブレーカ操作による復旧は不可能です。 受電ブレーカは漏電・過電流の保護のみでなく、系統の安全な分離も目的としています。分電盤整備で 停電が必要な場合は、電源のブレーカ(キュービクル配電盤等) を探し出す必要があります。図・右は部分停電ができない状態 で改造を行い、工具による母線短絡で盤内を焼損させた例で す。二次側の母線撤去・ケーブル仮設等の応急修理を行った後 のものですが、中扉裏側の焼け跡からも事故の激しさはわかり ます。受電端子の一次側ケーブルに着火しなかったので、建屋 火災にならなかったのが、不幸中の幸いでした。受電ブレーカ があれば、漏電(接地)又は過電流(短絡)でのブレーカのト リップで終わっています。中性相欠相を含めて、事故は無いと過信するのではなく、受電ブレーカを設置 することが安全のために必要です。 親ブレーカ、子ブレーカ共に ELB が使用されていない電灯分電盤もあります。頻繁な停電は操業に悪影 響を与えるという理由のようですが、同様に不安全な設備です。 ※ 分岐盤 電源分割のための「分岐盤」として設置された後、ブレーカが増設されて分電盤同様になっていること があります。 「分岐盤」からの配線先は受電ブレーカを持つ分電盤であり、個別設備への直接の配線は行わ ないようにする注意が必要です。 3.ELB の取扱い top へ ELB は本体内に漏電検出機能を持つため、配線用(安全)ブレーカにはない注意点があります。誤不動 作がないことを確認する動作試験と、誤動作を防止するための設置時の注意点の概要を説明します。 3-1.動作試験 3-1-1 テストボタンによる試験 使用(受電)状態で、本体表面のテストボタンを押すと実働でのトリップ動作試験ができます。負荷側 が停電してもよい状態での試験になります。 14 テストボタンの色と位置は 2-1-2 節のように各種のものがあります。ボタンの近くに「試験・TEST」等 と表示してあることを確認することが必要です。1 か月に 1 回程度の試験が推奨ですが、ほとんど実施さ れていないのが現状です。テストボタンは ELB 内部の漏電検出部に模擬電流を流す、軽く・短く押すだけ で動作する電気的なスイッチです。分電盤点検中に誤って触れ、動作させてしまうこともあります。強く、 長く押すことの効果はありません。押したままにすると、本体が焼損することがあります。テストボタン を押したままで動作しなければ、制御回路が動作のままとなり、過熱するためです。3-2-2 の逆接続の節に 制御回路の接続図の例を示しています。 一部の ELB と殆どの MCCB には、過電流引外 し機構を機械的に動作させる、押し込み式のトリ ップボタン(push to trip)があります。押込むこ とで、トリップ位置になります。MCCB では赤色 が多いようですが、テストボタン同様に各種のも のがあります。動作表示はなく、ハンドル位置で確 認します。 停電中にはテストボタンを押しても制御電源がないために動作しません。地震などの停電中にはハンド ルによる手動での「OFF」操作が必要です。トリップボタンは機械的な引き外しなので、停電中又はハン ドル機構損傷であっても動作します。トリップ動作は内部の蓄勢されたバネにより、いつでも可能である ことがブレーカの責務となっています。 3-1-2 試験機による試験 漏電していないのに動作しているのではないか?等の疑問は試験機で判断することができます。制御回 路単独での試験はできないため、ELB 動作を伴うものになります。動作電流と動作時間を測定することが できるもの、動作時間のみの測定ができるものなど、各種の試験機があります。 右図は受電状態で、全自動で動作電流と時間(時延)を測定する乾 電池式の専用試験機です。テストボタン試験と同様に実動作(二次側 停電) を伴う試験になります。15mA、 30mA、 50mA、 100mA、200mA、 500mA を設定しての試験ができます。黒プローブを電源接地極、赤 プローブを負荷極に当てることで全ての試験が終了します。プローブ を 200V 受電状態の端子につけても安全なように設計されています。 3-1-3 試験時の注意点 受電状態では、試験方法によらず、制御装置(電気的)又は主接点(機械的ラッ チ機能)の動作不良で、本体が焼損することがあります。右図は動力用 ELB の試 験機による試験で、不良判定が出た直後に発煙し、そのまま焼損した例です。下 部の黒い箱の部分(制御装置)の黒化とその上の主接点にアークの跡が認められ ます。手動試験でも、試験ボタンを押して動作しなかったあと、数分後に焼損す る事例があります。押釦からの電撃、火炎噴出で驚いて点検台を踏み外し、転倒 しケガをするなどの二次災害もあります。手動、自動共に、試験で動作しない場合 は、できるだけ早くハンドルによる手動「OFF」操作をすることが安全です。私は、 15 試験を行うときは火炎噴出に備えて、ELB 本体の斜め前に立つことにしています。 ※ 単体試験の例 単体試験専用装置を使用しない、ELB 単体での例を示します。試験には制御回路を活かすための試験電 圧と、作動させるための試験電流が必用です。試験電圧は一次側の制御電源極である左極と右極に印加し ます。試験電流は ZCT 貫通の試験線への供給ができないので、主 配線に試験機の試験電流を流します。図では、電圧を IPR の PUN 出力で、試験電流を全自動試験機で供給しています。 試験電圧の確立は、テストボタンで確認できます。この場合は 電圧 70V 以上で動作可能になりました。試験電流は一次右極(白 矢印)に一次接地側プローブ、二次左極(赤矢印)に二次負荷側 プローブに取っています。供試の ELB では 30mA 設定で、最少 動作値 15mA との中間値である 22.5mA で動作しています。漏 電検出機能が正常であると判断できます。 試験電流の流し方が PAS 用 GR(Kt、Lt がある)等と最も異なるところです。SOG 試験機を使用して、 補助電源で試験電圧、 中相に試験電流を流すことでも動作電流の試験は可能です。 感振装置による受電 ELB 動作も、同様の方法が使用されている場合があります。 3-2.ELB の設置方法および選定 3-2-1 二次側接続設備の最適化(一次送り) ・ELB の二次回路の接続が不適であるために生じる不都合 ELB は漏電又は疑わしい場合に、 速やかに動作し、 二次側を停電させることで安全を確保する装置です。 誤動作は安全側動作として許容されると考えられます。二次側は停電しても障害の少ない機器を接続する ための電源となります。サーバのように人間が内部に触れることがなく、ELB の誤動作を誘発する特性を 持つ設備を接続することは不適です。 逆の事例として、サーバを他の回路(例えば炊事場コ ンセント)と並列に接続することでの不都合がありま す。厨房用コンセントとサーバが同じ ELB の二次側に あった例を右図に示します。ポットからの溢水→コンセ ント水濡れ→漏電→ELB 動作→サーバ停電が多発しま した。天井裏ファンコイルなどの結露、外灯の水濡れな どでも ELB は動作します。増設等で、空いているブレ ーカから安易にサーバの電源が引き出され、このような ポット 漏電 停 電 BE B B B B B B B B B B B B B B B B 水漏れ コンセント 炊事場 パソコン室 配線になったと考えられます。 ・一次送りによる電源分割の最適化 停電の障害が大きい設備、火災報知器、誘導灯等など、漏電時でも最後まで機能を維持することが必要 な設備は、ELB 二次側ではなく、一次送りとしておくことが安全です。ブレーカを別の場所に取り付ける 方法(A)と分岐ブレーカの一次側配線を変更する方法(B)とがあります。下図・左が電気結線図、中が 16 (A)の例、右が(B)の例です。 (A)は誘導灯等で最初から設置される場合、 (B)は増設等の場合に多く 使用されます。矢印がそれぞれの一次送りブレーカです。 B BE B A B B B B B B B B B B B B B B B B B の場合は配線がわかりにくいので注意が必要です。この例では他の子ブレーカが次節での逆接続となっ ており、さらにわかりにくい構成になっています。 一時送りの回路は漏電に対する保護が無くなるので、専用電源として、予備のコンセント口はつけない 等の、他の目的での使用はできないような処置が必要です。親ブレーカが ELB でない場合は、漏電保護の 必要性に応じて、分岐ブレーカに ELB と過電流ブレーカを使い分けることで対応されています。中性相欠 相保護付きの場合にも、誘導灯等は一次送りとなっている場合もあります。消防法等の見解があると考え られます。 ※ 安全確保のための電源分割 ELB 二次側での不用意な分岐を行うと、工場の製品検査設備が、使用していない老巧化した建物の雨漏 れで停電する等、事業所運営にかかわる場合もあります。対地静電容量の大きな設備が増設されると 3-31 のもらい動作のおそれも大きくなります。受電が過電流(安全)ブレーカの場合でも、医療用コンセント 二次側に雑用コンセントが並列で増設され、故障している掃除機使用で過電流動作して救命設備までが停 止すること、保安上もっとも重要でキュービクル配電盤から直接引き出すべき高圧受電用 PAS の SOG 電 源が、現場分電盤引け出しに改造され、低圧部の事故で全停電することもあります。空いている場所から 電源分岐するのではなく、使用設備の目的・特性に併せて適正な電源分割を行うことが必要です。 3-2-2 逆接続 ・ELB の逆接続 ELB は原則として上側が電源(一次) 、下側が負荷(二次)ですが、分電盤配置の関係等で逆になってい ることがあります。下側が電源、上側が負荷となる配置です。下図・左に通常接続と逆接続の単線結線図 を示します。下図・右が実際の配置です。左端の親ブレーカの下側が電源で上側が二次側母線です。単線 結線図では面倒な接続のように見えますが、実際の配線では、すっきりとして電線も節約されたものにな ります。 17 電源 上 上 BE BE 下 電源 下 B B B B B B B B B B B B B B B 通常接続 B 逆接続 ・逆接続での注意点 逆接続は「逆接続可」の表示がある ELB の使用が必要です。図・右がその例です。 本体に「逆接続可能」の表記があります。逆接続可でない ELB を逆接続で使用した 場合、本体が焼損することがあります。ELB の故障検出部は制御電源を下側からと っているためです。 逆接続不可(逆接続可の表示が無い場合)の制御回路の例を下図に示します。ELB 表面に示されていることがあります。漏電検知回路動作又は試験ボタンでトリップ コイル(TC)に電圧がかかり、機械部分を駆動して主接点が OFF になることを示 しています。上側が受電であると、動作により下側である制御電源も停電しますが、 逆接続では動作後も充電されたままとなります。TC は短時間定格であるため、制 御装置の動作状態によっては過熱焼損する場合があります。手動試験で主接点が開 動作できないまま、試験ボタンを押したままの状態と同様です。逆接続可では図の 矢印の位置に主接点連動のリミットスイッチ(LS)が付けられ、制御電源を停止す るようになっています。LS は「メガテスト切替」として手動単独で操作できる場合もあります。 負荷電流の電磁機械力で過電流動作する MCCB は制御回路がないため、この問題は発生しません。逆接 続では、ブレーカ切位置でも下側(一般的な二次側)は充電のままです。ブレーカを切ると下側は停電し ていると思いこむことが多く、絶縁測定等の作業時の危険も生じます。逆接続はできるだけ避けるほうが 安全です。 3-2-3 設定値(動作電流・時延)の選定・高調波対策等 ・ELB 動作電流の選定 一般的な動作電流設定(感度)は、15、30、 (50) 、100、200、500mA です。JIS 規格では他の感度もあ りますが、通常はほとんど見かけません。感電保護用と幹線保護用があります。感電保護用は 15mA(浴 室等の水濡れがある場所)又は 30mA(その他)が使用されます。幹線保護用は漏電火災の防止、設備の損 傷保護等として 100、200、500mA が使用されます。家庭用分電盤では感電保護用のみが使用されていま す。事業所用分電盤の受電としては幹線保護用も多用されています。幹線保護用では設備容量、ケーブル 状況、負荷特性等を考慮して選定することが不要動作防止のために必要です。下図のように電流設定を変 更できるものが多くなっています。黄矢印が切替部で、ドライバでの現場変更が可能です。図では、いず れも最小値の 100mA に設定されています。右端の写真の青矢印のように、次に説明する「時延」の設定が 調整できるものもあります。 18 ※ ELB の設定根拠 ELB の電流及び同左時間の設定値の根拠としては感電した場合の、人体通過電流の大きさと電流継続時 間よる生理学的影響を評価した、感電電流安全限界の考えがあります(参考資料 2) 。 ・ELB 動作時間の協調 複数の ELB が直列で使用される場合、動作順序は設定感度(mA)が小さい順だと考えがちですが、 「時 延」を考えることが必要です。 「時延」は漏電電流が設定感度以上になってからトリップ動作するまでの時 間設定です。高速型と時延型があります。高速型は感電保護用で、0.1 秒(以内)動作の固定です。時延型 は幹線保護用に使用され、0.3 秒又は 0.8 秒の固定又は可変になっています。 時延の協調が不適切であると、設定感度が上流側>下流側であっても上流側が先に動作して全体が停電 してしまうことがあります。右図のように、設定感度が上流側(受 電)200mA、下流側(分岐)が 30mA で、共に高速型の場合を考え ます。200mA 以上の漏電電流が発生した場合は、受電用、分岐用と もに動作電流以上であるため、同時にトリップ動作に入ります。内部 の微妙な違いにより受電用が早く動作することがあります。分岐用 200mA 0.1s( 高 速 型 ) 変更 0.3s( 時 延 型 ) ELB の設置にも関わらず、分電盤の全体停電となります。漏電電流 は 4-2-3.での記録例にも示しますが、瞬時(ステップ状)に発生す ることがよくあります。200mA 感度の場合、最少動作電流は 100mA であるため、100mA 以上から発生する恐れがあります。 分岐用 ELB により停電範囲を限定するためには、時延の調整が必 30mA 0.1s( 高 速 型 ) 漏電 要です。受電用を高速型ではなく時延型 0.3 秒にすれば、不動作時間 0.15 秒より前に分岐用 0.1 秒が動作し、受電 ELB の動作は防止できます。親ブレーカを時延型にする場合 で、ELB でない子ブレーカがある場合は、感電防止のための ELB 採用を検討する必要があります。 ※ 保護協調の考え方 ELB は電気設備では保護継電器と同様の「保護装置」になります。一つのシステム内に複数が使用され る場合は、最適に動作させるための「協調」が必要になります。協調は保護協調線図によれば、わかりやす くなります(参考資料 3) 。感度電流が小さいと時延も小さいということではないことの理解が必要です。 動作時間の「協調」である時延の考えは、安全(過電流)ブレーカとの直列の場合にも必要です。過電流 動作も瞬時ではありません。過電流(子)ブレーカの動作時間が劣化等により受電 ELB(親)よりも大き くなっていると、故障電流が概 40A 以上であると、過電流動作感度が受電(親)で 30A、分岐(子)で 20A 19 であっても、親(受電)ブレーカが先に動作することがあります。1 線地絡時にも、40A 程度の地絡電流と なるので、ELB 内部での漏電(地絡)と過電流の動作時間を考える必要も発生します。 ・高周波対策等 インバータ使用設備で、絶縁は良好であるのに、起動時等に ELB が動作することがあります。インバー タから発生する高周波で、絶縁劣化による電流よりも配線ケーブル等の対地静電容量による電流が数倍以 上大きくなるためです。ELB の検出部に高周波カットフィルタ等の対策が取られている、 「高周波対応型」 と表示されている ELB を使用すると不要の停電がなくなります。最近(1990 年頃以降)の製品には標準 となっています。生産設備を NC 機器に更新したが電源設備は旧来のままの場合等にはよく発生します。 生産設備の更新に併せて、電源設備の見直しも必要です。 同じく、「衝撃波不動作型」があります。スイッチを入れた時の起動電流が大きい場合等に使用します。 最近のものはほとんど対応済みです。雷がなった場合に動作する、スイッチを入れたとたんに動作する場 合等は取替の検討が必要です。 3-3.ELB 使用設備の接地 top へ ELB は設備の絶縁不良を直接検出するのではなく、対地電圧により大地へ流れる電流(Io)を検出して 動作します。Io は対地絶縁(抵抗)による抵抗分電流と対地静電容量による充電電流の合成によるもので す。対地電圧は線間電圧のみでなく、接地状態によっても変動します。誤動作、誤不動作を理解するため には接地状態の把握が必要です。安定動作のためには、Io を安定して流すための最適な接地(アース)が 取られていることも必要です。 3-3-1.接地系統による誤動作(もらい動作) 電灯 100V 回路の ELB に発生が見られるようになった、他の設備の大きな漏電故障に伴って偶発的に発 生する、 「もらい動作」と呼ばれている現象です。2-2-2 の子ブレーカが全数投入されても親 ELB が動作し ない場合の原因の一つです。D 種及び B 種の保安用接地が設備間で共用であること、対地静電容量(キャ パシタンス) の大きな設備等が多くなっていることが要因 ELB MCCB とされています。 漏電電流 ・D 種接地が共用であるための現象(ELB 専用接地) 誘導電流 ELB動 作 もっとも可能性の高い、ELB でないブレーカ(MCCB) 使用設備漏電での D 種接地の対地電圧上昇によると考え 設備1 設備2 られる現象を説明します。 ① MCCB の設備 1 で漏電発生 漏電 ② ELB ではないため大きな漏電電流が流れる 電圧上昇 漏電電流 電圧上昇 対地静電容量 ③ D 接地抵抗に流れる電流で接地母線の電位が上がり、 漏電電流 それぞれの負荷設備の対地電圧が上がる 充電電流 D種 接地抵抗 ④ 設備 2 の対地静電容量により充電電流が流れる 20 絶縁不良による電流ではありませんが、ELB では分別ができないため、設定値以上となれば動作します。 ELB 機能としては正常ですが、運用上では誤動作になります。設備 1 のブレーカが ELB である場合も、 設定値と時延の不適により発生することがあります。動作した回路のみでなく、他の回路での漏電の確認 が必要です。4-2-2 で後述する絶縁監視装置が設置されている場合は、全数の変圧器の漏電記録を確認し、 設備全体としての運用状態を把握することでも判断できます。 もらい動作を防止する方法として、接地極の分割があり ELBでない設備 ます。ELB 使用設備の D 種接地を右図のように、専用接 ELB使用設備 地とする方法です。ELB でない設備での漏電が発生して 漏電 漏電電流 昇がなく、対地電流は増加しません。 ELB 専用接地の例を下図に示します。図左は、ELB 用 電圧上昇なし 電圧上昇 も、ELB 用接地極には漏電電流が流れないため、電圧上 対地静電容量 漏電電流 (黒→)と、他機器用(緑→)の区分された接地極がある 一般的な例です。図中は、より安全のために、雷撃時等の ELB専 用 D種 接地抵抗 D種 接地抵抗 接地分離 接地極間の電位差発生防止のための避雷器(SPD)がある 例です。図右のように、現場分電盤での D 種接地母線も、ELB 用と他機器用に区分されています。増設等 の場合に、間違えた母線に接続をしないように注意することが必要です。 ・B 種接地が共通であるための現象 100V 電灯と 200V 動力の電源は、それぞれ別の変圧器であり、相互 の関係は無いように見えますが、対地電圧の基準である中性相の B 種 電灯変圧器 動力変圧器 接地は右図のように共通です。接地極に大電流が流れると、全ての電圧 の対地電圧が上昇します。動力回路に地絡があった場合の B 種接地に よる対地電圧の上昇によると考えられる現象を説明します。 ① 動力回路での大きな漏電が発生 ② B 種接地抵抗に流れる電流で B 種接地母線の電圧が上がり、電灯 回路の対地電圧が上がる B種接地 ③ 電灯設備の対地静電により対地間に電流が流れる ELB でない動力 200V の 1 線が完全地絡した場合、地絡電流は B 種接地抵抗によってのみ制限されるの で、接地抵抗を 4Ωとすれば概 200/4=50A が B 種接地極に流れます。接触抵抗効果などにより実際の電 流はもう少し少ないと考えられますが、10A の地絡電流でも単純計算では接地端子の対地電圧は 40V 高く なります。 対地電圧上昇により、隣接する電灯変圧器の B 種接地線には 100~200mA の漏電成分電流が流れること 21 があります。いずれかの ELB 設備に集中した場合には、動作させることが十分な電流です。4-2-2 の絶縁 監視装置がある場合、動力変圧器の高漏電と同時に電灯変圧器に漏電が生じる場合は、動力回路に大きな 地絡事故が発生したと考えることができます。同様に近隣で落雷があった場合にも、接地極の大きな電位 上昇で、複数の ELB が同時にもらい動作することがあります。 受電(主幹)用としての 30mA 高速型使用での留意点 ※ 受電用ブレーカには二次側の全ての設備の対地静電容量による電流が流れます。二次側負荷の状態によ っては 5~10mA 程度の零相電流が常時存在していることがあります。動作方向に向かってのバイアスがか かっている状態と考えられます。通常は動作しないレベルでの、他系統の事故での「もらい動作」のおそ れがあります。近接する動力用分岐の 30mA 高速型の動作で、二次負荷にサーバ等を持つ受電用 ELB が もらい動作する例があります。30mA 高速型を受電ブレーカに使用する場合は、3-2-1 の二次側設備の最適 化が特に必要です。 ※漏電(地絡)による MCCB の過電流動作 MCCB の設定電流値が地絡電流よりも小さいと、漏電により過電流動作する場合があります。1 線地絡 等で 30A 設定の MCCB に、前述した 50A の地絡電流が流れる場合等です。この場合、高漏電がしばらく 発生した時点で MCCB が動作し、漏電が消滅します。電灯用とは無関係と考えて、調査のための MCCB の入切り等を行うと、電灯回路で ELB もらい動作が多発することがあります。 1 線地絡の原因としては、断線地絡、極性相と接地相の誤結線、クレーンパンタグラフの接触、建設工事 用ビスのケーブル貫通等の各種のものがあります。故障電流はそのまま大地に流れ、設備の運用は続行で きることが多く、地絡故障に気づきにくいことも特徴です。1 線地絡時の電流制限のためには、B 種接地は 低いほど安全なものではありません。 3-3-2.外箱等の接地不良による誤不動作 ELB が使用されているのにビリっときたという現象です。設備外箱の接地が取られていないと、絶縁不 良で外箱の対地電圧は上昇しますが、外箱接地線→D 種接地→大地の電流経路がないため、ELB 設定値ま での漏電電流が流れません。ELB は不動作のままとなり、人が外箱 に触れて「感電」し、大地との間に電流経路ができることで動作しま 電源 す。ELB の設定が適正であると、重大災害となる前(0.1sec 以内) B種 接 地 に遮断ができますが、安全作業としては不適です。ELB が設置して D種 接 地 あっても、アースは必要です。 分電盤の接地端子が D 種の接地母線に接続されていない例を右図 で考えます。使用設備の外箱等の接地線が分電盤接地端子に取り付 けられても、接地母線には接続されないため、外箱等は接地が取られ ELB 接地端子 ていない状態になります。この状態でも ELB のテストボタンによる 試験は良好です。ELB のテストボタンは 3-2-2 に示すように、本体 漏電 内部の模擬試験電流による動作をさせるためです。ELB が安全に動 作するかは、接地系統を含めたシステムとして考えることが必要で す。 22 対地電圧上昇 ※ 仮設工事等の場合 工事等で仮設分電盤を使用する場合に、接地母線への接続不良が生じやすくなります。例として、仮設 プレハブの分電盤があります。プレハブ本体がブロックなどで大地から絶縁された状態では、設備の絶縁 不良部がプレハブ本体に接触しても ELB は動作できず、プレハブに触った人が感電する事態になります。 接地端子が正しく接地母線に接続されていることが必要です。 接地が良好であることの確認は接地抵抗の測定が最良ですが、接地測定のための補助極が得られない場 合などの応急的対策として、分電盤の ELB 二次極性側と接地端子間に試験電流を流して実働試験を行う方 法を提案しています(試験ボタンによる方法は使用できません)。感度電流で ELB が動作すれば、ELB が 良好であると同時に、接地端子が接地母線につながっていることが確認できます。試験電流を流すために は、3-1-2 の試験機の使用、模擬抵抗の使用などがあります。極性と接地間に実電流を流すため、上流側に 設定の近い ELB があれば不要動作を行う恐れがあります。 3-3-3.三相四線式での誤動作 三相 400V と単相 200V を併用して使用する三相四線式では 4 本目の配線として B 種接地(N)相があ り、三相負荷は極性相(R,S,T)間に、単相負荷は極性相と N 相間に接続されます。一般的に使用されてい る 3 極式 ELB を使用した場合を下図・左に示します。単相負荷電流は N 相に流れますが ZCT を通過しな いため、漏電分(Io)として検出され、単相負荷の使用で ELB 誤動作となります。必ず専用の 4 極式 ELB の使用が必要です。4 極式 ELB の使用であっても、漏電として Io 要素で動作させるためには、外箱等の 接地は D 種に取り、漏電電流が ZCT を通らないようにすることが必要です。N 相を間違えて外箱等の接 地線として使用した場合を下図・右に示します。絶縁不良で外箱等に漏電しても ZCT では打ち消されるた め ELB の Io 検出機能は動作しません。同様の現象に、高圧ケーブルの地絡検出用 ZCT でのシールドアー ス線処理があります。しかしながら、電流帰路に B 種等の接地抵抗が入らないため、相電圧が短絡状態に なって大電流が流れると、過電流要素で動作します。 4極 式 ELB 3極 式 ELB R ※ ZCT R S T T N N 200V 単相負荷 S 接地相 B種接地 Io検 出 O B種接地 ZCT 200V 単相負荷 Io検 出 O 線間電圧 415V の場合、単相負荷には対地間電圧 240V がかかることになります。電圧基準の 202± 20V の範囲外です。国内の単相設備を使用する場合は電圧が対応できるかを事前に調査する必要がありま す。国内ではデータセンター等の 200V 単相負荷が大きい場所に使用されますが、輸入品の太陽光パワコ ン等で使用されていることがあります。次節の接地システムで説明する TN 接地系を採用している地域で 23 製造されている場合は、ELB の使用は前提となっていないと考えられます。 動力専用三線式では接地を変圧器の O 点ではなく、間違えて 1 線(S 相等)に取った場合は、対地電圧 が相電圧の 215V ではなく線間の 415V になり、電動機が頻繁に地絡故障を生じることがあります。 3-3-3.非接地系 変圧器低圧側の B 種接地を行わない方式です。絶縁不良が生じ、外箱等の D 種接地が良好であっても、 電流の帰路となる B 種接地がないために、漏電電流はほとんど流れません。地絡電流により動作する ELB は使用できません。漏電電流による危険性(発熱・設備の損傷)が外箱の対地電圧上昇等による危険性よ りも高いと判断される設備に適用されています。1 線地絡の放置は 3 相短絡等の大事故につながることが 多いため電圧異常(地絡過電圧)の検出装置が保護のために使用されます。 国内では発変電所等の技術員が常駐している場所、混触防止板付きの絶縁変圧器を 使用している高圧連携太陽光発電設備・爆発性環境(サイロでの粉じん爆発防止)等で 適用されます。狭い範囲としては右図の制御電源用 200V/100V 変換トランス、保安電 源用のスコットトランスの二次側も非接地系となっているため注意が必要です。 各相の対地キャパシタンスにより仮想的に中性点が接地される形となるため、各相 の対地電圧はほぼ等しい大きさになります。いずれかの相の対地電圧が極度に小さい 場合は、その相の絶縁が劣化している(劣化部により抵抗接地されている)可能性が大となります。3-2-3 での中性相欠相で 1 線に漏電が発生した場合と同様の状態と考えればわかりやすくなります。 私が非接地系の事業所で勤務していたころ、街(接地系)専門の工事店は、中性線が設置されていると 信じ込んでいるので危険だ、 というのが先輩から受けたアドバイスでした。 B 種接地がない場合を含めて、 接地が異なる場合にどのような現象を生じるかを理解しておくことは、安全作業のために役立ちます。 ※ 接地システム 接地には系統接地と機器接地があります。系統接地は高圧と低圧の混触による低圧回路(電路)の電圧 上昇防止が本来の目的です。国内では B 種として、混触時に低圧系統が 150V 以上にならないような抵抗 値で、中性点または 1 相が接地されています。接地線で漏電電流が測定できることは副次的な効果です。 高圧配電線(6.6kV)の 1 線地絡電流が 2A~3A になるように系統切り分けが行われているので、電気設 備技術基準により、接地抵抗は 75Ω(150÷2)~50Ω(150÷3)以下が一般的です。機器接地は、機器外 箱等(人体に触れる部分)の対地電圧が絶縁不良により異常電圧になることを防止することが目的です。 同じく技術基準により低圧の場合、300V 以下は D 種、300V を超える場合 C 種として、100Ω又は 10Ω 以下で接地されています。 系統接地と機器接地の組み合わせは大きく分けて、系統接地と機器接地が別に取られている場合(TT 接 地系) 、系統接地がなく(又は高インピーダンス接地)、機器接地のみが取られている場合(IT 接地系)、系 統接地と機器接地が同一である場合(TN 接地系)の三種類に分けられています。3-3-1 と 3-3-2 は TT 接 地系での現象です。3-3-4 の非接地系統は IT 接地系です。他に国外で使用される、系統接地と機器接地が 共用されている TN 接地系があります。3-3-3 は TN 接地系に類する現象です。低圧部での漏電検出装置と しては、低圧絶縁の劣化により生じる現象が異なるので、TT 接地系では ELB、IT 接地系では OVGR、TN 接地系では OCR(または安全ブレーカ)が漏電検出に使用されます。TN 接地系(国内ではほとんどない) では漏電時に大電流が流れるので、漏電が電力量の増加としても現れると考えられます。 24 小容量の受電キュービクルでは A・D 種接地極と B 種接地極に下図・左の矢印のように「ワタリ」があ り、B 種と D 種が結合されていることがあります。実質的には TN 接地系に近い状態です。接地抵抗の絶 対値としては基準を満足していますが、ELB による漏電保護を行う TT 接地系としては良い方法ではない と考えています。ELB 用 D 種接地が分離している場合等、接地の違いにより、ELB の動作にも差が出る (ADB 共通では ELB が過敏に動作すると考えられます)ことに留意が必要です。 ※ 等電位ボンディング B 種と D 種が分離されている場合、接地抵抗が法規(電気設備技術基準)の適正値であっても、分電盤 等の中性相(B 種接地)と D 種接地端子との間には、数百 mV の電圧が発生していることがあります。絶 縁劣化(漏電)が生じていない場合でも、ケーブルの静電容量などにより対地電流(mA 単位)が流れるた めの、接地抵抗による電圧差と考えられます。電源容量としては大きいため、コード等で短絡すると火花 が発生して電流が流れることがあります。 一つの設備(システム)に異なる接地がある場合、雷撃等の地絡大電流発生時には接地間に大きな電圧 差が発生し、電気設備が絶縁破壊することがあります。雷撃等以外でも、接地極間の電圧差による、電子 基板等の電源の B 種とグランドとしての D 種が近接しているための損傷、汗ばんで抵抗が下がった人体に よるマイクロショックと呼ばれる感電現象等が生じる恐れがあるとされています。 この現象は D 種接地が複数の接地極を持つ場合にも生じます。一つのシステム内では接地を一点にする ことが有効です。より安全のためには、混在する電源、通信、避雷等の複数のシステムを個別接地ではな く、全ての接地電位を同一にする等電位ボンディングと呼ばれる方法による接地とする必要があります。 電源・情報ケーブル・外部引出金属管等の、人が触れる可能性のある金属部を同一電位にすることができ るので、感電防止として有効です。3-3-1 節の ELB 用 D 種接地と A・D 種接地の SPD での結合は、雷撃 時の等電位を目的としていると考えられます。 4.漏電調査 top へ 漏電原因である絶縁不良個所の調査には、停電しての絶縁測定と、停電しない(使用中のまま)での漏 れ電流等による間接測定があります。操業等への支障を少なくするため、間接測定が優先されるようにな っています。調査方法の例を示しますが、いずれも安全対策・測定器取扱に専門知識が必要です。漏電現 象も複合的な要因によることが多く、不安定になることがよくあります。一種類の測定のみではなく、各 種の測定を行い、結果を総合的に判定することが重要です。例えば、絶縁抵抗ゼロでも漏電電流は流れな い(ELB は動作しない)等の不思議な現象が日常的に存在します。実施にあたっては工事店、電気管理技 術者等の専門家へ依頼することが安全・効果的です。 4-1.停電しての絶縁抵抗測定 top へ 絶縁抵抗測定器(メガ)を使用して、漏電の原因である絶縁抵抗を直接測定します。使用交流電圧に適 合した直流電圧を発生させて、メグオーム(MΩ)単位で測定を行います。低圧設備の健全性は、JIS では 25 運用中の場合、電灯 100V は DC125V 測定で 0.1MΩ以上、動力 200V は DC250V 測定で 0.2MΩ以上が 良好と規定されています。 下図左、中に低圧用メガの例を示します。左はアナログ表示(25-50-125-250V 切替) 、下図中はデジタ ル表示(50-125-250-500V 切替)型です。測定電圧を切替え、JIS 規定電圧以下の低電圧まで対応可能な ものが増えています。例でのプローブはいずれも、分電盤用の細いものを装着しています。右端は絶縁抵 抗測定ができると勘違いされることの多いテスタです。テスタでの抵抗測定は内部電池の電圧(1.5V)を そのまま使用するため、絶縁抵抗の測定はできません。 現場分電盤から負荷側の絶縁不良個所の特定には、 JIS 規定電圧の半分程度の電圧での測定が安全です。 100V 使用部を 50V で測定しても、絶縁不良があれば検出ができます。半導体等使用の設備が多くなり、 DC125V 測定でも基板等に不具合を起こしたとの苦情を受けることがあります。測定器を ON 位置とした まま、プローブを接触させる、又は離すと被測定側にサージによる異常電圧がかかることがあるともされ ています。こまめに測定器を OFF 位置とする方が安全です。 ELB 本体でも注意が必要です。右図のように左右極での絶縁測定をしないよ うにとの表示があります。漏電検出回路の制御電源が取り出されているため、 常用電圧 200V 以上を加えることは危険なためです。竣工検査等での 500V メ ガ使用では、二次側配線を外し、ELB 本体には電圧をかけないようにする必要 があります。逆接続の節での「メガテスト切替」があれば、テスト位置にする ことで制御電源が切り離され、安全な測定ができます。同様の制御回路が内蔵 されているものとして、地震発生時の振動検出後の一定時間経過後に自動遮断する感震ブレーカ、電気料 金削減のための電子ブレーカが考えられます。 ※ その他のメガ ・太陽光用メガ 太陽光電池は日光がある場合は常に直流電圧が発生します。一般用メガを使用して直流部分の絶縁測定 を行うためには、深夜の測定、P-N 極を短絡する等の処置が必要になりま す。太陽光用メガを使用すると発電中の絶縁測定を行うことができます。 直流電圧の影響を電気的にキャンセルする機能を持つものなので、交流回 路を無停電で測定することはできません。図・右は絶縁不良セルの特定機 能を持たせるために P 極(赤) 、N 極(黒) 、E 極(緑)がある 3 極式のも のです。 直流回路であっても絶縁物が劣化すると漏電が発生します。直流は交流のように電圧ゼロとなることが ないため、感電での人体への障害は大きく、漏電火災の消火も極めて困難である(燃え尽きるまで待つし 26 かない)とされています。事故発生前の専用メガを使用しての絶縁管理が必要です。ELB は交流理論によ る測定であるため、パワーコンディショナでの交流返還前の直流部への適用はできません。 ・高圧用メガ 高圧(6600V 等)では、低圧では安全使用ができる範囲の絶縁強度でも大事故につながります。絶縁測 定には直流 1000V 以上を発生し、GΩ(ギガオーム)単位で測定することができる高圧用メガを使用しま す。ほとんどの低圧機器の絶縁耐力以上であるため、低圧部に使用すると 絶縁破壊が発生します。1000V レンジがある低圧高圧兼用メガでは、間違 えて使用しないための注意が必要です。図・右は絶縁抵抗の電圧依存性等 の絶縁診断も可能な、10kV までの電圧が発生できる可変電圧メガです。 極性側プローブ(灰色)は特殊な構造になっています。 絶縁劣化による低圧での「漏電」と同様の故障現象は、高圧では「地絡」 と呼ばれています。キュービクル等の高圧と低圧は変圧器により絶縁されているため、低圧の漏電は高圧 部の地絡としては検出されません。高圧配電線の中性点は直接接地ではないので、地絡時の電気的な現象 は低圧部の漏電とは異なる状態となります。 4-2.停電しないで行う測定 top へ 漏電の疑いがある場合などに臨時に行う方法と、自家用設備(事業所)等の電源変圧器の B 種接地線に 固定設置して、常時監視を行う方法があります。組み合わせると、効果的な活線での調査ができます。 4-2-1. 臨時に行う方法 a) クランプリークメータ mA の電流を測定できるリーククランプメータを使用して、ブレーカ出のケーブルを一括クランプして (挟み込んで) 、電流の差分を測定します。漏電(帰ってこない電流)がなければ、ブレーカ二次側の電流 出入りの電流差は無い、漏電があれば電流差が発生するという、ELB と同様の零相電流(Io)と呼ばれる 漏れ電流成分を測定する方法です。 クランプメータには丸型、角型、小型、大型の各種があります。図・左は小口径での分電盤分岐ブレーカの 二線式の測定、図・中は中口径でのキュービクル配電盤の単相三線式の測定、図・右は大口径アダプタと 左図の小口径クランプを併用した動力用動力三相三線式の測定例です。アース線を含めて測定すると漏電 電流が往復状態になり測定できないことがあります。必ず、はずして測定を行います。 高調波フィルタスイッチ「WIDE⇔50・60Hz」 、「フィルタ ON」等がある場合は、使用位置で測定しま す。絶縁劣化によるものではない、対地静電容量による周波数に比例した電流が大きくなるためです。使 用位置と除外位置での指示の差により、インバータが使用されているかどうかの判断もできます。フィル タスイッチがない場合も mA レンジでは内蔵されていることが多いようです。測定レンジ切り替えがある 27 場合は測定可能な範囲の小さな方を使用します。大きなレンジでは誤差が発生します。 ※ 高調波電流が大きい時には、高調波音がする場合があります。ウルトラホン(高調波聴音器)等で原 因不明の異音がある場合は、フィルタスイッチにより高調波成分を確認することが有効です。 b)漏電現象の記録 漏電現象は不安定(間欠的)に発生することも多く、記録をとると原因追究に役立ちます。リーククラ ンプメータに記録用出力があれば、連続記録を行うことができます。記録計と一体となった市販品を使用 すればより簡単です。最近の装置は USB 接続になっているので、専用ソフトをパソコンにインストールす るだけで簡単に使用できます。 現場分電盤での、測定記録例を図・左に示します。大 きなケーブルが分電盤電源、細いケーブルが疑わしい設 備への分岐ケーブルです。平行して記録すると確認が容 易です。測定記録例を図・右に示します。上側のグラフ が電源、下側が分岐です。同じ形であり、分岐部に間欠 的な漏電があることがわかります。この場合は、接続さ れている機器に不具合があり、間欠的に運用されていると考えられます。 変圧器の B 種接地線に取り付けると、その変圧器に接続されている設備全体による漏電量の記録ができ ます。記録例を 4-3 に紹介します。 c)活線漏電点標定器 クランプメータを配線が複雑などで使用できない場合、多数の点数を短時間に行う場合は活線漏電点標 定器の使用が有効です。次節の Igr 絶縁監視装置方式と同じ原理による測定です。クランプメータでは検 出されない、中性相の絶縁不良にも対応します。信号発生器と注入トランスにより B 種接地線等に基準信 号を注入し、漏電点へ向かって流れる信号を専用検出器で探査します。下図・左が測定器構成で、信号発 生器、注入トランス、検出器です。図・中が B 種接地線への信号注入、図・右がケーブル探査状況です。 前述したニュートラルスイッチ使用の場合も、2 線を同時に測定する必要がないので対応可能です。し かしながら、絶対値での測定結果表示は無く、発信機出力・検出器感度調整、結 果の判定に「感」と「経験」が最も必要とされる調査です。100mA 程度以上の漏 電電流が流れる絶縁不良でなければ判定が困難です。 注入トランスは分電盤の取付けもできます。漏電が大きく、ブレーカが ON に できない場合(死線)は、二次側に信号経路としての接地配線を仮設して信号を 注入します。右図が注入例です。分岐ブレーカ、配線、器具等の外部からの不良 個所調査が可能になります。メガ測定値が同じ場合でも、漏電点の場所によって 28 信号注入 は応答が異なり、不良相が推定できることもあります。 電源変圧器 4-2-2.常時監視を行う方法(高圧需要家の場合) 設備等 高圧自家用電気設備では 6.6kV を変圧器により電灯 100V と動力 200V に変成しています。変圧器の低圧側の 1 線が中性相として B 種 中性線 接地されている場合は、負荷設備での漏電電流は B 種接地線に戻ると いう電気的性質があり、接地線電流の監視で変圧器毎の漏電電流の推 定ができます。右図に単相三線式の例を示します。監視設備には、絶 検出器 縁監視装置と漏電火災警報器(LGR)があります。 漏電 B種 接 地 a) 絶縁監視装置 本体はキュービクル内等の変圧器近くに取り付けられています。下図・左が絶縁監視装置の例です。下 図・右の緑色ケーブルが変圧器の B 種接地線、黄色○印が検出用 CT(後付け)です。同様の CT(固定) が赤○印のように並んで取り付けられていることがあります。これは、次に記述する漏電火災警報器用で す。絶縁監視装置は後付けであるため、電源は予備ブレーカ又は、他の電源からの分岐となっています。 電気事業法により保安管理を外部委託している場合は、 月次点検頻度を毎月から隔月に変更する要件ともなって います。一般的には 50mA(漏電、地域によっては 44mA) と 200mA(高漏電)の 2 段で警報が発生するように設定 されています。発生時には管理技術者等に伝送され、記録 が残るので、3-2-1 のもらい事故の確認にも役立ちます。 ・監視方式の種別 B 種接地線の電流測定値 Io をそのまま使用する Io 方式、Io から漏電成分を演算する Ior 方式、Io では なく専用の模擬信号を使用する Igr 方式があります。一般的には Io→Ior→Igr 方式の順に真の漏電電流測 定に適していると考えられています。Io は、絶縁劣化(対地抵抗)による漏電電流 Ior と配線ケーブル等 の対地静電容量による電流 Ioc の合成値であるため、ケーブル長さ、設備による高調波発生等によって Ioc が大きくなると、漏電していないにも関わらず大きくなるためです。 Io 方式:Ioc が小さな設備に対応します。CT のみで測定ができます。一般的には電灯回路は Io 方式で 可能です。インバータ更新等で、絶縁劣化に関係なく、大きく変わることがあります。 Ior 方式:Ioc が大きい動力設備等に対応します。線間電圧(基準 基準電圧 電圧)を同時に測定し、Io との位相差を求め、Ioc の影響を演算補正 Vrs Vrt Vts するものです。三相Δ結線で S 相接地の場合の概略を右図に示しま す。充電容量による(漏電ではない)電流 Ioc はそれぞれの線間電圧 から 90 度進んだ電流の合成で基準電圧同相、抵抗分による(漏電) Io Ior 電流 Ior はそれぞれの線間電圧と同相の電流の合成で基準電圧と 90 度の位相差があるものとして演算を行います。Io と Vrt の位相差が θとすると Ior=Io×cosθとなります。灯動共用 V 結線変圧器、コン ビネーション変圧器は電灯用巻線の中性点が接地され、基準電圧と Ior、Ioc の位相差が異なるため、一般的な Ior 装置は使用できませ 29 Ioc S相 接 地 ん。Y 結線変圧器は中性点接地であるため三相分の Io が打ち消しあい、通常の接地線電流は S 相接地に比 べて極めて小さな値となります。 Igr 方式:B 種接地線に専用の測定信号を注入して戻り成分を測定するものです。測定信号(高周波)に 対応する CT と B 種接地線に信号を注入するための装置が必要です。全ての変圧器と、Io、Ior 方式では対 応できない中性線の漏電にも対応することができます。現在は Ior 演算が cpu により簡便に実施できるた め適用例は少なくなっています。 ・絶縁監視装置で検出されない場合 絶縁監視装置では検出されない漏電現象もあるので注意が必要です。分電盤等での ELB の正常動作があ り、絶縁監視装置での警報発生より早く漏電現象がなくなった場合は、警報は発生しません。 短絡のみで漏電(地絡)電流がない場合も漏電としては検出されません。 「絶縁変圧器」が使用されてい ると、負荷側に絶縁不良が生じても B 種接地線には漏電電流は帰ってきません。絶縁変圧器二次側は、前 述した非接地系になっているためです。絶縁そのもの監視ではなく、絶縁不良による B 種接地線に戻って くる電流(Igr 方式は挿入された測定信号)の監視であることを理解しておくことが、事故発生時の原因解 明のためには必要です。 右図はネオンサイン設備で、絶縁変圧器で高圧に昇圧された高圧ネオンケ ーブルが建物に触れてショート・焼損したものです。ケーブルの絶縁被覆が 損傷して芯線が建物金属に触れても、非接地系であるため、対地電流はほと んど発生しません。もう一方のケーブルが損傷した時に短絡したと考えられ ますが、線間で火花が発生しても対地電流がなければ検出不能です。一部が 非接地系となっている例としては、プール用照明等のより安全な低い電圧に 変換されて使用されている場合があります。 ・絶縁監視装置のもらい動作 地絡事故により B 種接地線に大電流が流れた場合は、3-3-1 での B 種接地電位の上昇、及び、平行する B 種接地線の電磁誘導等により、漏電していない他の変圧器の B 種接地線に 50mA 以上(多い場合は 300 mA 程度)の電流が流れることがあります。高漏電警報と他の変圧器の漏電警報の同時発生は、危険な地 絡事故が発生していると考えることができます。1 線地絡で 50A 程度まで流れ、MCCB が動作する場合は 高漏電と他の電灯変圧器の数分程度の間の漏電が同時発生し、同時に復帰します。2 線地絡短絡の場合は 相間の過電流となって MCCB が動作します。 ※ 中性相の絶縁劣化での現象 接地されている中性相は、対地電圧が小さいため、絶縁劣化しても対地間には電流はほとんど流れませ ん。絶縁監視装置が付いている設備の絶縁測定では、中性相の測定が有効です。中性相以外の劣化は B 種 接地線の明確な Io 増加につながり、絶縁監視装置で検出できますが、中性相の場合には検出できにくい為 です。中性相のみが劣化している場合、現状では大きな漏電は発生しませんが、他の相の絶縁も劣化する 恐れが極めて大きい状態であると考えられます。 b)漏電火災警報器(LGR) 30 測定原理は Io 方式の絶縁監視装置と同じですが、消防法によりラスモル タル構造の建造物に設置義務がある装置です。法律が異なるために共用する ことはできません。火災原因となる漏電電流そのものを監視していると考え ることができます。キュービクル製造時に取り付けられるので、検出部(CT) は固定となっています。警報設定は 100mA 以上の可変設定となっているも のが一般的です。右例では設定値は 100、200、400、600mA になっていま す。ケーブル長、インバータ等による高調波の影響を受けやすいので、負荷 設備の状態を見て設定にすることが必要です。古い設備では、ごくまれに複数の変圧器の B 種接地線を 1 台の LGR で監視しているものがあります。 警報を他所に伝送する無電圧接点が別置された端子台に引き出されています。結線されている場合は事 務所警報盤等に表示されます。結線されていない場合は、キュービクル、電気室等で動作(本体の鳴動、表 示灯点灯)を確認することになります。受電設備建設時からの保安設備であるために電源はキュービクル 等の内部(専用ブレーカ)で取られています。 4-2-3.設備運用状態との比較検討(漏電記録の例) 漏電にもいろいろなパターンがあります。漏電値の大きさ、発生・復帰時刻等の状態を把握し、設備の 運用状態と比較検討することでも絶縁不良個所の推定ができます。ここでは変圧器 B 種接地線の電流 Io を 4-2-1bに示した記録計により作成した例を示します。 ・ホール天井電灯回路の不良の例 ELB が入っていない電灯 100V 回路での漏電例です。最高値は 600mA です。朝夕の玄関天井灯の入り 切りと一致しました。日中は(どこかで)スイッチが切れているため判定不良でした。天井灯回路の不良 と判断できたので、場所を特定しての点検で不良が見つかりました。人が触れない場所であっても、ELB を設置すれば安全です。 31 ・充電器不良?の例 動力 200V 回路での連続漏電例です。終業後に発生し、始業時に終了しています。最高値は約 12A、そ の後時間とともに下がりました。フォークリフトのバッテリー充電時間と一致しました。このように夜間 に発生する場合は記録が重要です。機器特性であり、絶縁不良ではない可能性もありますが、漏電と同様 に大地を帰路とする電流であることは間違いありません。建物鉄骨が帰路となり、接合部の電気抵抗によ る過熱が発生し、火災の原因ともなることもあります。停電しての絶縁測定時には、充電コンセントのプ ラグが外されていたためか、まったく異常はありませんでした。詳細原因はわかりませんでしたが、フォ ークリフト充電回路の点検後、漏電現象は消滅しました。 ・クレーン不良の例 動力 200V 回路での間欠漏電例です。クレーン運転と同時に秒間隔での 1A 程度の漏電が頻発しました。 巻き上げモータの不良が発見されました。短い時間ですが、感電墜落災害等の人的災害を引き起こすには 十分な時間です。 ・通常電流変動の把握 Io は設備の運用状況によっても、大きく変 動します。ある事業所の昼休みでの動力変圧 器 Io 変動を示します。インバータ設備の停止 により急激な減少が生じていると考えられま す。Ior の測定結果は 7mA だったので、昼休 み中の 40mA 弱が 60Hz による Ioc であり、 稼働設備の高周波により 60mA 程度に増加す ると考えることができます。Io の絶対値のみでなく、通常での変動状態の把握も有効です。 top へ 32 ※ 目視調査 目視による劣化、不具合個所の外観点検を行うと、絶縁不良が疑われる部分の推測ができ、測定器によ る絶縁不良個所の判定が早くできる場合があります。主な調査個所は下記のように考えています。 ・水濡、湿潤 直接の雨濡れのみでなく、壁等の背面からの水分の滲み出し、ケーブル配管口からの浸水があります。 盤上部の空調配管結露による水滴落下、流しの排水不良による床下配線の水濡れにも注意が必要です。 ・ケーブル、コードの変形変色、コンセント等の劣化 通路で踏みつけられる等で傷ついた個所、無理に曲げられた個所、固定のための外力がかかって変形し ている部分(固定用ステップルが食い込んだコード等) 、コンロ横などの高温物により加熱されている部分 等では絶縁劣化が生じます。この場合、外装が変色していることもあります。コンセントの焼け跡も要注 意個所です。 ・小動物、植物等の侵入跡 絶縁被覆の食害、持ち込んだ木屑等での端子の埋没(水濡れが重なることがあります)、現場分電盤では 侵入した蔦が触れていないか等があります。 ・ELB が使用されていない回路の確認 時間的余裕が少ない場合、分岐ブレーカが ELB である場合は、以降の漏電の可能性は少ないとして他の 回路の測定に重点を置くことができます。 参考資料 資料 1・漏電時の復旧操作 東北電気保安協ホームページ http://www.t-hoan.or.jp/030_service/030_20_personal/030_20_03_breaker/breaker.html 資料 2・感電電流安全限界 「接地・等電位ボンディング設計の基礎知識」 P.16 33 高橋竜彦 オーム社 ISBN978-4-274-94330-0 資料 3・時延による協調 「配線用遮断器と漏電遮断器による過電流、地絡協調の考え方と保護協調曲線」 月刊誌オーム 2015 年 12 月号 P.13 浜田桂伸 資料 4・漏電ブレーカの構造など 日本電気技術者協会、技術講座 http://www.jeea.or.jp/course/contents/08105/ 34
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