泥炭地盤における微小ヒズミのせん断剛性率 北海道大学大学院 学生会員 ○稗田 教雄 北海道大学大学院 国際会員 田中 洋行 北海道大学大学院 学生会員 金子 広明 1.はじめに 北海道には軟弱な泥炭地盤が広く分布しており,構造物を構築する際 ,あるいは供用後に不等沈下などの 問題が生じる場合が多い.泥炭地盤は,低気温地域の沼地に植物遺骸が十分分解されずに堆積して形成され る,北海道特有の地盤である.通常の地盤と比べて,泥炭は植物繊維を多く含むため,極めて不均質で あり, また室内試験用の供試体作成が困難であるので,泥炭地盤の工学的特性が明らかにされてい るとは言い難い. 筆者らは,貫入抵抗 qnet とせん断剛性率 G の関係を調べるため,静的コーン貫入試験とサイスミックコーン による原位置試験,及び室内試験としてベンダーエレメント試験 を行った.本論文では,その試験結果につ いて述べる. 2.調査地点 筆者らが原位置試験及びサンプリ ングを行った場所 は図-1 に示す通りである. ① 豊平川 ⑤ 岩内 ② 月寒川 ⑥サロベツ ③ ⑦ 岩見沢 ④ 拓北 日高 いずれのサイトも平坦な個所で,季節による地下水位の変 動以外の荷重の履歴はないと思われる. 3.試験方法 図-1 調査地点 (1)静的コーン貫入試験 JGS の規準(JGS1435-2003)に従い静的コーン貫入試 験 を行っ た.断面積が 10cm 2 の通常の静的コーン貫入試験(CPT)の他に, コーン先端に断面積が 50cm 2 ,100cm 2 の球を取り付けたボール コーン 1) を実施した(以下,それぞれ MiniBPT,BPT と呼ぶ). ボールコーンの長所は断面積が大きくなる分だけ先端抵抗 q t の 測定精度が増加することと,土被り圧の影響を小さくすること にある. (2)サイスミックコーン貫入試験(SCPT) 2) 泥炭地盤のせん断波速度 vs あるいは剛性率 G を求めるために SCPT を実施した.板たたき法により地表面で 発生した せん断 波をコーン先端に 1m間隔で 2 か所取り付けたジオフォーンで 図-2 低圧ベンダーエレメント装置 計測し,vs を測定した. (3)低圧ベンダーエレメント試験 サ ン プ リ ン グ し た 泥 炭 に 十 分 な 水 を 加 え 撹 拌 し た 試 料 を 用 意 し , 図 -2 の 装 置 に 試 料 を 充 填 し た 後 2,4,8,16,20kPa の上載圧を加え圧密した.本装置の上盤と下盤にはベンダーエレメントが 取り付けられており, 圧密期間中にせん断波速度 vs を計測した.除荷の際にも v s の計測を行った.測定方法の詳細は 3)を参照され たい.その他,物理試験として強熱減量試験と分解度試験を実施した. Shear modulus at a small strain for peaty ground: Norio HIEDA, Hiroyuki TANAKA, Hiroaki KANEKO(Hokkaido University) 109 4.試験結果 4.1 静的コーンの試験結果 0 0 図-3 は豊平川サイトにおける CPT,MiniBPT,BPT による先端抵抗の測定結果を比較したものである. なお,先端抵抗は(1)式で表すことができる実質先端 1 net = q t- σ vo (1) Depth (m) q ここに は断面 係数(CPT,MiniBPT,BPT では ,そ れぞれ,1.0,0.5,0.1)である. :CPT :MiniBPT :BPT 1 :CPT :MiniBPT :BPT Depth (m) 抵抗 qnet で表示している. 2 2 図よりコーンの種類による q net の違いを比較して みると,CPT,MiniBPT,BPT の順でグラフが 滑ら 3 かになっていることが分かる.泥炭地盤は植物の根 や茎を多く含むため不均質であり,局所的な差が生 0 500 じやすい.すなわち,コーン先端の断面積が小さな 1000 1500 3 0 500 1000 qnet (kPa) CPT の場合には,局所的な地盤の強度が qnet として 1500 qnet (kPa) 図-3 コーン形状による比較 反映されるが,BPT のような大きな断面積を有する コーンでは,より広い範囲での強度の平均値に対応 して qnet が測定されるので,局所的な強度の変化に 50000 鈍感な値が計測される.したがって,基礎の設計と Gf(SCPT)(kPa) してコーン貫入試験を用いる場合には,軟弱地盤で は BPT による試験が有効であると考えられる. 4.2 サイスミックコーンの結果 SCPT により測定された vs から G f(SCPT) は以下の式 50 40000 1 :粘土 :豊平川 :月寒川 :拓北 :岩見沢 :岩内 30000 20000 で求められる. G 2 f(SCPT) = t .v s 10000 (2) 1 5.0 また粘性土地盤において,田中ら 4) は CPT から測 定される qt と G 0 0 f(SCPT) との間に下記の関係を見いだ 500 し,係数 C G は経験的に 50 となることを示した. G f(SCPT) =C G ×(q t -σ vo )=C G ×q net (3) 1000 1500 qnet(kPa) 図-4 泥炭と粘土の G-qnet 泥炭地盤についても上式の適用を試みるため,せ 10000 ん断剛性率 G f(SCPT) と先端抵抗 q net の関係を図-4 に示 豊平川、月寒川 1 した.ここで粘土のデータは過去に筆者らが行った 1 12.3 5.0 岩見沢、サロベツ 有明,厚真,拓北でのデータを用いた.図から,粘 Gf(SCPT)(kPa) 土においては,CG はおおよそ 50 となるが,泥炭地 盤の(3)式の CG は約 5.0 とかなり小さい値となるこ とが分かる. 図-5 にサイトごとに CG を比較した.図から,同 4.1 1 岩内 5000 :豊平川 :月寒川 :岩見沢 :岩内 :サロベツ じ泥炭でもサイトごとに差が見られ ,C G は物性値や 地域性の影響を受けるものと考えられる.その要因 を調べるため強熱試験と分解度試験を行った . 0 0 表-1 に物理試験の結果を示す.表から図-5 におい て C G の値が大きい岩見沢やサロベツ試料は強熱減 1000 qnet(kPa) 図-5 サイトごとの C G 量 L i が小さく,CG の値が小さい豊平川,月寒川, 岩内試料では L i が大きくなる相関性が見られた.す 110 2000 2000 岩見 沢 豊平 川 月寒 川 岩内 日高 0.98 - 1.03 1.03 1.00 - 79.9 51.8 89.5 94.1 95.6 71.0 88.2 78.9 91.9 - 92.8 87.4 95.5 81.7 93.6 - 95.7 90.7 :八郎潟粘土 :日高泥炭 1.6 G/GEOP 湿 潤 密 度 (g/cm3) 強 熱 減 量 (%) 分 解 度 (0.116mm) 分 解 度 (0.425mm) サロ ベツ 1.4 表-1 物理試験の結果 :2kPa :4kPa :8kPa :16kPa :20kPa 1.2 なわち,有機物含有量の多い泥炭ではせん断剛性率が小 さくなるとの結果が得られた.また分解度と C G との相 1 0 10 10 関性は見られなかった.これらの傾向が泥炭地盤に共通 1 10 2 10 3 t/tEOP に認められか否かについては,今後同様な調査を行う必 図-6 クリープによる G 増加率 要がある. 4.3 :岩見沢 :岩内 :豊平川 :サロベツ :日高 2000 低圧ベンダーエレメント試験の結果 図-6 に泥炭と粘土のクリープによる G の増加率を示し た.泥炭は粘土と比べ二次圧密量が大きいため クリープ がら,一次圧密終了時(EOP)を基準とした G の増加率 に着目すると 1 スパン当たりの G 増加率は 1.1~1.3 倍と :ベンダー試験 :(4)式より G(kPa) による G の増加量が大きくなると想定される.しかしな 1000 粘土(図には八郎潟粘土の例を示す)と同程度であるこ とが分かる. 図-7 は圧密応力の増加によるせん断剛性率の推移を示 したものである.同図に能登・熊谷 5) が提案している関 0 10 係((4)式)も点線で示した. G = 13700w -0.67 20 p(kPa) (σ´c ) 0.55 (4) 図-7 圧密によるせん断剛性率の推移 本試験で対象とした泥炭の含水比はほぼ同じ値なので, (4)式による G はサイトによらず,同様な値を示している. しかしながら、再構成試料で得られた G はサイトごとに かなり異なった値を示しており,せん断剛性率 G は含水 6) :豊浦砂 6) :NSF粘土 6) :秋田泥炭 7) :藤の森粘土 :北海道泥炭 2 10 比以外の物性値や地域性によって影響されることがわか る. 川口 6) 5) ,及び が行った試験結果を示す.同じ応力下で G を比較 すると,泥炭は明らかに小さく,砂のせん断剛性率 G は G(MPa) 図-8 に筆者らが調査した北海道泥炭と荻野ら 1 10 泥炭の約 10~20 倍,粘土は泥炭の約 2~5 倍の値となるこ とが分かる. なお,荻野らの試験では圧密時間が 3t 法に相当する時 0 10 間の時に G を計測しているのに対し,筆者らの場合ヒズ ミ速度が 0.1%/day 以下となった時であるので,測定のタ イミングが異なるが,図-6 に示したように,二次圧密に よる G の増加率はあまり大きくないので,この影響は少 ないと考えられる. -1 10 0 10 1 10 p(kPa) 10 2 図-8 せん断剛性率の比較 111 5.考察 すでに述べたように,CPT から求められる qnet と SCPT から求められる G との係数 C G((3)式参照)は,泥 炭の場合には約 5.0 と,粘土に比べ 10 分の 1 程度の小さな値となった.この原因として,二つの理由が考え られる.まず貫入抵抗 qnet を過大評価している可能性である.コーンを貫入する際に植物の根や茎が貫入孔 の周面に絡みつくことにより実際の貫入強度より高い測定値が計測されることが考えられる.図-3 に示すよ うに,明らかに BPT の方が CPT による先端抵抗が小さいことから,上記の可能性は高い.すなわち,実質 先端抵抗 qnet で整理すると,理論的には通常の CPT でも断面積の大きな BPT でも同じ qnet を示すはずである. つまり,断面積が小さな CPT の場合には,局所的な泥炭の不均一性やコーンへの泥炭繊維の絡みつきによっ て,qnet が大きく計測される傾向にあることを図は示している.もう一つの理由は ,図-8 に示したように, 同じ応力下で粘土のせん断剛性率 G は泥炭の約 2~5 倍の値と大きいことである.また,同じ泥炭でもサイ トごとに G と p の関係(図-7)が異なっている.以上のことから,泥炭地盤の貫入抵抗 qnet とせん断剛性率 G の関係において,qnet が大きく G が小さいく計測されるので,結果的に泥炭の C G は粘性土の C G と比べて 極端に小さくなると考えられる. 6.まとめ 泥炭地盤に対して,コーン貫入試験およびサイスミックコーンを用いて調査を行った.得られた主な結果 は以下の通りである. ・軟弱地盤においては BPT による試験が有効である. ・強熱減量と G と qnet の関係に相関が見られた. ・分解度による G と qnet の関係への影響は少ない. ・植物繊維の影響によりせん断抵抗 qnet を過大評価している. ・同じ応力下でせん断剛性率を比較すると, 泥炭は粘土に比べて小さい. [参考文献] 1)田中洋行,西田浩太,深沢健,中村明教:浚渫粘性土で埋め立てられた地盤の原位置試験による圧密度の 把握,土と基礎,地盤工学会,Vol.54,No.7,pp.25-27,2006. 2)金子広明,田中洋行,平林弘,小泉和弘,松山雄介:原位置におけるせん断剛性率の測定,地盤工学会北 海道支部技術報告集第 50 号,pp.45-48,2010. 3)小林慎之介,田中洋行:セメント安定処理土の養生初期におけるせん断波速度,地盤工学会北海道支部技 術報告集第 48 号,pp.31-34,2008. 4)田中洋行,田中政典,井口弘,西田薫,韓光:サイスミックコーンで計測された軟弱粘性土のせん断剛性 率,「地盤および土構造物の動的問題における地盤材料の変形特性-試験法,調査方法および結果の適用-」 に関する発表論文集,土質工学会, pp.235-240,1994. 5)能登繁幸,熊谷守晃:泥炭の動的変形特性に関する実験的研究 ,北海道開発局開発土木研究所月報,No.393, pp.14-24,1987 6)荻野俊寛,高橋貴之,及川洋,三田地利之,対馬雅己 :ベンダーエレメント試験および繰り返し載荷試験 による泥炭のせん断剛性係数,地盤工学ジャーナル,Vol.4,No.1,pp.125-133 7)川口貴之:粘性土の弾性係数の測定及び評価方法に関する研究 ,博士論文,北海道大学,2002. 112
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