(6)診察 の実際:四診

平成20年(2008)3月13日
「日常診療に役立つ漢方講座」
第168回 筑豊漢方研究会
入門講座 『はじめての漢方診療』
(6) 診察の実際:四診
飯塚病院 東洋医学センター
漢方診療科 三潴 忠道
1
N5
N5
漢
漢方
方
中国由来の医学
中国由来の医学
漢とは中国のことを指す。
漢方とは中国由来の医学のことをいう。
中国では漢方のことを漢方とはいわず
漢方というのは日本独自の表現である。
2
陰 陽:自然界の相対概念
<陽>
<陰>
自然
天
夏
昼
日向
食物
体を暖める
地
冬
夜
日陰
体を冷やす
薬物
温(熱)薬
涼(寒)薬
病気
「熱」が主
「寒」が主
N8-9
中国では自然界のすべてのことに対して陰と陽二つにわけて考えていた
。
たとえば昼が陽、夜が陰などである。
その中で病気も陰と陽二つのタイプに分類し、
熱が主体の病気を陽、寒が主体の病気を陰とした。
3
しょう
漢方医学的な病態(証)の二大別
N8-9
陽証
陰性の病態 : 体力が劣勢
陰証
病気の進行方向
陽性の病態 : 体力が優勢
活動性
発揚性
熱が主体
非活動性
沈降性
寒が主体
漢方医学的診断である証には大きく陰陽の二つがある。
陽証とは体に病邪がはいってきたことに対して活発に反応できる病態で
あり、熱が主体(寒が乏しい)となる。
陰証は病邪に対して体があまり反応できず、非活動性で寒が主体となる
。
病気の進行としては基本的には陽証からはじまり、徐々に体力が消耗す
るにつれて陰証に移っていくことになる。
4
N10
表裏の概念
表 皮膚 関節 神経
口腔~上気道
半表半裏
胸膈内臓器
横隔膜周辺
裏
消化管
漢方には陰陽とは別に表裏という物差しがある。
表とは体の表面のことであり、皮膚・関節・神経や口腔~上気道のあたり
のこと。
半表半裏は胸空内臓器や横隔膜周辺のことであり、裏は消化管のことを
さす。
太陽病は主に表に病邪との闘いのステージがあり、徐々に病気が進行し
て少陽病になると半表半裏にステージが移り、
陽明病期では裏が病邪と闘うステージとなる。
5
陰陽と体力と病毒との量的消長の関係
陰陽と体力と病毒との量的消長の関係
N8-9
時 間
陽証病期 熱
陰証病期 寒
表
裏
裏
裏
裏
死
厥陰病期
少陰病期
太陰病期
六病位
病 毒
陽明病期
太陽病期
初 発
半表半裏 少陽病期
体 力
漢方では、陽証を太陽・少陽・陽明に3つにわけ、陰証も太陰・少陰・厥陰
の3つに分類する。
病気は基本的には太陽病から始まり、長引くにつれて徐々に陰証にかた
むいていく。
病気の始まりのころはまだ体力もあり、生体反応が活発なため陽証期で
あることが多く、その一番初めを太陽病という。
太とは物事の始まりの意味。
病気が長引いていくと徐々に負け戦となってきて、だんだん陰証に入って
きて、太陰病~少陰病と進んでいく。
小陰病は陰証のど真ん中。さらに病気が進んでいくと厥陰病から死に至
る。
6
疾病経過の立体模型図
N69
(藤平健:漢方概論より改変)
体力
病毒
厥陰病
少陰病
太陰病
陽明病
少陽病
太陽病
初発
死
時間
漢方の大家である藤平先生はこの図のように病気の経過を立体的に考
えた。
体力・病毒の力関係と時間の経過の関係で、太陽病から厥陰病に至るま
でを表している。
7
陰陽と虚実
N10
実
大柴胡湯
小柴胡湯
桂枝加芍薬大黄湯
陰
(寒)
柴胡桂枝湯
桂枝加芍薬湯
人参湯
陽
(熱)
補中益気湯
四逆湯
虚
漢方薬にもそれぞれ陰陽虚実に分類される処方の性格(方位)がある。
大柴胡湯や小柴胡湯は陽実証、柴胡桂枝湯や補中益気湯は陽虚証など
。
そのため証がきまるとおのずと処方も決まってくることになり、証の診断
すなわち治療となる。
8
生体を維持する三要素
N12
生命活動を営む根源的エネルギー
失調病態:気逆、気虚、気鬱
気
血
生体を物質的に支える
赤色の液体
失調病態:瘀血、(血虚)
水
生体を物質的に支える
無色の液体
失調病態:水滞
漢方医学では、生体を維持する三要素として気血水があると考える。
気は生命活動を営む根源的エネルギーであり、気の失調病態に気逆、気
虚、気鬱がある。
血は生体を物質的に支える赤色の液体であり、血の失調病態に瘀血、血
虚がある。
水は生体を物質的に支える無色の液体であり、水の失調病態に水滞(水
毒)がある。
それぞれがバランスを崩して失調をきたすと、病気になると考える。
9
N15
漢方医学の陰陽
証(病態)
全体 構成成分
陽
陽
証
表 熱 実
陰
陰
証
裏 寒 虚
体内
薬性
循環要素
気
血
(血+水)
温(熱)
涼(寒)
漢方医学的には病態の分類方法がいくつかある。
ひとつは全体を陽証と陰証に分ける方法。
また病態の存在場所によって表裏にわける、また寒熱、虚実に分ける方
法。
気血水に分ける方法などがある。
それぞれ、陽証・表・熱・実・気などは大きく陽に分類され、陰証・裏・寒・
虚・血・水などは陰に分類される。
10
漢方医学における診断
N70
「病態を診断する」
漢方医学的病態
生体の防御能と病因との戦いの状況
漢方医学的診断=証(しょう)
病人の表している自他覚症状のすべて (診察所見)を
漢方的なものさしで整理し総括することによって得られる
その時点での漢方的診断であり 同時に治療の指示である
(藤平 健)
漢方医学における診断とは、病態を診断することである。
つまりそれは「証」を診断することである。
証とは病人の自他覚症状のすべてを陰陽・虚実・気血水などの漢方的な
ものさしで整理し総括したことで得られる総合的な診断である。
証を診断することはすなわち即治療につながることとなり、証をただしく診
断することがもっとも重要となる。
11
漢方医学における診察
N12
四 診
望診:視覚による情報収集(顔色や舌診)
聞診:聴覚(グル音や振水音)と嗅覚(便臭)
問診:病歴と自覚症状(問診表)
切診:触診(寒熱)、脈診、腹診
漢方の診察方法には望・聞・問・切の4つの診察方法がある。
まず視覚による情報収集である望診について説明する。
12
望診
視覚による診察
舌診
項目
動 作
体 型
顔 色
証判定の参考例
緩慢:虚 敏捷:実
筋肉質・堅肥り:実
痩身・水肥り:虚
赤:熱 陽証 気逆
白:寒 陰証
皮 膚
乾燥:血虚 浮腫:水毒
皮下出血:瘀血
粘 膜 暗赤:瘀血 真紅:熱
血 管 拡張(細絡・静脈瘤):瘀血
分泌物 膿性:熱 陽証
水性:寒 水毒
舌質
色
淡白:寒 虚
暗赤~紫:瘀血
真紅:熱
菲薄 虚
胖大・歯痕 水毒 気虚
舌苔
色
白:少陽病(乾燥)
陰証
黄:熱
乾湿 乾:陽証
湿:陰証
厚さ 厚:水毒 熱
斑上:気虚
鏡面舌(萎縮・乾燥・無苔):極虚
望診では患者の動作、体型、顔色、皮膚・舌や口腔内などの粘膜・皮下
に見える血管の状態や汗・唾液・帯下や膿などの性状も
表のように証を立てる参考にする。
また漢方の代表的な診察方法に舌診というものがあり、舌の色や形、舌
苔の色・乾湿や厚さなどの性状を診る。
それぞれの所見について、表のように診断の一助とする。
13
14
望診
陰証・虚証のイメージ
視覚による診察
陽証・実証のイメージ
望診
瘀血篇
手掌紅斑
眼輪部の色素沈着
舌・口唇の暗赤色
皮下溢血
細絡(毛細血管拡張)
望診 舌診
陰証・虚証・水毒?
陽証・実証・瘀血?
舌質 淡白紅 腫大(ー) 歯痕(+)
舌苔 やや湿潤 白苔 厚さ中等度
舌質 暗赤色 腫大(ー) 歯痕(±)
舌苔 乾燥 白苔 厚い
17
正常 微白苔
鏡面舌
消化機能低下 厚白苔
胃熱 黄苔
瘀血 暗赤紫色
水毒 歯痕
肉顔
この写真のように顔色が赤黒く、ふきでものの多い顔は
瘀血の一つの所見となる。
藤平健先生は肉食ばかりするとこのような瘀血の顔になるという意味で
肉顔と呼ばれた。
19
果 物 顔
このように色白でふっくらとしてやや冷え症のような印象の顔は果物顔と
いい、
陰証で水毒の一つの所見であり、当帰芍薬散などの使用目標となる。
20
砂糖顔
漢方医学における診察
N12
四 診
望診:視覚による情報収集(顔色や舌診)
聞診:聴覚(グル音や振水音)と嗅覚(便臭)
問診:病歴と自覚症状(問診表)
切診:触診(寒熱)、脈診、腹診
次に四診のうちの聞診について説明する。
22
聞診
N12
聴覚(音)と嗅覚(匂い)による診察
聴覚
嗅覚
声
咳
(呼吸)
腹鳴
張りがある:実
元気がない:虚
ためらい勝ち:気うつ
強い咳嗽:実
湿性咳嗽:水毒
乾性で咳き込む
麦門冬湯
滋陰降火湯 など
分泌物 便・ガスの臭い
強い:熱 陽証
弱い:寒 陰証
半夏瀉心湯
附子粳米湯 など
聞診とは聴覚と嗅覚による診察であり、
患者の声・咳・腹鳴や排ガス・排便の臭いなどを診断の参考にする。
たとえば声が大きく元気で張りがあれば実、弱弱しい声なら虚などである
。
咳・腹鳴・便臭なども表に示したようなことを参考にする。
23
漢方医学における診察
N12
四 診
望診:視覚による情報収集(顔色や舌診)
聞診:聴覚(グル音や振水音)と嗅覚(便臭)
問診:病歴と自覚症状(問診表)
切診:触診(寒熱)、脈診、腹診
次に四診のうちの問診について説明する。
24
問診とは、つまり患者からの話や質問による情報収集である。
25
問診
N136
病歴・自覚症状の聴取
出入りに注意
入:食欲 口渇
出:尿 便 汗 月経
寒熱の判定は重要
寺澤捷年
「症例から学ぶ和漢診療学」
(医学書院)より 一部改変
また当科ではこのような問診表を用いている。
この問診票には寒熱や食欲・排便・排尿・頭部から四肢まで全身にわたっ
て項目別に質問を用意している。
これらを総合して証を立てる。
26
漢方医学における診察
N12
四 診
望診:視覚による情報収集(顔色や舌診)
聞診:聴覚(グル音や振水音)と嗅覚(便臭)
問診:病歴と自覚症状(問診表)
切診:触診(寒熱)、脈診、腹診
最後に四診のうちの切診について説明する。
27
切診
直接 手を下す(触れる)診察
触診
脈診
腹診
体温 下腿下部:寒 熱
皮膚
乾燥:血虚 浮腫:水毒(水滞)
軟弱:黄耆剤の適応
局所
腫脹:水毒
寒熱
舌診とともに漢方独特の代表的な診察方法
切診とは直接手で触って診察する方法、つまり触診である。
患者に実際に触れることで、局所の冷え・熱感や主張・乾燥・緊張の度合
いなどを証を立てる参考にする。
漢方の診察の基本ともなる脈診、腹診について以下に説明する。
28
切診
直接 手を下す
(触れる)診察
脈診
N12-13
相手の向かい合った手の
橈側より橈骨茎状突起の高さで
中指を橈骨動脈に触れ
示指と薬指を添える
3指で均等に脈を触知し
指で血管を強く押したり
力を抜き指を浮かす
寸 関 尺
口 上 中
寸口
浮 指を浮かせると明らか 表在性・・・・表証
沈 指で深く抑えると明らか 深在性・・・裏証
虚(弱) 緊張が軟弱・・・虚証 数 頻脈・・・熱
実(強) 力強い・・・・・・・実証
遅 徐脈・・・寒 陰証 虚証
漢方の代表的な診察方法である脈診は
このように患者の右手首に自分の左手の人差し指から薬指までを添える
。
橈側より橈骨茎状突起の高さで中指を橈骨動脈に触れ示指と薬指を添
える。
3指で均等に脈を触知し、指で血管を強く押したり力を抜き指を浮かす。
このとき指を浮かせると明らかである脈を浮といい、表証がある場合の目
安となる。太陽病では脈は浮となる。
指で深く抑えると明らかな脈を沈といい、裏証である目安となる。
また抑えたときに跳ね返る力が強い脈を実、弱い脈を虚といい、虚実の
判定に用いる。
頻脈は数(さく)といい、熱がある場合があり、徐脈のことを遅といい、寒
があったり陰証、虚証の目安となる。
29
脈診の実際の写真。
30
脈診の拡大写真。
31
切診
N82
腹診の順序
(全体→局所 上→下)
1)腹力
2)腹直筋の攣急
3)心下痞鞕
4)胸脇苦満
5)心下振水音
6)腹動(臍上悸)
7)臍傍抵抗圧痛
(瘀血の圧痛)
8)小腹不仁
3
5
4
6
2
7
1
8
漢方の代表的な診察方法である腹診について説明する。
基本は全体から局所、上から下に診察する。
図にあるように1)腹力から8)小腹不仁まで順に診察するが、
以下にそれぞれについて説明する。
32
腹診(1)
腹力
N84
腹壁の緊張(弾力)
強い↑
腹力が
弱い↓
〔臨床応用〕
虚・実
腹力について説明する。
腹力とは腹壁の弾力、緊張度である。腹部全体を両手で圧迫し、その強
さは虚実の判定に役立つ。
腹部を圧迫したときグッと力がある場合を実、抵抗がなくフニャフニャした
場合は虚とする。
腹力を見る場合は臍を中心に時計回りにみるとよい。
これを反対回りにしたりすると患者が苦しがることもある。
腹力が弱く虚証の腹候。
実際に診察してみると抵抗がなく軟弱である。
腹力が中等度の腹候。
診察するとある程度の抵抗がある。
これは柴胡桂枝湯の症例の写真である。
腹力が実の写真。典型的な大柴胡湯証の腹部所見。
診察してみると胸協苦満と心下痞鞕がはっきりしている。
両側腹直筋も幅広でがっちりと厚みもあるのが特徴である。
36
腹力が実の写真その2。
腹力が実の写真その3。
腹部全体が張っており、腹診してみても跳ね返り(弾力)が強く充実してい
る。
防風通聖散(陽証・実証)が有効であった症例(防風通聖散証)の腹であ
る。
腹力が実の写真その4。
腹診(2)
N84
腹直筋の攣急
(腹皮攣急)
〔臨床応用〕
芍薬甘草湯
小建中湯
四逆散
次に腹直筋の緊張について説明する。
左右の腹直筋の緊張度合いを、横になって足を伸ばした状態で診る。
漢方の腹診が西洋医学と違い足を伸ばした状態で行うのは、
この腹直筋の緊張を診るためである。腹直筋緊張について説明する。
腹直筋を両手で圧迫し、その緊張具合や幅・厚みなどを診察する。
正常でもある程度の緊張は認めるが、異常な緊張では指の腹で横にこす
ると痛みを生ずることで見分ける。
腹直筋緊張は芍薬甘草湯や、芍薬甘草を含有する小建中湯・四逆散な
どが適応となる目安ともなる。
腹直筋緊張の写真1。
寝ている状態でも腹直筋が緊張して盛り上がっているのがわかる。
実際には触って診察してみて判断する。
腹直筋緊張の写真2。
腹診(3)
N86
心下痞鞕
〔臨床応用〕
人参
瀉心湯類
心下痞鞕の見方について説明する。
心下痞鞕は心下部を両手で圧迫したときに、
抵抗と不快感や圧痛を認めることである。
心下痞鞕を認めることで、生薬の人参や、半夏瀉心湯などの瀉心湯
類を使用する一つの目安となる。
腹力1
心下痞鞕はこのように両手を添えて心下部を圧迫することで判定する。
N86
腹診(3)-2
心下痞堅
〔臨床応用〕
木防已湯
茯苓杏仁甘草湯
心下痞鞕の応用として心下痞堅というものがある。
これは心下痞鞕の程度が強くなったもので、
心下部を中心にひし形に強く抵抗を認めるものである。
この所見を認めると、木防已湯や茯苓杏仁甘草湯を使用する一つの
目安となる。
N87
腹診(3)-3
心下堅
大如盤
辺如旋杯
〔臨床応用〕
桂姜棗草黄辛附湯
枳朮湯
また心下部と臍を結んだ線のちょうど真中あたりを中脘といい、
ここを圧迫すると、円板状の抵抗や圧痛を認めることがある。
この中脘の圧痛があると、桂姜棗草黄辛附湯の使用目標となる。
中脘
腹診(4)
N88
胸脇苦満
胸脇満微結=弱い胸脇苦満
〔臨床応用〕
柴胡剤
胸脇苦満について説明する。
胸協苦満の所見の取り方は、乳首と臍を結んだ線上の肋骨弓下を、胸壁
の裏側に滑り込むような方向で圧迫
すると抵抗と圧痛がある。胸脇苦満があると柴胡剤を使用する一つの目
安となる。
胸協苦満には右と左があるが、大抵(6-7割)は右の方が強いことが多い
ので上図では右を二本線であらわした。
胸協苦満のごく軽いものを胸協満微結といい、押しても抵抗はないので
指が胸郭内に入り込むが、
最後に圧痛があるものをいう。虚証における胸脇苦満と考えられる。
N88
先ほど述べた胸協苦満の所見の取り方の実例
このように乳首と臍を結んだ線上の肋骨弓下に指を差しこんで圧迫する
と抵抗と圧痛を認める。
48
N88
胸協苦満の所見の取り方その2
左手で皮膚を手前(下方)に少しずらすようにして少し緩ませるようにする
と、余分な苦痛を与えずに胸脇苦満を確認しやすい。
49
腹診(5)
N90
振水音
(拍水音)
〔臨床応用〕
水毒(水滞)
アトニー
腹部の振水音の所見の取り方を説明する。
振水音とはチャプチャプと音がすることであるが、特に心窩部で出現しや
すく、指先で腹壁を揺するように軽く叩いて確認する。
これは水毒や胃アトニーのひとつの参考所見となる。
心下振水音
1
振水音の所見の取り方。
手首のスナップを利かせ、心窩部をチョンチョンとたたく。
心下振水音
2
この図のように軽く触れる程度でよく、
振水音を認める場合はチャプチャプと音がする。
腹診(6)
N90
腹動(悸)
心下悸
臍上悸
臍傍悸
臍下悸
〔臨床応用〕
精神不安
竜骨・牡蛎・茯苓
虚状
腹部の動悸、つまり腹動について説明する。
腹動とは腹部の特定の部位を手で圧迫すると拍動を触れることをいう。
特定の部位とは図のように心窩部、臍の上部・脇・下部などがある。
これらを認めると、精神不安のひとつの所見と考えられ、臍上悸は最も出
現しやすいが、
心下部で触知すると病的意義が強い。
竜骨(大型哺乳類の骨の化石)・牡蠣(カキの殻)・茯苓などの生薬が適
応となる目安になる。
N90
心下悸
心下悸の所見の取り方
心窩部を図のように両手でそっと圧迫し、動悸を触れる。
腹診(7)
瘀血の圧痛点
N92
臍傍
小腹腫痞
(回盲部)
小腹急結
(S状結腸部)
臍下(小腹)
瘀血の所見の取り方について説明する。
腹診での瘀血の所見は下腹部が中心である。
臍の斜め2横指下の両側臍傍の圧痛は出やすく、
特に左側は瘀血の所見が出やすいため、左臍傍圧痛のみではあまり特
異的とはいえない。
それ以外には回盲部の圧痛である小腹腫痞、S状結腸部の圧痛である
小腹急結、
小腹の圧痛の臍下などがある。
N60・92
右臍傍圧痛
右臍傍圧痛の例。
臍から右斜め2横指下を押す。
写真では解かりやすいように指1本で押しているが、
普段は両手を添えて指全体で診察する。
瘀血の腹証の写真。
正面から見ると特にわからない。
横から見ると臍の下の部分がわずかに盛り上がって見える。
ちょうどその辺りをつかんでみると、
しこりのような塊を触れる。
これを瘀血塊という。
腹診(8)
N92
小腹不仁
下腹部の知覚鈍麻⇒腹力低下
〔臨床応用〕
腎虚
(八味地黄丸)
(臍下不仁)
最後に小腹不仁の所見の取り方について説明する。
小腹不仁とは下腹部の抵抗の減弱や知覚鈍麻のことをいう。
漢方医学的には小腹不仁は腎虚の一つの所見であり、これが使用目標
となる代表的な方剤に八味地黄丸がある。
N92
小腹不仁 1
小腹不仁は下腹部の知覚鈍麻や抵抗の減弱を認める。
実際には両手を添えて指全体で下腹部全体を診察する。
N92
小腹不仁 2 (臍下不仁)
このように臍上部と臍下部を比べると、
小腹不仁のある症例では明らかに下腹部の抵抗が弱く感じる。
特に臍直下に抵抗の減弱を認める場合は臍下不仁ともいう。
実際にはこのように指一本で診察するのではなく、
きちんと両手を添えて指全体で圧迫する。
小腹不仁5
小腹不仁の写真。
実際に八味地黄丸が適応となった症例である。
下腹部の抵抗減弱を認める。
小腹不仁4
小腹不仁の写真その2。
腹診(付)
N94
心下の冷え
腹部の温度
+ 心下痞鞕 → 人参湯
+ 強い上熱 → 黄連湯
臍を中心とした
内部からの冷え
×
大建中湯
小腹(下腹)の
熱感→猪苓湯
冷感→ 苓姜朮甘湯(?)
八味地黄丸(?)
補足として腹部の温度について説明する。
心下部に冷感と心下痞鞕を認めるときは人参湯の適応となり、
心下の冷え+上半身に強いほてりや熱感を認める場合は黄連湯の目安
となる。
臍中心とした腹部全体の冷えを認めるときは大建中湯の一つの目安とな
る。
また小腹の熱感は下焦の熱といい、猪苓湯の使用目標となり
冷えを感じる場合は八味地黄丸や苓姜朮甘湯が考えられる。
小児の腹診
小児では胸脇苦満を診るのに、このように手で腹部全体を掴み、両親指
で圧迫して診察する。
このように親指で大人と同じ順序で腹部全体を診ていく。
子供の胸脇苦満は、このように両手で体を挟み、親指で肋骨弓下を圧
迫する。
この例では右側上腹部に少し抵抗があり、親指でおすと顔をゆがめる
ので強く押せない(右胸脇苦満がある)。
69