研究課題名 : 化学療法先行治療を進行卵巣がんの標準治療とするための研究 課 題 番 号 : H22-がん臨床-一般-020 研究代表者 : 筑波大学医学医療系教授 吉川 裕之 1.本年度の研究成果 進行卵巣がんにおいて化学療法先行治療を確立するために、全国の卵巣がん治療の基幹施設 38 施設で、 第 III 相試験(JCOG 0602)を施行し、2011 年 10 月に登録を終了した。III、IV 期の卵巣がん、卵管が ん、腹膜がんに対して、 「化学療法先行治療」 (B 群)が、現在の標準治療である「手術先行治療」 (A 群) よりも有用かどうかをランダム化比較試験(非劣性試験)にて検証する。試験治療である B 群は手術の 前後に 4 コースずつ計 8 コースの化学療法を行う。標準治療である A 群は手術後に計 8 コースの化学療 法を行う。Primary endpoint:全生存期間。Secondary endpoints:無増悪生存期間、有害事象、手術侵 襲指標(開腹手術回数、総開腹手術時間、出血量、総輸血量、総血漿製剤使用量)など。対象は、開腹以 外の手段で組織学的または細胞学的に診断され、CT/MRI で進行期分類された上皮性卵巣がん、卵管が ん・腹膜がん III/IV 期の初回治療例で、20-75 才、CA125>200 IU/ml, CEA<20 ng/ml、ECOG PS 0-3、適 当な骨髄・肝・腎機能が保持され、初回腫瘍縮小手術の対象となりうる症例とする。症例登録とランダ ム割付は、データセンターでの中央登録方式をとる。電話または FAX にて症例登録を行い、適格性の確 認後、治療群の割付を受ける。ランダム化割付には調整因子として施設、PS、臨床進行期、年齢を用い る。 (1)症例登録状況・進行状況 予定登録数 300 名、登録期間 4.5 年。平成 23 年 10 月に 301 例で登録終了。追跡期間:登録終了後 5 年 (2)最新モニタリングレポート 最新のモニタリングレポートは平成 24 年 9 月 14 日に提出された(病理所見は平成 24 年 4 月 30 日ま での回収分) 。モニタリングにおいて早期に開腹による診断が判明する手術先行治療では、正診率(病期 診断と原発診断)について検証した。手術先行治療群において検討したところ、高い正診率が確認され た(98.5% [132/134]) 。化学療法先行群でも同様の正診率と推定される。 調整因子は、病期、年齢、PS である。登録時の画像による病期は A 群;III 期 103 名、IV 期 46 名、B 群;III 期 106 名、IV 期 46 名、年齢(中央値)は A 群 59 歳、B 群 60.5 歳、PS は 0-1、2-3 が、A 群で 130 名、19 名、B 群で 131 名、21 名であった。 手術に関しては、 A 群のPDS で、 残存腫瘍0 は11.1% (15/135)、 1 cm 未満 (0 を含まない) は25.9% (35/135) で、1 cm 未満全体は 37.0%(50/135)であった。A 群で残存腫瘍が 1 cm 以上の場合に option として行う IDS は 33.3% (45/135)に行われた。 A 群 IDS での残存腫瘍は 0 が 53.3% (24/45)、 1 cm 未満が 20.0% (9/45)、 1 cm 以上が 24.4% (11/45)であった。 A 群の平均開腹手術数 1.33 回。 B 群での IDS では残存腫瘍 0 が 60.3% (70/116)、1 cm 未満が 19.8% (23/116)、1 cm 以上が 17.2% (20/116)であった。 なお、輸血、血漿製剤については B 群で少なく、B 群が低侵襲であることを示すデータが揃いつつあ る。プロトコール治療全期間での検討では、総輸血頻度は、A 群 68.1% (92/135)、B 群 50.7% (68/134)、 凍結血漿使用は、A 群 29.6%(40/135)、B 群 14.2%(19/134)、プラズマプロテインフラクション使用は、 A 群 18.5% (25/135)、B 群 9.0% (12/134)、ヒトアルブミン製剤使用は、 A 群 62.2% (84/135)、B 群 20.9% (28/134)と差があった。 平成 24 年 5 月 24 日段階の両群の生命予後については、全生存期間(OS)の中央値は 54.5 か月、無増 悪生存期間(PFS)の中央値は 15.5 か月であり、最近発表された EORTC study のそれぞれ 30 か月、12 か月を上回っている。イベント数は、解析対象 301 で、死亡 112、死亡・増悪 223 である。 (3)「B 群の低侵襲性確認」 「登録時の病期診断正診率(画像中央診断) 」解析のためのプロトコール改訂 本試験治療(B 群の化学療法先行治療)が標準治療になるためには、生命予後における非劣性を証明 することに加え、1).低侵襲であることの立証、2).画像などによる病期診断の正診率が高いことを示す ことが重要となる。このためのプロトコール改訂を行った。低侵襲性の立証については、開腹手術回数、 総輸血量・総血漿製剤使用量などで B 群のほうが低侵襲であることが示されているが、有害事象、総開 腹手術時間などについてもプロトコール治療終了後に解析できる。 本臨床試験の A 群(手術先行治療群)150 名では、細胞診、画像、腫瘍マーカーによる病期診断と手 術所見による病期診断と比較する。A 群を用い、細胞診、画像、腫瘍マーカーによる病期診断の正診率 を検討する(手術前の病期診断の方法は A 群と B 群とは全く同一であり、A 群での正診率はB群での正 診率に代用できる) 。前述したように、最新モニタリングでは A 群の正診率は 98.3% (118/120)である。 さらに、CT/MRI などの画像中央診断を行い、sub-stage などを詳細に検討する。 (4)画像中央診断 A 群 149 例全例の治療開始前の CT、MRI を各施設から集め、画像中央診断を開始した。委員長は田中(筑 波大) 、委員は真鍋(国立がん C) 、北井(慈恵医大)の 3 名の放射線診断医と 2 名の婦人科医で構成さ れている。第1回を 10 月 2 日に、第2回を 11 月 6 日に開催し、第3回を 12 月に開催予定である。 2. 前年度までの研究成果 平成 21 年度に Gynecologic Oncology に第 II 相試験結果を報告した。化学療法終了後の完全腫瘍消失 率が 42%であったこと、診断的開腹・腹腔鏡が省略できること、3 年生存率が 60.1%、3 年無増悪生存率 が 18.9%であったこと、手術(IDS)で完全摘出が 59%であったことなどが報告された。平成 21 年度に本 第 III 相試験のデザインペーパーが Jpn J ClinOncol. に発表された。登録数が半数に達したところで、 実施計画書に従い中間解析を、平成 21 年 9 月に中間解析を行い、継続が決定された。平成 23 年度には、 EORTC study の結果を示す New Eng J Med 論文で示されなかった「化学療法先行治療の低侵襲性」と「開 腹なしでの原発診断、病期診断の精度」を検討するプロトコール改訂を準備した。卵巣癌の neoadjuvant chemotherapy に関する review(15 ページ)を Expert Review of Anticancer Therapy 誌に恩田、吉川 で発表した。本研究の解説も含まれる。 3. 研究成果の意義及び今後の発展性 卵巣がん III/IV 期に対する治療成績は 3 年生存率 25%、5 年生存率 20%であり、現在の標準治療は、 診断優先で治療の負担も大きく、技術的にも難しい治療体系のため均てん化が遅れている。治療成績の 向上、治療の低浸襲化、均てん化には新たな治療体系の確立が必要であり、化学療法先行治療の標準化 を目指して本試験が実施された。本研究は非劣性試験である。 本試験の登録はやや遅れたがほぼ予定どおり終了した。本試験では第 II 相試験の結果により化学療法 先行治療の特性(早期開始、低侵襲)を生かして診断的開腹・腹腔鏡を省略した点が特徴的である。2010 年 10 月に New Eng J Med に発表された EORTC 試験結果の欠点を克服した厳密な臨床試験となっている。 Primary endpoint である全生存期間における非劣性の証明だけでなく、 「化学療法先行治療の低侵襲性」 と「開腹なしでの原発診断、病期診断の精度」を検証することは標準治療になるためには必須であり、 本試験は世界的にもこの点で注目されている。 4. 倫理面への配慮 参加患者の安全性確保については、正確な診断、有用性の高い治療等に配慮がなされており、試験参 加による不利益は最小化される。また、 「臨床研究に関する倫理指針」およびヘルシンキ宣言等の国際的 倫理原則に従い以下を遵守する。1) 研究実施計画書(プロトコール)の IRB 承認が得られた施設からし か患者登録を行わない。2) すべての患者について登録前に充分な説明と理解に基づく自発的同意を本人 より文書で得る。3) データの取扱い上、患者氏名等直接個人が識別できる情報を用いず、かつデータベ ースのセキュリティを確保し、個人情報(プライバシー)保護を厳守する。研究の第三者的監視:本研 究班により、もしくは賛同の得られた他の主任研究者と協力して、臨床試験審査委員会、効果・安全性 評価委員会、監査委員会を組織し、研究開始前および研究実施中の第三者的監視を行う。 5. 発表論文 1) Kitagawa R, Katsumata N, Ando M, Shimizu C, Fujiwara Y, Yoshikawa H, Satoh T, Nakanishi T, Ushijima K, Kamura T. A multi-institutional phase II trial of paclitaxel and carboplatin in the treatment of advanced or recurrent cervical cancer. G ynecol. Oncol. 125(2):307-311, 2012. 2) Nagata C, Kobayashi H, Sakata A, Satomi K, Minami Y, Morishita Y, Ohara R, Yoshikawa H, Arai Y, Nishida M, Noguchi M. Increased expression of OCIA domain containing 2 during stepwise progression of ovarian mucinous tumor.Pathol Int. 62(7):471-476, 2012. 3) Michikami H, Minaguchi T, Ochi H, Onuki M, Okada S, Matsumoto K, Satoh T, Oki A, Yoshikawa H. Safety and efficacy ofsubstituting nedaplatin aftercarboplatin hypersensitivity reactions in gynecologic malignancies. J ObstetGynecol Res, in press 4) Abe A, Minaguchi T, Ochi H, Onuki M, Okada S, Matsumoto K, Satoh T, Oki A, Yoshikawa H. PIK3CA overexpression is a possible prognostic factor for favorable survival in ovarian clear cell carcinoma. Human Pathology, in press 5) EtoT, Saito T,Kasamatsu T, Nakanishi T, Yokota H, Satoh T, Hiura M,Yoshikawa H,Kamura T, KonishiI. Clinicopathological prognostic factors and the role of cytoreduction in surgical stage IVb endometrial cancer: A retrospective multi-institutional analysis of 248 patients in Japan. Gynecol. Oncol. in press 6) Matsumoto K, Katsumata N, Saito I, Shibata T, Konishi I, Fukuda H, Kamura T. Phase II study of oral etoposide and intravenous irinotecan for patients with platinum-resistant and taxane-pretreated ovarian cancer: Japan Clinical Oncology Group Study 0503. Jpn J Clin Oncol.42(3):222-225, 2012. 6.研究組織 ①研究者名 吉川 裕之 恩田 貴志 松本 光史 嘉村 敏治 八重樫伸生 高野 政志 川名 敬 渡部 洋 齋藤 俊章 落合 和徳 小林 裕明 横田 治重 野河 孝充 竹島 信宏 山本嘉一郎 関 博之 笠松 高弘 ②分担する研究項目 ③所属研究機関及び現在の専門 ④所属研究機関におけ (研究実施場所) る職名 研究計画全般、 筑波大学医学医療系 教授 症例登録、追跡(総括) 産婦人科 画像診断・低侵襲性研究 北里大学 医学部 教授 事務局、 婦人科 症例登録、追跡 事務局補佐 兵庫県立がんセンター 医長 腫瘍内科 症例登録、追跡 久留米大学医学部 教授 産婦人科 症例登録、追跡 東北大学医学部 教授 産婦人科 症例登録、追跡 防衛医科大学校 講師 産科婦人科 症例登録、追跡 東京大学医学部附属病院 講師 女性外科 症例登録、追跡 近畿大学医学部 准教授 産婦人科 症例登録、追跡 九州がんセンター 部長 婦人科 症例登録、追跡 東京慈恵会医科大学 教授 産婦人科 症例登録、追跡 九州大学医学部 准教授 産婦人科 症例登録、追跡 埼玉県立がんセンター 科長兼部長 婦人科 症例登録、追跡 四国がんセンター 手術部長 婦人科 症例登録、追跡 がん研有明病院 副部長 婦人科 症例登録、追跡 近畿大学医学部堺病院 教授 産婦人科 症例登録、追跡 埼玉医科大学総合医療センター 教授 総合周産期母子医療センター母 体胎児部門 症例登録、追跡 国立がん研究センター中央病院 科長 婦人科
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