低発熱ポルトランドセメントを用いた高強度コンクリートの mSn 値の検討 梅本 宗宏 *1 寺井 靖人 *2 篠崎 徹 *1 板谷 俊郎 *1 八十島 治典 *1 概 要 本報告では、著者らは高ビーライト系の低発熱ポルトランドセメントを用いた高強度コンクリートの実大規模の模擬柱 打込み実験を実施し、構造体コンクリートおよび mSn 値についての実験結果と考察について報告する。本研究の結果を まとめると以下のようになる。 (1) 打ち込み時のコンクリート温度からコンクリート部材の最高温度の推定が可能である。(2) 28S91 値は、コア強度が大き くなると大きくなる傾向が見られる。56S91 値および 91S91 値は、各実験のいずれの季節においても、56S91 値は 0 ∼ 20 N/mm2、 S 値は 5 ∼ 25 N/mm2 の範囲に分布しており、コア強度との相関は低く、ばらつきも大きい。(3) コア強度の変動係数は すべて 10% 以下で、8% 以下のものが多い。 91 91 STUDY OF mSn VALUE ON HIGH STRENGTH CONCRETE MADE USING LOW HEAT PORTLAND CEMENT Munehiro UMEMOTO*1 Yasuto TERAI*2 Tohru SHINOZAKI*1 Toshiro ITATANI*1 Harunori YASOSHIMA*1 In this paper, the authors examined the concrete placing experiment for real sized model column of high strength concrete made using belite-rich low heat portland cement, and the results of experiments and the discussion for concrete strength in structure and mSn value are reported. The results of this study were as follows. (1)It's possible to presume the maximum temperature of concrete in structure by concrete temperature at placing. (2)There is the tendency that the 28S91 value increased as core showed higher strength. The 56S91 value existed in the range of 0~20N/mm2 and the 91S91 value existed in the range of 5~25N/mm2, the 56S91 value and the 91S91 value were low correlated to core strength. (3)The coefficient of variation of core strength was under 10%, almost fewer than 8%. *1 技術研究所 *2 建築工事技術部 *1 Technical Research Institute *2 Architectural Engineering Department -91- 低発熱ポルトランドセメントを用いた高強度コンクリートの mSn 値の検討 梅本 宗宏 *1 寺井 靖人 *2 篠崎 徹 *1 板谷 俊郎 *1 八十島 治典 *1 1. はじめに 2. 実験概要 近年、超高層 RC 造構造物や CFT 構造を中心に設計基 準強度(以下 Fc)60 ∼ 80N/mm2 クラスの高強度コンクリー トが採用される例が多くなってきた[1•2]。NewRC施工標 準[3]やJASS 5 (1997年版)[4]では、高強度コンクリートの 調合および強度管理に、構造体コンクリート強度と管理 用供試体強度との強度差(以下 mSn 値)を組み込むことを 規定しているが、これらの高強度コンクリートでは、部 材の大型化や単位セメント量の増大から若材齢時に高温 履歴を受け、構造体コンクリートの強度増進に与える影 響も指摘されており[5]、現状ではデータも少なく現場ご との個別対応が求められている。 筆者らは、Fc58.8N/mm2(600kgf/cm2) を採用した数件の 高強度コンクリートの施工に際し、高ビーライト系の低 発熱ポルトランドセメントを用いた高強度コンクリート 2.1 試験体および水セメント比の水準 表 -1 に、実験に使用した各レディーミクストコンク リート工場、試験体および水セメント比の水準を示す。 各試験体とも無筋で在来型枠とし、H1000 の試験体は上 下を断熱材で覆った。実験は、季節変動の要因を考慮す るため、各工場とも夏期・標準期(春季または秋季)・冬期 の 3 回実施した。 表 -1 各工場の試験体および水セメント比の水準 工場 実験場所 試験体の形状 T 工場 つくば市 □850×H3000 J 工場 文京区 S 工場 古河市 の実大規模の模擬柱打込み実験を実施し、構造体コンク リート強度およびmSn値について検討してきた[6•7]。本 報告では、これらの実験結果についてまとめるとともに Y 工場 若干の考察について報告する。 K 工場 草加市 □850×H2500 □850×H1000* □850×H2500 □850×H1000* W/C の水準 25∼30(%) 27∼40(%) 27∼50(%) □850×H1000* 27∼42(%) □850×H1000* 30∼42(%) *発泡ポリスチロール(厚さ200mm)で上下断熱、W/C:水セメント比 表 -2 使用材料 セメント 各工場 T 工場 細骨材 粗骨材 混和剤 J 工場 低発熱ポルトランドセメント: 比重 3.20、比表面積 4170、C2 S 量=46% 鹿島産陸砂:比重 2.60、FM2.60 (70%) 葛生産砕砂:比重 2.66、FM2.70 (30%) 麻生産陸砂:比重 2.60、FM2.50 (60%) 葛生産砕砂:比重 2.66、FM3.00 (40%) S 工場 思川産川砂:比重 2.59、FM2.66 Y 工場 鹿島産陸砂:比重 2.61、FM2.69 K 工場 鹿島産陸砂:比重 2.60、FM2.67 T 工場 岩瀬産砕石:比重 2.64、FM6.68、実績率=60% J 工場 葛生産砕石:比重 2.70、FM6.60、実績率=62% S 工場 葛生産砕石:比重 2.73、FM6.67、実績率=59.2% Y 工場 葛生産砕石:比重 2.71、FM6.58、実績率=59.5% K 工場 鹿沼産砕石:比重 2.65、FM6.60、実績率=60% 各工場 高性能 AE 減水剤(ポリカルボン酸系) [注]各材料の試験値はそれぞれの代表的な数値、( )内は混合比 *1 技術研究所 *2 建築工事技術部 -92- 表 -3 調合の概要 工場 スランプ (cm) 空気量 (%) 単位水量 (kg/m3 ) T 工場 45∼60* 3 165 J 工場 21∼23 3 165∼170 S 工場 21∼23 4 165 Y 工場 40∼50* 3 165∼170 K 工場 40∼50* 3 165 表 -4 実験項目 フレッシュコンクリート スランプ・スランプフロー 図 -1 打込み時のコンクリート温度と単位セメント量 100kg 当たりの温度上昇量の関係 硬化コンクリート 圧縮強度:標準水中養 生(材齢 7・28・56・91 試験、空気量試験、コン 30 20 日)コア供試体 クリート温度(出荷時・ 受入れ時) (材齢 28・91 日) 塩化物量(受入れ時) 温度履歴測定 10 夏期 標準期 冬期 採用値 0 -10 2.2 使用材料および調合 表 -2 に、各工場における使用材料の一覧を示す。表 -3 に、コンクリートの調合の概要を示す。現着のフレッ シュコンクリートの品質が管理基準を満足するよう、季 節に応じて混和剤の添加量を調整した。 -20 40 60 80 100 120 材齢91日コア強度(N/mm2) 図 -2 材齢 91 日コア強度と 28S91 値の関係 2.3 実験項目 表 -4 に、実験項目を示す。コンクリートは、ブーム付 ポンプ車、コンクリートバケットもしくはトラックアジ テータ車のシュートから直接打込み、棒状バイブレータ を用いて締固めた。また、試験体に熱電対を埋め込み、温 度計測を行った。 3. 実験結果および考察 3.1 コンクリート温度上昇量 図 -1 に、打込み時のコンクリート温度と単位セメント 量 100kg 当たりの温度上昇量の関係を示す。低発熱ポル トランドセメントを用いた高強度コンクリートの打込み 図 -3 材齢 91 日コア強度と 56S91 値の関係 時のコンクリート温度と温度上昇量の関係は、ほぼ線形 の関係にあり、打ち込み時のコンクリート温度からコン クリート最高温度が推定できる。 3.2 コア強度と mSn 値の関係 図 -2 ∼図 -4 に、各実験における、実験季節ごとの材齢 91 日コア強度と 28S91 値、56S91 値および 91S91 値の関係をそ れぞれ示す。28S91 値は、コア強度が大きくなると大きくな る傾向が見られるが、ばらつきが大きい。また、夏期に は 28S91 ≦0のものが多い。56S91 値および91S91 値に関しては、 各実験のいずれの季節においても、56 S 91 値は 0 ∼ 20 N/ mm2、91S91 値は 5 ∼ 25 N/mm2 の範囲に分布しており、コ ア強度との相関は低く、ばらつきも大きい。 図 -4 材齢 91 日コア強度と 91S91 値の関係 -93- 図 -5 に、28S91 値と 56S91 値の関係を、図 -6 に、28S91 値と 91S91 値の関係をそれぞれ示す。 28S91 値と 56S91 値の関係およ び 28S91 値と 91S91 値の関係ともほぼ線形に回帰できる。 3.3 部材最高温度と mSn 値の関係 図 -7 に、部材最高温度と 28S91 値の関係を示す。28S91 値 は、ほぼ -10 ∼ 8N/mm2 の間に分布しており、冬期と標準 期については部材最高温度が高くなると 28S91 値が大きく なる。しかしながら、同一調合と季節変動を考慮すると、 28S91 値は、冬期>標準期>夏期の順に小さくなるものが 多く、夏期では 28S91 ≦ 0 のものが多い。したがって、低 発熱ポルトランドセメントでは、部材温度の上昇が強度 に与える影響は、部材最高温度が強度低下の主原因とな 図 -5 28S91 値と 56S91 値の関係 るわけではない。 3.4 コア強度の標準偏差 図 -8 に、コア強度と標準偏差の関係を示す。変動係数 はすべて 10% 以下で、8% 以下のものが多く、調合時の標 準偏差(σ)としては、最大でコア強度の8∼10%程度の変 動係数を見込むことが考えられる。 4. 28S91 値の提案 JASS 5[4]に基づくと、36N/mm2 を超えるコンクリート の調合は、構造体モデル実験結果の mSn 値よりΔ F=0 と すると、以下の式で表わすことができる。 mF = Fc + mSn + 2 σ mF = 0.9(Fc + mSn) + 3 σ ここに、 mF: 管理材齢 m 日の調合強度 Fc: 設計基準強度 図 -6 28S91 値と 91S91 値の関係 (1) (2) (N/mm2) (N/mm2) mSn: 構造体コンクリートの強度補正値 σ: 構造体コンクリート管理用供試体の圧縮強 度の標準偏差 ここで、一般的な標準偏差として、 σ= 0.1(Fc + mSn) 図 -7 部材最高温度と 28S91 値の関係 をそれそれの式に代入すると、(1)(2) 式はいずれも mF = 1.2(Fc + mSn) (3) となる。また、期待される構造体コンクリート強度(材 齢 n 日のコア強度)を F とすると、mF は F より mSn だけ 上回ることより mF = F + mSn 図 -8 コア強度の標準偏差 -94- 【引用文献】 [1]篠崎・寺井・大野・青木:Fc600kgf/cm 2 の高強度コンク より、(3) 式に代入すると F = 1.2Fc + 0.2mSn となる。 (4) また、管理材齢を m=28 日、n=91 日とし、図 -2 の採用値 の直線式 S = 0.2F − 9.8 28 91 (28S91 = 0.2F − 100 2 (N/mm ) (5) (kgf/cm2)) リートを用いた高層 RC 建物の施工、コンクリート工学、 Vol.35、No.6、pp.19-24、1997.6 [2]岩清水・米澤・三井・栗田: Fc800kgf/cm2 の超高強度コン クリートを用いた鋼管コンクリートの施工、コンクリー ト工学、Vol.35、No.5、pp.19-24、1997.5 [3]NewRC 総プロ:平成 4 年度工法分科会報告書、(財)国土 開発技術研究センター、1993.3 [4]日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄 とすると、(4)(5) 式の 2 式から Fc に応じた 28S91 と F が求ま り、σ、28F がそれぞれ決まる。 筋コンクリート工事、1997.1 [5]たとえば、一瀬・中根・阿部・岡本:各種養生した高強度 Fcに応じた 28S91 値を0.49 N/mm2 (5kgf/cm2)刻みに丸め、 表 -5 に示す。 コンクリートの強度発現性状の比較(NewRC 実大施工実 験 その 27)、日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)、 表 -5 Fc と 28S91 値 pp.351-352、1992.8 [6]梅本・篠崎・板谷・平賀:低発熱ポルトランドセメントを Fc (N/mm2)(kgf/cm2 ) 28S91 (N/mm2 )(kgf/cm2 ) 58.8(600) 53.0(540) 47.1(480) 44.1(450) 41.2(420) 4.90(50) 3.43(35) 1.96(20) 0.98(10) 0.49(5) 用いた高強度コンクリートの柱構造体強度の検討、コン クリート工学年次論文報告集、第 18 巻、第 1 号、pp.309314、1996.3 [7]板谷・他:低熱ポルトランドセメントを用いた高強度コ ンクリートの現場適用(その 1 ∼その 3)、日本建築学会大 会学術講演梗概集(関東)、pp.303-308、1997.9 5. まとめ 本報告では、高ビーライト系の低発熱ポルトランドセ メントを用いた高強度コンクリートの実大規模の模擬柱 打込み実験を実施し、構造体コンクリートおよび mSn 値 についての実験結果についてまとめるとともに若干の考 察について報告した。結果をまとめると以下のようにな る。 (1) 打ち込み時のコンクリート温度からコンクリート部材 の最高温度の推定が可能である。 (2) 28S91 値は、コア強度が大きくなると大きくなる傾向が 見られる。56S91 値および 91S91 値に関しては、各実験のいず れの季節においても、56S91 値は 0 ∼ 20 N/mm2、91S91 値は 5 ∼ 25 N/mm2 の範囲に分布しており、コア強度との相関は 低く、ばらつきも大きい。 (3) コア強度の変動係数はすべて 10% 以下で、8% 以下の ものが多い。 -95-
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