LabVIEW誕生20年記念 LabVIEWと画像処理

LabVIEW誕生20年記念 短期連載
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
松原 正浩
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く、アルゴリズムを組み合わせるなど、ソフトウェアを駆使
する必要がある。しかし、同じ検出ポイントの繰り返し精
度や、同様な画像を同一のアルゴリズムで処理した場合
の再現性などに問題が出る場合もある。このような場合
まず、今回紹介する事例に使用した、マシンビジョンア
には、ラインプロファイルを使用した解析により検出エリ
プリケーション開発に必要なソフトウェアについて簡単に
アを限定することで、高精度なエッジ検出が可能となる。
説明する。
これを利用することで、コントラストが低いX線画像の物体
ソフトウェアには、
「NI LabVIEW」
と
「NI Vision開発モジュ
ール」
を使用した。NI LabVIEWは、グラフィカルなアプリ
検出やエッジ検出、および照明が均一にならない曲面のキ
ズなどの検出に対応できるようになる。
ケーション開発環境である。また、NI Vision開発モジュー
ここでは、X線画像処理にラインプロファイルを活用し
ルは、マシンビジョンアプリケーションに必要なソフトウェ
た例を紹介する。今回はX線画像を取り上げるため、カメ
アツールをひとつにまとめた画像入力/処理用のソフトウ
ラやフレームグラバなどのハードウェアに関わるシステム
ェアパッケージである。200種類以上の画像処理および解
構成部の説明は割愛する。
析用の関数ライブラリ
「NI Vision」
と、対話式プロトタイプ
作成ツール「NI Vision Assistant」
、およびGigE Visionや
IEEE 1394(FireWire)規格を含む、さまざまなカメラに対
応した「NI 画像入力ソフトウェア」から構成されている。
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歯科医療分野でのアプリケーション事例を紹介する。
最近では、ソフトウェアの進歩に伴い画像処理/解析機
今までは、医師の経験にもとづく判断により処置を決定し
能や関数が豊富になり、エッジやキズの検出が容易にでき
ていたが、患者にとってより最適な治療ができるように改
るようになってきた。しかしそれは、照明や光学的な条件
善するため、歯のX線画像をもとに歯根や神経の状態を自
が良く、カメラからの画像がクリアで検出部のコントラスト
動で認識するシステムの要望を受けた。
が高い場合である。画像全体での輝度ムラがある場合や
X線画像はコントラストが低く、決して画像状態が良いと
検出部のコントラストが低い場合などは、既存のソフトウェ
はいえないため、ラインプロファイルを使用した画像処理
アの処理/解析アルゴリズムだけでの検出は容易ではな
による、X線画像の定量的で正確な判断が必要となって
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くる。また、当然のことながら短時間での開発が求めら
れた。
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ここからは、NI Vision開発モジュールを使用した具体的
な検出方法などについて説明する。まず、このソフトウェア
パッケージに含まれるプロトタイピングツールNI Vision
Assistantを使用し、アルゴリズムの検証を行う。200種類
以上の画像処理/解析ライブラリNI Visionの中から、最
適な処理・解析アルゴリズムを選び出し、最適なパラメー
タの設定を迅速に行っていく。
図2 奥歯のX線画像 輝度の差
(1)
エッジ検出
図1のサンプル画像は、人間の奥歯のX線画像である。
この画像のように背景の輝度が均一ではないため、白い
歯の部分とのコントラストの差が出てしまう。図2の画像
の上部と下部の枠内のヒストグラム(図2-aと図2-b)
を
比べると背景の輝度に差があるのが分かる。輝度平均値
でも約2倍程度の差がある。このように場所によって輝度
が違う画像を2値化して、エッジを検出しようとしても2値
化のしきい値が一定の場合、画像全体で適正にエッジが
検出されない。図3や図4のようなズレやはみ出しが発
生する。
図2 -a 図2 上部のヒストグラム
図1 奥歯のX線画像
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図2 -b 図2 下部のヒストグラム
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LabVIEWと画像処理
図3の場合は全体のエッジは検出できているように見え
るが、中央部分のエッジは中に入り込んでいる。抽出した
部分のさらに外側に本当のエッジがある。そのため、しき
い値を下げてこの部分のエッジを正確に抽出しようとする
と、今度は図4のようなはみ出しが下部で発生し、歯以外
の部分も抽出してしまう。このように2値化でのエッジ検出
が曖昧では、形状検査や寸法測定時の繰り返し精度の低
下、さらには誤認識といった原因になってしまう。
(2)
ローカル2値化法
前述した問題を解決する方法は、多くの手法が研究さ
れているが、単純な方法のひとつに画像を小さな短冊や
図3 2値化によるエッジ検出ずれ
升目に分けて狭い範囲で2値化を行う、ローカル2値化法
がある。それぞれの狭小範囲の画像に適したしきい値で
エッジを検出してから全体を組み上げる。
図5は、実際に図2の上部と下部の部分を、それぞれし
きい値を変えて2値化した例である。これにより、上部も
下部も正確にエッジの抽出が行われる。このようにして、
上から下まで1ラインごとに詳細にエッジを抽出すること
で、より高精度な計測が行える。
(3)
ラインプロファイル
ここでは、1ラインごとのラインプロファイルを使った2値
化を行う。図6は画像の上中下でラインプロファイルの違
いを見たものである。図6-aが上部ラインのプロファイル
である。
コントラストが高く状態が良い。図6-bは中央部ライン
図4 2値化によるはみ出し
プロファイルである。中央から下は徐々にコントラストが
低下してくる。図6-cが下部のラインプロファイルである。
ここでは、歯根部の輝度の低下と背景部の輝度の上昇に
より、コントラストがますます低下する。
実際には画像全部を上から下まで、または左右にライン
をスキャンさせて2値化させなくてはならない。最終的には
自動で全領域をスキャンさせるプログラムが必要になる。
そのため、2値化のしきい値もプログラム上で自動的に変
更させる必要があるが、ここでは単純に輝度の最大値や最
小値に割合を掛けて計算する。図7は、ラインプロファイ
ルの平均値をしきい値にしたもので、全体にわたり、かな
り正確にエッジの抽出ができているのが分かる。
図5
上部と下部を別々に2値化した例
上部のしきい値:53、下部のしきい値:87
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図6 上中下部の位置での輝度分布
図7 下部の輝度値分布
図6-a 図6上部の輝度値分布
図8 上下限のふたつのしきい値による処理
図6-b 図6中央部の輝度値分布
図6-c 図6下部の輝度値分布
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図9 微分処理を組み合わせた場合
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今回紹介した、ソフトウェアを組み合わせて行ったロー
カル2値化の処理は、NI Vision開発モジュールの最新バー
ジョンから、基本関数として組み込まれている。このため、
今回紹介したような複雑な画像処理・解析が容易に行え
るようになった。さらに、ゴールデンテンプレートマッチン
グや、データマトリクスグレーディングツールを使用した
ISO 16022(AIM)規格の2Dバーコードの評価など、最新
バージョンでは、より迅速に開発できるようにさまざまな
機能が強化されている。
また、最新の画像入力ソフトウェアでは、GigE Vision規
図10 図9の処理後に2値化した場合
格のカメラにも対応し、より広範なマシンビジョンアプリ
ケ ー シ ョン の 構 築 に 対 応 して い る 。 詳 しくは 、
また、ラインプロファイル波形の大きな変化点を見つ
www.ni.com/vision/ja/ をご覧いただきたい。
けることによって、歯の内部の陰影(神経部分)部分も取
さらに、NIでは、より複雑なアプリケーションやシステム
り出せる。通常のように、画像全体で輝度の中間グレー
統合が必要な場合にも、ソフトウェアやハードウェアのみ
部分を抜き出すために、同じ上下限のふたつのしきい値
ではなく、今回事例を紹介した経験豊富なアライアンス
を使って2値化した場合は、図8のようになってしまう。
パートナによるシステムインテグレートも提供している。
そこで、ラインプロファイル波形を使い、微分などで解
なお、7月に行うNIの「マシンビジョン技術フォーラム
析して輝度が大きく変化する点を見つける。そしてその点
2006」
(www.ni.com/jp/event)にて同様の事例を発表する
のいくつかの隣接範囲で2値化をすれば、図9のようなわ
予定である。
ずかなコントラスト違いまで抽出することができる。
さらにここからエッジを検出していけば図10のような枠
だけを抜き出すこともできる。
☆日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
営業部
(4)
おわりに
今回は、NI LabVIEWとNI Vision開発モジュールの組み
合わせによる、ラインプロファイルの解析を行うことで、X
TEL.0120-108492 FAX.03-5472-2977
[email protected]
http://www.ni.com/jp
線画像のようなコントラストの低い画像においても正確な
エッジ検出を可能とした。
しかし、
画像処理で解決したいという要望はたくさんあり、
☆株式会社ペリテック
開発第1営業
そこにはさまざまな課題が存在する。工業分野や医療分
システムエンジニア&部長
野では、さらに速いスピードや高い精度の要求があり、ま
吉田 雄吉
た、フーリエ関数をはじめ振動解析などとの統合処理が必
TEL.027-328-6970 FAX.027-322-7218
要となっている。NIでは、NI LabVIEWに追加して使用す
[email protected]
るLabVIEW用の「音響/振動解析ツール」や波形解析な
http://www.peritec.co.jp
ど、さまざまなツールキットを提供しているうえ、ソフトウェ
アとモーションやデータ集録などのハードウェアとの統合
も容易なため、これらの要求にも十分対応可能である。
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