「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統 一的な

「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統
一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」(以下、基準案という)
に対する意見
【基本情報】
1)個人/団体の別 団体 2)団体名 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス 理事長
三木由希子 3)住所 東京都新宿区三栄町 16‐4
4)連絡先 TEL.03‐5269‐1846
芝本マンション 403 E‐Mail icj@clearing‐house.org 【意見】
特定秘密保護法は、秘密保護のみに偏重して政府の権限を強化し、秘密を有する政府の
本質的な責任である説明責任の徹底に欠けており、本基準案をもってしても本質的な問題
が解消するものではない。とりわけ、政府の説明責任については、情報公開法や公文書管
理法などをもってしても不十分であり、いわゆる内部告発者の保護や情報公開を推進する
ための重層的な仕組みなど、問題を内外から是正するための情報公開の仕組みが欠けてい
る。これは、特定秘密保護法やそれに関連する諸制度の欠陥でもある。そのため、拙速に
特定秘密保護法を施行すべきではないことを最初に申し添えておく。
1
Ⅰ-2(1)ウについて
「報道又は取材の自由」への十分な配慮には、①取材を受けた職員等による配慮、②
組織としての配慮の二面があると考えられ、とりわけ後者でどのような「遵守」
「配慮」
をするのかは本法と知る権利の関係に重大な影響を与えることになる。当該箇所は、
「特
定秘密保護法の運用その他特定秘密に関する業務を行うすべての者」が留意すべきもの
として掲げられている。職員等が取材を受ける際の遵守、配慮はもちろんのこと、遵守
や配慮のためにどのような組織的対応をするのかについては、具体的な対応が必要なと
ころ、特段の定めは法にも基準案にない。 とりわけ特定秘密に係る取材・報道活動への対応と情報漏えいとの関係は大きな問題
であり、不適当な秘密指定であってもそれが認定されるまでは情報漏えい事案として扱
われ、その認定についても一義的には行政機関という組織の判断によることになる。
少なくとも、そもそも遵守するとは何か、配慮するとは何かについてより具体的に示す
べきである。また、組織的な遵守、配慮として公益通報者保護法に定める狭義の公益通
1 報ではなく、社会通念としての公益通報の保護・免責、アカウンタビリティの徹底、特
定秘密を含む政府活動分野における情報公開・情報提供に在り方など、包括的な対応を
示すべきである。 Ⅰ-3(3)について
2
秘密保護という観点から当該部分が設けられていると解されるが、I‐2(1)ウとの関
係として、当該部分の「報告するなど、適切に対処する」場合に当たる「漏えい」の働
き掛けないしその兆候が取材活動であった場合どのような取扱いになるのか、という点
が最も問題になる点である。手続的に必要な手順を踏んだ特定秘密が、総体として正当
な秘密指定であるか否かは、特定秘密の内容・事案の性質、どのような利益を体現した
ものであるのかによって判断が異なるところであり、一義的には秘密指定を行った行政
機関の利益を体現することになろう。 このような正当性の判断が独占されることが、不適切な秘密の保持を許容する体制を
つくることになる。そのため、少なくとも、公益性のある「漏えいの働き掛け」につい
て、上司への報告ということだけでなく、安全な公益通報のライン(特定秘密の内容が
通報に含まれていたとしても情報漏えいに当たらないもの)を設ける、あるいは、免責
的な例外を設けるべきである。 Ⅱ-1(2)について
3
我が国政府により公表されていなくとも、他で公表されている場合は非公知性の要件
を満たさないという考え方自体には異論はない。 しかし、逐条解説案では、「公にされたか否かとは別個の概念と解すべき」とされて
おり、公にされている状況が個別に判断され、公にされていると行政機関が認定してい
ることが、秘密指定の要否を決定することになる。また、外国政府その他の者により公
表されている場合、公になった政府活動の事案そのものを行っていることを政府が認め
ない限り、公にされた情報が同一性のあるものとはならないおそれがある。換言すると、
同一性の前提は、政府が公にされた活動を行っていることを認めることと同義であり、
そうでない場合はそもそも同一の情報であることの認定をしないこともあり得ること
となる。この判断に公になった経緯が問題とされる可能性があり、そのことが「当該情
報の内容に応じ…」以下にある個別具体的な判断の中で加味されるものと考えられる。 「たとえ我が国の政府により公表されていなくても、本要件を満たさない」とする基
準は、一見非公知性の判断を限定しているように思われるが、公になっていることと同
一性の認定に加え、個別判断の要件次第で機能しないおそれがある。そこで、個別具体
的な判断に当たっての基本的な基準を示し、また「認定する」については削除ないし「知
ったとき」とするべきである。 2 4
Ⅱ-1(3)について
特定秘密の指定要件である「特段の秘匿の必要性」は、別表該当性・非公知性の外形
的要件を満たした情報の秘密指定を質的に決める要件であり、かつ、秘密指定期間を実
質的に決めるものであるため、この判断の合理化・客観化が極めて重要であり、それが
基準案で行われる必要がある。 特段の秘匿の必要性の要件は「著しい支障を与えるおそれ」であるが、漏えいによる
著しい支障とはリスクをどう見積もるかが判断に影響するものであり、その見積もりが
過剰にならないような対処が基準には求められるべきである。 しかし、「著しい」「支障」「おそれ」について、逐条解説案でも基準案でも特段の解
釈指針、判断基準が示されず、例示的にどのような場合が該当しうるかが示されている
のみである。少なくとも、例示的なものだけでなく、各文言においてどのような解釈指
針、判断基準となるのかについて示す必要がある。また、漏えいによるリスクに加えて、
厳罰をもって保護する必要性についても要件に加えるべきである。さらに、例示につい
てはどのような場合は当たらないかについても加えるべきである。 個別性が高く客観的・合理的な基準化ができないということであれば、そのことを明
らかにし、基準化に変わる手段・方法による秘密指定範囲の抑制・抑止策と連動させた
仕組みにすべきである。その場合、判断に当たって個別性が高いということは、当該特
定秘密に係る業務を行う機関の技術的・専門的判断とされるものの裁量性が高くなるこ
とを認識し、特定秘密と当該関連業務の双方の視点から秘密指定の妥当性についてチェ
ックできるような抑制・抑止策が必要である。 5
Ⅱ-1(4)イについて
公益通報の通報対象事実は、公益通報者保護法においては法令違反の範囲を超えない
ものであり、この基準案では、法令違反の隠ぺいを目的とした指定以外は禁止されてい
ない。特定秘密の指定の禁止対象となるべきものは、法令違反だけでなく、そもそも秘
密指定を行い秘密保持することで、個人や組織が不当な利益を得ることを排除するべき
である。秘密の保持は情報流通の遮断をあらゆるレベルで行い得るものであり、情報の
隠ぺいを容易にする一面があることを勘案すれば、秘密指定により発生しうる不当な利
益を想定して禁止事項とすべきである。 情報保全諮問会議でも参考にされていると思われるアメリカ大統領令における機密
指定禁止事項は、不当な利益の排除を念頭においていると考えられ、以下のものを参考
にするべきである。 行政の非効率・過誤の秘匿、特定の個人・組織・期間の批判防止、競争の制限、
国家安全保障上の利益を認められない情報の公開を妨げ遅延させるため 3 6
Ⅱ-3(2)について
特定秘密については、その情報を複製、引用、概要などにより利用した派生的に作成
される情報も考えられる。これらについての特定秘密としての取扱い、指定について、
どのように取り扱うのか、あるいは管理をするのかについても基準で定めるべきである。
7
Ⅱ-3(4)について
指定理由の中で明らかにするとされている、
「災害時の住民の避難等国民の生命及び身体
を保護する観点からの公表の必要性」については、指定管理簿に記載するだけでなく、当
該文書の解除の条件として当該文書そのものに記載をするものとすべきである。 8
Ⅱ-3(5)について
特定秘密指定管理簿の記載事項に「特定秘密として取り扱うことを要しない要約した
ものを記述」とある。特定秘密指定管理簿は独立公文書管理監による検査・監察にも用
いられるものとなっているため、非常に重要なものである。指定管理簿を特定秘密とし
た扱うことを要しないようにするべきであるが、存否そのものが特定秘密化するものの
有無など実態がわからないところがあり、概要の記載についても、特定秘密として要し
ないような記載については、一定の例外的な概要記載が認められるのか否かなど、実際
の運用にあったっての方針、とりわけ例外的な扱いの有無については、基準ベースで明
らかにすべきである。 9
Ⅱ-4(1)について
指定の有効期間については例示的な説明をしているにとどまり、具体的な有効期間の
設定基準を示しているわけではない。事案による個別性が高いためであるとも思われ、
そのため「行政機関の長は、指定の有効期間の基準を定めることが可能な情報について
はこれを定めるなどにより、統一的な運用を図るものとする」として、各行政機関に実
施的な基準作成は委ねられている。 特定秘密保護法においては、有効期間の満了と解除が異なるものとして分けられてお
り、有効期間中に行われるものを解除とし、それ以外は有効期間の満了によって特定秘
密ではなくなる構造になっている。そのため、有効期間の設定は、情報が特定秘密では
なくなることを決める決定的な要因である。どのような有効期間が設定されるかという
基準は、監察・検査の実施の対象となることも踏まえ、各行政機関にのみ委ねるのでは
なく、内閣保全監視委員会ないし内閣府独立公文書管理監による承認ないし同意を経て
定めるべきである。 また、前述の「特段の秘匿の必要性」に関する意見で述べたとおり、秘密指定期間を
決定づける要素の主たるものは「特段の秘匿の必要性」を要する期間がどの程度かとい
う判断であるところ、これについて実質的な基準化がされていない。それに変わり、可
4 能な場合は、各行政機関がそれぞれで指定期間の基準化を行うということになっている。
指定期間については、個別性による客観的・合理的な基準化ができないという前提で基
準案が作成されており、これについては、特定秘密の指定と同様に、特定秘密と当該関
連業務の双方の視点から秘密指定の妥当性についてチェックできるような抑制・抑止策
が必要である。 なお、秘密指定の期間については、Ⅴ‐5(1)アに定める行政機関の長による報告事
項の中に、秘密指定期間についても統計的な報告を行い、どの省庁においてどの程度の
期間の秘密指定情報があるのかという総数がわかるようにし、それを公表すべきである。
10
Ⅱ-4(2)について
「特定秘密の指定を解除する条件を指定の理由の中で明らかにするよう努めるものと
する」は、「指定を解除する条件を明らかにしなければならない」とし、特定秘密指定
管理簿では「解除条件」欄を設けて記載するようすべきである。 11
Ⅱ-6(1)について
秘密保護措置としての緊急な特定秘密の廃棄については、極めて限定的かつ例外的な
ものであるべきであり、「危機管理に万全を期す」ために実施する手続等については、
基準において事項を明示すべきである。危機管理という言葉は広い概念であり、施行令
案のいう「特定秘密文書等の奪取その他特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態」と
は、特定秘密文書等の奪取以外に例示もなく、「その他特定秘密の漏えいのおそれ」と
いう限定を受けない規定ぶりになっている。特に、別表 3 号、4 号に該当する特定秘密
の場合の例外的な事態とはどのようなものなのかは、強い関心の対象である。極めて例
外的なものである趣旨を明確に基準において示すために、その適用基準並びに規程に定
める事項について示すべきである。 12
Ⅱ-6(2)について
行政機関の長は、規程を定めようとする場合に内閣総理大臣に通知をするとしている
が、通知では規程の実質的な審査を行うという趣旨とは読み取れない。規程の策定に関
しては、一義的には行政機関の長の責任ではあるが、その妥当性については内閣総理大
臣の「同意」として、指揮監督を行う内閣総理大臣の責任とし明確に位置づけるべきで
ある。また、規程については公表をする旨基準で明らかにすべきである。 13
Ⅲ-1(1)について
秘密指定の期間は、①非公知性、②特段の秘匿の必要性の 2 要件を充足する期間とな
ると解されるが、②は前述の通り実質的な基準化がされておらず、秘密指定期間につい
ても客観的・合理的な基準化ができていない。そのため、延長についても例示的に判断
5 に際しての留意事項が示されているにとどまっている。また、「時の経過に伴い指定の
理由に係る特段の秘匿の必要性…」とあるが、「非公知性」について考慮を求めるもの
になっていない。少なくとも、非公知性についても基準の中に加えておくべきである。
さらには、延長する「判断理由を明らかにする」という基準となっていので、これを活
用し、特定秘密の指定、有効期間の設定と同様に、特定秘密と当該関連業務の双方の視
点から秘密指定の妥当性について、チェックできるような抑制・抑止策が必要である。 14
Ⅲ-1(4)について
30 年を超えて秘密指定をする場合は、法 4 条 4 項各号に掲げる情報を基本とすると
されている。一定の限定を加えるという趣旨であると思われるが、一方で、30 年超の
秘密指定文書は、指定期間が 60 年超を超え得るということにもなる。そこで、30 年超
から 60 年までの秘密指定期間の延長と、60 年超の秘密指定期間とする場合について、
それぞれ適用する際の要件となるものを基準に設けるべきである。 また、法 4 条 4 項各号については、国会での修正であったことを受けてか逐条解説案
でもそれぞれについて解釈指針となるものが示されていない。これらについては、別表
該当性の判断ではなく、特段の秘匿の必要性の判断から各号が示されているはずであり、
これらについての判断基準、解釈指針を示すべきである。 15
Ⅲ-2(1)について
特定秘密の解除は、指定期間中に行われるものとして例外的に行われるものと実質的
になっており、解除がされ得るのは「特定秘密の指定の理由の点検」によることが本基
準案で明らかになった。しかし、「点検」とは何を指すのかが明らかではなく、解除が
機能するのか否かが不明である。少なくとも、「点検」についてのフレームワークが示
されていなければ、機能するのか否かの判断もできないため、この実質性に関する内容
を基準に書き込むべきである。 指定期間の延長の手続に際して点検等が行われるが、指定期間が長期になるほど秘密
指定を外すタイミングや、延長期間の妥当性の判断は行政的必要性と社会的実態とのか
い離が生じるものとも考えられる。そこで、有効期間の満了によって特定秘密ではなく
なることを基本として、指定期間中に行われるのが解除であるならば、後者については
一般からの解除審査の申し出制度を創設し、指定期間中の解除審査が進むようにすべき
である。また、特定秘密の解除については、指定を維持することによる利益と指定を解
除する、さらには公開することによる公益性の衡量を行政機関の長に要求するべきであ
る。Ⅱ‐3(4)にある指定の理由の記載事項とされているものは、まさに公益的な理由
による解除が含まれていると解される。そこで、一般的な公益的解除と公開基準、そし
て個別に例示あるは列挙できる場合はその基準を設けるべきである。 6 16
Ⅲ-3(1)について
30 年を超える特定秘密にかかる情報は、歴史公文書等として国立公文書館等に移管
をするとされている。この基準は、以下の点を変えるべきである。 一点目は、30 年超とされているため、5 年ごとに更新されて秘密指定が 30 年に到達
した特定秘密は、移管義務の対象外となることである。30 年以上の秘密指定期間につ
いては移管義務の対象とすべきである。 二点目は、指定を解除しまたは指定期間が満了したものを記録する行政文書としてい
る点である。特定秘密の解除ができない限り、歴史公文書等である行政文書の保存期間
が満了しても国立公文書館等に移管ができないというのは、公文書管理法、国立公文書
館法、及び特定秘密保護法そのものにかかわる問題であるため、基準案で対応できる問
題ではないだろうが、行政文書としての保存期間満了とは、行政組織として現用性がな
くなったことを意味しており、それを特定秘密の指定を外せないことだけをもって長期
に保有し続けることは妥当ではない。関連法制の改正等により、国立公文書館等に特定
秘密として指定したまま移管あるいは移送できる仕組みとし、長期秘密指定文書でかつ
保存期間を満了したものは管理をすべきである。また、秘密指定をしていることをもっ
て、不要に行政文書の保存期間を延長するべきではなく、国立公文書館等に「移管」と
いう形態をとることによる行政機関の管理権の喪失が課題になるのでなれば、移送など
中間書庫を拡充させるような仕組みを検討するよう促すべきである。 三点目は、
「公文書管理法第 8 条第 1 項の規定にかかわらず、歴史公文書等として国
立公文書館等に移管するものとする」としている点である。これは、本基準案で定める
だけでなく、公文書管理法の行政文書管理ガイドライン及びそれに基づく各行政機関の
行政文書管理規則の改定が必要なものとすべきである。移管については、公文書管理法
に根拠を置くことで、より法的に明確なものとなるため、不可欠である。 17
Ⅲ-3(2)について
アでは、指定の有効期間が 30 年以下の特定秘密に係る情報を対象としているが、30
年未満とすべきである。歴史公文書等に関して、指定の解除ないし有効期間満了しなけ
れば移管等ができないという仕組みについては、Ⅲ‐3(1)の意見と同様である。 イでは、25 年を超える特定秘密については、
「万が一にも歴史公文書等を廃棄するこ
とのないよう」とあるが、歴史公文書等と指定されている行政文書については廃棄をす
れば違法であるため、本基準の趣旨は、歴史公文書等とすべきものを保存期間満了後の
措置として移管としていないものがあった場合についての留意事項であるのか否かに
ついて、まずは明確に基準上位置づけるべきである。 仮に、歴史公文書等であっても廃棄されている行政文書があり得るという前提であれ
ば、それは別に法令違反が発生しているということであり、その前提であればそのよう
な事態について具体的に公文書管理委員会などへの諮問等による事態の改善をすべき
ものである。 7 また、保存期間満了後の措置として移管とすべきところを、かかる事態が発生してい
るということであれば、それも公文書管理法に違反している状況であり、これについて
も同様の対応が必要である。ただ、これについては、独立公文書管理監により、歴史公
文書等とすべき特定秘密を含む行政文書が移管とされているか否かについて検証・監察
を具体的にさせることなどの、特定秘密保護法の運用の枠組みの中での対応として、よ
り具体的な防止策を検討すべきである。この場合、特定秘密という一般行政文書とは異
なる特殊な情報について、何が歴史公文書等に該当するのかを行政文書管理ガイドライ
ン、各行政機関の行政文書管理規則で判断基準を示し、それを基準案にも落としこんで
いくことが方策として考えられる。また、歴史公文書等としての判断について、独立公
文書管理監などが指針やガイドを作成するなど、運用について実質的な対応ができるよ
うな方策を提供することも方法である。 18
Ⅴ-1(2)について
内閣保全監視委員会は、Ⅴ‐2 によれば内閣総理大臣の指揮監督を補佐・代行するとい
う役割が中心と解される。しかし、役割については「特定秘密の指定及びその解除並び
に適性評価の実施の適性さを確保するための事務の公正かつ能率的な遂行を図る」とい
うことのみであり、どのように役割を遂行し、内閣総理大臣の指揮監督の補佐・代行を
行うのか、という機能や活動を示すものがない。そのため、名称に入っている「監視」
という機能がどう発揮されるのか、効果的かつ機能的なものであるのかなどについて検
討する材料が示されていない。監視機能は設ければよいというものではなく、どのよう
な機能と効果が具体的に発揮されるのかという方策とともに示されるべきものである。
どのような端緒や頻度、何をもって監視機能を発揮するのかについて、基準案に追加し
て具体的機能を明らかにすべきである。 また、庶務は内閣官房内閣情報室において処理するとあるが、内閣情報調査室はまさ
に監視対象となるものであり、少なくとも同じ内閣官房内でも別の部門が庶務の担当と
なるべきである。そもそも、特定秘密保護法の所管がまさに特定秘密を中心的に持ち得
るところにあること自体、特定秘密を保有する立場からの事情を斟酌した制度運用の原
因となるため、この際、法の所管についても同じ内閣官房に置くにしても、別の部署に
担当替えをし、そこで監督的立場から法の執行・運用の蓄積を行うべきである。 19
Ⅴ-1(3)について
「内閣府は、内閣官房とは別の立場から、いずれの行政機関にも偏ることなく判断す
ることの重要性を十分に認識し…」として「独立性」らしき事柄を意識していると思わ
れるが、重要なのは「認識」ではなく権限の独立性を確保することで、いずれの行政機
関にも偏ることなく判断が可能となるものである。権限の独立性について言及し、当該
箇所以外でその権限を定めるとともに、法令等に根拠を持たせる形態に移行させるべき
である。 8 20
Ⅴ-3(1)アについて
内閣府独立公文書管理監の役割として、「特定行政文書ファイル等の管理が特定秘密
保護法及び施行令の規定並びに本運用基準ⅠからⅢまでに従って行われているかどう
かを検証し、監察する」とあるが、この中に特定行政文書ファイル等、あるいはかつて
特定行政文書ファイル等であったものの廃棄に際し、内閣総理大臣の同意の前の実質的
な審査を行うと明示すべきである。Ⅲ‐3(1)(2)に関連して、特定行政文書ファイル
等として監察・検証をするとともに、廃棄の段階で特定秘密あるいは特定秘密であった
ものを含む行政文書ファイル等であることを認識して廃棄審査を行うことにより、歴史
公文書等の廃棄、長期にわたり保有されている特定秘密にかかる行政文書の廃棄状況の
把握を具体的に行うことができ、かつ責任の所在をより明確にできる。 また、本来は、より制度的にも運用的にも独立性の高い監視組織を設置すべきである
が、当面の暫定的な措置として、少なくとも、内閣府に設置される情報保全監察室の室
員に関しては、特定秘密を取り扱う行政機関の業務を熟知している者を中心に構成でき
ないこととし、行政監察、情報公開、公文書管理など多様な人材を登用するべきであり、
その旨を基準で示しておくべきである。 21
Ⅴ-3(2)ア(イ)について
独立公文書管理監が報告を受ける特定行政ファイル等の管理についての報告事項は、
項目を追加すべきである。 特定秘密に係る行政文書は、特定秘密としての指定は特定秘密指定管理簿、行政文書
としての管理は行政文書ファイル管理簿、特定秘密に係る行政文書であることを示すも
のとして特定行政文書ファイル等の管理事項と、少なくとも 3 つの管理に関連するもの
がある。特定秘密は、指定期間と行政文書としての保存期間は一体のものではなく、そ
れぞれで期間の設定がされるため、行政文書としての寿命と、特定秘密としての寿命を
リンクさせて管理すべきである。具体的には、指定管理簿に記載される指定の整理番号
を、特定行政文書ファイル等の管理事項に含める、あるいは行政文書ファイル管理簿そ
のものに含めるべきである。 また、例えば、秘密指定の有効期間と行政文書の保存期間については、有効期間の方
が短く行政文書の保存期間が長い場合、有効期間の方が行政文書の保存期間より長い場
合がある。前者に関しては、行政文書としての保存期間が満了した点では特定秘密が含
まれないが、前述に意見をした通り、特定秘密であったものを含む行政文書ファイルは
独立公文書管理監による廃棄審査をすべきであり、この場合についても取り出して廃棄
審査ができるようなファイルの管理形態にすべきである。 後者は、特定秘密の指定期間と文書の保存期間の関係について、基準で明確に示して
おくべきである。保存期間は満了し、行政文書としての現用性がなくなり、かつ移管対
象文書ではない場合は、秘密指定をしたまま廃棄ということになると考えらえる。この
場合は、特定秘密としての有効期間内に廃棄とすることについて、具体的にその妥当性
9 の審査がされるべきであり、特定秘密としての指定、行政文書ファイル等の管理をリン
クさせて独立公文書管理官が検証・監察し、かつ廃棄の審査ができるようにすべきであ
る。 一方で、移管対象文書である場合は、秘密指定が必要となくなるまで、行政文書の保
存期間を延長するものについては、すでに現用性がなくなった行政文書を保有し続ける
状況になる。前述の意見の通り、この状態のまま国立公文書館等に移管ないし移送を行
うべきであるとともに、特定秘密の指定と行政文書ファイルの管理がリンクする形態で
管理を行うべきである。こうした行政文書の保存期間と特定秘密の指定期間との関係に
ついては、一般にはわかりにくく、しかし文書廃棄に対する懸念が存在する状況に対し、
政府として基準において明確にして遵守すべき内容が何かを明らかにするべきである。 22
Ⅴ-4(2)(ウ)について
行政機関の長から独立公文書管理監への報告の前提として、行政機関の長による特定
秘密の指定・解除・特定行政文書ファイル等の管理などに関する自己監察を義務付ける
ことを基準案において行うべきである。またその自己監察の実施内容、方策などを、独
立公文書管理監の責任において提供すること、自己監察結果の報告と、それに加えて個
別に問題を把握した場合に、Ⅴ‐4(2)
(ウ)にいう報告を行うとすべきである。 23
Ⅴ-(2)イ・ウについて
独立公文書管理監がⅤ‐3(1)イにより行政機関の長に特定秘密を含む資料の提出・
説明を求めることができるとしているのに対し、この権能は法 10 条 1 項の規定による
行政機関の長による公益上の目的の特定秘密の提供によっている。そのため、独立公文
書管理監は独自の権限として特定秘密へのアクセスができるわけではなく、公益上の理
由による行政機関の裁量的判断で提供が受けられるという関係になっており、ウでは行
政機関の長により提供を拒むことの根拠が挙げられている。 独立公文書管理監の役割は検証・監察なのであって、それらが機能するためには独自
の権限として特定秘密にアクセスすることができるようになっているべきである。すな
わち、法 10 条 1 項の規定を根拠とするのではなく、独立公文書管理監及び情報保全監
察室は、その機能として必要な場合は独自の権限として特定秘密へのアクセスができ、
それが本来の権限として認められるようにすべきである。 24
Ⅴ-4(2)ア(ア)について
内部通報にあたって、「特定秘密である情報を特定秘密として取り扱うことを要しな
いよう要約して通報するなどして、特定秘密を漏らしてはならない」としているのは、
内部通報を事実上制約しているに他ならない。通報をする場合に知得した特定秘密に関
する情報を職員等が窓口に伝えると、「情報漏えい」になり得るような仕組みは機能す
10 るとは思えない。 具体的に何が特定秘密の指定や解除、特定行政文書ファイル等の管理として問題であ
るのかを述べる際、特に指定や解除については特定秘密の内容にも一部触れる可能性も
ある。少なくとも、窓口は通報の処理のために特定秘密にアクセスしうるはずであり、
そうであれば、窓口で特定秘密にかかる情報を述べたとしても、それが情報漏えいには
ならず、窓口の権限としてそうした情報も通報受付け時点で取り扱えるようにすべきで
ある。通報者にとって、少しでも通報しやすい仕組みとしておくべきであり、決して通
報をしたことが情報漏えいとして懲罰ないし処罰の対象となるようなことはあっては
ならない。 25
Ⅴ-4(2)イ(ア)について
Ⅴ‐4(2)ア(ア)の意見と同様である。独立公文書管理監において通報を受ける場
合、通報者が知得した情報を含む特定秘密に触れたとしても、それが情報漏えいになら
ないよう、通報を受けるための特定秘密を取り扱う権限を付与すべきである。 26
Ⅴ-4(2)イ(オ)
(カ)について
Ⅴ‐(2)イ・ウに対する意見と同様である。内部通報を受けて独立公文書管理監がそ
の処理を行うに当たり、特定秘密にアクセスをするために、各行政機関が公益上の必要
性から判断して提供をし、拒むこともできるような形態では、独自の権限としての調査
等ができないこととなる。特定秘密へのアクセスは、内部通報処理のために独自の権限
として独立公文書管理監等に付与すべきである。 27
Ⅴ-4(3)イ・ウについて
通報者の保護について、不利益取り扱いを防止するための措置と、行政機関の長が、
不利益取り扱いがあった場合の是正を定めている。しかし、不利益取り扱いが発生した
場合に、組織的にそれが行われた場合は行政機関の長の是正による救済が機能しないこ
とも十分に考えられる。不利益取り扱いを受けた場合については、行政機関の長による
是正だけでなく、別の救済の仕組みを設けるべきである。 28
Ⅴ-5(1)アについて
報告事項に、秘密指定期間についての状況を入れるべきである。また、特定秘密に関
しては、各行政機関の長が指定等を行ったものの他、取得した件数、派生的に作成され
た特定秘密などがあるため、原指定とそれ以外のものについての現況も報告事項とする
ことが望ましい。さらに、自己監察を各行政機関で実施し、その結果についての報告も
入れるべきである。 11 30
その他 本基準案は、「特定秘密の指定及びその解除…」との名称となっているが、すでにふ
れている通り、特定秘密保護法では、解除は例外的に行われるものであって、基本的に
は有効期間の満了により特定秘密としての効力がなくなることとなっている。そのため
「解除」の基準と言えるものが実質的になく、法が「解除」の基準と規定しているため
入っているに過ぎない。明らかに誤解を与える名称となっており、「特定秘密の指定及
び有効期間…」など実質にあった名称にすべきである。また、指定・指定期間・解除と
もに合理的・客観的な基準化ができているわけではないので、それが困難であるのであ
ればそれを前提とした全体のコントロールする仕組みや機能を調整すべきものである。 さらには、特定秘密の指定・有効期間・解除の基準等は、現段階でも非公開あるいは
秘匿性の高い情報として扱われている情報、行政活動の実際を知ることができない一般
市民からは、具体的な提案や修正案の提示が困難である。こうした一般市民では困難な
ところを、情報保全諮問会議の有識者が補うべきものであり、客観的・合理的基準化が
できないのであれば、諮問会議において社会に対して宣言をすべきである。基準案とい
うものが提示され、基準化がある程度で来ているという誤解を与えることは、建設的な
議論の障害になり、これをもって法の施行準備が整ったという説明が政府からされるの
も欺瞞である。 以上 12