佐久総合病院再構築と「まちの再興」

ふるさと
特集 地域活性化の推進−魅力ある故郷の創生に向けて−
佐久総合病院再構築と「まちの再興」
いち
むら
し
ろう
市 村 志 郎*
佐久総合病院再構築に伴う病院機能の変更などによる住民の不安解消と人口減少、少子高齢化社会に対
応するべく病院を中心とした中心市街地に暮らしに必要な機能を集積する集約型都市づくり、生涯活躍の
まち(日本版CCRC※)の構築等、まちづくりの取組みについて紹介する。
1.はじめに
佐久市は、本州のほぼ中央、長野県の東部にあっ
て、県下4つの平らに数えられる佐久平の中央に位
置し、四方を雄大な山並みに抱かれた平均標高約
700メートルの美しい高原都市である。
かつては、中山道、佐久甲州街道、善光寺道が通
る交通の要衝として栄え、現在も、北陸新幹線や首
都圏と日本海を結ぶ上信越自動車道が通り、また太
平洋圏と日本海圏を連結し、関東大環状連携軸を構
成する中部横断自動車道の整備が進んでおり、首都
図-1 高速交通ネットワーク図
圏、日本海圏、太平洋圏を結ぶ交通の要衝となって
いる(図-1)
。
地域医療の先進地として知られる県厚生連佐久総合
市の変遷は、昭和の大合併後、平成17年4月1
病院を中心として、警察署、建設事務所などの行政
日4市町村(佐久市、臼田町、浅科村、望月町)が
機関、小・中・高校や看護専門学校の文教施設、文
合併し人口約10万人の新「佐久市」が誕生した。
化ホール等社会教育施設、医療施設、介護・福祉施
グローバル化の進展、地球規模での環境問題、地
設、金融機関等が集積して栄えてきた。しかし、高
方分権の推進、そして少子高齢化の進展に伴う人口
速交通網の整備、モータリゼーションの進展に伴い
減少時代の到来など、市を取り巻く環境は大きく変
郊外型商業施設の立地等によって拡散型の都市構造
化している状況下、新市建設を都市基盤強化の大き
が進んだことにより、臼田地区の中心市街地は空洞
なチャンスとして捉え、「叡智と情熱が結ぶ、21世
化が進み、地域経済の衰退と人口の流失が顕著と
紀の新たな文化発祥都市」を将来都市像に掲げ、ハー
なっている。
ドとソフト両面から種々の施策を展開している。
2.臼田地区の現状
旧臼田町は合併前、南佐久郡の郡都であり、その
中心である臼田地区は、
「農民とともに」の精神で
3.病院再構築とまちづくりへの取組み
第一線の医療から専門医療まで包括的に担う公的
基幹病院としての役割を担ってきた佐久総合病院は、
高度専門化する医療への対応や施設の老朽化、駐車
*長野県 佐久市 地域局 地域整備室 地域整備係長 0267-62-2111
月刊建設16−05
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場問題、敷地狭隘等を解決するため、3次救急医療、
重点の柱に「世界最高健康都市の構築」を位置付け、
高度・専門医療を担う施設と一般診療、2次救急機
世界最高健康都市構想実現プランを策定した。その
能を担う施設に分離・分割再構築を決定した。
なかで「ひとの健康づくり」
「まちの健康づくり」
「き
病院再構築は、病院機能の変更等により住民に大
ずなの健康づくり」「広がる健康づくり」を基本方
きな不安を与えるとともに、佐久地域のみならず東
針に、単に身体の健康に限らず、「ひと・まち・き
信地域全体の医療供給システムの再編等に大きな影
ずな・交流」が健やかであるよう、さまざまな分野
響をおよぼす。このため、地域住民の不安解消と活
が連携して施策を展開していくものとしている。
力あるまちづくりの推進のため、佐久市と厚生連と
⑵ 集約型都市づくりと官民連携事業
で締結した覚書により地域住民、佐久総合病院並び
世界最高健康都市のリーディングプロジェクトの
に佐久市の三者協働によるまちづくりを進めるべく
ひとつであるまちづくりの柱は、佐久総合病院を中
「臼田まちづくり協議会」(平成22年)を設置した。
心とした商業集積地、公共施設が共存する地域拠点
市は、病院再構築を臼田地区のまちづくり、まちの
において、地域に必要な都市機能の整備、維持を行
再構築とするべくまちづくり構想を検討していた。
うものである。公共交通ネットワークや歩いて移動
そのようななか平成24年4月、協議会から「臼田
できる範囲内に暮らしに必要な機能が集積された持
地区まちづくりに向けた提言」が佐久市と佐久総合
続可能なコンパクトシティを構築することであり、
病院に提出されたことから、この提言も踏まえ、具
以下の事業を推進している。
体のまちづくり事業計画「交流と協働で織りなす健
①臼田健康活動サポートセンターの整備(平成28
康あ ふ れ る ま ち 臼 田 〜 コ ン パ ク ト ニ ュ ー シ テ ィ
年10月供用)
「ウェルネス マルシェ・臼田」〜」を策定し、事
業を推進している。
また、分割後の市の医療体系の在り方について検
市民の健康増進及び交流による地域の活性化を
図るとともに、地域の強みである医療・健康・福
祉の一層の向上に資することを目的とした地域拠
討するため、佐久医師会、浅間総合病院及び関係行
点として新設
政機関による「佐久市医療体制連絡懇話会」を組織
②佐久総合病院本院整備(平成29年3月完成)
した。それぞれの医療機関の役割分担を含め、病院
保健・医療・福祉活動を通じ、住民のいのちと
同士の連携、病院と診療所の連携など、相互の医療
環境を守り、生きがい豊かな暮らしが実現できる
機能を効果的に発揮しながら医療連携することによ
地域づくりに貢献する総合病院の再築(総合診療
り、病院完結型から地域完結型の安定的な医療供給
〔内科・外科系〕専門外来〔慢性維持透析、生活
体制を構築するべく検討を重ね、医療供給体制構築
習慣病、精神、小児など〕
に向けた支援を積極的に進めている。
③臼田支所の改築と特別養護老人ホームの整備
(平成30年4月供用)
4.地域特性を生かした具体の取組み
⑴ 世界最高健康都市の構築
本市は農村医療の発祥の地、地域医療の先進地で
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臼田支所の改築に合わせ、郊外にある広域連合
が運営する特別養護老人ホームを民間に移管し、
医療的ケアに対応するべく佐久総合病院本院周辺
あり、健康で長生きのお年寄りが多いまちとして全
に移転改築
国的に知られている。これには先人のみなさんの知
④足育事業
恵と熱意、そして市民のたゆまぬ努力がある。健康
病院が持つ医療・健康・福祉という特性と、地
長寿のまちとしての高い評価を維持して、さらに伸
域が持つ医療から介護におけるものづくりを総合
ばしていくことを標榜し、総合計画の基本構想に
的に活かしたまちづくりを検討するなかで生まれ
「みんなが生涯現役で住みよい健康長寿のまちの形
た。第2の心臓ともいわれる「足」に着目した新
成」を掲げた。その体現に向けた戦略的に取り組む
たな視点からの健康づくり「足育」を産学官医の
月刊建設16−05
相互連携により推進
⑤NPO団体「うすだ美図」の取組み
現在、市、地域住民、医療機関、商工会、金融機
関、まちづくり団体など地域関係者が参加する官民
病院再構築を機に、人口減少に対峙し、絆を紡
の検討会(佐久市臼田地区生涯活躍のまち事業化検
ぎ直し元気なまちづくりのために住民の力を結集
討委員会)を設け、臼田地区において構想と基本計
するべく組織した。「健康元気なまちづくり」、
「世
画策定、東京圏での情報提供とニーズ調査などを行
界最高の健康都市を臼田から」をモットーにまち
い、事業化に向けた取組みを推進している。
づくり活動、発電事業等を展開
⑶ 生涯活躍のまち(日本版CCRC)事業
本格的な人口減少時代を迎えるなか、移住者を含
めた交流人口の創出が、地域社会の活力創出に欠か
計画(平成24年3月策定)に基づき、交流人口を
増やすため、さまざまな移住促進プランにより総合
佐久平総合技術高校
岩村田
中込原
野沢・中込
佐
久
市
都
市
連
携
軸
臼田健康活動
サポートセンター
凡例
して「生涯活躍のまち」を位置付けた。臼田のまち
づくりはこれらの要素を既に持ち合わせていること
から、市では臼田地区に新たなひとの流れを生み出
臼田駅
臼田駅前公園
第2種中高層住居専用地域
第1種住居地域
稲荷山公園
移転
合戦略」において、地方への人の流れの推進施策と
あいとぴあ
臼田
勝間園
移転予定地
第2種低層住居専用地域
第2種住居地域
臼田
中学校
臼田支所
改築
用途地域区分
第1種低層住居専用地域
位となり、本市には空き家活用や移住ノウハウの蓄
佐久総合
病院本院
看護
専門学校
DID(人口集中)地区
第1種中高層住居専用地域
時あたかも、国では「まち・ひと・しごと創生総
臼田南部
交番
臼田
的な施策に取り組み、空き家バンク成約件数全国1
積がある。
臼田小学校
佐久建設
事務所
JR小
海線
せないものとなっている。佐久市交流人口創出基本
■佐久市都市構造図
準住居地域
近隣商業地域
商業地域
準工業地域
工業地域
工業専用地域
コスモ
ホール
無指定
佐久広域
老人ホーム
勝間園跡地
バス路線
バス路線
1km
バス停
図-2 臼田地区都市機能集約図
5.おわりに
す手段のひとつとして「生涯活躍のまち」
が有効
臼田地区において、病院再構築を機に、グローバ
であると考え、昨年10月末、「佐久市生涯活躍のま
ル化、少子高齢・人口減少社会を視野に、まちの機
ち構想」を策定、佐久総合病院を中心とした「医療
能を中心市街地に集積するコンパクトシティの構築
連携・健康づくり推進型生涯活躍のまち」をコンセ
によるまちとコミュニティの再興に向けた取組みを
プトに掲げ、事業化に向けた検討を進めている。
実施している。
平均寿命が男女とも全国トップ20にランクイン
現在進めているハード、ソフト両面の取組みの相
しており、トップレベルの「健康長寿」を実現して
乗効果により地域の魅力を高め、他の地域から人を
いる強みを生かした施策を展開している。具体には、
呼び寄せることに繋げることが重要である。自治体
医療から介護までの地域包括ケアを行っている佐久
の最も重要な役割は人が訪れてくれる地域にするこ
総合病院を中心に、高齢者が地域住民や多世代との
とで、地域間競争の核心は、人の誘致競争であると
交流により「愛され、褒められ、期待され、期待に
思われる。豊かな自然環境に恵まれた良好な生活環
応える」という幸福のサイクルを体現し、主体とし
境、地域医療が充実しているという市の強みとポ
て活躍し最期まで安心して暮らせる仕組みを構築す
テンシャルを最大限に活用し、人口を増やすことで
ることにより、元気な高齢者の移住促進を行うもの
地域の活力を創出し、持続可能なまちづくりに邁進
である。
して行きたいと考えている。
【用語解説】
※日本版 CCRC……日本版 CCRC 構想は、「東京圏等に在住する高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会に
おいて健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることがで
きるような地域づくり」を目指すもの。
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