日本における小型無人機の利用概況 - 公益財団法人 航空機国際共同

(公財)航空機国際共同開発促進基金
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日本における小型無人機の利用概況
1.概要
1-1.無人機とは
外見は、大型ラジコン模型飛行機と類似している。動力も、電動モーター、ガソリンエ
ンジン、タービンエンジン等とほぼ共通である。大型ラジコン模型飛行機と大きな違いは
ないが、操縦する人が飛行中に機体をコントロールするのではなく、無人機が自律飛行を
行い、操縦する人の視界外でも自由に飛行できるという利点がある。飛行時間も模型飛行
機では 30 分以内という短時間が主流であるが、無人機(UAV:Unmanned Air Vehicle)
には 24 時間飛行できるタイプもある。
1-2.自律飛行とは
機体内に装備された GPS、姿勢制御システム、気圧センサー等によって、指定された高
度・速度・座標を正確に飛行することができる。気象条件が悪くなければ、指定された高
度・速度・座標から、高度差±5m、速度差±5km、座標±3m 以内の精度で飛行する。ま
た、約 100~200 ヶ所のウェイポイント(通過地) を、それぞれの条件を入力することに
より通過させることができる。
1-3.機体サイズ
スケール比 1:1 の実機と同じサイズの機体から、主翼巾 30cm・重量 2kg 程度の機体ま
である。ある会社では、主翼巾 4m・重量 50kg から、主翼巾 1.2m・重量 3kg までの、約 30
機ほどの無人機の開発・製作が手がけられてきた。最も利用されている機体は、この会社
の型式名で B 型機、B-Ⅱ型機と呼ばれ、それぞれ主翼巾 2.8m、主翼巾 3.2m の機体である。
これらの機体は、動力として 86cc ガソリンエンジン(馬力 7.2 PS)を装備している。サイ
ズに関する明確な規格はないが、その会社では、エンジンサイズにより、40cc~100cc まで
の機体を小型機、101cc~300cc までの機体を中型機、301cc 以上かつ機体重量が 70kg 以
上を大型機と位置づける。
以下では、無人機の開発・製造・運用で我が国の先端を走るある企業の開発の経緯の例を、
現在の状況を含めて取り上げる。
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2.開発の歴史
2-1.機体の開発
2002 年
(1) トラクター型の機体の開発を行い、地上機ではなく河を利用した、水上機を製造した。
外部からの制御を一切行わず、内蔵した制御回路だけで 30 分間の飛行を行った。
エンジン: 50cc ガソリンエンジン/単気筒/2 サイクル
主翼長/全長/重量: 1.6m/1.5m/9kg (ドライ)
(2) 陸上型機を開発・製造し、86cc 水平対向 2 気筒エンジンを採用した。エンジン出力を
上げるため、
チューンドパイプ型マフラーを使用し、
オリジナルの約 1.6 倍の出力 8HP
を発揮した。
エンジン: 86cc ガソリンエンジン/水平対向 2 気筒 2 サイクル
主翼長/全長/重量: 2.4m/1.7m/12kg (ドライ)
2004 年
機体前方に、測定機・カメラ等を搭載するため、プッシャー型の機体である B 型機を開
発・製造した。
エンジン: 86cc ガソリンエンジン/水平対向/2 気筒チューンドマフラー付/
内蔵式電動スターターを搭載
主翼長/全長/重量: 2.8m/2.3m/18kg (ドライ)
2005 年
(1) B 型より小型な A 型 UAV を開発・製造した。
エンジン: 43cc ガソリンエンジン/単気筒 2 サイクル
主翼長/全長/重量: 3.2m/1.8m/11kg (ドライ)
この機体は、全体を軽量化し、カタパルトによって発進できることを目的と
した。
(2) ぺイロードと荷重を増すため、大型 UAV 機体を製作した。
エンジン: 172cc/4 気筒/2 サイクル。
主翼長/全長/重量: 4.4m/3.3m/40kg (ドライ)
(3) 長距離型として、A-2 型機を製造した。
エンジン:34cc/4 サイクル/単気筒ガソリンエンジンを前後に計 2 台搭載。
(4) 1000km を飛行できる機体として、A-3 型機を開発・製造した。
エンジン: 47cc/2 サイクルガソリンエンジン。
機体寸法: A-1 及び A-2 とほぼ同じ。燃料搭載量 15 リットル。
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2006 年
(1) B-2 型機を製造。B 型機は運用面でもっとも優れていたため、この機体を大型化した
B-2 型機を、開発・製造した。
エンジン: 86cc/2 サイクル/2 気筒ガソリンエンジン
出力: 7.5HP (中速回転の出力を向上した)
主翼長/全長/重量: 3.2m/2.6m/28~30kg (ドライ)
(2) B-2 型機を双発にした機体を製造。
エンジン:47cc/単気筒/2 サイクルガソリンエンジンを主翼に 2 台搭載。
(3) 上記の 47cc では推力不足であり、また、ペイロードを増すため、86cc/2 気筒 2 サイ
クルエンジンを主翼に 2 台搭載した。
機体寸法:B-2 とほぼ同じサイズ。
2007 年
電動 D 型機を開発。
カタパルトとパラシュートにより、広い離着陸地がない所でも運用できる目的で製造。
プッシャー型単発機とトラクター型双発機を開発。
モーター: ブラシレスモーター
主翼長/全長/重量: 1.8m/1.4m/3.5kg
飛行時間: 30 分~45 分
2008 年
大型 UAV を開発。
エンジン: 250cc
主翼長/全長/重量: 3.0m/2.1m/40kg (ドライ)
2010 年~2011 年
長距離用 UAV の開発を JAXA と共同で行い、E 型機として完成。22 時間/2500km の
飛行が可能となった。
ペイロード: 2kg を搭載。
エンジン: 75cc/4サイクル/単気筒ガソリンエンジン、5HP/6000RPM
<以下、開発中>
2012 年
B-3 型機、タンデム型機を開発予定。
より安全性を高めるため、エンジンを前後に配置し、どちらか一方のエンジンが故障し
ても安全に飛行できることを目的とする。
エンジン: 43cc/47cc/ガソリンエンジン各 1 台を直列に配置する。
2012 年~ タービンエンジン機 高々度
主翼長/全長/重量: 2.7m/2.6m/25kg (ドライ)
推力: 16kgf
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2-2.エンジンの開発
2-2-1. BT-50 47cc/2 サイクル/単気筒ガソリンエンジン
2-2-2. BF-34 34cc/4 サイクル/単気筒ガソリンエンジン
2-2-3. BT-86 86cc/2 サイクル/水平対向 2 気筒ガソリンエンジン
運用高度 6000m まで飛行可能
2-2-4. BT-172 172cc/2 サイクル/水平対向 4 気筒ガソリンエンジン
2-2-5. BT-43 43cc/2 サイクル/単気筒ガソリンエンジン
2-2-6. BT-250 250cc/2 サイクル/水平対向ガソリンエンジン
2-2-7. BF-75 75cc/4 サイクル/単気筒ガソリンエンジン
低燃費型エンジンの開発 9000cc/時 (巡航時)
このエンジンの開発により最長航続距離 2500~2600km の E 型機を完成した。
2-2-8. 発電器もエンジンと共に開発を進めてきた。
初期 20W/シャフトに直結型
40W~60W/ベルトドライブ型
100W~150W/シャフト直結型
自己の UAV に利用される電源だけではなく搭載機器の電力消費の増加に
伴ない、発電器の大型化が必要になってきたため、150W までの発電器を開
発した。
2-3.フライトコントロール (FCC) の開発
2002 年~2005 年
離着陸は手動で行い、機体の傾きは制御を行わず、100 ヶ所のウェイポイントを目標に
自動飛行を行った。初の 200km 飛行に成功した。
2006 年~2009 年
上記の FCC を改造し、自動着陸を可能にし、5m/s までの横風着陸が可能になった。
2010 年~2011 年
飛行中と姿勢制御を行い、自動離着陸が可能になった。着陸時、横風 10m/s まで安全
に運用できるようになった。
2012 年~2013 年
新型コントローラを開発中。
UAV の運用頻度が多くなるに伴い、航続時間が10時間を超え、飛行高度も 3000m ま
でカバーするようになり、より安全性が求められるようになってきた。
そのため、FCC の2重化や実機との衝突防止システム等の開発計画を進めている。
2-4.サーボの開発
通常の模型用サーボの耐久時間は 60~80 時間であるため、無人機としては短かすぎた。
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このため、耐久時間 1000 時間、入力電圧 10-15V を開発した。トルクは、6kgf・18kgf・34kgf
の 3 種類である。
2-5.安全対策の開発
2-5-1. エンジン停止時に再スタートできる電動オンボードスターターを開発。
2003 年度から 2011 年の間、3 機種を開発、現在に至る。
2-5-2. エンジン停止時の対策
機体を安全な速度で滑空させ、指定した高度でパラシュートを開傘させる。
2-5-3. 燃料タンクに残量センサーを取り付け、計算値より消費量が多くなった場合、帰還
等が出来るシステムを開発。
3.小型無人機の民間利用現状
3-1.地磁気探査
3-1-1. 2006 年 3 月 西オーストラリア州で 500km の磁場観測を行った。
(国立極地研究所)
3-1-2. 2007 年 九州五島海上を延べ 1,000km にわたり高度 1,000m で観測を行った。
(国立極地研究所)
3-1-3. 2008 年 12 月 南極大陸、オングル海峡で 1 時間の気候、磁場観測を行った。
(国立極地研究所)
3-2.気象観測
3-2-1. 2003 年 黄砂の空中摂取を大分にて行った。
(九州大学/日本飛行機)
3-2-2. 2004 年 高度 4,000m までの観測を鳥海山にて行った。
(国立極地研究所)
3-2-3. 2005 年 高度 5,700m までの観測を北海道にて行った。
(国立極地研究所)
3-2-4. 2007 年 水平 1,000km 距離の観測を行った。
(国立極地研究所)
3-2-5. 2008 年 北海道サロマ湖で観測を行った。
(国立極地研究所)
3-2-6. 2 011 年 3,000m までの観測を行った。
(海洋研究開発機構)
3-3.火山観測用ビデオ撮影
3-3-1. 2003 年 桜島上空を観測
(国立極地研究所)
3-3-2. 2010 年 新燃岳を観測
(エアフォートサービス)
3-3-3. 2011 年 浅間山を撮影
(エアフォートサービス)
3-3-4. 2011 年 新燃岳にて高度 3,000m で水蒸気摂取
(産業技術総合研究所/エアフォートサービス)
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3-4.放射線観測
3-4-1. 2011 年 福島上空にて測定
(エアフォートサービス)
3-4-2. 2012 年 福島上空にて測定
(株式会社情報科学テクノシステム)
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3-5.写真撮影
3-5-1. 2003 年~2012 年 火山火口/災害地/福島原発上空
写真 1:浅間山火口 (高度 3000m から撮影。(株)エアフォート・サービス様ご提供)
写真 2:福島県・災害地 (高度 300m から撮影。(株)エアフォート・サービス様ご提供)
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写真 3:福島第一原発 (高度 300m から撮影。(株)エアフォート・サービス様ご提供)
4.製作した実用機種
4-1.電動機
4-1-1. D 型プッシャー型機
4-1-2. D-Ⅱ型 双発 トラクター型
4-2.レシプロエンジン機
4-2-1. A 型機 単発機 47cc 2 サイクル ガソリンエンンジン
4-2-2. B 型機 単発機 86cc 2 サイクル ガソリンエンンジン
4-2-3. B-Ⅱ型機 単発機 86cc 2 サイクル ガソリンエンンジン
4-2-4. C 型機 双発 86cc 2 サイクル ガソリンエンンジン
4-2-5. E 型機 単発機 75cc 4 サイクル ガソリンエンンジン
4-3.タービンエンジン機
4-3-1. タービンエンジン機
・ 機体 (Aviation 社製を改造)
・ エンジン タービンエンジン 推力: 16kgf
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4-3-2. 機体写真
写真 4: B-II 型
写真 5:
南極観測に使用した無人機(国立極地研究所様の HP より)
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5.機種別性能表 (A 型機/B 型機/C 型機/D 型機/E 型機)
*製造年代順の開発機体
No.
種 類
エンジン
主翼長
ペイロード+燃料
機体重量
航続距離
1
単発機
50cc
1.8m
4.5kg
7.0kg
200km
2
単発機
86cc
2.2m
6.0kg
9.0kg
400km
3
単発機
86cc
2.4m
8.0kg
12.0kg
500km
4
タンデム型双発機
50cc/64cc
3.8m
12.0kg
25.0kg
500km
5
プッシャー式単発
172cc
4.4m
20.0kg
30.0kg
800km
6
水上単発機
86cc
2.2m
5.0kg
9.0kg
400km
7
B 型機
86cc
2.8m
17.5kg
17.5kg
1400km
8
C 型機
47cc x 2
2.8m
15.0kg
14.0kg
500km
9
双発機
長距離型 34cc (4 サイクル)
3.2m
4.0kg
8.0kg
1000km
10
A 型機
長距離型 47cc
3.6m
13.0kg
11.0kg
1200km
11
双発機
タービンエンジン推力 13kg x 2
2.3m
10.0kg
50.0kg
600km
12
D 型機
電動モーター
1.8m
1.0kg
3.0kg
80km
13
DⅡ型機
電動モーター
1.8m
1.0kg
3.0kg
80km
14
単発機
250cc (2 サイクル)
3.0m
25.0kg
35.0kg
500km
15
B 型機
86cc
2.8m
17.5kg
17.5kg
1400km
16
JAXA オープンラボ機
(超長距離型) 75cc (4 サイクル)
4.2m
24.0kg
25.0kg
2000km
17
A-Ⅳ型機
47cc
3.2m
13.0kg
28.0kg
500km
18
B 型機 (長距離型)
86cc
2.8m
16.0kg
28.0kg
1400km
19
DⅡ型機
電動モーター x 2
1.8m
1.0kg
3.0kg
80km
10
No.
種 類
エンジン
主翼長
ペイロード+燃料
機体重量
航続距離
20
CⅡ型機
86cc x 2
3.0m
15.0kg
35.0kg
500km
21
BⅡ型機
86cc
3.2m
13.0kg
30.0kg
500km
22
AⅣ型機
43cc
3.2m
8.0kg
15.0kg
400km
23
デルタ型機
34cc
1.8m
5.0kg
8.0kg
400km
24
E 型機
75cc 4 サイクル
4.2m
24.0kg
25.0kg
2600km
25
E 型機
86cc
4.2m
20.0kg
23.0kg
1600km
26
デルタ型機
15cc
1.6m
1.0kg
8.0kg
400km
27
三発機
47cc x1、 43ccx2
3.0m
15.0kg
35.0kg
500km
28
DⅡ型機
電動モーター x 2
1.8m
1.0kg
3.0kg
80km
*上記開発機体の製造年代
No.1~No.3:
2002年~2003年
No.4~No.7:
2004年~2005年
No.8~No.13:
2006年~2007年
No.14~No.19: 2007年~2008年
No.20~No.24: 2009年~2010年
No.25~No.28: 2011年以降
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6.目的別運用例
6-1. 火山観測
B、B-2 型
6-2. 火山灰採集
C、B 型
6-3. 地磁気測定
A、B 型
6-4. 初山林火災発見
A、D、D-2 型
6-5. 写真撮影
A、E、B、B-2 型
6-6. 写真測量
B-2 型
6-7. 気候観測
B型
6-8. 動画撮影
B、B-2、E 型
7.小型無人機の課題
7-1.現状の安全性
機体が何らかの故障等で飛行不能になった場合、機体ごとパラシュートで安全に降下さ
せるシステムが備わっているため、通常の墜落発生の可能性が極めて低い。
7-2.将来の安全性
高度が 5,000m までと飛行高度の範囲が広いため、実機との衝突を避けるべく、現在は
航空局がノータムを発出し、無人機が飛行する時間帯と地域を知らせることで、運用され
ている。将来的には、何らかの理由で実機に遭遇した場合、無人機が全自動で衝突回避飛
行を行えるシステムを開発することを考えている。
7-3.データ通信
現在の電波法の下では、地上と無人機間の通信距離は、10~20km 程であるため、デー
タ及び、映像を数 10km は通信できるようなシステムを開発することが必要である。特に
動画をリアルタイムで通信できることが切望されている。方法としては、サテライトを利
用する方法があるが、ランニングコストが高価なため、民間での利用は制限を受けると思
われる。ランニングコストが安価な通信方法が必要となる。
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