これだけは知っておきたい! 国際財務報告基準Q&A

これだけは知っておきたい! 国際財務報告基準Q&A
KeyWord11 引当金
Q 国際財務報告基準における引当金の会計基準はどのようになっていますか。また,日本の
基準とは何か違いがありますか。
A
日本基準では,企業会計原則注解 18 において,将来の特定の費用又は損失であって,その発
生が当期以前の事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積ること
ができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れら
れるとされています。また,その具体例として,製品保証引当金,返品調整引当金,賞与引当
金,修繕引当金等が挙げられています。しかしながら,注解 18 以外には直接引当金の会計処
理を取扱う規定が少なく,実務慣行に委ねられた部分も多いといえます。
これに対して,国際財務報告基準(IFRS)では,偶発事象及び引当金の会計処理を包括的に
取扱った IAS37 号「引当金,偶発負債及び偶発資産」が 1998 年に公表されています。ここでは,
IAS37 号で規定されている引当金の主要な会計処理を示し,あわせて日本基準との比較を行
っていきたいと思います。
1.引当金の定義及び認識
IAS37 号では,引当金は支出の時期または支出の金額が不確実な負債と定義されています。
このため,支出の時期または支出の金額が確実な買掛債務や,支出の時期または支出の金
額に見積を要するものの不確実性が少ない未払費用とは区別されます。
つぎに認識基準,つまり財務諸表に引当金を計上するための要件ですが,IAS37 号は次の3つ
を示しています。
現在の債務
過去の事象の結果として企業が現在の債務を有している。
発生の可能
当該債務を決済するために経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高
性
い。
見積可能性
債務の金額について信頼しうる見積りができる。
IAS37 号の1番目の認識の要件は,現在の債務であることです。しかし,日本基準では注解 18
で例示されているように修繕引当金など,貸借対照表日では必ずしも現在の債務があるとはい
えないものも引当金に計上されます。
2番目の要件について,IAS37 号では資源の流出が起こらない可能性よりも,起こる可能性が
高ければ,発生の可能性が高いとみなされるとしています。このことは,50%超の発生の可能
性があれば引当金が認識されることを意味しています。
上記は,他の負債と区別して以下のように図示することもできます。なお,偶発負債に分類され
る場合は会計上負債は認識されません。
日本基準でも発生の可能性が高いことが引当金の認識要件となりますが,IAS37 号のように具
体的な指標が明示されておらず実務慣行に委ねられているということができます。
2.引当金の測定
引当金の認識要件が満たされると,その金額の測定が行われます。IAS37 号は,引当金の測
定値を現在の債務の決済に要する支出の貸借対照表日における最善の見積としています。
IAS37 号は,最善の見積を行うために将来のキャッシュ・フローの見積や貨幣の時間的価値の
反映を行うことを要求しています。
(1)キャッシュ・フローの見積
母集団の大きい項目,たとえば製品保証を行っているような場合は,当該債務のすべての起こ
り得る確率を考慮して,それぞれに関連する確率により加重平均して将来キャッシュ・フローの
見積が実施されることになっており,統計学的手法である「期待値」の考え方が導入されていま
す。
一方,単一の債務を見積る場合には,もっとも発生の可能性の高い結果が最善の見積となり
ますが,このような場合でも他の結果を考慮しなければならないとされています。例えば,顧客
のために建設した工場について工事補償をしているとします。もし,欠陥が生じた場合に当初
修理するために要する費用が 1,000 であり,それが最も発生の可能性が高いとしても,追加的
修理が必要とされる可能性がかなり高い場合には,追加修理を考慮して引当金が測定されま
す。
(2)貨幣の時間的価値
貨幣の時間的価値の影響が重要な場合には,引当金の金額は債務の決済に必要と予想され
る支出の現在価値でなければならないとされています。例えば,現時点では発生の可能性の
高い債務であるが,当該債務の決済に時間がかかる場合については,将来の支出額は割り引
かれて現在価値で計上されることになります。
上記のとおり IAS37 号は引当金の対象となる項目の母集団の大きい場合の見積方法として,
「期待値」の考え方を導入していますが,日本基準の下ではこのような見積の手法は一般的で
はないと考えられます。貨幣の時間的価値の考え方については,企業会計基準委員会から3
月に公表された「資産除去債務に関する会計基準」において導入されており,決済までに長期
にわたる項目についてはこれを考慮する会計処理が今後一般化するものと考えられます。
3.リストラ引当金
IAS37 号では,事業部門の撤退や売却や組織変更などいわゆるリストラを実施した際に発生す
る割増退職金等について規定を設けています。
IAS37 号は,このようなリストラ引当金を認識する要件として以下を挙げています。
正式
な計
画の
存在
企業がリストラについての詳細な正式計画を持っている。この計画では,関係する事業,影
響を受ける主な地域,解雇により補償を受ける従業員の勤務場所・職種・概数,支出予定時
期及び計画実施時期などが識別できるものでなければならない。
計画
計画の実行に着手するか,それによって影響を受ける人々に計画の主要な内容を周知する
の周
ことによって,企業がリストラを実行するという確実な期待をその影響を受ける人々に与えて
知
いる。
上記の要件は,リストラ費用が通常多額に上りその認識時点は企業にとって重要ですので,引
当金の一般的な認識要件を具体化して規定されたものです。日本基準ではリストラ引当金につ
いての具体的な規定はなく実務に委ねられていますが,上記の規定は日本の実務においても
参考になるものと考えられます。
4.IAS37 号の改訂
2005 年に IAS37 号を改訂する公開草案が公表されています。この改訂は,米国基準において
リストラ引当金を取扱った FAS146 号「退出又は処分活動に関連するコストに関する会計処理」
とのコンバージェンスを目的としており,また偶発資産,偶発負債の取り扱いについて,企業結
合時に生じるこれらの項目と関連付けて見直しを行うことを目的としています。その後,改訂作
業は継続して行われており,2009 年を目途に改訂基準が公表される予定になっています。
この Q&A は、『週刊 経営財務』 2867 号(2008 年 04 月 28 日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した
ものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、
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